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interview with Ogre You Asshole

interview with Ogre You Asshole

何かが起こる前、いや、もう起きている

──オウガ・ユー・アスホール、インタヴュー

野田 努    Nov 11,2016 UP

石原さんの基本には多分、ペシミスティックな感覚があって、それが独特の美意識にもつながっているんだけど、もともとオウガが強く持っているものではないから、今回はペシミスティックでデカダンな感じが希薄なのかもしれません。


Ogre You Asshole
ハンドルを放す前に

Pヴァイン

Indie RockKroutrockExperimental

Amazon

どのバンドも長いことやっているとマンネリズムの問題があると思うのですが、オウガはそういうようなことはなかったのでしょうか?

出戸:昔はそんな感覚もありましたね。でも『homely』以降はないですね。“ロープ”をライヴでやりすぎて飽きてくる、とかはありましたけど(笑)。レコーディングに関しては新曲をもってくるときに「またその曲かよ」とみんなのテンションが下がることはいまのところないと思います。

清水:今回の新譜のために曲作らなきゃという話をふたりがしはじめてから、ボツになった曲がけっこう沢山あるんですよね。ライヴでやってからボツになった曲もあるし、練習だけしてやらなくなった曲もけっこうありました。でも、二人からたくさん(曲が)出てきて、それが尽きないという感じがあった。そこからどんどん削ぎ落としていくという作業が、僕の知っているなかではいちばん激しかったと思います。だから、すごく磨きこまれた感じがあるんですよね。曲が採用されるまでに戦いがあったというか。

馬淵:勝浦さんとのね。

(一同笑)

清水:やってみて、「これはやめたほうがいいんじゃない?」ってことはあったよね(笑)。

バンドを続けていくうえでのモチベーションは『homely』の頃から変わっていないですか?

出戸:そこはまだ疑問視もしてないくらい。

(一同笑)

焦りもない(笑)?

出戸:あるはあると思うんですけど……。それはありますよね。

清水:でもはたから見ていると出戸くんも馬渕くんも曲作りとかで困る状況をけっこう無邪気に楽しんでいるというか(笑)。

出戸:あんまりガツガツしすぎるとだんだん疲れてきちゃうし、ガツガツしている人を見るのも疲れるじゃないですか。自分がげんなりしない程度にはいろいろ嫉妬とかガツガツしたりもしますけど、自分があとでダメージをくらわない程度ですよね(笑)。

(一同笑)

それは長野にいるということも一つにはあるのでしょうね。

出戸:住んでいるからというか、だから長野に住めるんだと思いますけどね。もっとガツガツしていたら東京にいなきゃダメでしょということになって、(長野に)いれないと思いますよ。なにもない日々が続く感じなので。

(一同笑)

オウガは音楽的を追求するバンドですが、音楽リスナーのみんながそこまで音にこだわっているわけではないですよね。そういったことに不満やストレスといったものはあるでしょう?

馬淵:僕はないですね。リスナーの人もそうだけど、好きに聴いてもらえればいいと思っているし、わかってほしいと思う近しい人に伝わっていれば満足できるというか、自分がすごいと思っている人にいいと言ってもらえたら嬉しいというのはありますけどね。どう?

出戸:うーん……。

この沈黙はやっぱりちょっと思っているところがあるんだ。

(一同笑)

清水:ふたり(出戸、馬渕)の作品作りは、すごくよくできた椅子とかコップとかを作っているのに近いなと思っているんですね。飾り気もないんだけど実用性はあって、歴史も踏まえていて、いまの時代にあって日用雑貨として使いやすいんだけど奇をてらっていなくて、そんなふうに考えてキッチリ作られた家具とか、そういうものに近い感じがしてて。色々踏まえてきっちり作ってあるから楽しむ人は楽しんでくれるし、合わない人もいるとは思うけど、作った職人さんは「合わないよね」くらいに思うだけで、ただいいものを作ろうとして作っているだけだという。だからユーザーに対する不満なんか、職人さんは特に持ってない。そんな境地じゃないの?

出戸:大衆に向けて作ろうとしていないと言っているけど、それよりさらに(対象が)狭いかも。信頼している人が何人かいるからそういう人たちの顔は見えるけど、あとは自分のなかで(完結していて)、外部といったら10人くらいかな。「あの人はどう思うのかな」というのはちょっと思ったりしますけど。野田さんの話もたまに出ますよ。

馬淵:これは野田さん嫌いでしょ、みたいな(笑)。

(一同笑)

出戸:これは野田さんが好きそうとか、よく名前は出てきますよ(笑)。知っている人の範疇でしか想像できないからね。

清水:でもその向こうにはいっぱい人がいるわけでしょ? 野田さんの向こうにはいっぱい人がいて、その集約として野田さんがいるという感じがしますよね。

出戸:そういう意味ではお客さんに対しては(不満は)ないですけど、ライターの人とかにちょっとイラッとするときはありますね(笑)。でもそれはこっちの説明不足というのもあるし。多分誰しもがあることですよね。

さきほどアイロニーの話をしたときに出戸君が「自分に向けても」と話していましたが、歌詞のなかに自分が出てくることはあるのですか?

出戸:自分が出てくることもありますね。自分の気分が歌詞になっているから、舞台に自分を立たせているかはわからないですけど、歌詞の感じが自分の気持ちに似た雰囲気をもっていると思いますね。だから登場人物として自分がでてくるというニュアンスよりも、監督としているという感じかな。

自分のエモーションを歌うということはありますか?

出戸:ないかも。感情の出し具合というのもあると思うんですけど、すごく号泣している人を見ても一緒に泣けないというか、むしろ引いちゃう感じがあるじゃないですか。でもロボットが泣いていると「どうしたんだ」と思う感じもあるというか。

清水:ええ(笑)?

出戸:俺はそういう感じ(笑)。

清水:そもそもロボットが泣いているというシチュエーションがすごい(笑)。

勝浦:出戸くんはあんまり情動がないんだと思います。短期間の激しい上がり下がりはなくて、長くてゆるやかな変動はあるけど気分という感じなんですよ。歌詞も気分はよく出てくるけど、感情とかそういうのは歌詞に出てこないですよね。波風が立っていない海みたいな、そういうイメージですね。

はははは、すごいイメージ(笑)。勝浦君が一番付き合いが長いのですか?

勝浦:いや、馬渕君ですね。

馬淵:高校から(の付き合い)ですね。

ずっとこういう感じでした?

馬淵:いや、どんどん冷静な感じになっていますね。

(一同笑)

さすがに高校時代はそうでもありませんでしたか?

馬淵:それは若いからいまよりありましたけど、みんなそうでしょ? まあ、でも冷静ですよね。

勝浦:冷静すぎて腹が立つときもあるよね。

(一同笑)

勝浦:なにか言ってすごくまともな答えを返されたりして、合っているんだけどこっちがすごくみっともない感じがして(笑)。もうちょっと動揺してよ、と思うくらい安定しているというんですかね。

内に秘めているタイプですよね。

出戸:でも勝浦さんを見ていて「すぐ怒るなあ」と思うけどね(笑)。

(一同笑)

勝浦:この感じなんです(笑)。

勝浦君は感情の起伏が激しいのですね。

勝浦:僕は情動ですね。

清水:二人とも極端で、どっちも普通じゃないというか(笑)。

ちょうどバンド内のバランスがとれているのですね(笑)。ドラムはとてもミニマリスティックなのにね。さて、これまでコンセプチュアルな作り方をしてきて、今回のアルバムはゴールを決めずに作ったような話でしたが、最終的になにをゴールとしたのか、どうやってアルバムをまとめあげたのでしょうか?

出戸:最後まで曲順を決めるのに難航してどの曲順もしっくりこない感じがあって、曲を入れかえたり、アレンジが違うものを入れかえたり、曲をボツにしたり、削ったり尺を変えたり、最初に好き勝手に作った分まとめるのに苦労したんですけど、「ハンドルを放す前に」を1曲目にしたところからようやくまとまりそうな気配がでてきたという感じでした。それ以前はなにがどうなるのか、自分たちでもよくわからなかったですね。

どうしてアルバムができるまで2年かかったのでしょうか?

出戸:レコーディングのスケジュールを長めに取ったりしていたら、自然とそうなったんですけどね。

ではとくに難航したということでもなく?

出戸:レコーディングはもともと1ヶ月半くらいで終わる予定だったんですけど、さらにその倍の時間がかかってしまいましたね。(今回は)最初から音決めを丁寧にやっていて、ずっと中村さんに「これで本当に終われるんですか?!」って言われてたよね(笑)。

(一同笑)

出戸:(それくらい)丁寧にやっていたので、難航したというよりも積み重ねるのに時間がかかったという感じですね。

ひらたく言えば、前作より聴きやすいアルバムになったと思います。それは意図せずそうなったのでしょうか? 前作が実験作であったので、比較するのも変な話ではあるのですが……。

出戸:ミックスの感じで聴きやすくなっているというのはあるよね。いままでは聴き手側が「聴くぞ」と思ってちゃんと(聴き)取りにいく感じがあったと思うんですが、今回ももちろんそういう聴き方もしてほしいんですけど、そうじゃない聴き方でも聴けるミックスになっていると思いますね。

なんかリラックスしているというとそれは違うという話ですが、たとえば、“見えないルール”のような曲のテンションとは違う感覚を打ち出しているアルバムですよね。

清水:たぶん(三部作とくらべて)悲壮感が薄いんです。石原さんの基本には多分、ペシミスティックな感覚があって、それが独特の美意識にもつながっているんだけど。(その悲壮感は)もともとオウガが強く持っているものではないから、(今回のアルバムは)ペシミスティックでデカダンな感じが希薄なのかもしれません。だから、リラックスしたわけではないんだけど、比較的リラックスしているように聴こえるのかなと思いますね。(今回は)悲観でも楽観でもない中間に浮かんでなにもない真空みたいな感じになっていると思うんだけど。意識としてはリラックスはあまりしてないよね? 

出戸:でも重くしたくないというのはありましたよね。重くて大仰じゃないアルバムを作りたいと思っていましたね。

清水:最後の曲順とかアレンジを考えているときまでそれは話していたよね。重くなりすぎないようにとか、大仰にならないようにとか、(曲が)ほとんどできて並び替えとか曲の長さを決めているときにも話した気がする。

なぜ?

出戸:今までと違うことをしたかったからですよね。

(一同笑)

なるほど。じゃあそんなところでいいかな。

(一同笑)

『homely』はしばらく聴いていないですよね?

出戸:レコーディング中に聴きました。

あのアルバムをいま聴くと、ずいぶんトゲがありますよね。それに比べると、今回のアルバムはすごく滑らかなサウンドですよね。

勝浦:この前ちょっとひさしぶりに(『ハンドルを放す前に』を)聴いたら、おこがましいんですけどヨ・ラ・テンゴのような雰囲気を感じて、それが野田さんのおっしゃっているリラックスというかスルメっぽい感じというか、表面のゴテゴテがなくて、いままでより奥にあるものに近づいた感じがしていて。

カンでいえば『フロウ・モーション』ですよね。

勝浦:こういう感じでやれたら長くい続けられるんじゃないかなと思ったんですよね。

出戸:「後期のカンっぽい」って言っていう感想もあったなあ。

オウガもいよいよ成熟に向かったかという感じで。

出戸:残念ですか(笑)?

もっと成熟していくように思いますね。

勝浦:みんなですごくたどたどしくやっているという感じで、そのたどたどしさを僕はいいと思うんですよね。ああいう成熟した人たちって演奏もうまいし、かたちになっているんですけど、自分たちのはインディーズ感がありつつ落ち着いているというのが面白いバランスだと思いましたね。

(了)

アルバム発売記念・全国ツアー・14公演
「OGRE YOU ASSHOLE ニューアルバム リリースツアー 2016-2017」

11/26(土)  仙台 Hook
11/27(日)  熊谷 HEAVEN’S ROCK VJ-1
12/03(土)  札幌 Bessie Hall
12/09(金)  長野 ネオンホール
12/10(土)  金沢 vanvanV4
12/11(日)  甲府 桜座
12/16(金)  岡山 YEBISU YA PRO
12/17(土)  広島 4.14
01/14(土)  福岡  BEAT STATION
01/15(日)  鹿児島 SRホール
01/21(土)  名古屋 CLUB QUATTRO
01/22(日)  梅田  AKASO
01/28(土)  松本  ALECX
02/04(土)  恵比寿 LIQUIDROOM ※ツアーファイナル

取材:野田努(2016年11月11日)

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