Home > Interviews > interview with TNGHT (Hudson Mohawke & Lunice) - いまだ、いま全部やろう
誰かの作品を観たり聴いたりするとき、そのアーティストがつくったものだってわかるものがいい。俺はそこで、そのアーティストのクリエイティヴィティを判断する。自分のパーソナリティをどれだけ注ぎ込めるか。(ハドソン・モホーク)
■あなたたちにとってトゥナイトのプロジェクトは、それぞれのソロとどのようなちがいがありますか?
L:僕のほうは、ソロ活動のほうではより自分自身にフォーカスして、ものすごく細かいところまで気にかけながら音楽をつくっている。トゥナイトのほうはそれとはちがって、自分の持っている情報はもちろん活かすけど、あえて細かいことを気にしすぎず、あまり深いところまでいきすぎないようにしている。誰かと仕事をしていく場合は、その場の衝動だったりケミストリーを活かす、というのがこれまでで僕が学んだことだね。ソロのほうは瞑想みたいな、自分と向き合うものだから。だから、できたものは精巧なものになる。
HM:たしかに。ソロのほうは自分のクリエイティヴの限界を探る感じだよね。トゥナイトだとものすごいシンプルな感じで、考えすぎず、直感のほうが先立ってる。それは、最初から頭に置いてたことだね。ソロは自分の深いとこまでいくんだけど、トゥナイトはもっと動物的。
L:最初のほうでもおなじようなことを言ったけど、トゥナイトでは自分を出すというよりは、もっとダイナミックに音楽をつくってるんだよね。ソロとトゥナイトとのそのちがいは気に入ってる。いいバランスがとれてるよ。
■制作はどのようなステップで進められるのでしょう? 役割分担があったり、あるいはどちらかに主導権があったりするのでしょうか?
L:僕がまずメロディを考えて、彼にそれを聴かせて、いろんな楽器を加えていくっていう流れが多いね。オンラインでのやりとりはしないようにしてるんだ。必ずじっさいに会って作業する。その場で最初のメロディに肉づけしていく。たとえばアルバム(『II』)の1曲目の“Serpent”は最初に完成した曲だったんだけど、全部がその場のアドリブで進んでいった。お互いものすごくテンションが高くなっていて、ロスも「いまだ、いま全部やろう」って感じでどんどん進めていった。レコーディングさえも、その場のその勢いで休みなしでやったんだ。ビートを回してるそのままの状態で録音をクリックして、レコーディングをはじめた。そしたら、犬が吠えはじめたんだ。スタジオの隣の家の犬がね。で、その声が入ったから僕は笑ってしまったんだ。でもそれもおもしろくて、その音はそのままにしている。そんな感じで、その場で起こるものをそのままレコーディングに収めた。
HM:プロセスは毎回ちがうけど、おもしろいのが、俺たちが曲をつくってると頻繁に変なアクシデントが起こるんだよね。予想もしてなかったことが起こる。で、それがうまい具合にゾーンに入ってくれる。これとこれを組み合わせるとか思ってもみなかった、とか、こんな音になると思ってなかった、とか、いい驚きがいっぱいある。クソ、このアイディア最高じゃん、みたいなのが突然降りてくる。まだ3曲しかつくってないのに、アルバム1枚よりもインパクトを感じられるものになったりする。勝手にね。そのゾーンに入る感じをいちばん大事にしてる。
■“First Body”や“What_it_is”のような、ストレンジかつキャッチーなメロディと強烈なビートとの同居がトゥナイトの真骨頂だと思うのですが、自分たちではトゥナイトの最大の魅力あるいは武器はなんだと思っていますか?
HM:武器ねえ。マシンガンかな(笑)。
L:なんだろうね。愛かな(笑)。
HM:その答え最高じゃん。魅力っていうと、俺たちはなかなかいいからだしてるからね(笑)。
L:でもほんとうに、ふたりの仲の良さみたいなのは役立ってるとは思うな。まじめな話、彼が無意識に持っている音楽にたいする向き合い方がもともと好きで、僕も彼のようなスタンスでいきたいと思わせてくれる。トゥナイトのプロジェクトをはじめたのも、意識をせずにハドソン・モホークの音楽ができあがっていくのをはたから見ていて、彼が彼らしい音楽をつくっていたからなんだ。自分らしい音楽をつくることって、じつはかなり難しいからね。そこがロスのいちばん好きなところなんだ。
HM:それは俺もルニスにたいして思ってる。俺らが大事にしてることだしね。誰かの作品を観たり聴いたりするとき、どんな類のアートだとしても、そのアーティストの過去の作品と作風がちがったとしても、そのアーティストがつくったものだってわかるものがいい。誰かが演奏してたとしても、「これはルニスがつくった曲だな」ってわかるもの。俺はそこで、そのアーティストのクリエイティヴィティを判断する。自分のパーソナリティをどれだけ注ぎ込めるか。
L:僕らは、互いをひとりのアーティストとして認め合っているし、その距離感をあえてつくってる。ひとつのユニットみたいになりすぎると、変だからね(笑)。おなじようなものしかつくれなくなってしまうと思うし、なんていうか、ボーイズ・バンドみたいなノリにはなりたくないからね(笑)。だから、個のアーティストがふたりで音楽をつくっているプロジェクトであるということはつねに意識している。それで、トゥナイトという名前にしているんだ。バンド名というよりは、イヴェント名みたいな響きだからね。
ボーイズ・バンドみたいなノリにはなりたくないからね(笑)。個のアーティストがふたりで音楽をつくっているプロジェクトであるということはつねに意識している。それで、トゥナイトという名前にしているんだ。イヴェント名みたいな響きだからね。(ルニス)
■あなたたちの音楽は、スマホやノートPCのショボいスピーカーから鳴らされたときでもしっかりとインパクトが残るように設計されているように感じます。それは意図していますか?
L:わかるでしょ(笑)。意図してるかっていうと、100%意図してる(笑)。悪いスピーカーほど良い。最初は良い音響を使っていた時期もあったよ。思えば、これにかんしてもロスって素晴らしいなと思うんだよ。ロスのミキシングのスタイルはほんとに狂ってる。すごくふつうのやり方で、カシオのキーボードとか、ラップトップとか、アイフォーンとか、そこらへんにある何を使っても自分の音楽をつくれるんだよ。だから僕も、高い安い関係なく、どんな機材を使っても音楽をつくれるようにしている。
■トゥナイトのふたりは、ユーチューブやサウンドクラウド直撃世代という印象があります。インターネットやSNSについてはどうお考えですか? たとえば90年代であれば、インターネットは人びとに夢をもたらすもの、いろいろなことを可能にしてくれるポジティヴなものだったのではないかと想像するのですが、今日のインターネットは、人びとにむしろ悪夢をもたらすもの、人間関係をぎくしゃくさせたり、知らないうちに大企業に情報を握られたり、さまざまな弊害を生むネガティヴなもののように見えます。
L:僕らはマイスペース世代だから、SNSとの最初の付き合いはマイスペースだったけど、その後ツイッターが出てきて、インスタグラムが出てきた。僕はいま両方使っているけど、写真もやるからインスタグラムのほうをよく使っている。自分でつくった動画を投稿したりね。でも、SNSはクレイジーだから、没頭しすぎないようには気をつけてる。
通訳:90年代とはちがって、ネガティヴな方向に偏ってきているのも事実ですよね。
HM:まえから思ってたけど、フェイスブックにしてもツイッターにしてもインスタグラムにしても、みんなクソみたいなことばっか言ってるだろ。それはずっと思ってた。ただ、その考えがこのアルバムを出してちょっと変わったんだよね。自分が心の底からほんとに良いと思ってるクリエイションをSNSで発表すれば、みんなサポートしてくれる。誰しも、本能的には誰かを支持したいと思ってるもんなのかなってね。クソみたいなことばっか言い続けたいって、本気で思ってるわけないからね。最低なこと言ってくるやつもいるけど、全員がそうじゃない。
L:優しい人もたくさんいるね。
HM:そう、優しい人もいるし、本気でエキサイトしてくれる人もいる。それに気づいたのは、自分でもおもしろかった。SNSなんてまじでクソだろって、本気でずっと思ってたから。
質問・文:小林拓音(2019年12月17日)
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