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interview with Smerz

interview with Smerz

ミステリアスかつクール、彼女たちの北欧エレクトロニカ・ポップ

──スメーツ、インタヴュー

質問・文:木津毅    通訳:青木絵美   Feb 26,2021 UP

DJラシャドの音楽がわたしたちのスタート地点だったと思う。いまではほかのいろいろな音楽にインスパイアされているけれどね。(アンリエット)

 スメーツが登場したとき、多くのリスナーが惹きつけられたのは彼女たちの音楽のクールな(冷たい)感触だったのではないだろうか。重たく金属的なビート、素っ気のない電子音の連なり、体温の感じられない醒めた歌。「Okay」(2017年)と「Have Fun」(2018年)の2枚のEPは当時、インダストリアル・リヴァイヴァルとオルタナティヴR&Bの北欧からの応答といちおうは位置づけられたが、その冷ややかさはどこかミステリアスなままで、スカンディナヴィアの冬の暗がりから微笑んでいるようだった。
 ノルウェーの首都オスロで育ち、同じ高校に通っていたにも関わらずデンマークはコペンハーゲンの音楽学校で親しくなったというアンリエット・モッツフェルトとカタリーナ・モッツフェルトのふたりは、ジューク/フットワークへの共通の関心などからエレクトロニック・ミュージックに接近。両者ともプロデューサーとシンガーを兼ね、ふたりの緊密な関係性をあくまで軸としてDIYにトラックを制作していく。〈XL〉から「Have Fun」をリリースする頃には、エリカ・ド・カシエールとともにコペンハーゲンの新しいR&Bとして注目されることとなった。

 だから、期待の新星としては間髪入れずにフル・アルバムをリリースしそうなものだが、ふたりは慣習に囚われずにしばしの沈黙に突入する。3年ほどのブランクを経ていよいよ放たれたデビュー作『Believer』は、なるほどEP群からかなりの飛距離を感じさせるものとなった。
 ダークなトーンのエレクトロニックR&Bという路線は踏襲しながら、オペラやクラシック、コンテンポラリー・ミュージック的な管弦楽の要素を大胆に、しかし断片的に導入。さらにノルウェーのトラッド・フォークの引用も加わり、異形のマシーン・ミュージックが出現している。“Rain” の気だるげでミニマルなR&Bにはエキゾチックな室内楽がまとわりつき、歌を中心に置いたシンプルなピアノ・バラッド “Sonette” にもひどくアブストラクトなシンセが響いてくる。聖と俗とがエレクトロニック・ミュージックのもとで入り乱れるのはビョークの新世代的な展開とも言えるかもしれないが、しかし、スメーツにはビョークのような情熱的なエモーションはない。
貪欲な実験が立て続けに繰り広げられるアルバムのなかで、思いがけずストレートにポップな “Flashing” などを聴くとむしろ煙に巻かれたような気分になるが、サイバーな響きと北欧フォークの土着的な旋律が同座するこの曲からはアヴァンとポップの微妙な領域を進もうとする意思が感じられる。ジャンル・ミックスが当たり前になった時代に、ほかにはない配合で音楽を混ぜ合わせて新しいものを生み出そうとすること。それも、どこまでもクールに。
 すべてのクリエイションを自分たちで掌握する女性ふたりのデュオというところも現代的だし、ラース・フォン・トリアーの諸作を思わせるミュージック・ヴィデオなどヴィジュアル展開を見るとファッショナブルな存在になっていくだろうことも予感させるが、何よりもそのサウンドにおいて、『Believer』はポップ・ミュージックのこの先の可能性を静かに照らしている。

ポップのメロディには、人びとに何かを伝えるというコミュニケーション能力が高く備わっていると思う。ポップ・ミュージックはストーリーを直接的に伝えるのがとても上手。(カタリーナ)

日本では現状ノルウェー出身のデュオと紹介されることが多いのですが、現在もデンマークのコペンハーゲンを拠点にしているのでしょうか? 自分たちの意識としては、「コペンハーゲンのデュオ」というアイデンティティのほうが強いですか?

アンリエット(以下H):わたしたちはいまそれぞれ違う都市にいるのね。カタリーナはオスロにいて、わたしはコペンハーゲンにいる。どちらの都市も違った意味でわたしたちの活動にとって大切だと思う。

初めてのインタヴューですので、基本的なところから少し聞かせてください。初期のバイオを見ると、DJラシャドジェシー・ランザに影響を受けたとありますが、結成時にふたりを強く結びつけた共通のアーティストや作品はどういったものでしょうか? 音楽以外でもだいじょうぶです。

カタリーナ(以下C):かなり昔の話になるね。たくさんあるから難しいけど、デンマークの音楽をふたりでよく聴いていた。でもやっぱりDJラシャドの音楽が当時のわたしたちを象徴していると思う。わたしたちにとってすごく新しいものに感じられたし、彼の平然とした態度もカッコ良かったし、複雑なリズムで遊ぶ感じも楽しくて好きだった。

H:そうね、DJラシャドの音楽がわたしたちのスタート地点だったと思う。いまではほかのいろいろな音楽にインスパイアされているけれどね。

初期のライヴの映像を見ると、おふたりとも機材を触り、歌っていますが、楽曲制作においておふたりの役割分担のようなものはありますか?

C:楽曲制作のときの役割分担はとくにないよね。ライヴのときはヴォーカルのパフォーマンスがメインになるから、機材はバックトラックをかけるくらいしか使っていないの。今回のアルバムでは過去に作ったトラックを生演奏してみた。アンリエットはヴァイオリンを弾いて、わたしはピアノを弾いている。でもライヴのときは、できあがったバックトラックを披露するという形で機材を使っているね。

H:楽曲制作のときはまた別のプロセスで、わたしが何かひとつのことをやって、カタリーナがまた別のことをやったりという感じで進めている。そうすることによって、おたがいを補完するような音楽にしていく。だからおたがいからフィードバックを受け合っているというプロセスなのね。たとえば、カタリーナがビートを作っていたら、わたしはそこからインスピレーションを得て、何か次のことをしようと思う。それをお互いの間で繰り返してやっている感じね。

EP「Okay」や「Have Fun」の時点でスメーツの個性はかなりできあがっていたと思っていたので、『Believer』でのサウンドの拡張には驚きました。デビュー・アルバムとしては時間をかけたほうだと思うのですが、それは音楽的な関心の幅がこの3年で一気に広がったからですか?

C:そうだと思う。新しい音楽にずっとインスパイアされ続けていると、自分の作品が完成したとなかなか思えなくて。新しい発見がつねにあったり、何か新しいことをやりたいという衝動につねに駆られていると、アルバムの完成というものが見えなくなってしまう。でもそういうことをやりたいという大切な時期があったから、今回のアルバムという形になった。

H:新しい音楽を作りたいという時期がしばらくあったのよね。

C:でもアルバム制作の時期のなかにも様々な段階があったね。ひとつの時期というわけではなかった。

通訳:制作中にも複数の段階があったというわけですね。

C:その通り。

ポップな音楽を作るのはもっとも難しいことのひとつ。だからその要素を扱って作業するのはとても楽しい。(アンリエット)

とくにEPにおいてコンテンポラリーR&Bからの影響が強いように思います。スメーツはトラックだけでもじゅうぶんに個性的で実験的ですが、ポップな歌の要素を捨てることもないですよね。スメーツにとって歌のポップさはなぜ重要なのでしょうか?

C:ポップのメロディには、人びとに何かを伝えるというコミュニケーション能力が高く備わっていると思う。音楽の聴き方はひとによって違うから一概には言えないけれど、個人的には、ポップ・ミュージックはストーリーを直接的に伝えるのがとても上手だと思っている。

H:それにポップな音楽を作るのはもっとも難しいことのひとつだとわたしは思っている。だからその要素を扱って作業するのはとても楽しい。いろいろな工夫をしてポップな音楽に仕上げていくのは楽しいよね。

ただ、歌の入っている曲においても、R&Bのヒット曲のようにエモーショナルに歌い上げないですし、スメーツにはどこか冷たさや醒めた感覚がつねにあるように思えます。この美意識はどこから来るものなのでしょうか?

C:それは意図的なものではないよ。それはわたしたちの作業の仕方から来るものなのかもしれないし、わたしたちの能力や技術によるものなのかもしれない。

H:わたしたちがインスパイアされた、ソースとなった音楽がわたしたちにそういう影響を与えて、その結果としてわたしたちの音楽にそういう雰囲気が含まれているのかもしれない。でもたしかに意図したものではないね。

C:それはパソコンで作業しているからなのかとたまに思う。パソコンだと、ピアノやギターを弾いて作曲するときとは違って、(画面を)縦に見ながら作業することが多いでしょ。でもわたしたちはその作業方法を少し変えていこうとしていて、もう少し横に進めていく感じの作業にしたいと思っている。パソコンで作業していると、最初から細かい要素をいろいろと詰めこみがちになってしまう。サウンドが最初から大切なものとして捉えられてしまうから。短い枠のなかで、取り扱う要素が多くなりがちだと思う。

リズムは初期からジューク/フットワークの影響がありますよね。あなたたちから見て、フットワークの面白さはどういったところにありますか?

C:ヒップホップと共通する要素があって、リズムがあって、とても直感的なところ。ひとを引きつける要素があるところ。フットワークは作るのが難しい部分もあるけれど、その瞬間を楽しめるし、ミックスをするのも楽しい。いいエネルギーがある。

H:難しい部分があるから、すべてを見透かすことができないというか、聴いていて毎回新しい発見があると思う。

質問・文:木津毅(2021年2月26日)

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Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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