「CE」と一致するもの

Placebo - ele-king

 今年2021年は〈Mute〉がテレックスのリイシュー企画をスタート、編集盤『This Is Telex』がリリースされている。同バンドの音楽的頭脳だったマーク・ムーランは、じつはテレックス以前にもあるグループを率いていた。それがプラシーボである。
 プラシーボは、ブラジルのアジムスと並んでカーク・ディジョージオに霊感を与えた70年代ベルギーのジャズ・ファンク・バンドで(ディジョージオはムーランの『Placebo Sessions 1971-1974』のライナーノーツを執筆)、つまりテクノの文脈にも影響を及ぼしている。
 今回Pヴァインの「VINYL GOES AROUND」が手掛けるのは、そんなプラシーボの7インチ・ボックスセット。彼らが残した3枚のアルバムから1枚ずつ7インチを切り、それらをひとつにまとめたという次第。J・ディラの元ネタとしても知られる “Humpty Dumpty” をはじめ、珠玉のグルーヴが詰め込まれている。限定400セットとのことなので、お早めに。

天才キーボーディスト、マーク・ムーラン率いるプログレッシヴ・ジャズ・バンド、PLACEBO の7インチ・カラー盤3枚入りボックス・セットが VINYL GOES AROUND よりリリース!

ヨーロピアン・ジャズ~レア・グルーヴ派までに絶大な人気を誇る、天才キーボーディスト、マーク・ムーラン率いるプログレッシヴ・ジャズ・バンド、 PLACEBO の7インチ・カラー盤3枚入りボックス・セットを、株式会社Pヴァインが運営するアナログ・レコードにまつわる新しい試みを中心としたプロジェクト、"VINYL GOES AROUND" よりリリースします。

1枚目は J.Dilla など、ヒップホップ・クラシックの元ネタとして多数の楽曲でサンプリングされた代表曲 “ハンプティ・ダンプティ”。ディガー待望のシングルカットをクリア・イエローヴァイナルで。

2枚目はドープなシンセ・ベースと重いビートがグルーヴィーで Hip Hop のサンプリング・ソースとしても有名な Balek の1973年当時にリリースされたオリジナル7インチ・シングルをクリアー・レッド・ヴァイナルで世界初リイシュー。

そして3枚目はモーダルなハーモニーとファンキーなビート、ホーンセクションが重なり合うレイジーなサウンドと巧みなシンセ・リードが心地よい “ダグ・マダム・メルシー” に、トランペットのワウ・ソロや、漂うローズの上にホーン・リフが絡み合う “S.U.S” をカップリング。こちらはブルー・ヴァイナルとなります。

箱のデザインは1st、2nd、3rdアルバムのジャケットを使用し3種類作成。計400セットの限定仕様となりますのでお早めにお買い求めください。

・PLACEBO 7inch BOX 購入ページ
https://vga.p-vine.jp/exclusive/
* 12/8(水)午前10:00より掲載、予約開始となります

[リリース情報]
PLACEBO『7inch Box』
収録タイトル:
「Humpty Dumpty / You Got Me Hummin'」(クリア・イエローヴァイナル)
「Balek / Phalene II」(クリアー・レッド・ヴァイナル)
「Dag Madam Merci / S.U.S.」(ブルー・ヴァイナル)
品番:VGA-7002A, VGA-7002B, VGA-7002C
フォーマット:7inch vinyl×3
価格:¥7,260(税込)(税抜:¥6,600)
※BOXのデザインは3種類の中よりお選び頂けます。
※限定品につき無くなり次第終了となります。
※商品の発送は2022年1月初旬ごろを予定しています。

Alva Noto - ele-king

 グリッチとパルス。ノイズとリズム。グリッドとドローン。厳密な建築と設計。それらの組み合わせによるミニマルな電子音響音楽。そのむこうにある濃厚なノスタルジア。未来。カールステン・ニコライが20年以上にわたって生み出してきたミニマルなエレクトロニック・サウンドは、電子音響におけるパイアニアのひとつとして現在進行形で君臨している。
 しかしそのサウンドはけっして固定化していない。常に変化を遂げている。90年代のノト名義のノイズとパルスによるウルトラ・ミニマルなサウンドスケープ、00年代以降のアルヴァ・ノト名義で展開されたグリッチと電子音とリズムの交錯によるネクスト・テクノといった趣のトラック、そして透明なカーテンのような電子音響以降のドローン/アンビエント作品、坂本龍一とのコラボレーション作品で展開するピアニズムと電子音響が交錯し、高貴な響きすら発している楽曲、言葉が電子音響のなかで分解され、リズミックな音響ポエトリー・リーディングにまで昇華したフランスの詩人アン=ジェームス・シャトンとの共作アルバムまで、どの音楽も電子音楽・電子音響の領域を拡張するものである。

 そして本年リリースされた新作アルバム『HYbr:ID Vol.1』は、カールステン・ニコライ=アルヴァ・ノトのアルバムの中でも一、二を争う傑作ではないかと思う。もちろん、カールステン・ニコライ=アルヴァ・ノトのアルバムはどの作品もクオリティが高い。だが本作では彼がこれまでおこなってきた実験の数々が、極めて高密度で融合しているように感じられたのだ。ちなみにリリースはカールステン自身が主宰する〈noton〉からである。

 このアルバムの楽曲は、もともとは19年にベルリン国立歌劇場で上演されたリチャード・シーガルの振付/演出のベルリン国立バレエ団によるコンテンポラリー・バレエ作品「Oval」のためにカールステン・ニコライがアルヴァ・ノト名義で作曲した音源である。
 「コンテンポラリー・バレエのための音楽」という制約の多いなかで、彼は自身がこれまで培ってきた技法のすべてを投入しているような音響空間を生成していく。00年代以降に展開された「uni」シリーズのリズム/ビート、「Xerrox」シリーズのアンビエント/ドローンが、まさにハイブリッドな音楽技法によって見事に統合されているのだ。まさに00年代~10年代のカールステン・ニコライ=アルヴァ・ノトの総括にしてネクストを指し示すようなアルバムなのである。

 透明な電子音、パルスのようなリズム、微かなノイズが空間的に配置され、重力と無重量を超えるようなサウンドスケープを展開している。加えて本作ではコンテンポラリー・バレエのための電子音響という面もあるからか、反復の感覚(コンポション)がこれまでのカールステン・ニコライのトラックとはやや異なり、反復と非反復を往復するような構成になっているのだ(どこか故ミカ・ヴァイニオの音響を思わせるトラックに仕上がっているのも興味深い)。いままで聴いたカールステンのサウンドを超えるような音にも思えた。ミニマルと反ミニマル。反復と非反復。人間と機械などの相反するもの、まさに「ハイブリッド」なサウンドスケープが展開されていたのである。

 レーベルのインフォメーションによると、「映画のような映像技術とハドロン、ブラックホール、コライダーなど、トラックタイトルにもなっている科学的事象が描かれた静止画像にインスパイアされたという作品で、天体の物理現象やフィクションをダンスの動きを結びつける形を模索しながら制作が行われた」という(https://noton.info/product/n-056/)。
 いわば自然現象とテクノロジカルな技術と20世紀以降のアートフォームを援用しつつサウンドを生成し、それを人間の肉体の運動に落とし込むというようなことがおこなわれているのだろうか。それは先にあげた反復(機械)と非反復(人間)の交錯に結晶しているのかもしれない。

 アルバムには全9トラックが収録されている。いかにも10年代のアルヴァ・ノト的な2曲目 “HYbr:ID oval hadron II” もまるで魅力的だが、「Xerrox」シリーズ的なアンビエンス感覚に非反復的なサウンドが交錯し、透明でありながら不穏なムードを放つ3曲目 “HYbr:ID oval blackhole” が何より本アルバムのサウンドを象徴しているように思えた。いわば不安定、非反復の美学とでもいうべきか。
 この曲を経た4曲目 “HYbr:ID oval random” では自動生成するような細やかなリズムがクリスタルな電子音響とミックスされていく。5曲目 “HYbr:ID oval spin” では “HYbr:ID oval blackhole” のようなサウンドをより緻密にしたような音響空間を展開する。不定形に放たれる音の粒といささかダークなトーンの電子が交錯し、まるで映画のサウンドトラックのように聴こえてくる。
 以降、アルバムはまるで仮説と証明を繰り返すように、もしくは演算をおこなうかのように、リズムとアンビエントが交錯し、緻密に、そして大胆に音響世界を展開していくだろう。どこまでも澄み切ったクリアでクリスタルな音は、聴く側の知覚を明晰に磨き上げてくれるような感覚を発していた。聴いているととにかく「世界」が明晰に感じられるのだ。

 そしてアルバムはクールネスな温度を保ったまま、しかし次第にテンションを上げつつクライマックスといえる9曲目 “HYbr:ID oval p-dance” に至る。ここでカールステンは惜しげもなく近年のアルヴァ・ノト的な(つまり「uni」シリーズ的な)ミニマルにしてマシニックなリズム/ビートを展開している。もちろん、これまでアルバムを通して培ってきた不穏な電子音響ノイズも、しっかりとトラックに仕込まれている点も聴き逃せない。まさに20年以上に渡る彼の技量が圧縮したようなトラックといえよう。ラストの10曲目 “HYbr:ID oval noise” では、規則的に打たれる低音に、まるで人口の雨や風のような電子音響が重なり、透明な夜とでも形容したいほどの音響空間を構築する。圧倒的なサウンドスケープだ。

 “HYbr:ID oval noise” に限らず本作はどこか天候や宇宙などの超自然現象を電子音響でシミュレートしているような雰囲気がある。それがカールステンのミニマム/マシニックな音世界をよりいっそう深く、大きなものに変化させたたのではないか。未来の電子音響世界など誰にもわからないが、しかし、このアルバムの音に未知と既知が交錯しているのは違いない。音楽はまだまだ進化する。そんな「可能性」を感じさせてくれる稀有なアルバムといえよう。

 「ハイブリッド」シリーズのVol.1と名付けられていることからも想像できるように、このシリーズもまた続くのだろう。期待が高まる。

女パンクの逆襲──フェミニスト音楽史 - ele-king

ロックの男性中心の物語に対しての気迫のこもった反論、
それぞれの自由を追い求めた女パンクの信念と実践を報告する、
フェミニスト音楽史の決定版 !

『女パンクの逆襲(原題:Revenge of The She-Punks)』は、イギリスで最初の女性音楽ジャーナリストとしてパンクをレポートし、現在はNY大学で「パンク」と「レゲエ」の講義を持つ通称「パンク教授」による、女性パンクについての目を見張る調査によるレポートです。

本書は単なる時系列に沿った史実を述べているだけのものではありません。著者は、「アイデンティティ」、「金」、「愛」、「プロテスト」という4つのテーマに分けながら、パンクが女性にとっていかに解放的な芸術形態であるのかという理由を探り、歴史をひとつひとつ解き明かしていきます。
70年代のロンドンとNYにはじまりながら、英米優位主義/白人至上主義に陥ることなく、コロンビアやインドネシア、日本や中国、ドイツやスペイン、メキシコやジャマイカ、東欧やインド、ロシアへと、女パンクの世界ツアーとして繰り広げられていきます。

2019年に刊行された本書は、米『ローリング・ストーン』誌のブック・オブ・ジ・イヤーに選ばれ、英『ガーディアン』をはじめとする世界の有力紙において絶賛されました。フェミニスト音楽を知る上で、今後も参照されること必至の決定版です。

登場するアーティスト:
ポリー・スタイリン、ブロンディ、ビキニ・キル、ザ・レインコーツ、デルタ5、パティ・スミス、マラリア!、ESG、少年ナイフ、ザ・スリッツ、プッシー・ライオット、メイド・オブ・エース、CRASS、ポイズン・ガールズ、挂在盒子上、クリッシー・ハインド、グレイス・ジョーンズ、オー・ペアーズ、ザ・モ‐デッツ、ネナ・チェリー、スリーター・キニー、ザ・セレクター、ジェイン・コルテス、タンヤ・スティーヴンス……ほか多数

著者:ヴィヴィエン・ゴールドマン/Vivien Goldman
『サウンズ』紙の編集を経てフリーに。ジョン・ライドンが初めてジャマイカを訪れたときに同行したジャーナリストとしても知られる。ボブ・マーリーの伝記など著書多数。NY在住。

訳者:野中モモ
東京生まれ。翻訳(英日)およびライター業に従事。訳書にレイチェル・イグノトフスキー『世界を変えた50人の女性科学者たち』(創元社)、キム・ゴードン『GIRL IN A BAND キム・ゴードン自伝』(DU BOOKS)、アリスン・ピープマイヤー『ガール・ジン 「フェミニズムする」少女たちの参加型メディア』(太田出版)などがある。著書に『デヴィッド・ボウイ 変幻するカルト・スター』(筑摩書房)、『野中モモの「ZINE」 小さなわたしのメディアを作る』(晶文社)。

目次

ウーマニフェスト─女宣言─ はじめにひとつ
1 ガーリー・アイデンティティ わたしはだれ?
2 マネー わたしたちはわたしたちの金?
3 ラヴ/アンラヴ 二元制を打倒する
4 プロテスト 女というバリケード
アウトロ わたしたちのコーダ
謝辞
索引

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STONES FROM THE INSIDE - ele-king

ローリング・ストーンズの貴重なプライベート写真が満載
ビル・ワイマン撮影による写真集刊行!

初期からストーンズのベーシストとして活躍したビル・ワイマンは音楽活動のかたわら写真撮影を趣味としており、折に触れメンバーを撮影してきました。本書では66年のツアーから90年アーバン・ジャングル・ツアーまでの写真を収録。

メンバーだからこその親密な素顔や、デヴィッド・ボウイ、ジョン・レノン、リンゴ・スター、セルジュ・ゲンズブールといった綺羅星のようなスターたちとの交流が至近距離で捉えられています。

ビル自身による解説の翻訳もつき、全ストーンズファン必携の一冊です!



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Klein - ele-king

 その音楽のリスナーが、作り手の好む音楽を共有している確率は高い。いや、もちろんロレイン・ジェイムズのリスナーがマスロックを聴いている率は低いのかもしれない。が、しかしスクエアプッシャーやエイフェックス・ツインを聴いている率は高いだろうし、ボーズ・オブ・カナダのリスナーがMBVを聴くことになんの違和感はない。かつてはレディオヘッドのリスナーもがんばってオウテカを理解しようとしたものだった。しかしながら、クラインを熱狂的に支持した実験的な電子音楽を好むオタクたち(まあ、ぼくもそのひとりであろう)がジェイ・Zやブランディ、マライヤやブリトニーを聴く可能性は極めて低いのではないかと推測される。彼女が好きなオペラ歌手のルチアーノ・パヴァロッティなどもってのほかだ。クラインほど、自分が好きな音楽と自分が作っている音楽のリスナーとが乖離しているアーティストも珍しい。いったい、ラジオから流れるポップR&Bばかりを聴いている人が、どこをどうしたら『Only』『Lifetime』のような作品を作れてしまうのだろうか。いや、まだその2枚ならわかる気がする。まだその2枚なら……彼女はその後、活動場所をクラブやライヴ会場のほか、ICAやテートブリテン、MOMAのような美術館にまで広げ、英国の社会福祉制度をテーマにしたミュージカル(本人いわくディズニー風であり、『ナルニア国物語』風だという)にも出演した。アーティストとしての道を順当に歩んでいると言えるのだが、先々月の『Wire』のインタヴューでは、「ジェイ・Zのレーベルとサインするためのラップのレコードを作る準備もできている」と語っている。「それを冗談で言うこともできるけど」と付け加えて、「でも、私はマジだ」と。

 本作は2021年に自主リリースされた『Frozen』に続くアルバムで、オランダのクラシック音楽専門のレーベルからの、クラシック音楽を習ったことのないアーティストによる、決してクラシカルとは言えないが多少そんな響きをもった作風になっている。作品のテーマは、南ロンドン育ちの彼女が7歳から5年のあいだナイジェリアのラゴスで祖母といっしょ暮らした日々にあるという話で、タイトルの『ハルマッタン』とは西アフリカで吹く貿易風のことだ。
 でまあ、ナイジェリアといって日本の音楽ファンが頭に浮かべるのは、とにもかくにもアフロビートだろう。アフリカ大陸のなかでも大国のもっとも栄えた都市として知られるラゴスにはポップスもあれば消費文化もある。ところが、『ハルマッタン』はこうしたナイジェリアの音楽のどれとも似ていないと察する。ぼくなりに喩えるなら、R&Bと出会ったクラスター(クラウトロックにおける電子音楽のリジェンド)とでもいったところだろうか。
 アルバムは、クラインによるピアノにはじまる。自由奔放な独奏で、フリーキーかつ機敏、ジャジーかつ溌剌としている。本人の説明によれば「20年代からR&Bスタイルまでのピアノ史」ということだが、ピアノ一本でここまで表現してしまうのかと感嘆する。2曲目はその続きのごとくピアノから入ってすぐさま一転、熱気をはらんだカオスの世界──ホルン、サックス、ノイズ・エレクトロニカ、サウンド・コラージュ──に突入する。それから“ハ長調のトラッピング(Trapping In C Major)”における壮大なシンフォニー。コズミックなシンセサイザーと管楽器が交錯する“未知のオプス(Unknown Opps )”、ハーモニカ(?)による重厚なドローンを響かせる“優雅さの憑依(The Haunting Of Grace )”……、ヴォーカル無しの、彼女のシュールな音響世界が次から次へと繰り広げられる。“イバダンのために作られた(Made For Ibadan)”は歪んだエンリオ・モリコーネか、さもなければ蒸留されたエリック・サティというかなんというか。クラインはこのアルバムで、ピアノ、サックス、ハーモニカ、エレクトロニクス、ドラム、ギターを演奏しているというが、もちろんすべてが独学だ
 歌モノは1曲だけ。グライムMCのJawninoを擁した“スカイフォール”だが、これは過去作で見せたダブで水浸しのR&Bではない。たとえばPhewがゴスペルをやったらこうなるのかもしれないと。蜃気楼のような曲“ギャングスタではないが、それでも終わりから(Not A Gangster But Still From Endz)”を挟んではじまる“希望のディーラー(Hope Dealer)” はシンセサイザーとピアノが曲を盛り立てる美しいアンビエントで、この曲は後半のハイライトと言っていいだろう。

 かように『ハルマッタン』は強烈なアルバムであるが、もうおわかりのように、お決まりの“ブラック”ではない。彼女はひょっとしたら、ファンや音楽メディアがもとめる“ブラック”に反発しているのかもしれない。が、これはアフリカの乾いた貿易風の名を冠した彼女のアフリカ体験から生まれた作品なのだ。クラインはいつものように想像力を全開にし、魔法のようなサウンドスケープを創出した。おそらく感覚的に。彼女は、1週間に100曲作ることもあれば公園に行って遊んだりしてばかりの月もあるといい、1週間前には弾けなかった楽器を演奏して録音するともいう。次はまったく違うことをやるかもしれないというし、ドリルのレコードだって準備中だとうそぶく。ま、なんにせよ、彼女が本当にロック・ネイションから作品をリリースすることがあったら、ぼくもジェイ・Zを……(略)。

Mira Calix - ele-king

 耳に面白くて、頭にも刺激的で、心にも響いてくる。このアートワークほどに明るいとは言えない、ハードな内容を孕んでいるわりには楽しんで聴ける。似ているモノに何があるのだろうかと思って浮かんだのはたとえばザ・ビートルズの“レヴォリューション No.9”だったりするのだが、要するにカットアップ(コラージュ)による音楽、フランスの電子音楽の巨匠ピエール・シェフェールやリュック・フェラーリによる一連のミュージック・コンクレートめいた作風で、つまりリスナーが固定観念を外して感覚を解放すればサウンドは入ってくるし、興味深い音楽体験になること請け合いである。が、それだけなら、いま挙げたような音楽を聴けば済む話かもしれない。だからそう、このアルバムはそれだけではないということだ。

 ミラ・カリックスの名義で知られるシャンタル・パッサモンテはアカデミシャンではないし、何か特別クラシックの教育を受けているわけでもないはずだ。彼女は、およそ30年前はDJシャンタルという名義のアンビエント系のDJで、元々はクラブ系のレコード店のスタッフ、90年代の多くの年月を〈Warp〉のプレス担当としても働いている。AIシリーズを売るために奔走していたひとりで、ぼくの記憶がたしかなら、踊れないと批判されていた〈Warp〉音源が、(腕がたしかなDJにかかれば)むしろスリリングなダンス・ミュージックとしても機能することを証明させた『Blech』は彼女の企画である。

 シャンタルはヴァイタリティがある人だった。そしてものすごい駆け足で、独自の道を歩んでいったし、いまもそうだろう。ミラ・カリックス名義で実験的なエレクトロニック・ミュージック作品を発表するようになったのは、90年代後半になってからだったが、2003年の2ndアルバム『スキムスキッタ』でブレイクすると、アート・ギャラリーでのインスタレーションやロンドン・シンフォニエッタとの共演といったハイブローなところで活躍の場を得るようになった。昆虫の音を使って音楽を作曲するよう彼女に依頼したのは、ジュネーブの国立自然史博物館である。

 ほかにもシャンタルは手広くいろいろやっている。シェイクスピアのソネット集のための作曲を担当したり、ロイヤル・フェスティヴァル・ホールで17世紀の合唱音楽に触発された作品を作曲したりと、近年ではエレクトロニカのプロデューサーというよりも、コンポーザーとしての活動のほうが目立っている。discogsや彼女のサイトを見ていると、2006年に〈Warp〉からの4枚目となるアルバム『Eyes Set Against The Sun(太陽に照らされた目)』を出してからは、ほとんど俗離れしたシーンこそが彼女の主戦場だったように思えてくる。2016年からは主にモダン・クラシカルな音源をリリースする自身のレーベル〈Mira Calix Portal〉もスタートさせているが、そのなかにはオリヴァー・コーツとの共作もある(ちなみにコーツをもっとも最初にフックアップしたのは2008年のシャンタルだった)。

 ゆえに2019年のシングル「Utopia」は久しぶりの〈Warp〉からのエレクトロニカ‏/IDM作品で、それに続いたのが本作『Absent Origin(不在の起源)』となるわけだ。しかしこれは『スキムスキッタ』のようなエレクトロニカ作品ではないし、「Utopia」ほどビートが強いわけではない。おそらく『Absent Origin』は、シャンタルがここ数年のあいだ試みてきたことが踏襲されたアルバムで、芸術的であり、政治性も秘めている。彼女のサイトによると、2017年のほとんどを第一次世界大戦に至るまでの地政学的景観を調査し、ロンドン塔における休戦を記念した音と光のインスタレーションのために費やしていたという話だが、その研究のさなかに当時のナショナリズムの台頭とそれに呼応したアート(ダダイズムとコラージュ)に感銘を受けたことが本作を作る前提になったという。じっさいシャンタルはこの作中に、詩人、政治家、抗議者からのより身近な話し言葉を差し込んだそうだが、その強い気持ちは音楽から感じることができる。

 1曲目の“Mark of Resistance(抵抗の印)”がまずそうだ。指を鳴らす音や抽象的な電子音、小さな声や物音、いろんな音が切り貼りされていくなか、フットワークめいたリズムが入り、ベースが落とされ、女の掛け声と女の詩の朗読が曲の高まりに同期する。これがデモ行進における高揚でなくてなんであろう。そして彼女の自由自在の音楽性は、そうした政治的な意図を含みつつも、やはりどうしても、耳を楽しませてくれるものでもあり、それが素晴らしく思える。

 2曲目の“There is always a girl with a secret (秘密を持った女の子は必ずいる)”にも同じことが言える。女の歌声(女のいろんな声は今作の重要な要素になっている)のコラージュ、そしてドラムのフィルインとパーカッションとの掛け合い(ベースが入るところは最高に格好いい)は、ぼくには彼女のフェミニズム的な主張が含まれているように感じられる。が、この曲もまたひとつの自由な音楽表現としての輝きがあるのだ。

 クラシカルなピアノが演奏されるなか、ハサミの音が断続的に聞こえ、子どもの声と大人の女性の声が交錯する“Silence Is Silver(沈黙は銀)”も面白い曲だし、反復する吐息と小さなメロディが浮遊する“I`m love with the end(私は終わりに恋をする)”はとくに魅力的な曲だ。バイオリンと女の古い歌、単調なドラム、女と男の声で曲を進めながら途中から場違いなファンクのベースやフルートで構成される“Transport me(私を運んで)”もユニークで、それこそ腕がたしかなDJならダンスフロアで最高のミックスをするに違いない。アルバムの最後を締めるのは、室内楽とモノローグが交錯する“The abandoned colony collapsed my world(見捨てられたコロニーが私の世界を崩壊させた)”、これは80年代以降のゴダールのコラージュを思い出さずにはいられないような切ない曲だ。

 以上に紹介した以外にも、『Absent Origin』には聴きどころがいくつもある。タイトルが示すように、さまざまなサウンドはコラージュされ別の意味を生成し、混迷した時代を生きる人たちを癒やすかのように、みずみずしい感性を醸成する。何度も聴くにつれ、ぼくにはなんだか彼女の集大成的な作品ではないかと思えてきた。

 で、最後にこの、あまりにも楽しそうな、なんとも無邪気に見えるアートワークのコラージュだが、これはシャンタルが本当にそういう人だからなのだろう。ぼくが彼女に対面で取材したのは一度だけで、あとは電話取材(まだ電話だった時代)しかないのだけれど、彼女はキビキビした人で、ユーモアがあって明るい人だったと記憶している。なお、シャンタルはオリヴァー・コーツといっしょに、2021年初頭ジョン・ケージのプリペアド・ピアノ作品のリミックス集『John Cage Remixed』もリリースしている。こちらもおすすめです。

〈Advanced Public Listening〉 - ele-king

 長らくベルリンに在住していた Miho Mepo によって設立された新たなレーベル〈Advanced Public Listening〉。その第1弾作品となるコンピレイション盤『ON IN OUT』が12月2日にリリースされる。フォーマットはCD(2枚組)とLP(4枚組)の2形態(配信はなし)。ハンス・ヨアヒム・レデリウスを筆頭に、マシュー・ハーバートリカルド・ヴィラロボストーマス・フェルマンムーヴ・Dデイダラスなどなど、エレクトロニック・ミュージックの錚々たる面子がトラックを提供している(下記参照)。しかも、全曲エクスクルーシヴというから驚きだ。要チェックです。

新レーベルAdvanced Public Listeningの第一弾コンピレーション『ON IN OUT』、2021年12月2日にリリース!

宇宙138億年、地球46億年… この作品が世代も世紀をも超えて人々の魂を浄化する
普遍的な正典であることに疑う余地はない。宇川直宏(DOMMUNE)

1998年に単身ベルリンに渡り、28年に渡って数々のアンダーグラウンドで良質な海外アーティスト、DJを日本に紹介し続け、
錚々たるアーティストから全幅の信頼を置かれる日本人女性、Miho Mepoが設立した新レーベルAdvanced Public Listeningの
第一弾コンピレーションが完成!
本作のコンセプトに賛同した世界各国の錚々たる豪華ミュージシャン達が提供したエクスクルーシヴ・トラック、全22曲を収録!
CDの発売はここ日本でのみとなる限定スペシャル・エディション!

参加アーティスト
ハンス・ヨアヒム・ローデリウス(クラスター/ハルモニア)
マシュー・ハーバート
リカルド・ヴィラロボス
ディンビマン(ジップ)
トーマス・フェルマン
ローマン・フリューゲル
アトム・TM
ムーブ・D
デイデラス
タケシ・ニシモト
など全21アーティスト作品

日本語解説:宇川直宏(DOMMUNE)

■アーティスト:Various Artists (V.A.)
■タイトル:ON IN OUT (オン・イン・アウト)
■発売日:2021年12月2日[CD]/12月12日[LP]
■品番:APLCD001[CD]
■定価:¥3,000+税[CD]
■その他:●日本語解説:宇川直宏(DOMMUNE)、●全収録曲、本作の為のエクスクルーシヴ・トラック。
■発売元:ADVANCED PUBLIC LISTENING

Tracklist
Disc 1
01. KARAPAPAK 「FM EMOTION」
02. Julie Marghilano 「Human」
03. Pierre Bastien 「Revolt Lover」
04. Takeshi Nishimoto & Roger Doering 「Dream」
05. Simon Pyke aka FreeFrom 「Mass Murmurations」
06. Thomas Brinkmann 「Ruti _ Sakichis dream」
07. Roman Flügel 「Psychoanalysis」
08. Move D 「Für Franz” (Live at Theater Heidelberg)」
09. Thomas Fehlmann 「phoenix」
10. Takeshi Nishimoto & Roger Doering 「Call」
11. Hans joachim roedelius 「Immer」

Disc 2
01. Seitaro mine featuring Elson Nascimento & KIDS 「dia e noite」
02. Tyree Cooper 「Classic Material」
03. ZAKINO(aka Seiichi Sakuma) 「What time do you think it is」
04. Low End Resorts (Phoenecia + Nick Forte) 「Drunkin’ Drillz」
05. Daedelus 「Denote」
06. Atom TM 「C4LP (F*ck Yeah)」
07. Pulsinger & Irl 「l Vicinity Dub」
08. Matthew Herbert 「PEAHEN」
09. Dimbiman (aka Zip) 「Väterchen Frust」
10. Ricardo Villalobos (ZEDA FUNK)
11. The Irresistible Force (aka Mixmaster Morris) 「MULTIBALL」

 近年はイスラエルからさまざまなジャズ・アーティストが出てきている。そんななか、当地の最新音楽に触れるリスニング・イヴェントの開催が決定した。
 原雅明とサラーム海上が出演、さらになんとイスラエルにおける現代ジャズの旗手、リジョイサーことユヴァル・ハヴキン(バターリング・トリオやアピフェラの一員としても知られる)も登場するとのこと。詳しくは下記より。

イスラエルの最新音楽シーンとカルチャーを聴く
日本イスラエル文化交流プログラム
Super New: Israel
-Talk & Listening Session-
2021年12月11日(土)開催決定!

原雅明+サラーム海上が、イスラエル最新音楽シーンの中心人物「Rejoicer」をフィーチャーし、高音質なリスニングシステムと共にお届けするハイブリッド型イベント。

名称:
日本イスラエル文化交流プログラム
Super New: Israel -Talk & Listening Session-

日時:
2021年12月11日(土)
18:00開演 (17:00会場)
※アフターパーティは20:00スタート

会場:Just Another Space 
東京都目黒区上目黒1-3-9 藤屋ビル3F 
   
チケット:https://supernewisrael.peatix.com
(会場での参加のみ有料)

ライブストリーミング:https://dublab.jp/

主催:dublab.jp、epigram inc.
協力:GENELEC JAPAN
助成・後援:駐日イスラエル大使館

Pendant - ele-king

 フエアコ・エスとして知られるブライアン・リーズの別名義ペンダントの新作『To All Sides They Will Stretch Out Their Hands』がリリースされた。前作『Make Me Know You Sweet』(2018)から実に3年ぶりのアルバムだ。10年代のエクスペリメンタル/アンビエント・シーンの最重要アーティスト、待望の新作である。

 フエアコ・エス=ブライアン・リーズは2013年、当時OPNが主宰していた〈Software〉からアルバム『Colonial Patterns』をリリースした。アンダーグラウンドなハウス・ミュージック・シーンにいたリーズだが、『Colonial Patterns』のリリースによってエクスペリメンタル・ミュージックのリスナーから注目を集めることになった。このアルバムに影響を受けたエレクトロニック・ミュージック・アーティストは、ある意味、OPNと同じくらい多いのではないか。そして2016年には、ニューヨークを拠点とするカセット・レーベル〈Quiet Time Tapes〉から『Quiet Time』と、アンソニー・ネイプルズ主宰の〈Proibito〉からアルバム『For Those Of You Who Have Never (And Also Those Who Have)』の2作をリリースし評価を決定的なものとした。その霞んだ音響は不可思議な霊性のようなアトモスフィアを放っており、巷に溢れる凡庸なアンビエント作品と一線を画するような音だった。翌2017年にはブライアン・リーズは実験電子音楽レーベル〈West Mineral〉を立ち上げた。2018年には同レーベルから自身の別名義ペンダントのアルバム『Make Me Know You Sweet』を発表する。レーベルのキュレーションも格別で、例えばポンティアック・ストリーターウラ・ストラウスの『Chat』(2018)、『11 Items』(2019)などの重要作を送りだしてきた。本作もまた〈West Mineral〉からのリリースである。

 フエアコ・エス名義の作品は、現時点では2016年の『For Those Of You Who Have Never (And Also Those Who Have)』が最後だ(来年2月に新作が出る模様)。リットン・パウエル、ルーシー・レールトン、ブライアン・リーズらのユニット PDP III 『Pilled Up on a Couple of Doves』が2021年にフランスの〈Shelter Press〉から発表されいるとはいえ、ソロ作品は2018年リリースはペンダント『Make Me Know You Sweet』以来途絶えていたのだからまさに待望リリースである。とはいえ録音自体は前作がリリースされた直後の2018年に行われた音源のようだ。すでに制作から3年の月日が流れている。どうしてそうなったのかは分からないが、彼のサウンドの持っている時間を超えたような「霊性」を考えると、3年の月日が必要だったのではないかとすら思えてくるから不思議である。

 アルバムには全6曲が収録されている。アルバム前半に “Dream Song Of The Woman”、“In The Great Night My Heart Will Go Out”、“Formula To Attract Affections” の3曲、後半に “The Story Of My Ancestor The River”、“The Poor Boy And The Mud Ponies”、“Sometimes I Go About Pitying Myself While I Am Carried By The Wind Across The Sky” の3曲が収録され、合計6曲が納められている。アルバム全体は、大きなストーリーというか流れがあるというよりは、まるでアンビエントやドローンが次第に瓦解していくように音が変化していくようなサウンドを展開している。

 冒頭の “Dream Song Of The Woman” は白昼夢のようなドローンが展開するアンビエント曲だが、2曲め “In The Great Night My Heart Will Go Out” から細やかな物音のコラージュによって生まれるどこか荒涼としたムードのサウンドスケープである。曲が進むごとに音の霞んだ感触や荒んだディストピア的なムードが展開しつつも、アンビエントからエクスペリメンタルなコラージュ作品へと変化していく。そして17分45秒に及ぶ最終曲 “Sometimes I Go About Pitying Myself While I Am Carried By The Wind Across The Sky” でコラージュ/アンビエントな音響空間は頂点に達する。20世紀の残骸である音とその蘇生とリサイクル、荒涼とした光景そのものをスキャンするような持続、ノイズ、音楽のカケラ、幽玄性。それらの交錯と融解。まさにアルバム・タイトルどおり「四方八方に手が伸びる」ようなサウンドスケープである。

 最後に本作のマスタリングを手がけたは、エクスペリメンタル・ミュージックのマスタリング・マスターのラシャド・ベッカーということも付け加えておきたい。

Parquet Courts - ele-king

 パーケイ・コーツの7枚目のアルバム『Sympathy for Life』は高評価を得た前作『Wide Awake』のポストパンク路線一辺倒でもなければ発売前に名前をあげられていたプライマル・スクリームの『Screamadelica』にインスパイアされただけのアルバムでもなかった。もっと雑多で、色んな種類の曲が入っていてそれらが繋ぎあわされてアルバムのムードが作られている。それはあたかも時間帯で変化していくパーティの出来事のようで、どこかいまはもう存在しない、思い出の中の出来事のようなそんな印象も受けもする。

 頭の中に存在する架空の一夜、マッドチェスターからスタートして、ガレージ・ロックが繫がれたと思えば次の瞬間にギターの音が鳴りを潜める。その代わりに呪文をつぶやくデヴィッド・バーンのような歌声が聞こえてきて、続く曲の牧歌的な雰囲気に押し流されている間に気がつけばアンドリュー・ウェザオールのDJタイムがはじまっていた。交代で昔のドイツのグループとLCD サウンドシステムに影響を受けたスクイッドみたいなバンドが出てきて、その後にいよいよ本命のパーケイ・コーツが登場する。“Homo Sapien” から “Trullo”、4曲続けて踊ってパーケイ・コーツを堪能する。そうして夜が明けて朝の優しい光のようなメロディが流れて来て、街が僕らを迎え入れる。
 僕はそんな一夜の出来事を妄想する。パーケイ・コーツの『Sympathy for Life』はやはりパーティのアルバムなのかもしれない。パーティ・アルバムではなくてパーティの記憶のアルバム、つい先ほどのことのような遠い昔のことのようにも思える記憶がつなぎ合わされて思い出が再生されていく、アルバムとは文字通りそういうものなのかもしれない。

「アルバムとは、どこでレコーディングされて、どこで制作されて、アーティストがどんなマインドでいたのかという、そのときと場所のスナップショットだと俺は考えている」。アンドリュー・サヴェージはインタヴューの中でそう答えていたが、今作はまさにスナップショットの集合体なのだろう。2020年のニューヨークでおこなわれたパーティの様子が収められた写真の集まり、そこから時間が経って世界が変わり、パーティの空気も意味も違って見える(それはそこに写っているものが失われてしまいそうになっているからこそそう見えるのかもしれない)。

 作品のまとまりだけを考えればムードを統一した方が良かったのかもしれない。もっとはっきりとしたダンス・アルバムを作っても良かったし、あるいは『Wide Awake 2』を作っても良かった。けれどパーケイ・コーツはそうしなかった。それはおそらくその視線が転換期にある現在の社会に向いているからなのだろう(それでこそのスナップショットだ)。ニューヨークの街に漂うその空気、アルバムの中でパーケイ・コーツは都市生活者の孤独を唄い、テクノロジーの発展とそれに伴う価値観の変化を考え、アンダーグラウンドな、インディペンデントの精神を持って生きていこうと覚悟を深める。インディペンデントであり続けるには適切に状況を認識していなければならない。インディとは音やスタイルではなく精神で、決まった形はなく時代とともに変化していく。時代が変われば求められる心も変わる。時代あるいはそれにともない変化していく社会に対しどうアプローチしていくかがインディペンデント・アーティストに求められるものなのだろう。そうしてパーケイ・コーツは答えを出した、変化と適応こそが生き残るためのキーなのだと。

 今作でパーケイ・コーツはデヴィッド・バーンの『American Utopia』を手がけたロダイド・マクドナルドとPJハーヴェイとの仕事で有名なジョン・パリッシュと組み、複数のプロデューサーとひとつのアルバムを作り上げるということを初めて試みた。そして作曲方法もいままでと変えた。40分にも及ぶ即興演奏を元にロダイド・マクドナルドがエディットしコラージュのように作りあげた曲を中心にこのアルバムは作られている。それはある意味ではDJのプレイのようなものだったのかもしれない。あるいはミックスか。
 その中でも “Marathon of Anger” は従来のパーケイ・コーツとは完全に印象が異なった曲で、繰り返されるシンセサイザーのフレーズとマントラを唱えるデヴィッド・バーンのような歌声が特徴的だ。あきらめに似た悲しみと静かにステップを踏み込む覚悟が混じりあって空気を作り、それが心に染み込んでいく。

 そしてジョン・パリッシュだ。曰く「クリーン・トーンを好んで、ジョンは素直に音を録るタイプ」。アルバムの中でエディットではなく従来の作曲方法で作られた3曲、“Walking at a Downtown Pace”、“Pulcinella”、“Sympathy for Life”、この中で “Walking at a Downtown Pace” を除いた2曲をジョン・パリッシュがプロデュースしている。ジョン・パリッシュはPJハーヴェイとの仕事で有名だが、最近ではオルダス・ハーディングドライ・クリーニング、ザ・グーン・サックスのアルバムを立て続けて手がけている。ブラック・カントリー・ニューロードの名前を出されて比較されるブリストルのニュー・バンド、ビンゴ・フューリーもジョン・パリッシュのプロデュースだ。従来のサウンドにこうした時代と共鳴するような音を混ぜて変化させようとするのもパーケイ・コーツのセンスだろう(そんな中でもどこか抜け感があるのがパーケイ・コーツの魅力のひとつでもある)。タイトル・トラックの “Sympathy for Life” ももちろんだが、アルバムの最後を飾る “Pulcinella” は特にそうだ。想像していたパーケイ・コーツの魅力の上に優しくメロディアスでロマンティックな側面が加わって新たな魅力が引き出されている。この曲はどこかゴート・ガールがカヴァーした『ダウンタウン物語』の曲(“Tomorrow”。この曲はゴート・ガールの 1st アルバムの最終曲でもある)を思わせ朝の光を感じさせる。

 このパーケイ・コーツの朝の光は「明けない夜はない」ではなくて「いつの間にか朝を迎えている」ようなそんなイメージで、辿り着いた先ではなく、ずっと続いていたものが変化していったようなそんな印象を受ける。それは彼らの言うように、パーティであり、コミュニティであって……そしてきっとバンドでもあるのだろう。転換期の中で、過ぎ去った日の思い出を抱え、そうして次へ向かっていく。パーケイ・コーツのこのアルバムはなにかバンドの新しいスタートのようにも思える。変化と適応、それこそがきっと時代のキーなのだ。

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