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本アルバム『RFG Inventions for Cello and Computer』は、ピンク・フロイドやブライアン・イーノなども用いたことで知られるイギリスのシンセサイザーのメーカーである EMS (Electronic Music Studios ltd)の共同創設者にしてヴェテラン音響技師のピーター・ジノヴィエフと、若手チェリストにして尖端的な電子音響の作り手ルーシー・レールトンのコラボレーション・アルバムである。リリースは現代エクスペリメンタル・ミュージックの総本山ベルリンの〈PAN〉から。『RFG Inventions for Cello and Computer』はとても重要なアルバムと思う。世代を超えた音響的対話によって「現代音楽」と「尖端音楽」の交錯が極まっている。
『RFG Inventions for Cello and Computer』に横溢しているのは、サウンド・マテリアルの衝突と交錯だ。震える弦、硬質な電子音などの「音の意味」をはぎ取られ、ただの「音響体」へと蘇生するさまとでもいうべきか。「今」の時代における新しいミュジーク・コンクレートであり、2020年なりの「アクースマティック・ミュージック」の実践なのである。
ふたりの年齢差は50歳ほど。親子以上に世代差のあるふたりだが、『RFG Inventions for Cello and Computer』におけるサウンドのコンビネーションは抜群だ。無調の弦とオールドスクールな電子音のライヴミックスという現代音楽的ともいえる音響ながら、モダンなサウンドの緻密さも兼ね備えている。いわば「2010年代以降のモダンなエクスペリメンタル・ミュージック/尖端音楽のコンテクスト」の中に落とし込まれた興味深い音響作品とでもいうべきか。
もともとはライヴ演奏として主体として構想されたプロジェクトのようで、2016年から2017年にかけていくつものフェスティヴァルで演奏されたものだ。その成果を踏まえてレコーディングされた本楽曲は33分の長尺1トラックにまとめられた。
33分の1トラック内は17ブロックに分割される。単純な持続は反復ではなく、接続と変化による複雑な音響構造を有してもいる。基本的にはルーシー・レールトンのチェロをピーター・ジノヴィエフがコンピューターで加工したものだろうが、2018年に〈MODERN LOVE〉からファースト・アルバム『PARADISE 94』をリリースしたルーシー・レールトンなのだからチェロ奏者としてだけでなく、音響作家としての手腕も卓抜なのは言うまでもない。おそらくは互いにサウンドのエディットを重ねながら、電子音響やノイズが交錯されていったものであろう。その結果、非常に緊張感に満ちた仕上がりの音響空間を生むことになったのではないか。世代を超えたふたりの音響作家/音楽家は、音響のマテリアルによって、言葉を超えた「対話」を繰り広げているのだ。
そう、『RFG Inventions for Cello and Computer』は、まさに接続と交錯を続けながら変容し続けていく「音響実験と音による対話」の音響劇である。
デンシノオト