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Helm

ElectronicExperimentalField Recording

Helm

Chemical Flowers

Pan

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野田努   Jun 18,2019 UP
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 気候変動/環境問題は、いま英国の政治的スローガンとしてもっとも大きな勢力をなっている。プラッドのインタヴューにも、ファット・ホワイト・ファミリーのインタヴューにもその話題が出てくることからもお察しいただけるだろうし、先日のトランプ訪英の際に起きた大規模のデモにおいても、日本のマスメディアががんばって報じたあの「おもてなし」とはわけが違って、じゃあ、なんでトランプに反対するのかという大きなテーマのひとつとしては「地球温暖化問題」があった。
 このあたりの背景は、ナオミ・クラインの『NOでは足りない』をぜひ、ぜひ、ぜひ、読んでいただきたいと思うのだけれど、どういうことかと簡単にいえば、80年代に環境系などと括られていた動きとは様相が変わって、いま「地球温暖化」という地球上の全生物にとって深刻な問題に直面しながらもそれが止められない理由はただひとつ、強欲な資本主義にあるのであって、とどのつまりいい加減このやばい社会を変えていこうというときの大きな入口として「地球温暖化問題」はあると。その強欲な資本主義の権化としていまたまたまトランプがいるということがじつに説得力のある文章で書かれている。で、先進国の良識的な大人たちの政治的関心が環境にいっている、そんなおりにヘルムの新作『ケミカル・フラワー』が届いた。

 ロンドンのヘルムは、ルーク・ヤンガーによるプロジェクトで、彼はこの10年のあいだすでに8枚のアルバムを出している。そのなかには実験音楽家というよりはサウンド・アーティストと呼ぶべきグラハム・ランプキンのレーベル〈Kye〉からのリリース、そして〈Pan〉からの2枚のアルバムも含まれる。とくに評価の髙かった2015年の『Olympic Mess』は、この手の音を追いかけている人の記憶にまだ新しいだろう。
 ヘルムのような音楽は、フィールド・レコーディング、アブストラクト、ドローン、アンビエントといった実験音楽の折衷的な展開で、それがダンス・カルチャーと直結することはない点においてオウテカではなくOPN以降の流れにある。実際彼は自身のレーベル〈Alter〉においてOPNの曲をリリースしているわけだが、ヘルムもまたOPN同様に音によるコンセプトを打ち立てているように思える。それは初期のイヴ・トゥモアにもリンクする音で、まさに〈Pan〉が得意とするところではあるが、ヘルムにはインダストリアルな感覚もあって、ひらたく言えば、テクノよりのサウンドである。
 『ケミカル・フラワー』においてもっとも推薦したい曲は“ I Knew You Would Respond(あなたが応えるであろうことはわかっている)”だ。そう、曲名の通り。ダウンテンポの単調なリズムと切り刻まれた電子ノイズが合流するこの曲の後半には弦楽器のメロディアスな演奏が挿入されている。それはおそらく、ヘルムのキャリアのなかでももっとも叙情性的な曲のひとつだろう。
 1曲目の“Capital Crisis(首都の危機)”の混沌と壮大さは、この作品がエセックスの田園地帯で録音されたことにも起因しているのかもしれないが、“Leave Them All Behind(それらすべてを残せ)”のミニマル・ビートとフィールド・レコーディングによる奇妙な音の断片との調合にしろ、この手の音楽で理屈以上にサウンドで引っぱることは決して容易なことではない。イヴ・トゥモアは途中で路線を変更し歌と言葉に頼ったが、ヘルムはこの難しい路線を継続するなか、いまも人に聴かせる作品を作ることができている。とくに、“You Are The Database(おまえはデータベース)”のような単調さのなかでも欠伸をしない人であるなら、『ケミカル・フラワー』は賞賛の対象になるかもしれない。
 
 なお、これが「地球温暖化問題」の作品であるという確証はない。ただ、ぼくの頭にそう思い浮かんだだけの話である。そして作品とは作者の意図とはべつのところでの発想ないしは問題提起を生むことができる。それがアートというものの素晴らしい価値だ。

野田努