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Lifted

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デンシノオト   Jul 03,2019 UP
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 もうすぐ2010年代が終わる。この約10年はインターネットによって音楽が歴史的な変化を被った時期であった。
 まずは10年代初頭の映像中継配信、次いで10年代中盤のサブスクリプションの普及。そして00年代全般を通底する無数の YouTube の動画たち。これらの普及と浸透を経て、音楽はインターネット上に漂う新たなエーテルになった。どのような音楽も等しく音のアンビエンスになった。
 新しい音楽を聴くことが日常的になり(情報のようになり)、日常に音楽というアートの扉は広く開かれた。くわえて地理的制約も歴史的な条件も外され、過去に生まれた音源がいまのモードによって再発見されるようになった。現実世界もインターネットからフィードバックを経て、数百円で投げ売りされていたアルバムに新たな価値が付与される。
 その結果、当然のことながら、すぐれたディガーによる興味深いミックス音源が生まれた。ヴィジブル・クロークスのスペンサー・ドーランによるジャパニーズ・エレクトロ・ポップ、ジャパニーズ・アンビエントのミックス「Fairlights, Mallets And Bamboo Vol. 2」が話題になり、欧米を中心にディガーたちのトレンドになった(この「ディガー」もまた10年代中期的以降の存在だと思う)。
 リフテッドが2015年にリリースしたモーション・グラフィックスのアルバムとともに10年代中期の電子音楽の重要作といえる。
 リリース当時は、いまや使い古された「OPN以降」という言葉で(間違って?)消費されてしまった感もあるが、本当は先に書いたような「10年代的なディガーの感性」を15年の段階でまとっていたことが重要に思える。何しろ、『1』には〈ミュージック・フォー・メモリー〉が再発見したことで、ニューエイジ再評価の波を作ったといっても過言ではないジジ・マシンがゲスト参加しているのだから。

 そんなリフテッドのニューアルバム『2』がリリースされた。前作『1』が2015年リリースなので4年ぶりである。とはいえ「待ちわびていた」というと、そういうわけでもない。まさかセカンド・アルバムが出るとは思ってもいなかった。
 リフテッドは、あのマックス・Dと、コ・ラ(マット・パピッチ)のコラボレーション・ユニットである。それぞれレーベル主宰やソロとしても重要な仕事を残しているし、先に書いたモーション・グラフィックスまで参加している。いわば『1』限りの企画的なユニットと勝手に思い込んでいた。しかし誰が続編を予想できただろうか。
 だが、1があれば2もある。よく考えなくとも次回作の存在は、前作の名に示されていた。むろんこれは冗談だが(彼らの意図はどうあれ)、この新作が2019年という時代にリリースされる意味はとても大きいと私は考える。そう、このアルバムは「10年代の最後」を飾る音楽なのだ。

 前作と大きく違う点はビートが大幅導入されている点だろう。しかしそのビートはM1 “Now More Than Ever”に代表されるように、どこかずれているように聴こえるし、サウンドの中に綺麗に融解しているようにも聴こえた。また、ジャズと民族音楽とアンビエントがインターネット空間でセッションしているようなM4 “Blackpepper”、M5 “Purplelight Wish なども極めて独創的な音楽であった。90年代初頭的なヒップホップと80年代的なフュージョンが融合したようなM6 “Rose 31”もサイバーエレガントなトラックとでも称したいほどだ。ラストのM7の“Near Future”など、完璧にジャズ+エレクトロニックなトラックで、特にモーション・グラフィックによるピアノの巧みさにも驚いてしまった。
 しかし、どの曲も、地上から浮いているような非現実的なズレや浮遊感に満ちている。そのサウンド空間は、記憶のように、曖昧であり、具体的だ。そのムードは確かに前作『1』を継承している。前作に続きモーション・グラフィックスや、ジェレミー・ハイマン、ジョルダン GCZ、ダウィット・エクランドなどの〈Future Times〉周辺のミュージシャンらも参加している。アルバムには全7曲が収録されており、どのトラックも創意工夫に富み、立体的な音像のミックスもスリリングにして優雅だ。

 そう、本作においてアンビエント、ヴェイパーウェイヴ、ニューエイジ、ジャズ、ゲーム音楽、民族音楽などのサウンド・エレメントがまるで幽霊のように交錯している。その音は仮想空間の中にしか存在しない架空のミックス音源のようでもあるし、時空間の離れた者同志のセッション音源のようにも聴こえる。存在するのに、存在しない。消失しつつあるような音楽。リフテッドの音楽性は、このすべてがインターネットの中に消失していったこのディケイドの終わりを飾るに相応しいように思えてならない(輪郭線が滲んでいくようなアートワークのミニマリズムも10年代的だ)。
 2010年代は、インターネットの中に漂う音楽があった。それらは常に消えかけているし、幽霊のように再生したりもする。じじつ、2010年代の音楽は、ポスト・インターネットという死語が表しているように、どこか実体を欠いた空気のように、エーテルとなってインターネット空間/世界を漂っていた。そのような意味でこの『2』は、まるで2010年代音楽における最後尾のアトモスフィアを放っているように感じられる。この10年の先端的音楽にまつわる事柄が走馬燈のように展開するアルバムといえる。

デンシノオト