「Nothing」と一致するもの

interview with Evian Christ - ele-king

義理の父が趣味でトランス系のDJをやっていたから、それに影響を受けて6歳くらいからトランスを聴いてた。

 トランス・ミュージックが国内外の若い地下シーンで復権を果たして久しい。日本では新世代のDIYレイヴ・クルー〈みんなのきもち〉がデジタル・ネイティヴ的美学に基づくピュアなトランス・ミュージック体験を各所で啓蒙中で、国外に目を向ければラテン・ミュージック文化圏ではネオ・ペレオと呼ばれる実験的でトランシーなサウンドが新たに定着しつつあり、ヨーロッパには〈Drain Gang〉の熱心なヘッズたちが巨大なコミュニティを築き上げ、そしてインターネットから世界に向けて〈PC Music〉の一群がポップスを笠に着つつ Supersaw サウンドの美しさを広めている。そんな同時多発的なムーヴメントのなか、あまりの寡作さになかば伝説化しつつあった天才、エヴィアン・クライストが〈Warp〉との契約後ようやく初のフル・アルバム『Revanchist』を発表し、「オルタナティヴ・トランス」と定義できそうな、この新たなムーヴメントにさらなる追い風を吹かすこととなった。

 2010年代にかけて発生した「ウィッチ・ハウス」(インダストリアルなトランス・サウンドを活用した耽美的でゴシックなビート・ミュージック)ムーヴメントや、「デコンストラクテッド(脱構築)・クラブ」(既存のクラブ・ミュージックの持つ普遍性からの逸脱を目指し、複雑なリズムやグリッチ・サウンドをコラージュ的に組み合わせた実験音楽)など、ポスト・インターネット的美学に基づくアンダーグラウンドなサウンドが、DAWやDJ機器の技術的進化とともにポップスの領域、果ては電子音楽そのものを飲み込もうとしたのが2010年代初頭から後期にかけてのこと。そして、2010年代末~2023年現在において、それらはストリーミング・サーヴィスにおける商業的利便性から定義された「ハイパー」という形容詞とともに、新しいポピュラー・ミュージックの地平を切り拓いてきた。

 その過程で再発見されたサウンドの代表例のひとつがトランスであった。(これもハイパー同様、既にクリシェと化した惹句だが)いわゆる「Y2K」的なリヴァイヴァル・ムーヴメントとともに急成長したサウンドの源流が、「エピック」や「ユーフォリック」とかつて定義されたジャンル群なのだ(サイケデリック・トランスとはほぼ無関係ということも特徴的)。

 『Revanchist』は「トランスの潜在的な可能性を探求」するといったコンセプトのもと長い期間をかけ生み出された8曲入のアルバムで、なかにはアンビエントを想起させるものからリヴァイヴァル以降のブレイクコア(Kid 606 のようなサウンドとはほぼ関連のない、どちらかといえばアトモスフェリック・ドラムンベースと呼ばれるべき「インターネット発」の2020’s ブレイクコア)に至るまで、自由さを感じさせるヴァラエティに富んだ内容となっている。しかしながら全体に漂う荘厳さがある種の統一感を漂わせてもいて、そしてなによりすべての音像がハードにマキシマイズされている極太さも魅力的だ。
 タイトルの「revanchist」とは「失地回復論者、報復主義者」といった意味を指すようで、あたかも荒れゆく昨今の世情を反映したかのようなタイトルだが、本人曰くただ単にタイポグラフィ的なカッコよさを言葉遊びのように掬い上げ採用したにすぎないとのこと。「コンセプト的な深みはゼロ」と断じるものの、やはり稀有な天才に世界は隷属的にならざるを得ないのだろうか……。そんな不可思議な音楽家への、希少な日本語インタヴューをぜひ一読いただきたい。

音楽制作をはじめてそれほど時間も経ってないときだったし、スタジオに入ったこともなかった。なのに突然、カニエ・ウェストの史上最も実験的なアルバムに取り組まなければいけなくなった。あれは自分にとってかなり大きな挑戦だったね。

イングランド北西部のエレスメア・ポート(Ellesmere Port)という港町にお住まいなのですよね。日本からはなかなか想像しづらいのですが、どのような街ですか? 音楽シーンはどんな感じですか?

EC:日本では知られていない場所だろうね(笑)。小さな街だよ。ものすごく小さいというわけでもないけど。人口5万人くらいかな。リヴァプールの近くで、リヴァプールのすぐ南にあるんだ。昔は工業都市で、自動車製造と石油精製が盛んだった。原子力発電所もたくさんあるよ。『ザ・シンプソンズ』に出てくるスプリングフィールドみたいな街。

通訳:生まれたのもその街ですよね?

EC:そうだよ。

通訳:生まれてからいままで、街を出たことはありますか?

EC:じつは一時期アメリカにいたんだ。でも結果、LAがあまり好きになれなくて。それでエレスメア・ポートに戻ってきたんだよ。

通訳:音楽シーンはどんな感じですか?

EC:音楽シーンはひとつもない(笑)。街にはナイト・クラブが全然ないし、ライヴ会場みたいな場所もないんだよね。みんなラジオとかから流れてくる音楽を聴いてる。だから逆に、音楽シーンに流されずに自分がつくりたい音楽を集中してつくれるんだ。

通訳:シーンがないなか、あなた自身はどんな音楽に触れてきたのでしょう?

EC:とりあえず、まわりにある音楽。リヴァプールはビートルズという超大きな遺産があってその影響が大きいから、エレクトロニック・ミュージックはあまりビッグにならなかった。だから、バンド系の音楽がたくさん流れていたんだ。でもぼくは、義理の父が趣味でトランス系のDJをやっていたから、それに影響を受けて6歳くらいからトランスを聴いてた。あと、コンピュータ・ゲームもやってて、昔のコンピュータ・ゲームはプレステとかとは違ってエレクトロニック・ミュージックを使った曲がたくさんあるから、そういう音楽に影響されていたと思う。で、もう少し大きくなると、ネットで好きな音楽を聴くことができるようになった。ダウンロードしたり、音楽コミュニティを見つけたり、テレビで音楽チャンネルをみはじめて、その音楽番組でダンス・ミュージックを聴いたりしてたな。それが、ぼくの音楽への入り口だったと思う。

あなたは2012年に〈Tri Angle〉から『Kings and Them』でデビューしています。当時はどのようなモティヴェイションで音楽に臨んでいたのでしょう? もともとは小学校教師を目指していたのですよね。

EC:目指していたというか、ぼくは教師だったんだ。教員免許を取ったばかりで、6~7歳の生徒を教えていた。当時、音楽はぼくの人生のなかで大きな大部分を占めていたわけではなかったんだ。あの作品が出たときが初めて音楽作品を完成させたときだったし、あまり真剣に音楽に取り組んでいたわけではないんだよ。趣味のランキングでいえば、音楽はスポーツ以下、飲みに行くこと以下、そんな感じだった。音楽をリリースしたいとか、音楽で存在感を示したいとか、そういう野望は一切なくて、ただ冬に寒くてやることがなかったから音楽をつくっていただけなんだ。で、あるとき『Kings and Them』をたまたま完成させたから、それを友人に送ったら、ラッキーなことにそれに火がついた。以来、流れでなんとなく音楽をやることになっていったんだよね(笑)。

通訳:それがどのようにしてリリースに至ったのでしょう?

EC:そもそもトラックをつくったのは、プロデューサーの友人たちに趣味で送るためだった。で、そのなかのひとりがルーキッド(Lukid)っていうプロデューサーで、彼がそれを気に入ってくれて、彼にさらに曲を送ったんだ。で、彼がそれをフェイスブックにアップして、そこから話題になってしまって。アップされてから1週間もしないうちに、レコード契約とか出版社とか、いろんなオファーが舞い込んできたんだよ。それで、レコードをリリースすることになったんだ。

ご自身の音楽的なバックグラウンドについて、もう少し詳しく聞かせて下さい。『Kings and Them』を聴いた印象では、ベース・ミュージックやヒップホップを聴いて育ったのかなと思ったのですが。

EC:子どものころ、ぼくはトランス・ミュージックにかなり夢中だった。さっき話したけど、それは義父の影響で、彼がレコードをたくさん持っていたから。アートワークにもすごく興味があったし、〈Gatecrasher〉のコンピレーションCDとか、そういうコンピCDにも興味を持っていて、義父のソニーのウォークマンを借りて聴いてたんだ。自分の部屋でも流していたし、車でどこかに行くときは、いつも車のなかでトランスを流していた。大人になってからもトランス好きは変わらない。そして、少し大きくなって高校生になると、ラップ・ミュージックに興味を持つようになった。まわりの友だちがラップを聴いていたからね。ネプチューンズのプロダクションとか、リル・ウェインとか、ポピュラーなラップにハマってた。2、3年はハマってたかな。で、大学に進学したとき、今度はコンテンポラリーなエレクトロニック・ミュージックにハマりはじめたんだ。でもぼくは、ハマっていたとはいっても、音楽にのめり込んでいたわけじゃなかった。BGMで流している程度。でも、ネットを使うようになって、エレクトロニック・プロデューサーを何人かオンラインで見つけて、彼らとメッセンジャーなんかで友だちになりはじめたんだ。そしたら、彼らがもっとちゃんとしたエレクトロニック・ミュージックを送ってくれるようになってさ。たとえば、さっき話したルーキッドが、僕にアンビエント・ミュージックを紹介してくれたりね。最初ちょっと変な感じがしたけど、どんどんそういう音楽に興味が沸いていった。それまで聴いていたのは、かなりひどいエレクトロニック・ミュージックだったから、音楽にはそこまでのめり込んではいなかったんだよ。まわりの学生たちが夢中になっているような音楽にはあまり興味がなかったし、学生のころのぼくは、もっとオンライン・ポーカーやスポーツ・ギャンブルのほうに興味を持っていたから(笑)。音楽によりハマりだしたきっかけは、大学のひとりかふたりの友人やオンラインで、もっと面白いエレクトロニック・ミュージックを紹介してもらってからなんだ。

なるほど。アンビエントを聴き始めたのはルーキッドが紹介してくれてからだったんですね。同年の「Duga-3」はアンビエントでした。『Kings and Them』も、ある種の静けさを持った作品でしたが、あなたのルーツのひとつにはアンビエントもあるといえますか?

EC:ある意味そうかもしれない。ルーキッドに教えてもらってから、アンビエントは気に入ってずっと聴いてるからね。

あなたは2013年、カニエ・ウェストの『Yeezus』(2013年)に、アルカハドソン・モホークといったエレクトロニック・ミュージシャンに混ざって参加しています。ウェストのチームとは、データのやりとりではなく、パリで一緒にスタジオに入ったのですよね? その経験は、あなたになにをもたらしましたか?

EC:そうだよ。音楽スタジオに入ったのは、そのときが初めてだったんだ。それまでは、母親のガレージやラップトップが使える適当な場所で作業していて一度も音楽スタジオに入ったことがなかった。だからスタジオでの経験は面白かったよ。もちろんすごくクレイジーな経験でもあった。スタジオに入るまでぼくはなんの準備もしてなくてさ(笑)。さっき話したように、僕が音楽制作をはじめてそれほど時間も経ってないときだったし、スタジオに入ったこともなかった。なのに突然、カニエ・ウェストの史上最も実験的なアルバムに取り組まなければいけなくなった。あれは自分にとってかなり大きな挑戦だったね。ソーシャル的に複雑な環境でもあったんだ。他のプロデューサーたちがたくさん出入りしていて、クレジットやアイディアが飛び交っていた。アルバムのトラックをめぐって、たくさんのひとたちが競い合っていたんだ。あれはすごく興味深かった。そこで飛び交う音楽も面白いものばかりだったしね。それにカニエとの作業は正直本当に楽しくて、彼は素晴らしいひとだった。彼は礼儀正しくて、すごく感じのいいひとだったよ。もちろん才能はものすごかったし。だから本当にいい経験だったし、あのレコードが大好きなんだ。あのレコードの一部になれたことを心から誇りに思う。

カニエ・ウェストは、常人が予想もしないような発言や行動をとりいつも人びとを驚かせますが、ある意味でそれは彼が真の天才である証かもしれません。いまでも彼はあなたにとってスターですか?

EC:いい質問だね。ぼくが子どものころ、彼はぼくの大好きなアーティストのひとりだった。でもリスナーとしてぼくはヒップホップやラップをあまり聴かないんだ。大人になってからは、ほとんどダンス・ミュージックを聴いているから。だからスターかどうかと聞かれたらそれはわからない。でも彼について悪く思うことやいいたいことはなにもないし、彼との作業は素晴らしかったし、彼と彼の作品が僕の人生を変えてくれたこともたしか。それはいまでも変わらない。

自分はどんなことに興味があるのか、どんなことにワクワクするのか。自分が音楽でなにを伝えたいのか、なにを世に送り出したいのか。そして、自分の音楽体験のなにが他のひととは少し違うのか、なにが自分にとって本物なのか。その答えがトランスだったんだ。

2015年に〈Warp〉と契約しました。どのような経緯でそうなったのでしょう?

EC:〈Tri Angle〉とちょっと仲違いして、レーベルに所属している他のアーティストたちとも仕事をするのが難しくなったんだ。それで弁護士を雇って〈Tri Angle〉との契約を解消したんだよ。で、その後他のアーティストたちやメジャー・レーベルを含むいくつかのレーベルと話して、〈Warp〉と契約することにした。彼らはとても乗り気になってくれたし、ぼくはオウテカOPN の大ファンだったから。そんな素晴らしいアーティストたちの仲間になれることもいいなと思ったし、多くの人びとにとって意味のあるレーベルでもある。だから彼らを選ぶことにしたんだ。意気投合して、彼らもぼくの音楽に興味を持ってくれたから、かなり自然な流れだったよ。

2017年の春ころ、あなたが NHK yx Koyxen こと Kohei Matsunaga と共作する、または共作したという話を聞いたのですが、事実でしょうか? その後どうなったのでしょう?

EC:そういえばそうだったね。ぼくもあの話がどうなったのか忘れちゃった(笑)。彼の音楽は本当にクールだよね。過去のメールのやりとりを見ればわかるかも。曲をつくろうとしたけどまとまらなくて、そのまま互いに忙しくなったとかそんな感じじゃないかな。ぼくって、コラボ相手としてはやりやすい相手じゃないんだ(笑)。だから作品がまとまらないっていうのはよくあること。彼は〈PAN〉のメンバーで、ぼくは〈PAN〉のビル(・クーリガス)と仲がよかったからその話になったんだと思う。コラボって自然の流れで起こることが多くてさ、だれとなにをやったかとか、いつどんなコラボをしたか、する予定だったか、ぼくはすぐ忘れちゃうんだ(笑)。彼が許してくれますように。

2010年代後半は、いくつかのリミックスなどを除けば、あまり動きがなかったように見えます。おもになにをされていたのでしょうか?

EC:曲をリリースすると、そのあとつねに曲をリリースすることをけっこう期待されるよね。でもぼくは、音楽をつくること以外にも、いろんなことに興味があるんだ。ライヴも好きだからアメリカやアジアでライヴをやったり、ショウをやるために南米にも行った。DJもたくさんやったし、DJの練習をしたり、DJのテクニックを磨いたり、自分なりのライティングのアプローチを開発してストロボ・ライトやスモーク・マシーンを使ってみたり、そんな活動をしていたよ。あと、トランス・パーティっていうクラブ・ナイトを立ち上げたんだ。だから、イヴェントもやってた。そういう活動をしながら黙々と音楽をつくり、自分の技術的な知識を高め、自分のつくりたい音楽のスタイルを洗練させたかったしね。ぼくの場合、音楽をはじめてからレコード契約をするまでが本当に短かった。だから、じっくりと腰を据えて機材を探して買ったり、その仕組みを学んだり、スキルを磨いたりする時間があまりなかったんだよ。そのためには時間が必要だったし、自分がどんな音楽をつくりたいかをじっくりと考える時間も必要だった。そしてそれを探る期間のなかで、ストレートなダンス・ミュージックではなく、ビルドアップやブレイクダウンに傾倒したトランス・ミュージックというスタイルにもっと興味を持つようになったんだ。

たしかに、2020年の “Ultra” であなたの新しいスタイルが完成したように思います。トランスの換骨奪胎は、本作でも大きな特徴になっていますね。「初期作品にあるベース・ミュージックやヒップホップのラインからトランスへと舵を切ったのは、もとの手法やアイディアに行き詰まりを感じたからですか?」と質問しようと思ったのですが、トランスへと舵を切ったのは、自分がつくりたい音楽はなにか、時間をかけて考えた結果、そこに行き着いたからでしょうか? そして、それをとりいれるスキルを身につけたから?

EC:そのとおり。それまでは、ラッパーのためにヒップホップのビートをつくったり、アメリカに行ってスタジオ・セッションをしたりしていた。もちろんそれもとても興味深かったよ。でもぼくにとって、それはちょっと退屈だったんだ。そういう環境で仕事をするのは、創造的に興味深いとは思えなかった。それで自分が聴いていた音楽とか、自分が大人になってからの音楽とかをベースにして、自分なりのアイディアを練っていったんだ。ただ、そのアイディアを練り上げるには少し時間が必要だった。とくに〈Warp〉からのデビュー・アルバムをリリースするということでプレッシャーも大きかったしね。だからゆっくりと時間をかけていろいろなアイディアを探ってみたかったし、ときどきリミックスを発表して、自分の進歩の一端を見せたかったんだ。

通訳:あなたにとって、トランスとはどのような音楽なのですか?

EC:幼いころから惹かれつづけている音楽、かな。アメリカの経験、つまり他の人のレコードのプロデュースを頼まれるという経験は、自分にとってあまり満足のいくものではなかった。だからそれをやめて、なにがぼくを満足させるのかを考えてみたんだ。自分はどんなことに興味があるのか、どんなことにワクワクするのか。自分が音楽でなにを伝えたいのか、なにを世に送り出したいのか。そして、自分の音楽体験のなにが他のひととは少し違うのか、なにが自分にとって本物なのか。その答えがトランスだったんだ。

もうこれ以上エネルギーを加えられないと感じられるポイントに達するまで、ぼくは曲づくりをやめない。ときどきこのへんにしておきたいって思うときもあるんだけど、性格上、毎回すべてがマックスになるまで作業しちゃうんだよね。

あなたにとって初のアルバム作品となる今回の新作を聴いて、荒廃した未来のようなイメージが浮かびました。ご自身としてはいかがでしょうか?

EC:アルバムは、一度リリースされるとそれはリスナーのものとなり、そこからなにを感じるかは彼らの自由。でも個人的には、結果的に、自然と破壊といった壮大なアイディアに到達したと感じる部分もあるけど、それは意識的なものではないんだ。ぼくは作品をつくっているとき、ただただ本能的に、すべてをもっとワイドスクリーンにして、もっとラウドに、もっと騒々しく、もっと圧倒的なものをつくりたくなる。もうこれ以上エネルギーを加えられないと感じられるポイントに達するまで、ぼくは曲づくりをやめない。ときどきこのへんにしておきたいって思うときもあるんだけど、性格上、毎回すべてがマックスになるまで作業しちゃうんだよね。

以前ベン・フロストのリミックスをされていたことがありましたね。また “Abyss” ではヴィジョニストとコラボしてもいます。それぞれスタイルは異なりますが、あなたの音楽のダークさや冷たさは、どこかふたりに通じるものがあるように感じます。彼らの音楽にシンパシーを抱いていますか?

EC:ふたりともぼくの友人なんだ。ヴィジョニストとコラボしたことなんてあったっけ? ほら、また忘れてるだろ(笑)。グーグルで検索してみよう。あ、これか。いま思い出した(笑)。
 ベンは、とくに大きな影響を与えてくれたアーティストのひとりなんだ。ぼくがフェスティヴァルのブッキングをはじめたばかりのころ、2013年のサウンド・フェスティヴァルで彼に出会ったのを覚えている。あのころのぼくは、実験的な音楽についてあまり知識がなかった。でも、ベン・フロストのパフォーマンスをみて、これこそぼくが好きな音楽そのものだ、と思ったんだ。こんなにパワフルな音楽をつくっているひとたちがいるんだって感動したんだよ。ぼくもトランス・ミュージックを使って彼みたいな音楽がつくりたいと思った。アンビエントのようだけど、リラックスするような感じでもない。そこにすごくインスパイアされたんだ。そしたら、彼がぼくの作品のファンであることもわかって、彼と話をするようになった。彼は本当にいいやつで、今回のアルバムの制作も手伝ってくれたんだ。
 ヴィジョニストにかんしては、ぼくがロンドンで初めてショウに出たときに出会った。だから彼とは長い付きあいで、彼がグライム・ミュージックをつくっていたころ、ぼくはずっとその音楽が好きだったんだ。いまはぼくの親友だよ。

“Xkyrgios” ではジャングルのビートが用いられています。ジャングルはトランスとは異なる場所にある音楽ですが、今回1曲だけこのスタイルをとりいれようと思ったのはなぜですか?

EC:2014年〜2015年くらいの間、ランダムに数ヶ月間ブレイクコアに夢中になっていた時期があってね。自分のセットで超高速のブレイクコアをプレイしていたんだけど、その時期につくったのがそのトラックなんだ。制作の実験として、あのスタイルで数曲だけつくったんだよ。プロデューサーとして、曲をつくりはじめて最初の数年間は、いろいろな音楽を聴いて、それがどうやってつくられているのか実際に作業してみて確認することは重要なことだと思う。だから、当時はブレイキーな音楽、テクニカルなものをたくさんつくっていたんだ。そのなかでも、そのトラックはクールなトラックだと思って。本当に古い曲で、たしか2015年くらいに書いたんだと思う。アルバムに入れるためにほんの少しミックスしていくらかの要素を加えたんだ。今回のアルバムはヴァラエティに富んでいる。多くの素晴らしいエレクトロニック・アルバムは、基本的にはひとつの曲の異なるヴァージョンで構成されていると思うんだけど、今回のアルバムは、その対極にあるものにしたかったんだよね。どの曲もそれぞれの人生というか、そういう存在感を持っているようなアルバムをつくりたかったんだ。

「Revanchist(報復主義者、失地回復論者)」というアルバム・タイトルにはどのような思いが込められているのでしょうか? どうやら戦争に関連することばのようですが。

EC:なにか思いが込められていると答えたいところだけど、アルバム・タイトルをそれにしたのは、ただそのことばが「Evian Christ」に見えるからってだけ(笑)。ぼくの名前にしか見えないなと思って(笑)。しかも、なんかカッコいいことばだなと思ったしね。だから深い意味はない(笑)。どうやってこのことばを見つけたかも覚えてないんだ。ネットのどこかで見たような気がする。で、実際に意味を調べてみたら、その意味もアルバムの音楽とマッチするような激しさがあるなと思って。コンセプト的な深みはゼロ。ただ、タイポグラフィ的にかっこいいと思っただけなんだ(笑)。

12月まではツアーですね。そのあとのご予定を教えてください。

EC:オーストラリアとアジアでショウをやる予定だよ。いまはその準備をしているところ。日本はフジロックに一度出演したきりだから、また日本に行くのが本当に楽しみなんだ。中国にもいく予定。4月か5月にもさらにショウがあって、基本的にはツアーがしばらく続く感じだね。ツアーが終わったらまた曲づくりに戻るつもり。8年もかからないうちに作品を完成させて、早めに次のレコードをリリースできたらいいな。

Procare - ele-king

 不定期に開催されているパーティ「プロケア」。11月10日、久方ぶりに同パーティが渋谷・WWWβにて敢行される。NYを拠点に活動するプロデューサーの K Wata (yaeji のアルバムにロレイン・ジェイムズらに混ざってフィーチャーされていましたね)、オーストラリア出身の Cousin、ブランド〈C.E〉設立者 Toby Feltwell のゲスト3名に加え、同パーティのレジデンスの面々が出演。なかでもUS拠点の K Wata は、日本での初ライヴを披露する。詳細は下記より。

interview with Slauson Malone 1 - ele-king

 スローソン・マローン1ことジャスパー・マルサリスが、〈Warp〉と契約を交わし、アルバム『EXCELSIOR』をリリースした。プロデューサー、ミュージシャンであると共に、ファイン・アートの世界でも活動するアーティストだ。ニューヨークやロサンゼルスで個展を開催し、最近もチューリヒ美術館のビエンナーレに招聘されている。ロサンゼルスに生まれ、いまも活動拠点としているが、10代でニューヨークに移り住み、美術を学び、クリエイターとしてのキャリアをスタートさせた。
 彼のアート作品は、油彩の抽象画、釘やハンダを組み付けたキャンバス、コンタクト・マイクを使ったサウンド・インスタレーションなど多岐に渡るが、「自分の心に残るものは自分が嫌いなもの」という彼の言葉そのもののように、影や暗部を淡々と照らし出している。そして、彼の音楽も不協和音、不安定なビート、解決しないメロディが絡まり合っている。とはいえ、抽象度の高いアート作品とは違い、アコースティック・ギターやビートに乗った彼の声はよりストレートに感情を伝えている。その声はどこか、マック・ミラーを思い起こさせもする。
 ニューヨークのアート・シーンと結びついたスタンディング・オン・ザ・コーナーやラッパーのメードニー(Medhane)と繋がりのあったスローソン・マローン1の音楽は、ローファイなフォークやインディ・ロックにも近い。しかし、それだけに収まっているわけではない。『EXCELSIOR』には、シンガー・ソングライターのチョコレート・ジーニアスことマーク・アンソニー・トンプソンや、BADBADNOTGOOD のドラマー、アレックス・ソウィンスキーなども参加しているが、基本的には様々な楽器をひとりで演奏している。ベッドルーム・ミュージックの延長にあるプロダクションだと言える。
 ジャスパー・マルサリスとネットで検索をすれば、ウィントン・マルサリスの名前がたくさん現れる。そう、彼の父親は世界的なジャズ・トラペッターだ。ジャズ・アット・リンカーン・センターの芸術監督を長年務め、クラシック音楽の世界でも活躍し、ジャズ及びジャズ・ミュージシャンの地位向上に腐心してきた。そして、マイルス・デイヴィスがエレクトリック楽器を使ったこと、ヒップホップに接近したことを批判した人物でもあり、いまもヒップホップには否定的だ。この父親と対比させて何かを語りたくもなるが、それはあまり意味がないと感じてもいる。ジャスパー・マルサリスのアートも音楽も、既に充分に自立したものであるからだ。

ポピュラー音楽は、みんながそれぞれ作品の意味を解釈したりして積極的に関わるという、まさにそこが面白いところだと思う。

今回、スローソン・マローン1として〈Warp〉からデビューすることになった経緯から教えてください。

SM1:すごく粘ったからだと思う。

粘ったというのはレーベル側がですか?

SM1:じゃなくて僕が。すごくいいパートナーになれると思ったんだ。彼らがマーク・レッキー(Mark Leckey)のレコードをリリースしたっていうのが決め手としてあったから。マーク・レッキーとフロリアン・ヘッカー。マーク・レッキーっていうのはヴィジュアル・アーティストで、僕は大ファンなんだよ。ちなみに僕自身もアートをやっていて。だから〈Warp〉には、音楽やアートを分野横断的なアープローチで作ることに対する理解がある人が誰かいるんだと思って。それで〈Warp〉と契約したいと思ったんだよ。基本的にはそれが理由だね。

〈Warp〉というレーベルにはどのような印象を持ってきましたか?

SM1:もちろん彼らは素晴らしい音楽をたくさんリリースしてきたと思う。でも僕が興味を持ったのはファイン・アートに対する感受性があるっていう、その特定の理由だったね。

ジャスパー・マルサリス、スローソン・マローン1、あなたにはふたつの名義がありますが、名義による作品の区別はあるのでしょうか?

SM1:スローソン・マローン1は何と言うか、パフォーマンス・アートの延長という感じだね。スローソン・マローンはもう死んでいて、スローソン・マローン1はそのコピー・バンドみたいなもの(笑)。自分のなかではそういう感じで説明するとしたらそうなるかな。

本名のジャスパーの方がリアル?

SM1:どっちがリアルとかじゃなくて違うだけ。たとえば結婚式に着ていくような服装のときはプールに行く格好をしているときと振る舞い方が変わるよね。泳ぐときは海パンが必要で。でもそのふたつのうちどっちがリアルとかってことではない。違うだけ。

画家、アーティストとしての活動と、ミュージシャンとしての活動、どちらが先だったのでしょうか? また、それぞれの活動はどのように作用しあっているのでしょうか?

SM1:同時発生だったと思う。どちらかと言うとファイン・アートの方はずっとプロフェッショナルというか、キャリアとして続けていくものとして考えてきたんだよ。でも5、6年くらい前に音楽が趣味からプロフェッショナルなものへと変わったんだ。

つねに安全な場所を探していたというか、自分にとっての理想的な場所を作りたくて。逃げ込むっていうわけではないけど、何だろう、いつでも行ける場所が欲しかったんだ。

あなたが音楽で表現できることと、アートで表現できることの間に、どのような共通項、あるいは違いがあるのか、教えてください。

SM1:僕のアート活動は絵がベースだから、つねにフレームを意識してる。つまり二次元空間があって、それが絵画でもパフォーマンスでもすごく似ているんだ。ステージがあって、そして人びとが立って四角い長方形を見ている。僕が絵を描くとき、何度も繰り返されるアイコンや色、形だったりというテーマがつねにあると思う。たとえば円錐形が何度も繰り返し出てくるとか。そして音楽でも同じく、つねに同じテーマを探求しようとしているんだ。スマイルのテーマ、“Smile #1” “#2” “#3” “#4” “#5” “#6” (編注:ファースト・アルバム『A Quiet Farwell, 2016–2018 (Crater Speak)』やEP、シングルなどの収録曲)とか。それから新作にも “Olde Joy” と “New Joy” があったり。
ふたつのいちばんの違いは経済的な構造かな。音楽はレーベル的にはつねに赤字運営だけど、一般大衆が支えている部分も大きい。このプロジェクトにお金を出したいか、このアルバムを買いたいかを人びとが決める。一方アートは非常に私営化されているというか、ギャラリーやコレクターといった機関がひとりのアーティストをバックアップする。だからそこはかなり違っていて、でも同時にアートは妙に自由度が高くて、一般大衆の関与が少ないからより挑戦的なアイデアを試すことができたりする。でもやっぱり音楽はエキサイティングなんだよ。ポピュラー音楽は、みんながそれぞれ作品の意味を解釈したりして積極的に関わるという、まさにそこが面白いところだと思う。

表現できることの違いはどうですか?

SM1:やっぱり時間がいちばん大きい違いかな。音楽は、その作品を鑑賞するためには時間ごと経験しなければならないから。絵や彫刻にも時間はあるけど意味が違うというか、そこに寄りかかってはいない。鑑賞者はいつ立ち去ってもいいし、時間を忘れることもできる。音楽はモロに時間なんだよね。あと音楽の方が変にパーソナルな感じがする。自分が音楽のなかで語っていることって、アートのときよりもかなり個人的なことじゃないかと思う。

最初に音作りをはじめたきっかけは何だったのでしょうか? また、特に影響を受けたものは身近にありましたか?

SM1:僕の姉がEDMのDJになりたかったんだ。それで、説明が難しいんだけど、何と言うか、僕はいつもそういったコンサートの規模の大きさに衝撃を受けていて。スティーヴ・アオキとかアフィとかのサウンドを聴いているとウオオオーッとなって、たぶんその頃初めて自分の音楽を作ってみたいと思ったんだ。あと僕は、つねに安全な場所を探していたというか、自分にとっての理想的な場所を作りたくて。逃げ込むっていうわけではないけど、何だろう、いつでも行ける場所が欲しかったんだ。

弾き語りやラップから、楽器演奏、トラックメイキングまであらゆることをあなたは手掛けていますが、そうした制作スタイルが生まれた背景を教えてください。

SM1:単純に好奇心だと思う。「これはどうしてこうなんだろう?」とか、「この椅子はどうしてこういう形なんだろう?」とか、そうやって興味を持ち続けた結果として生まれたんだ。

『EXCELSIOR』にはコラボレーターも多数参加していますが、どのように制作されていったのでしょうか? アルバムのヴィジョンを描いて制作に臨んだのでしょうか? それとも徒然に曲を作っていったのでしょうか?

SM1:じつは元々このアルバムを諦めかけていたんだよね。曲数も2曲のみにするつもりで、その2曲はほとんど完成していて、でもそのときマネジメント・チームにすごく支えてもらったんだ。あと仲のいいミュージシャンの友だちがいて、彼女がジョー・ミークの “I Hear A New World” って曲を聴かせてくれて、それが効いたというか、音楽の力というものにすごく興奮したんだ。それでその曲をカヴァーしようと思って、実際アルバムにも収録されているんだけどね。それからニッキー・ウェザレル(Nicky Wetherell)はアルバムでチェロを弾いていて一緒にツアーもしたんだけど、彼の影響もすごく大きかった。ソングライターとしても人としても。彼とストリングスのアレンジをやったり曲のアイデアを探求したりするのは本当に楽しかった。それからアンドリュー・ラピン(Andrew Lappin)の影響も大きかったね。彼のスタジオで作業したんだけど、僕は普段は全部自宅でやるから、スタジオに入って、次はドラム、次はヴォーカルという感じでチェックリストに沿って作業するのが面白かったよ。

それで2曲のみにするつもりがいつの間にか?

SM1:そう。そこから拡張していった。面白いのは、このアルバムの中心的なテーマのひと つが細胞分裂で、原子や細胞が分裂するプロセスだったこと。そして実際ひとつの曲が別の曲に分裂していくような感じになっているんだよ。それがいつの間にか最初のテーマに戻っていたり。結果的にその最初の2曲がアルバムの土台のようになったのが面白いなと。だから結局、もうやりたくないと思っていたのに諦めることに挫折したってことだね(笑)。

様々な楽器、機材を使える状況で、曲作りは実際、どうやってはじまるのでしょうか? 

SM1:そのときによって変わるけど……自分の耳が発達したり、興味の対象が変わったり。この質問を訊かれるのが初めてで、ちょっと考えるから待って……ああ、わかった、まずは他の音楽を聴くことからはじまる。それで好きだと思った音楽の何に自分が興味を持っているのかを考える。メロディなのか、サウンドのテクスチャーなのか。それからメロディやコードを作りはじめるんだけど、その時点ではまだかなり抽象的で、方向性があるわけではなく、僕のパソコンがゴミ箱と化し、ヘドロが沈殿していく。あるいはキノコのように菌を増殖させていく。それをひたすら修正して破壊して。そして最後の3ヶ月くらいですべてが立ち現れてくる感じで、そこがいちばん好きだね。

リリック、言葉はあなたの音楽において大切にされていると感じます。『EXCELSIOR』で追求したことを教えてください。

SM1:主に身体についてだったと思う。皮膚や骨や肉体や血。

フライング・ロータスにインタヴューした際、彼はサックスを少し習っていたが、親類の優れたミュージシャンたちを見て早々に諦めたと話していました。あなたの場合も似たような経験はありますか?

SM1:正直すごく複雑なんだ。というか、どんな家族構成であってもたいていは次世代がより良くなることを望んでいて、でも時代と共に何が良くて何が悪いかは変わる、みたいな話だと思う。

ライヴは大好きだよ。録音された音楽とはかなり違うものだよね。結構パフォーマンス・アートに近いというか。僕がいちばん気に入っているのは、それをポップ・ミュージックの文脈のなかでやれるということ。

お父さん(ウィントン・マルサリス)の音楽は、あなたにとってどのような存在だったのでしょうか? 

SM1:僕にとっては音楽自体がどうっていうことではなくて。コンセプトとか音色とかサウンドよりも深いもので。父をはるかに超え、祖父をはるかに超え、その祖父または祖母をはるかに超えた深い系譜があって……。

では、お父さんが大切にしている伝統的なジャズに対する、あなたの意見もぜひ訊かせてください。

SM1:音楽。全部音楽だよ。素晴らしいと思う。デューク・エリントンは素晴らしい作曲家だと思うしビリー・ストレイホーンも素晴らしい。

ジャズではメソッドが大切にされています。またジャズに限らず、ジャンル音楽には固有のスタイルがあります。あなたの音楽は、そこから自由であろうとしているように感じられますが、メソッドやスタイルにどう向き合ってきましたか?

SM1:よく聴くことだと思う。そのメソッドを理解した上で、ちゃんと聴こうとすること。音楽に限らず誰かの話でも何でも。僕の向き合い方を説明するとしたらそうなるかな。でも誰もがそこから借りる必要があるのかどうかはわからない。よくよく考えてみるとそれって恣意的なものだったりするからさ、特にアートではね。キュービズムであるための要件がキュービズムの絵を興味深いものにするわけではないっていう。たとえば誰でも四角を描いたりそれっぽい感じの絵を描けるけど、そこじゃないわけだよ。画家それぞれが現代における実存と向き合ったり、もっとずっと深い考えがあったんだ。

NYのシーンとも交流があって、スタンディング・オン・ザ・コーナー(Standing On The Corner)やメードニー(Medhane)との活動からも、あなたを知りました。彼らとの関係について教えてください。

SM1:もういまはないね。若い頃の自分にとっては刺激的な時期だったけど、男性の集団にいることに居心地の悪さを感じるようになったから。

LA生まれで、活動基盤もLAですよね? LAの音楽シーンについてはどう思われますか? 特に共感を寄せるアーティストがいれば教えてください。

SM1:じつは正直に言うと、あまり出かけないから、いま何が起きているのかちょっと疎くて。あ、違う、昨日出かけたんだ。ええと……誰を観たのかど忘れした! 脳がコロナのときみたいな……ちょっと待って。あ、わかった、ジェフ・パーカーだ、ギタリストの。彼の影響はかなり大きいからライヴを観れてすごく嬉しかった。それからジョシュ・ジョンソンにも影響を受けてるよ。

ライヴをやることは好きですか? またライヴはどのようなスタイルでおこなっているのか教えてください。

SM1:ライヴは大好きだよ。録音された音楽とはかなり違うものだよね。結構パフォーマンス・アートに近いというか。自分の身体も使って、観客がいて、すごく楽しい。普段は僕がギター、ヴォーカル、コンピューターで、ニッキーがチェロで、アコースティック・ギターとチェロという古典的な楽器ふたつだけだから迫力に欠けるんだ。そしてものすごく退屈なところからはじめて、同じ音を何度も何度も繰り返し弾く。ひたすらCを弾くとか。そして観客がうんざりしてきた頃に徐々にメロディのあるフレーズを弾いていき、それが最初の曲に発展する。あとは、まあこれはレコードと同じ感じだけど、すごく静かになったりラウドになったり、そしてあるときは僕が叫んだり床で転がって観客を押し退けたり(笑)。そこはレコードとはかなり違う。僕のアートと音楽それぞれの活動の中間みたいな感じ。そこでできることがたくさんあると思っているし、すごく興味がある。アイデアを試す場所というか。僕がいちばん気に入っているのは、それをポップ・ミュージックの文脈のなかでやれるということ。多くの人はパフォーマンス・アートの経験がないかもしれないし、あったとしても受け付けないっていう感じだと思うからさ。

10月のジャズ - ele-king

 つねに新しいものが求められがちな音楽シーンにあって、ジャズの場合はそれだけでなく、過去の音源の発掘や歴史に埋もれた作品の再評価といった作業も大きな意味合いを持つ。そして、歴史や伝統のある音楽シーンであるからこそ、昔から現在に至るまで長く活動するミュージシャンも多い。今月はそうしたレジェンドのリリースが見られた。


Hugh Masekela
Siparia To Soweto

Monk Music / Gallo Record Company

 南アフリカ出身で米国に渡り、世界的に活躍したトランペット奏者のヒュー・マセケラ。シンガーでもあり、作曲家としても数々の名曲を残した彼が没したのは2018年だが、その死後もミュージシャンたちへの影響は続いており、たとえば生前の2010年に録音された故トニー・アレンとの共演作『リジョイス』が2020年にリリースされた。これは彼らふたりの録音に、新たにエズラ・コレクティヴココロコなどの演奏を加えて完成されたもので、見事に新旧ミュージシャンの共演となっていた。そして、この度またヒュー・マセケラの未発表音源が発掘された。

 2005年にトリニダード・トバゴのジャズ・フェスに参加して以来、アフリカとカリブの音楽を繋ぐことに腐心していったマセケラは、2012年から2016年にかけてトリニダード・トバゴを訪問し、現地のミュージシャンたちとのセッションをおこなった。参加したのはソカの伝説的なミュージシャンであるマシェル・モンタノ、スティールパンの世界的第一人者であるアキノラ・セノンが率いる楽団のシパリア・デルトーンズ・オーケストラなど。マセケラは2005年のフェスでシパリア・デルトーンズ・オーケストラに出会ってから、その演奏にずっと魅せられ続けてきており、念願の共演となったようだ。

 トリニダーソ南部の街であるシパリアから南アフリカのヨハネスブルグにあるソウェトへと題されたこのアルバムは、マセケラはじめとした参加ミュージシャンの国境を越えたセッションに留まらず、アフリカ大陸とカリブ海の文化的遺産を巡る旅のような音楽である(トリニダードの住民の多くは、かつて旧英領時代にアフリカから奴隷として連れてこられた人びとを祖先とする)。トリニダードで人びとが集うもっともポピュラーな場所はマンゴーの木下だそうで、そこで政治や経済について議論がおこなわれ、歴史や文化が受け継がれてきたとアキノラ・セノンは述べており、そうした背景が “ザ・ミーティング・プレイス” “マンゴ・ツリー” といった曲へと繋がった。自分たちのルーツは本質的にアフリカ人であるというセノンは、トリニダード・トバゴの文化的遺産とアフリカ系カリブ人のディアスポラの復興のため、その象徴的な楽器としてスティールパンを用いているそうだ。そして、その音色はとてもピースフルで、“ボンゴ・デイ” や “ロール・イット・ガル” などさまざまなタイプの音楽とも調和することが可能だ。アフリカからカリブへと跨る文化遺産の多様性、そしてその根底にある平和的な思想を音楽にしたアルバムと言えよう。


Idris Ackamoor & The Pyramids
Afro Futuristic Dreams

Strut

 1970年代より活動するアイドリス・アカムーアと彼の率いるザ・ピラミッズは、2010年代に入るとスピリチュアル・ジャズ再評価の影響を追い風に、『ウィ・ビー・オール・アフリカンズ』(2016年)、『アン・エンジェル・フェル』(2018年)、『シャーマン!』(2020年)とコンスタントにアルバムを発表している。『アン・エンジェル・フェル』『シャーマン!』はヒーリオセントリックスのマルコム・カットが共同プロデューサーとなり、そのミキシングやレコーディング作業を通じてアイドリス・アカムーアの音楽観や世界観を現在のシーンにも繋がるものへと仕上げていたわけだが、この度リリースされた新作『アフロ・フューチャリスティック・ドリームズ』もやはり彼が共同プロデュースをおこなう。結成から50周年を迎えたザ・ピラミッズは、オリジナル・メンバーのマルゴー・シモンズや1970年代の作品にも参加したブラディ・スペラーのような年長のミュージシャンがいる一方、サウス・ロンドンのアフロ・バンドであるワージュやジョーダン・ラカイのバンドに参加するアーネスト・マリシャレスと若いミュージシャンも参加するなど、新旧ミュージシャンが融合した形で、サン・ラー・アーケストラのように過去・現在・未来を繋ぐ存在と言えよう。“サンキュー・ゴッド” あたりはとてもサン・ラー的な楽曲だ。

 『アフロ・フューチャリスティック・ドリームズ』というタイトルが示すように、シャバカ・ハッチングスら南ロンドンのミュージシャンらの活躍で再び注目を集めるようになったアフロ・フューチャリズムを反映したアルバムであり、『アン・エンジェル・フェル』以降に顕著なブラック・ライヴズ・マターからの影響が本作においても “ポリス・デム” “トゥルース・トゥ・パワー” などの楽曲に表れている。また、表題曲などシンセサイザーやエフェクターによって人工的なサウンドとプリミティヴなアフリカ音楽を意図的に融合する場面があり、そこがアカムーアなりのアフロ・フューチャリズムの表現と言えるだろう。


Kofi Flexxx
Flowers In The Dark

Native Rebel Music

 コフィ・フレックスとは覆面的なアーティストだが、実際はシャバカ・ハッチングスの新たなプロジェクトである。これまで2022年にカルロス・ニーニョとコラボした “イン・ザ・モーメント・パート3” というフリーフォームなアンビエント音源をデジタル・リリースしたのみで、今回の『フラワー・イン・ザ・ダーク』が実質的な初リリース・初アルバムとなる。シャバカ以外の参加ミュージシャンは明らかではないが、楽曲ごとにラッパーやシンガーがフィーチャーされていて、ビリー・ウッズ、アンソニー・ジョセフ、コンフューシャスMC、エルシッド、ガナブヤ、シヤボンガ・ムセンブなどが参加する。トリニダード・トバゴ出身の詩人であるアンソニー・ジョセフのポエトリー・リーディングをフィーチャーした “バイ・ナウ(アキューズド・オブ・マジック)” は、同じカリブをルーツに持つシャバカ・ハッチングスにとって、彼らのルーツや歴史・文化を表明したアフロ・ジャズ。ヒュー・マセケラやアイドリス・アカムーアら先人の音楽とも繋がる作品である。

 “イット・ワズ・オール・ア・ドリーム” や “フラワーズ・イン・ザ・ダーク” など、比較的リズムを中心とした作品が多く、リズム・セクションもパーカッション中心にミニマルでトライバルな展開をしていく。シャバカのサックスやクラリネット、フルートも土着的な音色を奏で、“インクリーズ・アウェアネス” や “ショウ・ミー” のように薄くアンビエントな演奏が目につく。特に “インクリーズ・アウェアネス” ではインド音楽のようなコーラスが幻想的に流れ、サンズ・オブ・ケメットザ・コメット・イズ・カミングなどともまた異なる、シャバカのまた新たな側面を見せるプロジェクトだ。


Daniel Villarreal
Lados B

International Anthem Recording Co. / rings

 ダニエル・ヴィジャレアルは南米パナマ出身で、シカゴに移住して活動するドラマー/パーカッション奏者。ラテン・バンドのドス・サントスのメンバーでDJとしても活動する彼は、ジェフ・パーカーなどとも交流が深く、その力を借りてファースト・アルバムの『パナマ77』を2022年にリリース。アメリカの黒人ドラマーなどとはまた異なる、ラテン民族ならではの独特のリズム・センスを感じさせるアルバムだった。

 この度リリースした新作『ラドスB』は、鍵盤楽器や管楽器なども入っていた『パナマ77』と異なり、ダニエル・ヴィジャレアルのドラム&パーカッション、ジェフ・パーカーのギター、アンナ・バタースのベースというミニマムなトリオ録音(“サリュート” という曲のみローズ・ピアノが入る)。録音自体は2020年10月のロサンゼルスにて2日間でおこなわれており、3人の即興的なセッションを比較的ラフな形でレコーディングしている。ラテン音楽特有のハンド・ベルではじまる “トラヴェリング・ウィズ” は、ファンキーなフレーズを奏でるギターやベースを交え、1970年代のエル・チカーノやマロといったラテン・ロックを彷彿とさせる作品。このあたりはDJもやるヴィジャレアルのレア・グルーヴ的なセンスが表れているようだ。速いビートを刻む “リパブリック” は、ラテン民族ならではのヴィジャレアルのドラミングが光る楽曲。一方、レイドバックしたグルーヴの “サリュート” にはフォーキーで枯れた雰囲気もあり、ラテン音楽とアメリカのブルースがうまくマッチした楽曲となっている。

Oracle Sisters - ele-king

 何か見たり聞いたりしていて「最高」という言葉がよく出てきてしまうのだけど、その「最高」はいつのそれと比べてどうかというのではなくて、その瞬間他の存在は一切忘れて頭の中にそれしか浮かばなくなるということなのではないかとぼんやりと考えたりする。この幸せはこの前の幸せと比べてどれくらいの幸福なんだろうなんて考えずにただ湧き上がってくるこの感覚を楽しむ。幸せの種類も、好きな音楽の種類もいろいろあって年齢を重ねるごとにヴァリエーションが増えたり減ったりするのだろうけれど、いまこの瞬間に感じる幸福はたとえ明日には消えてしまうのだとしてもきっと唯一無二のものなのだ。

 そんなことをパリを拠点に活動する3人組のバンド、オラクル・シスターズを聞きながら頭に浮かべる。ギリシアのイドラ島(アルバムのタイトル『Hydranism』にもその形を残している)で録音されたというこのアルバムは柔らかく暖かい光に溢れリゾート感を漂わせそして少しの寂しさを滲ませている。明るすぎてもダメだし明るいだけでもダメで、大事なのはきっとそのバランスなのだろう。1曲目の “Tramp Like You” を聞けばそれもきっとすぐにわかるはずだ。あっという間にノスタルジックな空気に包み込むピアノの音と静かに寄り添うアコースティック・ギター、耳に飛び込んでくるファルセット・ヴォイスは抜群の抜け感で、思い出に包まれた幸福なまどろみが訪れる。そうして曲が終わる頃には頭の中のしがらみや他の全ては抜け落ちて、ただひたすらにこの喜びに満ちた音が生み出す心地の良さの中にどっぷりと浸かり込んでしまうのだ。

 バンドのインタヴューによるとこのアルバムは古いカーペット工場を改装したスタジオでレコーディングされたものだと言う。機材をロバで運び、古い井戸の中でヴォーカルを録音し、かって絨毯を織っていた部屋、その必要がなくなった後にそこで暮らす人びとがダンスを躍るボールルームとして利用されていたというその部屋でピアノやアコースティック・ギターを録音する。レコーディングしていた時期に嵐が島にやってきて島の封鎖が発表された。船は出ず誰もそこから出られなくなった。そんな中でオラクル・シスターズは風でカタガタと震えるスタジオに籠もってアルバムを制作した。
 だからということもないのかもしれないけれど、しかしこのアルバムからはどこか浮世離れしたような少し不思議な雰囲気が漂ってくる。それは外の嵐から逃れた、陽光にあふれた島の日常の風景を思い描いたものだったのかもしれないし、あるいは現実の暗いトーンが空想上の幸せな世界に影を与えているのかもしれない。とにかくこの音楽は逃避的な喜びの音楽であるのと同時にどこか憂いを帯びていて、それがこの心地の良さにより一層の深みを与えている。きっと悲しさも喜びもどちらもあるから幸せを見つけられるのだ。

 あぁそれにしてもこのアルバムの音楽はなんと幸福な瞬間に溢れていることか。響き渡るサックスの音と体を静かに突き動かすようなドラム、叫びだしたくなる気持ちが我慢できなくなってしまったみたいに漏れ出る掛け声、“Hot Summer” はノスタルジックにいまを映し出し、“RBH” のギターのリフはまるで冷えたサイダーの泡みたいに心を騒がし、そうして余韻を残して消えていく。それはまごうことのない快感で、このシンプルな音の気持ち良さが何度も幸福感を連れてくる。
 そしてアルバムの後半はもっと60年代を感じさせる曲が増える。黄金時代のマエストロたちの小品のように気取らずにさりげなく装飾が施されたアレンジ・ワーク 、ユリア・ヨハンソンがヴォーカルを取る “Ruby on the Run” ではこれ以上がないくらいのタイミングでストリングスが入ってきて、その瞬間にたまらない快感に包み込まれるのだ。

 このアルバムはそうであるのが当たり前かのように自然体でノスタルジックな幸福感を作り出している。それはポラロイドや使い捨てのカメラを使って撮った写真のようにいまのこの瞬間に違ったタッチを加えていく。たとえばオールウェイズのエヴァーグリーンの青春感、あるいはビーチ・フォッシルズの消えない輝き、そしてオラクル・シスターズはそれらよりもくすんだオフビートな喜びを運んでくるのだ。輝きがこぼれ落ち、地面に吸い込まれたそれが再び芽吹く姿を眺めるような、ここにあるのはそんな音楽だ。
 もちろんその瞬間にならないとわからないことではあるけれど、この音楽はたとえ10年前に聞いていたとしても、あるいは10年後に聞いたとしてもきっと最高だって思えるようなそんなタイムレスな幸福感に満ちている。現実を描いた空想の音楽は古ぼけてはいても決して古くはならないのだ。

これ一冊で予習は万全!
MCU新作『マーベルズ』に備えるマーベル映画とマーベル・コミックの世界!

いまや世界最大の映画フランチャイズとなって久しいMCU(マーベル・シネマティック・ユニヴァース)。その最新作はマーベル史上最強のヒーロー、キャプテン・マーベルと新世代の仲間たちによる「マーベルズ」が登場! この公開に先駆け、ele-king cine seriesではMCUの15年を改めて振り返ります。

2008年の『アイアンマン』から25年。フェーズ1から現在のフェーズ5まで、30作以上にのぼる映画が制作され、近年ではドラマでの展開も開始。

いよいよ全貌を把握するのも難しくなってきた今こそあらためてMCUの25年を総まとめ、新作に備えてこれ一冊で予習も万全!

目次
イントロダクション
原作に見る『マーベルズ』登場人物たち 中沢俊介
対談 MCUを振り返る――奇跡の15年 光岡三ツ子 森直人

Filmography
■Phase1 前代未聞のプロジェクト胎動期 長谷川町蔵
■Phase2 騒ぎの前の静けさ 真魚八重子
■Phase3 時代と並走した爆発力 森直人
■Phase4
ワンダビジョン 光岡三ツ子
キャプテンの盾の行方――『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』 侍功夫
マルチバースでも魅せる愛されヴィラン――『ロキ』 真魚八重子
破竹の勢いの追憶――『ブラック・ウィドウ』 中沢俊介
ファン心をくすぐる「もしも」のショートストーリー――『ホワット・イフ…?』 侍功夫
香港映画へのオマージュに溢れたアクション見本市――『シャン・チー/テン・リングスの伝説』 高橋ターヤン
来たるべき「映画的世界(シネマティック・ユニバース)」――『エターナルズ』 佐々木敦
新旧ホークアイの逃走劇――『ホークアイ』 侍功夫
大人になったピーター・パーカー――『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』 長谷川町蔵
多重人格ヒーローの異色作――『ムーンナイト』 侍功夫
モックアップ・マッシュアップ・オール・アット・ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ――『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』 ヒロシニコフ
『ミズ・マーベル』 光岡三ツ子
父権の外で立ち上がるコメディ――『ソー:ラブ&サンダー』 木津毅
愛らしい小品――『アイ・アム・グルート』 侍功夫
メタなコメディ――『シー・ハルク:ザ・アトーニー』 侍功夫
よみがえる古典ホラーの世界――『ウェアウルフ・バイ・ナイト』 侍功夫
アフリカと中南米の激突『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』 長谷川町蔵
心温まるクリスマス・ストーリー――『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー ホリデー・スペシャル』 侍功夫
■Phase5
バカが量子にやって来る――『アントマン&ワスプ:クアントマニア』 ヒロシニコフ
爽快な大団円――『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』 てらさわホーク
ニック・フューリーとその苦境――『シークレット・インベイジョン』 てらさわホーク

対談
マーベル映画と「正義」――マルチバース・サーガが表す「弱さ」と「継承」 杉田俊介 藤田直哉
Column
MCU以前のアメコミ映画 中沢俊介
MCU映画のサントラ 長谷川町蔵
世界ヒーロー紀行 ヒロシニコフ
対談
マーベルとDC――混迷するアメコミ映画の現在地 柳下毅一郎 てらさわホーク

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* 発売日以降にリンク先を追加予定。

Róisín Murphy - ele-king

 数ヶ月前、ライヴ会場でたまたまGEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーと会って、久しぶりに話すことができた。ぼくは彼の服装/ファッション・センスが好きで、いつも興味深く思っている。まずはそのことを彼に伝えたと思うけれど、これにはそれなりにちゃんとした理屈がある。
 この社会において「格好いい」とされるもの、「美しい」とされるものには、ふたつある。権力(ないしは企業)の側が提供するそれか、そうしたエスタブリッシュメントの外側で生まれたそれかのふたつだ。ビートルズも、ヒッピーも、グラムも、パンクも、あるいはジャズもラテンもファンクも、それらの音楽に付随したファッションは外側で生まれている。そしてそれら外側で生まれたセンスを「格好いい」「美しい」と認めたのは、権力(ないしは企業)の側ではなく、同じようにエスタブリッシュメントの外側にいる人たち(すなわち庶民)である。ヒップホップも最初はそうだったが、いまやスターたちはエスタブリッシュメントの側が提供するものを好んでいるように見えるときがある。インディと呼ばれる文化のライヴに行っても、同じような傾向を感じる。それに対して、マヒトゥは外側の価値のなかで動き、かなり目立っている。スーザン・ソンタグが『反解釈』で説いている批評的なスタイル論がそこには生きているのだ。ロイシン・マーフィーの目立つためのハイファッション志向も、目指すべきはおそらく外側なのだろう。その証拠になるのかどうかわからないが、いわゆる“インディ・ダンス”ないしは“クラブ・ポップ”などと括られるスタイルのなかで、彼女の新作のクオリティは抜きんでている。

 だいたいマーフィーは、日本ではずっと長いあいだあまりよく知られていない存在だった。彼女が最初にモロコで登場した1990年代のなかばといえば、“インディ・ダンス”ないしは“クラブ・ポップ”なる道を切り拓いたビョークがその完成形『ポスト』を出した頃で、すでにマッシヴ・アタックの『プロテクション』もあったし、アンダーグラウンドではセイバース・オブ・パラダイスにナトメアズ・オン・ワックス、オーストリアからはクルーダー&ドーフマイスターも登場し……等々、日本で輸入盤を漁っているリスナーからしたらモロコに付き合っているどころの状況ではなかったのだ。
 日本でマーフィーが最初に注目されたのは、マシュー・ハーバートが全面協力した彼女のソロ・アルバム『Ruby Blue』(2005)だった。これは、ハーバートがもっとも人気のあった時期における、彼のヒット作のひとつ、スウィング・ジャズをIDMに融和させた『Goodbye Swingtime』(2003)から2年後の作品で、しかも彼のジャズ・バンドのメンバーがごっそりマーフィーにとって初めてのソロ・アルバムをバックアップしたことが、日本での彼女への注目を促したのだった。じっさい、『Ruby Blue』はいま聴いても古びない名盤であるのだが、では、マーフィーなる人物がどんな女性なのかというところまではよくわかっていなかった。ただ、先日の河村祐介のインタヴュー記事を読んでも明らかなように、彼女がダンス・ミュージックの目利きであることたしかで、今回のアルバムのパートナーがDJコッツェなのも間違っていない選択だ。
 『Ruby Blue』と同じ年にリリースされたDJコッツェのアルバム『Kosi Comes Around』は忘れがたい1枚で、テクノ・ファンであるならその年の年間ベスト級の作品だった。エレクトロニカ/IDMとフロア向けのテクノとに枝分かれしたテクノ・リスナーの耳をもういちど共有させたという点において、同作は重要作だったのだが(つまり、楽しく踊れて、実験的でもあった)、彼の卓越したセンスは、今回のマーフィーの『Hit Parade』でも惜しみなく注がれている。

 何度でも言うが、“インディ・ダンス”ないしは“クラブ・ポップ”なるものはイギリスのお家芸である。古くはニュー・オーダー。ひとつの型を作ったのは初期のビョーク。その轍に、ホット・チップとか、最近ではジェシー・ランザケレラ、そしてロミーもいる。明るいとは言いがたいイギリス人気質のなかからダンス・ミュージックをベースとしたポップ・ミュージックがどうしてこうもう伝統的に生産されるのか、興味深くもある。というのも、UKのダンス・カルチャー自体が外側で生まれている文化であるからだ(ノーザン・ソウルしかり、レイヴ・カルチャーしかり)。

 マーフィーは本作のリリース直前に自身のフェイスブックで、Puberty blockersはクソで、製薬会社は笑いが止まらないだろう、まだ精神的に不安定な子どもたちは保護すべき、と書いた。Puberty blockersは、思春期における性ホルモンの分泌を抑えて、二次性徴の進行を抑える薬で、トランスを自覚している人の多くの若者が悩んだすえに自分の生物学的な性を抑えるために服用しているそうだ。私のことをトランス排外主義者と呼ばないで、とも書いてはいるものの、彼女のこの投稿は、瞬く間にLGBTQ+界隈に広まって、スキャンダルとなり、大いに批判されている。日本でいえば、yahooニュースのトップという感じだろうか(のちにマーフィーは謝罪をしている)。しかし、こうした失態があったにも関わらず、彼女のこのアルバムはキャンセルされることもなく、英語圏内のほとんどのメディアで、発言はまずかったがこの作品は良いと、好意的に取り上げられている。今年で50歳になったマーフィーは、愛されているのだ。

 テクノ・ファンであるなら、DJコッツェが全面プロデュースしていることから、だいたいどんなサウンドか想像できるだろう。コッツェの特徴は遊び心ある実験性とユーモアで、『Hit Parade』のアートワークもその趣向と相互関係にある。で、たしかにこれは面白い、河村が書いているように多彩なスタイルが楽しめる“インディ・ダンス”ないしは“クラブ・ポップ”なるアルバムなのだ。そう、とくに“CooCool(最高に格好いい)”はサウンドも歌詞も素晴らしい曲である。

  魔法が帰ってきた
  温かい感じが溢れ出す
  愛の新時代、白熱の喜び
  理由も充分、理性を無視してやっちゃえ
  愚かな季節になって
  それは最高に格好いい
  
  私たちは暴動をやった
  自分のなかの子供を抱きしめて
  ワイルドでいこう
  それは最高に格好いい

  どんなパロディも人生の原動力だった
  ライフワークの背後でファンク化する
  自分のなかの子供を受け入れよう
  ワイルドになれ

  遊び心さえあれば
  私は、言いなり以上のことをやる
  それは最高に格好いい
“CooCool”

ROY AYERS UBIQUITY - ele-king

ファンカデリック - ele-king

DONNY HATHAWAY - ele-king

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