「ZE」と一致するもの

当世ハウス事情 - ele-king

 ハウスといえば12インチだけれど、この激動のネット時代、やはりSNSの影響は大きく、いろいろと状況が変化してきているようだ。世代交代が進む一方で、ヴェテランの復活も目立つようになってきている。UKジャズとの接点、世代を超えたコラボ、90年代リヴァイヴァル、ヴォーカルものの復権、ひそかにうねりを生み出すフランス……などなど、紙エレ年末号でジャンル別コラムの「ハウス」を担当してくれたDJ/プロデューサーの Midori Aoyama、現在 TSUBAKI FM の2周年記念ツアー真っ最中の彼に、近年のシーンの動向について語ってもらった。

イメージを気にせず、世代も関係なくヴェテランと若いひとがやったり、ハウスとかヒップホップとかジャズがクロスオーヴァーしていくのが可視化されてきた感じはある。

まずは謝っておかないといけないことがあります。Midori さんには紙エレ最新号で、2019年のハウスを総括する記事を執筆していただいているんですが(120頁)、冒頭の「ラブル・アンダーソンのトリビュート楽曲」という箇所は、正しくは「2019年はポール・トラブル・アンダーソンのトリビュート楽曲」でした。編集部のミスです。申し訳ありません。

Midori Aoyama(以下、MA):いえいえ。

それで、その原稿はここ数年のゴスペル・ハウス・リヴァイヴァルの話からはじまっています。まずはその流れについてお聞きしたいですね。

MA:5年くらいまえから生音に回帰する流れがあって、所謂テクノからまたハウスへという流れを感じてて。2007年ころは、マイアミでウィンター・ミュージック・カンファレンスがあったりしてハウスが盛り上がっていたけど、2010年から2015年ころはベルリンが世界の中心というか、ベルグハインとかがすごくメインストリームになっていたし、テクノが流行っていた。でもそれからみんながテクノに飽きてきて、またハウスを聴くようになってきている。それが5年まえくらい。たとえばベルグハインのとなりのパノラマバーでサダー・バハーのようなシカゴのDJがやったり、NYのソウルフルなハウスとかアメリカのヴォーカル・ハウスみたいなものがリヴァイヴァルするということがあった。
 そのハウスの流れにゴスペルが入ってきた。たとえば最近カニエ・ウェストがゴスペルのアルバムを出したけど、もともと曲が出るまえにゴスペルをやる「サンデー・サーヴィス」というイヴェントを日曜日にキム・カーダシアンと一緒にやっていたんだよね。そういうのもあって、若い人がゴスペルを聴く流れができているのかなという気がします。

ポール・トラブル・アンダーソンはどういうポジションのひとなんでしょう? Kiss FM の初期メンバーですよね。

MA:ずっとロンドンの Kiss FM でやっていて、そのあとも Mi-Soul という老舗のラジオでずっとパーソナリティをやっていた。フェスとかのソウル・ブースでもロンドンのローカルなDJを紹介したり。だから、2018年に亡くなったときはUKでは大きなニュースになった。彼は、“Oh Happy Day” というエドウィン・ホーキンスの曲のカヴァーを BPM128 くらいのハウスでプロデュースしていて、〈BBE〉がそのトリビュート楽曲を2019年の1月にリリースした。SNSでもみんなポールのことを書いていたし、個人的にはそれが思い出になっている。ポールに限らず、そのころからまたソウルフルなハウスとか生音が来ている感じはしますね。

リエディットやリイシューはいっぱいあったけれど、いわゆるマスターピースが出なかった年だったとも書いてありましたね。

MA:2019年で印象に残ったのは、UKジャズの切り口でいうと、ジョー・アーモン・ジョーンズだったり、もともとソロでディープ・ハウスをつくっていたニュー・グラフィック・アンサンブルだったり。あとはメルボルンのハーヴィー・サザーランドヌビア・ガルシアをフィーチャーしたり、そういう流れが強かった。ハウスのプロデューサーはあまり出てこなかったかなという印象。
 ちょっと話がそれるけど、いまってデジタルでも年々曲が売れなくなってきてて……。特にハウスとかのダンス・ミュージックが。例えば Spotify で聴くときも、みんなだいたいスロウなミュージックだったりするし、聴くシチュエーションも朝起きたときとか寝るまえとか、あるいは通勤・通学のときとか。だからクラブ・ミュージックを聴きたくなるのは、もともとかなりテクノやハウスが好きだったとか、ドライヴのときに気分を上げるためとか、シチュエーションが限定されてくる。だからつくり手も、クラブ・ミュージックをつくる機会がどんどん少なくなってきていると思う。むかしは曲の長さが10分とかざらにあったけど、いまのEDMのようなメジャーなダンス・ミュージックの曲って2~3分のものが多いし。

いわゆるレディオ・エディットですよね。フルレングスは12インチに入っているという。

MA:でもそれでもう満足しちゃうというか。レコードも以前は数千枚とか売れていたけど、いまは数百枚だし。そうなると、むかしは曲をつくるときはスタジオを借りてミュージシャンを集めてレコーディングしてミキシングして、っていうのが普通だったけど、そういうことができなくなったから、自宅で篭ってつくって、もともとある素材をサンプリングしたりして、うまく生音っぽく整えてリリースする。アーティストが時間やお金をかけて曲をつくることが難しくなったのが、そういうふうになった原因なのかな。

そんな状況のなか、唯一マスターピースと呼べそうなのが、ベン・ウェストビーチとコンによるザ・ヴィジョンだと。

MA:“Heaven” という曲です。オリジナルは〈Defected〉から出ていて、それをダニー・クリヴィットがオフィシャルでエディットして、それがバズった。 “Reachin', Searchin'” というロバート・ワトソンの1978年の有名なネタをサンプリングしているんですが、ジャイルス・ピーターソンもそれを知っていて、そういうネタがどうこうっていう話題や、あとジョー(・クラウゼル)がこの曲を Boiler Room でプレイした動画もあって、SNSが人気の追い風になった。

アンドレア・トリアナを起用したことがいちばん評価に値するとも書いていますね。それは、どういう意味で?

MA:単純に、ゴスペル・ハウスって現役のシンガーの平均年齢が高いと思う。ケニー・ボビアンとかジョシュ・ミランとか、若くても50代。ソウルフルなブラックのハウスって、若くて強烈なシンガーがいまの時代に出にくい印象。有名なシンガーはどうしてもヒップホップやポップスに走っちゃうし。そんななか、彼女のようなシンガーにソウルフルなハウス・トラックでクラシカルなスタイルで歌わせるという、ベンとコンの起用法がすばらしい。でもサンプルはむかしのもので、フレッシュな部分とむかしながらの部分がうまく融合されている。

アンドレア・トリアナというと、ぼくなんかはフライング・ロータスの印象が強いんですよね。あと〈Ninja Tune〉周辺でよくフィーチャーされているシンガーだなというイメージで。そういうひとがいまハウスの文脈につながっている。原稿ではアレックス・アティアスの盤も挙がっていますが、そこに客演しているジョージア・アン・マルドロウも、いまおなじように多彩な動きをみせているシンガーなのかなと思いました。16FLIP とやったり

MA:ジョー・アーモン・ジョーンズの “Yellow Dandelion” もそう。ジャンルをまたいでコラボレイトすることは、声を売っているひとたちからすると、自分のイメージを気にするひとも少なくないと思うんだよね。でもそういうのを気にせず、世代も関係なくヴェテランと若いひとがやったり、ハウスとかヒップホップとかジャズがクロスオーヴァーしていくのが可視化されてきた感じはある。自然とそういう流れができているんじゃないかな。数年前に比べてヴォーカル・ハウスのリリースが増えたと思う。

それはなぜ?

MA:世の中的なこともあると思う。世界情勢とか。暗いムード、バッドなムードのときは明るい音楽とかが求められるのかなと。ポジティヴなメッセージとか、ポジティヴなヴァイブスを届けようってひとが増えてきてる気がするし。そういうメッセージを受け取りたいリスナーも増えてきている。あとやっぱり、一周して90’sリヴァイヴァルが来ているのが大きい。今回の号(ダブ特集)もそうですよね。それ自体はずっとまえからあったけど、たとえば Mars89 さんたちの音楽を20代や10代が聴いて、「おもしろい、ダブってなんだろう」ってなっているんだと思う。ハウスも90’sとか、00年代前半ころにおもしろかったサウンドやカタログが、また再評価されているんじゃないかなと思うんだよね。

テクノもそうですしね。

MA:ただ、単純にリヴァイヴァルすればいいということではなくて、アップデイトしていく作業がすごく大事だと思う。たとえば、いまルイ・ヴェガがエレメンツ・オブ・ライフ(ELO)を復活させているんだけど、自分のファミリーだったジョシュ・ミランとかアナーネとかルイシート・キンテーロみたいなひとを引き続きフィーチャーしつつ、他方でちゃんと新しいシンガーとかキーボーディストを招いているのはおもしろい。いまは、そういう動きをしているプロデューサーとかDJが評価されていると思う。原稿では「流れに乗り遅れた者が居場所を失っていく」って書いたけど、補足するとそういうこと。しかもルイは今度、ヘンリー・ウーと一緒に曲をつくるのね。年内に〈BBE〉から出すらしい。そういう流れもすごくいいと思う。

へえ! NYのラテン・カルチャーといまのサウス・ロンドンがつながるって画期的ですよ。

MA:ルイはUKのレーベルからのリリースもあるし、もともとイギリスのフュージョンの影響も少なからず受けていたはず。もちろんNYの影響も間違いなくあるけど、ソウルとかサルサに加えてヨーロッパのインフルエンスも間違いなく受けていたと思う。

しかも世代を超えて。

MA:ハウスの分野では世代交代が進んでいて、世界のトップ・クラブとかトップ・フェスとか主要なレーベルでやっているひとたちって、いま30代が中心。僕をフランスのフェスにブッキングしてくれるクルーもそれくらいだし、ダニー・クリヴィットの後輩で「LOVE INJECTION」っていうフリーペイパーを出しているメンバーも世代が近い。ジョー・アーモン・ジョーンズもまだ20代後半。他方で、いまルイだったり、アレックス・アティアスのようなヴェテランがカムバックしてきて、若いひとたちと組んでやっているのはおもしろいよね。松浦(俊夫)さんもそうだし。僕ら世代の良いところは、ヴェテランと若者世代のどちらも繋がっているところ。それこそ可能性で言えば50代の人と10代の人を繋げたプロジェクトだってできる。それができるのは僕らしかいないから。それがいまいちばん求められていることなんじゃないかなと感じている。

僕ら世代の良いところは、ヴェテランと若者世代のどちらも繋がっているところ。それこそ可能性で言えば50代の人と10代の人を繋げたプロジェクトだってできる。それができるのは僕らしかいない。

なるほど。ちなみに原稿では「ジャジー」と「テッキー」という分け方をしていましたよね。ここまでの話がおおよそ「ジャジー」側の話だとすると、「テッキー」側はどういう感じなんでしょう?

MA:「テッキー」をいちばん体現しているのはブラック・コーヒーやペギー・グーかな。彼らはフェスをメインの戦場にしていて、フェス以外のとき、ふだんはどこでやっているのかというと、イビサでやっている。イビサのトレンドって、すこしまえはリカルド・ヴィラロボスとかリッチー・ホウティンとかだったけど、いまはブラック・コーヒーがレジデントだったり。それこそルイ・ヴィトンのディレクターを務めてるヴァージル・アブローと一緒にプレイもしている。そういうハイ・ファッションな流れ。オシャレに感度の高い若いデザイナーが、そういう音楽をやろうよという空気になってきているよね。こないだホアン・アトキンスのサイボトロンがルイ・ヴィトンのランウェイでパフォーマンスしたり。やっぱりヴァージル・アブローの存在が大きいんだと思う。そういう状況を10代のキッズとか、20代のファッショニスタとかデザイナーとかモデルとかが見て、かっこいいと思ったり。そういう流れができているのを実際に肌で感じる。そしてその流れに追随しようとしているハウスのDJやプロデューサーがいて、それがイビサという島を起点に、ドイツやオランダやアメリカに広がっているなと。

あと原稿を読んで、いまフランスがキイになっているのかなとも思いました。

MA:フランスってもともと植民地を持っていた背景があるから、アフリカからの移民もすごく多くて、アフリカ大陸のサウンド、ブラック・ミュージックが好きな人も多い。ニュー・グラフィック・アンサンブルもフランス人で、原稿に書いたリロイ・バージェスの “Work It Out” で一緒にやっていたセイヴィング・ココもフランス人。リリース元の〈Favourite〉もフランスのレーベルだし。以前リロイはハーヴィー・サザーランドと一緒に歌って、そのときはメルボルンのバンドだったんだけど、今回の新曲はリロイ以外全員フランス出身。あと、フローティング・ポインツの〈Melodies International〉って知ってますか?

激レアなソウルとかをリイシューしまくっている。

MA:うんうん。あれもフローティング・ポインツと一緒にやっているのはフランス人だしね。あと彼らは日本の音楽もディグっていて、和モノのリイシューとかもけっこうフランス人がやっていたり。オタク気質というか、掘りはじめるとすごいんだよ。

テクノ~エクスペリメンタル方面でも、いまフランスの〈Latency〉っていうレーベルがおもしろいんですよ。あと年末号でインタヴューしたダンスホールのロウ・ジャックもフランス人だった。

MA:テクノの Concrete っていうクラブができはじめたくらいから流れが変わってきたのかな。10年くらいまえまではみんな幹線道路の外で、郊外でパーティをやっていた。でもいまは幹線道路の中でもできるようになってきていて。若い人が集まって曲をつくったり、パーティをしたり、クラブを作ったり、フェスをしたり、どんどんそういうおもしろいプロジェクトをやりはじめている。それがひとつの大きなうねりになってきている。
 あと、彼らには地元のスターをみんなで応援しようという意識が強い。10年くらいまえに一度だけイビザに遊びに行ったことがあるんだけど、客がフランス人ばっかりで(笑)。日本でも、たとえばガルニエが来日するとフランス人がいっぱい来る。僕がフランス人のDJをブッキングするときも、応援に来るし。「地元のやつだから応援する」みたいな理屈があるというか。そういう気質が、いまのローカルをサポートする草の根的なあり方と合っているんだと思う。だから僕のまわりはいまフランス人に囲まれているかもね(笑)。

Ratgrave - ele-king

 UKジャズ・シーンにおける重要人物、年末にはルイ・ヴェガとのコラボも控えるヘンリー・ウーことカマール・ウィリアムス主宰の〈Black Focus〉から、新たにアツいタレントの登場だ。彼らの名はラットグレイヴ。〈Ninja Tune〉からもリリースのあるマックス・グレーフと、ベーシストのユリウス・コンラッドから成る2人組である。先行公開された2曲を聴くかぎり、いろんな要素の折衷されたファンクネスあふれる作品に仕上がっている模様。
 ちなみに〈Black Focus〉は2018年にマンスール・ブラウンのアルバムをリリース、つい最近ではヴェテラン、スティーヴ・スペイセックの新作も送り出している。

Ratgrave
モダン・エレクトロニック・フュージョン!
カマール・ウィリアムスことヘンリー・ウー率いる〈Black Focus〉より、マックス・グレーフとベーシストのユリウス・コンラッドによるデュオ、
ラットグレイヴの最新作『Rock』が3月20日(金)リリース決定!
収録曲 “Instant Toothpaste” “Theme From Metronome” を公開!

グレン・アストロとのコラボレーションで名門〈Ninja Tune〉からアルバム・リリースをしているマックス・グレーフとベーシストのユリウス・コンラッドによるデュオ、ラットグレイヴの最新作『Rock』が、サウス・ロンドンのジャズとハウスが疾走する猥雑な交差点にしてすでに高いプロップスを獲得している、カマール・ウィリアムスことヘンリー・ウー率いるロンドンの重要レーベル〈Black Focus〉より3月20日(金)リリース決定! 収録曲 “Instant Toothpaste” “Theme From Metronome” を公開!

Ratgrave - Instant Toothpaste (Official Audio)
https://youtu.be/gUtwFgfwcXI

Ratgrave - Theme From Metronome (Official Audio)
https://youtu.be/01X2uSKhAts

フローティング・ポインツが見出した鬼才、ファンキンイーブン率いる〈Apron Records〉からリリースし、高評価を得たデビューアルバム『Ratgrave』に続く今作は、2人のマルチプレイヤーが80年代のファンク、ソウル、ロック、そしてエレクトロニック・ミュージックからの影響を現代の感覚をもって昇華したサウンドとなっている。時にまだ見ぬマップ・オブ・アフリカの新譜を聴いているような、時にスライ&ロビーとパット・メセニーが人力ハウスを披露したら? など音楽好きにはたまらない甘い妄想へと誘う快作!

『Rock』は異なる音楽のジャンルから感じ取ったエネルギーやヴァイブスの本質を捉えて表現したものだ。好きなものを全て繋げて出来たものっていう感じだね。アルバムをレコーディングしているときは常にその事を意識していたよ。生々しくて荒々しいジャズ・ロックのエネルギーも入っているし、たくさんのビデオゲームの要素も入ってる、ギターポップやサイケデリックな音楽の影響もある。レコーディングの時は Blue Cheer、Black Sabbath、Frank Zappa、Jimi Hendrix といったヘビーな音楽も聴いていた。そして、作曲をしている時に静かな曲の中でもそういったヘビーな音楽の影響がいかに大きかということに気付かされた。だから、P-Funk やスピリチュアル・ジャズ、そして色んなポップ・ミュージックなどが入ったアルバムだけど『Rock』というタイトルが相応しいと思ったんだ。 ──Ratgrave

待望の最新作『Rock』は3月20日に国内流通仕様盤、輸入盤CD/LP、デジタルでリリース! 国内流通仕様盤には解説が封入される。

label: Black Focus / Beat Records
artist: Ratgrave
title: Rock
release: 2020.3.20

CD / Digital tracklisting:
01. Escobar
02. Theme From Metronome
03. World Aid
04. Instant Toothpaste
05. Eternal Breeze
06. Yurok
07. 4 Benz
08. Dibidai
09. Rock
10. Bleeding To Death
11. Sturf
12. Alright
13. Mutti Hat Gekocht

Vinyl tracklisting:
Side A
A1. Escobar
A2. Theme From Metronome
A3. World Aid
A4. Instant Toothpaste
A5. Eternal Breeze
A6. Yurok
A7. 4 Benz
Side B
B1. Dibidai
B2. Rock
B3. Bleeding To Death
B4. Sturf
B5. Alright
B6. Mutti Hat Gekocht

下北沢Disc Shop Zeroが“さよなら”オープン! - ele-king


 DSZ is Back!
 先日亡くなった飯島直樹さんのレコード店、Disc Shop Zeroが3月~4月のみオープンする。
 お店に行ってレコードを買おう。
 3/1(日)ー 4月末頃まで

 14:00-21:00 土日
 17:00-21:00 月火

 カード決済不可、現金のみ
 通販なし、店頭販売のみ
 https://bs0.stoa.jp/dsz/

Shapednoise - ele-king

 『Aesthesis』はベルリンで活動する電子音楽プロデューサー、シェイプドノイズ(Shapednoise)の3作目のアルバム作品として2019年の11月にリリースされた。リリース元はスコットランドのファンキーな音楽都市、グラスゴーの〈Numbers〉である。レーベルは、ラスティ、デッドボーイ、アントールド&ロスカなどを輩出するビート製造マシンとして認知されていたが、2015年にはソフィ『PRODUCT』をリリースしたことによって、電子ミュータントの方向にも伸長している。レフトフィールド・テクノの最異端児ペダー・マナフェルトの12インチ「Equality Now」(2016)も出しているし、去年はラナーク・アーティファックスの輝かしいEP「Corra Linn」のリリースもあった。
 2019年にはファッション・ブランド、ニルズ(NILøS)のイベントでシェイプドノイズは来日もしている。この機にその作家像にも迫ってみよう。イタリアはシチリア出身のニーノ・ペドーネはシェイプドノイズ名義として2010年からリリースを開始している。プルリエントことドミニク・ファーナウ主宰の〈Hospital Production〉から出た2013年作『The Day of Revenge』や、後述する〈Repitch Recordings〉からのリリース作品で知られ、そのインダストリアル/ノイズ・サウンドは、奇怪であり、粒子的で、フリーフォームに見えつつもある種の形式美に焦点を置いたサウンドが特徴である。概念やフィクションへの参照など、リスナーの思考にもはたらきかけるプロデューサーだ。
 他の名義では、イタリアの友人プロデューサーたちとのテクノ集団、D.A.S.D.A や、ウィリアム・ギブソンのディストピック・ヴィジョンをコンセプトにしたマムダンスとロゴスとのアンビエント・トリオ、ザ・スプロウル(The Sprawl)としても活動している。デムダイク・ステアのマイルズ・ウィテカーとのボコーネ・デューロ(Boccone Duro)は、そのリリースへの期待が高まるプロジェクトだ。
 レーベル運営の手腕にも触れてみたい。ペドーネはふたつのレーベルを D.A.S.D.A のメンバーであるデヴィッド・カルボーネとパスカル・アショーネと手がけている。ひとつはベルリンのエレクトロニック・アンダーグランドに焦点を置く〈Repitch Recording〉で、ここからは彼らの作品もよくリリースしている。インダストリアルがあり、ハードなテクノがあり、ベルリンの街のイメージ・マップの一端を担っている。
 そしてもうひとつが〈Cosmo Rhythmatic〉であり、彼らの説明によれば、こちらは「抽象的で、ノイジーで、有機的」なサウンドに主眼を置いているという。そのカタログにはミカ・ヴァニーオ(RIP)とフランク・ヴィグローの『Peau Froide, Léger Soleil』(2015)とEP「Ignis」(2018)があり、2019年にはザ・バグが率いるキング・マイダス・サウンド『Solitude』とシャックルトンのチューンズ・オブ・ニゲイション『Reach the Endless Sea』を出している。作品クオリティとカタログの豊かさにおいて、現行のエクペリメンタル系の中では抜きん出ているといっていいだろう。
 そのような裏方としての活動を経て、四年ぶりのアルバムとして発表された『Aesthesis』においても、彼の人選はユニークだ。前作『Different Selves』(Type、2015)から引き続き登場した、サウンド錬金術士JKフレッシュや(彼はゴス・トラッドとスプリット・アルバム『Knights Of The Black Table』を日本の〈Daymare Recordings〉から2019年に出している)、〈Hyperdub〉からアルバムを発表したばかりの知性溢れるプロデューサー/アーティスト、ミーサ(MHYSA)、さらにはコイルやサイキックTVの元メンバーであるドリュウ・マクドウォル、そしてサウンド面で同時代性を共有しているラビットが参加。個と多の間を動くその姿は実にダイナミックだ。2020年に入ってからからも、去年〈Hyperdub〉から鮮烈なデビューを飾った、もっとも注目されているルーキーのひとり、ロレーヌ・ジェイムズのEP『New Year's Substitution 2』にも参加している。
 では『Aesthesis』のサウンド面に迫ってみる。まずは冒頭曲 “Intriguing” は、ランダムに生成されているかのようなサウンド・パターン上で、ミーサの歌唱がイーリーに揺れ動き、ディストーション・サウンドがゆっくりと階層化していくトラックだ。ここでミーサは、アメリカで人気の伝統的ブルース楽曲が、ラヴ・ソングであるのと同時に、国の問題点のメタファーも含有されていることの類似として、アメリカが黒人たちに賠償する未来を想像しているという〔註1〕。 サウンドの流動性やテーマから、ムーア・マザーのアフロフューチャリズムを連想させもする。
 JKフレッシュとの2曲目 “Blaze” では、音がカーブを描きながら減音して無音になるアレンジに引き込まれる。轟音が突如、矛盾するかのように「ゆっくり」と「素早く」無音へと減退するとき、聴覚は音波というよりも、その音の減退に刺激を受けているようだ。そこに飛び込む、フレッシュが得意とするヘヴィなキックがシェイプドノイズによってより捻じ曲げられていく。
 3曲目 “Elevation” では、サウンドの遠近法とハイハットの連打が聴覚に錯覚をもたらす。リズムがあるものの、それを感じさせないほどに「無規則的」にパターン化されたトラックには、「Shapednoise」という名前が示すように、いたずらに前衛を希求するのではなく、ノイズの形式化を目指す美学があるといってよいだろう。
 そうしたスタイルが最高潮に達するのは、アルバムに先行して発表された6曲目 “CRx Aureal” で、ひとつのモチーフがエフェクトや周波数を変えながら、終わりが見えないほど延々と変化していく圧巻なサウンド・スケープを放つ。『Xen』でアルカが見せたようなオーディオ・ファイルの残像劇から、ラビットの無重力遊泳ビート、プルリエントの暴力性、ハクサン・クロークのダークなフロウが一挙に目の前を通り過ぎていく。つまり、2010年代におけるエレクトロニック・アンダーグラウンドが生んだ現代感覚も、ここにはしっかり見てとることができる。それは過激で流動的な変化に富み、身体にはたらきかけるものだ。
 このようなサウンドの裏には興味深いコンセプトがある。アルバム・タイトルに用いられた用語「aesthesis」は「刺激に対する直接的な認知」、「感覚的な経験」を意味する。我々にとって、楽音や音階、音質は、何かを想起させる。特定の音を耳にして何を感じるかは、個人の、あるいは集団的な経験によっても異なる。この「aesthesis」が意味するのは、音が何に知覚されたときに、そういった経験則を経由しないダイレクトな音の認知だ。
 例えば、3曲目 “Elevation” が放つ、ハイハット・リズムが他の音が襞のように重なるなかで鳴り響くとき、それはもはやリズム楽器としては鳴っていない。本人はサウンドクラウド・ラップに着想を得ていると語っているように、たしかにこのリズムはトラップなどでおなじみのパターンである〔註2〕。それにもかかわらず、その音を捉える筆者の認知には、まったくそれとは別用に聴こえる。リョージ・イケダのインスタレーションでホワイトノイズを浴びる感覚に近い。馴染み深いはずのアイコニックな音像が、聴衆の経験では補えないような認知の仕方でここでは展開されている。
 音の認識は、経験と密接に結びついたものでもあるので、これを読んでいるあなたの耳と肌の脳の神経に何が起こるのかは僕に知りえない。だが、それと同時に、タイトルが示す、音刺激への調節的な共時的反応が今作には潜んでいるはずである。それは爆音でのみ現れるのかもしれないし、イヤフォンから適度な音量で鼓膜を通化するのかもしれない。情緒や用意された記号を払いのけ、『Aesthesis』は根源的な音の刺激へと我々を誘う。その意味で、近年における電子音のワイルド・サイドを行く一枚として、今作は野心に溢れた一枚だ。

 註1 hypolink (2019), “SHAPEDNOISE BREAKS DOWN AESTHESIS, HIS NEW LP FOR NUMBERS” https://hyponik.com/features/shapednoise-breaks-down-aesthesis-his-new-lp-for-numbers/
 註2 同上

Yves Tumor - ele-king

 前作『Safe In The Hands Of Love』で大きく方向転換し、次の時代を切り拓く新世代アーティストとしての地位をたしかなものにしたイヴ・トゥモアが、通算4枚目となるスタジオ・アルバム『Heaven To A Tortured Mind』を4月3日にリリースする。最近ではキム・ゴードンの新作を手がけていたジャスティン・ライセンが、前作に引き続き共同プロデュースを担当。現在、昨秋の “Applaud” 以来となる新曲 “Gospel For A New Century” がMVとともに公開されている。はたして「新世紀のゴスペル」とはいったいなんなのか? イヴ・トゥモアのつぎなる野望とは? 楽しみに待っていよう。

[3月6日追記]
 待望の新作のリリースがアナウンスされたばかりではあるが、このタイミングでイヴ・トゥモアの主演するショート・フィルム『SILENT MADNESS』がユーチューブにて公開されている。ブランド MOWALOLA の主導によるもので、監督は写真家のジョーダン・ヘミングウェイが担当。とても印象的なヴィデオに仕上がっているのでチェックしておこう。

[3月10日追記]
 先日公開された “Gospel For A New Century” が話題沸騰中、じっさいすばらしい1曲でイヴのパッションがひしひしと伝わってくるけれど、それにつづいて昨日、アルバムより “Kerosene!” が公開されている。聴こう。

YVES TUMOR
2020年代オルタナ・シーンの主役、イヴ・トゥモアが最新アルバム『Heaven To A Tortured Mind』より新曲 “Kerosene!” をリリース!

“Gospel for a New Century” は直球のロック・アンセムに聴こえるかもしれないが、謎めいたタイトルと先鋭的なプロダクションは、より壮大なモノの先駆けになっているのかもしれない ──Pitchfork, Best New Track

先日、最新作『Heaven To A Tortured Mind』のアナウンスをすると同時に “Gospel For A New Century” のミュージック・ビデオを公開し、Pitchfork、Stereogum、NPR、New York Times、HypeBeast、Dazed、FACT といったメディアから、今年最もエキサイティングなリリースとして取り上げられるなど、各方面からの期待が高まるイヴ・トゥモアが新曲 “Kerosene!” をリリース!

Yves Tumor - Kerosene! (Official Audio)
https://youtu.be/N0c7lVHMyaY

“Kerosene!” で表現されている型に収まることのない創造性は、まさに新たなポップ・アンセムの誕生を感じさせる。ファジーなギターリフ、ビヨンセとのコラボでも話題となったダイアナ・ゴードンの美しい歌声、そしてイヴ・トゥモアの唯一無二な歌声は、90年代のオルタナティヴ・ミュージックが持っていた力強さを思い起こさせると同時に、2020年代でしか存在し得ない多様性を含んでいる。

また、現在イヴ・トゥモアはUKでのムラマサのサポートを終え、YVES TUMOR & ITS BAND としてのヘッドライン・ツアーを開始しており、今までのマイク一本で行ってきたスタイルから更にスケールアップしたパフォーマンスを世界中で披露する予定となっている。

待望の新作『Heaven To A Tortured Mind』 (4月3日発売) のリリースを発表し、メイクアップ・アーティストでビョークやリアーナらとも仕事をしているクリエイター、イサマヤ・フレンチ (Isamaya Ffrench) が手がけた新曲 “Gospel For A New Century” のミュージックビデオも話題沸騰中のイヴ・トゥモアが、主演を務めるショートフィルム『SILENT MADNESS』が公開された。本ショートフィルムは、ナイジェリア出身の気鋭デザイナー、モワローラ・オグンレシによる人気急上昇中のブランド MOWALOLA が公開したもの。監督は写真家のジョーダン・ヘミングウェイが務めている。トップクリエーターたちが集結した映像世界は必見。

SILENT MADNESS
https://youtu.be/zCXbEzVScIE

YVES TUMOR

奇才イヴ・トゥモアが最新アルバム
『HEAVEN TO A TORTURED MIND』を4月3日にリリース!
新曲 “GOSPEL FOR A NEW CENTURY” をミュージックビデオと共に解禁!

世界的評価を獲得した前作『Safe In The Hands Of Love』で、退屈なメインストリームに一撃を与え、独特の世界観で存在感を放っている奇才イヴ・トゥモアが、新章の幕開けを告げる新作『Heaven To A Tortured Mind』を、4月3日(金)に世界同時でリリース決定! 新曲 “Gospel For A New Century” をミュージックビデオとともに解禁した。特殊メイクやレーザーが生み出す強烈なヴィジュアルが印象的なビデオは、ロンドンを拠点に活躍するトップメイクアップアーティストで、ビョークやリアーナらとも仕事をしているクリエイター、イサマヤ・フレンチ(Isamaya Ffrench)が手がけている。

Yves Tumor - Gospel For A New Century (Official Video)
https://youtu.be/G-9QCsH3OQM

その評価を決定づける鋭利な実験性はそのままに、サイケロックとモダンポップの絶妙なバランスをさらに追い求めた本作では、共同プロデューサーにスカイ・フェレイラやアリエル・ピンク、チャーリーXCXらを手がけるジャスティン・ライセンを迎えている。2018年の最高点となる9.1点で Pitchfork【BEST NEW MUSIC】を獲得したのを筆頭に、New York Times、Rolling Stone、FADER、NPR などの主要メディアがこぞって絶賛するなど、その年を代表するアルバムとして最高級の評価を得た前作『Safe In The Hands Of Love』。その音楽性について The Wire は「ここには、Frank Ocean と James Blake が探ってきたものの手がかりが確かに存在するが、何よりも Yves Tumor は黒人の Radiohead という装いが、自分に合うかどうかってことを試して遊んでいるのかもしれない」と解説している。昨年は、Coachella、Primavera などの大型フェスにも出演を果たし、多くのファンを獲得しているイヴ・トゥモア。抽象に意味を与え、不協和音すら調和させ、現実の定義を壊す。哲学めいた制作アプローチを経ても、聴くだけで思わず惹きつけられるずば抜けた表現力と音楽性の高さは、「新世紀のゴスペル」と題された新曲がまさに証明している。

奇才イヴ・トゥモアの最新作『Heaven To A Tortured Mind』は、4月3日(金)に世界同時でリリース。国内盤CDには、ボーナストラック “Folie Simultanée” が追加収録され、歌詞対訳と解説書が封入される。アナログ盤は、シルバー盤仕様と通常のブラック盤仕様の2種類が発売される。

label: BEAT RECORDS / WARP RECORDS
artist: Yves Tumor / イヴ・トゥモア
title: Heaven To A Tortured Mind / ヘヴン・トゥ・ア・トーチャード・マインド
release date: 2020.4.3 FRI ON SALE

国内盤CD BRC-635 ¥2,200+税
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説書・歌詞対訳封入

TRACKLISTING
01. Gospel For A New Century
02. Medicine Burn
03. Identity Trade
04. Kerosene!
05. Hasdallen Lights
06. Romanticist
07. Dream Palette
08. Super Stars
09. Folie Imposée
10. Strawberry Privilege
11. Asteroid Blues
12. A Greater Love
13. Folie Simultanée (Bonus Track for Japan)

商品情報
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=10860

The Cinematic Orchestra - ele-king

 昨年美しいカムバック作を送り出したザ・シネマティック・オーケストラが、同作のリミックス盤をデジタルで3月に、ヴァイナルで4月にリリースすることになった。リミキサーに選ばれているのは彼らのお気に入りのアーティストたちだそうなのだけど、アクトレスケリー・モランドリアン・コンセプトフェネスラス・Gメアリー・ラティモアにペペ・ブラドックにアンソニー・ネイプルズにと、そうそうたる面子である。これはチェックしておかないとね。

THE CINEMATIC ORCHESTRA

『To Believe Remixes』の 12inch 2作品が4月24日(金)にリリース決定!
本日、TCO 自身によるリミックス “Zero One/This Fantasy (feat. Grey Reverend) [The Cinematic Orchestra Remix]” が公開!

その名の通り、映画的で壮大なサウンドスケープを繰り広げるザ・シネマティック・オーケストラ(以下 TCO)が、実に12年振りとなったスタジオ・アルバム『To Believe』(2019)のリミックス版となる『To Believe Remixes』の 12inch 2作品を4月24日(金)にリリース決定! デジタル配信では3月6日(金)に先行リリースとなる。本日、TCO自身によるリミックス “Zero One/This Fantasy (feat. Grey Reverend) [The Cinematic Orchestra Remix] ”が公開!

Zero One/This Fantasy (feat. Grey Reverend) [The Cinematic Orchestra Remix]
https://www.youtube.com/watch?v=LT-eJVqECWk

『To Believe Remixes』では TCO のお気に入りのプロデューサーやアーティストがリミックスやリワークを行っており、エレクトロニックミュージックの鬼才アクトレス、注目のマルチプレイヤー、ケリー・モラン、凄腕キーボーディストのドリアン・コンセプト、チェリスト兼ボーカリストのルシンダ・チュア、アヴァンギャルドのレジェンドであるフェネス、人気コンテンポラリー・ピアニストのジェームス・ヘザー、そして故ラス・Gらが参加している。また、既にデジタルリリースをしているLAのハープ奏者メアリー・ラティモア、伝説的なハウスプロデューサーであるペペ・ブラドック、そしてアンソニー・ネイプルズらがリワーク、リミックスをした楽曲も収録されている。

今週末にはセックス・ピストルズ、ボブ・ディラン、ローリング・ストーンズ、レディオヘッドらもライブを行ってきたロンドンの由緒正しきベニュー、ブリクストン・アカデミーでのライブを控えるなど精力的な活動を行う TCO の『To Believe Remixes』は2枚の12インチヴァイナルとデジタルで4月24日にリリース!

The Cinematic Orchestra『To Believe』
自ずと風景が浮かび上がる奥行きのあるそのサウンドは、本作でますます磨きがかかっている。ストリングスは、フライング・ロータスやカマシ・ワシントンなどの作品を手掛けてきたLAシーンのキーパーソン、ミゲル・アトウッド・ファーガソンが手掛け、ドリアン・コンセプト、デニス・ハムなど、フライング・ロータス主宰レーベル〈Brainfeeder〉関係のアーティストが参加しているのも見逃せない。またヴォーカリストには、先行シングル “A Caged Bird/Imitations of Life” のフィーチャリング、ルーツ・マヌーヴァを筆頭に、グレイ・レヴァレンドやハイディ・ヴォーゲルといった TCO 作品に欠かせないシンガーたちに加え、ジェイムズ・ブレイクの新作への参加も話題となったシンガー、モーゼス・サムニーとジャイルス・ピーターソンが絶賛するロンドンの女性シンガー、タウィアも参加。透徹した美意識に貫かれた本作は、デビュー・アルバム『Motion』から数えて、20周年を迎えた彼らの集大成ともいえる傑作である。

『To Believe』は心を打つ素晴らしい作品だ。美しく構築され、強い芯がある……傑作だ ──The Observer

本当に素晴らしいカムバック作だ……最近の物憂げなムードをリフレッシングで豊かなダウンテンポミュージックで表現している ──The Independent

華麗でシンフォニックなソウルミュージック……12年の時を経て戻ってきた力強いステイトメントだ ──GQ

label: NINJA TUNE
artist: THE CINEMATIC ORCHESTRA
title: To Believe Remixes
digital: 2020/03/06 FRI ON SALE
12inch: 2020/04/24 FRI ON SALE

TRACKLISTING

ZEN12536 (輸入盤12inch)
A1. Wait for Now (feat. Tawiah) [Mary Lattimore Rework]
A2. The Workers of Art (Kelly Moran Remix)
B1. A Caged Bird/Imitations of Life (feat. Roots Manuva) [Fennesz Remix]
B2. To Believe (feat. Moses Sumney) [Lucinda Chua Rework]

ZEN12539 (輸入盤12inch)
A1. To Believe (feat. Moses Sumney) [Anthony Naples Remix]
A2. A Promise (feat. Heidi Vogel) [Actress' the sky of your heart will rain mix 2]
B1. Wait for Now (feat. Tawiah) (Pépé Bradock's Dubious Mix)
B2. Zero One/This Fantasy (feat. Grey Reverend) [The Cinematic Orchestra Remix]

DIGITAL ALBUM
1. Wait for Now (feat. Tawiah) [Mary Lattimore Rework]
2. The Workers of Art (Kelly Moran Remix)
3. Lessons (Dorian Concept Remix)
4. A Caged Bird/Imitations of Life (feat. Roots Manuva) [Fennesz Remix]
5. Wait For Now (feat. Tawiah) [BlankFor.ms Remix]
6. To Believe (feat. Moses Sumney) [Lucinda Chua Rework]
7. A Caged Bird/Imitations of Life (feat. Roots Manuva) [James Heather Rework]
8. Wait for Now (feat. Tawiah) [Pépé Bradock's Just A Word To Say Mix]

1. Wait for Now (feat. Tawiah) [Pépé Bradock's Wobbly Mix]
2. Lessons (Ras G Remix)
3. The Workers of Art (Photay Remix)
4. A Promise (feat. Heidi Vogel) [PC’s Cirali mix]
5. Zero One/This Fantasy (feat. Grey Reverend) [The Cinematic Orchestra Remix]
6. A Caged Bird/Imitations of Life (feat. Roots Manuva) [Moiré Remix]
7. To Believe (feat. Moses Sumney) [Anthony Naples Remix]
8. A Promise (feat. Heidi Vogel) [Actress' the sky of your heart will rain mix 2]

label: NINJA TUNE / BEAT RECORDS
artist: THE CINEMATIC ORCHESTRA
title: To Believe
release date: NOW ON SALE

国内盤CD BRC-591 ¥2,400+税
国内盤特典:ボーナストラック追加収録/解説書封入

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Elements Of Life - ele-king

 Kenny Dope とのユニット「Masters At Work」でも知られる Louie Vega が2000年にスタートさせたプロジェクト「Elements Of Life」(以下 EOL)。日本でのバンド公演は2003年以来、なんと17年ぶり(!?)の来日ということで、当時生で聴いた方やそうでない方も長く待ち望んでいた再来日になった。

 初期のプロジェクトからすでに20年が経過するバンドだが、決して彼らの活動が停止していたわけではなく。過去の作品を調べると、結成時からコンスタントに作品をリリースしており、06、07年では今回のバンド・メンバーとしても参加しているパーカッショニスト Luisito Quintero のソロ・アルバムのプロデュースや EOL のメイン・ヴォーカルとも言える Anané、そして Blaze の Josh Milan らを招き、数多くの作品をリリース。ハウス・ミュージックのプロデューサーとして数多くのリリースを築き上げてきた Louie Vega が、自身の持つラテンアメリカのルーツをより全面的に押し出した一面がこの EOL で表現されていると言っても過言ではない。


 2020年の2月4日のセカンドショーは沖野修也氏のDJと共に幕開け。小気味良いラテン・トラックからその場で生のハイハットが混ざり、音が切れることなくライヴに転換。打ち合わせをおこなったかは定かではないが、こういった「DJ的」な流れで空気を作るのは流石の両雄。トレードマークのハットを被り、カジュアルな出で立ちの Louie の熱いMCと共にいきなり未発表の新曲からスタート。ハイハットとジャズのベースにピアノとコーラスが絡み合うクラシックなジャズ・ナンバー・スタイルで会場を温めていく。そのままのスムーズな流れで EOL の代名詞トラック “ELEMENTS OF LIFE” に突入。ここで序盤から会場のボルテージは最大に。終盤でかかるかなと予想していたオーディエンスも多かったようで、サプライズ的なスタートは衝撃的だった。続いて Nina Simone “FEELIN GOOD” を EOL スタイルで披露。バック・ヴォーカルのひとり、Ramona Dunlap をフィーチャーし会場を甘い雰囲気で包み込む。Louie Vega 本人の叔父でもあり、自身がラテン・ミュージックに大きな影響を受けた Héctor Lavoe の賛辞を添えて「ラテン・ジャズの世界に案内しよう!」と言った Louie は次に未発表の新曲、若き天才キーボーディストと言われる Axel Tosca がアレンジを務めたラテン・ナンバー “CALLEJON” を披露。彼のファンキーなルックスからは想像もつかない繊細かつダイナミックな美しいピアノ・パフォーマンスに酔いしれる。


 そして満を辞して EOL のメイン・ヴォーカル Anané が登場。西アフリカの孤島カーボベルデをルーツに持つ彼女が「よく母が歌ってくれた」と言いながら地元の歌手 Adriano Gonçalves こと Bana の “TERRA LONGE” を披露。どこかメロディックで悲しげな感じ(原曲も非常に哀愁漂うナンバー)で前半の熱量とはトーンも変わりブルーを基調としたライティングの中、会場は甘い雰囲気に包まれていく。会場の暖かい拍手と共に「次はブラジルに連れていくよ、踊るのを怖がらなくていいからね」と Louie のMC。次に披露したのは Webster Lewis の “BARBARA ANN”。ブラジリアン・フュージョンの名曲ということで、MCの紹介と共にコアな観客からも歓声が湧き上がる。新曲とクラシックを交互に織り交ぜるスタイルの EOL。続いてはラテン・フュージョンの未発表曲 “DREAMER”、そして Johnny Hammond の “FANTASY” を。パワフルなコーラスと共に壮大にカヴァー。どれも原曲のエッセンスを残しつつ、EOL らしい絶妙なフュージョン感を持ったアレンジは流石のパフォーマンス。


 僕自身期待していた EOL のヒット曲はまだか……と思っていたが、Dawn Tallman のパワフルな美声と共に EOL の代名詞ハウス・チューン “INTO MY LIFE” をついに披露。ここで座っていたオーディエンスもほぼスタンディングに。そして会場も待ちに望んでいた Josh Milan がついにマイクを取る。ここまで控えめにキーボードを弾いていた Josh の存在感はやはり圧巻。EOL と共に生み出した “CHILDREN OF THE WORLD” そして “YOUR BODY” とどちらも高い熱量で歌い上げ、会場のボルテージも上がってきたところで、Louie の「Nuyorican Soul の時代に戻ってみよう」というMCと共に “I AM THE BLACKGOLD OF THE SUN” のピアノ・フレーズが。この瞬間、会場の熱気は最高潮に。ミラーボールを中心としたライティングはまさにクラブのような雰囲気となり、オーディエンスも総立ちで一気にフィナーレへ駆け抜けていく。

 「最後にもう少しだけ、君たちを教会に連れていくよ」と Louie Vega のMCと共に、往年のゴスペル・ナンバー “STAND ON THE WORD”、そしてエンディングに “YOU BROUGHT THE SUNSHINE” を披露。彼のルーツであるラテンからアフリカ、そしてニューヨークまで約1時間半の演奏の数多の国境を越えていく展開はまさしく「ミュージック・ジャーニー」。各パートにレジェンド級のミュージシャンが揃ったバンド達の17年ぶりの圧倒的なパフォーマンスを目の当たりにできたことはいちオーディエンスとしても非常に貴重な体験だったと思う。

 自身が培ったルーツと衰えることない音楽性を結成からここまで継続的に披露しながら、カヴァーと新曲を織り交ぜることで過去と未来そして様々なジャンルの音楽を自在に横断する EOL のプレイはDJ/プロデューサー、そしてバンドのコンダクターとしての Louie Vega ならではのアイデアとパフォーマンスと言えよう。当日のMCでも2020年の冬に新しいアルバムを控えているとのことで、さらに進化した彼らのサウンドをこの耳で繰り返し聴けるのが本当に楽しみである。


TSUBAKI FM - ele-king

 先日お伝えしたように、いよいよ TSUBAKI FM のアニヴァーサリー・ツアーがはじまる。とくにすごいのはツアー・ファイナルにあたる3月7日~8日で、なんと24時間連続のイヴェントとなっている。30組以上が出演、青山蜂~Red Bar~Tunnel~COMMUNE 表参道にて開催。チケットも安いし、これは行くしかないでしょ!

R.I.P.飯島直樹 - ele-king

ネットワークそれ自体が文化だということを

河村祐介

 DISC SHOP ZEROで扱われたレコードの多くは、突き詰めて言うと “つながり” というものがひとつの美学として貫かれていたと思う。“つながり” とは良く知られたブリストルやその他の地域のアーティストやレーベルとの直接の連絡網、現場でプレイされ人と人の隙間を埋める “つながり” もあり、もっとちいさな単位でいえば、違ったジャンルの前後の曲をDJがブリッジするための楽曲のレコメンド、もっと個人のリスニング体験においても、あるアーティストとアーティストの良き隙間を見つけて、そこにはまるなにかとなにかをつなぐ楽曲たち。単体の楽曲としての存在ではなく、楽曲と楽曲、もしくはその他のさまざまな事象とつなげることで生まれうる刺激を絶えず紹介していた感覚がある。もちろん、それはDJカルチャーに大きな価値の源泉をみていたというのもあるとは思うが、もっと大きな視座がそこにはあったように思える。

 隙間というと、重箱の隅をつつくようなマイナーな存在を想起してしまうが、ちょうど良い隙間にはジェームス・ブレイクやスミス&マイティといった大きな存在がスポッとそこに入ってしまう場合もある。その多くは、トレンド(もちろんDJカルチャーなのでそれも導入しつつ)と、少々離れた場所でならされる音楽だが、確実にどこかで鳴らされるために生まれた音楽たちで、ひょんなことからサブスクのヴァイラル・チャートにのることはあっても、それを目的にした音楽ではない。各地に数十人だとしても確実にそれを欲しいと思うひとたちのいる音楽。

 飯島さんはさまざまな音楽をバイヤーという立場からつなぎとめていった。そんな音楽のつながりにはひとつのモデルとして、ブリストルという都市があったということだろう。各アーティスト個々へのリスペクトはもちろんだが、そのネットワーク自体を尊敬していたんだろうと思う。そしてこのネットワークこそが、レコードと音楽が紡ぎ出すカルチャーだということを教えてくれたのが飯島さんであり、DISC SHOP ZEROというレコード店だったと思う。音楽に繋がるのは、なにも音楽だけではない。そこに繋がるのはエッジーな新譜、過去の知られざる楽曲、サウンドシステム・カルチャー、アートやカルチャー全般、さらには歴史、ときには政治的意識だったかもしれない。そして、さまざまな人々たちだった。

 このネットワークをDISC SHOP ZEROの周りでも作ろうとしていたのが飯島さんだったと思う。もちろん作ろうというのは彼の言葉とは違うだろう、おそらく彼ならこういうだろう、希望を込めた笑顔とともに「レコードは紹介するから、勝手にできてくれたらそれが一番いい」。先人たるブリストルのネットワークと接続・参照しながら、良き隙間を見極めることで “DISC SHOP ZERO” 独自の視点で「サウンド」そのものを媒介にむすび付けることを絶えずやっていた。

 トレンドではなく、このネットワークをひとつの価値観創出の場所として捉えレコードをそろえる。そのネットワークに絡め取られたお客さんもある種の価値観の源といった感覚もある。それゆえに独自の審美眼で選ばれた独自のレコードたちが列んでいた。そのネットワークの大事なハブを失ってしまったいま、その価値観を共有していたDJたちは、今後プレイスタイルが変わってしまうかもしれない。それほど大きな存在だったのではないかと思う。しかし、彼が残してくれたのは個々の音楽への紹介もあれば、上記のような、こうした見えないカルチャーの土台となるネットワークでもある。そこに絡め取られた人々が、そのカルチャーを捨てない限り、それは存続し続けるだろう。

 本当に大きな存在でした、ありがとうございました。

 安らかに。


音楽を続けていく理由がまたひとつ増えた

UKD(Double Clapperz)

 朝起きてInstagramを開きJoshua Huges-Games(DoubleClapperzのEPのジャケット、マーチャンダイズのデザインを手掛けてくれいるブリストルのイラストレーター  彼もまた飯島さんが繋いでくれたブリストルの友人の1人でもある)の投稿に書かれたRIP Naokiの文字に目を疑った。何かの冗談だと思い、すぐに他のSNSを確認したり友人に連絡を取り事実なんだと知る。
 人づてに足が良くないとは聞いていたが詳しい事は知らず、突然の訃報を受け入れられず混乱したまま仕事に向かった。その日は1日中ずっと上の空で何も手につかなかった。

 飯島さんとの出会いは5年前だったと記憶している。僕らが放送していたインターネットラジオNOUS FMにBANDULU GANGのHi5Ghostをゲストに迎えた回をZEROのBlogに紹介してくれた。全く面識はなかったが僕は取り上げてくれたことが嬉しくてすぐお店に向かった。当時はそれほどレコードに興味がなかったが僕はそこで人生で初めてレコードを購入し、多い時は毎週のようにZEROに通うようになる。
 「買い物がない日にもDouble Clapperzは良く店に来るね」と飯島さんに言われたことがあるが、次こんな事をやろう思ってるんですよとか、ブリストルのアーティストから面白いダブが届いたとか、そんな雑談から生まれる僕らのアイデアを一歩先に進めてくる人でもあり、僕らのような若造がやろうとしていることに手を差し伸べてくれる良き理解者の1人でもあった。
 僕らがレコードでのリリースを始めたのも、元はと言えばZEROで取り扱って欲しかったからだし、まずは全部自分たちでやってみるというDIY精神は飯島さんから影響を受けたものである。
 2年前初めてブリストルを訪れた際カーニバルが開催されていたこともあり、BS0で来日していたアーティストや飯島さんがきっかけで繋がった沢山の同世代アーティストがブリストルの道端で僕に「Welcome to Bristol」と声をかけてくれた。
 飯島さんが育んできたブリストルと東京の交流は、しっかり僕らの世代にも受け継がれていると再認識した。
 もちろんブリストルとの交流は東京だけではない。
 僕ら2人は飯島さんの告別式には九州ツアーの真っ只中のため参加できなかったが、僕らの福岡公演の場は奇しくもBS0関連のアーティストが多く訪れるThe Dark Room。
 アルコールでふらふらになった数人が残った朝5時過ぎのフロアにBim OneとDubkasmによるEaston HornsとSmith & MightyのB Line Fi Blowが鳴り響いた。
 飯島さん、BS0が撒いた種は全国各地に根を張っている。

 最後になりますが、飯島さんの死に直面にし音楽を続けていく理由がまたひとつ増えました。どうぞ安らかに静かにお眠り下さい。


僕のスタート地点(ゼロ)をたくさん作ってくれた

Sinta(Double Clapperz)

 Disc Shop Zeroの飯島さまには生前とてもお世話になりました。ご逝去をお聞きし、とてもショックで仕事に手がつかない状況でしたが、飯島さんにとてもお世話になったことを思い出しました。この感謝の気持ちを伝えたいという気持ちで、お手紙のつもりでこの文を書いています。

 下北沢のお店では他愛もない話から、具体的なご相談まで、さまざまな場面で助言とサポートをいただきました。イギリスに行ったときはかならず飯島さんに報告に行って、飯島さんは優しく僕の話を聞いてくれました。そんな温かな目線にはいつも元気付けられてきました。飯島さんのお声がけがあって、世界中の気の合うアーティストや憧れのプロデューサーを紹介頂きました。その繋がりからはじまったことがたくさんあります。

 レーベルをはじめたのは、Disc Shop Zeroにレコードを置いて欲しいと思ったのが大きな理由でした。でも僕らだけでは右も左もわかりませんでした。アートワークを担当しているJoshua Hughes-Gamesや、マスタリングをお願いしているWax Alchemyさん、ディストリビューターさんもご紹介いただき、納得のいくレコードをリリースできるようになりました。
 dBridgeさんを繋げてくれてNew Formsの音源制作やパーティをやったこと。Nomineさんに僕らのことを紹介してくれて、彼のサウンドレクチャーを開催し、その通訳をさせていただいたこと。BS0にお誘いいただき、DJや翻訳、アテンドなど様々な機会をいただきました。飯島さんは常に僕の初めてのことに対して背中を押してくれて、一歩を踏み出す勇気とチャンスをいただきました。そういった仕事は今では僕のライフワークになりました。Disc Shop Zeroという名前の通り、僕のスタート地点(ゼロ)をたくさん作ってくれました。

 常に周りのアーティストやファンを第一に考えられて、休みなく働かれていらっしゃいました。
 今はゆっくりお休みになられてください。僕はここで、飯島さんみたいに周りの人のゼロを作れる人間になれるように、もっと頑張ります。


飯島さんが教えてくれたこと

髙橋勇人

 2013年の4月のこと。行ったこともないのに登録していたお店のメルマガで、〈Deep Medi Musik〉から出たスウィンドルの「Do the Jazz」がリプレスされたことを知り、下北沢へすぐに買いに走った。(ごちゃごちゃした)店頭のダブステップのコーナーを探してもそのレコードの影も形もなかった。「もう売り切れちゃいましたか?」とカウンターの向こう側にいた店員さんに尋ねると、「いや、まだ忙しくてそっちに出せてないんですよ……」と、真っ赤なスリーヴの12インチをお店の奥の方から、よっこらしょと出してくれた。それが僕の飯島直樹さんとの出会いだ。

 僕がゼロに通うようになった当時を振り返ってみると、2013年は、英誌『The Wire』がブリストル新世代を巻頭で特集したのが象徴的だったように、そのシーンへの関心が再燃し出した時期だ。彼の地のプロデューサー集団、ヤング・エコーがファースト・アルバム『Nexus』を出たのも、テクノのダークサイドへと接近したDJピンチが〈Cold Recordings〉を開始し、バツなどの若手を紹介しだしたのもこの年である。いまはなき名門ダブステップ・レーベル〈Black Box〉も健在で、トルコのガンツなど、世界の音がブリストルから連発していた。ゼロには当然のごとく、そのすべてが入ってきていた。同年にヤング・エコーのカーンが、MCフロウダンとのキラーチューン “Badman City”が入ったEPをリリースしたとき、店頭でそれを聴いて、あまりのかっこよさに全身が震えたのを昨日のことのように覚えている。

 周知の通り、飯島さんは江古田にお店を構えているときからブリストルにおもむいて、その文化を日本に紹介し続けてきた。飯島さんが語るイングランド南西部の反骨精神旺盛な港町は、アーティストたちの人物関係や、それを繋ぐ現地のレコード店やクラブの話に収まるものではなく、背景にある文化政治的なアティチュードと常にセットだった(例えば、街で大手スーパーであるテスコのボイコット運動が巻き起こった話など)。それは海外礼賛の輸入話などでは決してなく、自分たちがいる東京という場所を問い直すような、刺激に満ちていた。飯島さん自身も、自分は日本のローカルのためにブリストルから着想を得続けている、といっていた。

 だから僕がゼロに頻繁に通いはじめたのは、単純にレコードのためだけではない。音楽、政治から人間関係にいたるまで、とにかくいろんな話をした。お店に行ってもレコードを買わない日だってあったくらいだ(すいません)。

 飯島さんはひとを繋げるのも上手だった。当時、クラブにいく友人がまったくいなかった僕にとって、ゼロから生まれた交友関係にはとても助けられた。あの小さな空間には、インターネットのコミュニティにも、地元のコミュニティにも、なんとなく合わない若者が流れ着いていたように思う。

 飯島さんの音楽パースペクティヴはアーティスト中心主義ではなく、音楽が内包している可能性をサウンドとは別の形で実現できる存在にもしっかりとスポットライトが当てられていた。サウンドシステムとそれが鳴る場所の作り手、そこに魂を吹き揉むパーティ・チーム、都市と音楽のネットワークを可視化するジン、ライター、写真家、そしてリスナーたち。その文化のエコロジーがあるからこそ、音楽は音楽であり続けることができる。

 飯島さんはそのことに誰よりも自覚的であり、その実践者であり、必要があればそれを阻害する者たちに向かってストリートに出て声をあげ、選挙割なども積極的に行っていた。2015年にゼロや東京の音楽クルー、ソイやビムワン・プロダクションのメンバーが中心になって始まったブリストルのスピリットを紹介するプロジェクトBS0は、その理念がパーティとして形になったものだ。そこに呼ばれるアーティストを誰よりも愛していたのは飯島さんだったが、その関係に上下などなく、二人三脚でシーンを、いや世界を変えてやる、という気概で満ち溢れていた。

 晩年、飯島さんはひとりでお店を切り盛りしていたけれど、音楽の世界における彼の一人称にはつねに複数形の僕たちの存在が含まれていた。何かの、ひいては誰かのために行動し続けることについて、飯島さんがその人生で示した意義は計り知れない。そこに敬意と感謝の意を示したい。

 ────2014年、僕は大学の勉強でも就活でも行き詰っていた。そのとき、ツイッターで『ele-king』のバイト募集を見つけたものの、応募するかどうかを決めかねていて、飯島さんに相談しにいったことがある。そうしたら、「あの募集、僕も見たよ。ハヤトくんが応募してみたらいいじゃないかなと思ったんだよね」と背中を押され、こうして音楽について書くようになった。最初は右も左もわからない状態だったので、ライターとして書き方のアドバイスもよくもらっていた。飯島さんは僕の尊敬する先生だ。カウンターの向こうから響いてくるあの声は、これからも僕のテキストから消えることは決してないだろう。


優しく聡明なRebelの人

Mars89

 ele-king編集部から執筆の依頼がきた時、僕は仕事も何もほとんど手に付かない状態だった。しかし、これを書くことが今この僕が飯島さんのためできることの全てだったし、心から書くことを望んだ。
 ele-kingとの付き合いも、Disc Shop Zeroに立ち寄った野田さんにまだまだ無名の僕の作品を飯島さんがお勧めしてくれたことがきっかけだった。そして今ではインタヴューやチャートなどいくつもの形で繋がっている。僕の作品が出るときにいち早く予約や入荷をしてくれてたのもZeroだったし、会うたび「次の作品は?」と、いつも気にかけてくれていた。そして野田さんのように面白いものを探してZeroを訪れる人たちにお勧めしてくれていたに違いない。僕のように彼や彼の店がきっかけとなって新たな道が開けた人は数多くいるだろう。それはこの追悼文が掲載されるele-kingに寄せられた他の人の追悼文を見ればわかるはずだ。
 僕がブリストルを訪れたときには何人もの人に「東京から来たのか! Naokiによろしく!」と声をかけられ、それがきっかけで打ち解けたりもした。彼が東京とブリストルで撒いてきた種は地面の下でしっかりと太い根を張っている。
 彼が撒いてきた種は “音楽だけ” ではない。常にそこに広がるカルチャーとセットだった。ブリストルというのはカウンターカルチャーの街であり、オルタナティヴなスタイルを追求してきた街だと思っている。Zeroでは選挙割を導入して政治への参加を呼びかけていたし、彼は僕が抗議活動の現場で顔を合わせる数少ない音楽関係者の一人でもあった。Contactで隔月開催している BS0xtra では抵抗のカルチャーにまつわる書籍や資料を持ってきて、横でコーヒーを出し、「場」を作っていた。渋谷プロテストレイヴのアフター会場にもそれを出して音楽と抵抗のカルチャーの関係性を強固にすることに協力してくれた。優しく聡明なRebelの人だった。
 彼は1月に更新したブログでZeroを「レコードの販売だけでなく、面白いことをしていける場にしたい」と書いていた。彼が不在のこの世界で、彼が遺した「場」をどうしていくのかは残された私たちにかかっているが、この点については僕は楽観視している。彼が育てた草の根は太く強い。それは僕が思っている以上だろう。
 彼は常に地道で着実な方法で道を拓き、種を撒き、草の根を育て続けて来たように思う。そして彼が撒いてきた種はあらゆる場所で芽吹き、実り、花を咲かせている。そしてその花がまた新たな種を撒くのだろう。
 この追悼文を書き上げるまでの時間を想定していたわけではないが、思ったより時間がかかってしまった。色々なことを思い出して手が動かなくなり、同時になぜか、黒いスーツはあるけどシャツとタイが無いなとか、この服装飯島さん気に入ってくれるかなとか、最後の挨拶なんて言おうかとか考え出して止まらなくなってしまった。ここまでに大きめのマグ2杯分のコーヒーを消費し、今3杯目に手を出しながら追悼文の締めくくりを考えている。
 数時間後の式では次のような事を最後に伝えようと思う。
 飯島さん、今までいろいろとありがとうございました。僕がそっちに行くのはもう少し先になりそうです(そうなる事を祈る)。つぎ会う頃にはそこはサウンドシステムでブリストル・サウンドが鳴り響き、抵抗のカルチャーが根付いている場所になっている事でしょう。また一緒にパーティーやったり抗議活動やったりしましょう。
 Massive thanks and respect.


まだ信じられないけど

三田格

 人当たりがとても優しく、マッチョなところがまったくない方でした。いつ会ってもゆったり構えていて、乱暴なことはいっさい言わない。ZERO自体がアット・ホームな場所だったけれど、音楽の話だけでなく、娘が熱を出したとか家族のことを話す時も実に楽しそうだった。小学生の娘が夏休みに店を手伝うと聞いた時は「労基法違反じゃないの?」と思わず言ってしまったけれど、「学校の課題でそれはありなんだよ」と、なんか得意げだったな。そんな家族が死によって引き裂かれてしまうのはとてもいたたまれない気持ちです。「レコード屋の親父」である前に、飯島さんには家族があり、政治の話をしていても、考え方のベースにはいつも家族があるという感じがしていたので。

 江古田に店があった頃は行ったことがなく、下北沢に移転してから毎週のように行くようになりました(家から歩いて30分だった)。よく話すようになったのはワールド・ミュージックのことを訊いてからで、飯島さん自身はピーター・バラカンさんの本を読んでワールド・ミュージックに興味を持ったと言っていた(ので、バラカンさんにもZEROの存在を伝えて)。バンクシーの作品が無造作に置いてあるのはいつも気になってしょうがなかったけれど、僕の都合で定休日を変えてくれたことは誠に痛み入りました。おかしかったのはレコードストア・デイになるとアナログ盤はほかの店でよく売れるので、ZEROの店内は飲み会になってしまうこと。ビールやスナック菓子が飛び交い、この日は落ち着いてレコードを探すことができない。いつもジェントルな飯島さんがこの日だけは「てやんでい」みたいになっちゃって。

 めちゃくちゃな店内だったけれど、「Township Funk」がヒットしたDJムジャヴァのアルバム(南アフリカ盤)まで売っていたのは驚いたな。〈ナーヴァス・ホライズン〉というレーベルを教えてくれたのも飯島さんだったし、ZEROで買ったモデュール・エイト『Legacy LP』は近年の宝物になっている。教えてもらうだけでなく、DJニガ・フォックス「O Meu Estilo」がすごくいいよと教えてあげたらすぐに気に入っちゃって、あちこちのディストリビューターに連絡を取りまくったあげく「入荷できなかった」とかなり悔しがっていた。スクウィーのブームが去って、どこにもダニエル・サヴィオの新作が入荷しなくなってしまった時は飯島さんに頼んで探してもらったら、本人だったかレーベル・オーナーだったかが「在庫切れだけどベッドの下に1枚だけあった」といって送ってくれたことも。飯島さんはブリストルだけじゃなく北欧にも顔が利くんですよ。エレキング本誌でブリストルのミニ特集を組んだ時も楽しかったな。飯島さんの撮ってきた写真がわかりにくくて、どんどん小さな扱いになって(笑)。せっかくまたブリストルがざわつき始めた時に、なにもそんな時に逝かなくても……。

 イギリスの音楽には様々な側面がある。とはいえ、戦後の労働力不足を補うためにジャマイカから来た移民たちが音楽を通じてイギリスに与えた影響はとても大きく、ビートルズやクラッシュがレゲエを取り入れ、デヴィッド・ボウイやビョークがドラムン・ベースに手を伸ばしたことにもそれは表れている。昨年、アイドル・グループのリトル・ミックスが全米でヒットさせた「Bounce Back」もソウル II ソウルの「Back To Life」を再構築したものだし、ブリストルの音楽に通じているということはそのすべてとは言わないけれど、そのようにして変化・生成してきたイギリスの音楽でもかなり重要な部分を理解させてくれ、飯島直樹が日本に接続した「文脈」はその流れをほぼ同時に追える楽しみだったといえる。2ヶ月も迷い続けてようやくイキノックス『Bird Sound Power』を買った時、飯島さんは「それ、1枚も売れなかったんだよ」とニンマリ笑った。R.I.P.(安らかにお眠りください)


なぜ下北ZEROが偉大なのか

野田努

 あれはたしか1998年のこと、なぜわざわざ江古田まで行ったのかはいまでもよく憶えている。当時、DJクラッシュがプレイするときの極めつけの1曲(北欧のトリップホップ)があって、それはどうやら江古田のZEROに売っているらしいと。その時代、渋谷は世界でもっともレコード店の密集している街であり、渋谷で手に入らないモノはなかった。だが、それだけは渋谷では手に入らず、情報筋によれば江古田にはあるとのこと。ZEROに行かねばならなかった。
 当時のZEROは、下北時代のこの5年と違いじつに綺麗な店内で、まだブリストル臭もそれほどなく、ポストロックやトリップホップなんかが揃っていた。下北の店舗でいうと、入口を入って右側のすぐ奧が江古田時代の名残である。
 90年代は、レコード店というのがひとつの事業として夢が見れた時代だ。当時は多くの店が誕生し、元からあった店は店舗を拡張し、とにかくレコード店は賑わっていた。ZEROもそんな時代に生まれたわけだが、当時の多くのレコード店が90年代初頭のハウスやテクノもしくはヒップホップを契機としていたのに対して、ZEROは後発組で、大衆音楽史で言えばポスト・レイヴ期に生まれている。細分化の時代であり、音楽がひとかたまりの力として成立しなくなった時代だ。ムーン・フラワーズという、UKではほとんど知られていないブリストルのバンドをきっかけにブリストルとの交流がはじまったZEROが、いわゆるマニアの集う専門店と化していったとしても当時の状況を思えば不自然ではない。
 しかし何故かZEROは細分化された同好会のひとつに収束しなかった。飯島直樹にとってレコード店とは、客が入って好みのレコードをレジまで持っていって完結するという商業施設以上の意味を持っていたのだろう。そこは情報を発信してはシェアし、音楽シーンを面白くするのにどうしたらいいのか意見を交換し、そしてシーンに活気を取り戻すための拠点だった。店が下北沢に移ってから、ZEROはそれ自体がメディアであり、ムーヴメントを目論むための場だった。そして、それこそぼくが90年代初頭のレイヴの時代にロンドンで経験したレコード店文化の姿だった。
 ぼくはよく飯島さんに冗談めかして「ここだけ日本じゃない」と言っていた。誰かに紹介するときも「ここは日本じゃないから」と説明した。その理由はもうひとつある。下北ZEROは、UKにはよくあるタイプのカウンター越しに会話しなければ良いレコードが買えないお店で、良いレコードをゲットするには飯島さんと対話しなければならない。これはコミュニケーションが下手な日本人相手には向いていない商売方法だろうし、アマゾンやコンビニがあれば良いと思っている人間には鬱陶しいだろう。いまや希少化しつつある商店街の八百屋みたいなもので、これが苦手でZEROから離れた人だっているはずである。まあ、綺麗ごとではないいろんな諸事情もあったのだろうが、結果としてZEROはそのやり方を通した。レコード店が事業としてたやすくなくなったとくにこの10年、逆境をバネにむしろどんどん磨きがかかっていった。とくにブリストルのシーンとは固い絆で結ばれていた飯島さんだが、彼が輸入したのはレコードという商品を売るだけではなく、その国の音楽文化のあり方まで表現していた。通っていた人は知っての通り、そこに政治性が含まれることもあった。UKに近づいたほうが日本の音楽シーンは絶対に面白くなるというのが彼の信念だったし、ぼくはそれに共感していた。UKの音楽シーンには、それが音楽に生気を与える場として絶えずアンダーグラウンドへのリスペクトがあり、またその根底には批判精神を決して忘れないパンク的なパッションがある。
 オルタナティヴな共同体が複数生まれることが真の意味での多様性なるものだろう。飯島さんが移民文化との衝突によって磨かれたUKのダンス・カルチャーと接続したことと下北ZEROのあり方は完璧に合致している。こうした彼の精神は、ZEROやBS0に集まったDJたちにも確実に受け継がれているので、ぼくは決して悲観していない。今朝の静岡新聞の文化欄に飯島さんを讃える記事が載っていたけれど、飯島さん、あなたはそのくらいのことをやっていた。ありがとうとしか言いようがない。
 思い出はたくさんあるが、最後にひとつだけ。おそらく2004年だったと思う。いつものようにふらり寄ったら飯島さんがいきなり爆音で音楽をかけた。「これ、むちゃくちゃ格好いい! 買います、なんていうアーティストなんですか」と訊いたら、差し出してきたレコードがワイリーだった。あれがぼくにとってその後の10年がはじまる合図だった。


生活世界ZERO

小林拓音

 飯島さんにはこれまで何度も原稿やチャートをお願いしたり、話を伺ったりしてきた。それが ele-king というメディアにとってどれほど大きなことだったか、読者の方ならわかってくださると思う。
 去年の4月もそうだった。ひとつまえの紙エレでは日本の音楽にフォーカスした特集を組んでいるのだけれど、この国の最先端の動向を把握するために、やはり飯島さんにも話を聞きにいった。そのとき、個人的な日本の音楽のオールタイム・ベストワンについてもお尋ねした。答えは G.RINA だったが、同時に宇多田ヒカルの『Fantôme』を挙げていたことも印象にのこっている。飯島さんのイメージとはかけ離れていたから。母が亡くなったときに聴いて、ものすごくヒビいたのだという。いま思えば、そのころから変化が起こっていたのかもしれない。
 以降も何度かZEROを訪れているが、なぜか閉まっている日にあたることが多かった。なんやかんやで半年。ZEROに行ってきたという編集長が、オシアのカセットテープのことを教えてくれた。これはなくなるまえに買いにいかねばと、翌日ぼくもZEROに走った。ちょうど消費税の引き上げが実施されたタイミングで、同時にキャッシュレス決済の還元もはじまっていた。「うちもやることにしてね。クレジットカードのほうがおトクだよ」と飯島さんは苦笑いしていた。手続きを終えるとピロンと電子音が鳴り、スマホに領収メールが届いた。なんだかZEROに馴染まないなと思った。
 さらにその一週間後。紙エレ最新号でダブ特集を組むことになっていたので、河村さんと一緒に飯島さんと打ち合わせをした。まさに飯島さんなくしては成立しえない特集だった。それが10月の下旬。そのときもまだ、大きな違和感のようなものはなかった。以後何度もメールのやりとりを重ねた。だから、年が明けてすぐこんなことになるなんて、思いも寄らなかった。

 ダブやベース・ミュージックはもちろん、いわゆるグローバル・ビーツも扱っているのがZEROのいいところだった。これは三田さんが書いていることと完全にかぶってしまうけれど、極私的に大きな出来事だったのでどうしても書き記しておきたい。たしか初めてZEROを訪れた日のことだったと思う。DJムジャヴァの『Sgubhu Sa Pitori』と『Sgubhu Sa Pitori 3』が立てかけられているのを発見し、ぼくは目を丸くした。金欠であったにもかかわらず、迷わずカウンターに持っていった。南アフリカから直に仕入れたんだよと飯島さんは教えてくれた。けっこう苦労したのだという。日本でこの2枚を扱っていたのはZEROだけだろう。というか、ググればわかるように、海外のサイトにも見当たらない。そういう盤をいっぱい揃えているのがZEROだった。
 そして、野田さんが書いているようにZEROは、たんにディープなレコード店であるだけでなく、地域商店のようなコミュニティ生成の場でもあった。階段をのぼるとたいてい先客がいて、飯島さんと語りあっている。そこで紹介されて知り合ったひともいる。ヴェーバー=宮台のことばを借りていえば、アマゾンやアップルのような「システム」ではなく、「生活世界」である。そのあり方は、利便性とひきかえにさまざまな個人情報を提供せざるをえないにもかかわらず、消費者の側がなにに奉仕させられているのかについては巧妙に隠蔽される「システム」的なもの、ハイテクな監視社会にたいするささやかな抵抗だったのかもしれない。「システム」すべてをひっくり返すことはできない。すでに「生活世界」だってそのなかに組み込まれている。でも、だからこそあえて、意識的に「生活世界」を構築していかなきゃいけない──そういうことを肌でわかっているひとだったんだと思う。ゆえに飯島さんは、クレジットカード決済を勧めるときに苦笑いを浮かべていたのだ。選挙があるたびに、投票に行ったひと限定で割引セールを実施していたのもZEROだった。アマゾンやアップルにはぜったいに真似できないことだ。アンダーグラウンドは、そういう代替不可能な、かけがえのないひとの手と志によって支えられている。
 ピロンと電子音の鳴った日は、たまたま誕生日だった。なくなるまえに入手できたこと、飯島さんが丁寧に説明してくれたこと(サックスのオリー・ムーアはピッグバッグのあと、レッド・スナッパーの作品でも吹いていたひとだ)、それに還元の件もあってすこしトクした気分になっていたぼくは、それをじぶんへのプレゼントにすることにした。ふだんレコードを買うときよりも、なんだかうれしかった。ポイントは還元できても、そういう類のうれしさを「システム」は供給できない。今後オシアを聴くたびにぼくは、飯島さんとZEROのことを思い出すだろう。

Disc Shop Zeroの飯島直樹さん、ご逝去の報 - ele-king

 下北沢のレコード店、Disc Shop Zeroの飯島直樹さんが12日深夜に急逝された。肺がんだったそうだ。夜中の3時過ぎにロンドの高橋勇人から聞かされて、耳を疑った。しかし、本当のことのようだった。


 飯島さんの功績はあまりにも大きく、また、これからの日本のシーンにおいても絶対不可欠な存在だった。悲しみは深く、飯島さんの損失は本当に本当に大きい。昨年の11月、エレキング年末号のDUB特集の相談に行ったのが最後になってしまった。そのときはまったくいつもの飯島さんで、オシアのカセットを教えてもらって購入した。「ピッグバッグのサックスが参加しているんですよ」なんて、嬉しそうに話していた。Mars89のカセットも飯島さんに教えてもらったし、飯島さんはつねに先生だった。本当にありがとうございました。しかし、これはきついな。(野田努)

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