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Tunes Of Negation

DroneMinimalPsychedelictribal

Tunes Of Negation

Reach The Endless Sea

Cosmo Rhythmatic / Pヴァイン

Tower HMV Amazon

小林拓音   Jan 07,2020 UP
E王

 年明け早々から大変なことが起こっている。いや、緊張それじたいはもっとまえからはじまっていたので、たんにわれわれが他者に無関心すぎるだけというか、ようするに今回は日本における中東の報道の非対称性があらためて浮き彫りになったということなのかもしれないけれど、個人的に昨年もっともよく聴いたアルバムがイランの電子音楽家ソウトによる「生を破壊する傲慢とそれにたいする抵抗のサウンドトラック」だったこともあり、そしてちょうど年末に同作を聴き返したばかりだったこともあり、なにか絶対的な存在から啓示を受けているような気がしてならない。あるいはラファウンダのルーツもイラン(とエジプト)だし、ふだん好きで動向を追っかけている音楽たちが、ここ数日、なにかのしるしのように再浮上してきているのだ。シャックルトンの新作もそのしるしのひとつだった。
 00年代半ばにダブステップの隆盛と連動するかたちで頭角をあらわし、以後ミニマル・ミュージックやアジア~アフリカの音楽を貪欲に吸収、独自に昇華させていったサム・シャックルトン。彼自身はイングランドのランカシャー出身だけれども、その新作『Reach The Endless Sea』のタイトルは、13世紀スーフィズムの詩人、ジャラール・ウッディーン・ルーミーの詩に由来している。ルーミーが生涯の大半を過ごした地は現在のトルコにあたるが、彼はペルシア文学の巨星としてイラン文化にも大きな足跡を残している。

 おそろしいほどに毎度マンネリとは無縁なサウンドを届けてくれるシャックルトンだけれど、「否定の曲たち」という意味深な名を与えられた今回のチューンズ・オブ・ネゲイションは、タクミ・モトカワ(鍵盤/パーカッション)およびラファエル・マイナー(マレット)とのコラボレイション・プロジェクトである(+ヴォーカルで、〈Editions Mego〉からもリリースのあるヘザー・リーが2曲に参加)。シャックルトンらしいトリッピーでトライバルな感覚はそのままに、オルガン(好きですね)や鉄琴の音色、3を強調した(ポリ)リズムが全体のムードを決定づけており、バンド内の有機的な衝突が最大の聴きどころとなっている。
 冒頭 “The World Is A Stage / Reach The Endless Sea” ではヘザー・リーの歌と宗教的な響きの鍵盤が全体を支配しているものの、途中で強烈なパーカッションに主導権を奪われてもいる。続く “Tundra Erotic” では、おなじく鍵盤とパーカッションによって生成される催眠的な空間のなかで、どことなく OPN のエディット法を思わせる声の断片たちが幽霊のように顔をのぞかせている。“Rückschlag / Rising, Then Resonant” におけるインド古典音楽の要素やくぐもった音のかたまり、“The Time Has Come” のドローンなどにも目を見張るものがあるけれど、もっともキラーなのは先行シングル曲 “Nowhere Ending Sky” だろう。作曲に参加したモトカワの手によるものかもしれないが、2分過ぎに差し挟まれるメロディがじつにもの憂げで、すぐに過ぎ去ってしまうそのキャッチーな旋律を、背後のミニマリズムや後半のドローンが強固に脳裏に刻みつける仕組みになっている。

 しかし、『無限の海への到達』とはなにを意味するのだろう。レーベルのインフォによればそれは、シャックルトン本人が音楽で成し遂げたいことらしい。いわく、「変化を促し、光のなかへと入りこむこと」。ルーミーが開いたトルコのメヴレヴィー教団は、スカートをなびかせながら回転する舞踏で知られているが、かつてルーミーの作品をフィリップ・グラスがオペラ化していたことも合わせて考えると、シャックルトンもまたそのくるくるまわることで神に接近するという発想に、自身のミニマリズムを重ねあわせているのかもしれない。反復こそが互いのちがいを際立たせるのであり、すなわち他者へ到達するための契機なのだ、と。

小林拓音