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野田 努   Jan 27,2011 UP
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E王

 ついに......(アマゾンによれば)2月7日発売予定のジェームス・ブレイクのアルバムを聴いた。ブリアルの"アーチェンジェル"を契機にはじまったと言えるポスト・ダブステップにおいて、ジェームス・ブレイクはその闇のなかのトップランナーだ。ブリアルの背中を見ながら、しかしブリアルとは別の領域を開拓している。ダークスターがシンセ・ポップでやったことをジェームス・ブレイクはR&Bでやっている......とも言える。いわば死のR&B、祝祭的な愛の歌の裏側に広がる墨汁のように真っ暗な世界のR&B......である。それを思えばシャックルトンの闇はいくぶんお茶目だ。ハロウィーンであり、妖怪大戦争であり、お化け屋敷であり......ダブステップとミニマル・テクノを最初に繋げたと言われる2007年のリカルド・ヴィラロボスによるリミックス・ヴァージョンの名前が"アポカリプソ・ナウ・ミックス"(地獄の黙示録の駄洒落)だったように、彼には微妙なユーモアがあるにはある。

 シャックルトンは......ダブステップのオリジネイターたちの排他主義の外側からやって来たイノヴェイターだ。この一匹狼は、2005年にアップルブリムと共同で設立した〈スカル・ディスコ〉を拠点として、早くからテクノとの接続を試みている。スキューバと連動し、そしてリカルド・ヴィラロボスと重要な繋がりを持った。ミックスCD『Fabric55』は、全22曲が彼のオリジナルであり(いくつか未発表もある)、そういう点でも、あるいまたこの音楽がミニマル・テクノの発展型であるという意味においても、いまのところ同シリーズでもっとも評場の良かったヴィラロボスによる『Fabric 36』と対比されるであろうアルバムである。

 彼の怪奇趣味を反映した曲名やヴィジュアルはさておき、シャックルトンの音楽を特徴づけるのは多彩なアフロ・パーカッションとそのポリリズム、ダブのベースライン、そして不気味きわまりない亡霊の声だ。ホラー映画を楽しむ人なら問題なくこのトリップ・ミュージックを面白がるだろう。もっとも前半のハイライトである"後ろ向きの思考"~"死は終わりにあらず"~"死の男"あたりの薄気味悪さに驚いているようではないダメだ。その先の、"ストリングスの男"~"氷"~"破壊された精神"における魑魅魍魎のトランス・サウンドによる目眩こそがこのCDの本当の醍醐味である。メロディはほとんどない、不協和音というよりはパーカッションと効果音のコンビネーションによるミニマル・テクノで、昨年来日したときのDJもこんなにすごかったっけ? と思ったほどすごい。果てしなきバッド・トリップの荒野だ。

 そういえば〈モジュール〉に来たときに本人に「ハルモニアのリミックスが良かったよ」と言ったら、しばらくクラウトロックについて熱心に話してくれた。まわりがうるさくて何を言っているのかわからなかったけれど、この音楽の背後からホルガー・シューカイとポポル・ヴーと、あるいはジャー・ウォーブルなんかを引き出すのは難しいことではない。......だとしても、このミックスCDが差し出すのはポップの実験主義ではなく、われわれを縮み上がらせるための恐怖である。

野田 努