「IR」と一致するもの

Alva Noto - ele-king

 アルヴァ・ノトの新作情報がアナウンスされている。タイトルは『Kinder Der Sonne』で自身のレーベル〈NOTON〉より5月5日リリース……とのことなのだけれど、収録される14曲はスイスの作家サイモン・ストーンによる舞台作品『Komplizen』のために2021年に作曲されたものだという。
 タイトルの『Kinder Der Sonne』は英訳すると『Children Of Sun』で、文豪ゴーリキーがロシア革命の年にものした戯曲『太陽の子』に由来している。どうやらサウンドのほうも登場人物たちが遵守したり抵抗したりしている複雑な社会規範を反映しているようだ。
 現在、リード・トラックの “Die Untergründigen(=アンダーグラウンド)” が公開中。演劇作品ともども注目しておきたい。

artist: Alva Noto
title: Kinder Der Sonne
label: NOTON
format: CD, Digital, Vinyl
release: 5 May 2023

01. Kinder Der Sonne - Intro
02. Verlauf
03. Die Untergründigen
04. Sehnsuchtsvoll
05. Ungewissheit Im Sinus
06. Kinder Der Sonne - Reprise
07. Unwohl
08. Sehnsuchtsvoll - Reverso
09. Ungewiss
10. Aufstand
11. Die Untergründigen - Redux
12. Virus
13. Son
14. Nie Anhaltender Strom

https://noton.info/product/n-058/

interview with Shuhei Kato (SADFRANK) - ele-king

 成功したバンドのフロントマンがソロでレコードを作るとき、あるいはパンクを出自にするミュージシャンがその表現を深化させ変化させていくとき、どのような道筋が考えられるのか。そんな正解のない難題に対して、NOT WONKの加藤修平は、エルヴィス・コステロやポール・ウェラーの例を引きながら答えてくれた。加藤によるソロ・プロジェクト、SADFRANKのファースト・アルバム『gel』は、2023年におけるその回答として差し出されている。

 それにしても、SADFRANKの音楽やここでの加藤の表現は、NOT WONKのそれとはまったく異なっている。いま日本で最も忙しいドラマーの石若駿、ゆうらん船などで活躍するベーシストの本村拓磨、そして映画音楽からファッション・ショー、舞台芸術、インスタレーションなどの領域を横断する音楽家の香田悠真の3人を中心にしたバンドの演奏も、印象的なストリングスのアレンジメントもそうだし、なにより加藤は日本語で歌っている。それでも、NOT WONKがこの数年で遂げてきた変化を踏まえると、突飛なものには思えない自然さと説得力がここにはあって、それはNOT WONKのリスナーをけっして拒絶するようなものではなく、むしろ迎え入れる懐の深さと両者の表現を結びつける確信が感じられる。そして加藤は、SADFRANKとNOT WONKとでやっていることはまったく同じだ、とまで言い切ってみせる。

 くるりの岸田繁からthe hatchの宮崎良研、松丸契、んoonのYuko Uesu、NABOWAの山本啓まで、新旧の仲間たちがひとつの点に合流した『gel』は、加藤が新しい海に飛び込んだよろこびが詰められたみずみずしい果実のようでいて、「目の前にどかっと座って歌っている」ような親密な作品でもある。この豊穣な音楽は、どのようにして生まれたのか。加藤にじっくり聞いた。

日本語で歌いてえな、というザックリした欲求があって(笑)。ただ、日本語で歌詞を書いたことは一回もなかったので、どうしたらいいかわからなかったんです。

SADFRANKというプロジェクトのはじまりはいつなのでしょう? 2020年10月11日にリリースしたエディット・ピアフの “愛の讃歌” のカヴァー “Hymn To Love (Hymne à l'amour CM Version)” ですか?

加藤:その前からSADFRANKという名前で、ひとりでライヴをしたことは何度かあったんです。苫小牧でのライヴだったり、jan and naomiが札幌に来たときのサポート・アクトだったり。カヴァーや、ギターを即興で弾くパフォーマンスを僕ひとりでやるときの名前でしたね。それでLevi’sの広告の音楽を担当することになって、“Hymn To Love” をカヴァーしたんです。でもじつは、石若くんや悠真くんと最初にレコーディングしたのはそれより少し前ですね。

ドラムに石若駿くん、キーボードに香田悠真さん、ベースに本村拓磨さん、というのが今回の「コアメンバー」とされています。そのメンバーでセッションをはじめたきっかけは?

加藤:日本語で歌いてえな、というザックリした欲求があって(笑)。ただ、日本語で歌詞を書いたことは一回もなかったので、どうしたらいいかわからなかったんです。それを形にしようと思ったときにパッと思い浮かんだ人たちに声をかけた、というシンプルな流れでした。

NOT WONKで日本語詞を歌うことは考えなかったのでしょうか?

加藤:言われてみたら、NOT WONKでやるイメージは、そのタイミングではまったくなかったですね。そんなわけねえなと。NOT WONKは僕だけのバンドじゃなくて、他のふたり──フジとアキムありきで3人でやっているバンド、というのがまずあって、年々、その気持ちが高まっているんですね。「日本語で歌ってみたい、日本語で表現したい」という気持ちは、もっと私的でプライヴェートな気持ちだという気がしているんです。それをバンドで消化することに、そのときは違和感があって。

石若くん、香田さん、本村さんとの共演経験はあったんですか?

加藤:本村くんはもともとGateballersというバンドをやっていて、その頃から好きで演奏を見ていました。共演したときにちょっと話す程度でしたね。石若くんと悠真くんとは面識がなくて、石若くんは演奏が好きだったから自分からメールしたんです。悠真くんは、当初一緒に制作する予定だったエンジニアの葛西敏彦さんの紹介で知りました。ピアノを弾ける人や自分のやりたいことを音楽的に汲み取ってくれるような人が僕の周囲のバンドマンでは思い浮かばなくて、スタジオ・ミュージシャンに頼むのも違和感があったので、葛西さんに相談したんです。葛西さんの推薦で初めて悠真くんの作品を聴いて、「もう、この人だろう」って感じて。

「僕がUKジャズのつもりで書いた曲を石若駿が叩いたらどうなるんだろう?」という興味がめっちゃあって。

『gel』を聴いていると、石若くんや本村さんはもちろんですが、香田さんの役割は大きいのだろうなと感じました。

加藤:ハーモニー担当みたいな感じで関わってくれたんです。悠真くんはアカデミックな道を通ってきてはいるけれど、音楽に対する姿勢は僕とかなり通じるところがあって。僕は和声の理論とかはまったく勉強してこなかったので、そこをふたりで話し合ってアレンジメントや曲のカラーのつけ方を決めていきました。ストリングス・アレンジを岸田さんにやってもらった曲が一曲ありますが(“I Warned You”)、それ以外の楽器のアレンジは悠真くんとふたりで詰めていったんです。僕がいままで「理由や根拠はないけど、これがいいと思う」と感覚的にやっていたことを、悠真くんに根拠づけしてもらいました。悠真くんは、メンター的な感じでいてくれましたね。やっぱピアニストというか、楽譜を書く人にしかわからない音の見え方があるんだなって、彼の仕事を横で見ていて思いました。

“肌色” や “最後”、“the battler” では、加藤さんがピアノを弾いていますよね。ピアノはもともと弾いていたんですか?

加藤:幼稚園や小学校の頃、教室に通ったことはありましたが、教則本がつまらなくてやめて(笑)。なので、ぜんぜん弾けないんです。SADFRANKをはじめたいと思ったとき、「ピアノを弾けるようになったらいいな」くらいの気持ちで鍵盤を買って、白鍵に「ドレミファソラシド」とマジックで書いて練習をはじめました。ギターを持ちながら和音を探す作業を3年くらい続けましたね。ギターとピアノはそもそも構造的にちがうから、別の考え方をしないといけないんだなって。

このアルバムの曲は、ピアノで書いているんですか?

加藤:ギターで作った曲は3曲目(“I Warned You”)と4曲目(“per se”)くらいですね。そもそも「ギターと距離を取りたい」みたいなことが今回、裏テーマ的にあったんです。それは「ギターが嫌だ」とか、そういうことじゃなくて。自分自身のキャラクターとして「NOT WONKでギターを弾いて歌っている」というのがあるので、「自分の音楽の表現ってそれだけでいいのかな?」と疑問があったんです。なので、普段使っている方法を手放すとか、あるいは「歌わない」とか、そういうことは自分から離れる手段として選んだって感じですね。

個人の表現をするにあたって得意なことを全面化せず、そこから離れて新しいところを開拓した、というのはおもしろいですね。

加藤:そもそも自分は何が得意なのかとか、たいしてわかっていないのかもしれなくて。得意なことを活かそうとすると、楽なことを選択しがちじゃないですか。でも、必ずしも得意なことが楽なこととは限らない。それに、ピアノを弾いてみたら、そっちのハーモニーのほうが好きだった、ということも多かったので。「加藤くんは声がいい」とか「NOT WONKはギターがデカくてかっこいい」とか、他人の印象やイメージを自分で自分に貼り付けちゃうのは危険だな、とも思っているんです。自分を定義しないでやっていくほうが、自分を殺さないで済むかなって。

アルバムの制作に関しては、Bigfish Soundsの柏井日向さんが録音とミキシングを担当していますね。

加藤:NOT WONKの『Down the Valley』を一緒に作ったのも、柏井さんからの「俺にやらせて」という提案がきっかけだったんです。次の『dimen』はイリシット・ツボイさんと主にやったんですけど、一曲(“slow burning”)は柏井さんにミックスしてもらいました。柏井さんは以前から「何かやれることがあったら言ってね」と言ってくださっていたので、その言葉にありがたく甘えさせてもらった感じですね。

サウンド面の印象や音楽的なトライは、NOT WONKとはだいぶちがっていますよね。パンクやロックからかなり離れていますし、ジャズなどの要素が入っています。

加藤:もともと、「これはNOT WONKではできないな」と感じる曲はいっぱいあったんです。でも、「これは3人でやるおもしろさがあるだろう」っていう曲にトライしていくのがNOT WONKの基本理念でもあって。それでもあぶれちゃったものは、ひとりでも活動するようになってからは「SADFRANKでやったほうがいいだろう」と判断したり。あと、メンバーが固まってからは彼らに当て書きした曲もあって、いろいろですね。NOT WONKと差をつけようという気持ちはなくて、アレンジ次第でどっちでもできると思っています。基本的には一緒ですね。

現在のUKジャズやコンテンポラリー・ジャズとの繋がりを感じる曲がありますよね。5曲目の“瓊 (nice things floating)”は石若くんのビートを編集したものだそうですが、マカヤ・マクレイヴンジェフ・パーカーの姿勢に通じるところがあります。

加藤:そうですね。僕、ドラマーがめっちゃ好きなんです。石若くんのプレイって、本人は意識していないでしょうけど、そのへんのドラマーと比べたら圧倒的に勝っちゃうじゃないですか。完全に確立されていて、ああだこうだ言う必要がない。そういうことを考えていたので、「僕がUKジャズのつもりで書いた曲を石若駿が叩いたらどうなるんだろう?」という興味がめっちゃあって。“offshore” は、そういう意図で書いた曲ですね。“瓊” は、そもそも全然ちがう拍子の曲をレコーディングしていて、途中で飽きちゃったので、ちがう曲にしようと思って作った曲です。石若くんのドラムをチョップしたり、キックに音色がついているからキックの音をキーにしたりして作っています。この2曲は、石若駿ありきで作った感じですね。

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ボサノヴァって当時のことを考えると、めっちゃパンクじゃないですか?

先ほどドラマーが好きだとおっしゃっていましたが、どんなドラマーが好きなんですか?

加藤:2018年頃にユセフ・デイズにハマって、ゴスペル・チョップス系のドラマーをインスタとかで超見ていたんです。ジャズ・ドラマーじゃなくても「スネアがめっちゃいい感じにポケットに入ってくる」みたいな人とか、無名でもいいドラマーがいっぱいいるんですよ。それを「この感じさ〜」とか言って、NOT WONKのメンバーに聴かせて曲を作ることもしていました。

SADFRANKには、ユセフ・デイズがやっていたユセフ・カマールのフィーリングを感じました。

加藤:あ〜。ジャズをダンス・ミュージックとして捉えたときの揺らぎ、みたいな……。シャッフル(・ビート)って、そもそも揺らぎじゃないですか。それを、キックを4つにしたり硬くドラムを叩いて人間味を殺したり、そのバランスをうまいことやれる人が好きで。ユセフ・デイズも「最初からサンプリングされたドラム」みたいな感じで叩ける人ですし、そういうフィールがある人が好きですね。ハイエイタス・カイヨーテのドラマー(ペリン・モス)も好きで、ソロ作もいいですよね。

もうひとつ音楽的な面では、『gel』ではストリングスが重要な役割を果たしていますよね。

加藤:ストリングスは、けっこう必然性を感じましたね。(エルヴィス・)コステロがもともとめちゃくちゃ好きで、バート・バカラックと一緒に作ったアルバム(『Painted from Memory』)がすごく好きなんです。ファースト・アルバムから考えたら、彼って信じられないような音楽的な変遷をたどっていますよね。たとえば、ポール・ウェラーがスタイル・カウンシルをやったのもいい例だと思うんですけど。でも、日本の音楽で考えると、売れたロック・バンドのヴォーカルのやつがソロ活動をはじめたら大層なストリングス・アレンジが入っていて台無しになっている、みたいな歴史ってあるじゃないですか。ストリングスってそういう感じでしか使われてこなくて、しかもクラシックの人がJポップを大味に捉えたものが多いので、よかった試しがあんまりないなと思って。でも、コステロとバカラックのアルバムではすごくうまいことやっていて、ちゃんとかっこよくなっているよなって。それで、自分もトライしてみたくなったんです。

なるほど。

加藤:“I Warned You” は、わりと最初のほうに作っていた曲ですね。くるりの岸田さんが「NOT WONK、いいね」と言ってくれて、ライヴに招待してくださったことがあって、札幌のライヴを見に行ったあと、音博(京都音楽博覧会)にも遊びに行って、打ち上げの席で岸田さんとふたりで話す機会があったんですよ。それで「SADFRANKっていうのをはじめるんです」と話したら、「ストリングスのアレンジ、俺やるで!」と言ってくださったので、「じゃあ、お願いします!」と頼んだんです。アレンジメントをする人と作曲者が分かれているっていうのはやってみたかったことでもあったので、このアルバムはわりとストリングスありきで最初からイメージしていました。

ロック・バンドをやっていたやつが急にソロをはじめたと思ったら、バンドではやっていなかった私的なことや優しい音楽に手を出したり、ちょっと色気を出してみたり──そういうのは、いままで繰り返されてきた失敗の歴史だろって僕は感じていて。絶対にそういうことをやりたくなかった。

徳澤青弦さんのカルテットによる演奏もあって、Jポップ的なベタッとしたストリングスとはちがうスリリングで豊穣なものになっていますね。

加藤:そうですね。“Quai” は悠真くんのストリングス・アレンジで、“per se” は基本的に僕がアレンジしました。“per se” のストリングスはNABOWAの山本(啓)さんが入れてくださったんですけど、遠隔で録音していて「思いついたから入れてみたよ」と弾いてくださったのがすごくよかったから、そのまま使っているパートもあります。弦が入っているとはいえ、3曲ともアレンジした人はちがうんですよね。

一方で “最後” にはフィールド・レコーディングやオブジェクト音、ノイズが入っていて、それがかなりおもしろいです。これは、yoneyuさんが入れたものなのでしょうか?

加藤:基本的には僕が全部やっていて、エディットも僕がやっています。yoneyuは札幌のDJなんですけど、ほとんどすべてのアレンジが終わった段階でyoneyuに聴かせて、「この2ミックスに対して、yoneyuのプレイを録ってみて」と投げて、戻してもらったのを僕が再エディットしました。

非楽音を入れる発想は、どこから出てきたんですか?

加藤:“最後” は、曲自体はけっこう前からあって、弾き語りでやったりしていたんですけど、レコーディング自体は制作の終盤にやったんですね。だんだんPro Toolsで普通に録ることに飽きてきて、「せっかくみんなで集まっているのに、デモどおりに演奏するのっておもしろくねえな」と思って。それで一発録りすることにして、歌も演奏も「せーの」で録ったテイクを使ったんです。音楽を作るうえで絶対的なパワーを持っている権威的なもの──小節とかグリッドとかトニックとかキーとか、そういうものから離れたい気持ちがあったんですね。だから、自然とメロディがついてない音が入ってきたり、メロディがついているものとついていないものを並列に扱ったり、そのこと自体が自分にとってわりと大事でした。

自分が何かを受け取ったときの気持ちを再現するためには、必ずしもそれとまったく同じものを作る必要がないと思っているんです。何かを再現することと、何かを写実的に綺麗にデッサンするっていうことは、まったくちがうことだと思っているので。

では今回、ギタリストとしてはどうでしたか? プレイや音色は、ピューマ・ブルーのトーンに近いものを感じました。

加藤:ジャズについてはもう門外漢どころの話じゃないくらい何もわからないし、あまりにも「ジャズ、ジャズ」って言われるのも嫌だな、みたいな感じもありつつ。ただ、録音物としてのロック・バンドの音源があんまりおもしろく感じなくなってきている事実も、自分の中にあるんです。それは、おおよそギターのせいだなって(笑)。というのも、いいギターが録音されている音源って、ギターがはっきり聞こえるんだけど、レンジを食っていないぶん、他の楽器にパワーを割けている側面があるんですね。ビッグ・シーフの新作(『Dragon New Warm Mountain I Believe in You』)なんかもそうで、アコギも入ってるけど、エレキの音色がじつはピューマ・ブルーの質感に近かったりするんです。そういう音の鳴らし方、エレキ・ギターの置き方、音のスペースの作り方を意識したので、ギターがミッド・レンジをガッツリ食っちゃって他の楽器の音の置き場がなくなる、みたいにはしたくなかったんですね。そういうサウンド・デザインのイメージが、先立ってありました。ギターの録音っておおよそいちばん最後なので、自分で作ったスポットにハマるようにギターを弾いていったっていう感じですね。

あくまでも他の楽器のほうが主役、ということですか?

加藤:う〜ん。とはいえ、最終的にギターが入ってくるよろこびって、かなりデカいんですよ(笑)。だから、重要度ではもしかしたら他の楽器のほうが単純にレヴェルの面で勝っている部分はあるんですけど、画竜点睛として最後に僕のギターを入れておしまい、みたいなところはある。だから、欠かせないパーツではありながらも、あからさまに目立っていたり、大きなレヴェルで入っていたりすることはない。でも今回、ギターは絶対に必要だったと思います。

“per se” は異色な曲で、ボサノヴァがベースになっているじゃないですか。ブラジル音楽は、加藤さんの音楽的なヴォキャブラリーとして持っていたものなんですか?

加藤:なんとなく好きで聴いている音楽がブラジルの音楽だった、みたいなことがけっこうあったんですね。ケイトラナダがガル・コスタをサンプリングしている曲(“Lite Spots”)があるじゃないですか。それで「これがガル・コスタか」と思って聴きはじめたら、かっこよくてハマっちゃったんです。最初は、そういう「どこをサンプリングできるか」みたいな感じで聴いていたかもしれません。でも、シンプルにどんどんハマっていって、ジョアン・ジルベルトやカエターノ・ヴェローゾを聴いたりして。あと、バッドバッドノットグッドのアルバム(『Talk Memory』)にアルトゥール・ヴェロカイが参加していて、そのへんを聴いたのも自然な流れでしたね。それに、ボサノヴァって当時のことを考えると、めっちゃパンクじゃないですか?

当時、既存の音楽に対する「新しい潮流(ボサノヴァ)」だったわけですからね。

加藤:あの軽快さとか優しさとか室内楽的に聞こえる感じとかって、何かに抑えつけられていたからこそのものじゃないですか。それで、小さい音しか出ないガット・ギターと小さい音のドラム、小さい声の歌にみんなが耳を傾けているっていう。そういう音楽の強さみたいなものをめっちゃ感じていて、それを自分でやってみたかったんです。

リリックについてはいかがですか? かなり抽象的に感じましたが、NOT WONKよりも生活感やパーソナルな感覚があると思いました。ラヴ・ソングも印象的で、優しさが通底しているように感じます。

加藤:日本語詞を書いたことがなかったので、どういう詞を書きたいとか、どういう歌を歌いたいとかって、最初はあんまりイメージがなかったんです。でも、“肌色” や “Quai” を作っていたとき、日本語の歌詞とメロディが一緒に出てくることがあって。「この言葉の意味は一体なんなんだろう?」って、出てきたものをあとから考えていきました。嫌な言葉や歌いたくない言葉は、自分から出てこないはずじゃないですか。だから、「なんでこの言葉をいいと思えているんだろう?」と理由を探っていって、「この言葉がいまの自分の考えや気持ちを表現するにあたっていちばん適切な言葉だと思える」という確信をもって歌ったので、個人的にはめちゃくちゃ具体的な歌詞が並んでいると思っています。それが、今回のアルバムの肝でもあるんですよね。ある人が聴いたときに抽象的に思えても、それがすべての人にとって抽象的かどうかは別の話じゃないですか。「ストレートに感じられる」とされる歌詞の意味がわからないっていうことが、むしろ僕はあったりするんです。「メッセージを額面どおりに捉えていいのか、これは?」と思うようなことがあって、言葉とその意味や内容が必ずしもイコールにはならない気がするんです。とはいえ、表現なので、僕が何を伝えたかったかという以上に、聴いた人が受け取った意味のほうが正解だと思う。ただ、僕はこの言葉がいいと思ったし、歌詞を書いたタイミングで思ったことを如実に表すためにはこの言葉が必要だったと感じますね。

当時の感情やその時々の出来事が直接反映されているのでしょうか?

加藤:そうかもしれないですね。でも、内省的なものでもないし、独り言を書いているつもりもなくて。言いたいこと、歌いたいことは、NOT WONKと変わらないかもしれないですね。

「NOT WONKもSADFRANKも元のハートが一緒」(https://twitter.com/sadbuttokay/status/1602985525174218752?s=20)とツイートしていましたよね。

加藤:それは、ありがちな話になったら嫌だなっていうのがあって。ストリングスの話にも似ていますが、ロック・バンドをやっていたやつが急にソロをはじめたと思ったら、バンドではやっていなかった私的なことや優しい音楽に手を出したり、ちょっと色気を出してみたり──そういうのは、いままで繰り返されてきた失敗の歴史だろって僕は感じていて。絶対にそういうことをやりたくなかった、っていうのが先立ってあったんです。NOT WONKでやりたいことのひとつに、自分が最初にパンクを好きになった瞬間の気持ちを再現する、みたいなのがあるんです。それは、過去の音楽を再現するとか、「70sの感じを出したいからギターをこういうふうに歪ませる」とか、そういう話じゃなくて。自分が何かを受け取ったときの気持ちを再現するためには、必ずしもそれとまったく同じものを作る必要がないと思っているんです。何かを再現することと何かを写実的に綺麗にデッサンするっていうことは、まったくちがうことだと思っているので。そういう意味では、今回のSADFRANKのアルバムもNOT WONKの作品と同じなんですね。最初にパンクのライヴを見に行ったときの感覚とか、メガ・シティ・フォーの歌詞の意味を調べていたら「これはまちがいなく俺のために歌っている」って確信したときの気持ちとか──そういうことを再現しようと思ったときに僕がいま使いたかったのが、ストリングスだったり日本語詞だったり歌のない曲だったりピアノだったりしたっていう。だから、NOT WONKのファースト・アルバムで表現していることや、NOT WONKの普段のライヴでギターを爆音で鳴らしていることと、ピアノを優しく弾いて歌うことは、本来の意味では同じなんです。まったく同じことをやっていると思いますね。

いままではミックスで「ギターより下にしてください」なんて言っていたんですけど、今回は「歌っているやつの顔をデカくしてください」というオーダーをしたんです。相手の胸ぐらをつかんでいる感じが出ましたね。

なるほど。では、日本語詞を書くにあたって、何か参考にしたものはありますか?

加藤:それこそele-kingの取材で野田(努)さんにインタヴューしていただいたときに(『ele-king vol.24』)、「加藤くんって好きな日本語の歌詞あるの?」と聞かれたんですけど、答えられなくて(笑)。もちろん、日本語で歌われている曲で好きな曲はいっぱいあるんですよ。当時の所属レーベルだった〈KiliKiliVilla〉の与田(太郎)さんにも「(bloodthirsty)butchersとか札幌のバンドのKIWIROLLとか、なんかあるでしょ」って言われたんですけど、聞かれたときにパッと出てこなかった理由も自分にはそれなりにあるはずだなと思って。なので、butchersやKIWIROLL、あとGEZAN踊って(ばかりの国)もカネコアヤノも中島みゆきも歌詞は大好きだけど、参考にするというより、とにかく彼らと似ないようにしようって気にしていましたね。

日本語詞で歌うことで、宛先が変わった印象はありますか?

加藤:鋭くなった感じはしますね。「お前に言ってます」って感じがある(笑)。NOT WONKの歌詞はもうちょっとレンジが広いような気がするけど、日本語詞は「これで伝わらなかったら嘘だな」という感じがするので。目の前にどかっと座って歌っているような感じがあるんです。

SADFRANKの歌詞は、言葉が生々しいですよね。すっと切り出されものが、そのまま差し出されている感じで。

加藤:自分は意外にそういう人間なんだなって思いましたね。大事なことから話していく、みたいな。せっかちなのかもしれない(笑)。

その意味では、SADFRANKはリスナーにより近くて、加藤さんというひとりの人間の姿が強く表れている感じがします。

加藤:このアルバム、ヴォーカルがデカいじゃないですか。デカくしたいなって思ったんですよ。いままではミックスで「ギターより下にしてください」なんて言っていたんですけど、今回は「歌っているやつの顔をデカくしてください」というオーダーをしたんです。相手の胸ぐらをつかんでいる感じが出ましたね。

ヴォーカリゼーションの面でもストレートに朗々と歌っているシーンが多くて、それが歌の大きさと近さに寄与していると思いました。

加藤:そもそも、これまでと全然ちがうメロディが出てきたんです。それは、たぶん言葉に引っ張られたんだろうなって。いままでNOT WONKでは絶対にできなかったメロディが急に歌えたりとか、ナシにしてきたことがアリになったりとか、そういう裏返しが起こったので、自分は意外に奥深いんだなって思いましたね(笑)。

今後もSADFRANKとしての活動は継続していくんですか?

加藤:まだやりたいことが結構ありますね。NOT WONKでも同じくらいやりたいことがありますし。いままで12年間、苫小牧で、ライヴハウスで偶然出会ったやつらとしか音楽をやったことがなかったので、今回、風呂敷を一気に広げて、これだけすごいミュージシャンたちと音楽を一緒に作れたのはすごくよかったんですよ、やっぱり。でも、フジとアキムがSADFRANKに参加してくれた凄腕プレイヤーたちに比べて劣っているとか、そんなことはまったくなくて。最初はSADFRANKでの制作のフィードバックをNOT WONKに持ち帰れるんじゃないかなって考えていたんですけど、レコーディングを進めていったらフジとアキムのめちゃくちゃいいところを改めて再確認して、「あれはあのふたりにしかできないな」って思った瞬間がいっぱいあったんです。だから、フィードバックっていうよりは、単純に……。

別の表現?

加藤:うん。別の表現として生きているんだってわかりましたね。あと、NOT WONKに対する考え方や捉え方がより鮮明になったというか。3人で10年以上ぼんやりやってきてたけど、NOT WONKにはNOT WONKのよさがかなりあるっぽいぞと(笑)。「もうちょっとやれるはずだ」みたいなことが、もっともっと見えてきたって感じますね。

Matt Kivel × Satomimagae - ele-king

 人と人がつながり、点が線になって、新たな関係が生まれていく──カリフォルニアはサンタモニカ出身、現在は(おそらく)テキサス州オースティンを拠点とするギタリスト、2013年のファースト『Double Exposure』がピッチフォークで高く評価されたシンガー・ソングライターのマット・キヴェル。温かなアコースティック・ギター・サウンドで魅せる彼(以前はプリンストンというバンドでも活躍)は、東京のアンビエント・フォーク・シンガー、サトミマガエが『Hanazono』(2021)を出したとき、彼女にコンタクトをとったのだそうだ。どうやらそこから交流がスタートしたらしく……というわけで、USの注目のSSWによる初来日公演と、サトミマガエのパフォーマンスを一度に楽しめる夜がやってくる。5月19日(金)@七針。すでに予約が埋まりつつあるとのことなので、お早めに。

Matt Kivel初来日公演@七針〜共演Satomimagae
カリフォルニア州サンタモニカ出身のギタリスト、シンガー・ソングライターで、かつては双子の兄とバンド、Princetonで活動し、ソロになってからはOESB、Woodsist、Driftless Recordings、Cascineなど様々なレーベルから作品をリリースしてきた才人、Matt Kivelの初来日公演が決定致しました。

共演はSatomimagae。彼女が2021年にRVNG Intl.から『Hanazono』をリリースした際にMattが連絡したことをきっかけに交流が始まったとのことです。

Poster artwork: Glen Baldridge | Poster design: Sterling Bartlett

Matt Kivel ~ Satomimagae

日程:2023年5月19日(金)
会場:七針 (map: https://www.ftftftf.com/#map)
時間:OPEN 19:00 / START 19:30
料金:予約 ¥2,300 / 当日 ¥2,800(ご予約が定員に達した場合は当日券の販売はございません)
※チケットのご予約は以下のご予約フォームからお願い致します。

出演:
Matt Kivel
Satomimagae

予約フォーム:https://www.artuniongroup.co.jp/plancha/top/news/matt-kivel-20230519/


Matt Kivel:
カリフォルニア州サンタモニカ出身のギタリスト、シンガー・ソングライター。双子の兄Jesse Kivelとバンド、Princeton(自分たちが育った通りの名前から)を2005年に結成しLAを拠点に2000年代に活動、並行してガレージ・ポップ・バンドGap Dreamのギタリストも務めていた。そして2011年頃、他のバンド活動を休止し、ソロ活動に専念するようになる。最初の作品は限定生産のカセット・テープだったが、2013年にOlde English Spelling Beeレーベルからリリースされたフル・アルバム『Double Exposure』(日本ではRallye Labelから国内盤化)で本格的に活動を開始した。このアルバムのミックスはBonnie “Prince” BillyことWill Oldhamの弟で、Palace BrothersのメンバーであるPaul Oldhamが手がけているが、翌年には彼と共にレコーディングをし、WoodsのJeremy EarlとJarvis Taveniere等が参加したアルバム『Days of Being Wild』をWoodsistからリリースし、2016年には、美しく生々しい『Janus』と、Bonnie “Prince” BillyやFleet FoxesのRobin Pecknoldとのデュエットを収録した長尺の『Fires on the Plain』という2枚の作品をJoel FordとPatrick McDermottが運営するDriftless Recordingsから発表した。そして彼は西海岸からテキサス州オースティン、さらにはニューヨークと頻繁に移動し、オースティンにて5枚目のアルバム『Last Night In America』制作し、2019年にCascineからリリースした。その後はPyl Recordsから2020年にインストゥルメンタルのアンビエント〜ニューエイジ的作品『that day, on the beach』、2022年には再びBonnie “Prince” Billy等が参加した『bend reality ~ like a wave』を発表し、現在も精力的に活動をしている。


Satomimagae:
東京を中心に活動しているアーティスト。ギター、声、ノイズで繊細な曲を紡ぎ、有機的と機械的、個人的と環境的、暖かさと冷たさの間を行き来する変化に富んだフォークを創造している。
彼女の音楽的ルーツは中学生の時にギターを始めたことから始まる。父親がアメリカからテープやCDに入れて持ち帰った古いデルタ・ブルースの影響もあり、10代の頃にはソング・ライティングの実験をするようになる。その後PCを導入したことで、より多くの要素を加えた曲を作ることができるようになり、彼女の孤独な作業はアンサンブルへの愛に後押しされるようにななった。大学で分子生物学を専攻していた時にバンドでベースを弾いていたことから、様々な音の中にいることへの情熱と生き物や自然への情熱が交錯し、それが彼女の音の世界を育んでいったのである。
この間、アンビエント音楽、電子音楽、テクノなどの実験的でヴォーカルのない音楽に没頭するようになり、聴き方の幅が広がっていった。サンプラーを手に入れ、日本のクラブやカフェでのソロライブを始めた。苗字と名字を融合させた「サトミマガエ」は、彼女の独特のフォークトロニックな考察を伝える公式キャラクターとなった。
初期のアンビエント・フォーク・シンセサイザーを集めたファースト・アルバム『awa』(2012年)は、ローファイ/DIYのセルフ・レコーディング技術を駆使した作品である。2枚目のアルバム『Koko』(2014年)では、彼女は控えめでライヴ感のあるパフォーマンスと、フォークの伝統に馴染んだ温かく牧歌的なエネルギーの冷却を追求した。続いて、『Kemri』(2017)では、より豊かな和音とリズムで伝えられる人間的な感覚に触発されて、この効果をバランスよく調整している。彼女の2作品をリリースしたレーベル、White Paddy Mountainとそのディレクター畠山地平の影響を受けて、スタジオ環境の中でよりコンセプチュアルな方向に進むことができたが、彼女の作曲やレコーディングのプロセスは、自分で作ったものであることに変わりはない。
そしてNYの最先鋭レーベル、RVNG Intl.へ移籍してのリリースとなる『Hanazono』では、URAWA Hidekiのエレクトリック・ギターとバード・コールが加わったことで、子供のような魅力を持つSatomiの微細なヴィジョンが融合している。Satomiの姉であり、アルバムやウェブサイトのすべての作品を担ってきたNatsumiの直感的なビジュアルが、温かみのあるものとクールなもの、手作りと機械で作られたものが混ざり合うというSatomiの夢を、彼女の別世界への窓のように機能する木版画で見事に表現している。
2021年には最新アルバム『Hanazono』に由来する繊細な周辺の花びらの配列である“コロイド”を構築した。自身の楽曲から4曲を選曲しリアレンジした『Colloid』を引き続きRVNG Intl.から発表した。2023年には、2012年にセルフリリースしていたデビュー・アルバム『Awa』のリマスター・拡張版『Awa (Expanded)』をRVNG Intl.よりリリースした。

Todd Terje - ele-king

 少しずつ暖かくなっていきますね。春の予定は決まっていますか? そろそろファースト・アルバム『It's Album Time』から10年が経ちそうですが、きたるゴールデンウィーク、ノルウェイからニューディスコの王者トッド・テリエがやってきます。5月3日から6日にかけ岡山、東京、大阪の3都市を巡回するツアー。今回はDJとしてのプレイです。詳細は下記をご確認ください。

Todd Terje Japan Tour 2023

北欧NUディスコシーンの牽引者、Todd Terje (トッド・テリエ)の来日ツアーが決定!
代表作「Inspector Norse」を始め、「Eurodans」「Ragysh」「Snooze 4 Love」「Strandbar」といったヒット作で知られ、米ローリングストーン誌の「世界のトップDJ25人」のひとりに選ばれた。
アルバム『It's Album Time』収録曲「Alfonso Muskedunder」がテレビドラマシリーズ『Better Call Saul』シーズン3・エピソード3で使用されている。
2020年にはイラストレーター、Bendik Kaltenbornによる短編映画『LIKER STILEN』のサウンドトラックを担当した。

Todd Terje Japan Tour 2023

5.3(水/祝) 岡山@YEBISU YA PRO

DJ: Todd Terje (Olsen Records / from Norway) and more

Open 22:00
Advance 4000yen
早割チケット 3/14(火)10:00~ 3/24(金)23:59まで
一般チケット 3/25(土)10:00~
Door 5000yen
早割 3000yen
※ドリンク代別途要

Info: Yebisu Ya Pro http://yebisuyapro.jp
岡山市北区幸町7-6ビブレA館 B1F
TEL 086-222-1015

5.4(木/祝) 東京@ZEROTOKYO
- B4 Z HALL -


Todd Terje (Olsen Records / from Norway)
SPECIAL SECRET GUEST
CYK


REALROCKDESIGN

Open 21:00
Close 4:30
Advance 4500yen
Door 6000yen

Info: ZEROTOKYO https://zerotokyo.jp
東京都新宿区歌舞伎町1-29-1 東急歌舞伎町タワー B1-B4

5.6(土) 大阪@CLUB JOULE

=2F=
DJ:
Todd Terje (Olsen Records / from Norway)
AKIHIRO (NIAGARA)
SSSSSHIN

PA: Kabamix
Lighting: Gekko Abstract

=4F=
DJ:
SISI (Rainbow Disco Club / Timothy Really)
GUCHI (WALLS AND PALS)
misty
Ashikaga (C2C)
MIYUU

FOOD: KitchenMUMU

Open 22:00
Advance 3300yen
Door 4000yen

Info: CLUB JOULE https://club-joule.com
大阪市中央区西心斎橋2-11-7 南炭屋町ビル2F
TEL 06-6214-1223

Total Info: AHB Production http://ahbproduction.com

<アーティスト詳細>
TODD TERJE (Olsen Records / from Norway)

ノルウェー、オスロ在住のプロデューサー/DJ/ソングライターであるTODD TERJE(トッド・テリエ)。
数々の傑作リエディットでその名を知られ、本人によるリエディットやリミックス作品で構成されたベスト盤的コンピレーション&ミックスCD 『Remaster Of The Universe』がリリースされている。リエディットだけでなくオリジナル作品でもその才を発揮し、「Eurodans」「Ragysh」「Snooze 4 Love」はクラブアンセムとなった。『It’s The Arps』EP収録曲、「Inspector Norse」は世界的ヒット作となり、彼の代表曲である。
2014年、ファーストフルアルバム『It's Album Time』をリリース。ソロライブやフルバンドTHE OLSENSを率いてライブ・アクトとしても活動してきた。
2016年、TODD TERJE & THE OLSENS名義でのカヴァーEP『The Big Cover-Up』をリリース。
2020年、今回のツアーイメージを描いたイラストレーター、Bendik Kaltenbornによる短編映画『LIKER STILEN』のサウンドトラックを担当した。

● Todd Terje アーティストリンク
Web http://toddterje.com
Instagram https://www.instagram.com/toddterje
Facebook https://www.facebook.com/ToddTerje
Youtube https://www.youtube.com/@ToddTerje

YUKSTA-ILL - ele-king

 すでに3枚のフル・アルバムを送り出している三重は鈴鹿のラッパー、YUKSTA-ILL。これまで名古屋を拠点とするレーベル〈RCSLUM〉で培った経験をもとに、先日自身のレーベル〈WAVELENGTH PLANT〉を設立することになった彼だが、早速同レーベルより彼自身のニュー・アルバム『MONKEY OFF MY BACK』のリリースがアナウンスされた。
 セカンド『NEO TOKAI ON THE LINE』のときのインタヴューで「アタマからケツまで構成があって起承転結がある作品を作りたかった」との発言を残している YUKSTA-ILL は、単曲でのリリースがスタンダードになった昨今、1曲単位よりもフル・アルバムに強い思いを抱くラッパーである。レーベル設立の告知と同時に公開された新曲 “FIVE COUNT (WAVELENGTH PLANT ver.)” がまたべらぼうにかっこいい一発だっただけに、ひさびさのフルレングスにも期待大だ。新作『MONKEY OFF MY BACK』は4月5日(水)にリリース。フィジカル盤には盟友 DJ 2SHAN によるミックスCDが付属するとのこと。確実にゲットしておきたい。

三重鈴鹿を代表する東海の雄YUKSTA-ILLが4年ぶり4作目のフルアルバムリリースへ
自身の新レーベル「WAVELENGTH PLANT」からTEASER動画&トラックリストを公開

東海地方から全国へ発信を続ける名古屋の名門レーベル「RCSLUM RECORDINGS」で15年間培った経験・知識を地元三重に還元すべく、今月1日に自らのレーベル「WAVELENGTH PLANT」の設立を発表したばかりのYUKSTA-ILL。
同日より配信されている彼のローカルエリアを題材にしたシングル「FIVE COUNT」から間髪入れず、4年ぶり4作目となるフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」を4/5(水)にリリースする。
全13曲からなる今作にはBUPPON、Campanella、WELL-DONE、ALCI、GINMENが客演参加、トラックのプロデュースをMASS-HOLE、OWLBEATS、Kojoe、ISAZ、UCbeatsが担当。
ブレないスタンスをしっかりと維持しつつ、これまでリリースしてきたフルアルバムとはまたひと味違った世界観、アーティストとしての新境地を感じさせる内容の仕上がりとなっている。
尚、配信と同タイミングでリリースされるフィジカル盤には、YUKSTA-ILL自らホストを務めた地元の盟友DJ 2SHANによる白煙に包まれた工業地帯をイメージしたMIXCD「BLUE COLOR STATE OF MIND」が購入特典として付属される。
レーベルより公開されたTeaser動画、及びアルバム情報は以下の通り。

MONKEY OFF MY BACK Album Teaser
https://youtu.be/dpeE46hW7bU

【アルバム情報】
YUKSTA-ILL 4th FULL ALBUM
「MONKEY OFF MY BACK」

Label: WAVELENGTH PLANT
Release: 2023.4.5
Price: 3,000YEN with TAX
(フィジカル盤購入特典付)

{トラックリスト}
01. MONKEY OFF MY BACK
02. MOTOR YUK
03. FOREGONE CONCLUSION
04. GRIND IT OUT
05. JUST A THOUGHT
06. SPIT EAZY
07. OCEAN VIEW INTERLUDE
08. DOUGH RULES EVERYTHING
09. EXPERIMENTAL LABORATORY
10. TIME-LAG
11. BLOOD, SWEAT & TEARS
12. TBA
13. LINGERING MEMORY

{参加アーティスト}
ALCI
BUPPON
Campanella
GINMEN
WELL-DONE

{参加プロデューサー}
ISAZ
Kojoe
MASS-HOLE
OWLBEATS
UCbeats

【作品紹介】
ラッパーはフルアルバムを出してなんぼだ。
USの伝説的ヒップホップマガジン「THE SOURCE」のマイクレートシステムはフルアルバムでないと評価対象にすらならなかった。
派手なシングルや、コンパクトに凝縮されたミニアルバム、客演曲での印象的なバースも勿論良い。
だが、そのラッパーの力量・器量を計る指針となるのはやはりフルアルバムなのである。

三重鈴鹿から東海エリアをREPするYUKSTA-ILLは、まさにそのフルアルバムにかける思いを強く持つ“THE RAPPER”の一人だ。
自らの疑問が残る思想への解答を模索した1st「QUESTIONABLE THOUGHT」、
NEO TOKAIの軌道に乗った己を篩に掛けた2nd「NEO TOKAI ON THE LINE」、
世間を見渡しながらも自身のブレない精神力を全面に押し出した3rd「DEFY」、
これらはすべて明確なコンセプトの下、起承転結を意識して作り込まれたフルサイズのヒップホップアルバムである。

そんな彼が約4年ぶりにフルアルバムを引っ提げて戻ってきた。
「MONKEY OFF MY BACK」と名付けられた4枚目のフルとなる今作は、
立ち上げたばかりの自身のレーベル「WAVELENGTH PLANT」から世に送り出される。

「疫病の影響で時間は有り余る程にあった。その結果、楽曲は大量生産された。
只、アルバムを意識せず制作を続けていたので、まとまりを見いだすのに苦労した」、とは本人の弁。
しかし度重なる挫折と試行錯誤の末、やがてそれは本人の望むまとまった作品へと形を成していった。
その期間中に経験した、成長した、変化した、様々な出来事が楽曲に色濃く反映されたのは言うまでもない。

日々の葛藤、金銭問題、目を背けたくなるネガティビティをアートへ昇華する。
ローカルに身を置き、バスケを嗜み、嫁の待つ家へと帰り、リリックを書く。何気ない日常の描写すらドラマチックに魅せる。
適材適所に散りばめられた客演陣、そして夢見心地なサウンドプロダクションが、何かを始めるにはうってつけのSEASONに拍車をかける。
長い沈黙を破り2020年から2022年にかけフルアルバム4枚リリースの記録的なランを見せてくれたレジェンドNASの様に。
無二の境地に到達したYUKSTA-ILLが今、リスナーの鼓膜に向けてSPITを再開する。

【YUKSTA-ILL PROFILE】
三重県鈴鹿市在住、その地を代表するRAPPER。
バスケットボールカルチャー、SHAQでRAPを知り、何よりALLEN IVERSONからHIP HOPを教わる。
「CLUBで目にしたRAPPERのダサいライヴに耐えきれずマイクジャックをした」
「活動初期のグループB-ZIKで制作したデモを鈴鹿タワレコ内で勝手に配布しまくっていた」
という衝動を忘れることなく、スキルの研鑽と表現の追求、セルフプロモーションを日々重ねる。
2000年代後半はUMB名古屋予選で2度の優勝を果たし、長い沈黙と熟考を経てMCバトルへの参戦を2022年末より解禁。
地元で「AMAZON JUNGLE PARADISE」と称したオープンMICパーティーを平日に開催。
”RACOON CITY”と自称する地元の仲間達と結成したTYRANTの巻き起こしたHARD CORE HIP HOP MOVEMENTはNEO TOKAIという地域を作り出した。
そのトップに君臨するRC SLUMのオリジナルメンバーであり最重要なMCとして知られている。
RC SLUMの社長ATOSONEと共に2009年に「ADDICTIONARY」と題されたMIX CDをリリース。
立て続けに2011年にはP-VINE、WDsoundsとRC SLUMがコンビを組み1stアルバム「QUESTIONABLE THOUGHT」をリリース。その思考と行動を未来まで広げていく。
2013年にはGRADIS NICE、16FLIP、ONE-LAW、BUSHMIND、KID FRESINO、PUNPEEと東京を代表するトラックメーカーとの対決盤EP「TOKYO ILL METHOD」をリリース。YUKSTA-ILLのRAPの確かさを見せつける。
NEO TOKAIの暴風が吹き荒れたSLUM RCによるモンスターポッセアルバム「WHO WANNA RAP」「WHO WANNA RAP 2」を経て、2017年には2ndアルバム「NEO TOKAI ON THE LINE」、
2019年にはダメ押しの3rdアルバム「DEFY」をP-VINE、RC SLUMよりリリース。さらなる高みへと昇っていく。
OWLBEATS、MASS-HOLEとそれぞれ全国ツアーを敢行し、世界を知り、自身をアップデートしていく。
RAPへの絶対的な自信があるからこそ出来るトラック選び、時の経過と共にそこへ美学と遊び心が織り込まれていく。
ISSUGI, 仙人掌, Mr.PUG, YAHIKO, MASS-HOLEと82年のFINESTコレクティブ”1982S”のメンバーとしてシングル「82S/SOUNDTRACK」を2020年にリリース。
世界を覆ったコロナ禍の中「BANNED FROM FLAG EP」「BANNED FROM FLAG EP2」を2020年にリリース。ラッパーとは常に希望の光を灯す存在である。
2021年には自他共に認めるバスケットフリークであるRAMZAと故KOBE BRYANTに捧げる「TORCH / BLACK MAMBA REMIX」を7インチでリリースし、NBA情報誌「ダンクシュート」にも紹介される。
さらに同タッグはシングル「FAR EAST HOOP DREAM」をリリース。B.LEAGUEへの想いを放り込んだ、HIP HOPとバスケットボールの歴史に残るであろう1曲となっている。

”tha BOSS(THA BLUE HERB), DJ RYOW, KOJOE, SOCKS, 仙人掌, ISSUGI,
Campanella, MASS-HOLE, 呂布カルマ, NERO IMAI, BASE, K.lee, MULBE, DNC,
BUSHMIND, DJ MOTORA, MARCO, MIKUMARI, HVSTKINGS, BUPPON, Olive Oil,
RITTO, TONOSAPIENS, UCbeats, OWLBEATS, DJ SEIJI, DJ CO-MA, FACECARZ,
LIFESTYLE, HIRAGEN, ALCI, ハラクダリ, ILL-TEE, BOOTY'N'FREEZ, HI-DEF, J.COLUMBUS,
BACKDROPS, DJ SHARK, TOSHI蝮, GINMEN, MEXMAN, DJ BEERT&Jazadocument, and more..”

HIP HOPだけでなくHARD CORE BANDの作品にも参加。キラーバースの数々を叩きつけている。

2023年、自らのプロダクションWAVELENGTH PLANTを設立。鈴鹿のビートメーカーUCbeatsのプロデュースでリリースしたシングル「FIVE COUNT」に続き、約4年ぶりとなる4枚目のフルアルバム「MONKEY OFF MY BACK」をリリースする。
その目の先にあるものを捉え、言葉を巧みに扱い、次から次へと打ち立てていく。YUKSTA-ILLはまだまだ成長し続ける。

HP : https://wavelengthplant.com
Twitter : https://twitter.com/YUKSTA_ILL
Instagram : https://www.instagram.com/yuksta_ill/
YouTube : https://www.youtube.com/@wavelengthplant

U.S. Girls - ele-king

 ミーガン・レミーはふざけている。いや繰り返し聴いていると一周まわって大真面目なようにも思えるし、描かれるモチーフはつねにシリアスな社会風刺を含んでいるが、何よりも音自体のあっけらかんとしたユーモア感覚が遊戯性を強調しているのだ。近年の彼女のスタイルはジャンルのクリシェをあえて大げさに引用しミックスするもので、20世紀のアメリカの大衆音楽への郷愁と皮肉を同時に立ち上げつつ、それ以上に反射的に笑える。いまや〈4AD〉とサインして以降のポップなイメージが強いため初期のU.S.ガールズのハチャメチャなローファイ音楽は忘れられがちだが、当時よく言われていたのは「意味がわからん」ということだった。で、現在レミーが探求している思いきりキャッチーなポップ音楽にも「意味がわからん」ところがあり、そこがたまらなく痛快だ。

 8作目となる『Bless This Mess』はディスコやエレクトロ・ファンクの色がやけに強く、ダンスフロアを志向したと思われるアルバムだ。奇しくもパンデミック初期(2020年3月)にリリースされることでセッションの喜びを喚起するようだった前作『Heavy Light』に対し、ダンスの現場が復活していることとタイミング的にリンクしていると言える。イメージとして80年代の音をを引っ張り出していることから感覚的にはビビオの最近作『BIB10』のような無邪気さがあるが、U.S.ガールズの本作の場合レミーがパンデミック中に双子を妊娠・出産した経験が反映されているので、そうした人生の慌ただしい変化が大げさなダンス・サウンドにどうやら表現されているようだ。
 引き続き夫のマックス・ターンブルと共同プロデュースで、ホーリー・ゴースト!のアレックス・フランケル、ジェリー・フィッシュのロジャー・マニング・ジュニア、コブラ・スターシップのライランド・ブラッキントン、マーカー・スターリング、ベイシア・ブラット、そしてベックと多彩なコラボレーターが集まっているものの、全体を貫くファンキーなトーンを統率しているのはあくまでレミーそのひとだろう。ゆったりしたテンポのシンセ・ファンク “Only Deadalus” で幕を開けると、続く “Just Space for Light” ではゴージャスなコーラスを引き連れて眩いステージ・ライトを一身に浴びる。前作がデヴィッド・ボウイ的なら本作はプリンス的で、グリッターでセクシーなファンクやR&Bを参照して妖しく弾けてみせる。子どもを産んだばかりの母親がスパンコールをつけたドレスを着てフロアで踊り出したら世間体を気にする人びとはぎょっとするだろうが、もちろんレミーはそんな窮屈な規範をものともせず、ミラーボールのもとで輝いてみせるのだ。やたらキレのいいパーカッションが鳴らされるエレクトロ・ハウス “So Typically Now” はロボット・ダンスが目に浮かぶ直角的なシンセ・リフだけで可笑しいのに、ソウルフルなコーラスが現れると大仰な盛り上がりとともに腹を抱えずにはいられない。

 ただ、その “So Typically Now” がCOVID-19以降の住宅問題をモチーフにしているように、あくまで生活に根差した政治性が含まれているのがU.S.ガールズの神髄でもある。資本主義に対する異議申し立てはそこここに発見できるし、また、フェミニストして母になったレミーはあらためて「母性」に押しつけられた負担や性役割について想いを巡らせている。80年代R&Bのパロディのように妙にキラキラしたバラッド “Bless This Mess” はタイトル・トラックということもあって示唆的だ。アートワークで妊娠した腹を囲む正方形はインスタグラムの投稿のようで、添えられた言葉は「この混乱を祝福せよ」。すべてがSNSで消費される風潮に対する皮肉と、こんな時代に親になることの不安や混乱が入っているのだ。
 それでも、性規範が根強く残っている現代を風刺する “Tux (Your Body Fills Me, Boo)” がタキシードの視点から不満を語るという突飛な設定になっているように、レミーの社会批評はユーモアをけっして忘れない。しかも激ファンキーなディスコ・ナンバーで、だ。レミーは回転しながら手を叩き、「あんたの身体がわたしを満たす、ブー!」と歌う。やっぱり、ふざけているとしか思えない。けれどもその悪戯心は、メチャクチャな時代を生き抜くための武器なのだ。
 スマートフォンの振動を思わせるサウンドで始まる “Pump” は、そこに太いベースラインが入ってくればたちまち愉快なダンス・チューンとなる。慌ただしい生活も殺伐とした社会も、遊び心さえ忘れなければダンスと笑いの種になる。「何も間違ってない/すべてうまくいく/これはただの人生なんだから(“Futures Bet”)」──そして、けっして捨てられないオプティミズム。U.S.ガールズのひょうきんな音楽はいま、冷笑に硬直しそうなわたしたちをまずは踊らせ笑顔にするところから始めようとしている。

Kassem Mosse - ele-king

 ガンナー・ヴェンデル、カッセム・モッセ名義4枚目のアルバムは古巣、ロウテック率いる〈Workshop〉から。本名義での〈Workshop〉からのリリースはというと、コレより前がファースト・アルバムにあたるLP2枚組『Workshop 19』が2014年、ということでココからのリリースはじつにひさびさ、9年ぶりの作品となるわけですね。もろもろのコラボやライヴ盤などを除くと名門〈Honest Jon's Records〉からの2016年『Disclosure』、続く、自身のレーベル〈Ominira〉からは『Chilazon Gaiden』を2017年にリリースしています。またマンチェスターのレフトフィールド・テクノなレーベル〈YOUTH〉(〈PAN〉の切り開いた「その後」を個人的には感じてしまうレーベルです)から、別名義の Seltene Erden で2020年にリリースしたり。また上記のようにコラボや DJ Residue 名義で〈The Trilogy Tapes〉からアブストラクトな電子音響作品『Residual Manifesting』のテープ・リリースもありますが、今回は待望の本名義のアルバムと言えるのではないでしょうか?

 2010年前後、〈Workshop〉がもろにそうですがディープ・ミニマルからの、セオ・パリッシュなどのローファイでラフなハウス・サウンドを昇華したある種のジャーマン・ディープ・ハウスの新たな展開、そうした流れの象徴的なアーティストのひとりとしてあげられるのではないでしょうか。そのサウンドは上記『Workshop 19』あたりを聴いていただければと思いますが、セオ・パリッシュの影響を感じさせるビートダウン・ハウスを、さらにドイツ流にミニマルにクリアに展開といった感覚のサウンドで注目を集めました。
 さて時系列的にそのサウンドの流れを追うと、セカンド『Disclosure』はちょっと異質な作品で、ディスコグラフィーを後から見渡すと、どちらかと言えば Seltene Erden 名義や DJ Residue 名義のアブストラクトな電子音の冒険の前哨戦といった感じもします。前作にあたるサード『Chilazon Gaiden』は、そうした電子音の実験がストレンジな音感のハウス・グルーヴへと進んだ感覚で、ファースト『Workshop 19』が醸し出すムードとも、セカンドの電子音響的な実験的な世界観とも違ったシンプルなリズムの探求を目指した結果という感覚もします。どこかグルーヴだけを手がかりにストーリーやムードといった表現を排除したような、「鳴っている」ことの面白さを極めているようなそんな作品です。

 こうしたキャリアのなかでリリースされた本作は『Chilazon Gaiden』で示されたクリアな質感とシンプルなリズムを表現の中心に備えた作品ではありますが、同時に初期にあったデトロイト・ディープ・ハウスの影響を後半に見せてもいるのが特徴ではないかと。アルバム冒頭、シンプルなフレーズとパーカッションが蛇行したグルーヴを淡々と作る “A1”、彼の真骨頂とも言えるディープ・ハウス・トラック “A2”。このあたりはリズムの冒険を中心に据えた楽曲と言えると思いますが、こうした楽曲でこれまでの作品になかった要素としてあげられそうなのは、ダビーとも表現できそうなサブベースの使い方(サブスク音源だったりあまり現代的でない指向性のスピーカーだとそれほど伝わらないので再生環境に注意が必要ですが)。ミキシングなのか機材なのかマスタリングなのか判断しかねますが、本作の下の方でブンブンと低音が鳴っているのが結構印象としては強いアルバムです。
 リカルド・ヴィラロボス的なサイケデリアを発する “C1” やキックを排した “D2” などの楽曲にもやはりベースラインがよりサウンドの要として活躍しています。リズム、フレーズ、そしてスウィングする地鳴りのようなサブベース、この3つの要素が有機的にからんでグルーヴを作り出していく、そんな印象を受けます。“B1” や “B2” はベースラインの印象は薄いですが、初期ハーバートあたりを彷彿とさせるストレンジなファンクネスです。このあたりの要素は『Chilazon Gaiden』の先にある作品であることは間違いないでしょう。そしてアルバム後半はハイライトとも言える “C2” 以降、前作にはなかったストリングスが流麗にムードを作り出していて、このあたりは逆にファーストあたりで見せていたデトロイト・ディープ・ハウスの影響をひさびさに感じさせるサウンドになっています。アルバムのラスト “Provide Those Ends” は “C2” のダブ・ヴァージョン的な趣ももあります。

 テクノ由来の電子音の実験性が醸し出すストレンジな感覚、淡々とどこまでも続く抑制的なディープ・ハウスのグルーヴ、このふたつの有機的な絡み合いがこの名義の魅力と言えるとは思いますが、本作では彼のキャリアをひとつ総括するように、その才覚が遺憾なく発揮されています。サブべースの援用はもちろん昨今の制作ソフトウェアや機材、モニタリング機材、PAを含めた再生・音響技術の変化といったテクニカルなところから、不断となったベース・ミュージックとハウス/テクノの関係性というモダンなシーンへの反応というアップデートを示すものとも言えるでしょう。ともかく、なんというかミニマルなジャーマン・ディープ・ハウスの真骨頂、そんな言葉が浮かぶアルバムです。アゲず、終わらずなグルーヴの感覚、そこから導き出されるヒプノティックないわゆる「ハメ」の感覚は、バシッとDJプレイでハマったときに「アレからのコレ」なのか「コレからのアレ」なのか、まぁともかくこうした楽曲の真価はそうした瞬間に訪れるものですよね。

Autechre - ele-king

 90年代後半には Max/MSP を導入し、初期のサウンドから大いなる飛躍を遂げたオウテカ。そんな彼らの「中期」とも言える00年代を代表する名作──忘れもしない春、転げまわる小さな金属球のごとき独特の響きがいまでも耳にこびりついている “VI Scose Poise”、同曲で幕を開ける『Confield』(2001年)と、同作をさらに発展させメロディアスな瞬間もたびたび顔をのぞかせる『Draft 7.30』(2003年)の2タイトルが、去る2月24日に(オリジナル盤リリース以来)初めてヴァイナルでリイシューされている。
 その復刻を記念し、両作をモティーフにしたTシャツおよびロングスリーヴTシャツが数量限定で発売されることとなった。現在ビートインクのオフィシャルサイトにてオンライン受注がスタートしている。締切は3月26日、商品の発送は4月中旬からとのこと。そういえば『Confield』も『Draft 7.30』も出たのは4月だった。訪れる春、オウテカを着て、オウテカを聴こう。

『CONFIELD』と『DRAFT 7.30』
オリジナルリリース以来初のヴァイナル・リイシューを記念し
サステナブル素材を使用したTシャツと
ロングスリーブTシャツが数量限定で発売決定!


Confield Black T-Shirt ¥5,500 (税込)
ECOPETのリサイクルポリエステルを採用
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13311


Confield Charcoal Grey Long Sleeve T-shirt ¥8,800 (税込)
オーガニックコットン100%
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13313


DRAFT 7.30 Black T-Shirt ¥5,500 (税込)
ECOPETのリサイクルポリエステルを採用
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13312


DRAFT 7.30 Charcoal Grey Long Sleeve T-shirt ¥8,800
オーガニックコットン100%
BEATINK.COM:
https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13314


label: Warp Records
artist: Autechre
title: Confield
release: Now On Sale
BEATINK.COM: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13255

tracklist:
01. VI Scose Poise
02. Cfern
03. Pen Expers
04. Sim Gishel
05. Parhelic Triangle
06. Bine
07. Eidetic Casein
08. Uviol
09. Lentic Catachresis


label: Warp Records
artist: Autechre
title: Draft 7.30
release: Now On Sale
BEATINK.COM: https://www.beatink.com/products/detail.php?product_id=13256

tracklist:
01. Xylin Room
02. IV VV IV VV VIII
03. 6IE.CR
04. TAPR
05. SURRIPERE
06. Theme Of Sudden Roundabout
07. VL AL 5
08. P.:NTIL
09. V-PROC
10. Reniform Puls

Jitwam - ele-king

 ムーディマンによる素晴らしいミックス『DJ-Kicks』を覚えているだろうか。そこで4曲目につながれていたのがジタム(Jitwam)のトラックだった。
 インドに生を受け、オーストラリアで育ち、ロンドンでエレクトロニック・ミュージックと出会い、現在は(おそらく)ニューヨークを拠点にしているこのコスモポリタンは、すでに3枚のアルバムを送りだす一方、ララージエマ=ジーン・サックレイなどのリミックスをこなしてもいる。ソウルフルでジャジーなダンス・ミュージックを展開する、注目のプロデューサーだ。
 そんなジタムの来日ツアーがアナウンスされている。3月17日から31日にかけ、東京Circusを皮切りに、大阪・京都・広島・金沢・名古屋の6都市を巡回。次世代を担うだろうプロデューサーのプレイを目撃するまたとないチャンス、予定を空けておきましょう。

「インド発、ニューヨーク経由。ネクスト・ネオソウル & ダンスミュージックの新鋭Jitwam来日ツアー!」
インド、アッサム州にルーツを持ち、音楽活動をロンドン、ニューヨーク、そしてメルボルンなどで展開。ビートメーカー、ギタリスト、シンガー、DJとマルチな才能を発揮している。ある人は彼の音楽をジミヘン(Jimi Hendrix)と、ある人はJ Dillaのよう、そしてある人はMoodymann、と聴くにとって多彩な印象を与える彼の独創的なスタイルはジャンルを超えて多くのオーディエンスを魅了。自らのプロデュースに限らず、音楽レーベル「The Jazz Diaries」のファウンダーの1人でもあり、ロンドンを拠点とするアート集団およびレーベル「Chalo」の設立を支援するなど、現在の南アジア音楽シーンの新たなリーダーとしても注目されており、昨年、満を持して3枚目のアルバム「Third」を発表。そんな今が間違いなく「旬」なJitwamの6都市を結ぶジャパンツアーが決定。各都市の個性的なローカルアーティスト達との化学反応を見逃すな。

Jitwam Japan Tour 2023
3/17(金) 東京 Circus Tokyo
https://circus-tokyo.jp/event/eureka-with-jitwam/
3/18(土) 大阪 Circus Osaka
https://circus-osaka.com/event/jitwam/
3/20(月) 京都 Metro
https://www.metro.ne.jp/schedule/230320/
3/24(金) 広島 音楽食堂ONDO
https://www.ongakushokudoondo.com/
3/25(土) 金沢 香林坊Trill
https://www.instagram.com/trill/
3/31(金) 名古屋 club JB’s
http://www.club-jbs.jp/pickup.php?year=2023&month=3&day=31

Jitwam profile
Jitwamにとって、自身の音楽キャリアは常に運命と共にある。彼が最初に購入したたった2ドルのホワイトレーベルのレコードが、Moodymannのトラックであり、それを見つけたのが、まさしく彼の音楽がMoodymannのDJ Kicksコンピレーションにフィーチャーされたのとほぼ同時期だった。インドのアッサム州グワハティで生まれたJitwamは、両親と共にオーストラリアに移住。郊外で育った彼は、The Avalanches、Gerling、Sleepy Jacksonなどのバンドの影響を受け、ギターを弾き、キーボードのレッスンを受け、14歳で曲を書き始めることになる。その後、南アフリカやタイ、そして自身の故郷であるインドなどを転々と移り住み、次に流れ着いたロンドンでエレクトロニックミュージックの洗礼を受ける。そこでの生活の中で、彼が育ったロックの影響を織り交ぜ、Jitwamの代名詞でもある、様々なジャンルを内包したタイトでメロディックな作品へと融合させることを可能にした。その後ニューヨークに移り住み彼のキャリアは一気に前進。2017年に自身のファーストアルバム「ज़ितम सिहँ (selftitled)」を皮切りに、続く2019年にはセカンドアルバム「Honeycomb」をリリース。この作品について彼は「Jimi HendrixやJ Dilla、Moodymann、RD Burman、Bjork… 彼らはまさに自分だけの世界観を作り上げていて、僕も自分自身の音楽で同じようなことを成し遂げたいんだ。『Honeycomb』はロックンロールがソウルと出会い、ブルースがテクノを歌い、ジャズはどんなものにでも変容する世界なんだよ」と語っている。またJitwamは音楽レーベル「The Jazz Diaries」のファウンダーの1人でもあり、ロンドンを拠点とするアート集団およびレーベル「Chalo」の設立を支援するなど、現在の南アジア音楽シーンの新たなリーダーとしても注目されている。そして2022年には満を持して3枚目のアルバム「Third」を発表。数多くの運命に導かれながら多様な土地で吸収した音楽を、新たな高みへと昇華させている。

Soundcloud: https://soundcloud.com/jitwam
Instagram: https://www.instagram.com/jitwam/

YMO、プログレッシヴ・ロック、テクノ、ニューウェイヴ……
いま初めて明かされる、ゲーム音楽の知られざる背景

「この国が生んだもっともオリジナルで、もっとも世界的影響力のある音楽」とまでいわれる日本のゲーム音楽。
はたしてそれはいったいどのようなバックグラウンドから登場してきたのか?
数々の名曲・名作を生み出してきた作曲家たちは何を聴いて育ってきたのか?

プロのコンポーザーたちのリスナーとしての遍歴を掘り下げることで浮かび上がる、ゲーム音楽の源泉──

田中宏和/Hiro/古代祐三/細江慎治/小倉久佳音画制作所/TAMAYO/下村陽子/並木学/菊田裕樹/山岡晃/大山曜/岡素世/川田宏行/杉山圭一/竹ノ内裕治(TECHNOuchi)/中潟憲雄/山根ミチル/渡辺邦孝

四六判ソフトカバー/304頁

目次

序文 ゲーム音楽という名の群像劇 (田中 “hally” 治久)

第一部

Hiro×細江慎治 ゲーム音楽における「フュージョン感」の正体
中潟憲雄×大山曜×渡辺邦孝 プログレッシヴ・ロックは不治の病──世代を超えて伝わるその魅力
並木学×竹ノ内裕治(TECHNOuchi) 90年代、どうしようもなくテクノに魅せられた日々
山岡晃×杉山圭一 ニューウェイヴ、それははかないもの、それは人を驚かせるもの
下村陽子×山根ミチル クラシック育ちだからこその感性──演奏の挫折から作曲家の道へ

第二部

田中宏和 レゲエ・バンドの経験が「ポケットモンスター」の音楽を作るうえでも役立ちました
小倉久佳音画制作所 「筒美京平になりたい」と思っていました
川田宏行 ロック、ラウンジ、ブラック・ミュージックが大きな柱
TAMAYO YMO関連は片っ端から、コラボとか演奏参加とかそういうものも全部
岡素世 原体験はクラシカル、YMOとクイーンの青春からアシッド・ジャズ~トリップホップへ
古代祐三 YMOとアイアン・メイデンにハマり、LAでニュー・ジャック・スウィング~ヒップハウスを知る
菊田裕樹 広く浅く、70年代がまるごとひとつの体験

あとがき (糸田屯)

【著者プロフィール】
田中 “hally” 治久 (たなか・はりー・はるひさ)
ゲーム史/ゲーム音楽史研究家。2001年にライター活動を開始し、ゲーム音楽のルーツ研究に先鞭をつける。またチップチューンという言葉と概念を日本にもたらし、それを専門とする作編曲家としても活動する。主著/監修に『チップチューンのすべて』『ゲーム音楽ディスクガイド』『インディ・ゲーム名作選』『インディ・ゲーム新世紀ディープ・ガイド』など。

糸田屯 (いとだ・とん)
ライター/ゲーム音楽ディガー。物心がついたときからゲーム音楽とプログレッシヴ・ロックに魅了され、digにいそしむ日々を送る。『ゲーム音楽ディスクガイド』『新蒸気波要点ガイド ヴェイパーウェイヴ・アーカイブス2009-2019』『ニューエイジ・ミュージック・ディスクガイド』などに執筆参加。

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