ジュアナ・バーウィックとフェネスあたりとの溝を埋めるのが、ブルックリンの〈リヴェンジ〉レーベルから昨年末にデビュー・アルバム『ムーヴメント』を発表した、女性プロデューサー、ホリー・ハードンだ。彼女の「声」ネタのアルバムは、いろいろな意味で、──サイバー・フェミニズムの点からも「声」ネタの点からもアンビエント/ドローンの点かも──面白い。グルーパーとローレル・ヘイローとメデリン・マーキーの3人が好きな人にはぜひ聴いてもらいたいアルバムだ。
さて、ホリー・ハードンの『ムーヴメント』からこの度シングルが切られることになったのだが、そのリミキサーがNHK'Koyxenときた。ふたりはロンドンで知り合ったそうだが、NHKは最近の彼の作風のように、ダンス・ミュージックへと再構築している。ゆがんだルーピングと不規則な反復を活かした展開に惹かれる。
〈リヴェンジ〉も不思議なレーベルで、昨年のサン・アロウとコンゴスの共作が記憶に新しいが、最近はマルコム・ムーニー(CANのオリジナル・ヴォーカリスト)のソロを出したかと思えば、もうすぐリリースされるであろうマックスミリオン・ダンバー(Maxmillion Dunbar)は、初期のデリック・メイよろしく透き通ったデトロイティッシュ・サウンドだったりする。
このレーベルの独創性というか、ジュリア・ホルターやジュリアナ・バーウィックを出したかと思えば、ホアン・アトキンスをリミキサーに起用してみたり、ジェフ・ミルズやアンソニー・ムーア(スラップ・ハッピー)なんかまで出したりとか、そのリリースのセンスには非凡さを感じる。
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coolmemoryz - i S P I R I Tメディア「2 X 1 3 」
http://coolmemoryz.tumblr.com
https://soundcloud.com/coolmemoryz/01-r-c-o-r-p/

ネットにおけるエントロピーの増大の......というか、しかし、何故「日本」なんでしょう? それが、いや、それだけが気になる。よほど狂った、病的な国に見えるのか......、それとも本気で好きなのか......、クールジャパンを小馬鹿にしているのか......、そのあたりの感じがいまひとつわからないが、クラウド・ラップとも繋がっているわけだし、これが現代のUSアンダーグラウンドの一種の流行であることは疑いようがない。
昨年「TOKYO_DAYS," / "真夜中のJAZZ滑らかな心」を発表したクールメモリーズは、90年代前半のボアダムス的なコラージュ・アートを、80年代/90年代の日本のオタク文化を素材としながらやっている。ドップラー・エフェクト(元ドレクシア)もジャパニーズ・テレコム名義でにたようなことを10年前にやっている。ダウンロードはこちらです
(http://www.mediafire.com/?r4w9xx2622t4mae)。
Infinity Frequencies - Dream Recovery
http://computer-gaze.bandcamp.com
今年の春先にリリース予定のオウテカ(アヴァンギャルド)の新譜は、こうした安直なネット音楽(キッチュ)に腹を立てているそうだが、文化的な緊張感で言えば、ヴェイパーウェイヴ以降の下劣なカオスは軽視できるものではない。だから御大も無視できないのだろうし、これが音楽作品として面白いかどうかは、フリーダウンロードできるので聴いて判断して意見を聞かせてください。僕は古い人間なので、これを無料でもらうよりはオウテカに金を払う派ですけど......。
肉人形☆MEATDOLL - 秋のシルエット
ココまで来ると80年代のノイズの領域で、ナース・ウィズ・ウーンド的なミュージック・コンクレートのあらたな展開とも言えるんじゃないだろうか。非常階段が初音ミクでじゃがたらの「タンゴ」をやったのは、そう考えると禁断の共作どころか、今日のアンダーグラウンドで芽生えた、ある種の共有意識/共通感覚によるものだと思えてくる。
Sekitova - Premature Moon And The Shooting StarZamstak |
ele-kingの創刊は1995年1月、編集部を作ったのは1994年の秋、初めて友だちとクラブ・イヴェントを企画したのが1993年で、当時の僕はターゲットとする読者やオーディエンスの年齢層を訊かれたらはっきり「17歳」と答えていた。17歳に読んで、聴いて欲しい。企画書にもそう書いた。17歳、セックス・ピストルズの曲名にもあるし、大江健三郎の短編にも「セブンティーン」がある。
セキトバは、昨年、17歳にしてデビュー・アルバム『PREMATURE MOON AND THE SHOOTING STAR』を発表したDJ/プロデューサーである。「1995年生まれの高校生トラックメイカー兼DJ」として騒がれてしまったようだが、彼のバイオを知らなくても、いや、知らないほうがむしろ『PREMATURE MOON~』を素直に楽しめるんじゃないかと思う。スムーズなグルーヴも心地よいが、繊細なメロディ、アトモスフェリックな音響の加減も魅力的で、デトロイトのジョン・ベルトラン風の優しいアンビエント・テイストもあれば、クルーダー&ドーフマイスター風のダウンテンポからスクリュー、お茶目な遊び心もある。その多彩な曲調、お洒落さ、そしてバランスの良さを考えると、ホントに17歳なのかと信じられない。が、彼は間違いなく、日本のクラブ文化の未来の明るい星のひとつなのだ。
元旦生まれなので、数日前に18歳になったばかりのセキトバへのメール取材である。
■何歳から、どのようなきっかけでハウス・ミュージックを作っているんですか?
SEKITOVA:はじめてDTMを触ったのが14歳の頃なんですけど、その頃はテクノやハウスよりもエレクトロをよりたくさん作っていました。理由は「ディストーションをかけるだけでなんかそれっぽい音が出たから」っていう安直なものなんですけれど。逆にテクノやハウスなんかは音をつくるのがとても難しかったので僕にはなかなかつくれませんでした......。当時はちょうどDigitalismやJunkie XL、Justiceなんかが情報として得やすかったのでそこからエレクトロやその周辺の影響を受けたということもありますね。
年月を重ねるうちに技術があがってきて、自分のやりたいことが徐々に思い通りに出来るようになってきたので、じゃあ自分のやりたかったことをやってみようって意気込みで始めたのが現在のスタイルです。
■子供の頃、ピアノなど、楽器を習っていたんですか?
SEKITOVA:4歳か5歳の頃から10歳の辺りまでまさにピアノを習っていましたが不真面目すぎてまったく上達しませんでした。当時は音楽よりサッカーに夢中で、ピアノ=女々しいと思っていたくらいですし。
そこからは楽器を習ったりすることだとかは今日までまったくないですね。ただ学校でたまにあった民族音楽を聴く授業はとても好きでした。東南アジアやアフリカのダンサンブルなものがとくに好きで間違いなくいまの僕はそこから影響を受けている部分があります。
■たくさんの音楽を聴いているようですが、ご両親からの影響ですか?
SEKITOVA:両親のほかに母方の祖父がジャズの好事家だったり、トラック制作をはじめた頃知り合った人たちにとてもライブラリがあったり周りからの影響はとても強いと思います。
中学の頃には友だちの母親から立花ハジメやkyoto jazz massiveだとかのCDを貸してもらったりしてました。昔から音楽だけに限らずなにかと大人と接する機会が多かったわけです。
またインターネットの発達で、年代や距離の障壁がより薄くなっていたことも大きな要因の一つですね。なにせいまはとても簡単にレアトラックにアクセスできる時代ですから。
あ、もちろんテクノディフィニティヴも買いましたよ!
■あ、ありがとうございます! 機材は何を使っているんですか?
SEKITOVA:けっこう驚かれるのですが、GaragebandというDAW(DTM)をつかっています。iMacに最初から入っているソフトウェアで、手軽に遊び始めてからずっとこれですね。最近ではほかの有料DAWも色々使ってみたりしたのですが中々慣れなくて・・・。
Garagebandをシーケンサーとして利用してそこに様々なプラグインやソフトシンセを導入する形でやっています。ハード機材が一切ないので2013年はまずMIDIキーボードを入手するところから始めたいです。
■DTMはどうやって学びました?
SEKITOVA:「曲を作ってるうちに出来るようになっていく」というパターンがいちばん多いですね。どうしてもわからないときはインターネットの知恵を借りたりもしますが基本的に面倒くさがりなのでDTM上でだらだらしながら解決策を探す感じです。たまに○○が上手だなんて言われたりもするんですが僕自身技術なんてほとんど勉強したことがないので褒められても言われてる本人はよくわからなかったりします。
■レコードとCDではどちらが好きですか?
SEKITOVA:どちらもいいところがあるので難しいですね......。というかあまり対立させるものでもないのでは、と思ったりもします(あるいはもう対立させて語ってもしょうがないのでは、という考え)。
レコードはやっぱりかっこいいです。よく音質を語る際に「レコードの音には温かみが~~~」なんて言われますが、視覚的にもけっこう温度を持っていると思います。アナログDJの動作なんかはそれだけでヴィジュアライザ要素を果たしてしまうくらいにかっこいいです。
CDは取り扱いの手軽さが良いですね。手軽ゆえにいろいろ工夫が出来たりして、それを考えるのも楽しいです。レコードショップのドッシリ感も好きなのですが、CDショップでたくさんのCDがズラッと無機質に並んでいるのもテクノ感があって素敵です。
■少し前、20代前半の連中に取材したとき、テクノに興味持ってクラブに行っても「30過ぎたおっさんとおばさんしかいなかった」と言われたことがありました。欧米では若年層がメインですが、日本では違います。だから、もし自分がいま20歳前後だったら同じことを思ったかなーと思います。逆に言えばセキトバ君のような若い人がよくテクノを作っているなーと思ったんですが、この音楽のどこが魅力だったんですか? セキトバ君にとってのハウスやテクノの魅力をがんがんに語って下さい!
SEKITOVA:そもそもの話になっちゃうんですけど、僕はテクノをつくってるつもりなんです。DJをするときも作った曲にもどこかしら「ハウス」の文字が入ってしまう僕ですが、ハウスのなかにとてもテクノを感じる曲が好きだし、自分で作るときにも常に頭のなかにはテクノへの憧れと尊敬があります。だから、音的にはハウスかもしれないし、どちらかに言いきっちゃうならばハウスなんですけど、実際ハウスを作っているつもりっていうのはあまりないんです。
僕が好きなテクノっていうのはその曲やアーティストの思想や哲学をついつい深読みしたくなってしまうようなもので、その思想や哲学を理性で考えさせてくれるのではなく、もっと直感的なところで感じさせてくれるものです。
■自分と同世代の人たちにもハウスやテクノを聴いて欲しいと思いますか?
SEKITOVA:常々思っています。
■セキトバ君の世代では、たぶん、洋楽を聴いている子すら少ないと思うのですが、音楽の趣味が合う人はいますか?
SEKITOVA:お察しの通り、同じ年代のDJやアーティストでもなかなか僕の好きなテクノ、ハウスについて一緒に同じ価値観から一晩明かせるような人はいないですね。当然学校にもまったくいないです。僕はポップスやほかのジャンルの音楽にあまり抵抗はないので、こちらから話を合わせることはできるし、話に困ったりすることってそんなにないんですけど、やっぱり自分のいちばん好きなところの話をもっと同世代としていきたいです。
■自分と同世代や自分に近い世代の音楽って、どんなイメージを持っています?
SEKITOVA:これは難しい質問......。というのも音楽を聴くときにあまり年齢を気にして聴いたりはしない(文脈を踏まえて聴く時には勿論必要な情報にはなってきますけど)ので、イメージって言うイメージが特にないんですよね......。
基本的に僕らの世代はもう時代やジャンル関係なくいろんな音楽を聴ける環境なので、いろんなルーツを持ってる人がいて面白いなぁとは思います。
■DJはどういう場所でやっているんですか?
SEKITOVA:すごく真面目に答えるなら風営法をなぞりながら「そもそもクラブとはなにか」ってところから説明をしないといけないのですが、長くなるので、まず先に省略して答えるなら「DJセットがあって、それなりに音が出るところ」ですね。大阪や関西もそうですが、東京でプレイする機会もそれなりにあって、月に一回とかそのくらいのペースで東京に出てきています。現場でDJをやる前はよくustreamなどインターネットでもやっていました。
■IDチェックがあるようなクラブに行けない年齢なわけですが、ハウスやテクノで踊るのも好きなんですよね?
SEKITOVA:むしろそれがいちばん好きです。
■ダブステップ以降のベース・ミュージックだは好きになれなかったんですか?
SEKITOVA:詳しくはないですけど、けっこう聴いたりしますし、嫌いではないです。好きな曲もいっぱいありますよ。ただ長時間聴くのはやっぱり辛いですね。
■とくに影響を受けたDJ /プロデューサーがいたら教えてください。
SEKITOVA:Dave DK、Kink、Tigerskin、Robag Wruhme、Christopher Rau、ADA、Henrik Schwarz
ほかにもたくさんいるんですけど、いつも必ず頭に出てくるのは彼らです。
■80年代や90年代に対する憧れはありますか?
SEKITOVA:これは説明が難しいんですけど、懐古主義的、再興的な意味での憧れは全然ないんです。あくまで自分の理想のサウンドを追求する過程で90年代や80年代の環境や音や世界観が必要になってくるって感じで。だから「80年代や90年代あるいはそれ以前に残されたもの」に憧れはあっても、時代そのものにはあまり憧れはないです。これから後世に憧れられるような時代を僕が作っていけたら素晴らしいですね。
■IDMやエレクトロニカにいかなかったのは、やっぱりダンス・ミュージックが好きだからですか?
SEKITOVA:そんなことないですよ、って思ったけれど、やっぱりそうかも知れないですね。もちろんエレクトロニカもすきですが、それ以上にダンス・ミュージックが好きです。エレクトロニカのような技術をもってダンス・ミュージックのなかに分解再構築が出来ればまた理想のサウンドに一歩近づくので、そう言う意味ではこれからもどんどん制作手法としてIDMやエレクトロニカの研究は続けていきたいです。
■テクノ以外でよく聴く音楽、これから追求してみたい音楽ってありますか?
SEKITOVA:もっと漠然に「趣味」として最近はヒップホップとか、そういう音楽に興味を持っています。仲の良い知り合いにbanvoxってエレクトロのアーティストがいるんですが、彼がとてもヒップホップに詳しくて、そこから情報をいつも得ています。もちろん音楽としても僕の好きなアーティストもBPMが遅くなっていく過程でヒップホップの要素を入れていったり、もともとヒップホップ上がりだったりなんて事もよくある話になってきたので、これからどんどん聴いていきたいです。
■やっぱマルチネ・レコーズの存在は大きかったですか?
SEKITOVA:とても大きいですね。明確な目標のひとつとしても、自分のなかでのトピックとしても、計り知れない大きさがあります。マルチネのサウンドって手広いようで絞られていて、僕がそのなかにいるかどうかって言うと微妙な話なんですが、そのどれもがいろいろな方向に手を伸ばしていて、なおかつ一定以上のクオリティがあってとても影響をうけています。マルチネ主宰のtomadさんなんかはいつも次の一手が気になる存在だし、彼からも大きな影響を受けていますね。
■自分の作った音楽を同級生に聴かせることはありますか? その場合、どんな反応がありますか?
SEKITOVA:限定して言えば、むしろはじめは僕の曲を聴いてくれるのなんて親しい男友だちのふたりだけでしたよ。それ以外はネットにあげてもまったくビューなんて伸びませんでしたし。その彼らがいまだに僕の曲を喜んで聴いてくれるのが「SEKITOVA」にとってもっとも嬉しいことのひとつです。彼らはいつも「すごい」と褒めてくれますが、まぁそれは身近な「僕」の事を知ってくれているからこその評価だと思っています。
本題に戻って答えると、ほか不特定多数の同級生らに自分の音楽を聴かせることはこれまでまったくないですね。僕の名前は龍生って言うんですけど、SEKITOVAと龍生ってある意味では別人というか、なんというかそう言う感覚があって、普段龍生として接している人にSEKITOVAとしての一面を見せる事に違和感が結構あるんですよ。その逆の場合はそうでもないんですけどね。
■曲名はどんな風に決めますか?
SEKITOVA:大体の場合は曲から連想するか、いいなと思った言葉をメモっておいてそこから想起して曲を作るか、です。どうしても出てこない時はツイッターとかで呼びかけてもらった答えからつけたりする場合もあります。
どの場合も基本的に曲を作ってる時間と同じくらい曲名に時間がかかります。曲の世界観をイメージしてその世界の人やモノになりきってインスピレーションを沸かす事がよくあるんですが、たまに親とか姉に見つかって奇異の目でみられます。
■アルバムのタイトル『PREMATURE MOON AND THE SHOOTING STAR』にはどんな意味がありますか?
SEKITOVA:もともと自然現象の名前にしようと思ってたのもありますが、僕のなかで「ノスタルジー」ってなんだろうって考えてたら、だんだん思考がそれちゃって、感傷に浸れるような世界ってなんだろうってことを考えるようになり、そのとき直感で出てきたのが思わず背筋が伸びるような、冬の朝の澄んだ青空に出る月だったんです。いわゆる昼の月というモノなんですけれども。それがビビッときてpremature moonとつけました。あとはさっきも書きましたけど名前が龍生なのでそこから音をとって英訳してshooting starとつけました。
■アルバムの水墨画は何を表しているのでしょうか?
SEKITOVA:「空間」です。これは水墨画という手法に対してなんですけど。絵になったときに浮き上がってくる滲みであったり、基本的には白と黒の2色なんだけれども、濃淡によってとても表情豊かで眩しすぎるほどにその世界観を表してくれるところに、イーヴンキックのミニマルやダブ、そしてテクノの美学と通ずる所を感じて、という具合です。僕の好きな音楽の「空間」を絵画手法的に表すと、水墨画になるなぁと思ったんです。
■DJ/トラックメイカーとしての将来の夢を教えてください。
SEKITOVA:良くも悪くも国内市場が大きくて、ガラパゴス化してしまっているが故の弊害がたくさんある音楽シーンに一石を投じられる存在になれればと思います。
あと、DJとトラックメイクで生きていきたいです。もちろんセルアウト用の大衆主導のものじゃなくて、僕の好きな音楽だけを作り続けて。いろいろな考えがあるとは思いますが、大衆主導の音楽をつくったり、そういうDJしかしないのは、結局どこどこ勤めのサラリーマンと変わんないじゃんって気持ちがあって。もちろんそう言う人たちのことは本当にすごいと思いますし、サラリーマン自体のことも凄いと思っていますし、存在の必要性もわかっていますが、「僕が音楽で生きていくなら」、常にこちらから提示するアーティスティックな方向性でありたいです。
そしていまの日本ではそういう生き方が尋常じゃなく難しいし、僕のやってるジャンルなら尚更も良い所なので、そう言う所のインフラ整備というか道も僕が作っていきたいなと思っています。
......という野望を達成するにはまだまだ実力も経験も足りなさすぎるので、そこをあげていく事が当面の目標です。
■ありがとうございました! 最後に、オールタイムのトップ10 を教えてください。
1. Dave DK - Lights and Colours
2. Akufen - Fabric 17
3. Tigerskin - Torn Ep
4. Daft Punk - Alive 2007
5. Dr.Shingo - Nike+ Improve Your Endurance 2 / initiation
6. Chet Baker - Albert's House
7. MAYURI - REBOOT #002
8. Penguin Cafe Orchestra - Penguin Cafe Orchestra
9. Muse - H.A.A.R.P
10. Underwater - Episode 2
厳選しすぎると10もいかず、ちょっと基準を緩めるとたちまち10どころか50、60となってしまって、この項目だけ1週間くらい悩んだのですが、やっぱりシンプルに思いついた順から答えていこうということで、こんな感じになりました。たぶんまだまだ経験が足りないのだと思います......。なのでトップ10というか、ここに書いてないものでも好きなのはたくさんあります。
1はもう言わずもがな、僕が数少ない神と崇めているDave DKのアルバムです。彼はこのアルバム以外にもとても良い曲をたくさん作ってて、どれも本当に好きで、僕にとてつもない影響を与えています。
2はAkufenによる名門FabricからのDJ MIX。
Akufenといえば"Deck The House"がとても有名で、僕もそこから入ったんですが、こっちを聴いて本当に鳥肌が立ちました。もとより僕はクリック系の音数が少ないテクノやハウスが好きだったのはあるんですが、そこにグルーヴの概念を痛烈に刻み込んでくれたのは間違いなくこのアルバムです。
4はおそらく中学2年生の頃、もっとも聴いたアルバムかもしれません。もともと僕が音楽なんて何も知らなかった頃に親が家でよくかけてたのが彼らの伝説的なアルバム、『Discovery』でした。そういう経緯もあってDaft Punkはどのアルバムもとても好きなんですが、その好きな曲たちがこの1枚に凝縮されてるのがたまらないです。ライヴ盤なので生のグルーヴがあるのが本当に良いです。もちろん出てる音はエレクトロニック・ミュージックに基づいた電子の音で、途中途中のアレンジも事前に仕込んだものとはわかってはいるのですが、それでもお客さんのあげる歓声の熱気や空気感から、最高に生のグルーヴが僕に伝わってくるんです。
7は小学生の頃よく親がかけてました。その頃はうるさくて嫌いだったんですが、あるとき自分から指を伸ばして聴いてみたら、なにかが違って聴こえた感じがしました。ほんとに衝撃というか、いままで意識せずに聴いてきた音楽たちが、その瞬間にすべて脳内でつながった感覚をいまでもよく覚えています。このアルバムのバイオによるとMAYURIさんはセカンド・サマー・オブ・ラヴをリアルタイムで経験していたそうですが、僕にとってのサマー・オブ・ラヴは、間違いなくこのアルバムです。ちなみにこれに入ってるChester Beattyの"Love Jet"ネタのトラックはマジで超ヤバイです!
SEKITOVA
1995年、元旦生まれの高校生トラックメイカー兼DJ。14歳の頃よりDTM でのトラックメイク、16歳でDJとしてのキャリアをスタートさせる。2011 年にはインターネット・レーベル『Maltine Records』よりEP をリリース。その認知度をより深めた。初期には幅広いジャンルの制作を行っていたが次第にルーツであるミニマルテクノやテックハウスにアプローチを寄せるようになる。中でも昨年末にsoundcloudにて発表したアンビエンスなピアノハウストラック『Fluss』は大きな評価を得て、日本のみならずドイツなど本場のシーンからも沢山のアクセスを受けた。DJとしても歌舞伎町Re:animation、新宿でのETARNAL ROCK CITY Fes. への出演など大規模イベントへのブッキングも増えており、これからの活動に期待が寄せられる。
http://sekitova.biz
http://iflyer.tv/SEKITOVA
http://soundcloud.com/SEKITOVA
http://twitter.com/SEKITOVA
http://twitter.com/SEKITOVA_INFO
今年はフォーマルな服装をキャップで崩すスタイリングが推されていた。タイラー・ザ・クリエイターの影響はあったのだろうか、さらにそこにスケボーのブームも合流してか、〈Supreme〉のキャップが東京の街中で散見された。
もうひとつ、いやというほど見たのはからし色の洋服だ。先日、『ele-king vol.8』の年末対談のために上京していた木津毅氏、竹内正太郎氏とともに、裏原宿あたりでデートをしていたのだが、そこらじゅうの服屋でマスタード色がウィンドウ・ディスプレイに晒されていた。道行く人まで......、ほらあの人も、ね、あそこの人も、ほらほら、また、うわー......。
How to Dress Well - & It Was U(Official Music Video)
ほら、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルも! なるほど。おめかしするにはマスタードだったのね。
Alexis Taylor - Nayim From The Halfway Line
しかし、キャップとマスタードのスタイリングを2年以上前から実践していた人がいる(http://www.youtube.com/watch?v=wif8DAyXkVc)。ギーク界のファッション・リーダーことホット・チップのアレクシス・テイラーだ。
そのアレクシスが12月3日、〈ドミノ〉からソロEP『ナイム・フローム・ザ・ハーフウェイ・ライン』を突如としてリリースした(デジタル配信は17日開始)。公式な事前予告なしだったが、クリスマスに向けたささやかなサプライズということなのだろうか。2008年にジョン・コクソンが主宰する〈トレッダー〉よりリリースした宅録アルバム『ラブド・アウト』以来のソロ作品となる。
ジャケットのアートワークは、オリヴァー・ペインとのタッグで有名な現代アート作家ニック・レルフによるものだ。
残念ながら18日現在筆者の手にはまだ届いていないので、入手しだいレヴューしたいと思う。前作は宅録の名盤『マッカートニーⅡ』を思わせるような弾き語り&シンセのチルな作品であったが、今回はミニマムでグルーヴィーなリフレインが意表をついてくる。映像とタイトルのとおり、フットボールのネタからもいくらかねじれた感性がのぞくのがさすが。
Hot Chip - Don't Deny Your Heart (Official)
ホット・チップのアルバム『イン・アワー・ヘッズ』は、今年とても評判であったように思う。ファンも増えただろう。もっとも筆者からするとマッチョなまでに3分ポップス化しているのがいまだに好きになれないのだが、それにしても本当によくできた曲ばかり揃ったアルバムだった。そのなかでも特にきらびやかだったシングル曲“ドント・ディナイ・ユオ・ハート”の公式ヴィデオが発表された。
初めはまったく笑えなかった。いまでも笑えない。「ファニーなヴィデオ」で話題を呼ぼうとセルアウトしているんだと感じた。もうファンでいることがいたたまれなくなった。まあしかし、すこし再考してみよう。
ホット・チップのメンバーはゲイである――という噂がかつてあった。噂を盛り上げたのは“レディー・フォー・ザ・フロア”(2008)の印象的な一節=「きみは僕のナンバーワンの男(You're my number one guy)」だ。2年以上前、なにを思ったか初対面にも関わらず筆者は噂についてアレクシスに訊いてしまったが、彼は笑顔でこう答えてくれた。
「『バットマン』の映画でジョーカーが手下にそのセリフをいう場面(http://www.youtube.com/watch?v=hLBmZW-d2A8)があって、そのグラマー(文法)が好きだったから使ったんだ。ゲイのニュアンスは意図していなかったよ。現に僕も女性と結婚して子供もいるしね。インターネットで僕らがゲイだというひとがいようと関係ない話さ。」
それ以前にも彼らはゲイ雑誌からのインタヴューや英『ガーディアン』誌のインタヴューなどにおいても、ゲイから人気があることは認めつつも噂を否定している。
とすれば、今回のPVは改めてゲイを自分たちと切り離し対象化しているとも思える......けども、いまさら?
もうすこし考えてみる。
2人の選手が喧嘩寸前のところ、唐突にダンスでバトルをするシーンがある(『スペースチャンネル5』というダンス・ゲームを想起させる意味不明な空間だ)。その後、2人は熱くキスを交わし、不穏だった会場は愛のあふれる平和な空間となる。これは、とくに本楽曲がディスコ音楽からの影響が顕著なように、ホット・チップ自身が愛するディスコ文化(音楽)がゲイのコミュニティによって発展してきたことを示唆しているのではないだろうか(http://www.qetic.jp/feature/battles/78938)。
......なんて考えてはみたものの、映像監督のピーター・セラフィノウィッツ(Peter Serafinowicz)はコメディアンだし、ホット・チップとの仕事では、おっさんの口からビーム吐かせたり(http://www.youtube.com/watch?v=MaCZN2N6Q_I)、UFOがぶっ壊れるだけだったり(http://www.youtube.com/watch?v=-OsD3g461fM)するわけで、いやほんと、くだらないだけでしょう!
しかし、このくだらないだけってのがポイントなのかもしれない。「これほど同性愛ってものが政治的なトピックになった年もない」とは木津毅氏の言葉だが(紙『ele-king vol.8』p84参照)、そんな年にあえてこのくだらなさを打ち出したと。そういうことでいいですかね。だって「我々は何年間もこの瞬間を待ち望んでいました! これこそがフットボールです!」ってナレーション、フットボール好きにだってわけわからないでしょう。
映画『ぼくのエリ』はホラーというよりは、ロマンスである。夢見る少年の恋愛映画だ。冷血さや残忍さゆえにヒットしたのではなく、家にも学校にも居場所のない孤独な人たちのロマンティックな物語に共感したのだと思う。選挙前に何を言っているんだかという話だが、これは痛みながらも夢見ることを抑えきれないという話だ。ダーク=暗い、ではない。ダーク=たとえ暗くても夢想を止めない、である。深夜にしか出会えないとしても、愛は芽生える。
結局のところブリアルが先鞭をつけたのはこの感覚だった。痛みを感じながらも、陰鬱でありながらも、しかし、じゃあ、もう諦めればいいのかと言えば諦めきれない夢想者、その善し悪しはともかく、この感覚が最近もっとも噴出しているのがロンドンの〈ブラッケスト・エヴァー・ブラック〉で、そしてアンドリュー・ウェザオールやドレクシアらがいまも古くならない理由もこの感覚がこのところ年々強まっているからだ。
ゴシック路線を打ち出した「キンドレッド」以来いきなりリリースされたニュー・シングル「トゥルーアント」は、アンディ・ストットやシャックルトン、いま個人的にいちばんのお気に入りのレイム(Raime)のデビュー・アルバム『クオーター・ターンズ・オーヴァー・ア・リヴィングライン』などとも重なる。ブリアル芸とも呼べるR&Bサンプルを相変わらず使いながら、11分を超えるタイトル曲はスムーズなグルーヴとベース音があり、埃をかぶった物置に何十年も放置されたままのレコードのチリノイズさながら、つまり何らかの遺物の存在を思わせる音響、そしてセクシャルな色気で構成されている。「キンドレッド」のように組曲めいた展開があり、機能的なクラブ・ミュージックとは別次元で語りかける。アンディ・ストットの『ラグジュアリー・プロブレムス』は日本でも瞬く間に売れたそうだが、理由はインディ・リスナーも虜にしたからである。
アルト・ジェイのアルバムは「すべてのフェスティヴァルを笑え」という歌詞からはじまっている。音楽は予見的である......というジャック・アタリの有名な言に従うなら、ブリアル以降におきている変化は、とても興味深い。僕は家でヴァージン・プルーンズの「ペイガン・ラヴソング」を久しぶりに聴いた。選挙は消去法で考えるしかない。これでマスコミが言うように自民党が圧勝したら、ブレイディみかこさんが紙エレキングで書いているように、情況的には日本もまたパンク前夜に似ていると言えるだろう(実際にこの後、パンク・バンドが出てくるという話しではないです)。
1991年か1992年、デリック・メイが、リズム・イズ・リズムとして、トレヴァー・ホーンの〈ZTT〉からデビューするはずだったという話はファンのあいだでは有名だ。しかし、トレヴァー・ホーンの執拗なディレクションにドタマに来たデリック・メイは、テーブルをひっくり返してしまった。こうして、リズム・イズ・リズムのデビュー・アルバム『ザ・ビギニング・オブ・ジ・エンド』は幻となったわけだが、アルバムの先行シングルが、実は「ザ・ビギニング」だったことをデリック・メイから昨晩教えてもらった(そして、その「ザ・ビギニング」の方向性を嫌ったのも、レーベルの側だった)。
よって、リズム・イズ・リズムのアルバムのために録音された曲は、1993年に"アイコン"として発表され、続いてロング・アゴー名義の"レリックス"として、リズム・イズ・リズム名義では"ケオティック・ハーモニー"、そして同名義で1999年のコンピレーション『タイム:スペース』において"ビフォア・ゼア・アフター"として発表されている。12月5日にリリースされる〈トランスマット〉の新しいコンピレーション・アルバム『BEYOND THE DANCE~TRANSMAT 4』には、さらにまた、『ザ・ビギニング・オブ・ジ・エンド』からの1曲"ハンド・オーヴァー・ハンド"が収録されている。20年かけて、デリック・メイが当時どんなアルバムを作っていたかがようやくわかってきた(笑)。(そして、それは相当に、メランコリックな作品だった)
以下の映像は、1989年、26歳のデリック・メイ、20歳のカール・クレイグのふたりによる、リズム・イズ・リズムのロンドンのライヴである。遠くで野球帽をかぶっているのがカール・クレイグ、手前でシンセサイザーを弾いているのがデリック・メイ。ファッションが時代を物語っているが、音楽はいまも超越的に聴こえる。
Darkstar - Timeaway
『ノース』への大胆な方向転換の直後に〈ハイパーダブ〉から〈ワープ〉へ移籍したダークスターによる2年ぶりの新曲。ヴァイナルは11月20日に発売される(https://bleep.com/release/39342-darkstar-timeaway)。野田編集長はいまだにデュオだと思っていたみたいだが、『ノース』の時点ですでにヴォーカルにジェームス・バタリーを迎えたトリオになっている。
プロデューサーにはワイルド・ビースツ/スペクタクルズ/エジプシャン・ヒップ・ホップなども手がけたリチャード・フォーンビーを起用しており、「イギリス北部ペナイン山脈のどこか深いところ」にある「ヴィクトリア調のジェントルの邸宅」を借りて録音されたアルバムは、来たる2013年初頭にリリース予定とのこと。
この録音場所がなるほどと思えるほど、"タイムアウェイ"の旋律は、荘厳なエコーでメランコリーなイメージを讃えている。ダブステップ期もいまは昔。たださえ意外な方角へ舵をきった『ノース』以上にヴォーカルとハーモニーがフューチャーされ、いくぶんか明るくなった印象もあるが、陰鬱さを讃える美学はよりいっそう磨かれている。
ダークスターのYouTubeアカウントには、レコーディング中のスローモーション映像にドローン/アンビエント風で静かな音楽を添えたものが"Nowhere"として4つアップされている。
忘れもしない2011年4月9日、ロンドンはショーディッチにあるヴィレッジ・アンダーグラウンドというヴェニューにて、ダブステップのダも知らなかった僕がダークスターを観た。日本では聴いたことがないほどバカデカいベース音に全身を震わせられたとき、心臓を潰されて死ぬかと本気で思った。おおきな教会を改修したような広い会場。酒で酔っ払い喋りまくる、カルチャーめいたオーディエンス。機材トラブルによる1時間近くの遅延を経て、不穏な空気が拭えないなか、殺気だちながら透き通った目の青年が喉を震わせた。
日本でのステージが実現することを期待しよう。
Dazed and Confused Live PART 2 with Darkstar & Gang Gang Dance
これは先述の〈DAZED LIVE〉での映像。ダークスターはもちろん、トリのSBTRKTも凄かった。1時間以上も時間が押した結果、ギャング・ギャング・ダンス終了後には25:30近くなりオーディエンスは続々と帰ってしまった。ガラガラの会場にイラついていたように見えたが、SBTRKTは圧倒的にベスト・アクトだった。
Trimbal - Confidence Boost (Harmonimix)
ロンドンのグライム系ラッパーであるトリンバル(元ロール・ディープ・クルー、基本的にはトリム名義)と、ジェームス・ブレイクの別名義ハーモニミクスによる作品のミュージック・ヴィデオ。ツイッターを見ていても、発表されると同時に瞬く間に話題となっていた。リリースは〈R&S〉から。撮影は、ザ・トリロジー・テープスの記事でも紹介したロロ・ジャクスンである(と、このようにウィル・バンクヘッドの陰がロンドンの地下水脈では散見される)。
ミスター"CMYK"がトリムの叩きつける言葉を名義のごとくハモるその後ろでは、ノイズが大胆にブーストしている。
ポーズをとれ。
アイツがどれだけ信頼を寄せていようと知ったこっちゃないなら。
ポーズをとれ。
ガール、自分の服を着て自分がイケてると思ったなら。
ポーズをとれ。
きみが問題を抱えているなら、気にするな、
誰も知ったこっちゃない。
ポーズをとれ。ポーズをとれ。
Strike a pose.
ポーズをとっているのかはわからないが、時折出てくるジェームス・ブレイクがイケメンであり可愛いことは間違いない。
Eaux - i
〈ソーシャル・レジストリー〉に在籍していた気高く美しいシアン・アリス・グループ(Sian Alice Group)は解散してしまったが、そのメンバーであったシアン・エイハーンとベン・クルックにステフン・ウォリントンが合流したトリオがオー(EAUX)だ。
11月に発売される新作EP『i』からタイトル曲が先行公開された。以前にリリースしていた両A面7インチ『Luther / No More Power』はダークなシンセ・ポップで、それこそ女性ヴォーカルの気高いダークスターという印象だったが、今作はほぼインストゥルメンタルである。ドラムがいないため、打ち込みのリズムにベンのギターやステファンのシンセを被せるかたちに落ち着いている。シアンは1音節の語を繰り返し発語する。
i i i i i i i i i
gotten gotten gotten gotten
ジ・XXの新譜の先行試聴会で思い出したのが、サウンドこそ違うが、似た編成のオーだった。こちらはメランコリーを秘めていながらも甘美な部分を見いださせようとはせず、むしろ厳しさをたずさえる姿勢は、シアン・アリス・グループから通じているものだ。
これだけではまだなにも分かる気がしないので、EPの発売を待ちたい。
Eaux - Luther
Zomby - Devils
https://twitter.com/ZombyMusic/status/256219187247210496
ゾンビー(Zomby)が1分半ほどの新曲"Devils"をツイッター上で突如フリーでリリースしている。おそらくアルバムには収録しないということなのだろう。ゾンビーが「5人目のビートルズ」と称える亡き父親を弔った『デディケイション』とはずいぶん違う忙しなさがある。EP「Nothing」にも高速ビーツのトラックはあったが、今作にはより不安を煽るような態度がある。
ツイッターも相変わらず順調に挑発的でブッ飛ばしているし、次のアルバムはダークで扇動的なものになりそうだ。
他にもホット・チップのアレクシス・テイラーから、彼がチャールズ・ヘイワード/ジョン・コクソン/パット・トーマスとともに組んでいるアバウト・グループ(About Group)のアルバムが完成したということと、彼のソロEPが12月にドミノからリリースされるという報告を受けました。これは喜ばしい。
ちなみに、今日ご紹介したアーティストはすべて〈ザ・トリロジー・テープス〉主宰のウィル・バンクヘッドと関わりがある。
VIKN Ft. BES,GUINNESS,A-THUG & NIPPS - "STARTING 5"
(Produced by HIROSHIMA&B-MONEY)
負けを認めるからこそ踏み出すことのできる新しい一歩というものがある。新たなゲームを開始し、ルールを設定し直すために、負けを受け入れなければならないときもある。そもそも誰もが強く、逞しく、信念を曲げず、前向きにい続けられるわけではない。ときには迷い、嫉妬や憎しみを抱き、つまずき、辛酸をなめるときもある。負けているのにもかかわらず、負けていないと意地を張り続ける意固地な態度が道を見失わせることもある。やさぐれた人間のやさぐれた言葉は、ときとして、人の心の深いところに突き刺さったりする。と、そんなことをこのラップ・ミュージックを聴いた直後、僕は漠然と思った。
トップバッターのBESの強烈な哀しみの歌が僕にそういう思考を促したのか、それともHIROSHIMA&B-MONEYの制作したバックトラックの泣きのストリングスに感情を揺さぶられたのだろうか。それだけではないと思う。5人とも同じ内容をラップしているわけではなく、むしろ5人それぞれが異なるベクトルに向かっているものの、5人のマイク・リレーはある一つのムードを作り上げている(例えば、"GOD BIRD"がそうであったように)。そのムードは言うなれば、いま、とくに東京近郊の街に漂う"負の兆し"みたいなもので、これほど見事に"負の兆し"を捉えたマイク・リレーを僕は久々に聴いた気がして、ゾクゾクしてしまったのだ。その兆しの正体はなんなのか、性急に言葉にしたくないし、できるものでもない。だから、この曲における、5人のラップと身振りは圧倒的にクールであるともいえる。
ハードコア・ラップ、あるいはハスリング・ラップ、もしくはギャングスタ・ラップ。サブジャンルの呼び名はなんでもいい。SWANKY SWIPEのBESはサウス・ヒップホップ以降のオブ・ビート感覚とNYのラッパーの硬派なスタイルをミックスしたようなフロウで実体験に基づいた痛みと哀しみのストーリーを紡いでいく。それに続く、SEEDAとのビーフで話題を呼んだGUINNESSのより糸が絡み合っていくようなフロウは、こんがらがった内面そのものであるように感じられる。さらに、SCARSのリーダー、A-THUGは、「天国じゃないここはHELL/地獄の炎はメラメラ燃える」「ラップじゃなくても金を稼いでいる」というパンチライン、その間をつなぐ赤裸々なリリックで彼らの剥き出しの現実感覚を鼻先に突きつけ、NIPPSは自問自答と風格のある佇まいでブルースを滲ませる。そして最後に登場するTETRAD THE GANG OF FOURのVIKNが、この曲に、微かな、しかしたしかな光を当てている。
「STARTING 5」は、ミュージック・ヴィデオの透き通る映像美も大きく影響しているのだろうが、北野武の撮るヤクザ映画に通じる叙情と哀愁、あるいは感傷に満ちている。それらは男のロマンやダンディズムから表出されるもので、その意味で彼らはヒップホップのマッチョイズムに忠実ともいえる。が、ここにある、どうしようもない乾きは、それだけではどうにも説明できない特別なものだ。
最後になってしまったが、この曲はVIKNが10月発売予定のソロ・アルバム『CAPITAL』からの先行ミュージック・ヴィデオとなる。この曲は、この手のラップ・ミュージックのほんの入口かもしれない。CDが売り切れていなければ、BES『BES ILL LOUNGE:THE MIX』、A-THUG『HEAT CITY MIXED BY DJ SPACEKID』の2枚も合わせて聴くといいだろう。
盗用がアートとなって、アンダーグラウンド・ポップのスタイルとして最初に定着したのが、1980年代のヒップホップとハウスである。いまでもよく覚えているのは、80年代末、MTVのBUZZという番組内でマルコム・マクラレンやティモシー・リアリーが、アシッド・ハウスをBGMに「盗め!」と視聴者を煽動する姿だ。「盗め!」、can you dig it? ヒップホップとハウスには、快楽主義としての音楽の延長ばかりではなく、盗用アートとしてのそれが同時にあった。ヴェイパーウェイヴは、インターネットの無限地獄/エントロピーの増大における盗用音楽として始動している。
いかにもうさんくさいこのジャンルに関しては、すでに議論が活性化している。その一例。「ヴェイパーウェイヴは資本主義に対する批評か降伏か?」、その答えは「どちらでもあり、どちらでもない」
ヴェイパーウェイヴはネット時代の申し子的な、あだ花的なジャンルで、果てしなくアップロードされ続けている音源(それはYutubeの冒頭に挿入される広告も含まれる)を探索し、再構築して、ある種の世界放送として発信している。新夢会社(New Dreams Ltd)、コンピュータ・ドリームス、情報デスクVIRTUAL、VΞRACOM、メディアファイヤード、そしてインターネット・クラブ、あるいはジャム・シティやジェームス・フェラーロといった連中も「反資本主義の皮肉として読める」。こと、ジャム・シティのようなアーティストは、バラ色のデジタル情報社会をディストピアへと挑発的に反転してみせる。
もうひとつの例。モダン・テクノ・ミュージック・カルチャーにおけるこれは、その音楽の終焉すら予見させる。
アメリカには、ミューザック(Muzak)という80年以上続いている企業がある。これはさまざまな職場──デパートから工場、レストランからオフィス、スポーツジムから遊園地にいたる──に音楽を供給する会社で、要するに、労働意欲、購買意欲を促進させるための音楽を提供し続けている。問題は、1984年を境に、この会社が音楽アーティストが作った音楽作品とも提携し、供給をはじめていることだ。
現在、この会社には300万曲以上の音楽がアーカイヴ化され、そして1億人の聴覚が、自らの労働環境に適した音楽をプログラムさせられているという。そのストックのなかには、インディ・ポップ、ミニマル・テクノ、IDM、ラウンジ・ジャズ、ラテン・ラウンジ、とくにエレクトロニック・ミュージックが多数あるらしい。
これはアンビエントというコンセプトとは真逆の、産業社会を促進するためにサプリメントのような音楽としての利用のされ方である(カラオケやがんばれソングも同じと言えば同じ)。要するに、「もはやミュージック(音楽)とミューザック(ビジネスのための音楽)の境界線はぼやけているのである」。
多くの人は、違法ダウンロードが音楽の経済成長を止めたと思っている。しかし、ヴェイパーウェイヴは、音楽がハイパー資本主義という吸血鬼によって血を吸い取られたがゆにえ衰退したのだと考えている。
ヴェイパーウェイヴの悪意や反抗心は、そうした産業社会に利用された音楽をふたたび自分たちの元に取り戻そうとする衝動にあるのだろう。ヴェイパーウェイヴは自らが音楽の死、音楽の終焉、音楽の腐敗となっている。そしてこの運動が短命であることも自覚している。盗用アートは、ある種の瞬間芸として成立する。
「VANISHING VISION」=消えゆく夢。消えゆく理想。廃れていく音楽が夢見た夢。インターネット・クラブはそうした警告めいたタイトルのアルバムをフリーダウンロードで発表した。ゴルフ・クラブの待合室でかかる音楽、教則本にあるようなBGM、ぞっとするようなハイパーモダンなオフィス・ビルディングの受付で流れている音楽をかき集めて、ファッキン清潔なオフィス街の机に並んだPCから高解像度の毒を吐くことができるだろうか。アートワークに使われている風景も日本のアニメから引用されていることも興味深い。ま、どんなものか、とりあえずこれは無料なので聴いてみましょう。
Spacemen 3 / Sun Araw - That's Just Fine / I'm Gonna Cross That River Of Jordan | The Great Pop Supplement
ロンドンの〈ザ・グレート・ポップ・サプリメント〉レーベルは、アナログ盤とサイケデリック・ロックに並々ならぬ執着を見せているレーベルで、倉本諒も大好きなSilvester Anfangの新作を今年出している。で、そのレーベルからついにというか、サン・アロウとスペースメン3のスプリット盤がリリースされた。当たり前だが、スペースメン3はとっくに解散しているので、再発のときにボーナス・トラックとして収録された初期の曲。
これ、透明ヴァイナルが赤色で浸食されているというサイケなレコード盤プレスで、ものとしてもフェティッシュな仕上がりとなっている。ま、なんにせよ、新旧のサイケデリック・ロックの出会いというか、いよいよサン・アロウから目がはせなくなった。新作は、自身のレーベル〈サン・アーク・レコーズ〉から、11月にリリースです!
ドリームウェポンのTシャツを着ているサイケデリックなキッズよ、まずはこれを聴いて、旅に出よう。
Tim Hecker & Daniel Lopatin - Uptown Psychedelia | Software
アンビエントの大物、ティム・ヘッカーと今日のニューエイジ/エクスペリメンタルの先頭を走るOPNとのコラボレーション・アルバム『インストゥルメンタル・ツーリスト』が11月あたりに出るようです。OPNことダニエル・ロパティンのレーベル〈ソフトウェア〉からのリリースになります。"アップタウン・サイケデリア"がアルバムに先駆けてYoutubeにアップされているので、まずはこれ聴いて待ちましょう。
ほとんどがインプロヴィゼーションになる模様ですが、ティム・ヘッカーのある種の重さとOPNがどのように向き合うのか、注目でしょう!
MiNdToUcHbeaTs - MeMoRieS FRoM THe FuTuRe.
韓国系アメリカ人女性のビートメイカーと言えばトキモンスタだが、もうひとり、ロサンジェルスのマインドタッチビーツ(MiNdToUcHbeaTs)も多くの人に記憶されるだろう。彼女の新しいシングル「メモリーズ・フロム・ザ・フューチャー(MeMoRieS FRoM THe FuTuRe.)」がフリーダウンロードで発表された。この週末は、彼女のMPC 3000で生まれた10曲、華麗なるヒップホップをぜひお試しあれ。素晴らしいです。
http://mindtouch.bandcamp.com/album/memories-from-the-future
2010年のアルバム『トゥナイト・アット・ヌーン(ToNight aT NoON)』もまだフリーダウンロードできるので、いまのうちに聴こう。
買ってからけっこう時間が経ってしまっている盤も少なくない。いまはヴィラロボスのアナログ盤が並んでいるけれど、ぜんぶ揃えると5千円かよ~。とりあえずはいくつか現状報告。
1.Lindstrom - Call Me Anytime (Ariel Pink's Haunted Graffiti Remix) |
Smalltown Supersound
いつか誰かがやるんじゃないかと思っていたけれど……リミキサーがアリエル・ピンクス・ホーンティッド・グラフィティ、OPN、そしてマーク・マグワイアという、三田格じゃなくとも「ついにこの時代が来たか!」と唸りたくなるような記念碑的なシングル。機能性のみが重視されているこの10年のリミックス文化には見られなかった何でもアリの実験精神が刻まれている。それでも、OPNとマーク・マッガイアに頼むのはわかる。そこにアリエル・ピンクがA面にどしんと刻まれているところが良い。レーベルの方向性に拍手したい。ノルウェイーのコズミック・ディスコの王様、リンドストロームが今年リリースしたサード・アルバム『シックス・カップス・オブ・レベル』収録曲だが、最近はネナ・チェリー&ザ・シングやラジカのアルバム、数年前はサンバーンド・ハンド・オブ・マンやヤマツカ・アイなどといったレフトフィールドなアーティストの作品を出している〈スモールタウン・スーパーサウンド〉らしい冒険心と言えるだろう。
アリエル・ピンクス・ホーンティッド・グラフィティのリミックスが意外なことにしっかりとフロア対応していて、クラウトロック的な、そして諧謔性のあるミニマリズムを展開。OPNは、チルアウトを押し通しつつも、左右音が飛びまくりの見事なトリップ・ミュージック。マーク・マグワイアは……思わず笑ってしまうほど、ギターを弾きまくっている。
2.Azealia Banks - 1991 | Interscope Records
とくにヒップホップ/R&Bのリスナーのあいだでは期待が高い、ハーレム出身の21歳、アゼリア・バンクスの〈インタースコープ〉からの12インチ・シングルをマシン・ドラムとローンがプロデュースしているところに“いま”を感じるし、M.I.A.を過去のものにしてやるぐらいの意気込みを感じる。ミッシー・エリオットとM.I.A.の中間をいくようなフローも魅力的で、一聴しただけで強く惹かれるものがある。ハウスを取り入れたマシンドラムの“1991”に対して、ローンはレイヴィーな“Liquorice”で迎える。路上のにおいが漂うB1の“212”も素晴らしい。すべてにおいて完璧。夏前に買ったシングルだが、2012年のベストな1枚だと思う。
3.Joy Orbison, Boddika & Pearson Sound - Faint / Nil (Reece) / Moist | SunkLo

UKベース・ミュージック、ジョイ・オービソンがボディカと一緒に作ったレーベルから3枚リリースされている12インチの最初の1枚。この盤のみピアソン・サウンドが参加。
ハウス/テクノに限りなく近づきながらも一寸止めでベース・ミュージックにとどまっている。ダブステップやグライムで育った感性がハウス的展開をしているまっただ中にある。ザ・XXのジェイミー・スミスあたりといちばんシンクロしている音はこのあたりなんじゃないだろうか。
4.Moody - Why Do U Feel ? / I Got Werk / Born 2 Die | KDJ
問題はB面の2曲目。ラナ・デル・レイとは、とくに“ボーン・トゥ・ダイ”のプロモーション・ヴィデオを見たことのある人なら、あの曲の世界観が吐き気がするほど白いアメリカだとわかるだろう。それは、デトロイトのブラック・ソウル・ハウスにおけるもっともラジカルなプロデューサーが描き続けている世界とは正反対に広がっている。が、ムーディーマンはそんな彼女を、突き放すのではなく、セクシャルな黒い女神へと変換している。鮮やかな手口でもって。
ほかの2曲は毅然としたブラック・ソウル。“Why Do U Feel ?”はムーディーマンのメロウなセンスを活かした曲で、“I Got Werk”はファンク。ちょっとオタク的なことを言えば、スネアの音ひとつ、シンバルの音ひとつ、違う。
5.HRKY - Madwazz Ep | Madwazz Records

これをもそうだが、最近は、本当に、デトロイト・テクノがインディ・ミュージックを聴いているいちばん若い世代のあいだで盛り上がっているようだ。ロックのおけるブルースやソウルのように、迷ったら帰る家となっているのだろう。 これは神戸のレコード店〈アンダーグラウンド・ギャラリー〉が鼻息荒く、「CARL CRAIG / BASIC CHANNELファンへ!」と紹介する福岡のレーベル〈マッドワズ〉からの第一弾。バック・トゥ・ベーシックなファンクのグルーヴをキープしながら、アトモスフェリックなシンセサイザーが広がっている。3曲収録されているが、僕はB1の“The momentary break”がいちばん好き。メトロノーミックな909系のキック音、重なるストリングス、美しい余韻、まさに初期のカール・クレイグを彷彿させる。カセット・レーベルの〈ダエン〉といい、大阪と同様にナイトライフの締め付けが厳しくなっている福岡が、なんだか良い感じでざわついてきた。次は稲岡健か?
6.Being Borings - E-Girls on B-Movie(KT Re-Edit) / Red Hat and Black Sun / Love House of Love (Dr.Dunks Club Remix) | Crue-L Records

瀧見憲司と神田朋樹によるプロジェクト、ビーイング・ボーリングの2枚目の12インチで、ピッチを落とした、どろどっろのドラッギーなハウスが3種類収録されている。スクリュー的(チルウェイヴ的)なフィーリングのハウス解釈とも呼べる内容で、最近ではシーホークスと繋がっているように、言うなればアシッド・スクリュー・ハウスのAOR的な展開なのだ。瀧見憲司の場合は、どれだけフリークアウトしても身だしなみはしっかりしているようなところがあって、ビーイング・ボーリングにも彼の長所がよく出ている。B面ではラブン・タグのエリック・ダンカンがリミックスをしている。
7.Kahn & Neek - Percy / Fierce | Bandulu Records

スウィンドルに匹敵するような強力なグライムを下さいと、下北沢のZEROの飯島直樹さんに教えてもらったのが、この12インチ。
新しいレーベルの1枚目だが、カーンのほうは〈パンチ・ドランク〉などから数枚のシングルを出している。まあ、飯島さんが推すぐらいだからブリストルの連中なのだろう。このど迫力あるベースとサンプリング、若くて、ヴァイタルで、重たい音、たしかに「ドゥ・ザ・ジャズ」に匹敵する。グライムにパワーもらおっと。
8.Major Lazer - Get Free | Mad Decent
これも実は夏前のリリースで、はっきり言ってE王クラスのキャッチーなポップなレゲエ。ダーティー・プロジェクターズの女性、アンバー・コフマンさんをヴォーカルに迎えて、ディプロとスウィッチは彼らなりのラヴァーズ・ロックを披露している。B面ではボンヂ・ド・ホレ(Bonde do Role)がタイ・ディスコ調のリミックス。両面ともすごく良い。曲調、歌詞ともに今年のサマー・アンセムだった。
「政府からは愛を得られない/お金を得て何ができるの?/金すら得られないっつーのに/私を見て/私には信じられない/彼らが私に何をしてれたのだろうか/私は自由になれない/夢をみたいだけなのに」、その通り。異論はない。
9.Tashaki Miyaki - Sings The Everly Brothers | For Us
日本人ではない。ジーザス&メリーチェインをさらにレトロに再構築したようなサウンドで、実際バディ・ホリーやサム・クックのカヴァーも発表している。というか、他にもボブ・ディランとか、カヴァーばかりなのだが……。またレトロ・サウンドかよーと言わないで、聴いてみたほうが良い。形態こそロック・バンドだが、演奏している音は、スクリュー的なのだ。つまりテンポはどろっと遅く、けだるく、ドリーミー。
Given - One Day (In The City)(DEMO)
リリックに山下達郎の歌詞が引用されているからそう感じたのか、山下達郎“Dancer”をイエスタデイズ・ニュー・クインテット(マッドリブ)が大胆にリミックスしたようなクールな曲だ。が、このグルーヴィーなトラックの作者は、中盤からソウルフルな歌声を響かせ、ふてぶてしい表情でラップをかますギヴン(Given)という日本人のアーティストで、タイトルに(DEMO)とエクスキューズがついている通り、数日前にyoutubeにアップされて世に出ている。現段階で再生回数が574回であるのが信じられないほど、ある意味で、彼のアートは成熟している。
ところで、この、ラップもトラックメイキングもこなすギヴンは、DJ/トラックメイカーのティー・ラグ(tee-rug)とロウパス(LowPass)というヒップホップ・デュオを組んでいる。彼らはまだ22、23歳の新人だ。彼らが昨年末に発表したデビュー・アルバム『Where are you going?』と今年3月にインターネットで無料配信した『Interludes from“Where are you going?”』は、新旧のブラック・ミュージック・ファンを同時に唸らせるであろうブリリアントな魅力を有している。ベースは心地良くうねり、マーヴィン・ゲイ『I Want You』が引用される。アフロ・ファンクやブラジル音楽の要素もある。また、ロウパスの音楽には、〈ストーンズ・スロウ〉に通じるソウルがあり、元カンパニー・フロウのエル・Pが主宰する〈デフ・ジャックス〉を思わせる、謎めいたムードがある。ちなみに、QNとシミ・ラボのオムスビーツは、ロウパスのアルバムの1曲に参加している。彼らのアルバムの曲のいくつかはyoutubeでも聴ける。
では、最後のオマケにもう1曲。ギヴンがラップし、Mirugaiという謎のトラックメイカーがプロデュースしたQN“Ghost”(『New Country』収録)のカヴァー。なんともかっこいいコズミック・エレクトロ・ファンクじゃないか!
Ghost (QN Cover)
Ghost (QN Cover) by Mirugai feat. Given from LowPass.
Prod. by Mirugai.
「夏が来た、路上で踊るには良い季節」......こう歌ったのは1960年代のマーサ&ザ・ヴァンデラスでした。彼女たちがデトロイト市内のホールでこの曲を歌っているときに、町では暴動が起きていたという話は有名です。
さて、梅雨が明けて、夏到来です。スタンダード・ナンバーの"サマータイム"にたくさんの名カヴァーがあるように(ジャニス・ジョップリン、ニーナ・シモン、ブッカー・T&ザ・MG'S、サム・クック......)、この世界には夏をテーマにした名曲がたくさんあります。ビーチ・ボーイズは夏だらけだし、マーサ&ザ・ヴァンデラスには他にも"ヒートウェイヴ"があります、エレクトロニカ/IDMには『エンドレス・サマー』があるし、ハウス・ミュージックにもベースメント・ジャックスの「サマー・デイズEP」があり、チルウェイヴにはウォッシュト・アウトの「ライフ・オブ・レイジャー」があります。あるいはドナ・サマーやメキシカン・サマー......芸名やレーベル名が"夏"であるケースもあります。
夏の音楽は多くの場合ロマンティックですが、セックス・ピストルズの"ホリデー・イン・ザ・サン"を聴いたら怒りがこみ上がってきて、ザ・ドアーズの"サマーズ・オールモスト・ゴーン"を聴いたら夏が終わってしまった気持ちになるかもしれません。そしてジミ・ヘンドリクスの"ロング・ホット・サマー・ナイト"を聴けば、あたり一面は燃え上がるでしょう。
MFSBの『サマータイム』のアートワークに使われている写真も素敵ですね。熱波で焼けた路上でひとりの女性が水浴びしている姿にグッと来ます。
日本の音楽にも多くの夏の曲があります。曽我部恵一"Summer '71"、フィッシュマンズの"夏の思い出"や"Sunny Blue"......RCサクセションなどはホントに多くの夏の曲を作っています。
以下のチャートを見て、自分の「Favorite Summer Song」が入ってないじゃないかという方は、コメント欄に書いてください!
![]() 1 |
Martha And The Vandellas - Dancing In The Street |
|---|---|
![]() 2 |
Miles Davis - Summertime |
![]() 3 |
Jimi Hendrix - Long Hot Summer Night |
![]() 4 |
Fennesz - Endless Summer |
![]() 5 |
Sex Pistols - Holiday in the Sun |
![]() 6 |
The Associates- Fire To Ice |
![]() 7 |
The Ramones - Rockaway Beach |
![]() 8 |
RCサクセション - 海辺のワインディイングロード |
![]() 9 |
Alice Cooper - School's Out |
![]() 10 |
The Beatles - Mr. Moonlight |
![]() 11 |
RCサクセション - 楽しい夕に |
![]() 12 |
Eddie Cochrane - Summertime Blues |
![]() 13 |
The Style Council - Long Hot Summer |
![]() 14 |
Best Coast - Summer Mood |
![]() 15 |
The Doors - Summer's Almost Gone |
![]() 16 |
Sly And The Family Stone - Hot Fun In The Summertime |
![]() 17 |
The Drums - Saddest Summer |
![]() 18 |
Pub - Summer Pt 1 |
![]() 19 |
MFSB - Summertime |
![]() 20 |
The Beach Boys - All Summer Long |
![]() 21 |
RC サクセション - サマータイムブルース |
![]() 22 |
Girls - Summertime |
![]() 23 |
Yo La Tengo - Beach Party Tonight |
![]() 24 |
Bruce Springsteen - Backstreets |
![]() 25 |
Pink Floyd -Summer '68 |
沢井陽子
The Beach Boys - Endless Summer
サマーソングといえば、いまのタイミング的にも真っ先にビーチ・ボーイズ。イメージが先行しているのですが、こちらは、1966年前のヒットソングのコレクションで、初心者も十分楽しめる内容。ロスアンジェルスにいた頃、ジョニー・ロケットというレトロなハンバーガー・チェーン店に行って、ハンバーガーとフライズを食べながら、ジューク・ボックスに"サーフィンU.S.A."を入れて、パーフェクトな夏を満喫した思い出があるので、曲も素敵だが、そのときのイメージも多々影響。楽しい出来事ばかりでなく"イン・マイ・ルーム"で、もの悲しい夏の残骸を胸に抱え、自分の心の中にグッとしまっても、最後に"グッド・ヴァイブレーション"が流れると、ドラマチックな夏物語を「まあ、いいか」とまるく収めてくれる。全体が、夏のさまざまなシチュエーションに当てはまり、イメージが膨らむが、サマーソングって、結局それが楽しいのです。
DJ Yogurt(Upset Rec)
RCサクセション - サマータイム・ブルース
"サマー・マッドネス"、"サマー・イン・ザ・シティー"、"サマー・ミーンズ・ファン"、etc...
いろいろな曲が頭に浮かんだけど、2012年の日本の夏にハマっているのは、エディ・コクラン作の名曲に、いまは亡き清志郎が日本語の歌詞をのせた"サマータイム・ブルース"ではないかと。「電力は余ってる、いらねー、欲しくねーー」。
大久保潤 aka junne(メディア総合研究所/大甲子園/Filth)
SxOxB - "レッツ・ゴー・ビーチ"("ドント・ビー・スウィンドル")
ハードコア・パンクはナパーム・デスなどにより"速さ"という点において90年前後にネクスト・ステージに進み、90年代半ばにはファストコアとかパワー・バイオレンスとか呼ばれる激速なバンド群がシーンを席巻した(あの頃はそういうバンドの7インチが毎週のようにリリースされて本当に楽しかったなー)わけだが、そのルーツのひとつが初期S.O.Bである。大阪ハードコア・シーンから現れた彼らは「世界最速」と謳われ、日本にとどまらず世界のハードコアに多大な影響を与えた。
そんな彼らの初期の代表曲のひとつが"Let's Go Beach"で、歌詞はただ「Hot Summe soon comes again.
Let's Go Beach. Let's Go Surfin」だけ。ハードコア・パンクとサーフィンという組み合わせ(当時はまだ日本ではハードコアとスケートの関係もあまり一般的じゃなかったはず)、そしてファスト・パートから後半はキャッチーなシンガロング(♪レッツゴサマービ~~~チ!)に移行するポップなセンスもおそらく当時は斬新だったろうし影響力もデカかったんじゃないかな。ポップに始まって一転して激速! みたいなのって90年代には(たぶん今も)本当にたくさんありましたからね。
この曲と、ハノイ・ロックスの"Malibu Beach Nightmare"とラモーンズの"ロッカウェイ・ビーチ"を「新・三大ビーチソング」とさせていただきます!(全然新しくないけど)
DJ Hakka-K (Luv&Dub Paradise)
Baiser - Summer Breeze
夏といえばレゲエやその他大好きな曲はたくさんあるのですが、僕がいちばん最初に影響を受けたDJ Soneが夏になると必ずかけてたのが、83年に発表されたこの曲。いまでも夏になるとレコード・バッグに入れておく想い出がたくさん詰まったDISCOの隠れた名曲です。
山田蓉子
ピーナッツ - 恋のバカンス
言わずと知れた昭和歌謡の大名曲。中学生の頃からカラオケで必ず歌っているのだが、気持ちよくハモりながらひたすら「そっかーバカンスってのは、金色にかがやく熱い砂の上で裸で恋をするのねー。素敵」と思い続けてきた。全国民が一年中バカンスのことばっかり考えて暮らしているフランスで生活するようになったのも、そんな刷り込みのせいなのだろうか。でもまだ金色にかがやく熱い砂の上で裸で恋なんかしたことない。バカンスのために生き続ければいつかできるんだろうか...。
合掌。
why sheep?
私見ですが、夏は24,25と2日で勝負のクリスマスと違って日本人にも長丁場ですので、一曲に絞るのはむずかしいのです。
というわけで、アルバム単位で失礼します。これは、僕のサマー・ソングのオールタイム・フェイバリットで、オールタイムというからには理由があって、日本がどの季節であっても、暑くてビーチのあるところになら、僕が必ず持っていくアルバムだからでもあります。実家のある茅ヶ崎に帰郷する際はどんな季節であっても必ずです。
ちなみにわたくし、渋谷区神宮前生まれ、現住所湘南というプレミアムな、昔なら免許証だけでナンパできると言わましたがそれは昔の話で、もし免許証に写真を載せなくて良かったら、人生は今とずいぶん違ったことでしょう。さて、
閑話休題、
神奈川県茅ケ崎市の出身であればだれもが知ってることですが、
茅ヶ崎市民=サザン・オールスターズ・ファン
というのが公理となります。
茅ヶ崎市民≒サザン・オールスターズ・ファン
は許されませんし、
茅ヶ崎市民なのに≠サザンオールスターズ・ファン
はばれたらその場で公開処刑されます。
しかし、どんなところにも反逆者はいるもので、江戸時代の隠れキリシタンのように
そんな中でサザンを崇拝しなかったのがこの私です。もちろんサザンの曲も大好きですが、神宮前の生まれの私にはあまりにも野暮ったすぎました。
長くなるとあれなので順不同ということで三枚選ばせていただきますと、
●Boz scaggs - Down To Then Left
もちろんbozの名盤といえばsilk degreesですし、一枚後のmiddle manは東海岸AORあげての名盤ですが、その中庸にあるこのアルバムなぜか期待されていたほどに売れませんでした。だからこそぜひ聴いてみてください。超ゴールド・ディスクのsilk・degreesの直後になんでこんなアルバム作ったのかと俄ファンは首をかしげたかもしれまえんが、ルーツと言えばパンクと忌野氏の話しかしない三田格が即座にこのアルバムの名前を言えるということだけお伝えすれば、ele king読者は気持ちは動くことでしょう。三田さんが好きかどうかは知りませんが。
●Bobby Caldwell - Carry On
アルバムのすべての曲が珠玉としか言いようががありません!
邦題は原題とまったく関係ない「センチメンタル・シーサイド」と付けられてましたが、その心は当たらずとも遠からず。。
1980年代、日本のサマーリゾートの代表である湘南は傍目はアメリカ西海岸、(実情はサザン=茅ヶ崎駅南口)だったのですが、桑田圭祐もその音楽的ホームグラウンドであるという茅ヶ崎の現存するレコード屋さん「CHIYAMA」(桑田さんが青学に通ってる頃厨房の私が通っていた)につつましげに張ってあったポスターが忘れられません。
「マイアミの蒼い風」
そこにはそう書いてありました。
当時の日本の理想とするカリフォルニアでもなく、はたまた湘南の実情ださいヤンキー文化でもない、架空のビーチがあった!そこはマイアミ(本当のマイアミは行ったことないので知りません。。)
あぁ...哀れなるかなbobby caldwell。3枚目にして自身のもてるすべてを注ぎ込んだ、そして当時のレコード会社も起死回生を図って宣伝したこのアルバム、期待ほど売れませんでした。当然です。日本人はカリフォルニアしか頭になかったのですから。
長々と前節書きましたが、この感傷性の至高とも言えるアルバム。アラサー独身男子の方ならきっと理解してもらえることでしょう。はまっちゃったら一生結婚できないこと請け合いです。
さて最後、
●J.D.Souther - You're Only Lonely
あぁ、このメロディーにこの歌詞に極め付けのこの声。同胞のイーグルスのほうが100倍有名ですが、彼はイーグルスの第五(第六だったかな?)のメンバーと言われるほどイーグルスに貢献したソロ・シンガー・ソングライターです。(名曲"New Kid In Town"は彼の曲)
一聴したら単なるアメリカの野暮ったいカントリー&ウエスタンの歌手と間違える人もいるかもしれませんが、よく聴いてくださいこの声。
現代音楽の大家メシアンは音を色に例え、詩人ランボーは言葉を色に例えたそうですが、わたしに言わせればJ.Dの声は「いぶし銀の声」と呼んでいます。
それをもっとも感じるのはこの前のアルバムの『Black Rose』収録の"Silver Blue"ですが、夏の間聴くべきはこのアルバムです。
とくに一押しは彼の出世曲の"You're Only Lonely"ではなく!!!!"If You Don't Want My Love"、このモラトリアムから抜け切れないガキっぽい歌詞が胸をえぐります。しかしなんといっても必聴すべきは、彼の声もさることながらハモンド・オルガンB3の旋律というかその音色!!!
はっきり言って"Let It Be"のBilly Prestonを軽やかに凌駕しています。その名はJai Winding。ちょっと調べた限りでは往時の人気スタジオ・ミュージシャンということですが、実際のところよくわかりません。"My Funny Valentine"のときのJimmy.Smithぐらい良い!!!知ってる人いたら情報求む!!!
それでもどうしてもと野田努に一曲選べと言われたらこの曲、
佐野元春
『Heartbeat』収録 "Interlude"~"Heartbeat"
↑ここには私の少年ゆえの切ない恋愛体験がすべて詰まっております。くれぐれも("Interlude"から聴いてください)
他にも山下達郎の"Big Wave"(口が裂けても『Beach Boys』の"Pet Sounds"とか言いたくない)とかあるんだけど、この企画が来年も続いたらその時にでも。
おやすみなさい。みなさん家のエアコン止めてビーチでセンチメンタル・シーサイドしようぜ!
summer, 2012
why sheep?
三田格(e-Busters...)
Wham! - Club Tropicana
なんてな
竹内正太郎
□□□ - 渚のシンデレラ
夏、夏か、、、。この、永遠に思わせぶりで無責任な季節は、これからもギリギリのところで前向きな予感たりえてくれるのだろうか? いや、しかしこうも明らかな異常気象が続き、つい先日も日本国内の最高気温都市の上位三位を独占したような場所に住んでいる身としては、サマー・ソングを悠長にセレクトするにも体力を使って仕方がない。しかし橋元優歩に催促され、限られた時間内に直感で選ぶとしたら、("真夏のラストチューン"も捨てがたいが)やはりこの曲になるだろう。クチロロがバンド編成時代に残したきらきらのクラシック。超多層構造のトラックをハイパーなまでに軽く聴かせるその手さばきは、今なお並々ならぬセンスを見せつけている。それはもう、嫌らしいほどに。ヴォーカル/大木美佐子の安定しない高音域もいい。夏は楽しく充実しているべきか? この疑問自体、広告業的な価値観に刷り込まれたちゃちな不安でしかないわけだが、優れたサマー・ポップは何度だってその空虚さを上塗りする。とても鮮やかに。パルコの広告にほだされ、私は今年も嫌々と海に出掛けるのだろう。一年に一度くらい、まったく見当違いの恋をしてみるのもいいものだ。それがどれほど軽薄なものであっても。「ここから物語は続く/忘れたものもあの角を曲がればきっと思い出すさ」!!
松村正人
XTC - Summer's Cauldron
私は夏が大好きなので、好きな曲はビーチの砂の数ほどありますが、そのなかでもこの曲は、陽がのぼるとすぐにうだるようで、退屈で、楽しくないので、どこかに逃げたいがまわりは海ばかりで、しょうがないと諦めつつ、それもそう悪くないかと思いはじめたころ、暑気がひけて、虫や鳥の声が際だちはじめた、島に住んでいたころの夏の日の宵の記憶をくすぐるようでとても甘美だ。
水越真紀
戸川純 - 隣りの印度人(玉姫様)
21世紀の日本の夏、80年代に比べて湿度は低くなった。絶対なったと思うのだ。数年前、そのことを示すグラフをネットで見つけたのだけど、二度と出会えないでいる。
ともあれ、目の前の暑さをどうにかして「涼しぃ?」と断言する、言いくるめる、歌い上げる姿勢に私は共感するのである。ポストモダンな感じがする。人間の知恵、つー感じだ。しかし、現実逃避の知恵ばかり身につけてしまうのもどうかとも思う。
私は冷房を使っていない。本当に暑いには空気がゆらゆら揺れているのが見える。汗が吹き出しては乾いて皮膚を冷やす。
去年の夏は2時間置きに猫を冷やす保冷剤を取り替えていた。濡れたタオルで拭いてやり、耳を氷で冷やしたりした。今年こそ冷房を入れてやらねばと思っていたが、それを待たずに彼女は逝った。今年、冷房を入れる理由はなにひとつなくなった。
橋元優歩(e-Busters...)
Animal Collective - Fireworks
Photodisco - 盆踊り
わたしも夏が大好きです。黄色といったときに山吹からレモンとかまでいろいろあるように、夏というのもいろいろあって、お盆とかかなり好きです。"Fireworks"は詞に夏が明示されているわけではないのですが、わたしには幻想的なお盆メンタル・ソングとしか考えられません。海外にお盆はないでしょうが。
木津毅
R.E.M. - Nightswimming
昔から自分が惹かれてきたのは、夏の盛りよりも夏の終わりの歌でした。それは青春そのものよりも終わっていく若さ、すなわち中年に惹かれるのと似ている......かもしれません。真夏を謳歌するのと同じくらい、夏を無駄にした......という感覚をポップ・ソングは拾ってきたようにも思えます。
R.E.M.のこのナンバーは彼らの代表曲のひとつで、もう去ってしまった誰かのことを思いながら、晩夏の夜にひとりで月に焦がれながらプールで泳いでいるという、「夏を無駄にした」度では抜きん出た名曲です。リリカルな風景描写はマイケル・スタイプの詩人としての才能を見せつけ、それ以上にこのポップ・ソングに美しいフォルムを与えています。「君のことを、僕は知っていると思っていた」......悲しすぎますが、それがとても穏やかに歌われることで、夏の終わりの感傷が許されるようでもあります。「9月がじきにやって来る」......。
國枝志郎
Chapterhouse - Summer Chill
俺と言えばシューゲイザー、シューゲイザーと言えば俺(反論上等)なんで。チャプターハウスが1stアルバム『Whirlpool』と2nd『Blood Music』の間に発表した神シングル「Mesmerise」(俺的にはスロウダイヴのシングル「5 ep」と並ぶ究極ロッキン・チルアウト)収録の1曲。2ndアルバムにはもうひとつサマーネタで「Summer's Gone」というナンバーもあるけどやっぱりこっちでしょう。タイトルも最高!!!!!!!!!! あーチルりたい。
Photodisco
H Jungle with t - GOING GOING HOME
夏といえば、やっぱりこの曲ですね。お盆に帰省した際、実家でビールを飲みながら聴きこうと思います。
オノマトペ大臣(Maltine Record/TJNY)
Phillis Dyllon - Nice Time
夏になるたびに学生時代を思い出します。
白い太陽、青い海、赤く日焼けしたあの子の細い腕
楽しいはずなのに何故だか寂しい、いつか終わってしまう刹那的な煌めく青春の夏。。。
どこかの誰かが過ごしているそんな極彩色の夏を尻目に、マジで永遠に続くんじゃないかと思うような怠惰な余暇を、クーラーガンガンの部屋でカーテンを閉め切り、ゴローンと横になって手に持った黒い文字の羅列を追うことでやり過ごしていたしょっぱい夏。
ベッド横に置かれたローテーブル上に、氷が沢山入った透明なグラスが置かれ、カナダドライのジンジャーエールがパチパチとはじけると、西宮の六畳間にも、にわかに夏の気配が漂います。
近所の外資系CDショップで買ってきた3枚組3000円ちょっとのTrojanのCalypso Box Setをミニコンポにセットすると、いよいよ目の前に常夏のトリニダードトバゴが広がるのでした。
内容の薄っぺらい新書を読み進め、40ページぐらい行ったところでPhillis Dyllonの歌声が響き渡ると、心は完全に夏の夢の中。
新書をベランダから捨て去って、背中の羽をパタパタとして舞い上がり、ヤシの木の上の方に座り心地よく揺られたものでした。
それから4年が過ぎた、2012年の夏。
永遠に続きそうだった怠惰な夏は、心のアルバムの中で色褪せるどころか、それなりに輝いて見えます。
今年の夏はどのように過ごそうか、とりあえずPhillis Dyllonを聞いて、西宮のトリニダードトバゴで考えようと思っております。
(最近サンクラに上がってたCoconuts Beat Clubによるmoombahton editもすごく好きです。http://soundcloud.com/coconuts-beat-club/nice-time-coconuts-beat-club )
赤塚りえ子
Brian Jones Presents the Pipes of Pan at Joujouka
44年前の7月29日、ブライアン・ジョーンズは真夏のジャジューカ(モロッコ)に行きMaster Musicians of Joujoukaの演奏を現地で録音した。
彼の死の二年後にリリースされたこのアルバムでは、ブライアン・ジョーンズというフィルターを通したジャジューカを体験できる。
今年6月、ついにそのMaster Musicians of Joujoukaの生演奏を現地で体験してきた。
全身にものすごいグルーヴ浴びて、何本もの生ガイタ音が立体的に脳を直撃、そのまままっすぐに脳ミソを突き抜けた。
ブライアン・ジョーンズがなぜジャジューカにハマったのか?一瞬にして体でわかった。
来年の夏もまたジャジューカで、4000年のダンスミュージックで踊りまくってくるゼィ!
Yuji Oda (The Beauty/Cuz Me Pain)
No Joy - Negaverse
カナダの男女3人組バンドNo Joyが送り出す12インチシングル。
全てが正しいと思わせるオルタナギターと儚いボーカルが夏の荒野を駆け抜け交差する疾走シューゲイズ。
2012年の夏はこれ。
YYOKKE (White Wear/Jesse Ruins/Cuz Me Pain)
Junei - You Must Go On
夏はこんな涼しげな曲を何も考えずにずっと聴いていたいです。
Nobuyuki Sakuma (Jesse Ruins/Cuz Me Pain)
Prurient - There Are Still Secrets
夏に熱いものを食べる的な感じで暑苦しい曲も聴きたくなります。
寺尾紗穂
サニーデイ・サービス -"海岸行き"
saigenji - El Sur
夏の終わりを歌う以下の二曲が好きですが、youtubeにはあがっていないようです。
サニーデイ・サービス「海岸行き」
サニーデイの曾我部さんのさらりとした感触の歌詞は自分にはなかなか書けないもので、よく羨ましく思います。いつかカヴァーしたい曲。
saigenji「El Sur」
「El Sur」はサイゲンジさんと歌ったことがありますがもう一度歌いたいです。
「南へ帰るなら僕のさみしさもその翼に乗せていっておくれ」とツバメに語りかける歌詞が切ないです。サイゲンジさんのライブというとアップテンポの曲でノセたりアゲたりしてくれるイメージがありますがスロウで穏やかな曲にも名曲が多いです。
洋楽で好きなJudee Sillの歌詞を読み直したら「Jesus Was A Cross Maker」がちょっと夏の気配でしたので挙げておこうかと思います。
クラシック的な手法を織り込むというのは色んな人がやっていることなのだろうと思うのですがこの人の場合、その織り込み方がとても大胆で生き生きとしていていつ聞いても新鮮な感じを受けます。
THE OTOGIBANASHI'S - Pool
2度と戻らない青春の夏の1ページを記録したような甘酸っぱい感覚に満ちている。ここから、かせきさいだぁやフィッシュマンズ、あるいはチルウェイヴを連想するのは安易だろうか。いずれにせよ、THE OTOGIBANASHI'Sの、3分ちょっとの衝撃のデビュー曲である。T.R.E.A.M.のインタビューに拠れば、THE OTOGIBANASHI'Sは、B.M&僕(B.M&boku)、インディ(in-d) 、パルベッドストック(PalBedStock)の3MCから成るグループで、B.M&僕とインディは19歳、パルベッドストックは弱冠16歳だそうだ。トラックを作るのは、17歳のBlackaaat(読みはブラカットだろうか??)こと、あらべぇで、彼はブンやキラー・ボング、J・ディラなどに影響を受けていると語っている。『ele-king Vol.6』に倣って言えば、これもまた宅録文化の最前線と言えるのだろうか。ともあれ、この若さで、このセンス、今後が楽しみでしょうがない。
B.I.G.JOE - Hurry!!!
『ブラック・パワー・ミックステープ~アメリカの光と影~』を観て、60年代後半から70年代前半の、ブラック・パンサーのストークリー・カー・マイケルやアンジェラ・デイヴィスのスピーチがずば抜けて格好良かったことに感動した。感情を爆発させることは容易い。いかに激情をコントロールして、テンションをキープし、クールにキメるか。ビッグ・ジョーは原発の問題や311以降の硬直した日本社会といった難しいテーマに挑みながら、カー・マイケルやデイヴィスがそうであったように、決していきり立たず、クールに、セクシーに、「立ち上がれ!」と民衆に呼びかけている。大きなテーマに捻じ伏せられることなく、軽やかにラップするビッグ・ジョーに痺れた! 「Hurry!!!」は、ビッグ・ジョー流の「ファイト・ザ・パワー」であり、「ファイト・フォー・ユア・ライト」である。
KLEPTOMANIAC feat.RUMI,MARIA - LA NINA
トラックは〈ブラックスモーカー〉のアートワークを数多く手がけるクレプトマニアック、そしてラップするのはルミとシミ・ラボのマリア。この3人のレディのコラボレーションが決まった時点で、勝負はあった! はい、10年代のヒップホップ・クラシックの誕生です。体を揺さぶるぶっ太いビートとベース、ルーツ・レゲエからサンプリングしたようなルーディーなギター、複雑に絡み合う機械的な響きのするパーカッションとクラップ、そして自由気ままなシーケンス。それらは、既成の秩序に対する挑戦、あるいはそこからの逸脱を雄弁に表現しているように聴こえる。ルミは深い闇の中を蝶のように妖しげに舞い、マリアは日本語と英語を巧みに織り交ぜ、華麗に泳いでいる。マリアからはたしかにニップスの影響を感じる。勢いを増す〈ブラックスモーカー〉が8月に発売する女性アーティストのコンピレーション『LA NINA』からの一曲。ダブ、テクノ、ヒップホップ、ノイズ......コンピもとんでもないことになっている。
田我流 - やべ~勢いですげー盛り上がる
すでに本サイトにレヴューがアップされた田我流のセカンド『B級映画のように2』からのニュー・シットなのだが、ミュージック・ヴィデオがやべ~勢いですげー最高なので紹介しよう!! これはもはやアメリカのアクション・ドラマ『特攻野郎Aチーム』のはちゃめちゃな世界観にタメをはっている。『特攻野郎Aチーム』の山梨ローカル・ヴァージョンとも言えるし、労働者階級のファンキーな暴走とも言える。と、まあ、いろんな見方ができるが、とにかく痛快だ。ところで、田我流にインタビューした時に聞いたのだけど、この曲は90年代後半のダーティ・サウスを意識していて、ブレイクする前のスリー・シックス・マフィアをモデルにしているという。なるほどね~。
SHINGO★西成 - 大阪UP
大阪・西成のアニキの登場です! シンゴ★西成の通算三作目の新作『ブレない』からの一曲で、風営法の取り締まりで悪戦苦闘を強いられている大阪クラブ・シーンに闘魂を注入するような大阪賛歌だ。ラッパーやクラブ関係者、DJやダンサーだけでなく、近所のお店のオバちゃんやお姉さん 、赤井英和といった人たちも登場するのがいい。シンゴ★西成は今年のはじめに、日本最大の遊郭、飛田新地の活性化のためにブロック・パーティを主催している。その辺の話は近くアップされるであろうriddimのインタビューで大いに語ってもらっています。ほんと、この人はブレません。日本の大衆音楽としてこういう人が売れないとダメでしょ。シンゴ★西成を聴いていると、平岡正明の「歌手は大衆の欲望と表現を反射すればいい」という名パンチラインをいつも思い出す。元気の出る一発!
IORI - NEXUSBITTA |
太陽と海、そして米軍基地を内包し、本土とは異なる独自の歴史と文化が広がる沖縄は、その昔から独自のディスコ・カルチャーが育まれてきた地としても知られている。それは沖縄を代表するDJ、クリエイターであるTAKUJI a.k.a. GEETEKが作品で展開している「沖縄のバレアリック・フィール」と評される独特な折衷性からも意識させられることではあるし、DJ HIKARUやFRAN-KEYといったDJが移住したことで近年の沖縄シーンそのものもますますユニークなものになっているように感じられる。
そんな2000年代後半の沖縄から、イギリスやドイツ発の作品リリースを通じて、急速にその名前が知られるようになったのがIORIだ。テクノやダブ、アンビエント、ドローンを溶かし込んだディープでストイックなトラックを繊細なタッチで空間的に鳴らすその作風は〈フューチャー・テラー〉を率いるDJ NOBUを虜にし、そのデビュー・アルバム『ネクサス』は彼が新たに立ち上げたレーベル、〈ビッタ〉の第1弾としてリリースされたばかり。そして、というか、やはりというか、沖縄の深海を思わせる音楽世界のさらに奥底には、彼がたどってきた驚くべき音楽遍歴が隠されていたのだった。
ニューヨーク滞在中に「ここで得たものを持ち帰って、沖縄でやりたい」っていう気持ちが芽生えて、帰国してからいままでずっと沖縄なんです。DJとしては、渡米前から火の玉ホールの第4火曜日に当時の沖縄で唯一のディープ・ハウス・パーティを8年間続けて......。
■個人的に、IORIくんのことを知ったのは2008年にロンドンのサイト、ディープフリークエンシーではじまった不定期オンエアの番組「イオリ・ギャラクシー」がきっかけだったりするんですけど、最初はロンドン在住の方だと思っていたんです。
IORI:ははは。沖縄在住なんですけどね。でも、ロンドンやニューヨークとの絡みもあったりするから、わかりにくいといえば、わかりにくいですよね(笑)。
■そのあたりのことを整理しつつ、お話をうかがいたいんですけど、沖縄に生まれ育ってたIORIくんがDJをはじめたのは2000年なんですね?
IORI:そうです。高校1年生のとき、那覇の国際通りにとある女の人がやってるアクセサリー・ショップがあって、学校帰りに友だちと買い物がてらたむろすようになって。そのお店にはターンテーブルやレコードが置いてあって、いつも面白い音楽がかかっていたので、その女の人といろいろ話すようになって、ハウスからアシュラみたいなジャーマン・ロックまで色々教えてもらったり、連れていってもらったパーティでいろんな沖縄のDJを紹介してもらったんです。
■16歳で? それはかなりの早熟ですねー。
IORI:それで、雑誌『リミックス』の別冊で、ラリー(・レヴァン)が表紙の『ハウス・レジェンド』を貸してもらって、そのディスク・ガイドを参考に、レコードを集めるようになったんです。あと、僕には10歳上の姉がいるんですけど、音楽好きで、DJと付き合ったりしていたので、家にミックステープがたくさんあって、ヒップホップにハウスが混ざってるやつとか、フランキー・ナックルズのDJミックスとか、そういうテープから受けた影響も大きかったですし、そういう音楽体験があったからこそ、最初から特定のジャンルに限定せず音楽を聴くことができたんです。
■当時の沖縄のクラブ・シーンはどういう状況だったんですか?
IORI:当時、那覇のクラブといったら、アンダーグラウンドな曲がかかる火の玉ホールがメインで、自分もよく遊びに行ってたので、レコード買ったり、遊んでいるのも知ってた店のオーナーから「学校を卒業したら、DJやれば?」って。だから、2000年、19歳の時に火の玉ホールで初めてDJをやらせてもらったんです。でも、沖縄って、地域によって色が違うんですね。那覇と、そこからちょっと上にいった沖縄市コザでも音楽性が違うし、92年に来沖したフランソワ(・ケヴォーキアン)とラリーの「ハーモニー・ツアー」もパーティをやったのもコザだったんですね。
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本格的にやりはじめたのはここ3年くらいですよ。それ以前、20歳くらいの頃にMPC2000とシンセを買って、MPCで作ったビートにシンセを被せたチープなハウス・トラックを作ってみたこともあるんですけど、機材の使い方が難しくて、のめり込めなかったんですね。
■そして、2000年にDJをはじめて、その3年後に早くもニューヨークへ渡ったんですよね。
IORI:そうですね。まず、17歳の時にデヴィッド(・マンキューソ)が初めて沖縄でプレイしたんですけど、そのパーティへ遊びに行ったら、自分が聴いてるレコードの音が格段に違う鳴りだったことに最初の1曲めからぶっ飛んだというか、それ以前の夜遊びでは味わったことのない、ものすごい衝撃を受けたんです。で、その2年後にまたデヴィッドが来たとき、そのパーティをスタッフとして手伝っていたので、いっしょにご飯を食べたとき、「ニューヨークに行きたいんです」って話をしたら、「いつでもおいで」って。だから、その翌年、まずは旅行でニューヨークに行ったんですけど、行く前に当時彼のマネージャーだったタケシさんっていう日本人を通じてメールで連絡したら、スムーズに2週間泊めてくれたんです。で、その翌年の2003年に今度は向こうの大学に行く勢いで、長期滞在するためにニューヨークへ行ったんですけど、その時、「家が見つかるまで泊まっていいよ」っていう話から「部屋が空いてるから、ここに住めばいいんじゃない?」ってことになったんです。
■そうやって気軽に出かけていくIORIくんの行動力もスゴいですけど、IORIくんを「住んでいいよ」って気軽に受け入れるデヴィッドも懐の広さもまたなんともはや。そして、もちろん、彼といっしょに生活しながら、色んなことを教えてもらった、と。
IORI:そうですね。もちろん、音楽が好きで来たことはデヴィッドも知っていたので、彼がパーティをやるときに手伝うようになったり、いっしょに生活するなかで、いろんな部分で影響されましたよね。ただ、彼は自分の家に機材を全部置いているわけでもなければ、僕が彼といっしょに住むまで、オーディオもつながれていなかったし、普段は一日じゅうラジオを聴きながら、パソコンで世界中の人とやりとりをしている人でした。そんななか、特に印象に残っているのは、レコードのコンディションに対する神経質なくらいの気の使い方であったり、サウンドシステムに対するきめ細かさ。僕は彼と同じレコード、同じサウンドシステムを扱っているわけではないんですけど、彼から学んだそうした心構えで、自分なりに音楽と接しているつもりです。
■デヴィッドのレコードの扱い方というのは?
IORI:そんなに手入れはしてないんですよ。ただ、彼はすごいレコード針を使っているので、レコードのスクラッチ・ノイズを異常に嫌っていて、ちょっとでもスクラッチ・ノイズがあったらダメって感じなんですよ。だから、盤面には絶対に指紋をつけないというところからはじまって、レコードのインナースリーヴをすぐに取り出せる状態にはせず、ほこりが入らないようにしておくとか。彼にならって、僕もそうしていますし、彼からレコードを教えてもらったことはないんですけど、レコード棚を端から端まで見させてもらったり、彼はパーティでかけるレコードのだいたいの順番をあらかじめ決めるので、その曲順を書いた紙を「はい」って渡されて、僕がレコードをその順番に並べて箱に詰めたり。
■でも、ニューヨークでのロフト体験やデヴィッドとの共同生活もありつつ、そのまま滞在せず、1年後には沖縄に帰られたんですよね?
IORI:そうなんですよ。ニューヨーク滞在中に「ここで得たものを持ち帰って、沖縄でやりたい」っていう気持ちが芽生えて、帰国してからいままでずっと沖縄なんです。DJとしては、渡米前から火の玉ホールの第4火曜日に当時の沖縄で唯一のディープ・ハウス・パーティを8年間続けて、平日でもコンスタントに5、60人入るような状況だったんですけど、火の玉ホールの移転を機にそのパーティも終わって。2008年から「ギャラクシー」っていうパーティをはじめて、今は桜坂にある"g"っていう小さいバーでやってるんですけど、そのパーティも今年で4年目になるのかな。
■そして、2008年にロンドンのサイト、ディープフリークエンシーでそのパーティ名とも通ずる「イオリ・ギャラクシー」というネット・ラジオをはじめることになるわけですけど、沖縄にいながらにして、どういう経緯で番組を持つことになったんですか?
IORI:ニューヨークのロフトのパーティで知り合ったフランス人がロンドンに住んでいて、彼を訪ねてロンドンへ遊びに行ったんですよ。
■あ、こないだ来日したDJのセドリック・ウーですか?
IORI:そうそう。その時、すでにセドリックもディープフリークエンシーで自分の枠を持っていて、ロンドン滞在中にゲストでDJさせてもらったんですよ。そうしたら、サイトのスタッフが気に入ってくれて、その翌月からレギュラーでやることになったんです。それまでオンライン・ラジオがどんなものなのかも知らなければ、もちろん、やったこともなくて、そのサイトも日本に帰って初めて見たっていうくらいだったんですけど、2時間の番組用の音源データを送って、最初の2年は月イチ、今は不定期でやってますね。
■セドリックは要するにデヴィッドがロフトでパーティする時のスタッフというか、ロンドンのロフト・ファミリーですよね。
IORI:そう。ディープフリークエンシーをやってる同じフランス人のギヨームもロフト・クルーですし、同じくロフト・ファミリーでいまはイギリスに住んでるDJコスモもディープフリークエンシーで番組を持ってるんです。
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晴れてる日は外へ遊びに行きたくなって曲作りはできないんですよね。だから、雨や曇りの日なんかにこういうトラックのムードを自分のなかで作り出して、そこに没入しながら作ることが多かったですし、最初のコンセプトとして、作る音楽にあまり沖縄的なものを入れたくないとも思っていました。
IOR - NEXUSBITTA |
■なるほど。世界がつながるロフト・コネクションがあるんですね。ちなみにIORIくんが音楽制作をはじめたのはいつからなんですか?
IORI:実は遅くて、本格的にやりはじめたのはここ3年くらいですよ。それ以前、20歳くらいの頃にMPC2000とシンセを買って、MPCで作ったビートにシンセを被せたチープなハウス・トラックを作ってみたこともあるんですけど、機材の使い方が難しくて、のめり込めなかったんですね。で、2008年にAbleton Liveっていうソフトを買って、そこからようやくですね。
■でも、最初のシングル「ギャラクシーEP」がリリースされたのが2009年ですよね。作りはじめて1年くらいで作品リリース。しかもレーベルは、イギリスのレコード・ショップ、フォニカ主宰の〈フォニカ・ホワイト〉からっていうのも、これまたびっくりするような話ですよね。
IORI:そうなんですよ。音楽を作りはじめて、「これいいんじゃないか」って初めて思った曲をマイスペースにアップしたら、フォニカのスタッフがそれを聴いてくれてリリースにいたったという。で、その後の(ドイツのレーベル)〈プロローグ〉からのリリースもマイスペースがきっかけなんです。〈プロローグ〉もフォニカが出したいと言ってくれた曲をいいって言ってくれたんですけど、「もうフォニカからのリリースが決まってる」って答えたら、「じゃあ、デモ送って」って。
■5月にリリースされたIORIくんのファースト・アルバム『ネクサス』に収録されている"ギャラクシー"の完成度の高さを思えば、そのエピソードも納得できるんですが、まさかマイスペースがきっかけとは驚きました。でも、お話をうかがってきたように、IORIくんのルーツはハウスやディスコ、ロフトだったりするはずなのに、その後のシングルやそれらトラックを収録した『ネクサス』を聴くと、テクノだったり、ドローン、アンビエントだったりするところが頭のなかでぱっとは結びつかないんですが。
IORI:でも、実はそういう音楽も昔から聴いていたんですよ。例えば、ベーシック・チャンネルだったり、アンビエントやマニエル・ゲッチングみたいなものまで、そういう陶酔して聴ける音楽も昔から大好きでしたし、ちょうど、"ギャラクシー"を作りはじめる前の2008年くらいから、テクノっておもしろいなって思うようになって、ベルグハインの存在を知ったのもその時期だし、自分が好きで買ってたレコードをチャートに挙げていたNOBUさんに気持ちが近づいていったのも全部同じ時期なんですよね。そして、「ギャラクシー」ってパーティにしてもいままでのソウルフルな部分ではなく、ストイックなテクノを主体とした内容を考えてはじめましたし、制作する音楽も自然とそういうものになっていって。
■NOBUくんと実際に会ったのは?
IORI:沖縄のビー・グリーという箱と光さんがNOBUさんを招いてパーティをしたときなので、2年くらい前ですね。それ以前にも違う人が呼んで沖縄に来てるんですけど、その時のNOBUさんはまったく違うスタイルでディスコとかかけていたし、面識もなかったんですけど、2年前にいっしょにDJをやったり、話したりして意気投合して、去年、千葉のフューチャー・テラーにも呼んでもらったんですけど、フューチャー・テラーは......最高でしたね(笑)。うん、ひとつの遊びとして、ホントおもしろかった。僕はつねにおもしろい方向に向かっていきたいですから、自分のなかにはぜんぜん壁がないし、そういう壁を取っ払っていくのが僕たちの役目の一部でもあると思うので、そこは意識もしつつ、自然にやっていることだったりもしつつ。
■そして、この3年でリリースしたのが17曲のオリジナルと2曲のリミックス。非常にハイペースで音楽制作に取り組まれていて、『ネクサス』はそのうちの7曲とオリジナル3曲をまとめた作品集になっています。
IORI:音楽制作は正解がない世界なので、いまも模索中というか、道のりは深いというか長いというか。そのなかでもがきながら作ったものを発表している感じですね。
■沖縄という土地が音楽制作に与えている影響はご自分でどう思われます?
IORI:沖縄での音楽制作はいちばんフラットな気持ちで向かうことができるのかなって。それから沖縄での遊びは都会のそれとは全然違うので、ハングリーな気持ちも生まれるんだと思いますし、同時に沖縄ならではのレイドバック感もあるし。
■これは個人の短絡的な意見ですけど、開放的な沖縄の環境を考えると、IORIくんのストイックでディープなトラックは異質なもののように感じるんですね。
IORI:それ、よく言われます(笑)。さすがに晴れてる日は外へ遊びに行きたくなって曲作りはできないんですよね。だから、雨や曇りの日なんかにこういうトラックのムードを自分のなかで作り出して、そこに没入しながら作ることが多かったですし、最初のコンセプトとして、作る音楽にあまり沖縄的なものを入れたくないとも思っていました。でも、そうかと思えば、まだ発表してない曲のなかにゆるいものもたくさんありますし、太陽があう曲もあったりして。
■それは聴いてみたいですね。
IORI:じつは、この『ネクサス』の沖縄っぽくないジャケット写真には秘密があって、これは曇りの日にモノクロで木の表面を表と裏から撮ったものなんですけど、その木というのはCDのトレイ下にレイアウトしてあるヤシの木なんですよ。音楽それ自体には沖縄っぽさを入れなくないとは思っていたんですけど、このアルバムは南からの一発っていうことでもあるので、こういうアート・ワークにしたんです。でも、実は今年、沖縄を出て、ベルリンに行こうと思っているんです。これまで作品をリリースしてきたのも全部ヨーロッパのレーベルですし、ここから先のさらなる挑戦をベルリンの地でしてみたいなって。
■最後に余談になりますけど、IORIって名前はぱっと見て、性別がわからないじゃないですか。ディープフリークエンシーでIORIくんのことを知った自分は、「もしかすると、IORIっていうのは、イギリス人が使ってる日本語の名前なのかな」って思ったんですよ。で、そういえば、IORIって漢字で書くと「家」とか「小屋」を意味する「庵」じゃないですか。だから、もしかすると、これ、「ハウス」って意味なのかなとへんに深読みしてみたりして(笑)。
IORI:ははは。それは完全な深読みでしたね。あ、でも、あるとき、デヴィッドと話してて、「漢字って意味があるんだろ? お前の名前はどういう意味なんだ? 」って訊かれて、「ハウスだよ」って答えて、その場が盛り上がったなんてこともありましたね。僕の漢字は「伊織」なんですが(笑)。
Swindle - Do The Jazz | Deep Medi Musik
「ジャズ・シング」(1990)、「ジャズ・イズ・ザ・ティーチャー」(1992)、「ハイテック・ジャズ」(1993)、「イッツ・ア・ジャズ・シング」(1994)......そして「ドゥ・ザ・ジャズ」(2012)。16分で打たれるハンドクラップ、ムーディーなハミング、アシッドな電子音とサブベース、コンクリートを砕くんじゃないかと思わせる迫力満点のユニゾンとドラム・パターン......「格好いいグライムください」と、下北沢のZEROで買ったのがコレ。ラップはないが、ストリート・ミュージックというものの魅力が満載のトラックで、メランコリックな上ものをミックスしながら脈打つビートはどう聴いてもパンク。
"アンダー・ザ・サン"は、シルキー風のメロウな感じではじまり、そして雷鳴のような、ジュークのような好戦的なシンセサイザーがこじんまりとしたダンスフロアに一撃を加える。エレクトロのようなファンクの粘っこさもある。"イフ・アイ・ワズ"では、グライム式のR&Bを展開する。汚れて、そして、どこまで汚れている。歌は、何を言っているのかわからない。この先のことなど何もわからない。本当に素晴らしい"詐欺"からの1枚。グライム......ああ、痺れる。
Jessie Ware - Running | PMR Records
SBTRKT、あるいはジョーカーのアルバムでも歌っている女性シンガー、ジェシー・ウェアの2枚目のソロ・シングルで、両面ともにリミックスを担当しているのが前回のこのコーナーで紹介したディスクロシュア......このような形で頭角を現してきた。もっとも、ディスクロシュアが自分たちの曲でやっているUKガラージ風のビートはここにない。これはベース・ミュージックを通過した、完璧なハウス・ミュージックである(ジョイ・オービソンの流れ)。ジェシー・ウェアのまったくパワフルな歌/ヴォーカリゼーション、そしてキャッチーなメロディも肝だが、ディスクロシュアのグルーヴィーなビートも見事。いやー、素晴らしい。ダンスの魅力満載。3ヴァージョンとも輝いている。
Fresh Touch - The Ethiopian EP | Angular Recording Corporation
これは今日の(とくにイギリスでの)トレンドのひとつ、ワールド・ミュージックへのアプローチ。デイモン・アルバーンとのDRCミュージックで味をしめたのか、アデルで商業的な大成功をおさめた〈XL〉の社長、リチャード・ラッセルが同じDRCミュージックのメンバーでもあり、また、キング・クルエルやジ・XXなどの仕事をこなしているロダイド・マクドナルドとのコンビによるシングルで、エチオピアで現地の人たちと録音した音源をもとにベース・ミュージックへと変換した4曲が収録されている。エチオピア人のコーラスがこだまする1曲目の"ハーラー・リズム"も、2曲目の"68ジョイント"も、B面2曲目の"アダージ・ライト"も、ダブステップというよりはグライム。ワールドなテイストを除けば、アンダーグラウンドへと回帰しようとしているダブステップの動きとも重なる。
LA Vampires by Octo Octa - Freedom 2K | 100% Silk
これ、ハウスっす。ローファイでもなんでもなく、4/4キックドラムを使ったハウス・ミュージックです。ベテラン・リスナーは、1990年代なかばあたりのロン・トレントやシェ・ダミエのディープ・ハウスを思い出しましょう。あの頃のラリー・ハード・チルドレンたちのハウスを軽めに展開した感じとい言いますか......。ビート的な新しさはない。しかし、たとえば"ホエアエヴァー"のような曲ではハウスのクリシェを使いまくりながら、ドリーミーな上ものとアマンダのセクシャルなヴォーカリゼーションによって惹きつける。"ファウンド・ユー"などはダンス・ミュージックであり、ヒプナゴジック・ポップでもある。ロサンジェルスでは踊りながら眠っているのだろう。気持ちよすぎる。5曲+リミックス1曲、計6曲入りの......EPなのかLPなのか。ジャケのアートワークも最高。
夜間照明に神々しく浮かび上がる燃えるようなオレンジとゴールドの軍団、それがぼくらだった。 ジョナサン・バーチャル『ウルトラニッポン』(2000)
4月30日、味の素スタジアム、ゴール裏の興奮が忘れられない。あのとき......、高原直泰が走り、高木俊幸の蹴ったボールがゴール左上のネットに突き刺ささったときから、何かが変わってしまった......そして、気分良く、GWの合間に今年に入って買ったレコードを数枚聴ききながら、書いた。
1.James Blake - Love What Happened Here | R & S Records
2011年のプレスだが、日本に入ってきたのは今年の春先。ハイプに踊らされた人以外は、ブレイクに入った理由は"CMYK"にあるわけだから、いちおう誰もが期待するシングルだったと思う(実際、各レコード店で好セールスだったそうです)。A面の"Love What Happened Here"は、まあまあ良いが、あくまで「まあまあ」。サンプル・ネタを使った"CMYK"スタイルの曲というは、ジェームス・ブレイクにとっては久しぶりで、大人びたフュージョンを取り入れ、ガラージ風のビートに混ぜるアイデアも悪くはない。が、A面の曲にしては少し地味かな。家計簿をみるにつけ、買わなくても良かったなとも思った。
2.Burial + Four Tet - Nova | Text Records

同じように、買わなくても良かったかもな思ったのがこの12インチ。「Kindred EP」を聴いたときはさすがだと思って、「これは売り切れる前にゲットしておかないと!」と燃えたのだが、収録曲は前作の延長で、ハウシーなブリアルといったところ。昔ならこういうトラックも、DJフレンドリーとか言って褒められたのだが、いまでは多くのDJがレコード買ってないし、どうでもいいか。いずれにせよ、「モス」の震えには遠くおよばない。
3.Burial - Kindred EP | Hyperdub
これは実は、ビートから出ている日本盤のCDの解説を書いているので、買わなくてもいいものの、曲の素晴らしさにヴァイナルでも欲しいと思い、買った。収録されている3曲すべてが良い。デムダイク・ステアのような、いま流行のダーク・アンビエントとも共振している。とはいえ、ガラージ風のビートを入れている"Kindred"にはインダストリアルな感覚、そしてスクリューまでもが注入されている。
4.Airhead - Wait/South Congress | R & S Records
10インチ。"Wait"は、R&Bサンプルのダウンテンポで、マウント・キンビーが好きな人なら絶対に好きだし、ボーズ・オブ・カナダ・リヴァイヴァルともリンクしている。要するに、サイケデリック・ロックのエクスペリエンスがある。新鮮さで言えば、ブリアルの「Kindred EP」を凌いでいる。"South Congress"はダビーな展開で、ちょっとそのドラマチックなテイストが自分にはまああまあだが、それでもこれは買って良かったと思う。
5.Claro Intelecto - Second Blood EP | Delsin
かつては〈Ai〉(ゼロ年代初頭のUKのデトロイト・フォロワーのレーベル)で、ここ数年は〈モダン・ラヴ〉から作品を出しているクラロ・インテレクトロのオランダは〈デルシン〉からのニュー・シングル。「なんでこれ買ったんだっけ?」と、取り置きしていたお店のスタッフに問いつめたほど、理由を忘れている。魔が差したのだろうか......。同時リリースされているアルバム『リフォーム・クラブ』を買う前に聴いておきたかったと、そういうことか。中途半端なBPM(遅くもなく、速くもない)による"Second Blood"は、カール・クレイグ風であり、アンディ・ストット風でもある。"Heart"のメランコリーも悪いくはないが、特筆すべき感じはない。家計簿を見ると、これも買わなくても良かった1枚。でも、アルバムはちょっと気になっている。
6.Disclosure - Tenderly / Flow | Make Mine
UKガラージがいま復活しているんじゃないのか? そう思わせる7インチ。男のふたり組で、リズムの組み方は最新型。ジェームス・ブレイクの次を狙っているようでもあるが、よりネオソウル風でもあり、こちらのほうがビートは面白そうだ。2年前に〈もしもし〉からデビューして、通算3枚目になるが、メジャーに行くんじゃないかな。いずれにしても、アルバムが楽しみだ。
7.Tam Tam - Dry Ride | Mao/Jet Set
タム・タムは、新人とは思えない演奏力、そしてエネルギーを持っている。エゴラッピンをよりレゲエ寄りにした感じで、楽しく、そして力強さもある。プロデューサーはハカセサン。魅力的な声を持った女性ヴォーカリストが力いっぱい歌い、B面ではON-U風のダブ・ヴァージョンを聴かせる。アルバムも出来もよかったし、次こそライヴを見たい。
8.Slava - Soft Control | Software Records
いやはや......、三田格がチルウェイヴをけなしているお陰で、今年に入ってさらにまたチルウェイヴ系は売れている。〈メキシカン・サマー〉傘下の〈ソフトウェア〉(OPN主宰)は、この流れを逃すまいと今年に入って4枚の12インチ・シングルのリリースを続けている。なかでもひときわ目を引くデザインのスラヴァの「ソフト・コントロール」は、ドリーミーであると同時にトリッキーで、ビートに工夫がある。ちょっとハイプ・ウィリアムスを思い出すが、ハウシーで、セクシャルで、そして80年代的なテイストはない。
JUZU a.k.a. MOOCHYJUZU presents Movements "Beyond"
crosspoint
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渋谷の東急本店の近くの路地にあるビルの2階だった。50人も入ればいっぱいの小さな手作りのクラブには100人ほど入って、1990年代後半のある時期、リズム・フリークスは東京のクラブ・シーンにおける噂の頂点となった。3人のDJのなかでもっとも背が高く、そしてもっとも若いひとりのDJはとくに多くの目と耳を惹きつけた。それがMOOCHYだった。あのミキシング、我々は......あるいは小林は、忘れられないほど熱狂した。やがて夜空が白み、センター街にカラスたちが集まってくる時間帯になると、リズム・フリークスの爆音もおさまって、MOOCHYはいつも大型バイクのエンジンを吹かしながら、「じゃ、おつかれっす」と言って、街のどこかに消えるのだった。
そして彼はバイクを飛ばしたままジャングルのシーンから飛び出て、インドネシア、ブラジル、キューバ、沖縄や青森......といった場所との新たな関係性を築いていった。すべての文化に対してオープンでいようとするワールド・ミュージックというコンセプトを彼なりのやり方で実践するため、MOOCHYはさまざまな人種や宗教との出会いを果たしながら、彼の音楽活動を展開している。彼は「失われた記憶を取り戻す」をテーマに2年前にアルバム『Movements』を発表しているが、これは我々の遠い祖先たちの音への旅行であり、彼のこの10年の活動のひとつの結実だ。誰にもっとも近いのかと訊かれれば僕はセオ・パリッシュじゃないかと思う。セオがサン・ラーやファラオ・サンダースらにアプローチするような手法で、MOOCHYは彼の全世界的なヴィジョンに向かっているように思える。
もっとも昨年リリースされたDVD、『Beyond』は『Movements』の映像版というよりも、彼のユートピア志向のまさにその"裏"、大いに問題提起をはらんだものとなっている。MOOCHYを知る人間が観たら「よくまあ、こんなものを作った」とびっくりするだろう。イスラムの人、ホピ族の人、六ヶ所村の人、辺野古の人、彼はいろんな人の話を収録して、自らの音楽に取り入れた。これはひとりのDJがジャーナリスティックな意識で、自主的に作った異議申し立てである。
今回は、MOOCHYの歴史を振り返りつつ、『Beyond』について話してもらった。たっぷりと......。

音楽が無かったらもっと酷かったと思う。微力かもしれないけど、音楽があったから俺は社会的な意識を持てたし。音楽がなかったら...。音楽がなかったら、ホントにみんなロボットみたいになってしまうと思う。
■よろしくお願いします。
JUZU:お願いします。
■......で(笑)、何でこんなとんでもないDVD、作ったんですか? しかも自主制作で。
JUZU:もともとはPVを作るのが目的だったんです。最初に作ったPVは"R.O.K."という、リノ君(RINO LATINA II)が出てくるトラックですよ。彼は、僕が昔やってた「リズム・フリークス」のカジ君(KAJI PEACE)と17歳くらいのときのダンサー友だちで。そういう繋がりでリノ君を紹介されて。
僕がキューバに行く前か、行った後かで、リノ君もキューバにライヴしに行ってるんです(『キューバ・ヒップホップ・フェスティヴァル・シンポジウム』/2008年8月)。そういうところでの繋がりもあってね。あるとき、カジ君のDJでリノ君が落語みたいなラップをやってて。それでオモロいなと。で、リノ君に「じゃぁ、オレにもなんか演らせてよ」みたいな感じで言われて。僕の地元の高円寺とか、中野、新宿とかって、そういうお祭りの粋なノリじで、落語みたいなラップを使ったトラックでなんかやりたいって思ってて。
■そうだったんだ。
JUZU:それで「武器売買と売春」っていうのをテーマにしようってリノ君に伝えて。
■へぇ。
JUZU:どっちが売り手買い手? みたいなことを、そういうトンチみたいにして。でも、「踊る阿呆に見る阿呆も同じ阿呆なら踊らにゃ損損」みたいなオチをつけるみたいな。とにかく、もともとは映像コラージュと音楽というテーマですね。
■とにかく、もともとの企画はPV集だったんだね。
JUZU:『Movements』(『Re:Momentos "Movements"』/2010年)っていうアルバムを2年前に自分のレーベル〈crosspointから出して。『Beyond』っていうのはその「裏」って言う意味ですね。『Movements』というアルバムの曲を収録している。
■あぁ、なるほど。
JUZU:『Movements』というCDではできなかった映像を足すことによって、僕が思ってることをもっと伝えられると思ったんです。沖縄のこともホント......中学生の頃、それこそタサカ(DJ Tasaka)も一緒だったけど(笑)、修学旅行でひめゆりの塔に行ってるんです。それで沖縄戦とか、歴史が刻み込まれてて。沖縄にはその後いっぱい友だちができて。いまとなっては居住者もすごく多いし、前から沖縄の基地問題には関心があった。基地問題に関するそのインタヴューもここに収めてるけど。それも"Koza"っていう曲で、(楽曲に参加している)ラス・ツイード(Ras Tweed)っていう人とは、ウィーンにDJに行ったときにたまたま知り合って。彼も沖縄のことを知ってて。空手とか好きで(笑)
■へぇぇ、ウィーンで。
JUZU:はい。ウィーンで録音して。ちなみにミックスはステレオタイプ(Stereo:Type)という、なんか変なバイレ・ファンキみたいの作ってる白人のスケーター。
■あぁ、いたね。
JUZU:そうそう。そいつらとなんか偶然というか、出会って。ラス・ツイードとも、彼はカリブ系でイギリス人だけど、沖縄の基地のことも知ってていた。ジャマイカなんかもそうだし。そういう、植民地化されてる島のことをちゃんと歌いたいって言ったら、すごく意気投合して。その場で歌詞作って、歌ってくれたのが"Koza"。あとは、沖縄の基地に何回か自分で足を運んで、いろいろ撮ったインタヴューとか。
■あの、よくインタヴューしたなとホント思うんですけどね。
JUZU:そうですね......。
■もともとはMOOCHYの、ま、言ってしまえば、全世界的なっていうか、マルチ・カルチュラルなヴィジョンがあるじゃない? この10年、音楽的に追求したことってそうでしょう? その延長線上に(『Beyond』の)コンセプトははじまってるって考えていいんだよね。その上でできたのがこのDVDで、MOOCHYが発表した曲に、セネガル、モロッコ、アリゾナのホピ族、辺野古、......とか、いろいろな場面やその現地の人たちの話が出てくる。で、作品ではひとり案内役を務める人がいるじゃない。スケーター?
JUZU:あぁぁ、アレはクロマニヨン(cro-magnon)の剛(小菅剛)ですね、はい。彼も彼でいろんなことあるけど。彼自体は顔とかすごい趣があるなと僕は思っていて。この男は俳優でも絶対イケるぐらいに思ってて。
■それで主役(笑)。
JUZU:そうです。(主役に)指名して。"Silence Mind"って曲は、もともと僕の後輩のイケガミケンジ(Kenji Ikegami)ってヤツが虚無僧尺八やってて。彼のソロ・アルバム(『SILENCE MIND』)も僕のレーベルから出してて。そのPVを作る過程のなかで、僕がリミックスもして。そのテーマっていうのが、あれ(PVのロケ地)って高円寺なんですけど。
■あれ、高円寺か。
JUZU:僕が10代のときに、台風かなんかでムチャクチャ土砂降りで、みんなで逃げ惑ってキャーキャー言ってる状況で、高円寺の駅前で本物の虚無僧が、ただひたすらつっ立ってたんですね。そういう鮮烈なインパクトがあって。この人だけはいまの時代とぜんぜん違うっていうか。
■たしかに(笑)。
JUZU:いまの僕らがコンクリの上で住んでる世界は、300年前は違ったじゃないですか? そういう感覚を喚起するんです。あの"Silence Mind"って曲はやっぱり、ラティール(・シー/Latyr Sy)とかウスマン(Ousmane)とか、僕のセネガルの友だちに高円寺でパーカション叩いてもらったり、彼には虚無僧の格好で尺八吹いてもらったんで。その尺八にしてもジャンベにしても、僕らの記憶っていうか、いまの時代とは違う時代から存在する楽器を演奏することで、いまのコントロールされた世界に対してのアンチテーゼ。
■MOOCHYの求めているものって、言ってしまえば、あれだよね、ユニバーサルな感覚っていうようなモノだよね。
JUZU:うん、まぁ、どこにでもある。
■......語弊はあるかもしれないけど、すべては繋がっているって言うよな。そう、それでさ、セネガルのこととか。
JUZU:はい、ゴレ島。
■......が出てきたり。ホピ族が出てきて。六ヶ所村が出てきて、コザが出てきて、最後はモロッコで。
JUZU:カサブランカですね。
■いろんな文化に対するアプローチ、というか、オープンな気持ちだよね、すべての文化に対するオープンな態度。だから、最初はこのDVDは反原発とか、3.11とか、そうした時事ネタのものかと思っていたんだけど、違ったね(笑)。DVDのなかではイスラム教と中東での宗教問題なんかの話もかなり占めているよね。で、沖縄の基地問題も六カ所村もイスラム教も、いろんな人に取材して語らせて、そしてMOOCHY自身は自分の言葉を抑えているんだよね。これはもう、観る人と一緒に考えたいって話なわけでしょ?
JUZU:うん、まぁ、そうですね。
■すべての宗教、すべての文化も受け入れるっていうようなことなわけでしょう、究極的に言えば。
JUZU:まぁ、そうかもしれない。
■そういうアプローチがMOOCHYのなかでどうやって養われていったのかっていうかさ。それが反抗心にも結びついてると思うんだけど。最初はハードコアのバンド? ジャングルのDJ?
JUZU:並行しながらやってましたね。
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いまの僕らがコンクリの上で住んでる世界は、300年前は違ったじゃないですか? そういう感覚を喚起するんです。尺八にしてもジャンベにしても、僕らの記憶っていうか、いまの時代とは違う時代から存在する楽器を演奏することで、いまのコントロールされた世界に対してのアンチテーゼ。
■この10年の自分のアプローチ。いろんな文化のいろんな場所に行ってやるっていう。文化をミックスしていく、ブレンドしていく、繋げていくっていうコンセプトはどういう風に生まれたの?
JUZU:分け隔てなく良い物は良いって、前からホントに思ってたし。デスメタルでもボサノヴァでも、(スティーヴ・)ライヒみたいなものもガムランみたいなものも、いちいちチャンネルを変えなくても、すぐに入ってくる感覚はあるから。それが自分の感覚だから、なんとも、それを理由付けるのは難しい。
■自分が成長していく過程、生きていく過程のなかで、聴く量も当然増えていくわけだから、聴いていく分だけ自分が拡張されていったみたいな。
JUZU:そうですね、拡張。そういうこと。あと、中央線育ち的な感覚はあるから。中央線のレコード屋〈レア〉とか、あとやっぱ渋谷新宿のレコード屋とか。僕の小さい頃の新宿や、渋谷もそうだけど、レコード屋事情、やっぱりいろんなジャンルのレコード屋があったし。レコード屋の人にやっぱすごい影響受けたと思うし。
■いまでも残っているものね。
JUZU:レゲエにしてもヒップホップにしてもパンクにしても、そういうのが入ってきてて。現代音楽とかフリー・ジャズとかも。
■ひとつのジャンルを追求するってタイプのDJじゃないよね。
JUZU:いろんなジャンルの人の前座DJをやらせてもらってたし。そのなかで(客層の違う)いろんなジャンルに対応するっていうミッションも楽しめてたし。デニス・ボーヴェルからジュノ・リアクターから、例えばなんだろ? デリンジャー・エスケイプ・プラン(The Dillinger Escape Plan)から、ファビオから、もうセオ・パリッシュやムーディーマンから、ジェフ・ミルズからって。いろんな人と一緒にやるなかで、自分がこの国に育った意味みたいなものを考えたときに、すごい悔しさを覚えて。
■どういうこと?
JUZU:もう幼少からっていうか、ハードコアな感覚っていうか。「モノマネはヤダ」っていうか。別にワン・アンド・オンリーでありたいとか思ってるわけじゃないけど、来日したいろんな国の人たちは、オリジナルなシーンのなかでオリジナルなスタイルをちゃんと持って来てるのに。でも、この国のほとんどの人たちは、ただ憧れてるだけで。全然自分たちのスタイルを持たないってところに悔しいなと思ってて。
■あぁぁ。
JUZU:そこで〈サウンドチャンネル〉(大阪SOUND-CHANNEL)なんかと知り合って、みんな「オリジナルなスタイルを作ろう」って......けど、まぁ、そこら辺でも、みんなそれぞれやり方、スタイルがあって。多くの人たちは、ヨーロッパ、西洋志向だったけど、僕は20歳ぐらいでアジアに行ったんですよね。「リズム・フリークス」の途中で、インドネシアとかタイとかに旅して、アジアですごいインスパイアを受けたから。
■「リズム・フリークス」のときって20歳だったのか! スゲェなぁ......あ、でも、そうかそうか、タサカ君も大学生だったもんな。
JUZU:若い(笑)。だから、そういう方向で僕は遠回りしてきたというか。多くの人はニューヨーク、ロンドン、ベルリンなんかに憧れて、そのまま行くけど、僕はバリとかに行っちゃって。そこでアジアのカルチャーの奥深さとか、そこで「ワールド・ミュージックとエレクトロニックなものを混ぜる」というコンセプトを、自分のなかで編み出したというか。で、「リズム・フリークス」をやってる最中に帰ってきて、ガムランとか尺八とかとジャングルとかドラムンベースを混ぜて、グチャグチャな......。
■やってたね(笑)。渋谷のビルの2階だったね。ターンテーブルでガムランとドラムンベースをミックスするってスゴかったよね(笑)。
JUZU:なんか、グチャグチャのカオスのなかの美みたいなものが、僕はすごい好きだから。
■でも、あの当時のDJだったら、欧米に行く、行って当たり前だと思うんだけれども、そこでアジアっていうものにさ、目を向けたっていうのは何? 鼻が利いたって感じなの?
JUZU:でも、やっぱり最初にガムランとかインドネシアの音楽を映像で見て。それは18歳のときですね。
■それじゃぁ、もう全然DJカルチャーに出会う前?
JUZU:いや全然。もう僕15歳からDJやってるから。
■ドハハ(笑)。
JUZU:だからバンドとDJは、ホント15歳のときから同じようにはじめてて。僕はもうアティテュード・アジャストメント(Attitude Adjustment)っていうジャケも超ポリティカルなアメリカのハードコア。ってか、小学校からパンクとか聴いてたから。小学校で同級生の兄ちゃんのライヴで、それこそラフィン・ノーズとかザ・ブルー・ハーツとか聴いて。小学校からそういうのを聴くと、それこそ原発のこととかも言ってたと思うし。
■まぁ、そうだよね。
JUZU:中学ぐらいの時にチェルノブイリがあって。中学のときにはもう「NO NUKES」って渋谷の電力館に描いてたみたいな感じだから。タサカの影響もあって、ヒップホップもパブリック・エナミーとかビースティ(・ボーイズ)とか、ああいうのは普通に聴いて。やっぱパブリック・エナミーで、ジャケットから見るKKKのこととか。
僕のなかでは、その後、ENT(Extreme Noise Terror)とKLFが一緒にやったりとか、UKのハードコアとKLFが一緒にやったのとか。その当時、808ステイトとか東京エアランナーズの人とか。やっぱ僕らが遊びに行ってたのが、DJドックホリデーって、須永辰緒さんがヒップホップやってたところに僕ら毎週通ってたから。15歳のとき。そこで聴いてる音楽っていうのは、もうジャクソン・シスターズみたいなレア・グルーヴからNYヒップホップとか。聴けるものは全部聴いてたし。もっと言えば宝島みたいな雑誌も全盛期だったから。
■えぇぇ! ホント? でも全盛期じゃないよ、終わりかけの頃だと思うよ。
JUZU:でもまだ「LAST ORGY」とかやってて。タイニィ・パンクスがまだちょっとやってて。で、そっからECDとか出てきて。ECDが「Check Your Mic」でボーイ・ケンとかも一緒にやってて。まだヒップホップもレゲエも未分化で。で、高校1年か2年のときにスチャダラパーが出てきて。最初のPVにサクラで僕ら呼ばれて、〈ゴールド〉にダイヴしに行ったりとか。そういう、グチャグチャな感じだったから。自分のなかでDJも、自分が掛けたい曲かけて、暴れにいって、終わっちゃって、戻ってきてみたいな。
■(笑)そうだったんだ。
JUZU:新宿の〈サンボーズ〉ってとことか、ガス・ボーイズ(GAS BOYS)が、ちょっと先輩みたいな感じ。ああいう、ちょっとバカなノリっていうか。ビースティみたいなノリ。ああいうのも好きだったし。ひとりで、あんまり仲間いなかったけど、UKのハードコアも好きだった。
■ホント、節操なく聴いてたんだね。
JUZU:重要なのは、原宿に〈デッドエンド〉っていう、ジャパコアのお店があって、鋲付きの革ジャン......っていうか、革も使わないような、ベジアタリアンの。UKのハードコアってベジタリアンが多くて。
■クラスティとかね。
JUZU:そう。そういうのにも個人的に僕は影響受けてて。、高くて買えなかったけど。毎週のように新宿とか原宿とかブラブラして、そこ行ったら、フリーペーパーがあって。そこにマクドナルドがやってることとか、石油会社がやってることととか、フリーペーパーに載ってて。
■そうなんだね。
JUZU:で、そっから「マクドナルド食わねぇ」とかなったりとか。そういうマルチ・ナショナル・コーポレーション、多国籍企業がどういうことを世界中でやってるのかを知って。それはすごい自分の食生活にも影響を与えた。
■デトロイトのクラブに行ったら、フライヤーがたくさんあって、何のフライヤーかと思ったら、ゲイ解放とか、ネイティヴ支援とか、環境系とか(笑)。まあ、日本もなかなか捨てたもんじゃないんだねぇ。
JUZU:いや、ジャパコアはすごい誇るべき、唯一日本で誇るべきはジャパコアぐらいに僕は思ってる。他はほとんどがモノマネだと思うけど。ジャパコアの「ウォォォォ」とかなってる唸り声とか、UKのハードコアとか、アメリカのハードコアとかみんな影響を真似してたぐらい。〈スカル・ディスコ〉のジャケも日本のハードコアから影響を受けてるらしいですよ。あのドロドロしたの(笑)。
■あぁ、そうなんだ(笑)。
JUZU:僕、ジョー・クラウゼルと対談したときに、偉そうに言ったことがあって。僕がやってたネクサス(NXS)っていうバンドを彼はすごく気に入ってくれてて「未来的な音楽だ」って言うから、(それを受けてジョー・クラウゼルに)「何でかわかるか? オレらは核戦争後の社会から来てるんだ」って言ってやって。すごい言いたかった。僕らの国は、原爆落とされて。他の国がみんなSFだと思ってることが、この国だけは事実、核戦争後の社会で、完全に焼け野原にされた後に、こんな55基も原発作らされて。
■なんとも不条理な話だよね。
JUZU:その不条理さが、ドープな感性っていうか。アメリカに連れてこられた、南米に連れてこられた黒人たち。UKもそうだし。彼らも不条理のなかで(独自の文化を)編み出していったと思うから。僕らは僕らで、GHQとかいろんな洗脳があって。愚民化政策で、軟弱化させられて、馬鹿にさせられてる。させられてるけど、でも、やっぱり、不条理さで言ったら、はっきり言って(ブラック・ディアスポラと)あんまり変わらないんじゃないかな。だから、コンプレックスを持つ必要はないと僕は思ってて。この国はこの国で年間3万人自殺してて。虐殺状態がずっと続いてて。
■3万......だもんな。どんな良い国だ(笑)。
JUZU:お金はあっても一寸先は闇。
■そのお金もヤバイし......。でもさ、話、ちょっと戻すと、そこでMOOCHYがアジアに向かったっていうのが、ひとつ、大きいなと思ったんだよね。今回の作品を聴いても......いわゆる雅楽のさ、サンプリングとかを使ったりしてるけど、それをひとつのサンプリング・ネタっていうよりも、旋律としてブレンドしようとしてるでしょう? それが独特の、ある種のユニヴァーサル・ヴィジョンに結びついていく。最初にアジアを旅しようと思ったのは何でなの? なぜガムランだったの?
JUZU:あの芸術にインスパイアされたし、結果的にガムランだけじゃなくてウブドっていう、いまではもうすごい有名になってるけど、僕みたいな環七育ちの人間とはぜんぜん違うカルチャーで、すごい芸術があって、誇るべきだと思うし。
■まるでドビュッシーだね(笑)。
JUZU:ドビュッシーもね、ガムランに影響受けて。
■そうそう、19世紀末のパリの万博でね。
JUZU:はい、らしいですね。だから、いまだに僕、自分がDJっていう感覚も無いですよ、ネクサスでも僕バンド・リーダーであったけど、いまでも続いてるっちゃ続いてるし、ある意味、永遠に終わらないと思ってて。あと、リーダーとかコンダクターとか......なんていうのかな、コントロール? ある程度はガムランもコントロールされてるけど、あれってメインの演奏者がいるわけでもなくて。それがいまだに、DJの考え方にも染みついている。
■考え方も違うからね。
JUZU:そういう森羅万象的な感覚っていうか、全部の音が。それこそジョン・ケージとか、ああいう人たちも全部の音が。だから、ガムランなんか、蛙の声と、人間の演奏と、月明かりとロウソクと、(その場にある)すべてが並列で。いわゆる西洋的な人間社会っていうのは、また違う捉え方で音楽があるっていうのが、環境音楽と人間の演奏が完全にミックスされてるというか。
■なるほど。取りあえず話を整理すると、そこでインドネシアに行って、そのあとますますいろんな文化......。
JUZU:そうです。ワールド・ミュージックを混ぜようっていうか。あと、自分なりに、なにか、作りたい。自分なりのことをやりたいっていうのは根底にはずっとあるから。とにかくモノマネはしたくないなぁっていうのは、すごいあって。途中で、それこそみんながジャングルからドラムンベースになって、みんながそういう方向になったときに、僕自体疎外感を感じて。ひとつのクラブ・シーンが巨大化しすぎて、みんなが金に狂ってきたっていうか。まぁ、言い方すごい悪いけど。でも、僕なりになんか違うなぁって思ってて。自分のスタイルを変える意味で、ジュズ(JUZU)っていうもうひとつのあだ名を戻してきて。
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ワン・アンド・オンリーでありたいとか思ってるわけじゃないけど、来日したいろんな国の人たちは、オリジナルなシーンのなかでオリジナルなスタイルをちゃんと持って来てるのに。でも、この国のほとんどの人たちは、ただ憧れてるだけで。それが悔しいなと思っていた。
JUZU a.k.a. MOOCHYJUZU presents Movements "Beyond"
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■何で「ジュズ」っていうの?
JUZU:スケボーしてるときから、数珠をつけてて。
■それでジュズって言われてたんだ。
JUZU:っていうのもあって。それがネクサス(=「連鎖」を意味する)とか、繋がりとか、数珠とか。まぁ、自分のコンセプト的にそこに行きたかったし。MOOCHYっていう名前がね、ちょっとね、それこそ『エレキング』の影響もあったり、いろいろ知られた部分があって。反対にジャングルとかドラムンベースのDJっていうイメージが僕的には邪魔だったから。それを払拭したかった。もともと何でも聴いてたから。だから、あの当時(1990年代末)のディーゴにも、ちょっとしたシンパシーは感じるんすよ。そんな会って話したわけじゃないけど、あの人ももっと違うところに向かっていたし。で、僕も、よりいろんなところでDJをはじめるようになった。僕、トランスのレコードは1枚も持ってってないんですけど、でもトランスのレイヴ・パーティにすごい呼ばれてて。
■なんでだろうね? それはね(笑)。
JUZU:たぶん、サイケデリックな感じだと思うんですけど。そういうとこに行ってて。でも、やっぱり、そういう人たちの感覚はわかるから。僕も遊び人としていろいろ遊んでるし。そのなかでどうやってみんなが、いろんな人たちが(楽しめるか)。それはさっきの前座の話も含めて。そうしたら、共通項みたいなことでいうと、100~130ぐらいのあいだのBPMで、いろんなパターンを組み合わせるとグルーヴをキープできる。その当時からパーカッショニストと絡むこともすごく多くなってたから、BPM170~180のジャングルのリズムって、ちょっとやっぱり、そういう人たちは絡みづらくて。BPM100~120くらいのほうが演奏者が関わりやすい。そういう現実的なところで、段々BPMも落ちついてきて。それが自分のスタイルになって。
そこに、反対に、いろんなワールド・ミュージック的な要素を組み込んでって。そんなこんなやってて2001年に9・11が起きて。そのとき、僕もうニューヨークに住もうと思ってて。子供もアメリカに産みにいって。アメリカ移住しようと思ったらアレが起きて。アレがすごい、僕にとって、もうひとつのターニングポイント。
■何でアメリカに住もうと思ったの?
JUZU:ワールド・ミュージック的な要素を取り込みはじめた頃から、ネクサスっていうバンドとかで、いろんなミュージシャンと絡みはじめたんですけど、もっとホントの外国人と、もっとやりたい。現場っていうか。そういうのがあったし。次の旅で、インド行くか? 西洋に行くか? 迷って。「インド行ったら、たぶん戻ってこねぇかもなぁ」とか思って(笑)。まず、アメリカに行った。サンフランシスコから入って。
サンフランシスコでは、シェブアイ・サバー(Cheb I Sabbah/シェビー・サバー、シェビサバとも)っていうDJがいて、その人はドン・チェリー(Don Cherry)と幼馴染の白人の人で、南アフリカの人でね。今、ガンで60歳ぐらいなんですけど。そのチャリティに僕も参加したんですけど、その人のパーティがすごかった。当時「『リズム・フリークス』とかもう辞める、もう演らない」って言って、結構、悶々としてたんですよ。なんか、もう、どんな感じかなぁ......みたいな。で、サンフランシスコから入って、ニューヨーク行って、ロンドン行って、ブリストル行って、アムス(テルダム)行って、ロンドン戻って、LA行って、帰ってくるって、旅だったんですけど。まずサンフランシスコで、シェブアイ・サバーのパーティに衝撃を受けた。
新聞かなんかに「World Music」って告知が書いてあって、どういうんだろうと思って行ったら、ヘイト・アシュベリーにある、なんだっけ? ニッキーズ・バーベキューっていうレゲエとかR&Bとかやる箱で、サウンドシステムもゴツくて。そこで彼がやってて。150人くらいでパンパンで。ホント、あのウィー・アー・ザ・ワールド状態で。いろんな人種、アジア人から白人からアフリカ系からインド系から何からグァァって集まっていて。そのシェブアイ・サバーはホントにいろんな音楽をかけてて。なんか......もう、いきなり洗礼で。「こういうのがやりたいな」と思って。すごいまず影響を受けて。
■へぇぇぇ。
JUZU:で、ニューヨークは元ミュート・ビートの今井(秀行)さんってドラマーの人の家に世話になって。ヤン冨田のバンド・メンバーだったりもするのでシンセサイザーの使い方とかシゴかれて。マジで涙流すくらいシゴかれて(笑)。そこに世話になりながらニューヨークで1ヶ月近くいて。まだ全然人がいない「ボディ・アンド・ソウル」とか、あと何見たかな? ゴールディとかもたまたまやってたり。あと、前衛のDJスプーキーとか......。ジャズからスカイジュース(Skyjuice)みたいなダンスホールから、イケるもんは片っ端からいっぱい行って。
そのなかで、トシオ・カジワラ(Bing a.k.a Toshio Kajiwara)っていう通称ビン君、ビンさんって、いま、日本に戻ってきてるけど、A-1レコード(A-1Record)の店長をNYでずっとやってた人。ブルックリンに〈ダブ・スポット〉ってレコード屋があって、ビン君もそこで働いてて。僕のリズム・フリークス時代のミックステープを、カジくんがニューヨークにいたときに、そのトシオ君に渡してて。僕はその当時のミックスいろいろ混ぜてたから、トシオ君もイルビエント・シーンのもう真っ只なかで。デヴィッドの「ロフト」でもDJやってるぐらい。もう、とにかく、日本でいちばんぐらいのレコードの知識がある人。まだ42歳くらいだけど。その人と会って、またすごくいろいろとドバァァって広がって。で、彼は僕のミックステープをカジ君系由で聴いてて。意外とカジくん重要なんだけど。
■はは(笑)。
JUZU:「オッ! お前かぁ!」みたいな。アッチも僕の音をまず聴いてたから、すぐに僕の感覚を理解できて。ちなみにトシオ君もガーゼとかリップクリームとか日本のハードコアに影響受けてて。ジブラと同級生だったりとか変な繋がりもあって。そんなんで、ニューヨークでも発展があって。その頃にロンドンに弟がちょっと留学したんです。で、ヤツとジャー・シャカとかいろいろ行って。ひとりでブリストル行って。やっぱブリストルも、マッシヴ・アタックとかトリッキーだったりロニ・サイズだったり......オリジナリティのある音楽を地方都市で作ってるってイメージがあったから。ブリストル行って、なんかロンドンよりもカッコイイなって。スケーターも多かったり、人も良かったり。ブリストルは1日しかいなかったけど、地方都市住むのもありだなって思ったきっかけで。
■へぇぇぇ。
JUZU:東京、キャピタルに住むことのメリットもあるけど、キャピタルに住まないことでの(メリットもある)。いまの、その後10年ぐらいの(活動に繋がるものを得た)。やっぱり僕のスケートの後輩で、森田(貴宏)って、アイツがブルー・ハーブ(THA BLUE HERB)と繋がって。
僕も日本で最高のクラブは札幌の〈プレシャス・ホール〉だと思うから。すごい世話になってて、そういう繋がり。(高橋)KUNIYUKIさんでもそうだし。地方都市にいながらオリジナリティのあるヤツらに出会ってたから。反対に、東京ではカネカネになり過ぎて出来ないことを地方都市がやってる、ってことにも、インスパイアされて、その後、福岡に住むことになったり。
■福岡はなんで住んだの?
JUZU:福岡は元カミさんの実家が山口なんだけど。なんかそういう繋がりがあって。僕自体、そのニューヨークが9.11の後、それこそブラジル行って、ニューヨーク経由で行って。国旗だらけのニューヨークになっちゃって。あのブッシュの。「もうここじゃないな」と思って。でも東京から出てどうにか自分のネクスト・ステージに行きたいと思ってたから。いわゆる西洋に行く上昇志向とは逆で、福岡に行くことで、まぁ子供にもイイし、自分にとっても、試したかった。昔、ネクサスでライヴやりに行ったときに泊めてもらった田舎のプレハブを借りることになって。2年間、後ろが古墳。哺乳類がいないようなところに家族と別でひとりで住みながら、毎月東京にDJに行ってて。
■へぇぇ、電話とかは?
JUZU:携帯だけ。
■携帯だけで。トイレとかは?
JUZU:あるけどボットンだし。家のなかに蛇がいたり。
■(笑)風呂は?
JUZU:風呂も......なんか離れにあって。しかも、すごい体験......そういうの全部話出したらハンパじゃないぐらいいろんなことがあるんですけど(笑)。でも、そこで、ものスゴい人里離れたところに2年間ずっとひとりでほぼいて。必然的にサイケデリックっていうか。なんかもう、音楽の聴き方も全然変わってきたし。流行りもんとかそういうのとか、どうでもいいっていうか。永遠性のあるもの、じゃないと。そこでは歯が立たないっていうか。いくらロンドンで流行ってようがベルリンで流行ってようが、そこでかけたときに、虫の音やいろんな状況のなかで......。
■それ面白い話だね(笑)。福岡市内の市街地からどれくらい?
JUZU:車で1時間とか。もうぜんぜん田舎。その家の家主のおばあさんはそこに越した年に、その1年の間に息子と旦那を亡くしていて。僕がまず与えられた部屋がその亡くなった息子さんの部屋で......それを荷物入れたあとに事実を聞いて、そのおばあさんが「ここは強い人しか住めないから!」って言って、娘がいる奈良に行ってしまって......。そこで、悔しいから、荷物入れた日の夜中だけど、取りあえず音は出そうって(機材)繋いで、最初はそれこそガムラン系の何か掛けて。うーん? って。
■はははは。
JUZU:でハワイアン系のヤツ掛けて。うーん? って。その後、アフリカン系のヤツ掛けたら、スゴい違和感感じて。ヴァイブレーションが。で、慌てて、モーツァルトの映画で『アマデウス』のサントラをレコードでかけたらすごい落ち着いたんですよ。そっからいろいろ掛けたら、なんか落ち着いて。そこには、前そこに住んでいた息子さんの遺品もいっぱいあって。そのなかに(チェ・)ゲバラの本があったり、『ルーツ』(アレックス・ヘイリー『ルーツ』)って、あのアメリカの、ああいう本があったり。
■結局は8年間もいたんだね。
JUZU:そうですね。8年間(東京・福岡間を)行き来しながら、やっぱり東京ってことを意識しはじめて。あらためて地元っていうか。福岡は福岡ですごく良いところだけど、シンク・グローバル、アクト・ローカルっていう言葉があって、「ここ(福岡)でのアクトが自分にとってローカルなのか?」って。8年間っていても、年間でいったら実質4年間ぐらいしか住んでないぐらい(福岡に)いなかったと思うんですよ。DJやったり、いろいろ行ってたから。アクト・ローカルっていう意味でのローカルさはちょっと僕のなかでは、(福岡は)日が薄いっていうか......そのなかで東京は東京で、やっぱり自分は東京の人間なんだなぁって思ってて。僕のなかでは家族で東京に戻る、家族内でもそういう案があったんですけど。カミさんのほうは仕事がドンドン進んで、それはそれで良いと思うんだけど。
僕が、こうやっていま、ある意味、東京に戻って。ああいう原発事故が起こって。。まぁ、福岡も佐賀の原発とかあるから。別に安心とは全く思わないけど。結果的に、僕がこうやってこういうことやれて。何にしても必然的かなぁって。で、東京戻って来て早々っていうか。『ホピの予言』っていう映画も、これ(『Beyond』)にホピの人たちが出てくるのも、すごい重要で。
■なるほどねぇ。
JUZU:20歳くらいのときに、『ホピの予言』っていう映画を友だちの紹介で西荻(窪)のほぴっと村というところで観て。ナヴァホの居留地のホピ系の人たちのエリアで、ウラン、プルトニウムが採掘されて、それがヒロシマ・ナガサキに落ちたことをホピの人たちは予言してたっていう映画で。80年代にパンクスとかはみんな観てた映画らしく。それに衝撃を受けて去年末に息子たち連れて、ホピのところに行った。息子を連れてったことで、彼らもオープンになったんですよね。ネイティブ・アメリカン・マニアみたいな人も入れないキバっていう儀式、儀礼所? にも入れてもらえて。普通絶対入れないらしんだけど。でも、そこに入るとなまはげ見に来たような感じっていうか。言葉は通じないけど、同じモンゴロイドで。ただちょっと僕らと道がズレただけっていうか。そんな体験もあって、それから帰ってきて。アフリカ、セネガル、ラティールの故郷に、行って帰ってきて。で、3.11がすぐ起きて。
■(東京に)帰ってきたのは何年なの?
JUZU:2010年。12月のもう末で。そのまますぐ、アリゾナのホピのところに行って。1月の中旬に帰ってきて、2月頭からアフリカに行って。
■そのときは、これを作るつもりだったんだよね?
JUZU:いやぁぁ......そんなにね、なんか......でも、映像集的なものは考えては......いましたね。2009年くらいにPVをまとめるみたいなアイディアはあったから。『Movements』ってアルバムを2009年に出したから、そのときにPVは4つくらいもう作ってて。それをまとめて何かしたいって思ってて。やっぱり3.11以降、より明確になっていった部分はあるけど。
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多くの人はニューヨーク、ロンドン、ベルリンなんかに憧れて、そのまま行くけど、僕はバリとかに行っちゃって。そこでアジアのカルチャーの奥深さとか、そこで「ワールド・ミュージックとエレクトロニックなものを混ぜる」というコンセプトを自分のなかで編み出したというか。
■なるほどねぇ。じゃぁ、自分自身のこの10年の成果みたいなものも集約されてるっていうかね。その、DJをやっててさ、自分がいちばん良かったなって思うのはどういうとき?
JUZU:あぁ。個人的には、僕、ターンテーブル3台、CDを使って、DJでいちばん面白いのは、自分がコントロールできなくなったときっていうか。3枚、4枚......ジェフ・ミルズなんか、そういうことずっとやってるんだと思うんだけど、なるべくコントロールしようと思うけど、(DJ自身の意識を超えて)もうそこで何か生まれはじめたみたいなところが、個人的には音楽の体験としてはすごい。
■ジェフ・ミルズは逆だと思うよ。自分で100%コントロールしたい、コントロールするタイプだと思うから、真逆の発想だよね、それは。
JUZU:でも、それまで(自分でも思いもしなかったものが出てくるまで)、まとめはするんですよ。そこで生まれて来る何か。おぉ、できてきてるみたいな。それはDJでしかあり得ない面白さだと思うし。人間的なところでいえば、そういうコミュニケートだったり一体感。鎮魂もそうだし、それ以降(前述の死者に対する選曲)から、目の前にいる人だけじゃなくて、変な話、目の前にいない、そういう霊みたいなものも、どこにでもみんなあるっていうか。そういう意味ではフロアの人の顔だけを見るだけじゃなくて、ま、スティービー・ワンダーでもなんでも、目が見えない人のように、そうやってヴァイブレーションとか感じて、そのなかの一体感みたいなものを、全体で、何かが......作る、っていうのもおこがましいから。自分が献身的な心じゃないとできないと思うし。
■8年いて実質4年くらいしかいなかったってことは、ほとんど全国津々浦々行くの?
JUZU:世界も行きましたよ。ヨーロッパも行ったり、アメリカも行ったり、オーストラリアも行ったり、ハワイでもDJやったりとか。アジアは、DJはないかな。ベトナムでの録音はあるけど。
■こないだの土曜日は岡山だっけ?(岡山YEBISU YA PRO/2012年2月25日)
JUZU:うん。岡山も面白かった。札幌は〈プレシャスホール〉が、ホントにすごいいろんなこと教わって。その後、デヴィッド・マンキューソとか紹介されて。デヴィッドの「ロフト」の35周年とか、スピーカー組むのからデヴィッドの部屋にアップ運ぶのまで手伝いに行ったりとか。
■へぇぇ。それニューヨークで?
JUZU:ニューヨークで。で、ジョー・クラウゼルがやってるパーティでDJやって。ジャマイカ行ってレコーディングもして。それを2週間以内に全部やるみたいな(笑)。
■スゴいねぇ。
JUZU:デヴィッドっていま、43周年? DJのゴッドファーザーだと思うし。あの人がやろうとしてたパーティって、僕が何も知らないで「リズム・フリークス」とかデコ(レーション)とかも、みんなでやってたし、サウンドシステムも入れたし。僕はもっとハードコアにやってたけど、デヴィッドも昔はウーハーとか入れて、ベースもけっこう出してたらしいけど。
■たしかにデヴィッド・マンキューソって、ミキシングとかブレンドではない、もうひとつのDJカルチャーのゴッドファーザーだよね。
JUZU:でも、あの人の(プレイを)最初から最後まで聴くと、トータルでは8時間とか、昔だったら20時間ぐらいやってた、あの人のDJのなかで、すべてはミックスされてるっていうか。
■あぁぁ。テクニカルな意味じゃなくてね。
JUZU:1コンマとか、1秒なのか、10秒なのか。それはミックスっていうものの幅だと思う。
■たしかにね。
JUZU:1時間のなかでミックスを凝縮するのか。8時間でひとつのデカいパックを作るのか。デヴィッドのああいうのは、プロデューサー的な感覚としても、あの人が掛ける音楽は、良いサウンドシステムで掛けると、40年前の音楽もいま鳴っているように再現されるんで。プロデューサー的には嬉しいことだと思うし。やっぱり自分の一生懸命作った音楽が、40年後でもみんなが楽しんでくれるっていうのはすごい素晴らしいことだと思うから。そういう音楽を作りたいなってあの人からインスパイアされた部分も。DJ的には、繋がないで1曲ずつ掛けるっていう、ああいうスタイルもやったことはあるけど。あの人の存在もデカい。
■DVDの話にまた戻すと、とにかくPVを作ろうと思いはじめて。作ったわけだけれども、途中3.11という大事件が起きてしまって。急遽、そこに(DVD制作に)新たなアイディアが注がれたと。当初予定したものは、ある意味では全く違うものになって、こういう風にリリースされたわけだけど。ここに収録されている以上の、膨大な量の取材をしたわけでしょ?
JUZU:まぁ、いろんな人には会ってるから。ある意味そうかもしれない。取材って感覚なのか、まぁ、あれですよね、話を訊いて......。
■ドキュメンタリーだよね。いろんな人に喋らせるっていう。何故、こう、いろんな人の語りを、こういう風に入れようと思ったの?
JUZU:最初にそうやってインタヴュー的にやったのは沖縄が最初かもしれないですね。あのおばあちゃん。あと、マンちゃんっていう辺野古の基地の反対やってる、色黒のサーファーみたいなゴッツい女の人。あの人の話もその後に撮影して。
■まぁ、3.11以前。
JUZU:以前ですね。ホピの人たちも2011年のお正月前だから。そこでああいう会話、2012年問題について。
■あぁ。
JUZU:やっぱり『ホピの予言』っていう映画、いまも一応持ってきたんですけど、その映画を3.11以降、もう一回、こう......北山耕平さんっていう、70年代に『宝島』の編集もやって、ネイティヴ・アメリカン関係の(第一人者の)。あの人と熊本を一緒に旅したことがあって。そこですごく仲良くなって。まぁ変な話で。福岡で、マナバーガー(MANA BURGERS)ってベジバーガーやってる、えっと、トラさんって人がいて。で、〈ライフフォース〉のニック・ザ・レコードがベジタリアンで。〈ライフフォース〉のパーティで、ニックのまかない係もやってて。で、そのトラさんが、たまたま?僕のCDを買ったら良くて。サンクス欄見てたら〈ライフフォース〉の名前があって。福岡の僕のパーティに来てくれて。その人が「北山さん呼ぶから、MOOCHY君、一緒に遊ぼうよ」みたいな感じで。
で、僕が九州住む上ですごい影響を受けた押戸石っていう、熊本の阿蘇山のふもとっていうか、火口ら辺にある、5000年前、6000年前からある祭事場があって。ストーンサークルがあるんですよ。そこはすごい光景で。そこに行った時に天皇家の支配じゃない日本をすごい感じて。ほとんど本土って天皇家の支配下だから、そこまで行くともっと原始時代っていうか。
■縄文時代。
JUZU:そこに北山さん連れてったら、北山さんもすごい喜んで。そっから交流ができて、3.11以降、5日後ぐらいに北山さんに電話して、「『ホピの予言』もう一回観たいから、ちょっと連絡取りたい」って言って。北山さんから『ホピの予言』の制作者の人を教えてもらって。いろいろ話して受け取ったんですけど。で、もう一回見直したら、10年? 15年前に観た映画だから、よく覚えてなくて。でも、インパクトはあったから(実際に)ホピのところまで行ったけど、もう一回見直したら、「今後あまりにも文明が進んで、どこかの原発が津波かなんかで壊れて、みんなが大変なことになるだろう」って86年の映画で言ってて。鳥肌が立つっていうか。そのままになっちゃってんじゃんみたいな。
■ホピの人とか、ああいう沖縄の人たちに取材をして。ひとつのドキュメンタリーを作りたいっていう意識があったの?
JUZU:いや......そういうのはあんまり無かったですけどね。ただやっぱりとにかく行って話聞くんだったら、リノ君のPV然りだけど......「何で?」って言われると、そこまでDVDを意識していたわけじゃなかった。
なんか、自分自体が...そうですね、メディア自体、ある意味、僕を取り扱ってくれるところがないって思ってるから、多くの雑誌はスポンサードされたものでしか仕事受けなかったりとか、それでもいち部、良心的なジャーナリストとかやってくれるけど。自分自身がジャーナリスト的な感覚にならざる得なくなってきたし。自分自身がメディアにならなきゃいけないなと思ったし。今回、なんていうか、黙ったじゃないですか。雑誌も、新聞も、テレビも。でも、それを僕は3.11以降じゃなくて、以前から、そういう傾向がすごい強いなぁと思ってたし。たとえば音楽雑誌でも裏表紙が50万みたいな。そういうの聞いてたし。全部のメディアが金で動いてるっていうのがすごいあったから。だから自分がファンジン作ろうとか、アイディアは昔からあるはあるけど、それを仕事にするっていうよりは、さっき言った中高生のときにマクドナルドのことを知ったように、なんか音楽でもそれができるんじゃないかって。メッセンジャー的な......伝えなきゃ。自分が得たものを誰かに伝えないと、知恵と知識そのものは共有してナンボだと思うから。
■東電の場面まで入ってるもんな(笑)。あれは何? 自分で東電に行って?
JUZU:ひとりで行って、ヴィデオだけ持ってて。なんでか、とにかく、どういう状況になってるのか見たくて。
■それで、例の、逮捕されたさ、六ヶ所村のシール事件(笑)。
JUZU:はい、六ヶ所村の。はいはい。
■あれはたまたまDJに行ったときにじゃないよね?
JUZU:たまたまじゃないですよ。もう全然六ヶ所村目的。目的として、六ヶ所村に行くことと、青森の弘前、ねぷたの人たち、ねぷたのオジサンのインタヴューもあるけど。ねぷたのオジサンたちと会って。9・11以降、僕がもういちど日本にちゃんと住もうって思ったきっかけは2002年の青森のねぷたっていうのデカくて。あそこに、500万人、来るのかな。
■ホントにそういうモノが好きなんだね。
JUZU:いや、まぁ(笑)。ネクサスで、マドモアゼル朱鷺ちゃんがメンバーだったんですよね。朱鷺ちゃんの影響とかもすごいあるし。僕のまわりのメンバー〈ライフ・フォース〉のMassaさんにしても〈プレシャス・ホール〉のホールのサトルさんって店長にしても、そういう人の影響もあるとは思うし。自分の親父の影響もあると思うし。
■ねぷただったんだ。
JUZU:ねぷたですね。
■で、『ホピの予言』の上映会を自分でやってたんだよね。それは自分の持ち込み企画みたいな感じ?
JUZU:交通費も貰わないで、単純に1000円。見に来る人の1000円の7割だけだから。まぁ、交通費になるかならないか。しかもバイクで!
■3.11の1ヶ月、2ヶ月後ぐらい?
JUZU:2ヶ月後ですね。4月にボランティアで行ってたから、被災地の状況も見てたし。それも今回の映像にも各所で入ってるけど。もう......びっくりっていうか。ホント酷い。ちょうど、なんかまた、縁が縁で、四十九日ら辺に行ってたんですよ。3.11から49日後。だから喪服の人とかもいて。やっぱり涙出ちゃう。野田さんも子供いるだろうから、自分の子供が死んじゃったよとか......。
■まあね。だからね、シール事件もあったし、ぶっちゃけ、反原発とか、脱原発とかね。そういうモノを、もっと前面に押し出してるような企画モノなのかなって最初は思ってたのね。
JUZU:あぁ。
■あと、(見終わって)2時間もあったんだって。長いよね?
JUZU:長いですよね。
■作り込まれてないし、みんな正直に話してるじゃない?
JUZU:そうですね。
■たとえばさ、六ヶ所村の人もさ、お金、いちばん貧しい村にいきなりお金が降ってきたって。やっぱり、そのお金の話は沖縄の人も言っていて。みんな放射能のことは言うけど、お金の話はしないじゃない。そこがやっぱ現地の人の感覚としてひとつ大きいっていうのがわかる。お金とか、ネオリベラリズムとか、そういう問題にもなってくるっていうかさ。で、最後はカサブランカのタクシー運転手に宗教を語らせて終わるっていう(笑)。
JUZU:ま、厳密には、最後は剛が湖でっていうところなんですけど。だから僕、CD(『Movements』)の方にもちょっと文章とか載っけてて。「失われた記憶を取り戻す」っていうのが、そのテーマなんですよ。それの裏っていう感じで。
■だよね。それをまさに、太古の自分たちの、ユニヴァーサルな音で表現しようとしてるのは、伝わってくるんだけどさ。だけどもっと、オレ、反原発みたいなテーマで完結しているのかなと思っていたの。デモのシーンもあるんだけれど、MOOCHYの場合、こういうことをひとりでやるってところが良いよね(笑)。
JUZU:ハハハ(苦笑)。協調性がないのかな。ただ、3.11以降も、僕は別に、(作品コンセプトを)曲げられたっていうか、『ホピの予言』じゃないけど、必然的なことだったと思うんですよね。こうなったのは。アレがなかったら、みんな無関心なまま、この国だけで(原発が)100基ぐらいできてた可能性だってあるじゃないですか。
■浜岡も余裕で動いてたろうしね。
JUZU:ね? そう。僕は中学生の頃から「No Nukes」とかやってたから、核の問題とか戦争とかに興味あったし。パンクの影響とかもあったし。人種差別は、ヒップホップやレゲエやジャズから教わったし。やっぱり同じような何かを感じてたから。いまも自分なりに勉強、本読んだりとか、調べていくと、やっぱり奴隷制とか、原発の輸出、採掘、全部がやっぱ繋がってて。コンゴのウランの採掘と奴隷制っていうのは、ものすごく密接だし。ネイティブアメリカンやアボリジニ、沖縄の今のネイティブの人たちに対する扱いとかも、全部やっぱりそういう必然的な何かを感じてたから。だから3.11以降、やっぱり来たと思ったし、ぶっちゃけ。「やっぱ言わんこっちゃねぇ」って。ずっと福岡で住みながらも、玄海原発の反対署名、僕らのパーティやってたから。別に3.11以降に言いはじめたことでも何でもなくて。
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僕は中学生の頃から「No Nukes」やってたから、核の問題や戦争に興味あったし。パンクの影響もあったし。人種差別はヒップホップやレゲエやジャズから教わったし。やっぱり同じような何かを感じてたから。
JUZU a.k.a. MOOCHYJUZU presents Movements "Beyond"
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■音楽の力っていうのは、微力だと思う?
JUZU:音楽が無かったらもっと酷かったと思う。微力かもしれないけど、音楽があったから俺は社会的な意識を持てたし。音楽がなかったら...。
■そこは間違いなく音楽の影響だからね。
JUZU:モチロン。
■学校では教わってないと。
JUZU:モチロン。だって、音楽がなかったら、ホントにみんなロボットみたいになってしまうと思う。さっきの「失われた記憶を取り戻す」っていうのは、楽器だったり音色だったり、そういうところから先人の知恵を貰わないと、こういう現状の中で、ねぇ? こういうコップでコーヒー飲んで、iPhoneと西洋タバコみたいな状況になってて、音楽が心に響いてこなかったら、たぶん、そのまま管理されちゃうっていうか。すごい、なおさら音楽の重要性は大きいと僕は思ってるし。だから、微力とも思わない。
■世のなかを動かしてるような人たちから見れば、微力だよ。
JUZU:いやぁ、でも、反対に言えば、彼らにとっても脅威だと思う。だから、いまのクラブとかデモとかに対する、この管理化はその裏返しでしょ。音楽って人を結びつけて、会話して、学び合ったり、協調し合ったりすることだから。管理する側にとってはすごくそれは邪魔なことだから。六ヶ所村のアレでも1週間以内で彼ら、僕のウェブとか全部チェックしてたから。PVまでちゃんと見てくれて(笑)。
■ハハハハ。
JUZU:取り調べの刑事から、「アンタ、ホント音楽ちゃんとやったほうがイイよ」「アンタ、やってること間違いないから」って。「オレだって原発とかぶっちゃけヤダよ」だって彼も子供がいて、20km圏内1日で即死になるぐらいの量があそこにあって知っていて。あれが福島みたいなことになったら北半球全部が住めなくなるみたいなもんだってことを、多くの人はやっぱ知らないし。福島どころじゃないっていう。それを僕は伝えたかったから、、でも結果的に犠牲はすごく多かったんですよ。パクられたことで、それこそ家族にも迷惑かけたし、まわりの友だちに迷惑かけたし。すごい散々な思いはしてるけど。
■なるほどね。どんなシールを貼ったんだっけ?
JUZU:「反原発」と「STOP KILLING OUR FUTURE」。核爆弾の製造と原発は全部リンクしてるから。
■それは六ヶ所村のどこ?
JUZU:(六ヶ所原燃)PRセンター。
■ハハハ、そんなね、シールを貼るのって、バンクシーみたいな、映画になるような芸術家のアート表現だってわかって欲しいね。
JUZU:ボム。ボムって......僕らみたいなスケーターとかは、当然、自分らのストリートはストリートだし。自分らのスタイルってあって。そういう攻撃対象っていうのもあって。いろんなメッセージをボムするっていうのも。自分がいるって言うこともひとつのボムだけど。バンクシーにしてもそうだけど。ああいうスタイルっていうか。別に中高生からやってるから。別に......って、説明すると大人気ないですけど(笑)。
■(笑)そこだけは変わらないっていうか。
JUZU:変わらない。まぁ、しょうがないですよね。
■DVDの最後はイスラム教の話で終わるけど。
JUZU:この何年かで、イスラム教に対してすごい関心が深まってて。でも本当の最後は、(沖縄の)マンちゃんの話で、ジュゴンの話があって。で、ラスト・シーンは剛が彼の実家の滋賀の琵琶湖に行くところで終わるんですけど。なんか、まぁ、自然回帰的というか。
■あれがオチなんだね。
JUZU:あれはもっとパーソナルなところ。人間社会の(サイケデリックな)宗教っていう話から、ジュゴンみたいな同じ哺乳類で、予言、予兆的なことをやるそういう生命体の話。で、最後は湖。まぁ水に帰るみたいなのは、けっこう僕のなかでテーマとしてあって。故郷に帰るっていうのも、ひとつのムーヴメントだと思っているし。ま、今後も映像作品作るだろうから、もっといろいろやってみたいことはありますね。
■今回のクライマックスとしては、世界中のいろんなところで起きているデモの映像のコラージュ映像なわけでしょ?
JUZU:それぞれ戦わなきゃいけないことがあるのかなぁって。デモすりゃいいとは思ってはいないし、違うやり方も全然あると思うんだけど。いま、良くも悪くもネットで、ねぇ? 情報交換出来るようになったから。覚醒しはじめてるのは間違いないし。
■でも、よくひとりで作ったなぁと思いましたよ、コレをホント、労作を。
JUZU:(笑)。
■ひとりのDJがコレを作ったっていうのが、すごい大きいなって思った。
JUZU:厳密にはマニュピレーターがいますけど、そうですね。なんか、偶然、必然な。もう作らざる得なかったっていうか。
■MOOCHYってけっこう饒舌で、話しだす止まらないようなところがあるじゃない。いろんな話があって。
JUZU:(笑)あぁ。
■だから、そういう意味で言うと、これは自分の言葉を抑えたよね
JUZU:聞き手な感じ。そういう意味では、DJっていう感覚はないけど、そういう感覚。素材を扱ってストーリーを組み立ててみたいな。そういう感覚は、最後のオチまで。最後はチルアウトみたいな(笑)
■うんうん、まぁ、たしかにね。
JUZU:2時間のトリップっていう感じ。
■なるほどねぇ、たしかにそうだわ(笑)。
JUZU:それで、認識をみんな、それこそ高めてもらいたい。
■はい(笑)。
JUZU:なんかむちゃくちゃ喋ってるけど(笑)。
取材:野田 努
Movements
http://go-to-eleven.com/schedule/detail/547/2012/3
2012.03.10 Sat @ eleven
▼Dance Floor
SHHHHHH / BING aka TOSHIO KAJIWARA / JAKAM&THE SPECIAL FORCES / KUNIYUKI /
TRIAL PRODUCTION feat TWIGY / JUZU aka MOOCHY / DJ TASAKA / BING aka TOSHIO KAJIWARA / Paint: KEPTOMANIAC / Dance:Nourah, Tanhq, Ayazones
▼Lounge Floor
DAI / ZIP(Zipangu Steel Orchestra) / MACKACHIN / Q / KILLER BONG / ALAYAVIJANA / SAHIB a.k.a. YAMA / 東京月桃三味線&RYOJIN / Dance: Nourah, Tanhq / Paint : WITNESS, LUVVINE
自分のお気に入りのDJを紹介できるというのは光栄なものだ。もうかれこれ3~4年前の話だが、その晩僕はひどく落ち込み、うちひしがれ、死にそうだった。ナイトライフを過ごせるような精神状態ではなかったが、約束があったので、僕は重たいドアを開けた。
ブースのなかにはヨーグルトがいた。彼は......すでにアッパーだった。「おいおい、何時だと思っているんだ」と僕は思った。「まだ11時だぜ」、フロアには10人いるかいないか。こちとら死にそうなほど落ち込んでいるというのに、この寂しいフロアにアッパーなテクノかよ......やれやれ参ったな。
しかもその飛ばし屋のプレイはそこにいる10人を完璧にロックしていた。落ち込んでいる人間がこういう光景に出くわしたとき、通常ならますます落ち込んでくるものだが、DJヨーグルトのプレイにはどこか無邪気なものがあった。ドラッギーだが、リー・ペリー的というか、ドロドロした感覚がないのがDJヨーグルトの個性だ。トランシーだが、アーシーなセンスがあるからなのだろうか、デーモニッシュな方向にはいかない。DJ saved my lifeという有名な言葉があるけれど、DJヨーグルトのグルーヴは、その晩の僕を助けてくれたかもしれない。
YOGURT&KOYASSOUNDS FROM DANCEFLOOR UPSET RECORDINGS |
2001年にDJ Uとのアップセッツとしてデビューして、3枚のアルバムと数枚のシングルを発表すると、2008年には〈ラストラム〉からDJヨーグルトとしての過去の作品集『Singles&Remixes 2005 To 2008』、そして2010年にはDJヨーグルト&コヤスとして『CHILL OUT』と『SOUND OF SLEEP & MEDITATION』の2枚をリリースしている。
DJヨーグルト&コヤスとしての3枚目となる最新作『SOUNDS FROM DANCEFLOOR』 は、それまでの2枚のアンビエント・アルバムとは打って変わって、いまどきこんなに無邪気な、ケレンミのない、ピースでトランシーなダンス・ミュージックがあるのかといった趣だ。この10年は、90年代とは違って愛情を欠いたダメなクラブも目に付くようになったが、それとは別の場所ではピースなパーティが続いていることを『SOUNDS FROM DANCEFLOOR』は我々に教えてくれる。取材には相方であるコヤスも同席してくれた。

バンド仲間でアジアを旅するのが流行りはじめて、「3万あれば1ヶ月滞在できるよ」って言われて、カネは無かったけど時間は余っていたし刺激を求めていたので、じゃあ俺も行こうと思って。で、何度か日本と海外を往復しているあいだに91年にゴアでたまたま野外パーティに出会ったんですよね。
■最初に知ったのは、ヨーグルトが渋谷のシスコ店で働いているときだったね。店長の星川慶子さんから「三田さんのファンです」って紹介されたんで、すごくよく覚えているんだよね(笑)。
ヨーグルト:そうですね、三田さんが来店するとずーっとしゃべってるという。
■で、「どれどれ、どんな服を着てるんだ?」と思って(笑)。
ヨーグルト:それはもう、三田カジェアルですよ(笑)。冗談はともかく物書きの人のなかで三田さんはほんとに昔から気になる存在だったんですよ。
■レコード店で働くまではインドを放浪しているようなトラヴェラーだったんだよね。んで、いつまでも漂泊できないっていうことで、飯食うためにレコード店に入ったんだっけ?
ヨーグルト:ですね。インド~ヨーロッパの旅から帰ってきて、よくクラブで一緒に遊んでいる仲間のなかに初期の〈イエロー〉の店員のジュリアって人がいたんですよ。その彼が星川さんと仲が良かったんですよね。もともと僕はディスクユニオンで働きはじめて、ロックやジャズとテクノの新譜と中古を担当してて、このままユニオンで働いていくか悩んでいた頃にシスコのテクノ店がオープンして、「こういうテクノの新譜だけで成り立つ店ならいいな」と思って星川さんに自分のことをその友だちに紹介してもらったんですよ。ちょうど佐久間さんとシャッフルマスターがテクノ店を抜けるタイミングでテクノ店に入りました。
■しかしね......その頃の若さでなんでゴアに行くようなヒッピーになったんですか?
ヨーグルト:ヒッピーって自覚はなかったですけどね(笑)。もともとクラブ好きでしたよ。ゴアに行く前も東京のクラブにもよく行ってたし、地元にいるときはたまに地元で遊んでました。
■どこの出身?
ヨーグルト:愛媛の松山です。地元が盛り上がっていたわけではないですけど、東京に来たのが88年ですね。当時はクラブに人は入ってて盛り上がっていたんですけど。もっとむちゃくちゃでもいいんじゃないか、もっと盛り上がってもいいと思ってましたね。いまひとつ物足りなさを感じていました。
■92年ぐらいから東京もむちゃくちゃになってましたけどね。
ヨーグルト:たしかにすごいパーティが東京でもあったと思うんですが、自分は出会わなかったんですね。その後のゴアとかロンドンで見たときに「俺が求めた解放感や自由な雰囲気を含んだパーティってこれだ!」と思いましたよ。
■目覚めてしまったんですね。
ヨーグルト:89年ぐらいは俺、バンドやってたんですよ。でもバンドの練習で同じ曲を何度も演奏するのに飽きてしまって、歌や演奏が飛び抜けて上手いわけでもなかったのでバンド活動は2年ほどで終息して。ちょうどそのバンド仲間でアジアを旅するのが流行りはじめて、「3万あれば1ヶ月滞在できるよ」って言われて、カネは無かったけど時間は余っていたし刺激を求めていたので、じゃあ俺も行こうと思って90年に初めてインドに行きました。で、何度か日本と海外を往復しているあいだに91年にゴアでたまたま野外パーティに出会ったんですよね。まだトランスが根付く直前だったので、UKレイヴものからイタロ・ハウス、アシッド・ハウス、打ち込みのニューウェイヴ、ボディ系の音までいろいろかかっていました。でも音楽を聴きはじめた頃は打ち込みの曲はそんなに好きじゃなかったんですよ。
■ヨーグルトのルーツって何になるの?
ヨーグルト:10代前半は60年代から80年代のUKのロックやパンク、ニューウェイヴ、10代後半の頃はレゲエとかブルースですね。
■レゲエが好きなのは、アップセッツっていう名義にしてるぐらいだからね。
ヨーグルト:レゲエは好きでしたね、レゲエを好きになったきっかけは、ストーンズやクラッシュがカヴァーしていたレゲエだったりするので、10代後半の頃好きだったのはロック流れのレゲエやロックステディですね。ラスタとかは正直わからないこともいろいろあります。で、ゴアでは打ち込みが苦手な自分がパーティの熱気に巻き込まれて、そしてメチャクチャ踊れるじゃないですか、それで「これすごいな」と思って、もっと探求したいと思ったんです。テクノとか全部エレクトリックな音で構成されてる音楽って、独特のフィーリングがあるじゃないですか。
■ある種の麻薬性みたいなところに惹かれたんだね。
ヨーグルト:う~ん、そうですね、苦手だったぶん、より惹かれたってことですかね。
■多くのレゲエが好きな人って、けっこうテクノを苦手とする人が多いんだよ。
ヨーグルト:けど、もうバッチリで。テクノで踊った後は歌ものレゲエよりもダブを聴くことが格段に増えて、90年代半ばだとマッドプロフェッサーがマッシヴ・アタックをリミックスしたやつとかを愛聴してました。
コヤス:僕、はじめ『ノー・プロテクション』ぜんぜんわかりませんでした。
一同:ええーー(驚)!!
コヤス:そのうちわかるようになりましたけど。
■コヤスくんはヨーグルトと何歳はなれてるの?
コヤス:5歳です。
■けっこう離れてるね。
コヤス:95年に交通事故で足をケガして、そこから3年ぐらいまったく遊んでないです。
ヨーグルト:コヤスくんはけっこう卓球さんファンで。
コヤス:最初は卓球さんでしたね。
■日本で打ち込みの音楽やっている人で、もともとは卓球ファンっていう人は本当に多いよね。
コヤス:最初の入りはデジタル・ロックだったんですよ。
■なんだっけ、デジタル・ロックって?
コヤス:ケミカル・ブラザーズとかプロディジーとか。
■ああ、そうだったね。
コヤス:もともとバンドやってたんですよ。僕の場合交通事故にあって足をケガして立って楽器を弾けなくなっちゃって、そのときにケミカル・ブラザーズを聴いて、これならひとりでもできると思ってサンプラーを買って、曲を作りはじめました。
■そのとき何歳だったの?
コヤス:22~23です。
■そうなんだ。コヤスくんも......運命というか、よりによってヨーグルトといっしょにやるとはね......。当時からヨーグルトは謎だったよ。「彼はいったい何者なんだろう?」っていつもレコードを選びつつ横目でちらっと見つめては思ってたもん。
ヨーグルト:シスコ・テクノ・ショップのいち店員ですけどね(笑)
■あの頃はCDを担当してたよね?
ヨーグルト:そうですね、CDの担当だとテクノという概念に含まれる音楽なら何でも全ジャンルやれるのが良かったです。ドローンや民族音楽系の作品も扱っていました。
■あの頃CDで発売されるものって〈ファックス〉とかのアンビエントが多かったじゃない。それでアンビエントが好きなのかなって思ってたんだよ。
ヨーグルト:そうですね、90年代にちょっとテクノに疲れちゃった時期があって。90~93年ぐらいまでは無邪気に遊んでましたけど、94年ぐらいにガックリ疲れて、4つ打ちをもう聴きたくないってときにアンビエントにのめりこんでいきました。
■あの頃はヨーグルトや星ちゃんの口車に乗ってずいぶん散財したよ(笑)。
ヨーグルト:はははは。お世話になりました!
■もし自分もレコード店で働いていたら、同じことしたと思うけど。
ヨーグルト:お客さんが買おうとしている作品にはダメだししにくいですね(笑)。でも、俺はわりと無理には勧めないほうでしたけどね。
コヤス:僕はアルタのシスコでアベさんの当時の楽曲制作の相方だったDJユーに勧められていろいろ買わされて、家帰ってから「なんでこんなの買ったんだろう?」ってことよくありましたね(笑)。
■ほら!
ヨーグルト:まあ、そのあたりが難しいとこですよね。自分の好きなものだけ売って成り立つんならいいですけど、塩梅がね。当時だとアンダワールドはとにかく売らないといけないみたいなのあるじゃないですか。でもそこでレコード店でバイヤーの経験を積むことで幅広い視点を持つ勉強にはなった気がしますね。
■それは重要だよね。ところでヨーグルトを名乗った理由はなんなんですか?
ヨーグルト:本名でも良かったんですけど「DJアベとかDJシュウジとか名乗って覚えられるかな?」と思って、「俺は覚えられない」と思って(笑)。いっぱいいそうだし。あとムードマンとかコーネリアスとか、名前以外を名乗る人がいたんで。
■なんでヨーグルトなの?
ヨーグルト:う~ん、それが覚えやすいのと意味合いですかね。
■精子のメタファーなんだよね。やっぱそこでエロティシズムをほのめかしている。
ヨーグルト:アメリカではそうみたいですけど、英語圏以外では違うらしいですよ。トルコ語では撹拌するとかゆっくり混ぜるという意味があると聞いたことがあります。柔らかいイメージと、身体のなかに取り込んで変化するみたいな意味合いもあるんですね。音楽もそうだし。
■便通も良くなるしね。DJをやるようになったのはいつなんですか?
ヨーグルト:たぶん〈マニアック・ラヴ〉で「スローモーション」の一番手をやるようになったのがきっかけですね。レギュラーでやるのはそれが最初です、それまでは友だちのパーティでやるぐらいでしたから。「スローモーション」はディープ・ハウスのパーティで、野田さんもたまに来てましたよね?
■あれは楽しかったよね、客はいなかったけど。ムードマン、3E(蓑田+三田)、ヨーグルト、あとたまにゲンイチだっけか。96年か97年ぐらいだよね。フレンチ・ディープ・ハウスが流行りはじめた頃だったね。
ヨーグルト:モーターベースがすごい人気でて、そのあとダフト・パンクがブレイクして。
■「スローモーション」が火付け役だったからね。
ヨーグルト:えー、そりゃわかんないですけど(笑)。いち部の人たちのあいだでじゃないですか?
■エチエンヌ・ド・クレイシーとイアン・オブライエンに関しては確実に「スローモーション」でしょ? 俺が来るとどや顔でベーシック・ソウルをかけていたもんな。「マッド・マイクみたいだろー」って感じで(笑)。
ヨーグルト:そうですかね。三田さんが『エレキング』で頻繁に書いていた印象は強いですね。しかしまさかここまでダフト・パンクがブレイクするとは、当時まったく思ってなかったです。
■それでムードマンがムーディーマンとセオ・パリッシュだったね。
ヨーグルト:「スローモーション」って、ちょうど自分の耳がジェフ・ミルズなんかのミニマル・テクノに疲れちゃったときにはじまったパーティなんです。ウェザオールもちょうどディープ・ハウスをやってるときで、「これはもうやるしかない」って思いましたね。俺も最初は客として行ってたんですけど、いいコンセプトだなと思ってDJやらせてくださいってオーガナイザーの蓑田くんにお願いしました。三田さんに「疲れました」って言ったら、「だろ!」って言われて(笑)。ちょうど三田さんもジェフ・ミルズからフィッシュマンズにシフトした時期でしたね。そんな原稿を三田さんが『エレキング』に書いてました。
■あー、覚えている。ジェフ・ミルズのDJ聴いて、家に帰ってフィッシュマンズを聴いたっていう原稿あったよね!
ヨーグルト:そうそう、それで俺、三田さんに誘われて野音にフィッシュマンズ見に行ったら、三田さんがいちばんガン踊りしてました(笑)。
■あー、それ俺も行った。バッファロー・ドーターが出たやつじゃない?
ヨーグルト:たしかそのときはバッファッロー・ドーターはいなくて、ワンマンでしたよ。ザックさんがPAやってました。ザックさんのPAがものすごくて、歌が聴こえないぐらいベースが出てて、「こんなアヴァンギャルドなミックスやるんだ」って驚きました。ON-Uを見ているような感覚でしたね。ほんと声がわかないぐらいディレイとEQがかかるのが良かったんです。佐藤さんのヴォーカリストとしてのエゴが感じられないライヴでしたね。そこが音楽的にはとても良くて、その日からフィッシュマンズの大ファンになりました。
■とにかく、それで「スローモーション」でヨーグルトはデビューしたわけだけど、「スローモーション」が終わってから、さらに音楽活動が活発になっていくじゃない。90年代末にいっかいクラブが落ち目になったときがあって、その頃からヨーグルトは制作のほうもやるんだよね。すごいなーと思ってたんだけど、アップセッツ名義でプロダクションをやるあたりの経緯はどうだったんですか?
ヨーグルト:98年頃からMPCで楽曲制作をはじめて、エレクトロニカ的なビートものを制作しつつ、アンビエントにハマっていた時期に考えたアイデアをどこかで音にしないとすっきりしないって思ってたんですよね。90年代だと作りたいと思っても、まだパソコンの性能がそこまで良くなかったから、ある程度のミュージシャンじゃないと頭のなかで作り上げた構想はなかなか実現できなかったんです。で、2000年半ばにMPC叩いて作ってたスタイルからパソコンに全部移行したんですよ。そこでやるようになったら当時自分が考えていたことが具現化できることがわかって、2001年に『サウンド・オブ・スリープ』の1枚目としてリリースしました。実際は2000年にはもう出来てましたね。そのファーストCDはアンビエントだったんですけど、ファースト・12インチ・シングルはサイケデリックなハーバートみたいな曲でそれは700枚ぐらい売れました、いまより売れてる(笑)
■知ってますよ。「アンコンヴェンショナルEP」(2001年)だっけ? 真んなかにアップセッツって書いてあるやつでしょ。レヴュー書いた覚えがある。
ヨーグルト:あれはハーバートと60年代のサイケデリック・バンドのレッド・クレイヨラとリー・ペリーをミックスさせたらどうなるか? っていうアイデアから生まれた楽曲なんです。
■つねにサイケデリックだよね、つねに。
ヨーグルト:つねに(笑)、ってわけじゃあ......。
■ヨーグルトのDJも本当にアシッディだしね(笑)。
ヨーグルト:あんまりあからさまじゃなくて出汁のように利いてる感じじゃないかと自分は思っているんですけど(笑)。コンブの出汁みたいな。
■それでゼロ年代途中でジェット・セットに職場を変わって。でもバッサリやめて音楽活動に専念するんだよね。
ヨーグルト:ジェット・セットでは3年ぐらい働いてました。でもDJの活動が忙しくなってきたので思い切って仕事やめて音楽に専念したかったんです。
■やっぱ売れてたんだね。
ヨーグルト:スタートが低いから売れてきているように感じているっていうのもありましたけどね。自分のスタートはフロアには誰もいない「スローモーション」のオープニングでしたから。
■はははは。まあそれで、サイケデリックというコンセプトをヨーグルト&コヤスでもさらに展開していると?
ヨーグルト:その前にもいろいろあって、アンビエントも追求しつつ、快楽主義も忘れず、でもわりと生真面目に試行錯誤してたんですよ(笑)。ヒカルくんと2002年に出会ったのも大きかったんです。彼も出演した「FORESTED OVA」って野外パーティで自分のDJを聴いて気に入ってもらえて、自分もヒカルくんのDJを聴いてこれは!というモノを感じたので、「いっしょにやろうよ」ってことになって、2003年からヒカルくんのレギュラー・パーティにときどき参加するようになりました。当時からヒカルくんには熱心なファンがいましたね。20~30人ぐらいは来ることも多くて、それで平日でもパーティがガンガン盛り上がる時間帯があるんです。自分はそれまではラウンジやメインフロアの早い時間とかでいろんなタイプの音楽をかけることが多かったんですけど、ヒカルくんとやるとひと晩にふたりで2~3回交替しながら回すことが多くて、そうするとヒカルくんのDJでダンスフロアが大盛り上がりした後にDJするわけですよ、それが自分にはすごくいい経験になりました。面白かったし、そのドンチャン騒ぎを維持しつつフロアを作る技術というか、メインフロアのピークタイムのフィーリングを多少なりとも学んだのは彼のおかげですね。それまでは前座しかやれませんでしたからね。
■やっぱDJも縦社会だからね。でもそれは仕方がないよ。だってジェフ・ミルズが客入れやるわけにはいかないし。
ヨーグルト:そうなんですよね、だからちょうどDJとしての活動が煮詰まってたときにヒカルくんに会ったんですよ。90年代に国内外の先輩DJたちから良いところを吸収して、ゼロ年代に入ってヒカルくんや自分らがワイルドに爆発させたってところがあるかも、ですかね、熟成させたっていうか。
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単純にサマー・オブ・ラヴだってわけではないです。その良質な部分をアピールしたいっていうか、レイヴ・トラックにもひどいのもあるじゃないですか。セカンド・サマー・オブ・ラヴのスピリットが埋もれてしまっているんじゃないかなって残念に思うことがあるので。
■そうだね。アップセッツからはじまってどんどん自分を音楽生活にシフトさせていくじゃない、その上での大きかったことってなにかある?
ヨーグルト:いろいろな要因があるんですが、ヒカルくんとやってて、「ドッカンドッカン盛り上がっている局面でDJがプレイしてそこで通用する曲をつくらないと」って思ったことは大きなキッカケになったかもしれないです。当時はまだDJユーと曲作ってて、たまたまヒカルくんまわりにゼロっていうジャム・バンドがいたんですけど、彼らとスタジオでセッションして、それを再構築して、ダンス・トラックを作って、〈トライエイト〉からリリースしたのが2004年ですね(『グルーヴ・オン』)。そこからのシングル曲「エスノ」をDJケンセイくんがリミックスしてくれて、2005年に12インチでリリースされてそれが2500枚売れたんですよ。それが大きかったですね。
■ヨーグルトがアンビエント寄りのものからアッパーな方向に行った背後にはホントにヒカルくんがいたんだね。
ヨーグルト:あとはそのときのケンセイくんのリミックスですね。ケンセイくんとはそれ以前から仲よかったんですよね。で、そのシングルが日本中で売れたんで地方に呼んでもらえるようになりました。
■そこからまたドラッギーな旅がはじまるわけですね。
ヨーグルト:そうですね、90年代のいちばんてんやわんやな時代のノリに戻ったというか。
■はははは。
ヨーグルト:で、2007~8年あたりに、それまでの00年代前半の自分のDJプレイは生音と電子音を融合させた音が多かったんですけど、どんどんテクノ化が進みましたね。現場で受ける音がどんどんテクノっぽくなったんです。「フューチャー・テラー」とかも、00年代前半はわりとダンス・クラッシックとかもかかってたと当時遊びに行っていた人たちから聞いたんですけど、どんどんテクノが流れる時間が長くなっていって。
■僕が初めて行った頃も、まだソウルフルなディープ・ハウスが多かったね。
ヨーグルト:で、自分も自分なりにそっちの方向へ向って、ジェブスキっていうムーチーとネクサスってバンドをやってた彼といっしょにテクノ・トラックを作って、12インチ・シングルを〈トライエイト〉や〈ジェット・セット〉、〈ローズ〉から出したりしたんです。で、テクノへ本格的にシフトするあたりでコヤスくんと出会うんですよ。彼と話してみると卓球さんが好きだったりして。ジェブスキはソロ活動を開始するタイミングでもあったので、2007年頃からコヤスくんと共作する機会が増えていきました。
■ヨーグルトも卓球好きなの?
ヨーグルト:めちゃ好きですよ(笑)。元旦に東京にいる時はリキッドに挨拶にいってます。卓球さん、俺たちの曲聴いてくれていて「『チル・アウト』いいよ」って伝えてくれたときは嬉しかったですね。あの卓球さんの快楽主義を貫く姿勢は尊敬しますよ、簡単にできることじゃあないじゃないですか。
■快楽主義も良いけど、レイヴのあとの空しさったらないよ。二日酔いの翌朝の空しさもたまらないけどね。「なにやってんだろう、俺?」ってね。
ヨーグルト:俺もそんな気分を味わったことがあるのでわかりますよ。だけどそこで帰っていままで聴いてなかった音楽とか聴いて、それまで聴いても良さがわからなかった音楽がわかるようになってんじゃん、みたいなこともときにありますよね。「あれ? この曲やけにいい聴こえかたする」とか。そういう微妙だけど確実に何か変わっていることに気がつくと空しさも薄れるんじゃないですかね? レイヴを体験して感覚が変容することで、音楽だけじゃなく映画などアート全般に対する理解力が上がってそれまで以上に人生が楽しくなった人もいると思うんですよね。
■ですかね。でもさ、たとえばトランスってドラッギーで入りやすいけど、空虚な音楽でもあるよね。ぶっ飛ぶためだけにあるから。心は満たされないっていうか、それがトランスの格好良さなんだけどね。
ヨーグルト:トランスの受け止め方も人それぞれで何とも言えないんですけどね。自分はトランスのパーティに漂う解放感は好きです。90年代のパーティ・カルチャーは自由を目指して、より自由にって爆走していたと思うんですけど、良いことだけでなくいろいろ問題も発生して、熟成期に差し掛かってきたのがいまなんじゃないですかね。
■レイヴの自由って幻覚じゃない?
ヨーグルト:いやいや、すごいパーティで感じた体験はそう簡単には風化しないですよ。毎週のようにまあまあのパーティに行ってると空しさが爆発するかもしれないですが。どうしても空しさを感じたくないなら、DJやパーティを絞り込んで狙って、3~4ヶ月に1回行けばいいんですよ。一度や二度空しさを感じて、そのあとまったくパーティに行かなくなるのももったいない気がします。
■はははは、たまには幻覚ぐらい見ないとね(笑)。俺も3~4ヶ月に1回は行きたいですよ。そういえば、ゼロ年代以降は、小バコの時代だったとも言えるよね。
ヨーグルト:〈グラス・ルーツ〉が盛り上がったり。
■〈グラス・ルーツ〉って行ったことないんだけど、たとえば静岡だったら〈ラディシャン〉が居心地が良かったりするよね。小さいながらもスピリットを感じるっていうか。人と人との距離も近いから、話しやすいし。
ヨーグルト:でかい場所で何千人って人と同じ曲聴いて盛り上がるっていうのもありだと思いますけど。小バコだともっと音楽好きが集まって音楽性が高まる気がしますね。
■まあ、敷居が低い分、音楽性は高くはないかもね。
ヨーグルト:いろいろな小箱があるから何とも言えないですけどね。俺は〈グラス・ルーツ〉でダメ出しされたこともありますよ(笑)。「キミはいろんな曲かけてるけど、ほんとに全部すきなの?」って言われて。好きな曲しかかけてないですけどね。そういう感じのコミュニケーションがあるのは小バコならでは気がしますね。ダンスフロアとDJブースが近いからこそ生まれる雰囲気はあると思います。
■でも大人数のときの興奮はまた別のすごさがあるよね。
ヨーグルト:大人数で盛り上がるすごさにあらためて目覚めたのは去年のフジロックですかね。あのメインステージの音がムチャクチャよくて、あそこで考えが変わりましたね。なんですかね、あそこで1万人以上で盛り上がるのは......衝撃でした。ただ音が良いだけではない部分があると思いましたね。あの音に感動してPA業界に入る若者とかいるんじゃないかと思いますよ。
■DJとしてのポリシーは?
ヨーグルト:新譜と旧譜をバランス良くプレイすることや、なるべく他のDJと選曲が被らないことは意識しています。「こんな選曲のDJは初めて聴いた」と言われたいです。その夜来てくれた人が「また来たい」って思いながら帰ってもらえたら嬉しいです。
■先日ゴス・トラッドに取材したときに彼が言ってたんだけど、日本と欧米との違いは日本では曲を作るDJがまだまだ少ないってことだと。たしかにダブステップ世代のDJって、みんな曲作っているんだよね。むしろ曲作りが先で、それをプレイするためにDJしているんだよ。とはいえ、テクノが盛り上がった90年代なかば以後は日本でも曲を作る人がいっきに増えたよね。田中フミヤや瀧見憲司以降っていうか、ヨーグルトもそうだし、アルツとかノブくんとか、みんな作ってる。
ヨーグルト:作曲とDJがどんどん同じになってきてるのかもしれないですね。そんな流れのなかでオリジナリティを出すのはほんとに大事だと思います。自作の曲やエディットを作ってかけたり、スクラッチなんかをしたり、やり方はなんでもいいと思いますけど、DJプレイにおいてその人にしかできないことをやるのはこれからいままで以上に求められてくるでしょうね。自分はウェザオールが"ローデッド"をリミックスしたときからそれは感じてました。「DJってこんなに自由にやっていいんだ」ってね。
■目標としているDJっている?
ヨーグルト:ミックスマスター・モリスは昔から好きです。
■あー、昔からずっと好きだよね。
ヨーグルト:いま〈R&S〉傘下の〈アポロ〉のA&Rやったりしてて、視野がほんと広いんですよね。そこでジェームス・ブレイクとかをきっちりチェックしつつ......。歳とっていくと視野が狭くなる人が多いじゃないですか。でも、ミックスマスター・モリスはいまでも現役というか、しっかり新譜の動きをおさえているんですよね。すごくアナーキーなところもあるし......。コヤス・スタジオにデモ曲を制作するために泊まりにきたこともありました。
他には、ニック・ザ・レコードも好きですね、あの人はお約束以外のディスコをうまくかけるじゃないですか。ズブズブのディスコを素人にはわからない感じでかけるのがすごい。何時間でも聴いていられる面白さがあります。
■僕は今回のアルバムも『チル・アウト』も、聴いてつくづく思ったんだけど、基本的にはサマー・オブ・ラブの人だよね、ヨーグルトは。
ヨーグルト:根底にあるのは間違いなくそうですね、でもいろいろありつつですね。
■それはいまは素直に受けとれないと?
ヨーグルト:けっこう世のなかの流れってかわるんですよね。まあ、基本的にはそこが大事なところですけど。どちらにしても『チル・アウト』と『サウンズ・フロム・ダンスフロア』は素直にやったというよりは微妙に批評性はあると思いますよ。
■自分がここ数年ダブステップ系ばかり聴いていたからかな。なんて無邪気だろうって思ったんだけど。
ヨーグルト:セカンド・サマー・オブ・ラヴの頃に生まれた楽曲って勢いでやっちゃてるものが多い気がするんですが、自分でやっているものは、もっと落ち着いて見直して、セカンド・サマー・オブ・ラヴの頃に生まれた楽曲のどこが良かったかって考えてやってます。余計なものをそぎ落としたというか、むやみに意気込んでるわけではないですね。単純にサマー・オブ・ラヴだ、フリーダムだってわけではないです。その良質な部分をアピールしたいっていうか、セカンド・サマー・オブ・ラヴといってもレイヴにもひどいのもあるじゃないですか。そういうよくわからないレイヴにセカンド・サマー・オブ・ラヴのスピリットが埋もれてしまっているんじゃないかなって残念に思うことがあるので。
■ヨーグルトの場合は、ゼロ年代に曽我部恵一を聴いているような若いリスナーのあいだで広まっていったよね。実際、ヨーグルトが好きっていう20代のロック・リスナーに何人か会ったことあるよ。
ヨーグルト:嬉しいですね! 最近では、大阪の奇妙礼太郎トラベルスウィング楽団のヨーグルト&コヤスリミックス(「機嫌なおしてくれよ」)が評判になって、10代から20代の人も聴いてくれてるみたいです。自分もロックを聴いててダンスに入っていったんで、ロックのリスナーにはシンパシーがあるんです。インディ・ロックを聴いているような子たちにダンス・ミュージックの魅力を伝えたいっていうのはあります。曽我部さんも「そういうことやりたいよねっ」て言ってくれているんですよね。
■いま、どのくらいの割合でDJやってるの?
ヨーグルト:平均すると月に6~7本ぐらいですかね。
■さすがですね。
ヨーグルト:でもヒカルくんとかノブくんとかケンセイくんはもっとやってますからね。
■みんなすごいよね。
ヨーグルト:俺もこれからの『エレキング』に期待したいですね。
■もう『エレキング』にはクラブ・ミュージックについて書きたいって人がいなくなってるからね。
ヨーグルト:萎縮してるんじゃないですか? それかブログやツイッターなんかで自分の思いを文字にして満足している人が多いのかもしれないです。
■五十嵐とか暇を見ては手伝ってくれてるけど、大人でコンスタントに書いているのは僕と三田さんぐらいで、松村や二木なんかもたまに、1年に1~2回ぐらいは磯部も書いてくれているけど、他は20代なんですけどね。2012年はライターを増やしたいっていう目標があるんだ。
ヨーグルト:俺も書きますよ!
■それは嬉しいな。ヨーグルトも昔の『エレキング』でもよくレヴュー書いてくれたよね。でも、やっぱもう言葉を必要としていないってところもあるのかな? テクノやハウスに関していえばもう充分過ぎるほど語られているから。
ヨーグルト:もしかしたら語るよりも体験しようって人が多いんじゃないですか。娯楽文化でもあるし、ヨーロッパではドラッグ文化のいち部でもあることが日本では書く人が少ない原因かもですよね。
■関西なんてそれどころじゃないだろうしね。そういう意味ではね、今回のアルバムのアートワークが思いっきりダンスフロアを主張しているでしょ。このわかりやすいヴィジュアルをいまやるところにヨーグルト&コヤスの強い気持ちを感じたんですけど。
ヨーグルト:『チル・アウト』、『サウンド・オブ・スリープ&メディテーション』と2枚のアンビエント・アルバムを続けてリリースしたあとなので、今回は方向性が変わったことを明確にアピールしたかったんです。もちろんダンスフロアへの愛情をストレートに表現したタイトルでもあるんですが。ま、これは昔の『リミックス』も関係あるというか、それが原因みたいなものですよ(笑)。
■というと?
ヨーグルト:2004年にさっき言った〈トライエイト〉から『グルーヴ・オン』っていうアルバムを出したら、それがどういうわけか『リミックス』誌の2004年の「アンビエント・アルバムNo.1」に選ばれて(笑)。「自分にはアンビエントってイメージが強くあるからなのか?」と軽く悩みました(笑)。これはマジで、もっとわかりやすくしないと音楽系のライターにすら通じないのに、一般の人たちにはまず通じないなと心の底から思って(笑)。それ以来、ダンスものはダンスものらしく、曲名もヴィジュアル的にもわかりやすくしています。
■ひぇー、それはごめん。すいません!
ヨーグルト:河村さんがそうしたということをあとから知りましたけどね(笑)。それがトラウマでこうなってるんですよ。
■え、じゃあ、まさか河村の影響で?
ヨーグルト:このタイトルなら誰もアンビエントだと間違えないでしょう。
■重たい話になっちゃうかもだけど、ゼロ年代以降は店員の態度が悪いクラブも出てきたでしょ。疲れて階段で座っているだけで注意するような。入口で財布の中身まで見るとか。あれがクラブ初体験だったらリピーターにはならないと思ったことあるんだよね。〈イエロー〉や〈マニアック・ラヴ〉の時代は、お店のスタッフもみんな「こちら側」っていう感じだったけど、やっぱこの10年で好きでやっていた人たちが作っていったものと、商売ありきではじめた人たちとの差が出てしまったかなと思って。
ヨーグルト:〈イエロー〉や〈マニアック・ラヴ〉の店員の人たちの雰囲気はほんとによかったですもんね。クラバーがそのまま店員になった感じで。でも全国いろいろまわってるとナイスな店員さんに出会うこともあるし「こんなところにこんなクラブが!」ってこともありますよ。
■気持ちのこもったクラブっていまでもあるんだろうけど、客の側から見てちょっとギブかなっていうのも混じってるからややこしいんだよね。たぶんヨーグルトやノブくんみたいな人たちはそういう場所を巡業しているんだろうし、だからこういうアルバムが生まれるんだろうし。ちなみにこのアルバムに込められたメッセージは?
ヨーグルト:ダンスフロアにはマジックがあるんだってとこですかね。
■all time to 10 albums by Yogurt
1. RED CRAYOLA / Parable Of Arable Land (International Artist)
2. MILES DAVIS / Bitches Brew (Columbia)
3. BOB MARLEY&WAILERS / Catch a Fire (Island)
4. ROLLING STONES / Black&Blue (Atlantic)
5. KING SUNNY ADE / Juju Music (Island)
6. SPACEMEN 3 / Dream Weapon (Fierce)
7. PRIMAL SCREAM / Screamadelica (Creation)
8. BASIC CHANNEL / Basic Channel (Basic Channel)
9. IRRESISTIBLE FORCE / It's Tommorrow Already (Ninja Tune)
10. BLAST HEAD / Head Music (Free Hand)
1/7(土) @八王子Shelter
1/12(木) @西麻布Eleven
1/14(土) @江ノ島Oppa-La
1/20(金) @中野Heavy Sick Zero
1/27(金)@渋谷Vision
1/27(金)@代官山UNIT/SALOON
1/28(土) DJ YOGURT Open To Last 6Hours@代官山Saloon
(The FieldがUnitに出演する日です)
他の出演予定の確認はこちらで
http://www.myspace.com/djyogurtfromupsets/shows
2011年も残すところ数週間。先日も街を歩いていたら、レディ・ガガとビヨンセの歌う"クリスマス・ツリー"が流れてました。中古レコード店に入るとこんどはソロモン・バークの渋い"プレゼンツ・フォー・クリスマス"です。コンビニに入れば、ワム!の"ラスト・クリスマス"、セリーヌ・ディオンの"ブルー・クリスマス"、山下達郎の"クリスマス・イブ"......世のなか、ほとんどクリスマスだらけになります。
独り身の方には、ザ・フォールの"ノー・クリスマス"のような曲もありますし、喧嘩中の方にはラモーンズの有名な"メリー・クリスマ"があります。
僕はフィル・スペクターの『ア・クリスマス・ギフト・フォー・ユー』がいちばん好きです。あのアルバムは世界でもっとも夢見がちなプロデューサーが作った最高に素敵なファンタジーではないでしょうか(周知のように彼は、ジョン・レノンと小野洋子の"ハッピー・クリスマス"のプロデューサーでもあります)。
コクトー・ツインズの"フロスティ・ザ・スノーマン"も名曲です。いまどきのチルウェイヴやネオゴシックを追っている若いリスナーにはオススメです。スレイドの"メリー・クリスマス、エヴリボディ"はちょっと上級者向けかもしれません。ジョン・フェイヒィのクリスマス・アルバムはそれと反対の意味で上級者向けですが、クリスマスの曲は来る者を拒まないのが良いところです。フェイヒィの狂ったような技術によるクリスマス・ソングの演奏は、その日がクリスマスであることをも忘れさせるでしょう。
僕は若い頃は、ザ・ポーグスの"ファーリー・テール・オブ・ニューヨーク"をよく聴いていました。この曲は僕のような賢くない人間にとっては本当に最高のクリスマスのファンタジーです。ぜひ歌詞を読んでみてください。もしもザ・ストリーツがクリスマス・ソングを作っていたら、こんな曲を書いていたでしょう。
以下、ele-kingによる「30 classic songs」を思いつく限り、ざっと選んでみました。あ、レゲエのクリスマス・カヴァーを忘れてました。たくさんあり過ぎるのですが、僕は〈トロージャン〉から出ているボックスをいつも聴いています。
高名な音楽評論家の湯浅学さんがクリスマス・ソングの蒐集家で、それだけで2000枚もあるそうです。現在、ライターの方々をはじめ、レーベルの方々、いろんな方々に「My Favourite Christmas Song」についてアンケートしています。お返事が来れば、発表します。お楽しみに!
なお、読者の方のなかにも、以下のチャート見て、自分の「Favourite Christmas Song」が入ってないじゃないかという方は、ぜひこちらにメールください(ele-king@dommune.com)。お名前(匿名)、アーティスト名/曲名+コメントでお願いします。火曜日(20日)に締め切らせていただきます。
■30 classic songs by ele-king
1. The Ronettes - Sleigh Ride
2. The Pogues - Fairytale of New York
3. The Ramones - Merry Christmas (I Don't Want To Fight Tonight)
4. John & Yoko And The Plastic Ono Band - Happy Xmas (War Is Over)
5. John Fahey - Silent Night, Holy Night
6. Cocteau Twins - Frosty the Snowman
7. Slade - Merry Christmas, Everybody
8. Jackson 5 -Santa Claus is Coming to Town
9. Booker T & the MG's Jingle Bells
10. Yello - Jingle Bells
11. St Etienne feat. Tim Burgess - I Was Born On Christmas Day
12. Manic Street Preachers - Ghost of Christmas
13. James Brown - Go Power At Chirstmas Time
14. Ray Charles - That Spirit of Christmas
15. Wedding Present - No Christmas
16. Donny Hathaway - This Christmas
17. Bright Eyes - Blue Christmas
18. Miles Davis - Blue Christmas
19. The Kinks - Father Christmas
20. The Yeah Yeah Yeahs - All I want for Christmas
21. The Fall - No Xmas for John Quays
22. Johnny Cash - I Heard The Bells On Christmas Day
23. Stevie Wonder - -Christmas Time
24. The Supremes - My Christmas Tree
25. The Beach Boys - Little Saint Nick
26. Duke Ellington - Jingle Bells
27. XTC-Thanks For Christmas
28. Tom Waits & Peter Murphy - Christmas Sucks
29. The Only Ones - Silent Night
30. The Ventures - Christmas Album
●鴨田潤(イルリメ)
Paul McCartney - Wonderful Christmas Time
4年前、MXテレビの「5時に夢中」を見てたらエンディングテーマとしてこの曲が流れ初めて知り、好きになりました。シンセの音色が何というか、家庭的で良いです。
●大久保潤(大甲子園/Filth/メディア総合研究所)
Wizzard - I Wish It Could Be Christmas Everyday
Slade - Merry Christmas, Everybody
Gary Glitter - Another Rock 'n' Roll Christmas
T.Rex - Christmas Bop
一番好きなクリスマスソングは断然少年ナイフの「Space Christmas」だし、先日のライヴ・レポートにも書いたように「Sweet Christmas」も大好きなのだけれど、ちょっと違うのを挙げて見ます。シャッフルと相性がいいのか、グラム・ロックにはいいクリスマスソングが多いのでその中から4曲。ウィザードは定番中の定番ですね。すかんちがやってたカヴァーもよかった(まあコピーですが)。スレイドはサビのシンガロングがライヴだとさぞ大合唱であろうこれまた定番曲。ゲイリー・グリッターはシャッフルではなくロカビリー調なのだけど、軽快にスウィングせずにドタバタしたノリになるのがこの人の味。そしてT.Rexはたしかマーク・ボランの生前にはリリースされなかった曲。「T.Rex'mas」というフレーズも決まった楽しい曲です。
●タバタミツル(ZENI GEVA, ACID MOTHERS TEMPLE, LENINGRAD BLUES MACHINE、e.t.c...)
Caetano Veloso - In The Hot Sun Of A Christmas Day
実は今週の17日〆切りで「きよしこの夜」をソロで録音し、とあるポルトガルのネット・レーベルに送らなアカンのですが、まだ一音も録音していません! パニックなう! ホンマやったらそれを推したいところですが、まだ存在していないものを推す訳にはいきません(笑)。というワケで、「私の好きなクリスマス・ソング」はこれです。ブラジルは南半球で季節が逆ですから、こういうタイトルになったのでしょうね。ロンドン亡命中のアルバムの曲なので、望郷の念もあるのかもしれません。嗚呼、一度でいいから真夏のクリスマスを体験してみたい。サンタの格好でサーフィンしてやる。
●五十嵐慎太郎
James Brown - Funky Christmas(Album)
ワムや山下達郎等は今でも聞きますが、偉大なSOUL of GODの命日でもあるので上記のアルバムを選ばせてもらいました!
●鎌倉慎治
スチャダラパー - Santaful World
クリスマスと聞いて思い出すのはこの曲くらいです。この時期にちょっと聞きたくなって家の棚を探すけど、なかなか見つからないのが恒例で、持ってなかったということに毎年気づかされるのです。
●ひろぽん(某レーベル)
Mariah Carey - All I want for Christmas is You
「Last Christmas」と迷いました。直観的には大嫌いな類の音楽のはずなのに、実際にこの曲を聴くと年の瀬の実感が湧き、師走の中にも幼少のクリスマスの良き思い出と共に平穏と幸福感がナゼか訪れる。
●三田 格
レジデンツ - ダンボ、ザ・クラウン(フー・ラヴド・クリスマス)
これは初めて聴いた時から耳に入り込んで心臓に達してしまいました。レジデンツは「サンタ・ドッグ」を何回もレコーディングし直してるし、何かこだわりがあるとしか思えませんなー。「戦場のメリークリスマス」やシュガーキューブス「バースデイ(クリスマス・リミックス)」も好きですけど。
●西岡由美子(Americo)
飯島愛 - あの娘はハデ好き
聴くたびに泣いてしまう曲です。歌詞はご本人のペンによるもの。この曲が収録されたアルバム『なんてったって飯島愛』はクリスマスをテーマにしたファーストにしてラストアルバム。モータウン歌謡、ボッサ歌謡、モノローグ...愛さんの臆病さと果敢さが入り混じったヴォーカルがかっこいいです。
●world's end girlfriend (Virgin Babylon Records)
Bing Crosby & David Bowie - Peace on Earth / Little Drummer Boy
1977年、テレビのクリスマス特番でBing Crosby とDavid Bowieが共演し、あまりの評判の良さにシングル化されたもの。唯一無二の声を持つ二人の唄が絡み合う瞬間、互いの個性が打ち消し合うことなく奇跡的に共鳴し神聖な空気に充ちる。
●DJ YOGURT(UPSET REC)
Keith Richards - Run Rudolph Run
Chuck Berryのオリジナルよりキースのカバーの方が好き。PoguesのFairytale Of New Yorkとどちらを挙げるか迷ったけど、Poguesの方は誰かが挙げると思ったし、2011年はキースの読み応えたっぷりの自伝「LIFE」も出たことだし、でキースの78年リリースシングル曲をチョイス。マライアキャリー等が歌っているような典型的なXmas Songに漂う華やかさは嫌いじゃないけど、自宅でPoguesとKeith以外のXmas Songのレコードを聴くことはほとんど無いかも......
R.E.M. - Christmas Griping
今年、惜しまれつつも解散してしまったR.E.M.。僕の青春のバンドです......。実は毎年ファン・クラブ会員向けにクリスマスに彼らのお気に入りのクリスマス・ソングをプレゼントしていたのですが、1991年に初めてオリジナルのクリスマス・ソングを発表したのがこれ。ファンになった当初は、聴く術も無かったのですが、今では進みまくったNET文化のおかげで、過去の貴重な音源を聴くことも簡単に。『Out Of Time』と『Automatic For The People』のリリースの間の、超人気絶頂期だった当時のR.E.M.。そんな彼らが、メンバーの家族やマネージャーも参加させて、かなりリラックスして作りつつも、歌詞は彼ららしい皮肉の効いた楽曲です。
曲はこれ↓
●三船宏志(恵比寿リキッドルーム)
TICA - WONDERFUL CHRISTMAS TIME
JINTANA & EMERALDS - Last Christmas
ともに良いカヴァーです。
●シュンタロウ
Big Star - Jesus Christ
ギターフレーズが降らせる雪の中で、アレックス・チルトンが消え入りそうな声で「Jesus Christ was born today.」と歌う。たまんねーっす。アメリカの田舎でひっそりと過ごすクリスマスって感じです。
戸張大輔 - 無題6(ドラム)
日本の感受性豊かなニートのクリスマスです。大学生受けが良さそうです。
The Flaming Lips - Christmas at the Zoo
頭のおかしい奴の最高にハッピーなクリスマスっす。
「以下、ホワイ・シープの"クリスマス・ソング講座"」
David Sylvian & Ryuichi Sakamoto - Forbidden Colours
つまり「戦メリ」なんだけど、原曲もいいがやっぱりこっちのほうがいい。David Sylvianと教授は本当に良い組み合わせだと思う。この曲は真の意味でのコラボで上に乗せた歌の旋律は全部David Sylvianが作ってるわけで、この単純なコード進行の上にこれだけ豊穣な旋律を乗せていることを聴き取って。
The Three Wise Men (Aka XTC) - Thanks For Christmas
XTCってアンディー・パートリッジのことばっかり語られるけど言ってみれば彼はbeatlesにおけるジョン・レノンであって、旋律を作る才能はコリン・モールディングのほうが格段に上。つまりマッカートニー。
Band Aid - Do They Know Its Christmas
これによって「音楽って本当に世界を変えられるかも?」と思わせてくれた。今となっては音楽やってるどうかもわからない人も参加してるけど。ハイライトはBonoとStingのかけあいでしょうやっぱり。まだ覚えてるけど高校生のときに発売日に茅ヶ崎のレコード屋に開店前かけつけて買った。ちなみに12 inchにのみ収録されたいたExtend Mixは参加アーティストのインタヴューが収録されていて、参加してもいないのにDavid BowieとPaul McCartneyのコメントが入っていた。あいつら大御所すぎて当時は斜陽だったBob Geldofなんか相手にしてなかったんだろうな。後で後悔したことだろう。Bowieは天才に間違いないが偽善者だと思う。参加してないくせにあのコメントはない。
David Bowie - When The Wind Bolws
原爆アニメ映画「風が吹くとき」のタイトルトラック。どうしてクリスマス・ソングとして扱われているかというと、映画の原爆が爆発した日がクリスマスだから。プロデュースはピンク・フロイトのロジャー・ウォーターズ。クラシカルな曲調に声帯ブルブルのBowieのテノールがよく合ってる。311以降1ヵ月はずっとこの曲を聴いてました。映画もお勧め。自分と同じ庶民というのはどれだけ情報統制下にあるのかということを思い知らされる。
David Bowie and Bing Crosby - Little Drummer Boy - Peace On Earth
当時イケイケだったBowieが大御所Bingに対等に挑んでるところはすごいと思う。もともとテレビの企画でやったもので、寸劇の中でやったものが素晴らしい出来なのでレコードになったもの。フル・ヴァージョンはそのドラマセリフもついてます。近所に住んでるBowieがピアノの音が聞こえたというのでBingの家をいきなり訪問したという設定。会話も洒落てます。
John Lennon - Happy Christmas
たぶんこれが20世紀に作られたクリスマス・ソングではナンバーワンなんだろうな。早くこの詩が歌ってるような世界になりますように。それ以上は、この曲については語ることがないというより語りたくない。
Chris Rea - Driving Home For Christmas
名曲とまでは言えないけど、いいよねこういうホームランを狙わない謙虚さ。クリスマス休暇に合わせて家に車を飛ばす中年男の気持ちを歌ってる曲。PVもそれに合わせて作ってた。彼の中ではOn The Beachの次にヒットした曲じゃないかな。
Billy Joel - Nobody Knows But Me
彼の作ったたぶん唯一のクリスマス・ソング。クリスマスに関することは曲中一切言ってないけど。後もう1曲、「She's Right On Time」ってのがあるんだけどこっちはそこそこ。、『n Harmony 2』Iというクリスマス企画盤にのみ収録された曲です。レコードでしか出てないはず。持ってることが自慢。なぜいいかって? billyだから。
The Pogues - Fairytale Of New York
これもタイトルにはクリスマスはないけど詩の内容でクリスマスの情景とわかります。男声女声のかけあいがいい。Irishな感じもいい。
Paul McCartney - Wonderful Christmas Time
ジョン入れたらこれ入れないわけにはいかないよ。名曲であることは間違いない。ジョンと対照的に何の思想もないところがPaulらしくてかえっていいのかも。
Paul McCartney - All Stand Together
これもPaulらしさ全開。名曲とまでは言えないが、全編、オーケストラと動物の鳴き声だけというのはすごい!
The Beatles - Christmas Record (1963-1969)
Beatlesって公式のクリスマス・ソングはないと思うのだけど、これはBeatlesがファンクラブの為に毎年出していた限定レコード。曲というよりコント劇なんだけど、1968のヴァージョンの冒頭は「Christmas Time Is Here Again」という、「All Together Now」に似た曲を披露してます。どの年のか忘れたが皆でべろべろに酔っぱらって「Yesterday」のパロディーやってるのがハイライト!!!
佐野元春 - 聖なる夜に口笛吹いて-Christmas Time in Blue
佐野さん入れないわけにいかないでしょう。やはり元代理店だけあって、マーケッティングを考えすぎてるところは今考えると残念だけど曲は良い曲です。ジョン・レノンへのオマージュです。
山下達郎 - Christmas Eve
なんだかんだ言って、日本人の作った最高のクリスマス・ソングはこれだと思う。途中のコーラルのパートがなかったら違うかもだけど。そういう意味では日本人版のボヘミアン・ラプソディーだ。つまり誰にもカバーできないってこと。
ぷっちモニ - ぴったりしたいX'mas
つんく♂を侮ることなかれ。冒頭の「素敵な人出会いますように!」が「サンタが街にやってくる」の引用であることにどれだけの人が気づいただろう?そしてキャンディーズへのオマージュ。感動はしないが良くできた曲。モー娘はAKB48よりずっとおもしろかった。
ここからはスタンダード・トラック
Wynton Marsalis - O Come All Ye Faithful 神の御子は今宵しも
Wyntonはトランぺッターですが、これはピアノだけ。スタンダードだけど、この曲の一番好きなヴァージョン。一人でイヴを過ごす人はこれを聴いてください。
Little Drummer Boy - Silent Night
Auld Lang Syne /Jimi Hendrix-Silent Night
腐っても鯛。ラリっててもジミヘン!素面で弾いてるわきゃない!!!
Lauryn Hill - Little Drummer Boy
スタンダードのクリスマスソングを自己流に解釈しているという点においてこの曲はいままでで最高でした。時代は過ぎても色あせないアレンジ。そして歌唱法。
Stevie Wonder - Ave Maria (Someday At Christmas)
これは自己流の解釈というよりアフロ・アメリカンにどうしてもなってしまうんだろうけど、シューベルトが聴いたらどう思うんだろうか。僕は子供の頃から聞かされすぎて意味はまったくわからないのにラテン語でソラで歌えますが、スティーヴィーのこれを聴いたときはぶっ飛んだ。素直に負けを認めるしかない?
Eagles - Please Come Home For Christmas
これも名曲。ずっとEaglesのオリジナルと思ってたら違うらしいんだけど、ほとんどオリジナルみたいになっていて、再結成コンサートでイントロが流れた途端オーディエンスが狂喜していた。アメリカ大陸に渡ったクリスマス。切ない曲です。
Why Sheep? / Somewhere At Chrismas
最後に持説を。クリスマス・ソングというのは一人のアーティストが一生に一回だけ作っていいものなんだ。本当に優れたアーティストは2回ぐらいまではやっていいけど。つまりそれだけ満を持して、渾身の一作を作らないといけない。手前味噌でなんですが...自分がいままで作ったメロディーの中でもっとも美しいメロディーだったのでクリスマスソングにしました。Why Sheep?ならではのWorld Musicの果てにあるクリスマス・ソング。レヴィ=ストロースに捧ぐ。次のアルバムの収録予定だけど、クリスマスだけこれを読んでくれた人に限定公開します。
http://soundcloud.com/why-sheep/somewhere-at-christmas/s-r8jFf
(補足)
大切なことを言うのを忘れてました。
いいかい。君がもし敬虔なクリスチャンじゃなくて、恋人もいなくて、家族からも離れてて、クリスマスもイヴも一人っきりですごさなきゃいけないと しても、だからってファック・オフ・クリスマス! なんて思わないでほしいんだ。たとえば日本のバレンタイン・デーが製菓メーカーが都合よくでっちあげた イベントだって話がある。なるほどそうかもしれない。だけどそれがどうだっていうのさ? 便乗して金儲けしたいやつらには今のところはさせておけばいい。
日本のバレンタイン・デーは日本人みたいなシャイな連中がきっかけつけて愛を告白できる日じゃない。クリスマスも同じことなんだ。しかもクリスマ スは恋人限定じゃない! クリスチャンかどうかなんてことは関係ない。ジョンだって誰にも当てはまるように歌ってるじゃない。人間だから、どんなにがん ばっても許せない人がいてもおかしくない。それが人間ってもんだ。
だけど、1年のうち1日だけは全部許す日があってもいいじゃない。次の日からまた憎らしくなるとしてもきっと以前よりなにかが少し変わってるはずなんだ。
●Anchorsong
モグワイ - クリスマス・ステップス" (from "Come On Die Young")
クリスマスの華やかさと一切無縁の男臭さがいいかなと。
●YODA (HORIZON / SLYE RECORDS)
The Kinks - Father Christmas
クリスマスソングといえばパンクの嵐が吹き荒れてた1977年リリースのこの曲、もうすっかり大人になってしまったレイ・デイヴィスが若者にむけたクリスマス・ソング。でもちょっとひねってあるところがキンクスです。この曲はシングルのみの発売でB面のタイトルは『Prince Of The Punks』。
Furyo - Kayashi
そして1998年以降からずーっと12月1日から12月24日までの間でDJがある時にかけているのがこの曲。今はなきAdditiveというレーベルから、多分ドイツの人による戦メリのカバーです。Furyoというアーティスト名もKayashiという曲名もまったく意味不明だったのですが、調べたら映画『戦場のメリークリスマス』の英語タイトルがFuryoでした、これは俘虜ってことですね。なるほど。
●鷲巣功(静岡ロックンロール組合/首都圏河内音頭推進協議会議長/高校の先輩)
お前、なに今頃こんなことやってんだ。こういうのは10月校了、11月中の発売だぞ。その昔、バッドニューズから「ベスト100クリスマス・レコード」というのを出した事があった。内容はかなり自信があったけど、出来上がったのが12月20日頃で、当然売れなかった。売る期間がなかったのである。FMディレクター時代にも「わたしのトップ・テン」という番組でクリスマス盤の特集を企画した。パイド・パイパー・ハウスの紹介で杉本ユキコという人に来てもらって、奇盤、珍盤ほかを紹介した。確か一位が大瀧詠一の「クリスマス音頭」だったはず。この時、彼女に一緒についてきたのがまだ世に出る前の湯浅学だったと記憶している。
さて、わたしのは『チップマンクス クリスマス・チップマンクス』(東芝EMI TOCP-67281)だ。クリスマス物はノヴェルティ・レコード収集の第一段階だ。いろいろと思い出深い物がたくさんあるが、今日はこれにしておこう。この時期になると、シャイ・ライツの「ハヴ・ユーン・シーン・ハー」と「北風の中で」を聞きたくなる、という現象もなぜか起こる。さあ、もう2012年だ。
●二木 信
井上陽水 - お願いはひとつ
「ジキル、ハイドまでがクリスマスプレゼントを買う/野外音楽場の外で/子供達の歌う賛美歌にも賛美されない」 こんなシュールな歌詞を意味もわからず歌いまくってた小学生の頃から、クリスマスになると、この曲が頭の中をループしてウキウキします。この曲が入ってる『LION&PELICAN』は音も歌詞もかなりユニーク。宮沢賢治を皮肉る「ワカンナイ」も面白いし、沢田研二のために作った「背中まで45分」のセルフ・カヴァーなんて極上のアンビエント。カラオケ行きたくなってきた~。
●ママケーキ(静岡県)
K Foundation - K Cera Cera (War Is Over If You Want It)
エレキングと言えばKLFでしょう!イスラエルのレーベルからシングルが出てて中身はマッシュアップの合唱という謎盤。youtubeでしか聞いたことない
Captain Sensible - One Christmas Catalogue
ニューウェーブの可愛らしいクリスマスソングだけどビデオ見たら意味深だった。ポーグスももちろん好きですが。一昨年くらいにバンプオブ某というバンドが丸パクリしててその元曲とかけ離れたキレイ事っぷりに心底腹が立ちました。
●Photodisco
Darlene Love - All Alone On Christmas
映画『ホーム・アローン2』挿入曲。子供の頃、映画『ホーム・アローン2』を観て知り、毎年この季節になると聴いているクリスマス・ソングです。バブルが愛おしいです。
●田鹿 健太( リトルテンポ、GOMA & The Jungle Rhythm Section )
Omara Portuondo & Chucho Valdes"OMARA & CHUCHO"
今年10月、僕が18年間お供しているラテン歌手、よしろう広石の歌手生活55周年記念コンサートがあった。その時のスペシャルゲストが、ブエナビスタソシアルクラブのディーバ、オマーラポルトゥオンド。この日のためにキューバから駆けつけてくれた。
僕は幸運にも、彼女とは三度目の共演。いつも自由かつグルーヴィ。とてつもなくおおらかでありながら、オチャメで乙女な彼女にいつも感動させられる。この日も、ステージを観たみんなを虜にしたに違いない。
そんな彼女の歌が堪能できる、僕が一番好きなアルバムがこれ。イラケレのリーダー、チューチョのピアノと二人きりで録音されたこの作品。喜び、怒り、哀しみ、出逢い、別れ......。彼女の生きざまがのりうつったかの様な歌を、ぜひ聴いてください!
●松村正人
Roland Kirk - Christmas Song
このメル・トーメのカヴァー曲は晩年期だけあって、往年のこってりした感じと較べると精彩を欠くが、カークらしい茶目っ気は健在である。二歳で 盲目になって、この二年前に脳溢血よる半身不随から復活した。私はこの時期どうしてもローランド・カークを聴きたくなるのは、その生命力に鼓舞され、たん に黒人音楽としかいいようのない昂揚感が南国うまれには寒すぎる冬をあたたかくするからかも。カークはどれもクリスマスにぴったりだと思うんですけど ねー。
GOING STEADY - 銀河鉄道の夜
彼らにとってのクリスマス・ソングと言えば、『ボーイズ・オン・ザ・ラン』的な敗者のロマンティシズムがむせ返るほど充満している「惑星基地ベオ ウルフ」がそれに当たりますが、でも今回はこちらをセレクト。銀杏BOYZのスロウなヴァージョンも、続編となる「第二章~ジョバンニに伝えよここにいる よと」もすごくいいんですけれども、GOING STEADY時代のこちらのヴァージョンは、コーラス部分で松任谷由実の「守ってあげたい」のメロディをモロになぞっていて、ぐっときます。特にクリスマ スについて歌っているわけではありませんが、間奏のギター・ソロはかのバッハの「主よ、人の望みの喜びよ」からの引用だったりしますし、(僕はクリスチャ ンという訳ではないですけれども)便乗して、この曲を聴きながら誰かに想いを馳せるというのも悪くないんじゃないかなと思います。あとは仕事帰りに売れ残 りのケーキとビールでも買えれば御の字です。
●沢井陽子
The Music Tapes Covered Louis Armstrong - Is Zat You Santa Claus」
Natalia paruz - HARK! An angel sings
John zorn -ツ黴 Dreamers Christmas
クリスマスソングは、このあいだのミュージック・テープスのキャロリングで、最後にプレイしていた、面白いサンタ・ソングがあり、それが好きだっ たので、曲名を聞くと、「Is Zat You Santa Claus?」。ルイ・アームストロングのバージョンに影響を受けたらしい。
アメリカにいると、日本ではあまり知らない、本場(?)のクリスマス・ソングがたくさん聞けて楽しい。先日、アザーミュージックというレコード店 に行って、店員に「クリスマス・ソングでオススメある?」と訊いたら、うーん、としばらく考えた後、「シンギングソウでクリスマス・ソングをプレイしてい る素敵なアルバムがあるよ」と言われたので、「もしかしてこのあいだ見た、ミュージック・テープス?」と期待したら、ナタリア・パルズという女の人だっ た。「このクリスマスアルバムは、ほとんどが誰でも知ってるクリスマス・ソングをカバーしている、僕が好きなのは1、2、3番目と......彼女はすごいよ」と 熱っぽく説明してくれた。
今年出たクリスマス関連リリースは、アザーミュージックではジョン・ゾーンの7インチしか見つからなかった。定番だしもうネタがないのかな......。クリスマスだからって、クリスマス・アルバムを出す時代が終わったのかな。
●YYOKKE / ODA / NITES / TSKKA (CUZ ME PAIN)
Nite Jewel - All I Want For Christmas Is You
NITE JEWEL、まさかのマライアをカバー。2010年の暮れには誰もが予想してなかったと思われるこのギャップ感は心踊ります。7インチのみ収録というところが特別感があって更に良いですね。
●NHK'KOYXEN (SKAM/RASTER-NOTON/PAN)
Martin Neukom - Studie 18.9 - (Domizil 2007/2008)
好きなクリスマスソングとか、わからなかったですが......。
●木津 毅
The Flaming Lips - White Christmas
以前年下の女の子に「何歳までサンタクロースを信じてました?」と聞かれたとき、「いまでも信じてるよ!」と元気良く答えたら「ああー」と気の毒そうな顔をされたことがありますが、恰幅のいいヒゲのおじさんが愛を届けにやって来る......と信じたいのは本当です。
そういうわけでクリスマスに(サンタに)オブセッションがある僕は大抵のクリスマス・ソングは好きなのですが、それはザ・フレーミング・リップスの影響かもしれません。彼らほどクリスマスを繰り返しモチーフにしているバンドもいないと思うのですが、それは「サンタクロースを信じる心」と彼らのサイケデリアの哲学がよく似ているからでしょう。彼らならではの頭のネジが数本吹っ飛んだような"ホワイト・クリスマス"はライヴでよく披露されますが、ヘロヘロで感傷的で優しく、あまりにドリーミーで泣きたくなります。フロントマンのウェイン・コインが中心に作った自主制作映画『クリスマス・オン・マーズ』もすごくて、前半はほとんど悪夢のようなバッド・トリップのイメージの連続。でも、そこにこそサンタクロースはやって来るんです! エイリアンですが。
今年も僕はサンタクロースを待つことにします。良いクリスマスを!
●宍戸麻美(Qetic)
戸川純 - 降誕節(84年Yenレーベルコンピ「We Wish You A Merry Christmas」より)
クリスマス・ソングというテーマに意外と苦戦......ということでカバーーソングで考えてみました。正直、John Zorn クリスマスコンピにあるマイク・パットンが唄う"The Christmas Song"と迷ったのですが、やはりここは女性脳で考えて戸川純さんの"降誕節"かなと! クリスマス賛美歌の"荒野の果てに"をカバーしているのですが、イノセントワールド全開な戸川さんの少女声(ボーカル)と途中にはいってくる打ち込みのリズムが単なる賛美歌カバーとは思えない。病みつきになる1曲です!
●金沢俊吾
Vaughn Monroe - Let it snow
ロマンチックで甘く切ないクリスマスのイメージが築かれるのに、クリスマスソングは大きな役割を果たして来た。その中でも、元祖のひとつであり数多くのヴァージョンが存在する"Let it snow"だが、リリックに直接「クリスマス」といったワードは出てくることはない。描かれているのは、雪の降る夜に暖炉を挟んだ男女の甘い駆け引き、それのみだ。
だが、これは僕に取ってクリスマスソング以外の何ものでもない。なぜなら、そのメロディとブラス、そして軽やかと物鬱げの境界線に立ったボーカルが、「ロマンチックで、甘く切ない」クリスマスのイメージを、そっくりそのまま映しているからだ。映画『ダイ・ハード』でパーティーのシーンにこの曲が使われるのも、季節がクリスマスなのだと誰もが一瞬で感じ取ることが出来るからに他ならない。「クリスマス」というリリックや、ベルサウンドなんか無くても、この曲はどんなクリスマスソングよりも強く、僕の脳内にクリスマスのイメージを流し込んでくる。
●野中モモ(Lilmag)
Sparks - Thank God It's Not Christmas
Pet Shop Boys - It doesn't often snow at Christmas
「ポピュラーな日、ポピュラーなやりかた
それは選ばれし者のためのもの
僕や君のためじゃない あきらかにね」(Thank God It's Not Christmas)
35年以上前の曲ですが現在も古びずロマンティックですね!
「クリスマスのメッセージなんてとっくの昔に消え去った
いまじゃショッピングと何がいくらするかの話ばかり
善意もあるけど作り物のお楽しみ、
クリスマス・ナンバーワンがどの曲か
クリスマスに雪なんて滅多に降りゃしない
本来そうあるべきなのに
でも僕はクリスマスに胸が熱くなるのさ
だって君といっしょだから」(It doesn't often snow at Christmas)
イギリスではクリスマスの週のヒット・チャートが、言ってみれば日本における紅白歌合戦のように大きな注目を集めます。賭けの対象になったりして。2000年代半ばからテレビのオーディション番組の優勝者がクリスマス・ナンバーワンを攫う年が続きました。これを阻止すべくレイジ・アゲインスト・ザ・マシーンがSNSを利用したキャンペーンを張り、2009年に見事"Killing in the Name"をナンバーワンに送り込んだのを記憶しているかたもいらっしゃるのでは。あの年、ペット・ショップ・ボーイズもクリスマスEPをリリースしていたのでした。失われたクリスマスの意義、失われたブリティッシュ・ポップの輝き、でもほらこうして生きているじゃない。残念ながら40位という結果に終わってしまいましたが、俗で安っぽくて貴くて私は大好きです。
ベンジャミン・ブリテン作曲『キャロルの祭典』より"ゼア・イズ・ノー・ローズ(There is no rose)"
名演をユーチューブで見つけることができませんでしたが、この曲については少年少女による演奏が好ましいというのが私見です。声変わりする前に歌いたかったクリスマス・ソング。けれどTranseamus/Alleluia/Resmiranda/Pares forma/Gaudeamus/Transeamusというラストのくだりなどは、もし今やるならジェイムス・ブレイク以上に似つかわしいアーティストはいないでしょう! ぜひこの曲にビートを入れてほしいです。
●渡辺健吾
鈴木さえ子 - I Wish It Could Be Christmas Everyday
キリストより1日早く生まれたけど、まぁガキの頃からそのおかげでクリスマスなんてめんどくせぇ! とかしか思えなかった。だから、クリスマス・ソングなんてものも、煩いだけであった。唯一好きで繰り返し聴いたのは、鈴木さえ子のデビュー盤『毎日がクリスマスだったら...』(83)のタイトル曲、「I Wish It Could Be Christmas Everyday」。デビュー当時の鈴木さえ子は素人っぽいキュートな声と宝石箱のなかで遊んでるようなキラキラしたサウンド(当時の夫、鈴木慶一との共作)の融合がとってもフレッシュでファンタスティックだった。アルバム全体を通して偏執的な凝った音作りとポップさのバランスがすばらしいんだけど、少し強迫的なリズムで次々表情変えながらもリリカルさを失わないこの曲は、特にサイコーなんである。去年のクリスマスに、ご本人が「クリスマスの日には世界の戦争も休止するのです。私なりの反戦歌なのです」とツイッターでつぶやいていて、かつて子供なりにこの不思議な歌詞の世界には何が隠されてるんだろうなんて思ってたわけだけど、そういう背景だったのかとかなりびっくり。同時に、リリースからこんなに時間がたってるのに、アーティスト本人からこんな裏話を聞けるなんてインターネットすげぇ! なんて無邪気に喜んでしまいました。
山下達郎 - クリスマス・イブ
メロディが好きですね。
色々考えましたがこれが一番です。
●Lil MERCY (PAYBACK BOYS / Los Primos)
CRACKS BROTHERS - BAD SANTA (cracks christmas)
今年の冬はこの曲をもらってから、ずっと聴いてました。あとは知らないってこと。CRACKS "MF" メリークリスマス SHIT。
●安孫子真哉(銀杏BOYZ)
浜田雅功と槇原敬之 - チキンライス
しんしんと雪が降り積もる東北のクリスマス。古い木造の一軒家。
不似合いなクリスマスケーキに照り焼きチキン。ブラウン管からドリフ大爆笑。
家族と静かに過ごす。サンタさんに欲しいおもちゃなんか書いた手紙に十円玉をのせて布団に入る。
翌朝、目が覚めるとそこにはおもちゃは無く、赤と白の靴下の形をした箱にお菓子が入ってる。
子供の頃のクリスマスは大体いつもそんな感じ。
相変わらず大人になってもクリスマスは出来るだけ街の喧騒には入らず家で静かに過ごしたい。
そんな時頭の中でふと再生されるBGM。
●チン中村(銀杏BOYZ)
the ピーズ - クリスマス
最初に浮かんだのがこの曲でした。
「終電 線路にヒトが落ちる」からはじまるこの曲が僕にとっては
東京のクリスマスにしっくりきます。
なんかギリギリで、やさしいです。
●ハヤカワ(KIRIHITO、高品格、Jajouka)
ARB - ブラッククリスマス
高円寺のレンタルビデオ屋で"さらば相棒"借りて観ようかな...。
●DJ END(B-Lines Delight/Dutty Dub Rockz)
RSD - SNOWMAN
クリスマス・ソングを意識する粋な習慣は全くなく悩んだあげく、Bass的にコレを(ソングじゃなくてすいません)。昨年冬にRSD師がおすそ分けしてくれたクリスマス・スペシャル・ダブ! 今年はプレイ出来そうにないですが、いつかこんなトラックをカッコよくプレイしてみたいもんです。
●山田蓉子
Zooey Deschanel and Leon Redbone - Baby It's Cold Outside
大好きなおバカ・クリスマス・ムービー「エルフ-サンタの国からやってきた」の中でズーイー・デシャネルがシャワー・ルームで歌っているところに、歌につられて侵入してきたウィル・フェレルが歌をかぶせてきてズーイーちゃんに「出て行けスケベ!」と怒られるシーンで使われてました。ウィル・フェレル作品にしては心温まるヌルいラストは別にして、なかなか笑えるし、ズーイーはかわいいし、「サウンド・オブ・ミュージック」と対極をなす私のお気に入りのクリスマス・ムービーです。サントラではレオン・レッドボーンとの渋さ倍増デュエットで収録されてます。
●Alex from Tokyo (Tokyo Black Star, NYC)
Coati Mundi - No more X'mas blues (Rong music)
NYCの伝説バンドKid Creole and the CoconutsのCoati Mundiによる「今年こそはサンタを捕まえていいX'masを迎えるぞう!」的なお笑いクリスマス・ディスコ・ソングです! 2009年のX'masにリリースされてから毎年プレイしている大好きなヒューモラスなパーティX'mas ディスコです。
●Eccy(Slye Records / Milk It)
Jun Kawabata - Equinox
友達が5年前くらいにユニオンでなんとなく買ったこのCD、アーティストの情報も全く分からないし、音も激悪いんですが、個人的な思い出がつまってる曲です。
●YOHEY
Mark Mothersbaugh - Joyeux Mutato
毎年必ず聴いている1枚です。大好きなクリスマス・ソングは他にもたくさんありますが、音色に関してはこのアルバムが一番理想のクリスマス!
数年前までは新幹線も停まらず空港も無かったこの地はかつて「陸の孤島」と呼ばれていた。人口約10万人。夏は酷暑、冬はブリザードという過酷な環境。そんな山形県鶴岡市出身のHaruka。さぞかし血の滲むような努力や人並み以上の気合いの入った青年かと思っていたが「DJを続けることに何のためらいを感じたことはいちどもない。PARTYこそが僕にとっての作品であり、生き方そのもの。たとえお客さんがひとりでも僕はPLAYを止めようとしたことはない」と、あくまで自分の人生のなかでは自然なことだと言う。
DJ NOBU氏率いる〈フューチャー・テラー〉に若くして向い入れられ、ヒロイズムを極度に嫌う東北の男が3.11以降のいまの心境と自身の展望と未来を語る。
photo : Yasuhiro Ohara
平野なんで、吹雪がものすごいんですよ。ブリザード地帯で、そこに人が住んでるのは日本でも鶴岡だけだそうです。平野の道路にブラインドみたいなのが設置してあって、冬になるとそれを閉じて吹雪避けにする。冬はSFです。
■俺がハルカにいちばん聞きたいことっていうのはさ、山形に初めて行ったとき、東北全県をまたぐダンス・ミュージックのコミュニティがあって、かつ、俺の親父の出身地でもある鶴岡という娯楽の少ない僻地に〈ハーモニー〉というハコがあったことが驚きなわけ。俺も店を作った経験があるからわかるけど、ハコが出来るまでは並大抵ではなかったはずなんだ。そこに至るエピソードを教えて。
HARUKA:僕が面白い音楽を好きになりはじめた中学生ぐらいのときから、〈エディット〉っていう名前でハコはあったんですよ。そのときは経営者も内装もいまとは違ってテクノ箱だったんですよ。中3のときに初めて遊びに行って......。
■中3のときに(笑)!?
HARUKA:はい。3年ぐらいのスパンで運営と、名前と内装も変わりながら、同じ場所にあって、空いたところに、ガラージ好きの先輩、DJサトシさんがはじめたのが〈ハーモニー〉ですね。
■ラリー・レヴァンとロン・ハーディの写真が壁に貼ってあったよね。
HARUKA:ありましたね......。コンビニで拡大コピーしたようなザラザラのやつ。ガムテープで貼ってあった。
■俺は行った瞬間感動した。昔の鶴岡を知ってるから、こんなところにもラリー・レヴァンやロン・ハーディを崇拝する人間がいたんだっていうことに。
HARUKA:それはやっぱりアツシさんの影響が大きいと思います。
■鶴岡ってどういう街なんですか? イメージっていうか......
HARUKA:日本海の海沿いの街なんですけど、ちょうど新潟と秋田の中間ぐらいにあって、新幹線は通ってなくて、幹線道路が一本通ってて、あとは田んぼ。平野なんですけど。
■いまでこそ内陸には新幹線の山形駅もあるけど、昔は山形駅も庄内空港もなかったからね。
HARUKA:いまでも帰るのは面倒臭いですね。距離の割にけっこうお金と時間がかかるから。
■今年の1月に〈ハーモニー〉はクローズしたんだけど、クロージング・パーティでトオルさんが鶴岡に呼ばれて、感動したのが、オープン前からお客さんが来てて、話を聞くと、青森から雪道の中を3時間以上かけて来ましたとか、新潟から2時間かけて来ましたっていう人が、全体のお客さんの数は何十人っていう単位だけど、オープン前からラストまでそのほとんどみんな残ってたじゃない。そういうお客さんをみんなで育てたの?
HARUKA:いえ、誰にもそういう意識はなかったと思います。鶴岡では他に行くところもないっていうのもあったかもしれないけど、自然にハコ残る人は残ってくれてるし、少なくとも僕自身は教育みたいな気持ちを持ったことはないですね。
■やりたいことをやってたら自然に仲間が集まった。素晴らしいね。
HARUKA:そうですね。ありがたいですね。
■俺はいま東京に6年ぐらいいるんだけど、東京は娯楽やパーティの多さでは恵まれてるから、パーティの掛け持ちをするお客さんもすごく多い。そんななかで、オープニングからラストまでパーティを楽しむ姿勢に胸をうたれちゃって。
HARUKA:遊び方が違うと思います。パーティがはじまっちゃえば一緒だけど、その日に懸ける感じが違いますよね。基本、ヒップホップとかレゲエのパーティのほうがお客さんも集まるし、そういうパーティのほうが多いんですけど、月1回ぐらいはダンス・ミュージックの日があって、その日しか楽しめないっていうのもあって、ものすごく楽しみに来てくれる人たちが多いです。
■DJとしてもクラブ関係者としてもお客さんの姿に感銘をうけた。パーティをつくる身としてはすごく嬉しい。オープニングからラストまで、作る側としてはその日1日の流れを考えるわけじゃない。でもなかなか成立しない。オープニングのDJが軽んじて見られたり、ラストのDJが最後まで聴いてもらえなかったりっていうさ。逆に言うと、あれだけ気合入ったお客さん相手だとやってても面白いんじゃない?
HARUKA:そうですね。やりがいはありましたね。平日水曜日に毎週やってた時期があって、ひとりとかふたりしか来ない日もあったけど、やっぱりすごい熱心なんですよ、お客さんが。そんなにダンス・ミュージックに詳しいわけじゃない、ガソリンスタンドでバイトしてる茶髪の姉ちゃんなんだけど、ベロベロに酔っ払ってずーっと踊っててくれて。たぶんかかってるのが何かとかそんなに気にしてないんだけど、よし、こっちも頑張ってやるか、みたいな。
■あるべき姿だね。なんで俺がハルカを贔屓してるかっていうとさ、そういうのが全部ハルカのパーティに反映されてるんだよ。そういうのを〈ハーモニー〉のクロージング・パーティで見て感銘を受けて、どういう過程でそこまで〈ハーモニー〉が到達したかが気になるんだよ。
HARUKA:(笑)。やっぱりお客さんの増減はすごいあったし......。17歳のときに歳をごまかして初めてパーティやったんですけど、街にあったニ軒のCD屋にポスターを貼っただけで120人ぐらいお客さんが来て。
■おぉ~、すげぇ。
HARUKA:その頃は何やってもお客さんが集まる時代で、毎回100~200人ぐらい集まってました。
■それって何年ぐらい前?
HARUKA:10年ぐらい前、2001年とかそれぐらいですね。東京とかほかの街がその頃どうだったかは知りませんけど、いまより軽い気持ちでパーティやってました。
■いや、俺の経験上わかるけど、10万人都市で120人集めたらもうニュースでしょ。
HARUKA:なんかもうふつうになってましたね。ほかのパーティもそのぐらい入るし、別に珍しいことじゃないっていうか。
■やっぱり山形県内の人が多いの?
HARUKA:そうですね......。自分も学生から上がってすぐで、友だち集めやすかったっていうのもあると思うんですけど。そのあとケンセイさんとヒラグリさんにやってもらったのが8年前ぐらい。そのときも150人ぐらい来て、その頃ですね、いちばんお客さんが来てたのは。で、〈ハーモニー〉になって1回ガクッと減って、ほんともう5~6人の身内だけでやってく時期が続いてくなかで、ノブさんとかトオルさんが来てくれて、ちょっとずつ楽しくなってきました。
■俺が〈ハーモニー〉に行っていちばん最初に目についたのが、ポスターもそうなんだけど、床のコンパネなのよ。設備にお金はかけられないけど、どうしても音を良くしたいっていう探求があったと思うのね。コンパネを敷いて打ち付けたことで、低音がすごい良い感じに伝わって。俺はコンパネのアイディアそのものに感銘をうけたのよ。あのアイディアはみんなで考えるの?
HARUKA:そうですね......盛岡に〈DJ BAR DAI〉があって、あそこは床が木なんですけど、踊ってる時の感じが好きで「僕らも木にしましょうよ」って酔っ払ったときに話してたりしてて、大工さんの友だちがいるから教えてもらおうみたいな。
■自分たちで作ったんでしょ? なければ作るっていう感じだよね。それが俺すごい感動しちゃって。
HARUKA:完全に素人の......というか、別に音響がどうのこうのじゃなくて、ただ木の床が羨ましいからやってみるぐらいの感じだったと思うんですけど......。
■結果オーライだったんだ。
HARUKA:はい。結果ほんとに音も良くなったし、あれで変わりましたね。冬超寒いんですよあそこ。なんで、木にしてからちょっと暖かくもなったんで、それも良かったなって。
■クロージング・パーティのとき爆笑だったもんな。吹雪だったもんな外出たら(笑)。乗ってた電車止まっちゃったし。
HARUKA:〈ハーモニー〉にはもうたどりつけないのかみたいな......(笑)。このまま五十嵐さんと温泉にでも泊まって......。
■ハハハハハ!! ちなみに雪がたくさん降る時期っていつぐらいですか?
HARUKA:やっぱりいちばんきついのは1月~2月ですね。12月とか3月も降るんですけど、ほんとにもっこり積もって閉ざされちゃう感じは1月~2月ですね。
■もうメートルぐらいの感じ?
HARUKA:そうですね。あと平野なんで、吹雪がものすごいんですよ。ブリザード地帯で、そこに人が住んでるのは日本でも鶴岡だけだそうです。平野の道路にブラインドみたいなのが設置してあって、冬になるとそれを閉じて吹雪避けにする。冬はSFです。
■俺は鶴岡の冬を知ってるからさ。だからこんなとこでクラブやって、実際に成り立ってお客さんが来るっていう時点でびっくりだったのよ。
HARUKA:実際ギリギリでしたけどね。冬はやっぱお客さん減りますし。トオルさんのときはクロージングっていうのでみんな集まってくれましたけど。
■1月~2月はやっぱり厳しいんだ。
HARUKA:客足は減ってましたね。
■実際、山形って来るのにも大変だけど出るのにも大変じゃない。東京だったら、「あのDJ見たい」って思ったら見れたり、技やレコードも盗めたり、どういうことやってるかわかったりするけど、鶴岡にいるときはどうやって情報収集してたの?
HARUKA:遊びに行ってました。仙台とか岩手とか。
■(笑)。ちなみに仙台と盛岡は車でどのぐらい?
HARUKA:仙台までだったら2~3時間、盛岡だったら早ければ4~5時間。
■うわぁ......。どれぐらいのペースでいってたの?
HARUKA:多いときは週いちぐらいでいってましたね。
■マジで? ハハハハハ!!
HARUKA:仙台に住んでた時期もあって。先輩がDJバーはじめたりしてて、そこでDJやったりもしてたんで。
■ 東京からなら4時間かければ静岡県の浜松まで行けるね。下手すると名古屋まで行けちゃうよ。
HARUKA:あとETCが1000円になったんで、それでものすごい拍車がかかって、もう東京も普通に行っちゃうみたいな感じになって。
■ハハハハハ!! イヤッホー! それ行けぇ~だ。
HARUKA:これで安く好きなところに遊びにいけると。
■ちなみに東京までどれぐらいですか?
HARUKA:距離で言えば350kmぐらいで、高速まるまる使えば6時間ぐらいですかね。
■6時間かぁ......、すごいな。熱意がすごいよね。
HARUKA:行き帰りも音楽聴けるじゃないですか。それが楽しくてしょうがなかった。
■遊びの行き帰りは楽しいもんね。
HARUKA:そうですね。温泉寄ったり、名物みたいなの食べたり。
■楽しんでるね、旅を。
HARUKA:いま群馬に住んでるニッシー君っていうDJとほんとによくいろいろ行ってましたね。
■ニッシーも最高だよね。あいつのバイブスもかなり好き。
HARUKA:ジプシーですからね。工場で働いてて、いろんなところを転々としてて、宮城が地元で山形に半年住んでたこともあった。いま群馬に落ち着いてるんですけど。一緒に〈フューチャー・テラー〉行ったりしてて。
■レコードとかは通販?
HARUKA:通販ですね。リサイクルショップ行ったりもしましたが、ほとんどはネットで。
■そういう大都市との情報の差みたいなのは......。
HARUKA:あったんでしょうけど、そんなに感じてなかったですね。
■みんなまず楽しむことを優先してるもんね。
HARUKA:そうですね。
■情報合戦じゃなかったもんね、行ったとき。
HARUKA:そういうのはまったくないですね。
■嬉しかったのがさ、俺がハルカと知りあったとき、もう〈フューチャー・テラー〉でノブくんと一緒ににやってくっていう時期だったから、こう、イメージでノブくんを語るのも失礼なんだけど、ガチガチのディープなテクノのところパーティなのかなぁと思ってたんだけど、俺がAHBの、Tenちゃんがヴォーカルの「In The Sky」をかけたらさ、みんなわぁーっとなって、泣いてくれたじゃん。みんなの好きな音楽が多岐にわたってて、情報合戦がなくて、パーティを楽しんでることにものすごい胸をうたれたの。あれはもう素養としてあるわけ?
HARUKA:どうなんですかね。ちょっとした技術や手法とか提唱するスタイルとか、そういう次元じゃなく良いDJを求めてたっていう感じはします。
■そんな感じはした。
HARUKA:いろんなDJを鶴岡に呼んだけど、結局何回も来てくれるのはトオルさんとノブさんのふたりだけ。
■ありがとうと言ったほうがいいのかな? 立場上......。
一同:ハハハハハ!!
HARUKA:長谷川ケンジさんなんかも......
■来てたねケンちゃんも。そっか......
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〈フューチャー・テラー〉は11月26日、恵比寿リキッドルームで10周年を祝う!
photo : Yasuhiro Ohara
〈フューチャー・テラー〉はもうすごすぎて。表現してることもお客さんの規模も、あらゆる意味でレヴェルが違ってて、こんなところがあるんだなって思いました。悔しいとかも思わなかったですね、違いすぎて。ただ圧倒されて、ポカンとして帰ってくるみたいな......。
■ここまでは俺、1月の〈ハーモニー〉が終わった時点で書きたかったのよ。みんなに訴えたかったの。素晴らしかったからさ、〈ハーモニー〉のお客さんもDJもスタッフも。で、記事まで書いたんだよ。そしたら地震来ちゃった。あれでもう、ひっくり返ったよなぁ、すべてが!
HARUKA:ひっくり返りましたね。それどころじゃなくなりましたよね。
■俺は静岡・東京の人間なんだけど、東北のほうの被害は甚大だったし、津波もあったし、福島の原発もあったし、青森には相変わらず六ケ所村があるし。〈ハーモニー〉のコミュニティには仙台とか盛岡とか他県の人もいっぱい来てたわけじゃん。正直どう思った?
HARUKA:山形、秋田は今回の震源とは反対側だったんで、かなり被害が軽かったんですよ。7月に仙台にDJしに行ったとき、仙台時代の友だちがドライヴに連れてってくれて、津波の痕とか見たんですけど、やっぱりほんとの辛さは、実際に家を流されたような当事者じゃないとわかんないと思う。それはほんとに思いましたね。もう見てることしかできなかったんで。
■地震の被害は大きかったよな。ハルカ自身はそのころもう関東に来てたわけじゃない。どう感じた?
HARUKA:これは大変なことになったなと。で、原発のことが問題になって意識はまた変わりましたけど。
■DJとして与えられるものとか、社会貢献とか、そのとき考えた? 俺はすごい迷ったのよ。もしかしてDJって不要なんじゃないかとまで思った。
HARUKA:地震の直後は音楽聴かなくなってたんですけど、DOMMUNEのラリー・ハードがすごく良かったです。路頭に迷った人に豚汁を渡すような、炊き出しみたいなDJだったと思いました。みんなが困ってる状況でああいう表現ができればDJとして最高だなとは思います。
■"炊き出し"っていう表現は新しいな。でもそうだよなぁ。
HARUKA:節電だかなんだかで、真っ暗な部屋でパソコンの明かりだけで観てました。あんまり僕は具体的なメッセージを言いたいと思ったことなくて、週末のお楽しみを提供できればそれが良いパーティ/良いDJだと思うから、そこは一貫してやっていきたいです。
■パーティ全体がメッセージってことでしょ。みんなで楽しむっていう。それは〈ハーモニー〉時代から感じたけど。
HARUKA:具体的なメッセージは言いたくない。
■そこに俺は胸をうたれた。曲のタイトルや歌詞の意味も大切だけど、みんなで集まってワイワイ楽しんでっていう、クラブに本来あった温かさが〈ハーモニー〉にはすごいあって。むしろ東京の人に見せたいと思っちゃった。
HARUKA:こっちがメッセージを発するんじゃなくて、ひとりひとりの内面で何かが変われば、それがいいパーティだと思います。
■逆に東京は遊びが多すぎて、そういうのが希薄になってるのかも。集まるパワーが〈ハーモニー〉はちょっと違ってたもん。
HARUKA:鶴岡は最小限なんで。クラブもひとつだけ、楽しい日テクノやハウスの日も月1回だけ。そのぶんの思い入れだと思いますね。
■1回のパーティの価値が高いんだね。
HARUKA:そうですね。半端なものだったらやらなくてもいいってなるし
■そんななかで〈ハーモニー〉が名前変わったけど同じ場所で復活したじゃない。で、ハルカのパーティ〈FINGER IN IT〉もノブ君を招いて復活したんでしょ? どうだった? 俺すごい行きたかったんだけど。
HARUKA:スピーカーも変わって印象ちょっと変わったんですけど、お客さんもすごい来てくれたし、安心しました。
■ 状況が違うのは、〈ハーモニー〉を作っていく過程ではハルカは地元にいたじゃない。で、新しい店ができたときはハルカは地元にいないわけじゃない。7月に初めて行ったでしょ。どう思った?
HARUKA:みんな頑張ってやっててすごいなー、みたいな......(笑)。
■(笑)定期的には帰るつもりなの?
HARUKA:まぁ誘われればって感じですね。
■ ハルカ自身が全国区になっちゃったもんな。
HARUKA:タイミングあえば帰りたいんですけどね。ゆっくりもしたいし。
■みんなだいぶ活躍を喜んでくれてるんじゃない?
HARUKA:すごい喜んでくれてるみたいで。照れますねなんか。そんなんじゃないんだけど、みたいな。
■ いやぁ、勇気与えてると思うけどね。
HARUKA:最近出た〈フューチャー・テラー〉のTシャツをお客さんや仲間が10人ぐらい着てて、ネット繋いでない友だちから欲しい人募って、パソコン持ってる人がまとめて注文したっていう話を聞いて。
■街頭テレビみたいだね。限りある情報をシェアする気持ちなわけでしょ。
HARUKA:ありがたいですね。照れちゃいますね。
■おかげでDJが増えたとかそういうことはないの? 「DJを教えてください!」とか、そういう手応えはまだないの?
HARUKA:それはないですけど...。あ、でもノブくんと会って、〈フューチャー・テラー〉に入るいきさつみたいなのは思い出せます。
■教えてよ。
HARUKA:最初、オーガナイザーの女の子がノブさんとタカアキさん(BUSHMIND)をブッキングして、ハルカくんも出演してよってなって、そのとき初めていっしょにやったんです。ノブさんすごいプレイが良くて、鶴岡のことを気に入ってくれて「また来てください」ってなって。そうこうしてるうちに僕は藤沢に引っ越したんです。2009~2010年を跨ぐときに引っ越したんですけど、その年の大晦日の〈フューチャー・テラー〉で僕がやって、で、終わってからノブさんに呼ばれて「今日からフューチャーテラーを一緒にやっていこう」と誘ってもらいました。
■どう思った?
HARUKA:なんかもう嬉しすぎてどうしようみたいな(笑)。入るとか入らないとかっていうもんだとも思ってなかったんでびっくりしました。〈フューチャー・テラー〉の歴史もそんなに知らなかったし、遊びに行ったのも2、3回だったし。まぁノブさんは知ってたし、知り合いもいたから千葉がどんなところかはなんとなく知ってましたけど。
■ノブくんから、なんでそういうふうに誘う気持ちになったか聞いたの?
HARUKA:いや、聞けなかったです。
■千葉でやってる〈フューチャー・テラー〉には、鶴岡にいるときから行ってたの?
HARUKA:はい。
■初めて行ったときどう思った?
HARUKA:もうすごすぎて。表現してることもお客さんの規模も、あらゆる意味でレヴェルが違ってて、こんなところがあるんだなって思いました。悔しいとかも思わなかったですね、違いすぎて。ただ圧倒されて、ポカンとして帰ってくるみたいな......。
■ちょっと質は違うけど、お客さんの熱さに関しては、鶴岡にも同じものを俺は感じたけどね。
HARUKA:通じるところは感じます。
■ その日1日絶対楽しんでやるぞっていうさ。そこが〈フューチャー・テラー〉と鶴岡を結ぶ、1回に懸ける思いの強さだよね。
HARUKA:下手したらDJよりお客さんのほうが気持ちが強いときもある。DJはそれに応えるために頑張るっていう。
■だから俺は鶴岡行ったとき、パーティを目の前にしてノブくんがハルカを〈フューチャー・テラー〉に誘ったのはさすがだなって思った。そこなんだろうなパーティの熱さに感銘をうけたんだろうなっていう。勝手な推測だけど。
HARUKA:僕もやさぐれて迷惑かけた時期もあって......。
■ ハハハハハ!!
HARUKA:最初にDJしたときも、ノブさんの次だったんですけど、2時間ぐらい寝坊しちゃって、その間ノブさんずっとやっててくれて。走って行って「すいませんでした!」って言ってすぐ替わるみたいな。
■ハハハハハ! やらかしてんだ。
HARUKA:やらかしてますよ。数限りなくありますよ。ベロベロになって、DJしてる途中なのにふらふらそのへんで遊びはじめて、ノブさんに戻されたりとか......。
■ハハハハハ!!
HARUKA:いま考えるとありえないんですけど。
■DJとして揉まれようと思って東京に出てきて、この2年ぐらいを振り返って自分の中で変わったことってありますか?
HARUKA:地方と東京ではDJにおける味付けが違うと思います。材料のレコードは同じでも、味付け、聴かせかたが変わってくると思います。
■具体的に言うとどんな?
HARUKA:お客さんがパーティを選ぶ基準も違うし、集まりかたも遊びかたも違うし、DJもやることが変わって当然だと思う。それを自分なりに覚えて東京のやりかたに合わせようと頑張ったところはありました。
■料理のヴァリエーションだ。
HARUKA:東京のやりかたがあるなっていうのは山形から遊びに来てるときからなんとなく感じてたんで。......あとは暮らすのが大変で、そのことを考えてるって感じですね。
■フフフ。厳しいからね。それはみんなそうだよね、東京にいると。
HARUKA:それに脳ミソの容量をとられて(笑)、余った部分でDJのことを......。
■そんななかで、ヤジくんとやってる〈ツイン・ピークス〉のCDが〈ブラック・スモーカー〉からリリースされるじゃん。俺はヤジくんも好きなDJのひとりなの。まだプレイもCDも聴けてないんだけど、スペシャルなときに聴こうと思ってとっといてるの。ふたりとも大好きだから。で、どうなの今度のCDは?
HARUKA:CDは7時間のライヴをまるまる録音してて、それからいち部を抜き取って、イントロとかつけて編集したって感じです。いちばんドロドロの、すごくなってる時間を録れたと思うんで、楽しいと思います(笑)。
■ふたりともドロドロのときすごいもんな。ドロッドロだもんな。
HARUKA:あの7時間は面白かったですね。ほとんど会話もなく......。
■ハハハハ!
HARUKA:1曲づつひたすらやってるみたいな感じだったんで。バック・トゥ・バックで7時間って、次にそんなこといつやるんだろうって感じだし。
■すっげーいい環境のところで聴きたいんだよね、そのふたりは。
HARUKA:そうですね。〈ツイン・ピークス〉はいい環境でやりたいですね。あんまり緩くやってもしょうがないんで。
■やっぱヤジくんから刺激もらってる?
HARUKA:刺激と癒しをもらってますね。
■そういう人だもんね。
HARUKA:スポ少のコーチみたいな存在ですね。優しく見守ってくれる大人の人というか(笑)。
■俺はそのふたりには通じるものがあると思うから、コンビ組んだって聞いたときそれだけで感動しちゃったんだよ。
HARUKA:CD出すぐらいになるなんて思ってなかったんでありがたいですね。最初はブラック・テラーのためにやるっていうそれだけだったんで。
■しかもユニット名が〈ツイン・ピークス〉でしょ? ハルカの好きな映画。俺も大好きなんだけど。
HARUKA:デヴィッド・リンチ好きとして嬉しいです。
■以前ハルカは、東北の隠美な村社会、そこに住む人たちの内面の狂気、ドロドロしたものに『ツイン・ピークス』は近いものがあって、そこにシンパシーを感じるって言ってたよね。
HARUKA:それを面白くみせてくれてるのがいいなぁって。
■それはユニット名をつけるにあたってやっぱりあった?
HARUKA:単純に、ふたり立ってる感じと、『ツイン・ピークス』の山の頂がふたつあるイメージが重なる。あとは、〈ブラック・スモーカー〉と〈フューチャー・テラー〉のふたつがいっしょにやるっていう意味でもちょうどいいんでつけました。
■そっか......。
HARUKA:そんなに深くはないです(笑)。
■深い話を聞いたあとだったから、よっぽど期するものがあるのかなと思った(笑)。でもそういう自然な感じがいいよね。
HARUKA:ここで〈ツイン・ピークス〉って使えてよかったなって。思いつかなくて悩んだんですよ。プロレス技みたいなのしか出てこなくて。
■ハハハハハ!!
HARUKA:プロレスから北米に行って、〈ツイン・ピークス〉いいんじゃねーかみたいな。
■ちなみに明日〈エルニーニョ〉だっけ? 〈ツイン・ピークス〉も出るの?
HARUKA:いえ、僕は僕で、ヤジくんはヤジくんで出ます。
■〈ツイン・ピークス〉でリリース後にやる大きなパーティとかはなんかあるの?
HARUKA:リキッド・ロフトのDJダイくんのパーティでゴンノさんとツイン・ピークスで出ます。ダイくんもリリースがあって、みんなのリリース・パーティって感じでやろうっていう。
■それもすごいメンツだね。
HARUKA:面白いですよね。
■で、いよいよ〈フューチャー・テラー〉10周年。
HARUKA:ゲストもすごいのがふたり来るんで。
■今日ノブくんのツイートでね、ホニャララってつぶやいてたけど(笑)。それは俺あえて探らないようにしたくて。〈フューチャー・テラー〉っていうブランドって言ったら失礼だけど、信頼があるからすごく期待してるんだよね。
HARUKA:すごいと思いますんで...。
■ハルカもDJ出るんでしょ?
HARUKA:やります。頑張ります。
■すげー楽しみ。11月26日。いい風呂の日。沼だよ~(笑)。
HARUKA:リキッドの音響でできるのが最高ですね。
■ハルカは来れなかったけど、俺このあいだ〈ゴッド・ファーザー〉の10周年を手伝わせてもらってさ。やっぱ俺もリキッド好きなんだよね。開放的な部分もあるし自由な感じもあるし。そこで〈フューチャー・テラー〉が10年の総決算をやる、そこにハルカも参加するっていうのが感慨深くて。鶴岡って俺の親父の実家でもあるんだよ。なんか期するものある?
HARUKA:精一杯がんばります。
■ お前そんな(笑)! もっとこう「かまします!」とか。
HARUKA:それは気持ちの面ではありますけど、DJはDJとして、自分の役割を精一杯やり遂げたいって感じですね。〈フューチャー・テラー〉ではとくに。
■10周年終わったらもう1回インタヴューとろうかな。
HARUKA:廃人みたいになってると思います(笑)。
■ ほんとは来年とか再来年のことも聞きたかったんだけど、いまは〈フューチャー・テラー〉10周年のことがあまりにもでかいからさ。ここ何年かのハルカの経緯を知ってることもあるし。とりあえず今日はこのぐらいにしとこうかな。なんか一言ある?あ、そうだ、曲作ってるらしいじゃないか!
HARUKA:遊びにも行かずにずーっとやってますね。
■リリースは考えてる?
HARUKA:良いのができたらリリースしたいですね。
■目標とするアーティストは?
HARUKA:ドナト・ドジーはやってることが進んでるなって思います。いまぱっと思いついたのはドジーですけど、好きなアーティストはいっぱいいます。
■影響ををうけたアーティストは? 自分が作る上で、模倣ってわけじゃないけど。
HARUKA:まだ模倣もちゃんとできないぐらいのレヴェルなんですけど、沖縄のイオリくんの存在は刺激になりますね。実際すごいいい曲作ってると思います。
■ハートもいいしな。
HARUKA:そうですね。ああいう人が沖縄に住んでやってるっていう感じがいいですね。
■俺はやっぱ近いものを感じるね。ノブくん、イオリくん、ハルカくん。地元を大事にしつつ、ちゃんと世界を視野に入れてるっていうかさ。レペゼンとワールドワイドな目線。
HARUKA:そういうふうに広げてくのはほんとに大事だと思いますね。狭い一定のところにだけ向けて音楽やるのはちょっと違うなあと。もっと開かれたものであったほうがいいと思う。
■さっきまで山形のことを褒めてばっかりだったけど、逆に言うと閉鎖的と思われたところに風穴を開けた部分もあるよね。
HARUKA:そうですか。
■と、俺は感じてる。
HARUKA:外から見たら、たしかに山形は閉鎖的ですよね。
■ まぁ悪く言えばね。
HARUKA:地理的に自然とそうなっちゃうというか。
■俺としては東北の多才な人に山形を通じて知り合うことができてさ。もっとみんなに知られたり、出てきてほしい人がいっぱいいて。若い子だとこの前静岡でも会ったダイセイとカズシ。カマタンもいいヴァイブ持ってるし、スーさんもすげえ深いし、マリーさんは超ファンキーだし。すげー人がいるなって思うんだけど、やっぱりまだアンダーグラウンドな世界じゃない。
HARUKA:そうですね。
■俺はああいう人たちこそもっとメジャーなところに行ってほしいと思う。地理的に不利な部分もあると思うけど、そのへんどう思う?
HARUKA:みんなほんとにマイペースなんで、そこは変わらずにやってて欲しいとも思うんですけど。
■7月にイギリスに遊びに行って日本に来れないようなアイルランドの名前も知らなかったすごい良いDJがいて。ローカルDJはローカルDJであってほしいっていうのもあって。
HARUKA:ありますよね。発見する驚き、出会ったときの衝撃。
■地方の名産品みたいな。それがもっと知られてほしい。中央にばっかり目を向けるのも弊害を感じる。
HARUKA:やってるほうの気持ちもありますしね。ローカルで仲間とやってるほうが楽しいっていう人もいると思うし。でもカマタンとかはモリスに呼ばれてイギリスにやりに行ったりしてますし。
■俺が初めて会ったの姫路だもん(笑)。フットワーク軽くていいなあって。
HARUKA:軽いですね、カマタンさんは。地震あってからますます軽くなった感じがします。
■今後のことでなんかあったらどんどん言って。
HARUKA:地道にやっていきたいですね。
■日本で?
HARUKA:うーん...、土地に対する執着は山形を出た時点でもうないです。これからまた引っ越すかもしれないし。どこででもできるのが音楽のいいところだと思います。
11/19(SAT) @Casa & Sala "TKF presents AGE" (福井)
11/26(SAT) @Liquidroom "FUTURETERROR 10th ANNIVERSARY "(東京)
Haruka "All Time Favorite 5"
XDB - Gate - Wave Music
Pedal - Short2004 - O-parts Recordings
Microworld - Smile - Transmat
Takayuki Shiraishi - Slow Shoutin' - Pickin' Mushroom
DJ Kensei As Torement - Extraterrestrial Life - Tri-Eight
最近読んだUKのメディアの記事で、〈RAMP〉レーベル(UKの〈ストーンズ・スロウ〉フォロワーで、ゾンビーやSbtrktなど出している)を主宰するDJのトム・ケリッジはいまだ月に数百ポンド分の新譜のヴァイナルを買って、DJするときもほぼ100%ヴァイナルだと自慢している。デジタルかヴァイナルか......この議論をここで蒸し返すつもりはない。が、去る9月、DOMMUNEでTHA ZOROや大阪のDJ、TUTTLEのプレイを聴きながら、あらためてアナログ盤でプレイするDJの魅力を思い知った次第である。
1.Cloud Boat - Lions On The Beach R & S Records
ジェームス・ブレイクの成功は、ダブステップのネクストとしての歌モノをうながしている。ジェイミー・ウーンのアルバムは本サイトではスルーしたけれど、〈エグロ〉あたりはジャズ・ファンク/ソウル・ミュージック寄りにそれを展開している。そしてクラウド・ボートは、レディオヘッドのリミックス盤のように、ダブステップをバックに歌っているトム・ヨーク、ないしはボン・アイヴァーである。つまり、ダブステップのインディ・ロックとの相性の良さを証明する1枚でもある。裏面は、ブリアルのサイケデリック・ロック・ヴァージョンといったところ。
2.FunkinEven - Rolands Jam Eglo Records
ロンドンのファンキンイヴンは、〈エグロ〉レーベルが発掘した新世代のアシッド・ハウス野郎で、すでにこれが4枚目のシングル。前作「彼女はアシッド」に続いて、レトロスペクティヴなアシッド・ハウスを展開している。というか、アシッド・ハウスとは、いま本当にレアグルーヴになっている。より音がクリアになって、もちろんベース・ミュージックの流れを引いてはいるものの、ウワモノのアシッド音は紛れもなく1987年のシカゴである。
3.Floating Points - Faruxz / Marilyn Eglo Records
今年の6月にリリースされた12インチで、A面の"Faruxz"は、以下に挙げるアーティスト名のうち3人好きな人がいたら間違いなく聴いたほうが良い曲。カール・クレイグ、初期のエイフェックス・ツイン、フローレンス、グローバル・コミュニケーション、あるいは〈FXHE〉レーベルの美しいディープ・ハウス。
4.Lucky Paul - The Slow Ground EP Somethink Sounds
グライム/ダブステップの荒野をあとに洗練化へと向かうネオ・ソウルからまた新しい才能が登場した。これはロンドンの新しいレーベルから、ニュージーランド出身でベルリン在住のラッキー・ポールのデビューEP......EPとは言え7曲入り。
B面ではギャング・カラーズ(ジャイル・ピーターソンのレーベルの秘密兵器)、エリフィノ(Eliphino)がリミックスをしている。ゴンザレスやモッキーらとセッションしているドラマーだという話だが、グライム(ヒップホップ)の冷たいビートにパーカッションを与えたA-1やA-3、ジェームス・ブレイクやマウント・キンビーを意識したA-2、そしてR&Bを試みたA-4など彼の折衷的な態度を見せている。
5.Δ Δ - Sportex / Ikonika Remix Pushing Red
テキサスのダブステップのレーベルから、謎のプロジェクトのリリースだが素晴らしい。音は現代風のヒップ・ハウスというか、実にエネルギッシュなラップ入りのダブステップとシカゴ・ハウスとの古くて新しい幸福な出会いとなっている。B面は女流ダブステッパー、アイコニカよるジューク。前半は絵に描いたようなジュークで、しかし後半は彼女のコズミックなグルーヴで飛ばしていく。 〈プッシング・レッド〉はアメリカのレーベルだが、音はUKの影響下にある。アメリカ人プロデューサー、ジャス・ワン(Jus Wan)によるUKガラージ作品などリリースしている。
6.Duff Disco - Grand Master Duff / Slow Duff Disco

今年はダフステップ名義でアルバムを発表したジェレミー・ダフィーのダフ・ディスコ名義のアンオフィシャルな1枚。A面はグランドマスター・フラッシュ&ザ・フューリアス・ファイヴの"ザ・メッセージ"、B面はカイリー・ミノーグの"スロー"をネタにしている。彼らしい、気の抜けたゆるいディスコだが、B面はとくにその脱力感がひかっている。
7.Untold - Bones Remixes SSSSS
ポスト・ダブステップにおいて、多くのリスナーにアルバムが待たれているのはピアソン・サウンドとそしてこのアントールドだろうけれど、筆者がより得体の知れない才能を感じているのは後者である。ピアソン・サウンドはプラスティックマンをなぞることができるが、アントールドは、これだけ多くのプロデューサーがハウス回帰している現在でも他とは違うところを見せている。
これは2008年の曲をジョーとロックウェルがリミックスしたもので、ジョーのリミックス・ヴァージョンがとにかく素晴らしい。キックドラムに頼らずに最小のパーカッションで構成されるこのトラックは、機械で作られるダンス・ミュージックにはまだ創造の余地があることを証明しているようだ。
8.Owiny Sigoma Band - Tafsiri Sound Brownswood Recordings
アフリカ・ミュージックは新たな展開は、クラブ・カルチャーとの交流である。ナイロビのオウニー・シゴマ・バンドのリミックス・シングルは、そのことを象徴する。A面はクァンティックによる2ヴァージョン、フリップ・サイドはジェシー・ハケット(ロンドンの〈オネスト・ジョンズ〉からのジャズ/ファンクの作品で知られる)、ヘロー・スキニー(何者かわからん)によるヴァージョン。スキニーによるボンゴやコンガの響きに的を絞ったややファンキーよりのミックス以外は、ハウス・ミュージックとして機能する。すべてが良く聴こえるのは原曲がいいからだ。
9.Mark Ernestus Meets BBC - Ngunyuta Dance Remix Honest Jon's Records
これもアフリカとクラブ・カルチャーとの交流のひとつ。現代の南アフリカ音楽のコンピレーション・アルバム『New Wave Dance Music From South Africa』の収録曲をベーシック・チャンネルのマーク・エルネストゥスがリミックスしたものだが、まったくお見事な出来。ドイツ的な美意識による直線的なミニマル・ダブの極意というか、『ゼロ・セット』が古く思えるほど。アフリカの熱さとドイツのメトロノーミックなビートの出会い。
ちなみに、このシリーズには他にアンソニー・シェイカー、そしてリカルド・ヴラロヴォスの2枚がある。筆者は3枚試聴してこれだけを買った。
10. Bjork - The Crystalline Series (Omar Souleyman Versions) One Little Indian
"クリスタライン"はリスナーを惹きつけて止まないビョークの得意なコブシ回しの入ったパワフルな曲で、彼女の音楽にハマったことのあるリスナーなら1回聴いてすっかり好きになってしまうタイプの曲である。オリジナルはシンセ・ポップ的なはじまりから後半はエイフェックス・ツイン流のドリルンベースへと展開する。ビョークらしいエレクトロニック・ミュージックのパワーを吸収した曲である。
リミキサーでもっとも驚いたのが、アラン・ビショップが世界に広めたであろうシリアのカントリー・フォーク歌手のオマー・ソウレイマンで、リミックスというよりは、そのオリジナルに合わせて演奏して(サンプラーをブッ叩いて)、歌っている。この濃厚なエキゾチズムはかなり魅力で......というか爆笑ものだ。B面に収録された2曲ではほとんど自分のやりたいことをやって(演奏して、うわーおーなどと高らかに歌い)さっさと切り上げるという、実に清々しい態度でビョークに接しているように思える。だいたい、リミックスを依頼されたというのに、ソウレイマンは勝手に共作にまでしてしまったようなのだ。ちなみにこれはシリーズの3作目である。2作目がマシュー・ハーバート、4作目がポップス界の大物サーバン・ゲニー。
しかし、A面45回転、B面33回転というのがいまのトレンドなんだとあらためて認識した。
11.The Stepkids - Legend In My Own Mind Stones Throw
これはもう完璧なレトロマニア。甘ったるいヴィンテージ・サイケデリック・ファンクのスタイル(テンプテーションズの"クラウド・ナイン"とか、あのあたりです)を展開する3人組のヴォーカル・グループ、ザ・ステップキッズのアルバムからの先行シングル。たたみかけるシンセサイザーの感じはいまどきのチルウェイヴにも通じる......というか、最近の〈ストーンズ・スロウ〉は、ジェイムス・パンツもそうだが、インディ・ロック・キッズ向けのものが目立っている。
12.Frankie Knuckles Feat. Jamie Principle - I'll Take You There Nocturnal Groove
ハーキュリーズ&ラヴ・アフェアにフレンドリー・ファイアーズ......フランキー・ナックルズとジェイミー・プリンプルといった巨匠がカムバックする準備は整っていた。シンセ・ポップのアンダーグラウンド・ダンス・ヴァージョンとしてのハウス・ミュージックである。
そういえば最近はグラスゴーの〈ナンバーズ〉からファンタジー・クラブの"ミステリー・ガール"がリイシューされている。きっと近々、DJピエールも出てくるだろう。シカゴ・ハウスは確実にいま旬なのだ!
13.James Blake - Order / Pan Hemlock Recordings
デビュー・アルバムとも、そして「CMYK」ともまた別の、ジェームス・ブレイクのメロディらしいメロディなしの、ミニマル・トラックがふたつ。ラマダンマンを徹底的にストイックに、反物語的にした感じで、ちょうどこのEPを買うときにプラスティイックマンのボックス・セットがレジの隣にあった。
まあ......このアシッディな感覚は〈ヘムロック〉らしいと言えばらしいし、"Pan"の荒廃したイメージは他にない説得力を秘めているかもしれない。ダンス・ミュージックとしての面白味においては、10年前のヘロイン・ハウスを彷彿させる。そういう意味では筆者にはアンビヴァレンツな作品で、いちど評価を上げるとしばらくは何をやっても支持されるというのは、ありがちなことではあるけれど、これよりも数ヶ月前に都内のお店に出回っていたデスチャとリル・ウェインをネタにしたトラックのほうが、いまはまだ魅力を感じる。
14.Four Tet - Locked / Pyramid Text
フォー・テットの主宰する〈テキスト〉レーベルは、わが国の12インチ市場でいまもっとも人気のひとつである。すぐに売り切れるのだ。それもよくわかるというか、"Locked"はミニマル・ハウスのフォーマットを使って、フォー・テットらしいメロウな展開をする。カール・クレイグがペーパークリップ・ピープル名義でダブステップ少々のビートを取り入れたと想像すれば良い。"Pyramid"は、いわばフォー・テット流のシカゴ・ディープ・ハウス解釈で、オーソドックスな4/4キックドラムのグルーヴィーなダンス・ミュージック。トラックの後半にはエレガントなメロディが重なってくる。
15.Juk Juk - Winter Turns Spring Text

何者かわからないが、このスロー・テンポのミニマル・ハウスは機能性重視のトラックではない。〈テキスト〉レーベルらしい楽曲性の魅力に重点をおいた、陶酔的な響きを有している。メロディが重なる"Winter Turns Spring(冬から春へ)"の素晴らしい叙情性を聴いたら、作者が何者かわからなかろうが、思わずレジに走るだろう。フリップ・サイドの"Frozen"もそうだ。牧歌的なアンビエントではじまって、しばらくすると遅めのビートが脈打つそれは、空想的な悦びを刺激するだろう。
もしお店に行ってフォー・テットのEPかこれかで迷うことがあれば、筆者は迷わずこちらをオススメする。
16.DjRum - Mountains EP (Part 1)+(Part 2) 2nd Drop
このレーベルは、ダブステップ系の人気レーベルのひとつなのだが、前回のLV以来、2枚同時(Part 1、Part 2)にリリースしている。しかも内容が素晴らしいから、タチが悪い。90年代のダビーなブリストル・サウンド、もしくはブリアルが好きなリスナーにはたまらない音楽で、そう、ダブの恍惚なのだ。フリップ・サイドはダンスフロア愛好者向け。
ジャマイカ声のMCが入る"Part 2"も良いし、そこに女性ヴォーカルが重なる"Part 3"への展開も申し分ない。とくに後者のずぶずぶのダウンテンポは葉族には最高のBGMだろう。"Turiya"は女性ヴォーカルを活かしたソウルフルなダブステップで、目新しさはないが、筆者はとってはこれがもっともグッと来るタイプのアーバン・ソウルである。DJラムか......覚えておこう!
1.Hype Williams - Kelly Price W8 Gain Vol II | Hyperdub
ハイプ・ウィリアムスが〈ハイパーダブ〉から12インチ・シングルをリリースすることがまず驚きでしょう。いくらダブという共通のキーワードがあるとはいえ、ダブステップとチルウェイヴが結ばれるとは......思わなかった。
今年〈ヒッポス・イン・タンクス〉からリリースされたサード・アルバム『ワン・ネーション』は、レーベルが〈ヒッポス・イン・タンクス〉ということもあって、ドローンやアンビエントというよりはチルウェイヴ色が強く、しかも実に不健康そうな多幸感を持ったアルバムだったが、このシングルもその延長にある音楽性だ。まあ、〈ハイパーダブ〉もダークスターのようなエレクトロ・ポップを出しているくらいからだからなぁ。しかし......ハイプ・ウィリアアムスはこれでますます目が離せなくなった。アンビエント・ポップということで言うなら、A1に収録された"Rise Up"は最高の1曲だ。
2.LV & Message To Bears Feat. Zaki Ibrahim - Explode / Explode (Mothy's Implosion) | 2nd Drop Records
〈ハイパーダブ〉からのファンキーよりの作品やクオルト330とのコラボレーションで知られるダブステッパー、LV(先日、ファースト・アルバムを発表している)とブリストルのメッセージ・トゥ・ベアーズ(熊へのメッセージ)とのコラボレーション・シングルで、この後リミックス・ヴァージョンがリリースされるほどヒットしたという話で、実際にダンスフロアに向いている。ミニマル・テクノの4/4キックドラム、メンコリックなシンセサイザーのループとスモーキーな女性ソウル・ヴォーカルが浮遊するトラックで、ポスト・ダブステップというよりはヒプナゴジックなテクノである。
3.FaltyDL - Make It Difficult | All City Records
これはフォルティ・DLによる"ハウス"シングルだが、まるでヤズーがダブステップの時代に蘇ったような、エレクトロ・ポップと強力なダンスビートのブレンドで、ニューヨークらしいというか、しかしそれは彼がいままで手を付けていなかった引き出しのひとつを見せているようだ。
B面の"ジャック・ユア・ジョブ"も力強いアッパーなビートの曲だ。リピートされる「ゲット・ユア・ジョブ(仕事を見つけろ)」という声はネーション・オブ・イスラムのルイス・ファルカンの声だが、それは90年代に人気のあったガラージ(歌モノの)ハウスのアーティスト、ロマンソニーの有名な"ホールド・オン"からのサンプルだと思われる。アイルランドのヒップホップ系のレーベルからのリリース。
4.The Stepkids, - Shadows On Behalf | Stones Throw Records
今年の9月にデビュー・アルバムのリリースが予定されている〈ストーンズ・スロー〉の大器。数か月前のリリースだが、昨今のソウル・ミュージックの復興運動における注目株なので紹介しておこう。まあこのレーベルが推し進めているジャズ、ソウル、ファンクにおける新古典主義のひとつと言ってしまえばそれまでで、感覚的に言えば、ザ・クレッグ・フォート・グループやギャング・カラーズ、あるいは〈エグロ〉レーベルとも共通する。綺麗なデザインがほどこされた透明のヴァイナルで、白地にエンボスのジャケも良い。
5.LA Vampires Goes Ital - Streetwise | Not Not Fun Records
アマンダ・ブラウンがついに三田格と!? というのはさすがにない。イタルは、〈100%シルク〉からソロ・シングル「イタルのテーマ」を発表しているダニエル青年によるプロジェクト名で、これはアマンダとのコラボレーション12インチ・シングル。パンク・ダブ・ダンスというか、彼女がダンス・ミュージックをやるとこうなるのだろう、危なそうな人たちがひしめく不法占拠した地下室における饗宴で、リー・ペリーがポップに聴こえるような過剰で砂嵐のようなダブ処理は相変わらずだが、ぶっ壊れたドラムマシンが暴走したようなアップテンポのビートは素晴らしい。それにしてもこのデッド・オア・アライヴのようなアートワークは......(笑)。
6.The Martian - Techno Symphonic In G | Red Planet

今年も親分(=マイク・バンクス)はメタモルフォーゼにやってくるそうだ。あの男のことだから当然こんかいの日本の惨事についてはいろいろ考えているようだ。それで1年前に発表した火星人の6年ぶりの新曲がヴァイナルで登場した。タイトル曲はクラシック・デトロイト・スタイルで、B面1曲目に収録された"Reclamation(再生)"は題名からして東日本に捧げられているようにも感じられる。B面2曲目の"Resurgence "はじょじょにビルドアップテクノ・ファンク。
7.Vondelpark - nyc stuff and nyc bags EP | R & S Records
ロンドンのバレアリック系チルウェイヴの2作目だが......実はまだレコード店に取り置きしたまま......。また次回にでも!
タイラー・ザ・クリエイターの『ゴブリン』に続いて、ホジー・ビーツとレフト・ブレインによるメロウハイプ名義のセカンド・アルバム『ブラックンドホワイト』もついにフィジカル・リリースされる!
まずはこの不敵なPVを見て欲しい。彼らの挑発的な歌詞に関しては、すでにいくつかの人権保護団体から抗議が寄せられているという話だが、フェミニストからの抗議に対してタイラーたちは「硬いチンポが欲しければ立たしてくれよ」と返答したとか......。
ご存じのようにオッド・フューチャーのメンバーにはレズビアンの女性もいる。彼らはスケーター集団で、旧来のマッチョなギャングスタ・ラップとは違う。"64"を聴いていると、彼らの音楽がウィッチ・ハウスとも親和性が高いことがわかる。
そしてタイラー・ザ・クリエイターの"she"......。こりゃたしかに怒られるわ。
最近はフローティング・ポイントの〈エグロ〉レーベルの諸作、あるいは〈ブラウンウッド〉からデビューしたギャング・カラーズのような、ダブステップを経たUKのクラブ・カルチャーからも期待が膨らむジャズ系の、今日的なメロウな感性(それはチルウェイヴはもちろんのこと、フォルティDLやボックスカッター、下手したらOFWGKTOのようなヒップホップにまで通底する)をもった印象的な作品が出ている。
そういうなか、ジャズの再発で知られる〈ジャズマン〉からデビューの新人というのも場違いな印象を持ちかねないが、すでに都内の輸入盤店でも話題のザ・グレッグ・フォート・グループは、その新しい"ヴィンテージ・サウンド"もさることながら、快楽的でチルアウトな演奏を展開する。しかもこれがいま、チルウェイヴやポスト・ダブステップを聴くような若者に受けているそうじゃないですか。
日本盤は7月20日、Pヴァインから。けっこうな注目株ですよ!
先日、素晴らしいアルバム『ISAM』を発表したアモン・トビンのモントリオールでのライヴ映像です。これ、かなりすごいですよ。いまIDMって、こういう発展の仕方しているんですね。
1.Holy Other - With U | Tri Angle
ハウ・トゥ・ドレス・ウェルでリスナーの度肝を抜いた〈トライ・アングル〉レーベルが送り出す、今年の注目株のひとり。マンチェスターのホリー・アザーによる5曲入りのセカンド・シングルで、ダブステップとチルウェイヴを通過したセイバース・オブ・パラダイスのゴシック・ロマンといった感じに聴こえる。女性ヴォーカルをフィーチャーした"タッチ"に関しては、さしずめジェームス・ブレイク+ジョイ・ディヴィジョンといったところだろうか。
B面の"ウィズ・ユー"はポーティスヘッドによるダーク・アンビエントのようで、"フィーリング・サムシング"にはブリアルをフェミニンに展開したような甘美がある。12インチ1枚でアルバム並みに大きく騒がれるのはジェームス・ブレイク以来のことだが、たしかに騒がれるに値する内容だ。
2.Ford & Lopatin - Emergency Room | Software
そろそろファースト・アルバム『Channel Pressure』が店頭に並ぶ頃だろう。OPNのダニエル・ロパティンとジョエル・フォードによるチルウェイヴ・ユニット、ゲームスあたらめフォード&ロパティンに改名してからの最初のシングルで、笑ってしまうほどキャッチーな80年代シンセ・ディスコ。な、なんなんだよ~、これは~。ゲームス名義の最初の7インチにあったドロッとした感触は見事に払拭されて、さわやかに聴こえるほどだ。B面では〈DFA〉のギャヴィン・ルッソムによるリミックス、ザ・バグによるダブ・ヴァージョンが収録されている。アルバムは店頭に並んだら買う予定。
3.Fatima - Follow You | Eglo Records
ロンドンの〈エグロ〉レーベルは、ポスト・ダブステップにおいてもっとも大人びでいるレーベルだ。ミズ・ビートの「Are We The Dictators?」がそうだったように、このレーベルにはジャズ/ソウルといった明確な音楽的なヴィジョンがある。ドラムンベースで言えば4ヒーローのような役割を果たすのだろう。
レーベルの運営に関わるフローティング・ポイントがトラックを作っている女性シンガー、ファティマ・ブラム・セイのセカンド・シングルは、このレーベルの底力を見せつける。ファティマの素晴らしいヴォーカリゼーションだけでも充分に魅力だが、フローティング・ポイントによる瑞々しいトラックがこの12インチを特別なものにしている。B面に彫られた"レッド・ライト"はいかにもUKらしいジャズの香気をもったキラー・チューンである。ネオ・ソウルのシーンにおけるエースの登場といったところだろうか。
4.Floating Points - Faruxz / Marilyn | Eglo Records
いま出たものすべて買ってもハズレがないのが〈エグロ〉レーベルとフローティング・ポイントで、片面プレスの10インチ「Sais Dub」の前にリリースされたこの12インチは彼らしい、優雅なアンビエント・テイストとポスト・ダブステップのビートとの美しいブレンドとなっている。A面の"Faruxz"は、いわばデトロイティッシュな濃いめの叙情性が広がっている。動くベースライン、メランコリックなストリングス、瑞々しいフルート......アズ・ワンとラマダンマンの溝を埋めるのはこの男だ。
5.Gang Colours - In Your Gut Like A Knife | Brownswood Recordings
これはジャイルス・ピーターソンのレーベルから期待の新星、そのデビュー・シングル。なかなか侮れないというか、素晴らしいほどトロっトロっのネオ・ソウルで、日が暮れてからでなければ聴きたくないような、美しい真夜中の音楽なのだ。確実にポスト・ダブステップを通過した音数の少ないビートが心地よく、そしてジャズ・ピアノはアシッディな電子音とダブの空間的な録音のなかで絡みつく。ギャング・カラーズは、ファティマとともにネオ・ソウルの主役となるのだろう。はっきり言って、期待を抱かせるには充分な出来である。
6.Vessel - Nylon Sunset EP | Left_Blank
ブリストルからダンスフロア直撃の1枚。ユニークなビート・プログラミングとカオスを秘めた、得体の知れないポスト・ダブステップ系だ。いわばハマり系の音だが、インストラ:メンタルのようにノスタルジックではなく、アディソン・グルーヴをディープ・ハウスと掻き混ぜたような感じというか。タイトル曲の"ナイロン・サンセット"などはいわゆるどんキまり系のドラッギーな音で、ちょっと恐いなーという気もするけれど、ビートの細かいアクセントは面白く、ベルリンというよりもシカゴやデトロイトに近いかもしれない。ペヴァリストもリミックスで参加している。
7.Greg Gow - Twilight Soul EP | Transmat
カナダのトロント在住のDJ/プロデューサーによる2年前の「The Pilgrimage EP」に続いて〈トランスマット〉からは2枚目となる12インチ。もう一貫してデリック・メイ好みというか、思わず走り出したくなるような真っ直ぐなデトロイト・テクノで、「勇気を持て~持つんだ~」と言われているような気持ちになる。
すでにご存じの方も多いと思いますが、Budamunk + ISSUGI + S.l.a.c.k. による新ユニット、シック・チーム(Sick Team)がいよいよその全貌を露わにします!
発売日は6月2日、しかも......なんとその日にはDOMMUNEでライヴも披露することが決定しました! 7時から12時までたっぷり5時間使って、日本の新しいヒップホップの誕生をお届けします。当日は会場に来れる人は来てくださいね! 生で彼らのライヴやDJを体験しましょう!
7:00~12:00 @ DOMMUNE
ライヴ:Sick Team、PUNPEE、GAPPER、etc
DJ:PUNPEE、BUDAMUNK
トーク:SORA(DOWN NORTH CAMP)、大前至、二木信、野田努......(後半、Sick Team参加予定)

こ、こ、これは......マユリちゃん、あるいはken=go→や佐藤大、あるいは石野卓球にもぜひ見てもらいたいですね。フレンドリー・ファイアーズ(デビュー・アルバムであのジェイミー・プリンシプルの声が思い切りセクシャルな"ユア・ラヴ"をカヴァーした、UKの若手のバンドですよ)のセカンド・アルバム『パラ』からのファースト・シングル「Live Those Days Tonight(あの日々の夜を生きよう)」のPV、rave on!

セックス・ピストルズとN.W.A.が合体したって? あるいは......こんなのはどう? ドクター・ドレがチルウェイヴをネタにトラックを作ってイアン・カーティスがラップしたら......。
とにかくこれを見て! ロサンジェルスから登場したOdd Future Wolf Gang Kill Them All(通称、OFWGKTA)、8人(トラックメイカーやイラストレーターまで含む)による集団で、彼らはここ数か月にわたってネット上で自分たちの曲をUPし続けている。今年の入ってロンドンの〈XL・レコーディングス〉と契約を交わし、セカンド・アルバム『Goblin』のリリースを控えたリーダーのタイラー・ザ・クリエーター、アルバム収録曲"ヨンカーズ"のPVである。
分裂症的で、猟奇趣味的で、サイケデリックな、そしてまったく新しいインパクトの登場である。この曲にしてこのリリック......アンダーグラウンドの新世代DIY主義者、リル・Bの影響を受けながら、ジョイ・ディヴィジョンを愛し、ビーチ・ハウスやウォッシュト・アウトといったチルウェイヴを好んで聴きながら、トロ・イ・モアまでサンプリングするという彼のアルバムを早く聴きたくてたまらない!
1.Lone - Echolocations EP | R & S Records
ノッティンガムのボーズ・オブ・カナダ・フォロワー、ローンのこのところの人気にはすごいものがある。アクトレスのレーベル〈ワーク・ディスク〉からリリースされたセカンド・アルバム『エクスタシー&フレンズ』がロング・セラーとなって、そしてダンサブルな方向性を打ち出した昨年末の『エメラルド・ファンタジー・トラックス』によって完璧にファンの心を掴んだと言えるだろう。〈R&S〉からのリリースとなった2枚組のこのシングル「エコロケーションズEP」も『エメラルド・ファンタジー~』の流れで、ドリーミーでメロディアスなディープ・ハウスを展開している。テクノっ子たちが大好きな、昔ながらの909系のスネアの音がキープされているが、ビートにはガラージ~ダブステップ時代のシャッフルがあり、美しいメロディを有する上ものにはここ数年の傾向と言えるだろう、大いなる逃避主義とユーフォリアのみが輝いている。つまりチルウェイヴとも親和性が高く、ぼやけた夏の夢が揺れている。
2.Sbtrkt - Living Like I Do | Young Turks
ダブステップにおけるネオ・ソウルの代表を期待されているサブトラクトの新曲だが、曲のテイストは最近のポスト・ダブステップに逆らうかのようなバック・トゥ・ベーシックな展開。UKガラージ流れの2ステップ・ビートにのって、ヴォーカリストのサンパが例によってソウルフルに歌う。曲のはじまりのベースの響きは貫禄充分といったところで、驚きはないが悪くもないといったところ。B面はヒット曲"ルック・アット・スターズ"のマシンドラム(最近は〈ホットフラッシュ〉から素晴らしい12インチも出している)によるリミックスで、チップチューンめいた音色を加えながら安定したブロークンビートを展開している。
3.Factory Floor - Real Love | Optimo Music
エレクトロと呼ばれるジャンルにおいて、もっとも危険で、もっとも大胆で、もっともぶっ飛んでいて、ずば抜けて格好いいのがロンドンのファクトリー・フロア。彼らの音楽にはクリス&コージーとアンドリュー・ウェザオールが同居しているようなエロティックでドラッギーな凄みがある。昨年リリースした10インチ+DVDにおいては彼らの毒々しい美学を存分に繰り広げていたが、ミニマリズム映像とノイズによるDVDは、途中で停止ボタンを押すことができないほどの緊張があった。
これはオプティモが運営するレーベルからのリリースで、高速にドライヴするアルペジエーターが容赦なく性的興奮を誘発する。B面に収録されたオプティモのJDトゥイッチによるリミックスは、オリジナルを過剰なまでにトランシーなトラックに変換している。
4.Toddla T feat. Roisin Murphy - Cherry Picking | Ninja Tune
そうか、同じシェフィールド繋がりだからか、ロイジン・マーフィ(10年前はモロコの名義でダウンテンポのクラブ・ジャズ系を出していた女性シンガー)をフィーチャーした、セカンド・アルバムのリリースを控えたトドラ・Tの先行シングルで、グライミーなダンスホール・スタイルにマーフィのキャッチーな歌が入った完璧なポップ・チューン。UKらしいポップ・ソングとも言える。
トドラ・Tの新作には、その他、ガラージ・シーンの顔役たち、ドネイオー、ショーラ・アマ、ミズ・ダイナマイト、そして大御所ルーツ・マヌーヴァなどが参加しているらしい。ジェイミー・ウーンはいまだに買うかどうか迷っているけど、トドラ・Tに関しては迷わないよ。
5.Ari Up & Vic Ruggiero - Baby Fada | Ska in the World
昨年10月、ガンのために逝去したアリ・アップの未発表音源で、ニューヨークのスカ/ロックステディ・バンド、ザ・スラッカーズのメンバー、ビクター・ルジェイロとのコラボ作。これがまた......未発表とは思えないほどの出来で、何の目新しさもないレゲエ・トラックが、彼女の迫力あるヴォーカリゼーションが入っただけで別物すなわち魅力たっぷりのパンキー・レゲエ・スタイルになっている。
このアルバムを聴くのが楽しみだし、生前にたくさんの録音物を残していたという話で、他にもニュー・エイジ・ステッパーズの新作も出るという。
6.Kitty, Daisy & Lewis - I'm So Sorry/I'm Going Back | Sunday Best Recordings
悪名高いレトロ主義者3兄弟のおよそ3年ぶりの新曲は、彼らの50年代のスタイルにさらに磨きをかけている......なんて生やさしいものではなく、驚くほどパーフェクトにそれを具現化している。録音機材もほぼすべてヴィンテージに進められたセカンド・アルバムからの先行シングルで、スカに挑戦した"アイム・ソー・ソリー"にはトロンボーンにリコ・ロドリゲス、トランペットにエディ・ソーントンといったジャマイカの大御所を招いている。それはいちど聴いたら耳から離れない、スタイリッシュかつキャッチーな曲だ。B面は彼らの十八番のレトロなロックンロールで、エネルギッシュで、格好いい。それはただ格好いいだけであり、ただスタイリッシュなだけだが、しかしそれのどこが悪いのだろう。ザッツ・エンターテイメント、本当に素晴らしいシングル。
7.The Beauty / Jesse Ruins | Cuz Me Pain

〈カズ・ミ・ペイン〉は日本のインディ・レーベルで、昨年コンピレーション・アルバム『Complilation #01』を発表している。なんでも"日本のチルウェイヴを代表するひとつ"ということで、そのスジではずいぶんと注目されているという。日本のチルウェイヴ的な動きもいよいよ顕在化してきているようで、今年に入って橋元優歩が紹介していたフォトディスコも素晴らしかったし、遅まきながら僕も〈カズ・ミ・ペイン〉のコンピレーションも聴いたのだけれど、こちらも魅力的な内容だった。〈カズ・ミ・ペイン〉一派の音には、耽美的でエロティックな感性もあり、音楽的にもサイケデリック・ポップからダーク・アンビエント、エクスペリメンタル等々......それをチルウェイヴと呼ぶには抵抗を感じるほど多様な音楽性のように思ったけれど、このレーベルが日本においてUSアンダーグラウンドに強く共振していることはたしかだろう。
ここに紹介するのは〈カズ・ミ・ペイン〉から出たカセットテープで、ザ・ビューティとジェシー・ルインのふたつがそれぞれの面に3曲づつ収録している。ディストピックなチルウェイヴ、ダーク・エレクトロ、デイドリーミングなポップ......さまざまな側面を見せていて、今後どの方向に進むのかわからないけれど、彼らのポテンシャルの高さは感じる(カセットで出しているところも良いね)。まあ、そんなわけで、日本におけるサイケデリック新世代はすぐにそこにいるようです!
また余震? ......かと思ったら北関東の宇都宮市の地下室から轟いているベースの音だった。世界中に飛び散ったダブステップをはじめとするベース・ミュージックのウィルスは、ここ関東では栃木県ですさまじい繁殖を見せている。DJエンドが、北関東のベース・シーンをレポートしてくれた!
U字工事? ガッツ石松? 餃子? え、地図を見てもどこにあるのかわからない??? ......栃木のイメージといったらこんなもんだろうけど、いやいや、栃木は昔からベース・ミュージックがアツいのだ。というわけで栃木は宇都宮のベース・ミュージック・シーンと我々〈B-Lines Delight〉クルーについて書こうと思います。
といっても栃木で何か起きてるかというと、別に特別なことが起きてるわけでもないし、だからといって何もしていないわけでもない。トラックを作ってパーティをやってDJをやって、騒いで、みんなで楽しんでいる、どこの都市でもよくあるフツーの光景。昔から似たようなこと、自分たちが楽しいと思ったことをごくフツーにやってるだけなんだけど、最近少しだけ様子が変わってきた。
昨年の12月に北の片田舎からリアルなベース・ミュージックの現場を作り出すべく〈B-Lines Delight〉というパーティを立ち上げた。メンバーはDD Black、Sivarider、Ryoichi Ueno、RebelAoyama、Negatins、tat'scha、Medopink、MC J-Gol、そして私Dj END。音楽と中学生並みのバカ話なら永遠に話していられる仲間たちだ。
我々〈B-Lines Delight〉クルーはメンバーのほとんどがトラックを制作している、それらトラックは限られたところではあるけれど非常に好評を呼んでいる。
クルー最年長のDD Blackは、本人の猛烈アタックによりRINSE FMでのスクラッチャDVA、ファンク・ブッチャーのプログラムで、さらにはアイコニカがFWDや自身のライヴ・ストリームでトラックをスピンするなど、現地UKの最前線でかなりの好反応をもらった。さらにさらに、Martynの〈3024〉からもリリースしているシーンの若頭オルタード・ネイティヴス(aka.ダニー・ネイティヴ)主宰の〈Eye4Eyeレコーディングス〉からもリリースが決まってしまった(レーベルのコンピレーションに"Charge"が収録されている。現地UKで発売中、国内はディスク・ショップ・ゼロに入荷予定)。
DD
BlackはUKのアンダーグラウンド・オンライン・ラジオ 、MelodyOne"にレギュラー・プログラムを持っていて毎週日曜日プレイしている。現地のバイブスに並ぶ濃密な2時間は、UKベース・ミュージックの最前線を知りたければ是非聴いて欲しい。
http://soundcloud.com/ddblacksoundz
http://melodyone.com/
http://www.discshopzero.com/
恐れ多くもあのドラム&ベース界の帝王グルーブライダーから名前を拝借したSivariderは、自身が師と仰ぐRSD(aka.ロブ・スミス)にこれまた猛烈アタックし、RSDのラジオ・プログラムで、さらには来日DJで、先日放送されたDOMMUNEのプレイでもトラックがスピンされている。ジャングル・ヴァイブ全開のトラックは、RSDのみならず〈Back To Chill〉、〈Soi〉クルーをはじめ国内のドラム&ベース、ダブステップDjを問わず熱烈にサポートされている。
http://soundcloud.com/sivarider_drz
要はDD BlackとSivariderのふたりがUKベース・ミュージック最前線に気合で直結してしまった。国も距離も人種も関係なくヴァイブスが通じたのだ。
ふたりに続くように自身のサグなバックボーンをトラックに落とし込むRyoichi Uenoはトライバルなダブステップ、男汁ほとばしるグライミー・チューンを作るNegatins、まだ作りはじめてから間もないフレッシュなTat'schaらがトラックを作って、さらにクルーを盛り上げている。トラックを作りプレイして評価し合う、さながらジャングルやダブステップの黎明期のようなアツさがこのクルー内には漂っている。
http://soundcloud.com/ryoichi-ueno
http://soundcloud.com/negatin
http://soundcloud.com/t2cha
また、〈B-Lines Delight〉クルーのDJプレイもアツいのだ。各々のベース・ミュージックを追求するプレイはここでまとめて聴ける。http://www.mixcloud.com/BLinesDelight/
このクルーの面子との付き合いはおそらく10年以上になるかな? 我ながらよくもくたばらず10年以上も一緒にパーティやDJをやってきたなーと思うけど、それもこれも栃木には音楽を理解してくれるお客さんやクラブなど、他とは少し違う恵まれた環境があった、そしてそれを支えるレコード・ショップがかつてあった。自分も働いていたベースメント・ミュージック・レコーズだ。

レゲエとP・ファンクが好きないわゆるオーディオ・アクティヴ信者のオーナーが1999年にオープンしたベースメント・ミュージック・レコーズはさまざまなジャンルのDJはモチロン、アーティスト、クラブ・オーナーなどの音楽好きから、ジャンキー、オカマ、プータロー、ヒマ人、葉族までとにかくいろんな人が集まった。そのなかにいまつるんでるクルーもそこに集って、そしてさまざまな下地を作った。
〈B-Lines Delight〉の基盤にもなった前身のパーティ、〈On〉(エキスペリメンタルなブレイクビーツ)、〈Rock Baby Soundsystem〉(ウルトラへヴィーなドラム&ベース/ジャングル)もここから発信した。とにかくベースメント・ミュージック・レコーズ抜きでは我々のベース・ミュージックは語れない。栃木のシーンに本当に影響を与えたレコード・ショップだった。残念ながら2007年にクローズしてしまったが、ここで撒いたベース・ミュージックの種は現在も着実に育っている。
〈B-Lines Delight〉のメンバーは、みんなキャリアが長い。90年代初頭のテクノ、ハウス、レイヴ・サウンドからはじまってジャングル、ドラム&ベースを経てブロークンビーツ、2ステップ、グライムそしていまのダブステップやUKファンキー、UKハウスなどのベース・ミュージックに繋がっている。レゲエやブリストル・サウンド、ヒップホップ、ハードコア・パンクを通過してきたヤツもいる。芯の意味でベース・ミュージックというものを理解できる土壌がこのキャリアの長さと雑多な感覚でもってでき上がっている。それがDD BlackやSivariderのような世界共通のヴァイブスの流れにもなっている。
若干大げさに書いてきたけれども、当のDJたちは気張らずに超自然体でこれらをやっていて、というのも昔からエッジの立ったことをやってきたにもかかわらず注目されない、というか外にアピールするのが苦手な栃木のDJたちはなかばそれを諦め、(たぶん)音に愛情と情熱を注いできた。ゆえに純正培養されピュアな土壌が作られてきたとも言える。いまある状況はとても喜ばしいことだけど、そこまで特別なこととは思っていない。逆に自分たちに注目してくれるような同じヴァイブスのヤツらが世界中にいるんだなということのほうが嬉しかったりする。

ダブステップ、UKファンキー、UKハウス、グライム、ジャングル、ドラム&ベースなどなど......このラウドな音楽に夢中になって早十数年。我々が何故ベース・ミュジックかと言う答えは、スミス&マイティの『Bass Is Maternal』にある。このアルバムを是非聴いて欲しい。この音楽が我々の思いをある程度語ってくれるだろう。こんな片田舎でこれだけのDJたちが集まり、小さいながらもこれだけの活動をしている、客観的に見ても夢のあることだし、それに楽しい。ジャンルも時間も人種も国境も、太くてアツくて温かい"母なるベース"はこのアルバムのようにすべてを繋げてくれる。そう、ベース・ミュージックはこんな田舎者でも夢を与えてくれるのだ。
......と、書いてる途中で東日本大震災が発生した。私が住んでいる場所は栃木県の県北地区。震度6弱の揺れが襲った。職場から大急ぎで帰ってきたら、揺れの恐怖からか子供たちが外で号泣していた。家のなかはメチャクチャだ。次々と襲ってくる大きい余震、ラジオから流れてくる悲惨な東北地方の状況、あのカオスな風景は一生忘れられないだろう。
東北地方から比べれば被害は少ないけれど、それでも近くの地区で家の全壊、半壊があったり未だ断水している地区があったり、福島から避難してきている方がいたり、東北地方の惨状を聞いていると忘れてしまうけど、あぁそういえばここも被災地なんだなとふと思い出したりする。放射能の数値も一時は有り得ない値を出していたときもあった。いま考えたら3.11までただひたすら平和な生活を送っていたんだなと思う。3.11以降、そこに日常的にあった風景や漂っていた雰囲気すら変わってしまい、それ以前に持っていた価値観も自分のなかで完全にリセットされた。原発問題に関しては、そこからちょうど100キロ圏にあるわが街も非常に考えさせられる。
〈B-Lines Delight〉がゴールデンウィークの5月2日に開催される。栃木のベース・ミュージックの未来も最前線のヴァイブスもすべ体感できる。DD Black収録のコンピレーションが発売されたまたとないタイミングだ。それまでにはみんなのトラックやDJ Mixも大量にアップされるだろう。
この文を読んで興味を持ってくれたら、5月2日はぜひ〈SOUND A BASE NEST〉に来て下さい。放射能が直ちに人体に影響は及ぼさないとしても、オレらが放つベース・ミュージックは脳や下腹部、膝を直撃し2日間ぐらい影響が出るかもしれない(笑)。ご注意を!
2011/05/02(mon)
B-Lines Delight -Golden"Bass"Week Special Bash!!-
@SOUND A BASE NEST http://club-nest.com/
Info:http://b-linesdelight.blogspot.com/
B-Lines Delight Mixes:http://www.mixcloud.com/BLinesDelight/
■Top 20 Bass Music in 宇都宮
1.DD Black - Charge - Eye4Eye Recordings
2.Sivarider - Strret Tuff - Dub
3.Sivarider - Stand Up - Dub
4.Ryoichi Ueno - Demo2 - Dub
5.DD Black - Grimness - Dub
6.Negatins - Sst Hive- Dub
7.Jo - R Type(T.Williams Refix) - Free MP3
8.Rsd - Go In A Good Day - Zettai Mu
9.Kalbata & Mixmonster feat. Little John - Sugar Plum Plum (RSD Rmx) -
Scotch Bonnet
10.I.D.&Skinnz - The Most High/No Love - Ear Wax
11.Digital Mystikz - Education - Dmz
12.Fresh - Future Jungle Ep - Ram
13.Lurka - Return - Box Clever
14.Ruckspin feat.J Sparrow - Shikra - Pushing Red UK
15.Falty Dl - You Stand Uncertain - Planet Mu
16.Shackleton - Deadman - Honest Jons
17.Shackleton - Fireworks / Undeadman - Honest Jons
18.Lone - Echo Locations EP - R&S
19.Ove-naxx - Oveke Dub EP - Accelmuzhik
20.V.A. - Tradi-Mods vs Rockers: Alternative Takes On Congotronics -
Crammed Discs
Dj END(Dutty Dub Rockz/B-Lines Delight)
栃木のベース・ミュージックを動かし続けて10数年。現在はDutty Dub Rockzに所属し、B-Lines Delightというパーティを主宰している。ダブステップ~ジャングルをメインにレゲエ、ダブ、ブレイクビーツ、ハウス等々あらゆるサウンドのベースの魂を抽出し数珠繋ぎMIX、それがDutty Dub Rockz。"Bass Is Maternal"、そんな感じで栃木でいろいろやってます。
2011年、すでに何人かの素晴らしい女性ミュージシャンが登場している。本サイトでも何枚か紹介している。しかし、チューン・ヤーズを名乗る、カリフォルニアのメリル・ガーバスはあまりにも圧倒的。5月にセカンド・アルバム『WHOKLII(フーキル)』がリリースされるが、彼女の音楽を聴いているとニーナ・シモンとアリ・アップとM.I.A.が幸せに踊っているような錯覚に陥る。パワフルで、エネルギッシュで、とにかく元気だ。
まずはこれを見て、チューン・ヤーズの爆弾のようなアルバムを待とう!
1.Pearson Sound - NSWL007 | Night Slugs

ラマダンマンは、今後メインの名義をピアソン・サウンドにするそうで、たしかにM.I.A.のリミックスの名義も、ファブリックのミックスCDの名義も、〈ナイト・スラッグス〉からのリリースとなったこのシングル「NSWL007」の名義もピアソン・サウンドとなっている。
それで「NSWL007」は、レーベルが〈ナイト・スラッグス〉だけあってその作風を大雑把に言えばUKガラージがブレンドでされたUKファンキー、とにかくフレッシュで、若々しく、痛快だ。アフロでヘヴィーなキック・ドラムが腰に響くA面は、ロッド・リーによるゲットー・ブレイクな"Let Me See What U Workin With"をネタにしたリフィックス(remixではなくrefix)で、フリップ・サイドは驚くなかれ......ルイ・ヴェガが1993年にプロデュースしたハードドライヴによる"Deep Inside"のリフィックスだという。およそ20年前に〈ストリクトリー・リズム〉から発表された音源がいまこうしてダブステップ経由で(著しく変形しているとはいえ)ファンキーに蘇っている。
2.Jacques Greene / Optimum - Night Slugs Allstars Sampler | Night Slugs
それにしてもピアソン・サウンドまでもが〈ナイト・スラッグス〉、訳せば〈夜のナメクジ〉から作品を出したという事実は興味深い。いまもっとも勢いのあるプロデューサーとレーベルとの出会いだから。早い話、このレーベルはそれがUKガラージであれテクノであれダブステップであれ、モダンなセンスを有したダンス・ミュージックでありさえすればいいのだろう。
ジャッケス・グリーンとオプティウムによるスプリット・シングル「Night Slugs Allstars Sampler」は昨年末のコンピレーション・アルバムからのヴァイナル・カットで、ジャッケス・グリーンのほうはシカゴ・ハウス寄りに、オプティウムのほうはトランシーなテクノ寄りに向かっている。リリースは4ヶ月ぐらい前のものだが、ジャッケス・グリーンはこのデビュー作に端を発したかのように、今年に入ってグラスゴーの〈ラッキーミー〉から早速2枚のヴァイナルを切っている。レコード店で見かける度に買うかどうか迷ってまだ買っていない......が、こんど行ってあったら買おうかなー、リミキサーがジョイ・オービソンの〈ドルドラムス〉からデビューしたブライデンだというのが気になっているし......。
3.Eccy - Flavor of Vice | Slye
エクシーが自分の音楽の方向性をダブステップ以降のダンスに定めてからの最初のオリジナル作品がようやく、フィジカルとしてリリースされた。「Flaver of Vice」は7曲入りのCDシングルで、うち2曲はリミックス(〈プラネット・ミュー〉から作品を出しているロンドンのスビーナ、そしてフランスのサム・ティバ & マイド、どちらも注目株)が収録されている。最初に耳に残るのは〈ナイト・スラッグス〉的な雑食性の高いトラックで、"Flaver of Vice"は4/4のキック・ドラムにファンキー風のパーカッションとエレクトロ・タッチのシンセのフレーズが挿入される。
"Old Snake Rapier"はおそらく本作でもっとも魅力的なトラックだ。シンプルなシンセの反復にチョップされた声が絡んでいく派手な展開だが、ベースとドラムのコンビネーションがスムーズで、彼が目指すところのダンスの熱狂がもっとも聞こえる。
いっぽう作品の構成としては最初の2曲とは対をなすように、3曲目の"Solve The Fullmoon Sex"はダークなダブステップで、続く"Plastic Soul"もディープな展開を見せている。5曲目の"Dog Tooth"はドリアン・コンセプトの美しさとラスティの激しさあいだで鳴っているようなダウンテンポで、彼が何とか新しい第一歩に踏み出そうとしていることがよくわかる。
日本のヒップホップにおけるトラックメイカーのほとんどは、せいぜいマッドリブやジェイディラ、MFドゥームで止まっている。それはもう、10年前の話だ。さあ、先に進もうぜと、かつてはシンゴ02とタッグを組んでいたこともあるこのビートメイカーの新しい作品は呼びかけているようだ。
4.Joy O - Wade In / Jels | Hotflush Recordings
ジョイ・オービソンあらためジョイ・O名義による最初のシングルはスキューバの〈ホットフラッシュ〉からのリリースとなった。スキューバの音楽はいまや立派に"テクノ"だけれど、オービソンはいまだダブステップのにおいを残している。
A面の"Wade In"はアシッディなベースラインとトランシーなリフを兼ね備えた4/4ビートだが、ブリアル直系の亡霊のような声とダークなアンビエントの掛け合いがなんとも効果的で、テクノとダブステップとのあいだの領域のより深い場面へとリスナーを誘惑する。"Jels"も彼らしいマッシヴな4/4ビートで、こちらはミニマル・テクノが忘れてしまったダンスの熱さを実にスマートに展開している。彼らしい、気の効いたダンス・トラックである。
5.Joy Orbison - BB / Ladywell | Doldrums

ジョイ・オービソンは、昨年末も彼自身のレーベル〈ドルドラムス〉からもシングルを出しているが、僕個人はこちらのほうが好みである。
"BB"にはリズム・イズ・リズムのパーカッシヴなグルーヴがあり、シカゴ・ハウスのベースラインがある。"Ladywell"はロン・トレントを思わせる気品のあるメロウなディープ・ハウスで......というか、この人は絶対にハウスで踊っているだろ! 再プレスをしないことで知られるレーベルなので、まず無いとは思うが、奇跡的に見つけたときは迷わないこと。
6.Koreless - 4D / MTI | Pictures Music
グラスゴーで暮らす19歳の、この名義によるデビュー・シングルで、フォー・テットにも似た美しい音色を持った素晴らしい1枚。
"4D"は流行の声ネタを使いながら、2ステップとディープ・ミニマルをシェイクして深夜のエレクトロニカを調合している。"MTI"は、ダブステップ世代によるディープ・ハウスで、ジェームス・ブレイクよりも彼の資質がロマンティックであることをほのめかしている。
いずれにしてもダブステップの新しい静けさがここにある。素晴らしい新人の登場だ、ジャイルス・ピーターソンおじさんが騒ぐ前に聴け!
7.James Blake - The Wilhelm Scream | Atlas Recordings
B面には未発表曲が2曲。"What Was It You Said About Luck"は、言ってしまえばアルバム収録曲の同じ感覚の歌モノだが、アンビエント調の"Half Heat Full (Old Circular)"はなかなかすごい迫力。マッシヴ・アタックというよりも、コクトー・ツインズに近い。
8.Burial + Four Tet + Thom Yorke - Ego / Mirror | Text Records

ブリアル、フォー・テット、そしてトム・ヨークによるコラボ・シングルで、ヴァイナルに関しては、おそらく日本全国のそれぞれのお店に到着してわずか数時間で売り切れている(万が一、見つけたら迷わず買え!)。トム・ヨークはヴォーカリストとしての参加だと思われるので、ブリアルがフォー・テットとの共同で彼の〈テキスト〉から作品を発表するのは2009年の「Moth / Wolf Cub」以来のことで、あのシングルを聴いている人なら犠牲を払ってでも手にしたい作品だったろうし、そしてこのシングルはそうした期待にある程度は応えている。そう、ある程度は......。というのも、トム・ヨークの歌が、まあ悪くはないのだけれど、必ずしも必要とも思えないからである。だいたいこのシングルを心待ちにしていたのは、レディオヘッドのファンではないだろう(UKの音楽シーンにとってはでかいだろうね。なにせトム・ヨークがロンドンのアンダーグラウンドにおける最良のパートに自らアプローチしているのだから)。
A面の"Ego"では曲の後半にピアノのソロ演奏が入るのだけれど、そのエレガントな響きが素晴らしい効果を上げている。"Mirror"ではアトモスフェリックなアンビエントが艶めかしい闇のミニマリズムと見事に噛み合っている。ブリアルのファンの側から言えば、彼がミニマルにアプローチしているのがこのプロジェクトで、さすがに"Moth"ほどの衝撃はないにせよ、この艶めかしい陶酔はやはり代え難い。僕個人にはっきりと言えるのは、もしこの2曲がレディオヘッドの新作に収録されていたら、そのなかでもっとも好きな2曲になったであろう......ということである。
9.Burial - Street Halo | Hyperdub
いよいよ、6月にサード・アルバムのリリースが予定されているブリアルの新曲。ヴァイナルには、ミキサーのメーターがいきなりレッドゾーンに突入するすさまじい音圧が彫られている。"Street Halo"は、メランコリックなブリアル印だが、彼のなかでもとくにグルーヴィーな曲なひとつ。ジョイ・オービソンやピアソン・サウンド、アントールドたちと歩調を合わせるかのように、ゼロ年代の音楽を方向付けたダブステッパーはクラブのダンスフロアへと向かっているようだ。フリップ・サイドの"NYC"はメロウなダウンテンポで、"Stolen Dog"歪んだダブ。真打ち登場というか、どちらもエロティックなディストピア・サウンドで、アルバムへの期待が高まる。(←サード・アルバムが控えているというのは『Fact Mag』のエイプリルフールだったそうです!! 見事に騙されました!!)
10.Panda Bear - Surfers Hymn | Kompakt
3枚目のアルバムのリリースを控えたリスボン在住のアニマル・コレクティヴのメンバーは、すでに3枚の7インチ・シングルを〈ファットキャット〉〈ドミノ〉〈ポウ・トラックス〉の3レーベルから出していて、僕は〈ファットキャット〉からのシングルがいっとう好きだが、「Surfers Hymn」は〈コンパクト〉からリリースされて、このシングルのみがリミックス・ヴァージョン入りで、しかもそのリミキサーがアクトレスと言われれば買うでしょ。
まあ、結論を言えば可もなく不可もなく......かな。アクトレスらしいスケベったらしい変わったミニマルで、と同時にこれがまた思いも寄らなかったダンス・トランスなんだけれど、だったら12インチでリリースすべきだった。
11.Dorian Concept - Her Tears Taste Like Pears | Ninja Tune
当時ほとんど無名のドリアン・コンセプトは2009年にオランダの〈キンドレッド・スピリッツ〉からデビュー・アルバム『When Planets Explode』を出したときから、彼はただその才能によってファンを唸らせていたものだが......、いまやフライング・ロータスのパートナーとして、あるいは彼のコズミック・サウンドのもっとも有力なネクストとして注目を集めている。
このオーストリア人は、幼少期からクラシックを学び、ジャズに遊びながら、その反骨精神によって実験的なヒップホップに手を染めてきた人だという話だが、いまや彼のスキルとその方向性は時代の最先端に躍り出たというわけだ。〈ソナー・サウンド・トーキョー〉でも、サブステージとはいえ、ドリアン・コンセプトのDJのときは入れきれないほどの満員だった。今年〈ニンジャ・チューン〉からリリース予定の彼のセカンド・アルバムはけっこうな騒ぎになること必至......だろう。
A面はレーベルの首領でありエレクトロからトランスまで実験精神に溢れたトラックを頻発するPeter Van Hoesenと前回のレヴューでも紹介したモダン・アシッド、ミニマル・トランスを次々と生み出すイタリアのDonato Dozzyによる最新狂作。昨年〈CURLE〉からふたりの作でリリースされたダブステップのグルーヴに一歩も引けを取らない、幼女の柔肌のように繊細かつ柔軟なテック・ハウス"Tails"から一転、今回の"Elektra"ではレーベルのカラーに合わせ、モノトーンで金属的な質感のミニマル・テクノを基調としている。トリッピーな飛び音のシンセ、シャープで図太いシンセのリフも良い。ヴァイナルで聴くとJames Ruskinのようなオールド・スクールなミニマルよりも音圧は薄く少々味気なく感じるが、隙間があって軽さを持たせたグルーヴは心地よいダンスを見事に誘発する。
B面は各国の主要レーベルと契りまくる沖縄在住の大魔神Ioriと先日まで東京で活動していた友だち思いのイギリス人、Dave Twomeyの変名であるTr_nchによる奇跡の狂作。電気の武者"Elektra"とほぼ同様のカラーで構成された深海魚"Barreleye"はシカゴ・アシッドの質感を残したスネアのプログラミングがいい意味でのテクノのエグさを引き出している!! 奥行きのある空間で、過剰に歪められ凶暴に響くベースシンセがねっとりと絡みつく。そうまさにそれは深い海の底、あるいは熟女の執念のような深い闇を見事に写し出している。スタイルの違いを考慮しても、強度や深さ、アイデアにおいて"Barreleye"の深度が劣っていることはない。そう、このトラックこそがもっとも深いテクノである。
先日リリースされた田中フミヤのシングルも〈PERLON〉の作品に劣らないクオリティだったし、あまり言われてないことだが、現在の日本のテクノは素晴らしい。Ioriはアンビエントもたくさん作り貯めしていると言っていたし、これからもっとも期待ができるアーティストだといって間違いない。
噂のシミラボがついにDOMMUNEに生出演します!! 3月15日(火曜日)です。
ちなみに7時からは、急遽、XL レコーディングスの社長、リチャード・ラッセルさんとジェイミーXX(ザ・XX)の公開インタヴューをやることになりました! ギル・スコット・ヘロンの『アイアム・ヒア』、そしてそのリミックス盤『ウィ・アー・ニュー・ヒア』について訊きます。どうぞお見逃しのないよう!
また、当日はシミラボのライヴのほか、女性ラップ・グループのデレラのライヴも決定しました。トークショーではムードマンも参加、都合が合えば、DJ CONOMARKもかけつけてくれることになりました!
そこで今回は格好いいPVを2本、紹介しましょう。
まずは、2009年にYouTubeにPVがアップされ、SIMI LABの名を世間に知らしめることになったヒット曲"WALKMAN"、もう1本は、Earth No Mad From SIMI LAB名義による3月25日に発売予定のアルバム『Mud Day』から"Don't Touch Me feat. QN"。
また、QNによるアルバムのインスト集『Mud Day Instrumentals』も同時発売しますよ!(アナログ盤も発売予定とのことです!)
......それにしてもこのENMの写真、良いですね。古い日本家屋の四畳半とヒップホップとのハイブリッディな感覚がたまらないです......。
とりあえず、3月15日のDOMMUNE、乞うご期待!ですよ
Don't Touch Me feat. QN
先日、〈TempleATS〉よりデビュー・アルバム『12 Seaspnal Music』を発表したYAMAANですが、この度、その収録曲のゴールドパンダ・リミックスがフリーダウンロード解禁になりました! パンダ節とも言える叙情とつんのめり気味のチョップがYAMAANの潔癖な音楽性とみごとに合っています。
(試聴)
http://soundcloud.com/yamaan
(ダウンロード)
http://www.megaupload.com/?d=O0UUZN4U
1. Tin Man / Nonneo | Absurd Recordings

ケン・キージーの『カッコーの巣の上で』から早50年、新年早々L.Aの〈アブサード〉から興味深い「アシッド・テスト」が届きました。〈アブサード〉はセカンド・サマー・オブ・ラヴの当時からU.Kの最前線で活躍するハウスDJのエディー・リチャーズを中心に、タイガー・スキンやデイヴ・DK等、DJの目線からシンプルにグルーヴを追及したテック・ハウスをリリースしています。そして今回新たにスタートしたシリーズがその名も〈アシッド・テスト〉です。
この〈アシッド・テスト〉はいわゆる「アシッド・ハウス」に焦点を当てたリリースをしていくラインのようです。ハウスもテクノもトランスも音楽自体はDJピエールの"アシッド・トラックス"から地続きのもので、それぞれを音楽から明確に分ける定義は存在しないのですが、TB-303を元にするベース音はこれらの音楽に共通して用いられ重用な役割を担っています。TB-303とは〈ローランド〉が作ったベース・マシンの名称でいわゆる「アシッド・ハウス」の音色を決定付ける楽器のひとつです。
なぜジャンルの細分化が進んだかと言うと、野田さんのアレックス・パターソンのインタヴューを参考にしていただくとありがたいのですが、80年代にパンクがヒッピーを批判したように、90年代の初頭にジュリアナに代表されるお立ち台のナンパ箱でかかっていたアシッド・トランスとデトロイトやシカゴからリリースされていたアンダーグランドなハウス、テクノを区別する必要があったからです。
そしてダニエル・スタインバーグ、ミュートロンのレヴューを参考にしていただけるとありがたいのですが、「アシッド」はテクノを構成する基本的な要素であるためにリヴァイヴァルを繰り返しています。そしてまさにいま「アシッド」は再び息を吹き返しつつあるのです。それはクリック、ミニマル以降のテクノ・シーンのなかで音楽性の向上とグルーヴの組み換えに重点が置かれたモダン・ミニマルへの反動によるもので、ベルリンの〈ベルクハイン〉を中心に活動するマルセル・デットマン、このシングルでもリミックスで参加しているミニマル以降のトランスの可能性を追求するドナト・ドッジー、ダブステップとハード・ミニマルを結びつけハードコアの復権を試みるトラヴァーサブル・ワームホールなど、単純でピュアな"シビレ"をフロアがふたたび求めはじめているのです。日本では沖縄在住のイオリがこの流れのなかでディープなトラックをリリースしています。
〈アブザード〉はロンドンのファブリックを中心としたテック・ハウスのシーンから「アシッド・リヴァイバル」を画策しているようです。シリーズの1番を飾るのはカリフォルニア生まれウィーン在住のアシッド狂、ティン・マンことヨハネス・アウヴィネンです。自ら主宰する〈グローバル・エー〉をはじめ、パン・ソニックの〈キー・オブ・ライフ〉、パトリック・パルシンガーの〈チープ〉、ペンシルバニアの〈ホワイト・デニム〉などから一貫して「ACID」をテーマにしたリリースを続けています。〈エフ・コミュニケーション〉の中核であるヨリ・フルコネンが指揮を執り、10台のTB-303を使用し行われたインスタレーション、アシッド・シンフォニー・オーケストラにも参加していました。昨年〈グローバル・エー〉からリリースされた3枚組みのアルバムでは、全曲ノンビートのドローンやアンビエントが集められ、TB-303のアシッド音響を用いた、従来のハウスとは異なるアシッドへのアプローチをみせていました。
今回のシングルではメランコリックなメロディーとTB-303の絶妙なヨレ具合が心地よいリラックスした空気のディープ・ハウスとクラシカルで穏やかなアンビエントを聞かせています。ハードな質感ではなく独特の音の歪みを引き出したトラックです。ドナト・ドジーのリミックスはオリジナルのダヴヴァージョンと言えるもので、深いエコーの中で原曲のメロディーが浮き沈みするディープ・ミニマルを聞かせています。
90年代には激しければ激しいほど良いとされた「アシッド・ハウス」ですが、ゼロ年代以降のミニマルで濾過されて、ほんの少しかもしれませんが変化を遂げているようです。(メタル)
2. Sepalcure / Fleur | Hotflush Recordings
その昔......とういか、いまもそうか、マシン・ドラム名義(10年前、プレフューズ73と比較されたアブストラクト系の雄)でならしたトラヴィス・スチュワートがダブステップに転向してからの2枚目のシングルで、はっきり言って素晴らしい。
ジェームス・ブレイクの"CMYK"の影響を受けながら、IDM系のドリーミーなテイストをダブステップに変換したタイトル曲は、「この手があったか!」と。ソウルフルな"ユア・ラヴ"は『パラレル・ユニヴァース』の頃の4ヒーローというか、アンビエント・テイストの浮遊感が心地よい。とにかくドラム・プログラミングの細かさは見事で、彼の長いキャリアを感じる。もっとも長い"ノー・シンク"は、マウント・キンビーの方法論を、ダブの実験台で引き延ばしている感じ。
(野田 努)
3. George Fitzgerald / Don't You | Hotflush Recordings
スキューバによる〈ホットフラッシュ〉レーベルが、いまダブステップとハウス/テクノの両方にまたがっていることをあらためて証明する1枚。レディオヘッドの新作を聴いたけれど、アントールド以降のダブステップからの影響を受けていることに驚いた。だって......いわゆるハウスやテクノに接近してからのダブステップである。フロアよりのテクノ系ダブステップだ。
実際、スキューバの〈ホットフラッシュ〉、アントールドの〈ヘムロック〉、ラマダンマンの〈ヘッスル・オーディオ〉、元〈ニンジャ・チューン〉のスタッフによる〈アウス(Aus)〉......このあたりはいまもっとも勢いを感じる。ジョージ・ジェラルドの"ドント・ユー"は、ジョイ・オービソン的なスムーズでソウルフルなグルーヴをさらにミニマル寄りにした感じで、B面のスキューバのリミックスは完全に4/4ビートのテクノ。きっとメタル君も気に入ってくれると思う。(野田 努)
4. Adele / Rolling In The Deep (Jamie XX Shuffle) | XL Recordings
ジェイミー・XXが隠し持っていた才能は、彼のギル・スコット・ヘロンのリミックス(シングル買ってしまったよ......)で充分に証明されたわけだが、アデーレのこのリミックスでもそれは引き続き発揮されている。ジェイミーによるトラックはスローテンポのハウスとエキゾティックなクラップのブレンドで、アデーレのソウルフルなヴォーカリゼーションとの組み合わせが実にユニーク。まさにハイブリッディである。
しかし......これも「NYイズ・キリング・ミー」と同じ片面プレス。MIAのラマダンマンのリミックスもそうだったけれど、1曲で1100円は高いぞ。(野田 努)
5. Mizz Beats / Are We The Dictators? | Eglo Records- Minimal, Techno -

これもまた、グライム/ダブステップの新たなる"ネクスト"を象徴する1枚でしょうね。それをひと言で言えば、ブロークンビーツもしくはニュー・ジャズへの一歩。1曲目の"ザ・デイ・ビフォア・トゥモロウ"は4ヒーロー×1990年代初頭のカール・クレイグといった感じのジャジー・フロウを持ったスペース・ファンク。B面の"ソファ・ビート"と"2ビット・ロード"もソウルフルなフュージョン・テイストで、〈ディープ・メディ〉から発表した前作におけるティンバランドとネプチューズからの影響とはずいぶんと離れている。女トラックメイカーのミズ・ビートによる3枚目のシングルは、ある意味予見的な内容となった。(野田 努)
6. SBTRKT / Step In Shadows EP | Young Turks- Drum n Bass -
仮面を被ったサブトラクト――すでにベースメント・ジャックス、MIA、マーク・ロンソン、アンダーワールドといった大物から、ホセ・ジェームスやジーズ・ニュー・ピューリタンズ、タイニー・テンパーなど幅広いジャンルの重要作品のリミックスを手掛けている。いかに彼が期待されているのかを物語っていよう。
これは4曲入りのシングルで、もっとも人気のあるキャッチーな"ルック・アット・スターズ"が収録されている。"ルック・アット・スターズ"はホントに良い曲、キーボードのメロディはマイク・バンクス調で、ドライヴするベースラインは宇宙を駆け抜ける。
B面の"コロナイズ"の最初のベースライン、これもまたたまらない。フューチャー・ガラージとかなんとか言われているけど、オジサンの耳にはUKのベース・サウンドとシカゴ・ハウスの融合に聴こえる。
ちなみにこれ、アナログ盤のレーベル面の曲名がA面B面逆になっている。プリントミスでしょうね。(野田 努)
ゴールド・パンダのニュー・ヴィデオが完成しました。『ラッキー・シャイナー』収録曲「マリッジ」です。ロマンティックな映像です。
デビュー・アルバム『ラッキー・シャイナー』ですが、先頃『ガーディアン』の、2010年デビューのアーティストへ送られる新人賞、"Guardian First Album award(ガーディアン・ファースト・アルバム・アウォード)"を獲得しました!
そして実は、〈TempleATS〉よりデビュー・アルバム『12シーズナル・ミュージック』を発表したばかりの日本人のアーティスト、Yamaanのリミックスも手掛けました。これがまた良いんです。近いうちに発表しますね!
これまでヴァレンタインとはほとんど無縁な人生を送ってきた、そしてこれからもそのように過ごすつもりだ......が、この「ヴァレンタイン」は気になるね。2011年の注目株のひとり、SBTRKTのヒット・シングルにフィーチャーされたふたりのシンガーによる「ヴァレンタイン」である。すでにシングル発売され話題になっていた曲で、知っている人も少なくないはず。ele-kingからヴァレンタインに無縁なみなさんへのプレゼントということで......。
2011年、音楽における"プロテスト"は何処にいった? 何処にもいかない。ここにある。シミ・ラボに引き続き、ele-kingが注目する若手ラッパー、ハイイロ・デ・ロッシの新曲。昨年末話題となったポリティカル・ラップ「WE'RE THE SAME ASIAN」以来の新曲で、彼は今日の日本のドラッグ・カルチャーのネガティヴな側面を容赦なく浮き彫りにしている。
今週末に、二木信による彼のインタヴュー記事がupされます。乞うご期待!
1. Shackleton / Man On A String Part 1 And 2 / Bastard Spirit
Woe To The Septic Heart!
相変わらず豪邸暮らしのメタルが書いてくれないので、自分で書くことにする。昔から言われているように、人間は満足してしまうと欲を無くすのだ。ある意味では羨ましい限りであり、また、メタルのような人間がDJとして暮らしていけるというのも悪いことではないか......などと思ったりもする。
さて、昨年末、テクノ・シーンにおいてもっとも評判となったアルバムがシャックルトンのミックスCDである。全曲自分のトラックでミックスされたそれは、いわばミュータント・ワールド・ミュージックであり、アフリカン・パーカッションのポスト・ダブステップ的展開である。その素晴らしいミックスCDとほぼときを同じくしてリリースされたのがこのシングルで、いまだロング・ヒット中である。
実際の話、「マン・オン・ア・ストリングス/バスタード・スピリット」は魅力いっぱいのシングルだ。アフロ・パーカッションをベースにしているとはいえ、サイケデリック検定試験ではAクラスの飛びようで、意味不明な効果音と脈絡のない展開の迷宮のなかで、アシッドをきめながら薄暗い熱帯雨林を歩いていると珍獣に出会ってしまっかのような、あるいはJGバラードめいた極彩色のディストピアが広がる。それでもベースは太く、グルーヴがある。DJならずとも欲しい1枚である。こういうシングルが売れるのは......、まったく悪いことではない。
ミックスCDに関しては、後日レヴューする予定です。
2. Jessie Ware & SBTRKT / Nervousem | Numbers
サブトラクトには素晴らしい才能があると思う。ジョイ・オービソンとならぶ才能だ。ロスカがケヴィン・サンダーソンなら、サブトラクトとジョイ・オービソンははっきりとカール・クレイグだと言える。さすが、ザ・XXを輩出した〈ヤング・ターク〉がダブステップ・シーンから引っこ抜いただけある。とにかく、部族の仮面を被ったこのトラックメイカーは2011年の注目株のひとつだし、ジェームス・ブレイクと並んでアルバムが期待されているひとりである。
サブトラクトの音楽性は幅広い。いまとなってはダブステップというよりも、デトロイティッシュなエレクトロやディープ・ハウス、あるいはジャジーなブロークンビーツ風の作品のほうが印象深い。12インチ2枚組の「2020」にはアトモスフェリックなテクノ色が強く出ていたし、〈ヤング・ターク〉から発表した"サウンドボーイ・シフト"にはダブの深みが広がっていた。"ルック・アット・スターズ"は彼のなかではもっともキャッチーな曲で、それこそカール・クレイグの作る歌モノのようなエレガントな色気がある。
「ナーヴァス」は昨年末にリリースされたシングルで、タイトル曲はジェシー・ウェアのR&Bヴォーカルをフィーチャーしたキラー・チューンである。シンセのベースライン一発で決まってしまうという、クラブ・ミュージックにおいてハイレヴェルの曲だ。B面のアップリフティングなファンキー調の曲も捨てがたい。世界にはダンス・ミュージックを作れる人と作れない人の2種類がいる。サブトラクトは間違いなく前者である。
3. M.I.A. / It Takes A Muscle (Pearson Sound Refix) | XL Recordings
〈XL〉も味なことをする。これは昨年の『/\/\/\Y/\』収録曲の、ラマダンマンのピアソン・サウンド名義による片面のみのリミックス・シングルだ。広くはダブステップ・シーンのひとりではあるけれど、アルバムに参加したラスコとは毛色が違う。ラマダンマンは、ラスコと違ってアンダーグラウンドである。クレジットを見ただけで迷わず買ったこのシングルだが、ドラムマシンのスネアを主体としたプラスティックマン流の打ち込みの、よく知られるところのラマダンマン・サウンドで、違いといえばM.I.A.の声が入ることぐらいなのだが......まあ、良しとしましょう。キャッチーだし、後半のトリッピーな展開もありがちだが親しみやすい。まあ、M.I.A.の声がこのビートに混じっているだけでも興奮するよ。
4. Silkie / City Limits Volume 1.4 | Deep Medi Musik
シルキーは本当に格好いいよなー。A面の"スロウジャム"における重量級のダブステップ・ビートから最後の最後で鳴り響くメロウなサックスを聴くと彼がマイク・バンクスやイアン・オブライアン、あるいは4ヒーローのようなプロデューサーの系譜にいると言っても差し支えないんじゃないかと思える。 B面の"ワンダー"におけるシンコペーション、さりげないサックスの入り方、ベースのうねり、そして鍵盤の音色もそうだ。これが最新のアンダーグラウンド・ブラック・ミュージックであり、これがアーバン・ミュージックというもの。"シティ・リミッツ"シリーズの最新は、まったくを期待を裏切ることのないソウルフルな1枚であり、しかもこの人からは目が離せないとますます思わせる良いシングルである。
5. Moritz Von Oswald Trio / Digital Mystikz - Restructure 2
Honest Jon's Records
「ベルリンでミニマル」と言われただけで耳に栓をするような人は少なくない。僕が「ベルリンでミ......」と言った時点で不機嫌になる。わからないでもない。僕も昔は「ニューヨークでパ......」と言われただけで不機嫌になった。しかし、そんなせっかちな人にもこのシングルは薦めてみたい。モーリッツ・フォン・オズワルド(k)、マックス・ローダーバウアー(b)、サス・リパッティ(per)の3人と、そしてティキマン(g)によるモーリッツ・フォン・オズワルド・トリオの新作である。昨年リリースされたライヴ・アルバムも欧米ではすこるぶる評判が良かったが、メタルが何も言わないので僕はまだ聴いていない。それでもこのシングルを何故買ったかとえば、驚くべきことにB面をDMZのマーラがリミックスしているからである。ベルリン・ミニマルのゴッドファーザーが初めてロンドンのダブステップと手を組んだのだ。そして......マーラのリミックスは悪くはないのかもしれない、が、しかしA面に収録されたオリジナルの前ではかすんでいる。というか、マーク・マッガイアの蜂蜜たっぷりのミニマルを聴き込んだ耳にはこのストイシズムが新鮮に聴こえる。単調なキックドラムと曲の背後でうねっているベースとのバランスは見事で、抑制されたキーボード、ギターが地味であることの良さを最大に引き出す。
ちょっとちょっと、これは格好いい! 2011年注目のひとつ、相模原のヒップホップ・クルー、シミラボ(SIMI LAB)からアース・ノー・マッドの"Don't Touch Me feat. QN From SIMI LAB"のPVが到着した。待望のアルバム『Mud Day』は、〈SUMMIT〉より3月25日にリリース予定。
1. Commix / Re: Call To Mind | Metalheadz
-Drum n Bass, Dub, Techno, Dubstep, House-
この概要を知ったとき、ドラムンベース界隈ではいままでになくまったく新しいコンセプトでリミックス・アルバムが発売される......と、その斬新なアイデア、これに関わっているメンツを見て嬉しく思う反面、ドラムンベースを代表するレーベル〈メタルヘッズ〉から初めてと言っていい、ドラムンベースがほとんど入っていない4つ打ちやダブステップがメインのコンピレーション・アルバムを発表したことで内心複雑な心境に陥った。良い意味でも悪い意味でも。多種多様なエレクトリック・ミュージックのなかにあって90年代、類稀な貪欲性を孕み、全ての音楽性を飲み込んで誕生したUK産のアンダーグラウンド・ミュージック・カルチャー、ドラムンベースが、この20年で下降線を辿り岐路に立たされているのは間違いない事実。とは言え、浮き沈みが激しく、また消えては生まれるクラブ・カルチャーにとって、ある一定のアンダーグラウンドな音楽的価値観を下げずによくここまでシーンを受け継いできたと賞賛すべきだろう。新たな10年代に向けて、共存するのもまたUK特有の雑食性ならではの必然的事変なのだから......。
さて、コミックスは、ボーズ・オブ・カナダやオウテカなどエレクトロニカなバックボーンを持ち、陶酔性と流麗テクノ・ポップを下地とするディープ・ミニマルなインダストリアル感覚を空間的に落としこんだ、言うなれば新感覚ドラムンベースだ。LTJブケムのコズミック志向をさらにテクノよりのミニマリズムへと変え、ディープ・フロー旋風を巻き起こした功労者だ。
肝心の内容も、まったく素晴らしく良い! このメンツにリミックスを依頼すれば当然だが、しかしよくもまあ、これだけの多士済々なメンツにリミックス・オファーを出したと脱帽する。ある意味この戦略は、ドラムンベースに触れていないリスナーにも広くアピールできる可能性を多分に擁している。
その戦略は功を奏し、現在大ヒット中、アナログのEP1では、唯一のドラムンベースを担当したDブリッジのディープ・テックな"Belleview"リミックスからはじまり、ミニマル・ダブステップの雄、2562の別名義、ア・メイド・アップ・サウンドによる"Change"、さらにパンゲアやインストラ:メンタルがポスト・ダブステップ・リミックスを秀逸にリワークしている。
EP2では、旬なテクノ/ミニマル・プロデューサーのリミックスで固められている。まずはベルリン・ミニマル・シーンを代表するマルセル・デットマン、カセム・モッセや〈ホット・フラッシュ〉のシーガなど、各プロデューサーの個性が十二分に発揮されている。
先行リリースされた限定片面プレスの「Be True」のブリアル・リミックスはやはり一押しである。崇高なノイズ・スケープをダブステップと同化させ、緊迫感とインダストリアルな荒廃がリズムを主体としたダンス・ミュージックの概念に一石を投じている。分散化するダブステップにあって、一貫した核を変わらず有し、重苦しいサウンドスケープが幾重にも連なって続いていく......。当時革新的であったこの手法は、いまでもまったく色褪せず異彩を放っている。
ちなみにCD盤にはデトロイトのURがリミックスに参加している。
......とにかく、エレクトリックな『Call To Mind』はこのリミックス盤でまったくの変貌を遂げている。もしお気に召したならオリジナル・トラックと聴きくらべることを推奨する。コミックスがいかに優れたプロデューサーなのかがわかるからだ。
2. Hatcha & Lost / Work Out | One Gun Salute - Dark Dubstep -
ハッチャと言えばダブステップのオリジネーターであり、ゴッドファザー・オブ・ダブステップ、生みの親的な存在として広く知られている。ドラムンベースで言うゴールディーのような存在で、テクノで言えばジェフ・ミルズのような存在かもしれない。この度、12月18日のカブキ&ジェナGとともに初来日がDBSで決まった。スクリーム、ベンガを見出したというそのレジェンダリーな貫禄のあるプレイは必見だ。
彼のキャリアは、クロイドンの伝説的レコードショップ、〈ビック・アップル〉でバイヤーを務めたところからはじまる。第一次ジャングル/ドラムンベース・ブームが落ち着いた90年代後半からUKガラージのDJとして海賊ラジオ局で活動、ダブステップのルーツともなったダーク・ガラージをいち早く取り入れている。ホースパワー・プロダクション(野田さんが第一回目のダブステップ会議で紹介したレコード)やエルビーなど、クロイドン・プロデューサーを次々と紹介した。まだ10代のキッズだったスクリームやベンガを見出し、そしてサウンドはダブステップへと変異したのだ。
2001年にはじまったパーティ〈FWD>>〉でハッチャはレジデントDJを務める。また、プロデューサーとしても活躍し、「ダブ・エクスプレス」など後の後世に多大な影響をおよぼす作品を送り出す。2004年には〈テンパ〉から初のミックスCDシリーズ『ダブステップ・オールスターズ vol.1』をリリース、その後の2006年の同シリーズの『vol.4』などのリリースを重ね、シーンの核として君臨している。2009年には自分のレーベル〈シン・シティ・レコーディングス〉を立ち上げ、目が離せない人物として活動を続けている。
「ウォーク・アウト」は、新興レーベル〈ワン・ガン・サリュート〉から発表した「ヘンチ」のリリースで名を馳せたロストとの共作。テッキーでダークに仕立てたプロダクションで、オールドスクール・レイブ・サウンドだ。硬質なビートにダークな浮遊的シンセ、ダビーなベースライン、これこそオリジナル・ダブステップの基本姿勢だろう。この辺が彼を「ドン」と呼ばせる所以かもしれない。
DRUM&BASS SESSIONS 2010
DRUM&BASS x DUBSTEP WARZ X'mas Special !!!
Feat. DJ HATCHA / KABUKI & JENNA G
2010.12.18(sat) @ UNIT
open/start 23:30 adv.3,500yen door.4,000yen
3. Helixir / Undivided | 7even Recordings - Minimal Dubstep -
先月ラマダンマンを迎え、〈モジュール〉で〈Basement LTD〉が開かれた。これは〈セヴン〉レーベルのオーナー、グレッグ・Gが母国フランスではじめた自身のパーティを日本でリスタートさせたもの。筆者はラマダンマンの後に出演させて頂いた。ポスト・ダブステップを十二分に体感できた素晴らしいパーティで、大盛況に幕を閉じた。予想通りラマダンマンは、無機質なミニマル・ビーツをこれでもかと繋ぎ合わせた。次回開催は、12/10(fri))。〈テクトニック〉からネクスト・ダブステップを予感させるジャック・スパロー(以前のサウンド・パトロールでも紹介)を招いて開催される。アルバム『Circadian』が話題だし、必見だ!
黴
これは、Fの『エナジー・ディストーション』に続いて、レーベルとしては2枚目となるアルバムを控えたヘリクサーの先行シングル。ヘリクサーことケビン・マーティン(ザ・バグの同姓同名ケビン・マーティンとは別人なのでお間違いなく)は、フランス出身で2008年、〈セヴン〉からの「ナルコティック・ダブ/スプリングズ&ワイヤーズ」でデビューしている。2009年にはレーベルを代表する作品「XPダブ」や「コンヴァリューション」を発表、Fと同じく硬質なミニマル・ビートで話題を集めている。そして、ダークでヒプノティックな無機質なトラックに傾倒している。
「アトランティス」は聴けば聴くほど深みにハマッていく。細切れのスペーシーなシンセが揺れている。リズム自体はさほど存在感はない。キックが軽く鳴り響く程度。規則的にリヴァーブをかけたパーカッションがこだまする。
スキューバやラマダンマン、Fなどのミニマル・ダブステップとは感覚が異なる。どちらかと言えば、この空間処理はブリアルに近い。新しくはないが、シャックルトンが彼の音楽性を賞賛しているように、シンプルなのだが奥深い。
4. V.A. / Tempa Allstars Vol.6 | Tempa- Dubstep, Minimal -
「スクリームは、もう過度期なのか?」と、セカンド・アルバムが発表されてそう感じる向きがあったのは、日本でのダブステップ熱がイマイチ乗り切っていないせいもあるだろう。本国UKではいまだ最高級の人気をほこっているし、マグネティック・マンのトラックがかかるや否や大合唱!!! となっている。筆者はドラムンベースの全盛期を知っているが、たしかにその当時の熱気をいまの日本のダブテップ・シーンに当てはめると物足りない感は否めない。インターネットで国際的に蔓延したダブステップだが、日本ではまだまだ感染しきっていない(だから2011年は大いに期待しよう)。
黴
さて、「テンパ・オールスターズ6」だが、ダブステップ界では馴染み深いメンツのなかにドラムンベースの気鋭プロデューサーがふたり参加している。ディープ・ファンクを支柱としているアリックス・ペレズとアイシクルだ。ディープ系を極めた彼らが新たなる視点を定めたダブステップ/ベースラインの矛先は、やはり波長が合うのだろう。違和感なくハマっている。アリックスに至っては、いい意味で期待を裏切るベースライン・ハウス的な4つ打ちを発表しているし。
インストラ:メンタル、Dブリッジ、カリバーなどのドラムンベースのプロデューサーがダブステップのシーンで顔を見せているのは、音楽的な相性が良いからだろう。〈テンパ〉のサウンドは年々進化している......というか、少なからずトレンドを意識した内容に変わりつつあるのは、シーンの活性化が示す良い現われだろう。
このなかでもやはりスクリームは別格だ。『アウト・サイド・ボックス』のようなポップ・フィールド志向を試みたと思えば、今回ではシンプルなポスト・ダブステップの。テンパは今、古き良きオリジネーター・サウンドの原点に立ち返っているのかもしれない。その証拠に....フォースカミング・リリースが、あのホースパワー・プロダクション久々の復活によるサード・アルバムなのだから。
5. SCB / Hard Boiled VIP / 28_5 | SCB- Minimal, Techno -
ポール・ローズ(スキューバ)のミニマルが止まらない。リリースを増すごとにベルリン・ミニマル色が増している。しかも、ここのところのリミックスがどれも秀逸とくる。原曲が良いからどう加工してもかっこいい。「ハード・ボイルドVIP」もグルーヴィーな切れがあり、ある展開を施す曲中からのシンセ使いが金属的なスネアと調和してリフレインする。最終的には彼自身の音楽性として上手く纏まっている。とにかくプログラミング・センスが良い。
黴
最近リリースしたスキューバ・リミックス・シリーズも紹介しておこう。「Scuba Remixes Pt.1」は、"Tracers"をスコット・モンテイスことデッドビートによるミニマル・ダブ・リミックスからはじまり、"On Deck"をファルティーDLがエレクトロ・ポップに仕上げている。「Scuba Remixes Pt.2」では、オウン・ミックスによる続編だ。尺が続いていれば先がこうなっていたという具合。"You Got Me(I Got You)"がよりダンサブルなアップテンポになって、"Before(After)"はスローテンポが"その後"の解釈を表している、美しいエレクトロニカなダウンテンポだ。
「Scuba Remixes Pt.3」は〈アップル・ピップス〉からの「Untitled/Digest」で一躍ポスト・ダブステップの新星として躍り出たジョーによるミニマル・ラインをピアノの旋律で妖しくも刺激的に奏でる"So You Think You're Special"、そして叙情的なオリジナルにエレクトリックなシンセを走らせるデッドボーイの"Before (Deadboy Remix)"が収録されている。これらリミックスをディスク2にした2枚組の『トライアングレーション』がリリースされるので、これも要チェックだ!
6. Prototypes / The - Cascade / Need The Love | Infrared- Drum n Bass -
Jマジック率いる〈インフラレッド〉、久しぶりのシングルがスマッシュ・ヒットとなった。プロトタイプス――ブライトン出身のニックとガービーによるユニットで、彼らの作品は軒並みフロアで爆発的ヒットを飛ばしている。エナジーが迸るトランシー・レイヴ、エピック・サウンドを完璧に操るエレクトリックなフロア志向のビッグ・アーティスト久々の誕生! と嬉しく思いながら、筆者もヘビープレイ中だ。とにかく毎回使っているほど、フロアでのレスポンスも良く、突き抜けた爽快感やドライヴ感がある。そしてエクスタシーに辿り着く、マス・ヒプノシス感もある。筆者はこれを「切なく走る」と表現している。
A面の"カスケイド"はカットラインにリミックスを依頼するなど、ドラムンベースやダブステップ、エレクトロ、ベースラインをまたいで支持されている。〈インフラレッド〉の他に〈ショーグン・オーディオ〉や〈ヴァイパー〉などシーンのトップ・レーベルからもサポートされている。
彼らの良いところは、何と言っても遠慮なく疾走感があるところ。"カスケイド"は親しみやすく、レイヴ・トランシーな、開放感あるヴォーカル・チューンだ。"ニード・ザ・ラヴ"は切ないヴォーカルとエレピが全面的に導入された幻想的なJマジックのヒット曲"クレイジー・ワールド"のアンサー・バック。
ディープ・フローな作品がトレンド化しているいまのシーンにとって、メジャー志向のヒット路線に走るプロデューサーを揶揄する風潮があるのも事実だ。今年、2002年に〈グット・ルッキング〉からのファースト・アルバムでフューチャリスティック・ドラムンベースを打ち出し、2006年自身のレーベル〈720ディグリー〉からのアルバムリリース以来、4年ぶりに発表したブレイムの『ザ・ミュージック』がメジャー路線に偏ったために各メディアから酷評されている。メジャーよりでR&B調のダブステップに走ったのがその原因かもしれない。が、フランジャイルな時期だからこそ、レイヴとともに発展したドラムンベースの変化が面白いように変わっていく。2010年はドラムンベースにとってアンステイブルな年......このことはまた年間評論フラッシュバック2010-ドラムンベースで触れるとして......プロトタイプスは、その壁を打ち崩せる新世代のレイヴ継承者だ!
7. Black Sun Empire / Lights And Wires | Black Sun Empire- Drum n Bass -
オランダのドラムンベース・シーンをダークでドラッギーで、危険極まりない荒廃サウンドで包み込むトリオ、それがブラック・サン・エンパイア。2000年に「ボルテージ」でデビュー以来、オランダのドラムンベースのシーンを暗黒ノイズスケープへと変革させ、現在エレクトロ・シーンでも活躍しているノイジアと共に代表格として数々の作品を世に送り出している。『アンデンジャード・スピーシーズ・パート2』以来、レーベルとしては3年ぶりとなるアルバムがこの『ライツ&ワイヤー』だ。
これでもかと言わんばかりの影響力を秘めた暗黒電子音が狂気乱舞するサイバー・サウンドは、まったく変わっていない。......地を這うようなベースライン、彼らのダーク・サウンドの中心には現代のエクスキューショナーじみた残酷性、ブラック・マジックのような危険な陶酔性......もある。マス・クリエーションを必要としてきたドラムンベースの方向性を相反する不適合な感覚が面白い。一貫したサウンド・シンフォニーは、いまだに人気を博している。
今回の共演者も実にシンプルなラインナップで、グリッドロック、ジェイド、SPL、ナイムフォとサウンド、指針をぶらさないよう計られてるようだ。近年の彼らはダブステップにも接近している。サブ・レーベル〈シャドウス・オブ・ザ・エンパイヤー〉を作るほど力を入れている。そして、陰をチラつかせる不穏なマッシブ・ビートを展開するプログラミングは『ライツ&ワイヤー』でも聴くことができる。UKの陽に対する陰とでも言えばいいのか......。
2010年の2月にアルバム『アイム・ニュー・ヒア(I'm New Here)』で素晴らしい復活を果たした詩人、ギル・スコット・ヘロンだが、来年早々そのリミックス・アルバムのリリースが予定されている。しかも......アルバムをすべてをザ・XXのジェイミー・XXがリミックスするという企画だ。
たしかに『アイム・ニュー・ヒア』は、ブリアルをはじめとするダブステップからの影響を取り入れていた作品だったけれど、それを丸ごとジェイミーが手を加えるとなると話はまた別だ。彼が2010年の来日時にDOMMUNEでプレイしたDJは、現在のUKのダンス・サウンド(ダブステップ、ファンキー、グライム、ウォンキー)を親切に手際よくパッケージしたもので、僕にとっては忘れがたいものだった。
まずは手はじめに"NY・イズ・キリング・ミー"のリミックスが届いている。さあ、聴いてくれ。UKファンキー以降のビートを取り入れたこの音を聴いてしまったら......君はジェイミーのビートとスコット・ヘロンの声から逃れられなくなるだろう。
1. Pariah / Safehouses | R & S Records
ロンドンの、ジェームス・ブレイクに次いで注目を集めている若きポスト・ダブステップ・プロデューサーのセカンド・シングルで、前作におけるブリアルやジェイ・ディラへのリスペクトを残しつつ、よりダンスフロアへとアプローチしている。キックドラムから入るA1の"The Slump"は今回のシングルを象徴する曲で、2ステップ・ガラージとディープ・ハウスの美しいブレンドで、魅惑的なグルーヴを展開する。背後から人びとの声が響くB1の"Prism"はディープなレイヴ・スタイルへと流れ込んでいく。C1の"Crossed
Out"は2ステップ・ビートと重たいエレクトロとの競演、そしてトラックの後半にはメランコリックなR&Bヴォーカルとともに導入されるロスカにも似た野太いビートがダンスを駆り立てる。D1の"C-Beams"はアシッド・ハウスへの冒険だ。ヒップホップ・クラップとR&Bヴォーカルの断片のなかをアシッド・べーすがうねっている。D2の"Safehouses"もパライアーらしいソウルフルなフィーリングのディープなトラックで、全盛期のシカゴ・ハウスが持っていた最良の瞬間に彼は近づいているようだ......。
いや、とにかくもう、まったく素晴らしい2枚組だ。
2. James Blake / Limit To Your Love | Atlas Recordings
モダン・クラシックが10インチで登場。You Tubeではなく、ようやくヴァイナルで聴ける......この喜び、これが音楽っすよ。いやね、『SNOOZER』で田中編集長と話していたら、ロックを聴いている子は音楽に救いを求めているっていうのだけれど、僕は音楽はまずはとにかく楽しみを追究するためにあると思う。
さて、これはもうご存じ、ネット上でさんざん話題になった、2007年にファイストがリリースしたセカンド・アルバム『ザ・リマインダー』に収録された曲のカヴァーで、片面のみのプレスにてリリース。アルバムは来年の2月だとか。この曲を聴いたら期待するなというのが無理な話だ。
3. Untold / Stereo Freeze / Mass Dreams Of The Future | R & S Records
これはDJ御用達でしょう。上物だけ聴けばアシッド・ハウスそのもの。が、しかし、イントロのスネアの16の連打、そして最高のダブステップ・ビートがどかーんとやって来る。フロアの狂騒が聴こえてくる。かなり格好いい。大邸宅に住んでいるDJメタルが愛して止まない"エナジー・フラッシュ"のモダン・スタイルとでも言いましょうか。
フリップサイドの"Mass Dreams Of The Future"もまた......、イントロはアシッドのべースライン、それからダブステップのうねりが蛇のように絡みついてくるとトランシーに飛ばしていく。新世代によるアシッド・ハウス解釈というか、これもかなりのキラー・チューン。まあとにかく、これもシーンの盛り上がっているということなのだろうけれど、パリアーにしてもアントールドにしても、最盛期におけるダンス・ミュージックが持ちうる素晴らしいグルーヴがある。
それにしても〈R&S〉は見事にダブステップのレーベルへと転身したな。
4. Addison Groove / Footcrab / Dumbsh*t | Swamp 81

2007年にURが「フットウォーズ」を出したときに、マイク・バンクスに「これって何?」って訊いたら、笑いながら「いや~、これはシカゴやデトロイトのキッズのあいだで流行っている新しいダンス・バトルのために音楽だよ」と教えてくれたものだが、それがいつの間にか広がっていた。
これは半年以上前のリリースだけれど、shitaraba君がDJネイトのレヴューのなかでUKにおけるダブステップ方面からのフットワークへのリアクションとして、たいして面白くないと紹介していた1枚がこのアジソン・グルーヴの"フットクラブ"で、僕はけっこう面白いと思っている。そのように一掃されてしまうにはもったいない可能性がここにはあると思うので紹介しておきましょう。
シカゴのゲットー・ハウスの豪胆な野蛮さ(〈ダンス・マニア〉から綿々と続くあれの現代版)がロンドンのクラブ・カルチャーの雑食性のなかで再解釈されたもので、この混沌のなかから来年は何か発展しそうな気配もある。
踊らせたいぜーというDJはチェックしてみて。
5. Joe / Claptrap / Level Crossing | Hessle Audio

これはジェームス・ブレイクの"CMYK"と並んで2010年のクラブ・アンセムとなった、いわば時代を象徴する1曲なので紹介しておく。完璧にダンスフロアのためにあるトラックで、ソカのリズムを笑えるほど極限まで削ぎ落としながらも、UKファンキー、それからフットワークやジュークともリンクするような不思議なグルーヴを持っている。
ハウス世代がこれを聴いたら驚くんじゃないかな。そして、この音がクライマックスでかかることを知ったら、自分のレコードバッグを見直すかもしれない。あるいはこの最小限の音でここまで陽気であるという事実に嬉しくなるかもしれないね。
以上、いまダンス・ミュージックを聴くならUKが面白いというこの1年を代表する5枚でした。
http://soundcloud.com/maltine-record/
Games / That We Can Play | Hippos In Tanks
OPN(ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー、というのが正確な読み方ということです、すいません!)によるチルウェイヴ・プロジェクト、ゲームスが早くも2枚目のシングルをリリースする。4曲+ふたつのリミックス・ヴァージョン入り。
1曲目の"ストリベリー・スカイズ"はメランコリックで甘ったるいドリーム・ポップ・ディスコで、なんの喜びもなく酒を飲みながら、しかし恍惚としているという、実に倒錯した享楽性をはらんでいる......ベースと歌はずいぶんと80年代風だが、録音のくぐもった感覚と別世界へまっしぐらなずぶずぶのアンビエンスはいまのモードを伝えている。続く"ミディ・ドリフト"は楽天的なフィーリングを伝えるクラフトワーキッシュな曲で、"プラネット・パーティ"はダークスターの『ノース』とも連帯するであろう悲しみのシンセ・ポップ......。
そして、シングルのなかでもっともキャッチーなのがこの曲、"シャドウズ・イン・ブルーム(Shadows In Bloom)"。映像はM.I.Aの"ボーイズ"やエイフェックス・ツインも手掛けるウィアードコア(weirdcore)。どうぞご堪能ください。
1. Toddla T ft. Wayne Marshall / Sky Surfing | Ninja Tune
トドラ・Tとは、ダンスホール・スタイルのマイク・スキナーと評価されているシェフィールドのDJで(まだ25歳ぐらい)、2009年に最初のアルバム『スカンキー・スカンキー』を〈1965〉から発表している(僕はかなり好みだった)。暗い感覚が多くを占めるUKのアンダーグラウンドにおいて、異例と言える陽気さを持っている人で、彼の音楽の売りのひとつである"笑えるリリック"がわからなくても、グライムとダンスホールのハイブリッドなポップ・ヴァージョンとして楽しめる。で、その明るさ、その音楽性を考えれば〈ニンジャ・チューン〉ほど彼に納まりの良いレーベルもなくて、これは移籍第一弾のシングルとなる。
"スカイ・サーフィン"はジャマイカのMC、ウェイン・マーシャルをフィーチャーしたご機嫌なダンスホール・ナンバーで、リミキサーはベンガ、新人のドウスター(Douster)、グラスゴーのベテラン、DJ Q、で、もうひとりもベテランで、ロス・オートン。オリジナルでは今年流行の絶頂を迎えているオートチューンを使い......、だからもうその声はいい加減聴き飽きたぜよと思うのだが、ウェイン・マーシャルのガッツ溢れるラップがこのエレクトロ・ダンスホールに生気を与えている。そして、これでもかと言わんばかりのアッパー・チューンをベンガはダークなサイバー・テイストに、新人のドウスターはポスト・ダブステップへと変換する。『スカンキー・スカンキー』の共同プロデューサーであるロス・オートンはさらにそれをレゲエ色を強め、ファンキーなシンセベースを注入し、DJフレンドリーに仕上げている。セカンド・アルバムのリリースは来年だそうだ。
2. Subatomic Sound System Meets Ari Up & Lee Scratch Perry / Hello, Hello, Hell Is Very Low / Bed Athletes | Subatomic Sound

アリ・アップにとって遺作なってしまったのがこの7インチで、彼女が急逝する2ヶ月前にリリースされている。両面とも『スーパー・エイプ』に収録された有名な"アンダーグラウンド"を使い、アリ・アップは彼女のラバダブを披露している。ラバダブ(Rub A Dub)とは、既存のレコードに上に新たに歌をのせたり、トースティングしたりするジャマイカのDJスタイルで、アリ・アップはリー・ペリーとともに、このクラシカルなリディムの上に素晴らしい声を乗せている。A面ではダブステップのテイストを取り入れ、そして後半にはオーガスタス・パブロのピアニカのような音色を響かせる。B面は、同じく"アンダーグラウンド"をネタにアリ・アップがセクシーで陽気なダンスホール・スタイルで歌いまくる。スピリチュアルでユーモラスな1枚。そして聴いて元気になる1枚だ。ファンなら絶対に買い。
3. Games / Everything Is Working / Heartlands | Hippos In Tanks
OPNのダニエル・ロペイティンが(ジョエル・フォードなる人といっしょに)チルウェイヴをやってる! と言われれば三田格でなくとも興奮するでしょう。この7インチ、A面の"エヴリシング・イズ・ウォーキング"が素晴らしい。ウォッシュト・アウトが永遠の夏なら、こちらは恍惚としたぬかるみとでも言いましょうか。まるでブリアルがダウンテンポ・ディスコをやったようなビートと儚く消えていく声という声、途中で入るギターのアルペジオが少々臭いが許そう......せめて10分ぐらいのロング・ヴァージョンで聴きたい。B面の"ハートランズ"はジェームス・ブレイクとウィッチ・ハウスの溝を埋めるかのような亡霊の歌の入ったダンス・ナンバーで、まあ、悪くはない。このプロジェクトのアルバムが出たら本当にすごいことになりそうだ。
4. James Blake / Klavierwerke EP | R & S Records
今年のナンバー・ワン・シングルはこれで決まり......いやいや、ちょっと待った、ネットで出回っているこれもまたすごいのよ。とにかくいま、12インチを買って家で聴いて驚きを感じるひとり、ジェームス・ブレイクのこの夏の大ヒット曲"CMJK"に続くシングルは、早速その手法(R&Bサンプルのグロテスクな応用)をいろんなところでコピーされたと思いきや、今度は違う角度から攻めてきた。アグラフのセカンド・アルバムと同じようにこれもピアノをテーマにしているが、しかしアグラフとはまったく違う方角を向いている。これは......ダークサイド・ミュージックで、ロンドンの汚れた街がよく似合うポスト・ダブステップである。
前作同様に今回も4曲。歪んだベースが心臓の鼓動のように鳴り続ける上を蜃気楼のようなサンプリングが流れ、ブリープ音と合流する"クラヴィアヴェルク"。これもテクノやハウスともクロスオーヴァーできるトラックで、まあ、UKでクラブ・ヒットするのもうなずける。続く"ドント・ユー・シンク・アイ・ドゥ"もメロウで良い曲だ。ちまたにあるその他大勢の曲とくらべればずいぶんとぶっ飛んだ曲だが、ここには人を惹きつける美しいメロディがある......が、実を言うとB面の1曲目に収録された"アイ・オンリー・ノー"こそこのシングルにおける最高の瞬間だ。ピアノからはじまり、幽霊声がメロウに流れていく。ピッチは遅めで、シンプルなドラムとメランコリックなピアノの断片が空間を彷徨い続けている。
かつてワイルド・バンチがアメリカのヒップホップとジャマイカのレゲエをブレンドして独自のハイブリッド・ミュージック(ブリストル・サウンド)を作ったように、ジェームス・ブレイクはアメリカのR&Bとダブステップをブレンドしてこの時代のストリート・ミュージックを創造している。ブリアルの次は彼だ。
5. Model 500 / OFI / Huesca | R & S Records
ゴッドファーザーの復帰作である。それだけで充分だろう。デトロイト・エレクトロここにありだ。しかも歌っている。36歳の伊東輝悦は清水エスパルスを解雇されてしまったが、来月48歳になるホアン・アトキンスはまだ現役なのだ。そして、多くのファンはこのシングルにモデル500の永遠のクラシック"ノー・UFOズ"を聴くだろう。マイク・バンクスによるリミックスは実際に"ノー・UFOズ"のシンセ・ベースラインが加えられ、デトロイトの伝説の復活を解説する。アトキンスはその心意気に応えるように、「アイム・フライング」と"ノー・UFOズ"のサビを歌う。俺はいまもぶっ飛んでいる。そう、ホアン・アトキンスこそデトロイト・テクノにおいてもっともぶっ飛んだ男である。そしてB面の"ヒュースカ"、これ、半分以上はマイク・バンクスの曲だと読んだ。
1. DN3 / Perfect Toy EP | Secouer

〈カリヨン〉や〈セクーエ(Secouer)〉といった新興レーベルが活発な動きを見せ、にわかに勢いを増すイタロ・モダン・ハウスのシーン。コスミック・ディスコの起源とも言われ、北欧ニュー・ディスコ・シーンにも影響を与えたイタリアの伝説的クラブ〈Cosmic〉のサウンドが再評価されている機運も関係しているのか、サイケデリックなサウンドのなかにオーガニックでほんのり土の匂いがするようなサウンドのテック・ハウスが多いようだ。そんなシーンにおいて、数ある新興レーベルのなかでも最近とくに元気があるレーベル〈セクーエ〉から届けられたのは、チェーザレ・デッランナとグイド・ネモラという畑違いの奇才たちによるコラボレート・シングルだ。
チェレーザ・デッランナはイタリア南部の都市、プーリア州レッチェを拠点に活動するトランペッター。ジャズやトラッド・ミュージックをルーツに持つ彼は、地元で自身のレーベル〈11/8〉を運営しており、多国籍ブラス・バンド"オパ・クパ"や、アルジェリア音楽を取り入れたユニット"ジーナ"としての活動も知られている。また、地元のDJやサウンドシステムとの交流にも積極的で、ローカルなダンスミュージックアーティストとのプロジェクト"タランタ・ヴィールス"としても活動している。このプロジェクトには、今回のパートナーであるグイド・ネモラも参加している。まぁ、言うならば、地元の顔役ってやつなのだろう。
グイド・ネモラもグイド・ネモラで、アクが強く雑食性を感じるトラックをリリースすることで知られるアーティストだ。先日〈Joyful Noise〉からリリースされた「アマリ(AMARI)」は、ブルーグラス調なカントリー・サウンドをフィーチャーしたハウス・トラックだった。そんな、畑は違えど通ずる雑食なマインドを持つふたりがローカル・コミュニティで繋がったことは、幸福な出会いと言わずになんと言おうか。
A1に収録されているオリジナル・ヴァージョンは、フェンダーローズとウッドベース、そしてスウィングするアコースティック・ドラムを基調としたトラックの上でチェーザレが吹きまくる煙たいジャズ・ハウスだ。エレピもウッドベースもスウィング・ドラムも、演奏は控えめでクールな空気感を作っている。その上を駆け回るように演奏するチェーザレのトランペットに施された控えめなダブ処理も良い湯加減だ。
サイドBには、〈Apparel Music〉を中心に、上質なジャジー・テック・ハウスを数多くリリースしてきたキスク(KISK)によるリミックスも収録されている。こちらはスウィングするドラムを生かしつつも、イーブンキックを強調したフロアライクなミックスだ。深度を増した空間処理と、新たに追加された重たいサブベースがダンス強度を増しながらもよりドス黒く煙たい空気を作っている。ローカル・コミュニティから生まれた1枚ながら、すでにフランソワ・Kにも注目されている今作。ここにきて、イタリア南部のシーンに要注目である。
2. Locussolus / Tan Sedan / Throwdown | International Feel

ルーカス・スーラス(Locussolus)は、もうほとんど生きる伝説と化しているDJハーヴィによる変名プロジェクトだ。盛況を極めた今春のDJツアーも記憶に新しいところだろう。ハーヴィの音楽キャリアは、彼が10代前半の頃にニューウェイヴ・バンドのドラマーとしてスタートしている。80年代の初頭にパンク/ニューウェイヴの文化圏に居るということは必然的にヒップホップの洗礼を受けることになる。旅行先のNYでヒップホップと出会い、レコードを使ってオーディエンスを操るDJという存在を知ったハーヴィも、例に漏れずその世界に飛び込んでいった。そしてセカンド・サマー・オブ・ラヴの到来により、いよいよハーヴィのプレイはフリーフォームになっていく。そして90年代には自身のパーティ〈Moist〉に敬愛するラリー・レヴァンを招聘するなど、精力的な活動によりシーンへの影響を強めていった。それ以降の、つまりバレアリックやディスコ・ダブ、あるいは北欧コズミック・ディスコ・シーンにまで影響力を持ったカリスマとしてのハーヴィについてはみなさんのご存知の通り。ちなみに、この〈Moist〉には、当時イギリスに留学中だったサイコジェム(Psychogem)ことDJ
HIROAKIも通っており、多大な影響を受けたそうな。
さて、何故わざわざハーヴィのキャリアを再確認したかというと、このEPのサウンドこそが、それこそハーヴィのキャリアを総ざらいするような内容だからだ。A1に収録されている"タン・セダン"は、80'sニューウェイヴ感バリバリのシンセリフが印象的な、熱量の大きいディスコ・ハウスだ。イーブンキックをキープするリズム・マシンと、アコースティックなドラムの絡みも絶妙だ。オーガニックなグルーヴとマシン・ビートのハイブリットという手法はまったく珍しいものではないが、今作ではハーヴィのエディットによって巧妙にその比率が刻々と変化し、ときにディスコ・ダブ的に、ときにシカゴ・ハウス的にと、ビートの印象が玉虫色に変化する。ドラッギーな空間処理が施された電子音が、それらの要素の間を埋めるように飛び交い、そして熱く男っぽいヴォーカルがリフレインする。各サウンドのフレーズは総じてどこかぶっきらぼうだが、確実にこちらのダンス衝動を鼓舞してくれる。
B1収録の"スロー・ダウン"は、ハーヴィ自身がヴォーカルをとる、メランコリックなギターのアルペジオを基調としたダウンテンポなバレアリック・チューンだ。こちらではサイドAとは対照的に、あくまでフォーキーなサウンドで攻めている。チルアウトしているつもりが、いつの間にか深いサイケデリアの沼にハマってしまうような、そんなトラックだ。B2には、ベースとビートを強調して、全体をよりいっそう煙たくダブワイズしたヴァージョンも収録されている。
3. madmaid / USED 90's E.P. | Maltine Records
先日、エレキングに掲載されたインタヴューも話題を読んだ17歳の新星、マッドメイドの新作EPが〈マルチネ・レコーズ〉からリリースされた。前作の『Who Killed Rave at Yoyogi Park EP』に続き、今作も大胆なフレーズサンプリングを用いたベースライン・ハウスを展開しているが......、一言で言うならば「やり過ぎ」である(良い意味で)。
M1の"telstar"は、シャイFXのジャングル・クラシックス"Original Nuttah"のMCを引用したハードコアなベースライン・ハウスだ。ベースライン・ハウスは、スピードガラージの流れを組むUKのベース・ミュージックのひとつで、グライムやダブステップとも影響しあっている。両者ともLFOによって大きくうねるウォブリーなベース・サウンドがキモになっているが、マッドメイドのそれはもはや一言でウォブル・ベースと呼んで良いのか不安になるほど、うねりは過剰になり、そして高速になっている。シンセサイザーの音作りに明るい人ならピンとくるだろうが、音色を高速で揺さぶると元の音色には無かった高次倍音が発生する。マッドメイドの今作は、そうして音色そのものが変化するギリギリまで攻め込んだ音作りがなされている。前作では、あくまでサンプリングしたネタを中心に置いたプロダクションだったが、今作ではサンプリングは自らのアイデンティティを表明するためのエッセンスに留まっている。聴かせたいのはなによりベースだという気持ちが伝わってくる。このEPの凄いところは、ウォブル・ベースのヴァリエーションがまるでおもちゃ箱をひっくり返したように入れ替わり立ち代わり、目まぐるしく登場するところだ。決してワンアイディアになることなく、ポスト・ダブステップのベース・ミュージックを楽しみながら作っているのをひしひしと感じる。
先日マッドメイドのインタヴューをおこなった際に、ルーツのひとつとして、『ビートマニア』などの所謂"音ゲー"と呼ばれるヴィデオ・ゲームに収録されていたレイヴ・サウンドの影響を語ってくれた。ここでのレイヴ・サウンドというのは90年代初頭にエイベックス・トラックスが主導して"ハイパー・テクノ"などと言う呼び名で打ち出していた、日本的に解釈されたハードコア・テクノのことだ。これらのサウンドは、当時のコアなテクノ・リスナーには好意的に受け入れられず、むしろ物笑いの種にすらされていた。しかし、マッドメイドの持ち味である無邪気で行き過ぎた感じは、そういったサウンドの「ハイパー感」も大きく影響しているのだろう。それはある意味で、日本の土壌だからこそなしえた、良性の転移とも言うべきものなのかもしれない。
4. Rick Wade / The Mack Of Moscow | Shanti Records

セオ・パリッシュやムーディマン、そして10代の注目株であるカイル・ホールなど、今年はデトロイト・ハウスの良質なリリースが続いている。そこで忘れてはならないのが、いぶし銀ともいうべきリック・ウェイドの存在だろう。ムーディマンのむせ返るようなエロディシズムやセオ・パリッシュの埃っぽい黒さとはまた異なる黒さがリック・ウェイドの音にはある。
幼少期から、シカゴのラジオ〈WBMX〉を聴いて育ち、若くしてデトロイトの名レコード・ショップ〈レコード・タイム〉でバイヤーも勤めていたリック・ウェードは、その広いライブラリーを駆使した絶妙なサンプル使いに定評がある。丁寧に磨き上げられたサンプルを用いて、ワンループを基調に構築されるそのトラックは、DJプレミアやピー・トロックにも通じるクールな黒さがある。そしてなにより、リック・ウェイドのサウンドでは、ささくれ立ったトゲっぽさや不良性のアイコンとしての煙たさは巧妙に隠されており、一聴すると極めてエレガントな印象を受ける。が、エレガントな上物のベールに覆い隠されているのは、サウンドシステムで再生してはじめて牙を剥く、どすの利いた強烈なボトムの音作りだ。老獪な"ワル"の音作りがそこにはある。ムーヴDもリリースする、モスクワの〈Shanti〉からリリースされた今作も、例によって、クールでエレガントで、そしてワルい。
A1の"need you back"は、ギリギリまで装飾を排して、エレピ、シンセベース、ビートのシンプルなループで引っ張っていくディープ・ハウス・トラックだ。メインのシンセ・ベースにはアタックを遅らせたサブベースが重なっており、一小節のなかで一箇所だけ裏拍でサブベースのみが鳴る箇所が作られているのが絶妙なアクセントになっている。ときおり現れるシンセ・ストリングスの音色も美しい。
A2の"Big Score"はさらにミニマルな構成になっており、さらにワン・ループの抜き差しだけでグルーヴを作るコンセプトが推し進められている。派手な空間処理はないが、異なる質感のサンプルをレイヤーすることで、独自の音空間を作るテクニックは流石というべきだろう。この巧みなグルーヴ・コントロールのテクニックは、彼のDJプレイにも反映されている。10月末にはハック・アブドゥルとともに来日し、渋谷の〈amate-raxi〉にてプレイするということで個人的にも非常に楽しみにしている。
5. Nebraska / Minor Key Memories | Rush Hour
ファルティDLもリリースするオランダの名門レーベル〈ラッシュアワー〉。ここで、このところ勢いがあるのがアリステア・ギブス(Alistair Gibbs)のプロジェクトであるネブラスカだ。DJスニーク周りのビート感と、デトロイト・ビートダウンのファンクネスをいい所取りしたようなサウンドながら、ネブラスカのサウンドの根底から滲み出てくるのは、言うなれば"クリスタル感"とでも言うべきだろうか? 80'sサウンドにも散見されるような独特なアーバン・テイストだ。
A1の"This Is The Way"、フィルタリングされたディスコ・ループが心地よいジャッキン・ハウスだが、注目するべきはタイトルの由来にもなっている「This Is The Way~♪」と歌い上げるヴォイス・サンプルだ。このサンプル、良く聴くと阿川泰子の"Skindo-le-le"をサンプリングしているではないか! なんというか、まさかのオシャレ30・30。アーバンもここに極まれりといったところか。
A2の"Bar Story"は、キラキラしたエレピの二小節ループを中心に展開する小洒落たトラックだが、こちらも一筋縄な展開ではない。中盤以降トラックの主導権を握るのは、降り注ぐようにフィルタリングされたホワイト・ノイズや細かくカットされ、リヴァーブとディレイで飛ばされたシンセ・リード、そして図太く粗野なムーグ系のシンセ・ベースだ。小洒落たディープ・ハウスが、いつの間にかデトロイト・フレーバーのするテック・トラックに姿を変える。
B2の"Ras El Hanout"は、よりテッキーな路線を突き進め、ファンキーなベースラインでぐいぐいと引っ張っていく。デリック・メイの初期作にも見られたような、ピッチ・ベンドで捻じ曲げられた粘っこいシンセ・リードと、空間を分かつように疾走するストリングスの絡みには、デトロイト・テクノ好きは否応無しにもアゲられてしまうだろう。しかし、ここまでの多様な音楽的アイディアを、良くぞ一貫してウェルメイド感のある作品に纏め上げたものだ。正直感心して唸ってしまった1枚。
1. El Rakkas / Extreamely Cheap & Effective Ep | Dub Square (UK)
エル・ラッカスは、オーストリアの第二の都市ガーツよりエレクトロニカ、ダブステップをもとにリリースを重ねているアーティストです。先ごろではUS西海岸の〈ロー・ダブス〉からリリースした「Sence Of Disease」でも、レゲエやハウスとミックス可能なダブステップを展開していました。音もきれいで使いやすい曲です。
〈ダブ・スクエア〉はオーストリアのヴィエンナを拠点にネット・ラジオを母体に活動するレーベルで、DJ IZCと女性アーティストであるCA.TTER等が中心になり、デトロイト・テクノから影響された一捻りあるエレクトロやダブステップをリリースしています。今回届いたシングルはエレクトロニカ、もしくはテクノ側からのアプローチのトラックで、極限までそぎ落とされたミニマル・ハウスを下敷きに、キックを裏打ちにし、リズムに変化をつけたトラックです。ポスト・ミニマルと同時にポスト・ダブステップのひとつの方向を提示したシャックルトンの「3EPS」、あるいは2562のアルバムで知られる〈マルチヴァース〉からミニマル・テクノをリリースするオクトーバーの作品にも通じるアイデアがあり、本当に最小限の音でリズムの揺らぎを追求した曲です。リミックスはカールステン・ニコライ率いる〈ラスター・ノートン〉や、ノルウェーから変態的なディスコのリリースで知られる〈セックス・タグ・マニア〉等、エレクトロニカのフィールドからエクスペリメンタルなトラックを発表しているF・ポマッスルが手がけ、低音が強調され力強い倍音が広がる音響的なダブ・ヴァージョンはどくどくと波打つような独特の響きを持っています。サイン波で作られた冷たいハットもアクセントになり、とても緊張感があるトラックに仕上がっています。ミニマルで言えば、インクセックやジェイ・ヘイズの〈コンテクステラー〉からのシングルに近い雰囲気です。DJをしていると前後の曲のバランス感が気になります。テクノに比べダブステップには音圧が高く、低音が強い曲が多いので選盤には注意が必要です。このシングルは線は細く音楽的な深みには欠けているものの、ミニマル・ハウスの側から音圧やバランスを変えずにリズムに変化をつけることができます。ミニマルのDJでダブステップに興味がある人はこの辺のレコードをセットの中に組み込んでみてはいかがでしょうか。ミニマルとダブステップのあいだを「キープ」しながら繋ぐことができる貴重なDJツールです。
2. Oriol / Coconut Coast | Planet Mu (UK)
これはいままでになかった新しい組み合わせの音楽です。ダヴステップやエレクトロを通過した新しい感覚のディスコです。スペインのバルセロナ出身のオリオールはロンドンのブロークン・ビーツのシーンより頭角を現し、いまでは売れっ子プロデューサーとして活躍するフローティング・ポインツに見初められた逸材で、ミュー・ジックを筆頭にUKエレクトロニカの礎を築いた〈プラネット・ミュー〉が期待をこめて送り出した新人でもあります。ガラージとエレクトロニカ、ダブステップをベースに、70'sのソウルやディスコ、フュージョンからのメロディーを取り入れ、わかりやすく現在の音に消化しています。コズミックで美しく広がるシンセはブリストル産のダブステップのような寂しげで内向的なメランコリーではなく、UKのものには珍しくポップで明るい和やかなメロディを奏でています。例えるならイアン・オブライエン+フェイズ・アクション+フォーテットと言ったところでしょうか。ヴォーカル・プロダクションも90'SのUSディープ・ハウスを彷彿させるハイレヴェルな出来です。リミキサーには〈ランプ・レコーディング〉や〈ラッシュ・アワー〉からグライムやダブステップをリリースするファルシィ・DL、〈プラネット・ミュー〉のオーナーでもあるミュー・ジックことマイク・パラディナスの変名プロジェクトであるジェイク・スラセンジャー、〈パンチ・ドランク〉からのリリースでも知られ相棒のブラックレスと共に〈ブランテッド・ロボッツ〉を運営するショート・スタッフが起用され、幅広いリスナーに向けられたシングルです。
なかでもジェイク・スラセンジャーのリミックスは秀逸で、原曲の良さを素直に拡大しバレアリックで壮大なシンセが軽やかなビートとともに宙を舞うとても美しい曲に仕上がっています。ミュー・ジックを含めた彼のキャリアのなかでも屈指の名曲と言えるのではないでしょうか。ダブステップを契機としたUKアンダーグランドの掘り起こし作業のなかから面白い動きが起こりつつあります。いまのフロアの状況だから言えるのかもしれませんが、テクノは4つ打ちのキックとハウスフィーリングの快楽性に甘えすぎていたようです。ジ・オーブやブラック・ドックなど90'sのテクノは様々なアイデアにあふれていました。イーブンキックから失われた開放感的をとりもどすためには、異なるリズムの組み合わせとタメが必要なのです。ミニマルのバランス感覚を捨て去れば新しいものが見えてくるかもしれません。
3. D Bridge / Zx81 Remixies | Fat City (UK)
アンダーグランドのヒップホップを中心に独自のセレクトで知られるマンチェスターのレコードショップ兼ディストリビューターである〈ファット・シティ〉からリリースされたコンピレーション「Produsers No.2」からカットされた限定のリミックス盤です。原曲はポスト・ダブステップ/ドラムンベースをリードするロンドンのD・ブリッジによるもので、エフェクトがかかったアコーディオンが中毒的に響く、ファットで味わい深い低速のブロークン・ビーツで7インチのシングルでカットされていたものです。
D・ブリッジはUKソウル/R&Bのプロデューサーであるスティーブ・スペイセックの実弟で自ら〈イグジット・レコーディング〉を主宰し、ヒップ・ホップからダブステップまで幅広くUKアンダーグラウンドの音楽を紹介しています。先日リリースされた〈ファブリック〉からのミックスCDでもダブステップとドラムンベースを見事にミックスしロンドンのいまをしっかりと伝えていました。今回のリミックス盤ではモーリッツとともに〈ハード・ワックス〉のマスタリング・エンジニアとしてベルリンから素晴らしいダブ・プレートを送り出すシェドと、〈ヘッスル・オーディオ〉を主宰し〈AUS〉や〈アップル・パイプス〉などからUKガラージ、ダブステップ、さらにはミニマル・ハウスまでリリースするラマダンマンが起用され、それぞれ趣の違ったリミックスを聞かせています。シェドのリミックスは、原曲とほぼ同じ音を加工し、もっさりしたキックに地を這うように力強いサブベースとシャリっとしたハットのシンプルなテクノを主体に、中域で継続して響くのアナログノイズとデトロイティッシュなシンセの和音が絡み合う、ダブと言うよりもドローンに近い壮大な音饗世界を創りあげています。マイ・ブラッディ・ヴァレンタインをカール・クレイグがリミックスしたらこんな感じになるのかもしれません。とにかく一服せずとも地底に引きずり込まれるような、ベルリンのミニマルの魅力を充分に伝えるずば抜けた音響のトラックに仕上がっています。
いっぽうラマダンマンのリミックスは、原曲を倍速にし、UKファンキーをベースにジャスティン・マーチンやスウィッチのようなフィジェット・ハウスをかけ合わせた面白いグルーヴのトラックです。リズムはファンキーな曲ですがロスカのような軽さではなく、使っている音色のせいかクールな面持ちです。DJのミックスに上手くはまればいいアクセントになりそうな曲ですが、冒頭のグルーヴが取りづらいのでDJとしては腕が試されるレコードかもしれません。それにしても両面ともに素晴らしいマスタリングが施された12インチです。限定盤なのでお早めに。
1. Benga / Stop Watching/Little Bits | Digital Soundboy -main stream / post dubstep-
UKアンダーグラウンドでは、確実にダブステップが現在の舵取りを握っているわけだが、シャイFX主宰の〈デジタル・サウンドボーイ〉もその方向性をシフトしつつある......そのリリースをダブステップやファンキー中心に切り替えたのもそれを裏付けていると言えよう。源に、このままドラムンベースのみのリリースに限界を感じてきたのであろうことは、悲しいかな......世界中でそのシーンに対して起こっているわけだ。
このレーベルのドラムンベースと言えば 、2008年の代表的な作品のひとつとして語られてるMCシステムの「ニアミス」がしばしあげられ、ディープ・コアなトレンドを作った作品でもあった。2007年〈クリエイティブ・ソース〉から発表された変則ディープ・アンセム、リンクスの"ディスコ・ドードー"によって現在のディープ・フロウなムーヴメントが本格化し、次世代のディープ・スター、コミックスやDJフリクション率いるショーグン・オーディオ・クルーなど、シーンを賑わせていき、現在を象徴する母体となったのである。ダブステップに押されているとはいえ、マーキー&スパイの"リフラフ"やホセ・ジェイムス"ウォリアー"のリミックスによっていちやく注目されたプロデューサー、ロックウェルの「ストーワウェイEP」など、トレンドを意識した無機質なピュア・ビートをレーベルに落としこんでいる。
ここ最近の〈デジタル・サウンドボーイ〉のダブステップサイドのリリースはスクリーム、ブレイケージのダブステップ・リーダーやブリストルのTCと並ぶジャンプアップ・マスター、DJクリップズのUKファンキー・プロジェクト、レッドライト、などがある。
そして、今回のベンガに続くのだが......その前に、7/30FUJI ROCK、7/31DBSにてスクリーム&ベンガが待望の再来日する。昨年、満員御礼となった2月の熱狂的なステージから早1年半、UKエレクトロニック・ミュージック界の代表的な存在にまで上り詰めた彼らの人気は世界中でさらに加速......もはや2010年代のダンス・ミュージックを牽引していくであろう彼らの多才なサウンドは、いまだ不確定かつ未知の変化に富んでいる。若さゆえの貪欲な吸収性がそうさせるのであろうが......日々、変化を好むUKエレクトロニック・ミュージック・シーンにおいて、ダブステップ・オリジネーターたちが、ダンスフロア・アンセムなウォブリー・サウンドに嫌気がさし、ポスト・ダブステップを生み出した。またそこからすぐに枝分かれしていくのは、他のジャンルが同じような道を通ったように容易に想像できる。重要なのは、そこではなく、つまりどうような音楽性にダブステップが今後変わるのかであろう。さらにシンプルでミニマルなサウンドを追求していくのか、やはり若い世代によってダンスフロアの再燃が起こるのか、筆者は、ポスト・ダブステップ以降、おそらく初期のヘヴィーで硬質サウンドな状態に戻っていき、よりテクノ・インフルーエンスな作品が増えていくと思うのだが......1年後が楽しみだ。
ベンガもまた現在のポスト・ダブステップの風潮に足を踏み入れつつあるのは、最近のリリースによって感じられる。スクリームの近日発売のニュー・アルバム『アウトサイド・ザ・ボックス』も然り。しかし、彼らはそのちょうど中間地点にいるサウンドで意欲的なチャレンジを続けていると言える。このシンプルで不確かなサウンドこそ彼らのテクニックであり、爆発的人気の秘密なのかもしれない。それをたしかめに数ヶ月後のリリースが控えているダブプレートの嵐を生のステージで体感すべきだ。
2. Instra:mental / End Credits | Nonplus Records-electronic / drumstep / post dubstep-

どうしても毎回、原稿の随所で登場させてしまうポスト・ダブステップというサブジャンル。野田さんも本サイトの原稿で取り上げていたが、さまざまな音楽媒体で今もっとも注目され"旬"なムーヴメントであるのだが、現在のエレクトロニック・ミュージックの最先端は、やはりここにあるとまたしても感じる。以前、サウンド・パトロールでも紹介した〈ノンプラス〉、そして、インストラ:メンタルの今作、シリアルナンバー入り500枚限定10インチ「エンド・クレディッツ」 だ。チルアウト・ドラムンベース~バレアリック・サウンド~ディープ・ミニマル~ポスト・ダブステップを縦横無尽に駆け抜けるインストラ:メンタルだが、今日のダブステップ(アトモスフェリック・プロダクション側)発展を大きく彩る象徴的な必然変化、いわば"ドラムステップ"が、ここに存在すると言っていい。
明らかにダブステップのオリジネーターたちとは交わらないサウンド・シンフォニーは、やはり出発点がドラムンベースだからであろう。ドラムンベースからの視点を持ってしても、時折不可解な印象(新感覚なテクノ・ステップいやエレクトロニカ・ステップ)を持ってしまう作品......そこが聴くものをより引き込みのめり込ませるのだ。日々シーンがネクスト・レヴェルへ向かうなか、新たなダウンテンポ・ミュージックに辿り着いた作品かもしれない。 デジタルが先行しつつあるシーンの現状にあって、この作品はアナログで聴くことを推奨したい。デジタルでは、感じ得れないそれが持っている調和のとれた"質感"が大いに発揮されているからだ。
その「エンド・クレディッツ」は、盟友Dブリッジとの共作によるミックスで新たな共同レーベル名〈オートノミック〉を冠にしたファブリックライヴ50に先行で収録されていた。このミックスは、全体的にメロウなラウンジ・テイストで見事なまでにドラムンベースとダブステップが、中間地点で融合したまったく新しいものになっている。その冠名にもなった〈オートノミック〉は、ポッドキャスト・シリーズとして好評を博し、次世代のロジカル・ステップとしてファブリック・ミックスへと繋がったのだ。そして5月にアナログ第一弾としてもスタートし、Dブリッジ、インストラメンタル&スクリームの何とも豪華布陣による「アカシア・アベニュー/デトロイド」を発表したのであった。
先程、アナログで聴いてほしいといったが......この素晴らしい音は、アナログカット10インチの500枚限定品であるため、お早めに。この連載がアップされている頃には、すでに手に入らなくなってしまっているかもしれないが。
それにしてもアナログは素晴らしいとあらためて感じた。さらに、〈ノンプラス〉の次のリリースはASC(エーエスシー)のアルバムへと続く......。
3. Komonazmuk / Dance Too (LEE JONES RMX) | Apple Pips
-tech dubstep / deep tech house-
インストラ・メンタルがドラムンベースとダブステップの境界を跨いでいるとすれば、このアップルブリム率いる〈アップル・パイプス〉は、テクノ/ミニマルとダブステップ/UKガラージを跨いでいる代表的なレーベルのひとつだと言える。
レーベルの1番は、マーティンからはじまり、アップルブリム&ペヴァーレリスト、T++、ラマダンマン、ブラックルス、インストラメンタル、アル・トーレッツ等々......いまから思うとポスト・ダブステップも予見していたラインナップで、レーベルの方向性がいまのトレンドを生み出したレーベルである。アップルブリムの音楽性は、得体の知れないブラック・マジック(黒魔術)のようなオカルト・ダブステップ〈スカル・ディスコ〉を通り、テクノ・ダブとポスト・ダブステップ/ガラージを融合した形が〈アップル・パイプス〉なのだ。近年のレーベル・リリースは、よりシンプルでミニマル・ライクな作品が圧倒的多数を締め、さらにトライバルでテック・ガラージな音楽性を推し進めるなど独自のポスト・ダブステップなサウンド形態を追求している。
さて、コモナズムックだがアップルブリム同様ブリストルのアーティストで、2007年、ダブステップでデビューしている。が、彼のキャリアは、もっと古い。〈ムーヴィング・シャドウ〉、〈テック・イッチ〉、〈ハード・リーダース〉周辺のドラムンベース・レーベルでハード・エッジなドラムンベースをリリースしていた4人組、アイス・マイナスのひとり、ケイラン・ロマックスなのである。アイス・マイナス名義では、1998年~2004年まで活動後、コモナズムック名義にシフトし、ダブステップ・アーティストとして彼は成功を果たしたというわけだ。ドラムンベースで培われたダークでインダストリアル・ハード・エッジなテッキーサウンドを操り、トップ・プロデューサーとしてのし上がっていったのである。
筆者のお気に入りは、ジェイクス主宰の〈ヘンチ〉より2008年発表された"バッド・アップル"だ。エレクトリックなシンセ群がオートメーション機能により右往左往するテクノ・トラックで、幅広く支持された彼の代表曲である。今作"ダンス・トゥー"でもテクノ・ダブとしても機能する重低音トラックにスライトリー・ダブなシンセがリヴァーブする漆黒のグルーヴでダブステップが本来持っているヘヴィな芯が感じられ、バッド・トリップを引き起こす。フリップ・サイドは、アップルブリムと〈AUSミュージック〉主するウィル・ソールとのコラボレーションでお馴染みのリー・ジョーンズがサポート。秀逸な4つ打ちのディープでダビーなテック・ハウスで、テクノ・シーンでもスピンしてほしい作品だ。
4. LV & Quarta 330 / Dong / Hylo / Suzuran(LV & Quarta 330 Remix)
| Hyperdub -electro dubstep-
ちょっと掲載が遅くなったが......6月のダブステップ会議パート2にて素晴らしいライヴを披露してくれた〈ハイパー・ダブ〉から、デトロイト新世代のカイルホールのリリースに続き、日本を発信源としたダブステップ・アーティスト、クオーター・330の作品を紹介しよう。
リキッドでエレクトロなゲーム音シンセが代名詞な彼の作品だが、コード9がその才能を認めた唯一の日本人アーティストとして、数々の音源を〈ハイパー・ダブ〉からリリースしている。それをダイレクトにライヴ演奏で伝えているその手法も各方面から高い評価を得ている、まさに新世代を代表する日本人アーティストと言えるだろう。今回はLVとのコラボレーションだが、LVといえば、ラガでダビーなエレクトロ・ダブステップを傾倒したり、UKルーツ・シーンのヴォーカルをフィーチャーしたりと素材のオーガニック感を重視するアーティストとして知られる。両曲とも、両者の良さがちょうど真んなかあたりで細かく重なり合うダブステップらしさが生きたメランコリックなハイパーダブの模範的エレクトロ変則ビートと言ったところで、YMOやアフリカ・バンバータ辺りにインフルーエンスを受けているクオーター・330の音楽性が何だか妙に頷ける作風である。ポスト・ダブステップと言う流行など微塵も感じさせない彼らのオリジナル性が、コード9を虜にさせるのであろう。ブリアルがそうであったように。
話が最初に戻るが、そのダブステップ会議パート2で、野田さんとディスクショップ・ゼロの飯島さんが、メイン・パーソナリティーで最新リリースの紹介や若手DJ/プロデューサーとの熱を帯びたトークを繰り広げられたようで好評を博した。これは私見だが、いまのシーンをダイレクトに伝えるならもうちょっと回数を頻繁にやってほしいと思う。画期的で素晴らしい企画であり、いまもっともホットなジャンルをみすみす放っておく手てはないだろう。ele-kingのようなアンダーグラウンド・シーンの"核"を突いているサイトと連動しているならさおさらだ。ローファーがインタヴューで話していたこと「最初のイヴェントなんか、20人ぐらいしかいなかったよ。そこにいまのダブステップ・オリジネーターたちがみんな居たけど」を日本でも再現できる最適なヴェニュー〈DOMMUNE〉もあるのだし......。
5. Ramadanman / Fall Short/Work Them | Swamp 81 -post dubstep-
野田さんとダブステップ界隈の話をすると必ずと言っていいくらいラマダンマンの話題になる。相当好きらしい......と言うか筆者もだが。〈ヘッスル・オーディオ〉主宰でポスト・ダブステップをリードしてきた重要人物だからなおさら注目しているのである。
とにかく彼はいま、各方面からアプローチされまくっている。ダブステップ・シーンは言わずもがな、テクノ、ハウス、クラブジャズ、そしてドラムンベースの各主要なエレクトロニック・ダンスミュージック・シーンなどからだ。いろんなところで注目されるだけあって彼のプログラミング・スキルは、いたってシンプルながら多様性に耐えうる自身のフォーマットを有している。どのシーンに行ってスピンしても、"ハマる"曲を量産し、認められ続ける彼はある意味凄い。しかも20代前半のプロデューサーだからおそれ入る。なかには、味気ないと感じるものもあるが、そういう曲はテクノ・シーンでウケるし、ガラージ・テイストな変則2ステップみたいな曲はハウス・シーンでウケる。アシッド・ハウスなテイストもあるし、ブロークンビーツ、時折レイヴ・ジャングルなアーメンも組み込む。UKアンダーグラウンドの音楽性を掻き集め、集約したハイブリッドな才能を彼は持っている。
このA面の"フォール・ショート"も確実にテクノ・シーンでも活躍できるDJユースなダブ・ファンクだ。逆サイドは、〈スワンプ81〉のオーナー、ローファーがDBS来日時にかけていたグライム風ヴォーカルをループしたルードボーイ感溢れるスワンプ・アンセムで、これまたインプレッシヴなバウンシー・トラックに仕上がっている。
その〈スワンプ81〉のローファーと言えば、やはり〈DMZ〉が真っ先に浮かんでくるだろう......その〈DMZ〉から遂にリリースとなったマーラとコーキのユニット、デジタル・ミスティックズのファースト・アルバム『リターン・2・スペース』。おそらくマーラの単独制作によりアナログ・オンリーでリリースした初期DMZを彷彿とさせる重低音ダーク・スペイシー・トラックだ。本当に多くの人が待っていたアルバムで、叙情的なシンフォニーとアトモスフェリックな空間センスが解き放たれた傑作である。
レゲエにインスパイアされているマーラが、レゲエ・セレクターの象徴であるダブプレート文化を守る数少ないDJとして、そのアルバムを彼らしくアナログ・オンリー(現時点では)でリリースしたことに敬意を表したい。デジタルやダウンロードでは得られないリアルな"物"がここに存在しているのだから。
6. Rregula & Dementia feat Miss Redflowe / Last Hope / Dizgo | Icarus Audio
-neuro funk / drum&bass-
個人的な話ではあるが、6月~7月は何かと不調であった。体調が良くなかったり、仕事で転機が訪れたり、DJブッキング、制作に追われ多忙がたたってそうなったのだが、この曲を聴いたお陰でかなり調子を取り戻した。久々に筆者好みのドラムンベースで爽快なランニング・チューンがリリースされたのである。
レギュラ&ディメンティアは、オーストラリア出身のニューロ・ファンクを支持する若手有望株のプロデューサーだ。レギュラは以前、同じくオーストラリアのフェスタとのユニット、バッド・ロボットとして、2006年にドラムサウンド&ベースライン・スミスのメインストリーム・レーベル〈テクニーク>から「マスターズ・オブ・マイト/シーケル2」、〈ブラック・サン・エンパイアー〉から「フォーエヴァー」を発表し頭角を現す。その後、2007年(音楽性の違いによるのか?)ユニットの活動停止にともない、個人名義やディメンティアと組む機会が増し、いまの音楽スタイルに定着したのであった。
オーストラリア、ニュージーランドのオセアニア地区は、ペンデュラム、コンコード・ドーン、ステート・オブ・マインドなどが独自の音楽性(ロッキン・サウンドやニューロ・ファンクのブームを作った)を打ち出し、UKやオランダに匹敵するドラムンベースが盛んな地域に発展させたのである。
今作をリリースした〈イカロス・オーディオ〉だが、USの新鋭レーベルでレギュラ&ディメンティアが看板アーティストとして一翼を担っていると言えよう。A面でフィーチャーしたのは、ベルリンの紅一点、ミス・レッドフラワーとのコラボで、幻想的なヴォイスを披露している彼女は、DJ/プロデューサー/ヴォーカルもこなすマルチな才能を持ち、いまもっとも注目の女性ドラムンベース・アーティストだ。女性だからといって、まったく物怖じしないドライブ感溢れるニューロ・ファンク/サイバー・ファンクなDJで軒並みフロアをロックしているらしい......いつしか筆者も共演してみたいものだ。
この作品の特質すべきは、ダブル・ドロップ(ロングミックスのブレンド状態)のときに出力される出音が並ではなく飛躍的に伸び、爆発的なドライヴ感が体験できるのだ。この状態を筆者は、"ドライビング・シンドローム"と呼んでいるのだが......いろんな曲でミックスを試した結果、驚くほどそれは良く聴こえるのである。やはりこれはフロアで体感して頂きたい。しかもアナログでないとこの出音は体感できないだろうことは、当然である。
1. Munk / La Musica | Gomma
このところは梅雨のバッドヴァイブスに完璧に日々ノックアウトされている。今年は入梅が遅かったせいか梅雨のジメジメに夏のムンムンまでプラスされ、それこそヴァイナルもカビれ! もしくは曲がれ! という勢いだ。そういえば、友人曰く日本の気候っていうのはだんだん亜熱帯に近づいているらしい。たしかに最近スコールのようなゲリラ豪雨も多いし、ともすると未来には日本もマラリアの流行地帯になる可能性すらあるとか。また、レコードディガーの別の友人曰くやっぱりレコード文化が残っている国というのは湿度が低い国が多いらしい。だから東南アジアとかの古いレコードをいい状態で手に入れるのは至難の業なのだとか。そんな話を思い出しつつ、我が家のレコード部屋の行く末を遠い目で案じる日々だ(水とりぞうさんを設置しながら)。
そんなわけで、前回のサウンドパトロールでは「梅雨どきには暗いレコードが聴きたくなる......」などと書いておきながら、今年の梅雨の予想を超えたハーコーっぷりに完璧、前言を翻している。雨だけなら良いが、この暑さとのダブルパンチを食らいながら陰鬱なレコードなんか聴いてしまっては苦笑ひとつできなくなってしまう。そこは僕も人の子なので、こういうときはついつい景気がいい音に手が伸びる。
そこでまず紹介するのは、先日ジョナス・インベリーが脱退し、マティアス・モディカのソロユニットになったムンクのEPだ。どことなくラテンの匂いがするベースラインにピアノがユニゾンするフレーズや、フックの清涼感溢れるシンセのコードワークだけとればコテコテのサマーチューンなのだが、そこはムンク、一筋縄ではいかない。いたるところにエレクトロ・パンクやニューウェイヴの毒っけを混ぜてくる。過剰にゴリゴリしたベースの音色も軽い違和感をもって耳に残るし、後半登場してくるFM変調を過激に使ったアシッド風シーケンスも印象的だ。夏っぽい女性ヴォーカルとスキャットが心地よいが、そこに暑苦しいダミ声のオヤジヴォイスが絡んでくるというのもいろいろな意味でニクい。
この感じ、どこかで聴いたことがあるな? と思いつつ聴いていたのだけれども、思い出した! DAFのヴォーカル、ガビ・デルガドと元リエゾン・ダンジュルーズのサバ・コマッサとのユニット、デルコムだ。ジャーマン・ニューウェイヴ×バレアリック×アシッドという組み合わせからはやっぱりデルコムの匂いがする。スエーニョ・ラティーノの影響を受け当時ラテン・アシッドとすら言われたあの折衷感に、かなり通じるところがあるんじゃなかろうか。
リミックスには昨年の日本ツアーも好評で、先日DJ CHIDAのレーベル〈Ene〉からシングルをリリースしたポルトガルの奇才ティアゴを起用。こちらはシンセ・ベースが裏打ちになり、よりサイケディスコ感を強めたリミックスになっている。ダビーな音響処理が施されたシンセリードは空間を切り裂くように鋭く、ロッキンだ。azari & IIIのリミックスに至ってはシンセ・ストリングスのコード弾きとベンドするシーケンスがモデル500みたいだ。
なんにせよ折衷的なシングルになっているが、どのミックスもジャーマン・ニューウェイヴというところで1本筋が通っている。ラテン・フレーヴァーがするのに極めてドイツっぽい1枚。
2. Tiago / Rider | Ene Records
DJ CHIDAが主催し、東京地下シーンとワールドワイドな地下シーンをシームレスに接続しているレーベル〈Ene〉の3枚目は、前述のムンクのリミックスもかっこよかったティアゴの12インチ・シングルだ。4月のサウンド・パトロールでも取り上げた前作は東京屈指のコズミック・ディスコ・バンド、スライ・マングースvs北欧のディスコ王子、プリンス・トーマスという組み合わせだったが、今回はリミキサーにイセネエヒヒネエ所属のデュオ、コス/メス(COS/MES)がフィーチャーされている。
ティアゴによるオリジナルは、プログレやクラウトロックの影響を感じるドラムレスなサイケ・チューンだ。3連のシンセベースが延々ステイし、ビートはシンプルなパーカッションのみ。ミニマルに反復するリズムの上に、サイケロック調のピアノやハモンド・オルガン、そしてスパイス的にマリンバとシンセストリングスが添えられる。シンセ・ストリングスも基本的にはピアノのフレーズと同調するもので全体としては押し殺したようにストイックかつヒプノティックな作風だ。ジャン・ミッシェル・ジャールの作品に通じるような暗さもある。ムンクのリミックスで見せたアグレッシブなアプローチは完全に影を潜めている。
そもそもティアゴはその作風の広さに定評がある。いままでも数多くの変名を使い分けて音楽活動をおこなっており、例えば変名のひとつであるスライト・ディレイ(Slight Delay)名義では、90sピアノ・ハウス・ミーツ・ビートダウンといった趣のトラックや、オールドスクールエレクトロ・ミーツ・バレアリックのようなクロスオーヴァーな作風を見せるなど、とにかく多才だ。
コス/メスのリミックスは、そもそもドラムが鳴らないこのトラックをヒプノティックな側面を保ったまま10分越えのサイケ・ディスコに昇華している。クイーカの音が印象的な2分に渡るイントロの後ようやくと太いキックが鳴りはじめ、その後も派手な展開は無く、ひたすらストイックに10分間をフルに使ってジワジワと楽曲をビルドアップしていく。中盤ではデニス・フェラーの"サンド・キャッスル"をぐっとピッチダウンしたようなフレーズが現れ、そして終盤で頭上を旋回するようなシンセ・ソロとオルガンのリフが現れるという構成はとにかく「ハメる」ためのトラックという意図を強く感じる。
このシングルには、このコス/メスのリミックスをDJ CHIDA自身がさらにリエディットしたヴァージョンも収録されている。こちらは、ダンストラックとしての強度をさらに増して、90'sハウスのエッセンスを追加したような仕上がりだ。オールドスクール・ハウス的なリズムマシンによるフィルインや、レイヴ感のあるシンセリフが追加されており、よりトラックにメリハリがついている。個人的にDJで使うならこのヴァージョンだろうな。
3. Kyle Hall / Must See EP | Third Ear
先日急逝したカガミしかり、ハタチそこそこで〈R&S〉の社長のレナードに「んで、いくら欲しいんだ?」と言わしめたリチャード・D・ジェイムスしかり、若く、そして底知れぬ天賦の才を感じさせる作り手の登場は、それだけで血沸き肉踊るものがある。デトロイトのジャズ・ジャイアント、ローランド・ハンナの甥っ子としてこの世に生を受けた現在19歳のカイル・ホールもまた、そんな存在のひとりだ。17歳の頃にオマー・Sのフックアップでシーンに認知され、カール・クレイグがウォンキーをやったようなシングル『ケイチャンク/ユー・ノー・ホワット・アイ・フィール』を名門〈ハイパーダブ〉からリリースしたかと思うと、〈ムード&グルーヴス〉からはメロウなエレピをフィーチャーした小洒落たジャジー・ハウスをリリースするなど、そのオープン・マインドな作家性も魅力的だ。野田努氏的にもストライクといったところだろう。
〈サード・イヤー〉からリリースされた今作は、独特に荒れたビートの質感が印象的なデトロイト感溢れるディープ・ハウス・トラックだ。セオ・パリッシュのくすんだ黒さにも通じる独特の汚し感覚は、彼に深く刻み込まされたデトロイトの遺伝子を感じさせる。A2に収録された"ゴーステン"は、MPC1000を使用している(YouTubeの動画で確認できる)ことに起因していると思われるヒップホップ的なビートの荒れと、流麗なピアノとシンセの対比が美しい。
この曲や、B2に収録されている"ボディ・オブ・ウォーター"からは随分と大人びた印象を受けるが、B1に収録された"OSC2"では、リズムマシンと、タイトルどおりふたつのオシレータのみを使ってリズムがヨレヨレのヘンテコなミニマル・テクノを作るような遊び心も健在だ。コンピュータを使っておらず、MPCで完結しているからだろうか、全曲通して非常に編集が荒っぽい。ブッツリとパートがミュートされたり、「あ、ストップボタン押したな」という感じで曲が終わったりする。でも、それもまた妙にデトロイトくさくていい。願わくばこの先ずっとPC使わずにこのスタイルを貫き通して欲しいな。
ところで、このように才能溢れる10代は実は日本でもちゃんと出現している。カイル・ホールの作品を聴くたびに、そしてYouTubeでおもちゃのキーボードやらシンセやらサンプラーと戯れているその姿を見るたびに思い出すのは、同じく19歳の奇才トーフビーツだ。高校生だった17歳の頃に石野卓球主催の屋内レイヴ〈WIRE〉のサード・ステージの新人アーティスト枠に抜擢されたり、またカイルと同じくヒップホップマナーでラフなビートの質感と、おそらく手癖なのだろう、小洒落たキーボードのフレージングなどある種のシンクロニシティとでも言うべきか、被るところが多い。彼が今年の1月にユーストリームで披露した即興ライヴ・パフォーマンスは、デトロイト/シカゴファンにが見ても相当面白いと思うので併せて紹介しておく。(http://www.ustream.tv/recorded/4067945)
また、7月18日には早稲田のクラブ・茶箱にて18歳のDJやアーティスト出演者が全員18歳(大学受験生)のサンデー・アフタヌーン・パーティがおこなわれる。最近話題のレーベル〈マルチネレコーズ〉からもリリースしているダブステップ少年miiiや、ジロー・シロサカ、関西からはどす黒いシカゴ・ハウスを卓越したテクニックでスピンすることで話題を呼んでいるDJ、アフロミュージック(AFRMUSIC)も参加するというこのパーティ、若い芽チェッカーな人は無視できないだろう。この国にもカイル・ホールに匹敵する才能はきっとゴロゴロ眠っているはずだ。
4. Simon Hinter / Take Care EP | Phil
さっきのカイル・ホールもそうなのだけれども、ここ最近はイーヴン・キックな曲でもビートにちょっとした引っ掛かりみたいなものがある曲が気に入っている。〈プロッグシティ・ディープトラックス〉などから有機的なテック・ハウスをリリースしているサイモン・ヒンターが新設した自身のレーベルからリリースしたのは、オーガニックな持ち味をさらに前進させた、一風変わったディープ・テック・ハウスだ。
まず、表題曲になっている"テイク・ケア"は、6連を基調としたタップダンスのタップ音のソロとアコースティック・ピアノで幕を開ける。やがてイーヴン・キックが現れ、ベル系の音色でメランコリックなメロディを奏でる。スウィングするビートと、鍵盤の絡み、物憂げな世界観などはドクター・ロキットが〈インナーヴィジョンズ〉以降のテック・ハウスをやっているみたいだ。エレピやパイプオルガン、民謡からサンプリングしたような女性ヴォーカルなどのフォーキーなマテリアルはグラニュラーシンセシスによって引き伸ばされたり、再構築されたりしてざらついた、しかし何故か耳に優しい音に加工されている。
B1に収録された"ナイト・ライツ"では、デトロイティッシュな寄せては返すシンセパッドにジャジーなアコースティック・ピアノを併せた白眉のアンビエン・トハウスだ。ここでもシンセ・パッドには複雑な滲みを伴ったフィルターがかけられており、エレクトロニカ以降のテクノロジーを自由自在に使いこなしているという印象を受ける。それでいても音は電子音電子音せずにどこまでもオーガニックな印象だ。
B2収録の"ミスター・ブルー"で聴ける冒頭のアコースティック・ギターにしてもそうなのだが、実際にギターを弾くとしたら明らかに不自然なベンドの仕方をしているのに、不思議と違和感を感じさせず体に染み込んでくるようなマジックがサイモン・ヒンターの音にはある。この感動は、レイ・ハラカミのサウンドを初めて耳にしたときの感動にも近いかもしれない。
ところでこれは余談なのだが、この盤はグレーのカラーヴァイナルになっている。最近レコード屋にいって思うのは、一時期とくらべてカラー・ヴァイナルやクリア・ヴァイナルの数がかなり増えたことだ。DJもデジタルデータを扱うのがごく一般化して久しいが、そのなかでヴァイナルにこだわってリリースするからには、物としての価値を高めようという方向に向かっているのだろう。ジャケットのアートワークも面白い物が増えた印象だ。個人的にもアートワークはやっぱりあの大きさで見たい。
5. Moebius / Light My Fire | Light Sound Dark
最後に、ともすると「珍盤」というカテゴリーにすら入りかねないがグッと来た1枚を紹介しよう。"ライト・マイ・ファイヤー"というタイトルのこの盤は、"ハートに火をつけて"の邦題でも御馴染みなドアーズの名曲"ライト・マイ・ファイヤー"のシンセ・カヴァーだ。初出は1980年だというこのヴァージョン、今回の再発にあたってマドンナをプロデュースしたことでも知られるミルウェイズによるリミックスと、エクステンド・エディットが収録されている。
ちなみにこのレコードを作っているメビウスというアーティストには二説あって、ひとつは70年代の終わりから80年代にかけて活動していたロスのシンセバンドのメビウス。もうひとつはクラスターやハルモニアとして活動しているディーター・メビウスの作という説。個人的には前者じゃないかと思うんだけれども、はっきりしていない。
それこそガーション・キングスレイの作品だったり、クラフトワークの『アウトバーン』なんかにも通じるように、シンセサイザーの音というのはどこかカートゥン的な側面がある。とくに80年代のシンセポップ的な音にはその傾向が顕著で、例えばダニエル・ミラーのシリコンティーンズだったり、〈アタタック〉からリリースしていたアンドレアス・ドラウの作品からは子供の遊び感がプンプンしていた。
今回のメビウスによるカヴァーも例外ではなく、そこからはジム・モリスンが纏っていたシリアスさというのは微塵も感じられない。どちらかというと、ドラウの"フレッド・フォン・ジュピター"なんかに通じる牧歌的な感覚さえ覚える。ミルウェイズによるリミックスは流石のスキルで現代的なディスコ・エレクトロにブラッシュ・アップしているが、肝心のヴォーカルが妙にヘロヘロなのでイマイチ格好つけきれていないところが逆に良い。
後半、ヴォーカルをオートチューンによって局所的に変調させているのだが、ミルウェイズは本来ヘロヘロなピッチをアジャストするためのテクノロジーであるオートチューンを使って、ヴォーカルにデタラメとも思えるビブラートを付加してさらにヘロヘロにしている。その開き直りっぷりが小気味よい。クールでスタイリッシュなのも大事だが、それだけじゃパーティはきっとつまらない。こういう、言ってみればバカバカしくもあるレコードもまた夜の宴には欠かせないものだと思う。
1. James Blake / CMYK | R&S Records
わずか4枚のシングルによっていま急速に注目を集めているのがロンドンの21歳のプロデューサー、ジェイムス・ブレイクである。ジャイルス・ピーターソンは自分の番組に誘い、『ピッチフォーク』は12インチ・シングルなのに関わらずアルバムと同等の扱いをしながら「best new music」に選び、気の早いライターは「ヒップホップ革命における最終形態」とまで言い出す始末だ。
ブレイクは、彼の音楽から察するところ、アメリカのR&Bとヒップホップのファンである。ある情報筋によれば彼のサンプル・ネタはブランディからR.ケリーまであるらしいが、しかしこの若者は弁護料の心配することなく、それらのビッグネームたちの素材を切り刻む。90年代末のティンバランドとネプチューンズの記憶は、そして彼のコンピュータに流し込まれるとサイエンス・フィクションの舞台へと移動する。"CMYK"に最初に針を落とすとR&Bヴォーカルが聴こえるが(情報筋によればそれはケリスとアリーヤらしい)、その声はさりげなく微妙に変調する――これはブリアルが"アーチェンジェル"で使った"技"だが、ブレイクはそれをさらに過剰に押し進めているようだ。レコードの回転数が不規則になったかのような不安を醸し出し、そして叩きつけるようなビートが鳴りはじめる。2曲目の"Foot
Notes"を喩えるなら、ドラッグでいかれたアンドロイドのR&Bだ。声や音の変調と揺らぎによる不安定さはブレイクの"技"だが、ここではそれをずいぶんと引っ張って、そして無音状態を経て唐突にショーがはじまる。
"I'll Stay"は潰されてペシャンコになったヴォーカルに解体されたファンクとジャズのコードを合成する。"Postpone"は採集したいくつかのR&Bサンプルを面白いようにゆがませながら、ソウル・ミュージックをレトロと未来の両側に引き裂いているようだ。
ポスト・ダブステップとポストR&BのIDM展開と言ってしまえばそれまでだが、「CMYK」は新しい流れを作ってしまいそうな1枚である。そんなシングルが〈R&S Records〉から出ていることが、僕の世代ではなんとも感慨深い。
2. James Blake / The Bells Sketch | Hessle Audio
ジェイムス・ブレイクの最新盤で、ラマダンマンの〈ヘッスル・オーディオ〉から。「CMYK EP」ほど派手な使い方ではないが、やはりここでもヴォーカル・サンプルは彼の"技"として駆使されている。狂ったジャズ・ファンクと気が滅入るほどメランコリックな"The Bells Sketch"が素晴らしい。もったいぶった"Buzzard And Kestrel"で踊る人はあまりいないだろうが、"Give A Man A Rod"のダウンテンポにいたっては困惑した挙げ句、フロアから人は立ち去っていくであろう。それはブレイクの挑戦か、さもなければ自分の"技"に溺れてしまったかのどちからだ。
3. Pariah / Detroit Falls | R&S Records
〈R&S Records〉はこの路線が「いける!」と踏んで勝負を仕掛けているようだ。ロンドン在住のパリーア(アーサー・ケイザー)による「Detroit Falls」は、手法的にはジェイムス・ブレイクとほとんど同じで、つまりこれもまたブリアルの"アーチェンジェル"の発展型だ。あらためて『アントゥルー』(2007年)の影響力の大きさを思い知る。
A面の表題曲は、"デトロイトは没落する"というそのタイトルが暗示するように、モータウンあたりのデトロイトのソウル・ミュージックをサンプリングしているのだろう。リック・ウィルハイトのレヴューでも書いたが、この不況によって容赦なく荒んでいくデトロイトへのいたたまれない気持ちが込められているのかもしれない。
古いR&Bヴォーカルやホーンの音を変調させ、それをビートにリンクさせていく。「CMYK」と比較するとこちらのほうがダンサブルでヒップホップらしさがあり、ジェイディラへのリスペクトも感じる。
B面に収録された"Orpheus"は典型的なポスト・ダブステップ・サウンドで、言ってしまえばラマダンマンの模倣だ。ダビーなビートが生み出す空間にメランコリックなソウル・ヴォーカルが流れるように挿入される。この曲を聴くと彼がザ・XXの"ベーシック・スペース"のリミックスを手掛けている理由がよくわかる。ザ・XXのファンなら間違いなく好きなタイプの曲。
4. Ramadanman / Ramadanman EP | Hessle Audio
先日、『スヌーザー』誌のためにカリブーに取材したら、ブリアルのおかげでダブステップを好きになれたと話していて、僕の場合もまったく同じだと思った。ブリアルの『アントゥルー』はファンを増やしたばかりか間違いなく多様化をうながし、そしてアントールドやラマダンマンに方向性を与えたのだ。
ラマダンマンことデヴィッド・ケネディは写真で見るとずいぶん若いが、デビューは2006年だからそれなりのキャリアがある。自ら〈ヘッスル・オーディオ〉レーベルを運営しながら、〈ソウル・ジャズ〉からシングルを発表するなど2年ほど前から注目はされていたが、今年に入って発表したこの2枚組EPが僕にはずばぬけてよく聴こえている。DOMMUNEでも話したことだが、この音楽はプラスティックマンがダブステップをやっているように聴こえるのだ。A面に収録された"I Beg You"はまったくブリリアントなエレクトロニック・ファンクで、間違いなくテクノ耳を虜にする。裏面のふたつのトラックもファンク調だが、DJユースのパーツとして収録されているようだ。このあたりを上手にミックスしているテクノ系のDJが日本にいたら教えて欲しい。
もう1枚のほうの3つのトラックはどれもがアシッド・ハウス的なテイストを持っている。ねじまげられた空間を「はぁはぁ」という男のあえぎ声がこだましているD面1曲目の"Bleeper"にはラマダンマンのユーモア精神を感じることができる。こうした自由と楽しさが、カリブーのように「それまではダブステップのいかめしさに距離をおいていた」人たちを惹きつけていることをあなたは知っているのだろうか?
5. Kyle Hall / Must See EP | Third Ear
昨年の秋に〈ハイパーダブ〉から発表されたダークスターのヒット・シングル「アンディのガールフレンドはコンピュータ」によってカイル・ホールの名前を知った。彼はこのシングルのリミキサーだった。そのときはオリジナルのほうが良いと思っていたけれど、先日〈ハイパーダブ〉からリリースされた彼のシングル「ケイチャンク/ユー・ノー・ホワット・アイ・フィール」が実に素晴らしかったので、追ってみることにした。
ちなみにデトロイトのこのプロデューサーがどれぐらい若いかと言うと、1991年7月生まれだから、彼が生まれたとき、すでにデリック・メイは制作活動を休止していて、URのふたりは分裂しはじめている。恐ろしい話だ。デトロイトのジャズ・ミュージシャンの家系に生まれ育った早熟なホールは、16歳で〈ムーズ&グルーヴス〉からシングルを発表している。フライング・ロータスではないが、ある種のサラブレッドなのかもしれない。
〈サード・イヤー〉からのリリースとなった4曲入りの「マスト・シー・EP」は、インパクトの点では「ケイチャンク/ユー・ノー・ホワット・アイ・フィール」に劣るかもしれないが、デトロイト系を追っているファンにとってはこっちのほうが親しみやすいと思われる。何よりもスローテンポ・ハウスの"Must See"やアンビエント・ハウスの"Ghosten"には、デリック・メイや若かりし頃のカール・クレイグを彷彿させる、息を呑むような美しさが受け継がれているのだ。メランコリックでジャジーなメロディラインが、シンプルで気の利いたドラムパターンと結びついている。リズミックな遊びを展開する" Osc_2"やディープ・ハウスを披露する"Body Of Water"も悪くはない。
ポスト・ダブステップのような流行の音楽ではないが、これぐらい気持ちの入った12インチがコンスタントに出ているのなら、昔のように人はヴァイナルを探すようになるのだと思う。
6. T++ / Wireless | Honest Jon's Records
モノレイクといっしょに〈DIN〉を運営するトルステン・プレフロックによる12インチ2枚組で、すでにテクノDJのあいだでは人気盤となっている。彼は歴史のアーカイヴから、30年代末から40年代にかけて録音されたという東アフリカの楽器(ndingidi――読み方がわからない)の音、そしてその奏者であり歌手の声を見つけ、それらをサンプリング・ソースとして活用し、瞑想的な空間を作っている。面白いことにリズムは明白なまでにダブステップ(2ステップ、ジャングル)からの影響を取り入れている。ワールドカップをほぼ全試合観ているためにブブゼラの音にはすっかり慣れてしまい、よってこうしたエキゾティズムもとりたてて新鮮に思えなくなっているのだが、「ワイアーレス」はいわばブライアン・ジョーンズの『ジャジューカ』(これはモロッコだが)のミニマル・テクノ・ヴァージョンとして楽しめる。サイケデリックで、エクスペリメンタルで、とにかくぶっ飛んでいるのだ。
2ステップのビートを取り入れた"Cropped"にしてもダブステップからヒントを得た"Anyi"と"Dig"にしても、10年以上にもおよんで懲りもせず、結局のところベーシック・チャンネルの物真似しかできなかった多くのフォロワーとは確実に一線を画している。交錯するコラージュとそれら裏打ちのビートとのコンビネーションがなかなか面白く、ふたつのスピーカーからはうねりのようなものが立ち上がってくる。ネタ勝負の安直なトラックではない。その料理の仕方のうまさがこのシングルでは際だっている。殺気立つパーカッションと地鳴りのような低音の"Voices No Bodies"も魅力的だ。モーリッツ・ファン・オズワルドへのリアクションとも受け取れるが、ドイツのミニマル音楽の最新型は、ドイツのサッカーより面白く思える。
1. Alaska / Mesozoic Era | Arctic Music -drum & bass/ambient jungle-
実は筆者の友人でもあるUKのナショナル・クラブ・シンガー、カースティ・ホークショウ(Kirsty Hawkshaw)に「必ずあなたが参加しているこのニュー・アルバムを紹介するよ。」と約束したので、トップで紹介させて頂く......知り合い云々でなくとも、必ず紹介していただろうが......"純粋"に、ただ素晴らしいコンテンポラリー・アートコアと位置づけられる傑作なのだから当然である。
00年代に入り、すっかり馴染みが薄れてきたアンビエント/エレクトロニカを基調としたドラムンベース。90年代後半から爆発的にフロア思考が全盛を極め、多数の若手プロデューサーがそこに辿り着くよう目指していったので、そのような風潮になったわけだ。そのなかにあって当時、抽象表現的アンビエント/アブストラクトな作品を頑なに貫くアーティストが若手ながら存在した。その先駆者であるLTJブケム率いる〈グッド・ルッキング〉からのリリースによって名を馳せたパラドックス(Paradox)、そしてその変名アラスカである。アラスカ名義では実に4年ぶりのアルバムとなる今作は、2000年~2006年~2010年と紡いだトリロジーの最終章としてコンプリートされる。その集大成というわけだ。
凍てつく地域で創造される音が、まったくもってここに表現されている。その感覚に触れるべく、まずは聴いて欲しい作品がこの「メソゾニック・エラ」だ。現在では懐古的になってしまった"アンビエント・ジャングル"だが、この作品の大半と言うか......レーベル〈アークティック・ミュージック〉のカラーである全体像が"それ"というわけだ。
カースティとの繋がりもあって、以前、彼女から筆者にも紹介してもらったアラスカ/パラドックスことデブ(Dev Pandya)は、レーベルのディレクターも務めながら、〈Paradox Music〉〈Esoteric〉〈Arctic Music〉〈Outsider〉といった4つのレーベルを巧みに使いわけている。デブは、現代でも稀なドラムンベース・フィロソフィストである。
さて、本作はちまたのドラムンベースで流行しているディープでミニマでいたってシンプルな作品とはまた一線を画したサウンド・スケープで、より音楽的で音響要素に富んだオリジナル・プロジェクトである。パラドックス名義の作品に顕著なアブストラクトなミニマル・フィロソフィック・アプローチとは、オポジットに位置している。凍てつくように、そして研ぎすまされた"北"の感性がメインラインとしてスケッチされ、盟友セバ<(Seba)との共作にも共通する北欧的アンビエント・コラージュが広がる。カースティとの共作「Sundog」のサブタイトルに(ー20 MIX)と加えられてるイメージ通りのサウンドである。
ちなみにトラック/ジャケット・デザイン双方がこれほどアーティに連動している作品はドラムンベース界では希有で、エレクトロニカ/ポスト・ロックの感性にも近いとも言える。もしかしたら......これが......"ポスト・ジャングル/ドラムンベース"なのかもしれない。
2. Heist / Continental Drift | Metalheadz-drum & bass/darkcore-
以前パーティ・リポートでお届けした今年2月の〈DBS〉で、ゴールディが自身のユニット、ラフィージ・クルー(Rufige Kru)の名曲"ビーチドリフタ"(Beachdrifta)をラストにスピンしたのだが......そのラフィージ・クルーのエンジニア/マニュピレーターがハイストである。ハイエナジーなジャンプアップ・サウンドをメイン・プロダクションとしながら、〈カリプソ・ミューザック〉(Calypso Muzak)、〈コーラボ・レコーディングス〉(Co-Lab Recordings)、〈ガンジャ・レコーズ〉などからリリース。さらにディープ・プロダクションでは、〈ホライゾンズ・ミュージック〉や〈インテグラル〉(Integral)などから数々のリリースによって活躍しているマルチ・プロデューサーだ。現在はゴールディの片腕としてメタルヘッズ全開のダーク・ベース・サウンドを受け継いでいる。
先述した往年の名曲"ビーチドリフタ"の続編的な傾向が強い今作"コンチネンタル・ドリフト"は、ときを経てより繊細で滑らかなタッチで描かれたストリングス・アンサンブルである。叙情性を拡大し、幻想的に思い浮かべる浜辺をひた走る......そんな陶酔感覚を抱かせる。他にカップリングされている3曲も秀逸で、メタルへッズを地でいく代表的サウンド・ディレクション"ダークコア/ディープコア"が、現在のトレンドとともにオブラートに包みこまれ、混合したあと、生み出されているといったところだ。メタルヘッズはいまもなお衰え知らず"健在"である......。いや、"暗躍"と言ったほうが適切か......UKを代表するあのダーク・スター、ゴールディ主宰のレーベルなのだから。
3. Davip & Encode / Vamonos/High Technology |
Breed 12 Inches -drum & bass/electric cyber-
昨年、多様なアーティストのリリース・ラッシュを果たしたロシアからまたニューカマーが現れた。〈ホスピタル〉からの大ヒット・コンピレーション・アルバム『フューチャー・サウンド・オブ・ロシア』も記憶に新しい。エレクトロソウル・システム、サブウェイヴ、ボップ等々、寒い土地柄もあってか、北欧的感覚のディープ/エレクトロニカよりな作風を志すアーティストが多かった。が、今度はダンスフロア直系のエレクトリック・サウンドだ。彼ら、ダヴィップ&エンコードのようなサウンドがロシアでも台頭してきたのである。
ブレイクスを主に扱うマッシュアップ・レーベル〈カット&ラン〉からのリリース(正確にはダヴィップのみのプロダクション)でも話題の彼らだが、今回は、ニューロ・ファンクをリードするクリス・レネゲード(Chris Renegade)主宰のレーベル〈リフテッド〉(Lifted)傘下となる〈ブリード・トゥエルブ・インチーズ〉からのリリースだ。このレーベルは、若手や新進気鋭のアーティストの受け皿的なレーベルと言ってよいだろう。現在のドラムンベース・シーンの動向から、まったく正反対の音楽性(サイバー/テック/エレクトロ・ステップ等々......)を貫いているこのレーベルに新たな期待を抱きたい。このようなサウンド、つまりロッキン・エレクトリック・サイバーは、先駆者ペンデュラムの成功が賛否両論を生んだにせよ、大いなる可能性があるサブジャンルであることに変わりはない。
筆者がDJを務めた4月15日の〈DOMMUNE〉でこのような曲をプレイしたとき、率直に考えさせられたことがある。プレイ中の前半、つまりニュースクール・ドラムンベースをスピンしたのだが、正直、いまの進化したメインストリーム・ドラムンベースをどのように日本のクラブ・リスナーは捉えているのか、個人的にも非常に興味深かったのでトライしたのだが、賛否両論と言わざる終えない状況になった。その多くは懐古的ジャンルとして捉えられているのか、良くも悪くも、現在のドラムンベースの置かれてる状況が公の場ではっきり知ることができ、身をもって体験したことで勉強になり感謝したい。が、個人的見解で言えば、00年代に突入してからドラムンベースの取り巻く状況は、刻々と変化し、枝分かれしていった先、よりストイックでマニアックなものになっていった。そのことが日本のドラムンベース層が徐々に薄れていったひとつの原因ではないかと推測される。この時点で、各々のサブジャンルのコミュニティができあがり、他のジャンルの層と噛み合なくなったと言えるかもしれない。筆者はそのような日本でのドラムンベースの状況を「ドラムンベース失われた"00年代=ディケイド"」と呼んでいる。<DOMMUNE>での後半クラシック・ジャングルをプレイして反応が非常に良かったあたり、多くがそこで止まっているのだ。このことについては、また今後も触れていきたい。とにかく、シーンの活性化上、新しい世代にもどんどん聴いてほしいジャンルであり、我々がその素晴らしさを伝え続けなければならないと感じている。
4. Kyle Hall / Kaychunk/You Know What I Feel | Hyperdub -dubstep/detroit-
コード9が仕掛けるレーベルのポリシーは実に素晴らしい。カテゴリーに拘らず、つねに新しい音を追求しているからだ。自身のダークかつダビーなガラージで、ブリアルのような幻想なアンビエント・ダブステップ、はたまた、ゾンビーのような奇怪なダビー・エレクトロ、ビーツ界の巨人フライング・ロータス等々、このレーベルのヴァリエーションの豊かさはハンパない。そしてここにデトロイトからの新たなサウンドを〈ハイパーダブ〉に加わる。カイル・ホールである。
カイル・ホールは、2007年デトロイトのアンダーグラウンド〈FXHE〉レコーズからの「プラスティック・アンバッシュ」でデビューしている。当時若干17才というから恐れ入る。2008年には早くも、自身のレーベル〈ワイルド・オーツ〉を立ち上げ、立て続けにデトロイト・ディープ・ハウスの傑作を送り出している。新世代のプロデューサーらしく、徐々にヨーロピアン・ナイズされたビートニクスやファンキーにも着手し、2009年リミキサーとしてダークスターの"Aidy's Girl Is A Computer"をリミックスする。美しくも繊細なハウスにディープ・ファンキーを掛け合わせたようなメランコリックな秀作となり、それで今作「 Kaychun k/You Know What I Feel」で〈ハイパ ーダブ〉からのシングル・デビューを飾ったのである。エレクトロ色が踏んだんなハイパーダブ・カラーを生かしつつ、デトロイト的宇宙観を前衛的に捉えたファンキー志向ビーツである。デトロイト経由から届いた〈ハイパーダブ〉、次は何処から届けられるのか楽しみである。
5. DJ G / Avoid The Noid/Duality | Pushing Red -dubstep/atmospheric/dub-
サンフランシスコのダブステッパー、DJ Gだが、聴くたびに筆者のツボを付かれるプロデューサーだと思う。ミステリアスで空間系アトモスフェリックに展開したかと思えば、スライトリーなダビー色やスモーキーなハウスの要素を加えたプロダクションを出したり、あるいはトライバル・テッキーでミニマル・ライクなシリアス・ステップであったりと、とにかくパーカッシヴで重厚なダブステップをリリースしている。今回はアメリカのテキサスを拠点としている〈プッシング・レッド〉からのリリースで、テック・インフルーエンスなアトモスフェリック・ダブステップとディープ・ダブのカップリングとなった。〈プッシング・レッド〉と言えば、レーベル1番にリリースされた、サンフランシスコのジャス・ワンも素晴らしい。彼はディープ・ガラージや2ステップ色が強く、UKサウス・ロンドン志向の新世代ニュー・ガラージを提唱するひとりと言える。ジャイルス・ピーターソン主宰〈ブラウンズウッド〉からのジャズ・シンガー、ホセ・ジェームスの「Warrior」をサブトラクト(SBTRKT)とともにリミックスしている。今後もサンフランシスコから発信されるこの個性的なサウンドをこう位置づけよう。ローファーが語っていたこと、これが「ポスト・ダブステップ」であると。
6. Scuba/Dissident / Tense[D BRIDGE RMX]/Social Of Silver Skeletons [HEADHUNTER RMX] | Hotshore -dubstep/drum&bass/drumstep-
ドラムステップ<DRUMSTEP>と言う新たな潮流が生まれつつあるのは、ご存知だろうか? ローファーは"ポスト・ダブステップ"について語っていたが、そのことはダブステップに限らず、ドラムンベースやUKガラージなどのリアル・アンダーグラウンド・ミュージックにも当てはまる。そこで先述したドラムステップだ。ちょうど、ドラムンベースとダブステップの中間のBPM、ビート・プログラミングなのだが、いかんせん、現時点では存続するかいなか、疑い深いくらい中途半端感が否めない。そのサポートしている中心にいるのが、〈テクニーク〉などからリリースしているダブ・ファンデーションやD・ブリッジ、コンシーケンスなどだ。
今回、スキューバの〈ホットフラッシュ〉とDJクレバーの〈オフショアー〉が融合した〈ホットショアー〉から、D・ブリッジがスキューバの名曲"Tense"をドラムステップ風にリミックスし、カップリングにディシデントをヘッドハンターがリミックスするという豪華内容になっている。ドラムステップが、今後どのような道程を歩むのか非常に興味深く見守っていこう。そしてまたすぐUKから新たなサブジャンルが世界中に送り込まれるだろう。
7. Calibre / Tenopause/Discreet Dub | Deep Medi Musik -dubstep-
ジョン・ケージを敬愛するカリバー。奇抜なインダストリアル・センスをサウンドデザインするプロデューサーで、すでに多くののドラムンベースの名曲を送り出している。昨年はドミニク・マーティン名義でのインディ・ロックやシネマティック音響/現代音楽を融合したアルバムを披露し、シーンに衝撃を与えている。
カリバーもまたダブステップに度々足を踏み入れている。これはマーラの〈ディープ・メディ・ミュージック〉から2作目となるシングルなである。そのきっかけは、2008年9月20日の〈DBS〉、カリバーとマーラの初共演ではないだろうか。あの来日がカリバーのダブステップ制作のはじまりになったのである。これはなんとも嬉しい話だが、音のほうもサウンド・フィロソフィストでもある彼の才能が、ダブステップと言うフィルターを通しても違和感なく発揮されているというところがすごい。というか、彼の感性はダブステップのほうがより適合していると思うくらいだ。
この12インチにおいてカリバーは、ドラムンベースでは踏み入れられなかった未解の領土を切り開いたようである。現在多様化が加速するダブステップのなかで、〈ディープ・メディ・ミュージック〉が持っている変わらない本来のダブステップの姿(サブベース主体のきわめてパワフルでシンプルなダビー・サウンド)が、ここに来て再認識されてきているようだ。
いろんなものを吸収してきたハイブリッドなダブステップに、いま、転機が訪れてきているのは間違いない。そうしたシーンの動きのなかで自身のレーベル・カラーや音楽性を貫いているDMZクルー(マーラ、コーキ、ローファー)は、やはり格が違うと言うべきだろう。
1. Stacy Pullen / Alive | Black Flag
永らく音信普通だった旧友とばったり再会したような......。面陳されたレコードのなかにこのシングルを発見したときには、そういう少し浮き足立った気分になってしまった。ステーシー・プレンの本作は、前作「ジ・エレクトリック・インスティトゥート・サンプラー(The Electric Institute Sampler)」から数えること5年、そして自身のレーベル〈ブラック・フラッグ〉からの作品としては実に8年ぶりとなるリリースである。その名も「アライヴ」ときたものだ。〈ブラック・フラッグ〉を復活させてのこのタイトル、否が応にも期待が高まる。
ステイシー・プレンはカール・クレイグと並んでデトロイト・テクノの第二世代を代表するアーティストだ。彼のサウンドは、デリックメイ譲りのエモーショナルなコードワークとパーカッシヴなリズム隊が持ち味である。しかし、ロマンティシズムのなかに隠しきれない猛々しさを孕んでいるデリック・メイのサウンドに対し、ステイシーは、そう......、デューク・エリントンのそれにも通じる漆黒の気品のようなものを纏っている。扇情的でありながらも、どこか一歩引いたようなクールさとスマートさが彼にはある。
今作は、そんな彼の一連の作品群の中でももっとも"熱い"部類に入る1作だ。彼の楽曲は浮遊感のあるシンセパッドを中心として構成されることが多い。しかし、今回楽曲の中心に据えられているのはソリッドで骨太なベースラインだ。2拍ループで突き進むベースラインにヒプノティックなシンセサイザーが絡み合うなか、「I'm back...」という彼の変調された声が響く。そこには彼独特のクールさはあまり感じられない。というか、ちょっと驚くほどストレートだ。サイドBに収録されたその名も"ハイテック・ソウル・ミックス"はアフロ・パーカッションがフィーチャーされたラフな作りになっており、さらにオールドスクールなデトロイトサウンドへの先祖がえりが進んでいるようにも思える。
折りしも今年はデトロイト・テクノが誕生して25年目の年だ。3月にはフロリダで行われたWMCに於いて『D25』と題された記念パーティも催された。そんな節目の年にステーシープレンは〈ブラック・フラッグ〉を通して何を見せてくれるのか? これは注目せずにはいられない。
2. Aera / Infinite Space EP | Aleph Music

前回紹介したアームやディクソンやヘンリック・シュワルツたち。いわゆる「ニュー・ハウス・ムーヴメントを牽引する〈インナーヴィジョンズ〉一派」の活躍を筆頭に、ゼロ年代から続くジャーマン・テック・ハウスの勢いはいまなおとどまることを知らない。そしてまた今月もドイツから非常にユニークなサウンドのEPが到着した。
アエラは、ゴールドウィル(Goldwill)のメンバーとして〈ワズ・ノット・ワズ〉や〈リーベ・ディティール(Liebe Detail)〉といった人気レーベルから意欲的に作品をリリースしているラルフ・シュミッツ(Ralf Schmidt)のソロ・ユニットである。ゴールドウィルではパーカッシヴなヴォイス・サンプル使いが印象的だったが、今作ではそういったファンキーな持ち味は影を潜め、より内省的な方向性を打ち出している。
サイドAに収録されている"フラワー・オン・ファイアー"は、ゆっくりと寄せては返す波のようなシークエンスと煌びやかなハープの音が織り成す音響世界がこの上なく美しいトラックだ。ヒプノスティックにこだまするシンセと、覚醒を促すかのようにときおり挿入されるノイズの配置も絶妙である。電気的でエッジーなサウンドと、フォーキーなチル感が共存している。そしてなにより、さじ加減ひとつ間違えると途端に土臭くなってしまうダブ処理を、トゥマッチになる一歩手前で優雅な側に留めているそのバランス感覚が素晴らしい。
続くサイドB収録の"エレヴェーター・ピッチ"は、水滴を連想させる電子音のアルペジオが印象的なミニマル・トラックだ。メインで鳴っているアルペジオ・フレーズは3連のリズムを基調としている。そしてそこにときおりピッチを倍速にしたり、反復周期をずらした音をミックスすることで、ポリリズミックなグルーヴが生まれる。そのサウンドがさらにディレイで飛ばされ、音のレイヤーはさらに複雑に重なり合う。そうすることによって、少ないの音色ながらも万華鏡のなかのビーズのように絶えず姿を変えて聴く者を惹きこんでいく。
アエラ、すなわちラテン語で「時代」を意味するそのユニット名に相応しく、今作はジャーマン・テック・ハウスのみならずビートダウンやニュー・ディスコ/コズミックといった、言わばモダンハウスの潮流そのものを飲み込もうかとしているかのようだ。個人的に2010年の上半期ベスト候補です!
3. Ian Simmonds / The Burgenland Reworked EP | Musik Krause
梅雨時が近づいてくると暗いレコードを聴きたくなる。落ち着いた音楽、というよりも"暗い"音楽だ。自分の話でなんなのだが、どうも僕は人よりちょっとばかり季節ごとのテンションのアップダウンが激しいようで......。しかも、これまた恥ずかしながら結構ステレオタイプな方向に。大体毎年春先に浮かれていろいろとやらかしてしまい、梅雨が近づいてくる頃にはどっぷりと反省の海に肩まで浸かることになるのだ。そんなときにしっくり来るのは、やっぱり底抜けに明るいラテン・ハウスではないと思う。
そんな前フリで紹介するのは、昨年なんと9年ぶりにオリジナル・フル・アルバム『ザ・バーゲンランド・ダブス』をリリースしたイアン・シモンズの作品だ。彼は90年代にはアシッド・ジャズ・シーンでカルトな支持を集め、トリップホップにも多大な影響を与えたバンド、サンダルズの一員としても知られている。そんな彼がアルバムをリリースするのに選んだのは、ジャズ・ルーツの良質なミニマル/クリックハウスをリリースしているドイツの〈ミュージック・クラウス〉だ。そして本作は、このレーベルの看板アーティストであるクラウス・デュオ(Krause Duo)を筆頭とした気鋭のアーティストたちによるリミックスEPである。
まず1曲目に収録されているのはリミックスではなく、イアン・シモンズ自身の未発表曲"ルーサー・ストリート・ブルース"だ。沈鬱なノイズと深いエコーがかけられたトランペットが印象的なこのジャズ・ナンバーは、さながらコールタールの沼のなかで聴くトリオ・ジャズとでも言ったところだろうか。ひたすらにダウナーである。続いて収録されている"スピーク"のイーブントゥエル(Even Tuell)によるリミックスも、これまた暗い。ショート・ディレイによって金属的な響きに加工された電子音と、ピッチを低く落としたヴォイス・サンプルのリフレインは、シカゴハウスのなかでも突出してバッド・テイストだったバムバムの作品にも通じるバッド・トリップ感を醸し出している。
この時期、こういったダウナーなレコードに手が伸びるっていうのは、たぶん、少数派ではないと思うんだよなぁ。収録されている4曲どれをとっても、浮ついた気分など一瞬でかき消してくれる素晴らしい薬効を持っている。ちょっと浮かれすぎた? と思ったときには、一度お試しあれ。
4. Bubble Club / Vioket Morning Moon | Bubble Club
浮かれすぎたときに聴きたい1枚を紹介したのだから、今度は落ち込みすぎたときに聴きたい1枚を紹介するのが筋と言うもの。そこで紹介するのがバブル・クラブという聴きなれない名前のこのアーティストだ。実はこのバブル・クラブというのは、ロンドン在住のDJ/プロデューサーであるダン・キーリング(Dan Keeling)とエンジニアのロビン・トゥエルブトゥリー(Robin Twelftree)によるバレアリック・プロジェクトだ。ダン・キーリングといえば、カーク・ディジョージオとのユニット、クリティカル・フェーズの片割れと言うとピンと来る人もいるのではないだろうか?
サイドAに収録されたオリジナルミックスは、BPM115くらいのゆったりとしたエレクトリック・ブギーだ。たっぷりと脈打つようなベースとアコースティックギターのアルペジオは、思わず「これがバレアリックだ!」と言いたくなるほどの夢心地。あげくはリバーブとディレイで飛ばされた口笛まで入ってきて、もう言うことなし! である。サイドBに収録されたエリック・ダンカンの変名プロジェクト、ドクター・ダンクスのリミックスは、極力原曲を保ちながらも上物をさらに厚くして、より深めの空間処理を施してあり、こちらも極上のチルアウトチューンに仕上がっている。
実のところ僕は、わけあってこういうバレアリックな音にはちょっとした思い入れがある。それは遡ること10年、まだ僕が10代も半ばで地元に居た頃に端を発している。僕の地元は青森県は八戸市という本州の北端にあるちょっとした港町だ。お察しの通り、バレアリックとは程遠い。基本的に寒い。そこには田舎ながら一軒だけ、ダンス・ミュージックを専門に扱うレコード屋があった。昨年1月に閉店したその店は、名前を「リミックス・レコーズ」という。
その店には「親方」と呼ばれる、サーフィンと夕日を愛する店員が働いていた。当時テクノ小僧だった僕は、必然的に毎日親方の世話になっていた。〈アクシス〉や〈トレゾア〉のバックカタログを血眼になって集めているような当時の僕に、「そんなんばっかじゃ色気が出ねーぞ」と親方が薦めてくるのは大体決まってバレアリック・チューンだった。「スエニョ・ラティーノ」あたりを入り口にして、当時のイビサ系プログレッシブからホセ・パディーヤの一連の仕事まで。「いま全部ピンとこなくても年取ればわかるさ」といつも親方は言っていた。たしかに当時はピンと来たものはそのなかの半分くらいだったかもしれないが、思えばおかげで随分音楽性を広げてもらった。感謝してもしきれない思いだ。
話が大幅に逸れてしまった。要は、こういう黄昏が似合うような曲を聴くと暑い国への憧憬とともに毎日レコード屋の片隅で過ごした、ボンクラながらも楽しかった日々を思い出して少し元気になり、そして少しノスタルジックな気分になるのだ。
5. Choklate / The Tea | Reel People Music
ジュラシック5のチャリ・ツナ(Chali 2na)やビタミンD(Vitamin D)とのコラボレートにより、ヒップホップやR&Bリスナーのあいだで話題となったシンガー・ソングライター、チョコレート。シアトルを中心に活動する彼女がウェスト・ロンドンのクラブ・ジャズ・ユニット、リール・ピープルと手を組み、彼らのレーベル〈リール・ピープル・ミュージック〉からシングルをリリースした。表題の"ザ・ティー"は、彼女が昨年発表したアルバム『トゥ・フーム・イット・メイ・コンサーン(To Whom It May Concern)』のなかの1曲だ。このアルバムは前述のビタミンDや、メアリー・J・ブライジも手がけるジェイク・ワン(Jake
One)の手によるR&Bを昇華した生音のダウンビートが中心となっている。そのなかでもひときわディスコ・フィーリングに溢れ異彩を放っていたこの曲を、リール・ピープル人脈のアーティストたちがリプロダクトした本作は、――そう、言うなれば"ニュー・ソウル以降のブラック・ミュージックとしてのハウス"を好む人びとのハートを打ち抜くことうけあいだ。
A1に収録されたリール・ピープルによるエディットは、原曲のサウンドをほぼそのまま用いて4分間の原曲を6分にエクステンドしたものだ。オリジナルを尊重した作りになってはいるが、控えめながらも要所要所にダブやエフェクトを加えてチョコレートのシルキーでありながら力強いヴォーカルと、そしてある意味ヴォーカル以上に歌っているファンキーなベースラインの魅力をより引き立てている。A2に収録のラヤバウツ(Layabouts)によるリミックスはパーカッションとサウダージ感溢れるガット・ギターのカッティングが、この曲のエモーショナルな面をよりいっそう盛り上げている。B1のマヌーによるリミックスは、硬めのアコースティック・ピアノとオルガンのコンビネーションという90'sハウスの記号が随所に散りばめられたオールドスクールな作りになっており、ハウス界の大々ベテラン、トニー・ハンフリーズが絶賛したというのもうなずける出来だ。エレクトリックでトリッピーなサウンドが隆盛な最近のハウス事情だが、ときにはこういうオーガニックなヴォーカル物でホッと一息つきつつ体を揺らすというのもまた、乙なものだ。
1. Moody aka Moodymann / Ol' Dirty Vinyl | KDJ

1990年代後半にムーディーマンやセオ・パリッシュらによって押し広げられたテンポ・ダウンされたハウス・ビート。そのキックとキックの「間」には漆黒のサイケデリックが埋め込まれているかのようで、我々を排水溝に吸い込まれていく水のようにゆっくりと別の場所へと連れて行く。ザラついたサンプル同士が交錯し、幻聴のような効果を生む彼らのトラックは実験的でもあるのだけど、それ以上に官能的で、セオの霞がかかったような半覚醒状態のトロけ具合は本当に素晴らしいと思うし、ムーディーマンに至ってはエロとサイケは同義語みたいなものだろう。
そういえば今年の3月にロンドンでおこなわれた〈Red Bull Music Academy〉のトークショーに登場したムーディーマンことケニー・ディクソン・ジュニアは、まわりにはべらせたセクシーな黒人女性たちにヘアー・セットをさせたり、酒を作らせつつ「マザ・ファッキン!」を連発しながら喋りまくり、勝新的俺流な時空のネジれを発生させていた。しかし、何だったのだろうアレは......。
そしてムーディーマン(Moody名義)の新作「Ol'dirty Vinyl」は、その濃度にむせるようなジャケット・ワークに包まれて届けられた。内容はいつも以上にヴァラエティに富んでいて、タイトル曲の"Ol'dirty Vinyl"などは珍しく爽やかな雰囲気もありつつ「気分がいいと思ったらいつの間にかあの世だった」というような感じだし、"We Don't Care"はKDJ自身のVoがのるジャズ・ナンバーで、"No Feed Back"は歪みまくったギターがのたうつKDJ流ブラック・ロック。そして、彼らしいセクシーなハウス"It's 2 Late 4 U And Me"の後には、混沌とした電子音楽" Hacker"が待っているという具合だ。
ある意味、寄せ集め的な作品集なのだけど、最近それなりに洗練されていく傾向をみせていたことに若干不満を感じていた僕のような人間からしたら、この自由度の高い錯綜ぶりは大歓迎だ。さぁ我々をエロとサイケの奈落の一番深いところまで連れて行ってくれよ、KDJ。
2. Missing Linkx / Got A Minute | Philpot
オールドスクールなシカゴのエッセンスやアレやらコレやらをデトロイトのフィルターを通して再定義した俗に言うビートダウンの種子は様々な場所へと伝搬し、そのBPMと同様にゆっくりと、しかし確実にそれぞれの場所で独自の発展を遂げている。ドイツのソウルフィクション(Soulphiction)、モーター・シティ・ドラム・アンサンブル(Motor City Drum Ensemble)、ニューワールドアクアリウム(newworldaquarium)、イギリスのトラスミー(Trus'me)やロシアのヴァクラ(Vakula)(UKの〈Firecracker〉からリリースされるシングルが素晴らしい)などなど、エトセトラエトセトラ。ようするに国境を越え、それぞれがあちらこちらの地下で重心低めのディープなリズムを響かせているというわけだ。
そしてその影響力は巡り巡って、昨年ひっそりとリリースされた日本のモンゴイカ a.k.a. T.Contsuの12インチにまで及んでいたりもする。モンゴイカ(戸田真樹)とは、ヒップホップ・ユニットの降神をはじめとした〈Temple ATS〉のアートワークを手掛ける画家でありトラックメーカー。その彼が、自身の〈Close Eye Recordings〉から出した「KIMI EP」のローファイでスモーキーな4つ打ちには、やはり何処か日本的な叙情と孤独が忍び込んでいて、その事実がとても面白く思う。
このようにデトロイト・ビートダウンが拡散し、かつ各エリアで様々なヴァリエーションを見せるなかで、ドイツのSoulphiction及び彼の主宰するレーベル〈フィルポット〉は、もはやフォロワーという域を越えた存在になりつつある。ソウルフィクション(Michel Baumann)のアナザー・プロジェクトであるというミッシング・リンクスの前作「Who to Call」に収録さていれた"a Short History of..."は、強烈なバネをもった美しい野獣のようなファンクだったし、この新作の「Got A Minute」も削ぎ落とされた筋肉のようなビートが脈打っている。
ドイツから放たれたこれらの音は、本家とはまた異なる種類の緊張感を漂わせ、非常にシンプルでタイトだ。黒人音楽をサンプリングしてそれっぽく仕上げただけのフォロワーも多いけれど、リスペクトとコピーは別ものだし、ときにはリスペクトなんて言葉は忘れるべき。
3. G.I.O.N. / Echoes of Our Minds Pt.1 | Human Race Nation
ちょっと手前味噌なのだけど、僕がリミキサーとして参加した作品を紹介させていただきたい。HUMAN RACE NATION(以下HRN)から出たG.I.O.N.の「Echoes of Our Minds Pt.1」がそれだ。言うまでもなく、デトロイトから影響を受けつつ、そこから受け取ったものを独自に展開し活動している者は日本にも存在する。音楽ユニットG.I.O.N.として硬派なミニマリズムを追求するフジサワ・アツシとコシ・シュウヘイによるHRNもそのひとつ。
HRNは長野で活動しながらもドイツ経由でワールドワイドにヴァイナルをリリースするという、ローカリズムとグローバリズムを兼ね備えた日本では非常に希有なレーベルである。 今まで彼らは地元長野でデトロイトやドイツを中心としたアーティストを迎えたパーティーを行い、地道にコネクションを築いてきた。それは2007年のシングルでのフランク・ムラー、本作における元UR、ロス・ヘルマノスのメンバーのDJ S2ことサンティアゴ・サラザール、そして次のリリースでのDJ3000とレニー・フォスターのリミキサー起用にも繋がっている。一方そこにトラックス・ボーイズや岩城健太郎、d.v.dとしても活動するJimanicaや僕などの国内リミキサーも混ぜることにより、既出の4枚のヴァイナルはちょっとした異文化交流の機能も果たしてもいる。
「Echoes of Our Minds Pt.1」は昨年末にヨーロッパでリリースされ、G.I.O.N.のオリジナル、DJ S2 REMIX、僕の手掛けたREMIXそれぞれが、ベルリンのBerghainのレジデントDJであるMarcel Dettmannや、フランスの Syncrophone(Theo ParrishとかAnthony Shakirのリミックス盤を出している)のオーナーDidier Allyneらのチャートに入るなど高い評価をもらった。しかし、ヨーロッパで品薄となり、日本には極少数しか入荷されない状態で残念だったのだが、近々ディストリビューターを変えて再リリースされるとのこと(そんな理由もあり、出てから少し時間が経っている本作を敢えて紹介させてもらった)。そして間もなく「Echoes of Our Minds Pt.2」の方も出るようだ。
彼らとは今後も諸々関わっていく予定で、実際に現在進行中のプロジェクトもある。そういえば僕と彼らの最初の接点はというと、確かmixiのデリック・メイのコミュに僕がパーティの告知を書き込んだのを、HRNのフジサワくんが見てコンタクトをとって来たのがそもそもの始まりであった。ここはmixiとデリックに感謝するべきなのだろう。
4. Don Williams / Detroit Blue Ep | A.R.T.Less
〈A.R.T.〉〈B12〉に〈ラッシュ・アワー〉、〈プラネットE〉と、このところAS ONEことカーク・ディジョージオがリリース・ラッシュである。同じく90年初頭のデトロイト・リヴァイバル~インテリジェント・テクノを代表するアーティスト、B12が同名のレーベルを一足先にリスタートさせたのに続き、カークもかつて自身が運営していたA.R.T.を復活させたりと、何だかこの辺り盛り上がっている模様。一時期〈モワックス〉などでリリースしていた生ドラム再構築モノは封印し、完全にテクノ/ハウスへ舵を切っているものの、音自体は〈A.R.T.〉の頃の音というよりも、疾走するリズム+エレガントな上モノのコンビネーションの、昨今割りとよくあるデトロイト・フレイヴァーのテック・ハウスという感じのものが主だったりする。
そんななか、ドイツの良質なディープ・ハウスレーベル〈Mojuba〉のサブ・レーベルである〈a.r.t.less〉は、その〈A.R.T.〉とカール・クレイグの名曲"At Les"を掛け合わせたような名前からもわるように、恥ずかしいほどの初期デトロイトへの愛が丸出し状態だ。更にオーナーであるドン・ウィリアムス自身の「Detroit Black EP」からはじまる黒、赤、青のデトロイト三部作は、モロに初期〈トランスマット〉。とくに青盤は初期のカール・クレイグ、ひいてはインテリジェント・テクノであり、もうところ構わず「好きだ~!」と叫んでいるような1枚。
思えば当時のデトロイト・リヴァイバル~インテリジェント・テクノというのは、結局のところ初期のカール・クレイグのサウンドのコピーだった。例えばデリック・メイのラテンにも通じるようなバウンドするリズム感ではなく、それは 69名義で豪快な実験を繰り広げる以前のカール・クレイグ、ようするにPsyche名義での"Elements"や""Neurotic Behavior"などの音を指す。孤独で繊細で壊れやすく、思わず「詩的」なんていう恥ずかしい言葉がまるで恥ずかしいと思わなくなる程に、それは魅惑的な青白い輝きを放っていた。そう、色で言うとデリック・メイは赤で、カール・クレイグは青だ。
それにしても、このドン・ウィリアムスの「Detroit Blue Ep」は、何だかこちらが赤面するくらいの青臭さに満ちていて、これをどう評価するべきなのか正直僕にはわらない。しかし、カール・クレイグがPsycheで描いた音世界は、当の本人でさえもう作れない類いのものだと思うし、結局その後放置されたままになっているのもたしか。その先の音が知りたい。
5. DJ Nature / Necessary Ruffness EP | Jazzy Sport
DJ ネイチャーことマイルス・ジョンソン。またの名をDJ MILO。ネリー・フーパー、ダディー・G、3D、マッシュルームが在籍していたブリストルのDJチーム、ワイルド・バンチの中心人物である。82年から86年まで活動したこの伝説的DJチームは、その後のUKサウンドの核、つまりパンク~ニューウェヴの残響とレゲエのサウンドシステムとヒップホップの接点を体現した存在であり、解散後、ネリー・フーパーはSOUL II SOULを、そしてダディー・G、3D、マッシュルームはマッシヴ・アタックとして活動することとなる。一方のMILOはUKの喧噪と離れ、ニューヨークのハーレムで黙々と音を紡ぐこととなるのだが、それはなかなか世に出ることはなかった。しかし、元ワイルド・バンチという伝説に彼を閉じ込めるべきではないし、実際に彼の音楽はブリストルで得たものを更なる深みに向けて解き放ったものである。
そして今年、彼の12インチが日本の〈ジャジースポート〉から届けられた。この「Necessary Ruffness」と題されたヴァイナルに収録されたトラックは、いずれもディープ・ハウスよりもさらにディープでロウなハウスであり、そのくぐもった音質が独特の空間を生み出していて、それは意識しているのか無意識なのか、デトロイトのビートダウンやベルリンのシーンなどとも共振する類いのものになっている。そして、その音楽性は日本の〈DIMID〉から2003年にリリースされたMILOの初のアルバム『Suntoucher』(表記はDJ MIL'O)ですでに示されていた。
ここで個人的な話しを少々。2004年に出た僕のS as in Soul.名義のアルバムは、元々は〈DIMID〉から2003年に出る予定だったのだが、途中でA&Rが独立することとなり、それに伴い1年後に〈Libyus Music〉の第一弾としてリリースされた。当時の〈DIMID〉~現〈Libyus Music〉の竹内君とS as in Soul.のリリースの打ち合わせしている時、このMILOのアルバムを出すべきかどうかを相談されて、僕は絶対出すべきだと答えたのを憶えている。そのことがどれだけの影響したのか知らないが、あのアルバムが世に出るキッカケを僅かでも与えることが出来たのならば、それは非常に光栄なことだ。
僕としては、現在のマッシヴ・アタックよりもMILOの音のほうが遥かに魅力を感じるのだけれど、そんな比較など本人からしたら迷惑な話しでしかないだろう。この12インチの後に控えているというニュー・アルバムを楽しみに待つのみだ。
1.Joy Orbison / Shrew Would Have Cushioned The Blow EP | Aus Music
"UKガラージ"がテムズ川から南に位置するクロイドン近郊で"ダブステップ"へとトランスフォームしたのは周知の通りである。そこからしっかりと広がって、あるいはインターネットや媒体などを通してウイルスの如く目まぐるしい速度で感染していったわけだ。いまは亡きクロイドンの伝説的レコード店〈Big Apple〉から育っていったダブステップの先導者たち――スクリーム、ハイジャック、ローファーなども、"ガラージ"というフィルターを通り、インスパイヤーされている。実は筆者は2001年から2004年までのあいだのロンドン在住中、サウスロンドンのクラハムノースに住んだことがある。が、当時サウスロンドンでこのようなムーヴメントが起こっていようとは知る由もなかった。たしかにクロイドンが位置する南ロンドン周辺は、古くからジャマイカン・ミュージックやジャングル、ドラムンベース、ガラージの恩恵を受けた音楽が豊富なエリアではあるが......。
"ガラージ"の未来を担い、ポスト・ガラージの最左翼と称される20代前半の若者が昨年クロイドンからまた現れた。たった1曲により世界中を席巻してしまったジョイ・オービソン――本名はピート・オーグラディ(Pete O'Grady)という青年のことで、2009年の代表的なトラックとして取り上げられる「ハイフ・マンゴ(Hyph Mngo)」を発表したプロデューサーである。アーバン・サウンドのセンスとアイデアとクロイドンならではのサブカルチャー、そして"ガラージ"......まさにこれぞ"ミューテーション(突然変異)"というに相応しい音楽である。
ジョイ・オービソンは、12歳からDJをはじめている。ハウスやUKガラージがその中心だった。そこから、エレクトロニック・ミュージックの知識を貯え、多様な音楽性のDNAを受け継いでいる。ゆえに彼がアーバン・ベース・ミュージックのネクスト・レベルを提唱するのも必然かもしれない。 最近では、ホセ・ジェームスの「ブラック・マジック」、フォ ーテットの「ラブ・クライ」などのリミックスでも評価を高めている。
今作「The Shrew Would Have Cushioned The Blow」は、〈シンプル・レコーズ〉主宰のウィル・ソウル(Will Saul)とフィンク(Fink:〈ニンジャ・チューン〉所属)のふたりが運営しているレーベル〈Aus Music 〉からのリリースとなった。トレブルやミドルレンジがあまり広く用いられないサブ・ベース主体のダブステップに反して、上質なトレブル・サウンド・コラージュがプログラムされている彼のニュー・ガラージ感覚が注がれている。
ひょっとしたら新たなサブジャンルの誕生かもしれない......ふたたびクロイドンから世界に向けて。そしてまたしても世界中で感染するのだろう。
2. Sbtrkt / 2020 | Brainmath
この連載の2月でも紹介したサブトラクト(Sbtrkt)だが、UKガラージ色が濃かった変則ビートの「ライカ(Laika)」に続いて、〈ブレインマス(Brainmath)〉からミニマル x ガラージを基調とした大傑作EPが届いたので紹介しよう。タイトル・トラック"2020"は、アートワークが暗示するように近未来の世界を模写したシネマティックなサウンドで、ブリアルの浮遊間溢れるダーク・エレクトロニカ感覚をさらに押し上げ、深い叙情性に富んだアンビエント・ビートなトラックになっている。4つ打ちを取り入れたハード・ミニマルなドライヴ感と音響派コズミック・ガラージとでも言えばいいのか、その素晴らしい"ジャムロック( Jamlock )"、ディープ・ミニマル・ダブと共鳴するインダストリアル・ベルリン・ステップな"ワン・ウィーク・オーヴァー"、エレクトリックなシンセ群が魅力的に交感し、パーカッシヴなビートがそれをフォローするガラージ・ステップ"パウス・フォー・ソート"......収録された4曲すべてが素晴らしい。
サブトラクトは最近はリミックス・ワークも好調で、オリジナルにいたっては発表するたびに新たな試みが具体化されている。彼もまた、新世代の旗手としてジャンルレスな活動をしていくだろう......と言うよりすでに各方面で話題だが......。いずれにせよ、これこそ近未来のダブステップである。と同時に、実にDJフリンドリーなサウンド・パックでもある。
3. Actress / Machine And Voice | Nonplus
〈ノンプラス〉とは、ディープでアトモスフェリックなドラムンベースをリリースしていたインストラ:メンタル(Instra: Mental)主宰のレーベルである。インストラ:メンタルは、2009年に〈ノンプラス〉を立ち上げ盟友ディーブリッジ(dBridge)とともに「ワンダー・ウェアー/ノー・フューチャー」をリリースすると、続いてインストラ:メンタルの「ウォッチング・ユー/トラマ」を発表、シーンにディープ・ドラムンベースとでも呼ぶべき新風を巻き起こしている。ところが、2009年中頃からダブステップへとシフトしていくのである......もっともインストラ:メンタルの"音質"と"ダブステップ"との相性が抜群であったのは明らかだったのだが......。とにかく、彼らはダブステップへの転身により、アーティストとしてより輝き放ったのである。
転身したとはいえ、その作品の大半は、トライバル・ステップやドラムンベース・トラックの作品でお馴染みの、アトモスフェリックなテッキー・ダブステップである。現在彼らはコズミック・ステッパー、エーエスシー(ASC)と一緒にアルバムを創作中とのこと......まったく楽しみな話と言うか、DJセットにどう組み込むか期待は膨らむばかりだ。
そして、レーベル5枚目となったリリースは、先述のジョイ・オービソン「The Shrew Would Have Cushioned The Blow」のリミックスも務めたアクロレス(Actress)である。アクトレス(女優)......と言っても男性プロデューサーで、彼の本名はダレン・J・カニンガム(Darren J Cunningham)というのだが。
ビート職人としても名高い彼は、独特のビート・カットやハッシュする技術により、秀逸なエクスペリメンタル・トラックを世に送り出している。2004年にレーベル〈Werk Discs〉をスタートさせ、デビュー作「ノー・トリックス」を発表している。デトロイティシュなビート・マエストロとの好評価を受け、2008年には、ファースト・アルバム『ヘイジービル(Hazyville)』、2009年にはなんとトラスミー(Trus'me)率いるハウス・レーベルの〈プライム・ナンバー〉からディープな傑作「ゴースツ・ハブ・ア・ヘブン(Ghosts have a heaven)」をリリース、その多才ぶりを如何なく発揮している。
今作「マシーン・アンド・ボイス」は、彼の新境地とも言うべきエレクトロな高音色を多用した新感覚なビートスケープだ。一見ごくありふれたビートメインのトラックのように感じたのだが......聴いていくとビートのプログラミング構成がランダムかつグルーヴィーにどんどん変化していく。予測不能に陥るエクスペリメンタルなこのトラックは、フライング・ロータスをどこか彷彿させるのだ。ハッシュされたヴォーカル・サンプルの注入具合といい、奇才の風格が漂う彼ならではのビート・コラージュである。
4. Von D & DJ Madd / U / It's Over | Boka Records
いまもっともホットな......と言うか、流行っている......と言うか、制作者が目指しているといったほうが適切かもしれない。ダブステップのサブジャンルとして絶大な支持を得ているアトモスフェリック・ダブステップという潮流である。ロンドンの現在の事情に詳しい友人からそう聞いた。つまり、数年前のブリアルやコード9のようなアトモスフェリックな曲調は、あったことはあった......が、しかし、それを飲み込む程のダークな質感やインダストリアル・ノイズ・スケープといったものが上回っていたため、純粋の"アトモスフェリック"と言うものが流行りだしたのは、ここ最近に至っての話ではないであろうかと思う。どこか......このようなひとつのジャンルが派生していった流れは......と考えたとき、まったく同じ現象が時代を経ていま起こっていると気付いたのである。これは、90年代の中期に一世を風靡したドラムンベースのサブジャンル"アートコア"である。
先日、DOMMUNEで開催した「DBS・スペシャル」(これを開催するにあたり尽力して頂いた神波さん、サポートして頂いた野田さん、カーズ、宇川さん並びDOMMUNEスタッフの方々、そしてジンク&ダイナマイトMCの素晴らしいプレイに心よりお礼申し上げます)にて、野田さんが推奨した"変人"ゾンビーの2008年のアルバム『Where Were U In '92?』という作品名が語るように、彼はまさにジャングルに没頭していたわけだが、その後、同じようにクロイドンのダブステップ・リーダーたちもジャングル、とりわけアートコアはに創造性をよりかきたてられ、心躍らせていたことだろう。LTJブケムと〈グッド・ルッキング〉、オムニ・トリオ、〈ムーヴィング・シャドー〉やファビオの〈クリエイティヴ・ソース〉等々......である。そういえば、昨年、スクリームが実に面白い作品をリリースしている。シャイFX主宰の〈デジタル・サウンドボーイ〉からの「バーニング・アップ」だ。これがまた......ただのアートコアよりのレイブ・ジャングルなのだ。初期〈ムーヴィング・シャドー〉をそのままをスケッチしたようなその姿勢に、彼の少年時代の記憶を聴こえるようだ。アートコアが築いた偉大な足跡は、今日に至ってもさまざまなところで受け継がれているのである。
今回の作品「U / It's Over」は〈ボカ〉からリリースとなった。フランスのボンDとハンガリーのDJマッドによる共作だが、彼らの思考がアートコアに直結しているのは、この作品をもって証明できる。ブリージーな心地よさとファジーで温かみのあるその全体像は、コズミックな宇宙観とも違い、ファンクネス溢れるジャジー・ソール思考とも違う......やはりこれは、アートコア=アトモスフェリックなのだ。
5. Ramadanman / Ramadanman EP | Hessle Audio
DJの視点からみて、このうえなく重宝する作品と言うのは多々ある。DJミックスによって素材の重なり具合によって作品の表情が180度変わったり、そこから予想だにしなかったグルーヴが生まれたりと......ロング・ミックス/ブレンドをこよなく愛す筆者の三台ミックス・スタイルにとって、小節単位でミックス部分を計算し、レコードをサンプルのように使うこの方法は、シンプルなサウンドほど変化させがいがあり、そこに"ハマる"貴重なものを見つける快感があるというわけだ。
シンプルとはいってもごくありふれたトラックなら山ほどある。が、ここに、そうしたミックスのコンセプトに合致したトラックが、パンゲア(Pangaea)とラマダンマンのふたりが共同運営するディープ・ガラージ系のダブステップ・レーベル〈へッスル・オーディオ〉から出た。「パンゲアEP」に続いてリリースされたディープ・テッキー・リーダー、ラマダンマンのEPがそれである。ちなみにラマダンマンと言えば、〈へッスル・オーディオ〉の他、〈アップル・パイプス〉、〈セカンド・ドロップ〉、〈ソウル・ジャズ〉などからダブステップをリリースしている20歳そこそこの若手プロデューサー。今回は、高まる期待のなかのリリースである。
さて、それで1曲目に収録された"I Beg You "「I Bet You」だが、パーカッシヴなビートにシンプルなベースが呼応し、サイドエフェクト的に絡むヴォーカル・サンプルがうまいアクセントになっている。テック×ガラージに対しての回答とも言うべきリズム・プロダクションだ。"No Swing"はタイトル通り、スイングしない。ドラムの乱打にエレクトロニカ調のエフェクト・ピアノ、ピョンピョン跳ねるゲーム音を混ぜて、実に混沌とした、スイングしそうもない音である。が、しかし、これがまた実に面白いように展開しているのだ。「ノースイング=リズミカルでなく調子が悪い」とは良く言ったもので、これはコミカル感覚なノースイング・ステップだ。
続く"A Couple More Years"も、ちょっとおかしなチープでバウンシー・ベースがメインラインのトラックだ。意外とミニマルにミックスすれば、新たなテイストが現れるかもしれない。最後の"Don't Change For Me"は彼のルーツを掘り下げているようだ。レイヴ・ジャングルのアーメン・ビーツをプログラミングしているあたり、彼の好みがうかがえる。ラマダンマンはテッキーではあるが、ミニマルなトップ・アーティストたち(スキューバ、マーティン、2562等々)とはまた一線を画したセンスがあるのだ。明らかに"並"ではないその変化に富んだプロダクションは、いまだ底が見えそうにない......。ヴィラロボス、フランソア・K、ジャイルス・ピーターソンらがラマダンマンのトラックをスピンするところに、彼のユニークな存在感が証明されている。
1. Henrik Schwarz / Ame / Dixon / A Critical Mass Live EP | Innervisions
ダンス・ミュージックを聴きはじめたばかりの友人に日々質問攻めにされている。たいていの場合、質問の内容は「この曲ってなんていうジャンルなの?」というものである。そんな友人に「これはダブステップっていうんだよ」だとか「これはミニマル・テクノね」などと教えているうちに、彼もだいぶ詳しくはなってきたのだが、いまだにハウスとテクノに関しては判別に困ることがあるらしい。友人曰く「生音だとか、ヴォーカルが乗ってたらわかるんだけど。テック・ハウスとかミニマルとか、いまいち違いがわからないものがある」とのことなのだ。僕自身、ジャンル分けにおける、ある種の縄張りのようなものにはあまり頓着しないほうなので、たいていの場合は、「あんまり気にすることないと思うよ。気持ちよく踊れればそれでいいじゃない」とお茶を濁してしまうのだが、本人が気になるというのならばしょうがない。本当は「とにかくいろいろ聴いて自分の好きなものを探せ!」と一喝すべきなのかもしれないが......。
そういえば、僕がクラブカルチャーに足を踏み入れた90年代の終わり頃には、そこまで悩むようなこともなかったように思える。記憶を遡ってみると、テクノとハウス、言ってみれば4つ打ちのエレクトロニック・ダンス・ミュージックの領域が双方向に侵食の度合いとその速度を増していくその契機になったのは、05年にリリースされたアーム(Ame)の「Rej」である。これがミニマル・テクノとディープ・ハウス両方の現場で熱狂的な支持を集めたことに端を発していたように思える。
このシングルは、そのアームが「Rej」を発表したレーベル〈インナーヴィジョンズ〉の看板アーティストたち、ヘンリック・シュワルツ、ディクソンとともに昨年おこなった〈a critical mass〉ツアーでのライヴ・テイクを収録したものだ。ライヴのコンセプトは「テクノ的アプローチによるフリー・ジャズ」だったそうだが、しかしこの演奏からフリー・ジャズの持つ力学――作法や理論による束縛から脱却しようとするエネルギーを感じることは難しい。むしろライヴ・テイクであるにも関わらず、そして4人で演奏しているにも関わらず、そこから発せられるサウンドはそのコンセプトとはまったく逆の印象さえ覚える。無駄をいっさい削ぎ落とした、ひたすらストイックに反復する強固なマシン・グルーヴである。
A面に収録されているのは、2003年にリリースされたヘンリック・シュワルツによるロイ・エアーズの"Chicago"のカヴァーのライヴ・エディットで、原曲に含まれていたヴォイス・サンプルなど多くのパートは消失し、ミニマル・チューンに再構築されている。ジワジワと厚みを増すアシッド・シンセとハイハットの微細なディケイの変化によってグルーヴは紡がれていく。
B面に収録されている"Berlin-Karlsruhe-Express"では、中期のアシュ・ラ・テンペルを彷彿させるかのようなシンセ音のレイヤーが幾重にも折り重る。なんともダイナミックなテック・ハウスである。
同期された3台のラップトップ・コンピュータと2台のキーボード、そしてドラムマシンによって演奏されるこれらのミニマルなサウンドは、強固なシステム的束縛の上に存在するように思える。が、しかし、だからこそプレイヤーの一瞬の閃きによるインプロビゼーションが、その束縛との対比によって拡大され、そして聴衆に大きなカタルシスを与える。この現象こそが彼らの目指した「ミニマル・テクノ以降のフリージャズ」なのかもしれない。また、友人への説明に苦労しそうだ......。
2. Sly Mongoose / Noite | ene
同期型ラップトップ・ライヴ・ユニットの次に紹介する1枚は、一転して"人力コズミック・ハウス/ディスコ"とでも言うべき作品である。
リーダーでベースの笹沼位吉、キーボードの松田浩二、ギターの塚本功、パーカッションの富村唯、そしてトランペットのKUNIという完全生バンド編成から成るスライマングースは、2002年に結成し、腕利きのライヴ・バンドとして地道な活動を続けている。ザ・スカタライツやロヴォらと競演するいっぽう、そのトラックは海外の人気DJによるミックスCD――レディオ・スレイヴの『Radio Slave Presents Creature Of The Night』やリトン & サージ・サンティアゴ(Riton & Serge Santiago)の『We Love...Ibiza』など――に収録されている。要するに、海外のダンスフロアからの支持も集めている稀有なバンドなのだ。
"Noite"は、昨年発表したメジャー・デビュー・アルバム『Mystic Daddy』に収録の、空間を捻じ曲げながら疾走するようなシンセ・リードと、レゲエ・マナーを基調とした粘りながら地を這うベースが印象的なトラックである。この度、ノルウェーにおけるコズミック・ディスコの鬼才、プリンス・トーマスによる13分にも渡る大作リミックスを収録してのシングル・リリースとなった。レーベルは、先日"13"時間に渡るロング・プレイで幕を閉じた〈青山LOOP〉の老舗パーティ〈DANCAHOLIC〉をオーガナイズしていたDJ CHIDAが主宰する期待のレーベル〈イーネ〉である。
プリンス・トーマスのリミックスは、オリジナルのグルーヴに敬意を払いつつも、ピアノとテープ・エコーによるフィードバック・ノイズをフィーチャーした2分を超える荘厳なイントロからはじまる。そしてじわじわとビルドアップさせながら、ミステリアスなヴォイス・サンプルを加え、あるいはYMOの"ファイヤークラッカー"を彷彿とさせるオリエンタルなフレーズ・サンプルを散りばめながら、まさにコズミックなディスコ・チューンとなっている。
自身のDJプレイにおいてもアナログにこだわるCHIDA氏のレーベルからのリリースだけに、ダイナミック・レンジはとても広く、クリアなサウンドの盤になっていることも特筆したい。
3. Underground Resistance / All We Need / Yeah | UR
まず最初に断っておかなければならないのは、高校3年の夏休みにわざわざ地元の青森から上京し、宇田川町のレコード・ショップでアンダーグラウンド・レジスタンスのバックパックを購入し、現在に至るまでほぼ1日も欠かさず使用し続けているような僕が冷静で客観的な批評眼をもってURの音楽を語ることができるか、非常に怪しいということだ。もちろん、できる限りの努力は試みるが......。
アンダーグラウンド・レジスタンスの魅力を端的に語るならば、強いメッセージ性を持ちながら、それを決して言語だけではなく、トラックにおいてもときに攻撃的に、そしてときに力強くロマンチックなサウンドで饒舌に物語るマッド・マイクのスタイルにある。2007年の「 Footwars」以来のシングルは、マッド・マイクとデトロイトのベテランDJ、ジョン・コリンズとのプロデュース作品で、URクルーのDJ スカージ(DJ Skurge)がエディットで参加している。それはシンプルで力強いゴスペル・ハウスだ。おそらくマッド・マイクによるであろうレーベル面に記された――「本物ぶった偽者のサウンドに飽き飽きしているお前に本物がなにか教えてやろう。なに、簡単なことさ、ファンクがあればそれでいいんだ」――とういこの言葉の通り、これらのトラックは愚直なまでに骨太なファンクネスで満ち溢れている。
"All We Need"、"Yeah"、それぞれのタイトルは曲中に使用されているヴォイス・サンプルに由来している。そして、レコードから採取されたであろうそれぞれのサンプルは大きなニードル・ノイズを発する。それがよりいっそう荒々しくラフな雰囲気を醸し出している。サンプルを支えるトラックもざっくりとしたエディットが施され、手弾きと思われるシンセサイザーやギターのレイヤーで構成されている。ラップトップ・コンピュータ1台でいくらでも綿密なプログラミングや編集が可能な現在のやり方と逆行するかのようである。
このEPに一貫しているテーマは原点回帰だろう。ノイズが乗ったままのサンプル使いや、確信犯的にラフなエディットは、音楽制作の初期衝動を想起させるエッセンスとして抜群の効力を発揮している。風邪をひいたときにはファンクを爆音で聴くことで治すというほどに、ファンクに並々ならぬ思いを持っている男、マッド・マイクである。ファンクがあればそれでいいと言う気持ちに一片の嘘もないのだな! ......と関心してしまうのは、ちょっと感動屋がすぎるだろうか?
4. madmaid / Who Killed Rave at Yoyogi Park EP | Maltine Records

DOWNLOAD LINK→ http://maltinerecords.cs8.biz/69.html
プロディジーが初来日し、東京ドームでライヴをした1993年に産声をあげ、2008年に当時若干15歳ながら代々木公園で開かれていた初期ハードコア・テクノにフォーカスしたフリー・レイヴ〈MAD MAX〉にて、いまや飛ぶ鳥を落とす勢いのネット・レーベル、〈マルチネ・レコーズ〉代表のトマド(Tomad)に見出されるという、筋金入りのレイヴ・キッズにして日本のダンス・ミュージック・シーンにおける新星中の新星"まどめ"ことmadmaidのシングルを紹介しよう。
〈マルチネ・レコーズ〉からリリースされた彼のデビュー作「Who Killed Rave at Yoyogi Park EP」は、2ライヴ・クルーの『Fuck Martinez』が「ファック・マルチネ」に聞こえるこという空耳一点張りで展開する"Too Mad To Fuck"、往年のコカ・コーラのCMソングをサンプリングしながら牧歌的ベースライン・ハウスに仕上げた"Buy Me Cola"(ビールじゃなくて本当に良かった......!)など、思わず年齢を疑いたくほど巧みなプログラミングセンスで構築されたトラックが収録されている。そして、そこには素晴らしい悪ノリ、悪ふざけ、悪ガキ感溢れる荒唐無稽なサンプリングが散りばめられているというわけだ。自身でデザインしたというジャケットもどこまでも人を食ったできになっていて、僕が最早この上ないほどハマっていると言わざるを得ない。
驚いたことに、2ライヴ・クルーや、ユーロマスターズといった往年のIQひと桁チューンを無邪気にサンプリングして切れ味鋭いベースライン・ハウスに仕立て上げるこの早熟すぎる16歳のトラックは、早くも海を渡り、ニューヨークのビッグ・パーティ〈Trouble & Bass〉でもプレイするUK出身のプロデューサ、カンジ・キネティック(Kanji Kinetic)にプレイされ、反響を呼んでいる。しかし、そんなことよりも、我々が本当に驚くべきことであり、信じがたいことはIDチェックによって20歳以下のクラブへの入場が厳しく制限されている東京のクラブ・シーンにおいて、彼のプレイを合法的に楽しむにはあと3年もの年月が必要だということだ。我々がいますべきことは3年間コーラを冷やし続けることか、はたまた10代でも堂々と存分に遊べて、表現出来る場を作ることか......。答えは明確だろう。
5. Santiago Salazar / Your Club Went Hollywood | Wallshaker
アンダーグラウンド・レジスタンスを母体とするバンド・ユニット、ギャラクシー2ギャラクシーやロス・エルマノス(Los Hermanos)のメンバーでもあり、イーカン(Ican)名義でも活躍するS2ことサンティアゴ・サラザールがデトロイトのアーロン・カール(Aaron-Carl)の〈ウォールシェイカー〉レーベルからリリースした新作は、現在のUSアンダーグラウンド・クラブ・シーンに対するUR流儀での痛烈な問題提起である。イーカン名義のラテン・フレイヴァーなサウンドは影を潜め、感情を押し殺したようにダークなフェンダーローズの反復フレーズとフランジャーによって金属感を増したハイハットに添えられるのは「車を停めるのに20ドル、入場するのに25ドル、ドリンクを買うのに12ドルもかかる」というコマーシャリズムに傾倒したクラブ・シーンを批判するポエトリー・リーディングだ。サラザールはこう続ける「一体アンダーグラウンドに何が起こってるんだ?」
ポエトリー・リーディングが佳境にさしかかるにつれてトラックも熱を帯び、アンダーグラウンド・レジスタンスの名曲"インスピレーション"を彷彿とさせるようなソウルフルなシンセとドラマチックかつ浮遊感溢れるストリングスフレーズが挿入される。
ここで語られているような問題は決してアメリカのシーンだけの話ではないだろう。建前としてはアンダーグラウンドを名乗りながらも、ときに、当人も気づかぬうちに、ゆえにその実はハリウッド化されてしまっているような現場は少なくない。それだけならまだしも、結局のところはどっちつかずでエンターテイメントとしてのクオリティすらハリウッドの劣化コピーにしかなっていないようなパーティも少なくない。現実的な問題としては、パーティを作る上で商業的意図が介入することは避けることができないが、その上で常に自らを省みることの重要性を思い出させてくれる1枚と言えるだろう。
6. VSQ / This Is That | Kalk Pets
DJプレイ、とりわけひとりのDJが朝までプレイするようなロングセットは、レコードによって紡がれるその世界観をしばしば旅に例えられる。今回最後に紹介するのは、そういう意味では"旅情"を高めるのに最適な1枚だ。
ドイツのエレクトロニカ・レーベル〈カラオケ・カルク(Karaoke Kalk)〉は、どこか牧歌的で、どこかアコースティックな趣があるサウンドを多くリリースすることで知られている老舗レーベルである。その〈カラオケ・カルク〉を母体として、ミニマル・ハウスに特化したサブレーベル〈カルク・ペッツ〉の19作目はハンノ・リヒトマン(Hanno Leichtmann)によるプロジェクト、ザ・ヴルヴァ・ストリングス・カルテット(The Vulva String Quartet)ことVSQの作品である。本作は、昨今のミニマル/テック・ハウスにありがちな、エッジのたったパルスやノイズは形を潜め、ひたすら柔らかで催眠的な音響世界が展開されている。
A1に収録されているエフデミン(Efdemin)のリミックスはこの上なくシックで美しいミニマル・ハウスである。音程感を失うギリギリの瀬戸際に踏みとどまった、低周波のサイン波によって奏でられるベースラインと、虚空を漂うかのような2拍ループのシーケンスの向こう側には、極々小さな音量で高いピッチのランダム・シーケンスが配置されている。パーカッションの存在に気づいた頃に、今度はフィルタリングとダブ処理を施されたアコースティックピアノが現れる。意識の遷移を見透かされているかのように音の主題が移り変わっていくさまは、さながらディズニー映画の『ファンタジア』のようにサイケデリックだ。
B1に収録されているオリジナル・ヴァージョンは、硬めの音色によるイーブン・キックと変調されチョップされたアコースティック・ピアノと地底で蠢くようなサイン波ベース、そしてタイトルをリフレインするヴォイス・サンプルで構成されたダビーなミニマル・トラックだ。B2にはロングセットのクライマックスにプレイしたくなるドラマチックなテック・ハウス"This is Not the Last Song"が待っている。揺らめくシンセパッドのレイヤーは、ぼんやり明るくなったダンスフロアの照明を、2拍4拍のタイミングで入ってくる発信音は小鳥の囀りを連想させる。エッジを取り去って体への浸透圧を高めるかのようなミックスをほどこされたこのトラックは、一晩を踊り明かした夜の住人たちに朝を告げるにふさわしい音楽である。
1. Oni Ayhun / 004 | Oni Ayhun (GER)

あーっ......すっかり騙された......とんだ深読みだった。ベルリンのアンダーグラウンドから突如出現し、ミステリアスなアートワークとコンセプチュアルなサウンドが話題のオニ・アイフン。このレーベルから出された001はアシッド・ベースが独特のねじれを持ってうごめくミニマル・テクノと、ブライアン・イーノとのコラボレーションなどでも知られる現代音楽家ジョン・ハッセッルの電子トランペットをサンプリングした、深い音響のダーク・アンビエントだった。特殊なエッヂングが施されたヴァイナルとともに、それはコアなリスナーのあいだで即座に話題となった。002ではドレクシアを髣髴とさせるような、ブレイクビーツ主体の不穏な気配のデトロイティッシュ・テクノを聴かせ、プレス・シートにはチリ出身のロシア系ユダヤ人映画監督アレハンドロ・ホドロフスキーの処女作『ファンド・アンド・リス』からの引用がプリントされていた。
それから、ジョン・ゾーンにリスペクトを捧げるユダヤ系ドイツ人のテクノ・プロデューサーで、ステファン・ゴールドマンの〈マクロ〉からリリースされたパトリック・カウリーの未発表音源のリミックスを手がけたことから、ユダヤ系のトルコ人(ayhunはトルコ人の姓名に良く使われている)かと思っていたのだが......。 003では北欧の自然をアートワークに、ギャラクティックなシンセが印象的な力強いダンストラックと、メランコリックなビートダウン・トラックだった。〈ワークショップ〉のシリーズにも近い質感で、〈ハードワックス〉系の影をちらつかせた。そして昨年ベルリンでのライヴでその正体がようやく明らかになった。オニ・アイフンはなんと、スウェーデンの姉弟によるエレクトロ・ユニットのザ・ナイフの弟、オーロフ・ドレーイェーの変名プロジェクトだった。ミステリアスなプロモーションは周到に仕組まれた偽装だった。
ザ・ナイフは、姉であるカーリン・ドレーイェーのヴォーカルをフィーチャーしたニューウェイヴ・リヴァイヴァル系のダンス・ユニットで、"Silent Shout"の大ヒットによってスウェーデンのグラミーを受賞している。ポップ・フィールドで活動する彼らだが、シングル盤のリミックスではレディオ・スレーヴやトレント・モーラー、トロイ・ピアースなどをフィーチャーし、テクノのリスナーを意識したプロモーションを展開していた。
また、オーロフ・ドレーイェーは本人名義でナイン・インチ・ネイルズの"Me,I'm Not"のリミックスを手がけているが、ここではミニマルを基調とするアンビエント・ハウスを披露している。そんな彼がソロとして自分の音楽の探求に向けたプロジェクトがこのオニ・アイフンなのだ。
004では、まずランダムに動くアシッド・ベースと突発的なノイズをアクセントとするミニマル・テクノがある。その裏では、ファットでローファイなブレイクにエコーがかかり、じょじょにミニマルへ・テクノへ変化する。BPMの同期用いたトラックだ。音響的にも深みがある。プレスシートにはこの2トラックが引き起こす化学反応が論文調にまとめられ、「NaHCO3 + H+ → Na+ + CO2 + H2O」なる化学式で表されている。まだ公にはその正体を公表してはいないため、これも彼らしいフェイクのひとつだろう。そうしたギミックは抜きにしても、このプロダクションは素晴らしい。同じく今月リリースされた〈コントラ・ミュージック〉からのジェイソン・ファインのリミックスも秀逸だ。
2. Billy Shane / Runner EP | Stead Fast (GER)
デッド・ビートやイントリュージョンとともにミニマル・ダブを発展させるビート・ファーマシーことブレンダン・モーラーがスタートした注目の〈ステッドファスト〉から5番目となるリリースは、フランソワの〈ディープ・スペース〉一派から頭角を現し、独自のダブ音響を拡大するブルックリン出身の新鋭、ビリー・シェーンによるストイックなミニマル・ダブである。ニューヨークで生まれ育ち、ボビー・コンダースやフランキー・ナックルズ、初期のシカゴ・アシッドに影響を受け、長年DJとして活動していた彼ではあるが、その作品には回顧的な色合いはいっさいない。〈ベーシック・チャンネル〉を経由して新たな発展を見せるニューヨークのIMAを伝えるサウンドとなっている。
表題作の"Runner"は硬質だが柔軟なグルーヴを刻む。現在のミニマル・ダブの雛形とも言えるクアドラントの傑作"infinition"が甦ったようだ。下する中域のシンセが広がりを見せ、DJユースで使いやトラックに仕上がっている。低域が強調されダビーで音響的な深みがある"Hole"、ベン・クロックのようにタイトなグルーヴのアシッド・ハウスを聴かせる"Fach"、収録されているすべてがフロアに直結したミニマル・テクノだ。ブレンダン・モーラーによるエコロジスト名義でのリミックスは、ストレートなミニマルを聴かせるオリジナルをねじ曲げて、土着的なグルーヴがうなりをもったシンセとともに広がる、プリミティヴでトランス感のある曲に変換している。
3. Mike Shanon / Under The Rader | Cynosure (GER)
モントリオール出身でベルリン在住のミニマル・プロデューサーであるマイク・シャノンの運営する〈サイノシュアー〉が昨年発足から10周年を向かえた。月日が経つのは本当に早い。ゼロ年代のテクノの最前線にはアクフェンに端を発するモントリオール勢がいつもその名前を連ね、10年のあいだにテクノの世界地図は大きく変わった。マイク・シャノンは大きなヒット作こそ出していないものの、マシュー・ジョンソン、デット・ビートとともにアクフェンが切り開いた土壌を拡大してきたアーティストのひとりである。
今回のリリースはレーベルの10周年を記念したダブル・パックの10インチで、そうそうたる面子のリミキサーを起用されている。オリジナルはいままでにはないアプローチを見せたもので、ロソウルのシングルにも起用されていたベルリン在住の女性ヴォーカリスト、ファディラがジャジーに歌っている。マイク・シャノンらしいアシッド・ベースにファディラのヴォーカルが絡む。トランシーに疾走する切れのあるミニマル・テクノだ。
リカルド・ヴィラロボスによるリミックは、もはや一聴しただけでわかる彼らしいリズムのミ二マル・ハウスだ。ヴォーカルの抜き差しとともにじょじょに変化していく、本当に細かいエディットが施されたもので、〈パーロン〉からの作風にも近く、そしてまたキャシーのトラックにも近い質感だ。デット・ビートのリミックスは原曲のトランス感を生かしながら、独自のベース・ミュージックへと拡大している。〈ブッシュ〉や〈プラスティック・シティ〉などに作品を残しているロッゾことマウンテン・ピーポーのリッミクスはまさに現在のフロアの気分を捉えたもので、オリジナルのヴォーカルを生かしたグルーヴィーなテック・ハウスはぞくっとするほど美しい。
4. To Rococo Rot / Forwardness Fridays | Domino (UK)
トゥー・ロココ・ロット(上から読んでも下から読んでも)はベルリン出身のロナルドとロベルトのリポック兄弟とデュセッルドルフ出身のステファン・シュナイダーによる3人組みによるエレクトロ・アコースティック・バンドだ。1995年に〈キティ・ヨー〉からのデビュー、〈サブ・ポップ〉や〈ファット・キャット〉など、ポスト・ロックやエレクトロニカのフィールドからのリリースを重ね、現在は主に〈ドミノ〉を中心に活動している。ドラムとパーカッションを担当するロナルド・リポックはタルヴェルターのメンバーとして〈モール・ミュージック〉からダビーなダウンテンポをリリース。ギターを担当するロバート・リポックは〈ラスターノートン〉から美しいアンビエントをリース、現代音楽の方面からの注目を集めている。ベースのステファン・シュナイダーはマップステーションとして〈シュタオプゴルド〉から秀逸なエレクトロニカをリリースしている。
今回のシングルは〈ドミノ〉からリリースされたニューアルバム「Supeculation」からのファースト・カットで、リミキサーにはダブステップとテクノを行き来する、シャックルトンとトラヴァーサブル・ワームホールが起用されている。両リミキサーの起用もさることながら、オリジナルの"Forwardness"は優雅なアンビエンスに溢れた傑作で、彼ららしい温かみのある素晴らしい演奏が収録されている。レコーディングはデュッセルドルフにあるクラウトロック・バンド、ファウストのスタジオでおこなわれ、ファウストのメンバーであるヨーヘン・イルムラーがピアノやオルガンで参加したという。どこまでも多幸感に満ちたアンビエント・ハウスは、同じくデュッセルドルフで活動していたクラウト・ロック・バンド、ノイ!のメンバーであったミハエル・ローターのソロ作を髣髴とさせる。
そのいっぽうでは、ホワイト盤にスタンプだけの12インチが話題を呼び、テクノやダブステップのリスナーに注目されているトラヴァーサブル・ワームホールのリミックスも面白い。原曲のピアノのリフを上手く生かしながら、ダークで落ち着いたフロア・フレンドリーなダブステップに変換している。このトラヴァーサブル・ワームホールは90年代にハード・テクノ界を席巻したフランキー・ボーンズの実弟で、〈ソニック・グルーヴ〉などからハード・ミニマルをリリースしていたアダムXの覆面プロジェクトである。
シャックルトンによる"Fridays"のリミックスは、エクスペリメンタルなオリジナル(シーケンスされたAMMとでも言おうか)をストレートに加工し、ディストーションのかったギターのリフに演説調のヴォーカルを絡ませながら、じょじょにトランスしていく。ダークで力強いダブステップだ。さまざなアイデアの詰まった素晴らしい12インチだ。
5. Floating Points / Peoples Potential | Eglo Recording(UK)
クラブ・ジャズとダブ・ステップとテクノを結びつけ、さまざまな方面から注目を集めるフローティング・ポインツことサム・シェパード。
〈R2〉からリリースされたデビュー・シングル"Love Me Like This"では、セオ・パリッシュのようなスローなファンクを聴かせ、ジャイルズ・ピーターソンをはじめとするクラブ・ジャズ系のDJからの支持を集めている。〈プラネット・ミュー〉からリリースされた"J&W Beat"は初期のブラック・ドックにも似た雰囲気のトラックで、新世代のインテリジェント・テクノとして、ダブステップやテクノDJからの支持を集めている。
あるいは、自身が立ち上げた〈エグロ・レコーディング〉からの"vacume boogie"は70年代のジャズ・ファンクが変調したような、そしてアナログ・シンセの響きが独特なビートダウン・トラックで、オランダの〈ラッシュ・アワー〉系とも近い作風だった。
そして、今月〈ドミノ〉から出たフォーテットの"sing"のリミックスでは、メランコリックな原曲の雰囲気を上手く生かし、バウンシーなテクノへと変換した。また、〈ニンジャ・チューン〉から出たボノボの"Eyes Down"のリッミックスでも、UKガラージやダブ・ステップからの影響をほどよいアクセントとする、バレアリックで美しいエレクトロ・ブレイクを披露した。
すべてのリリースはここ1年以内のものだ。いかに彼の急速に頭角を現しているかがわかるだろう。
ここに挙げた〈エグロ〉からのニュー・シングルではジャジーなピアノとシンセが煌めく、デトロイト調のブレイク"peoples potencial"と、シカゴ・ハウスに接近し、ファットなベース・ラインにフェンダーのローズ・ピアノが絡むジャジーで力強いアシッド・ハウス"Shark Chase"が収録されている。彼はUKアンダーグランドの音楽シーンを自由に歩きながら、ジャズやレアグルーヴをもとにデトロイトを解釈しているのだろう。イーブンキックにとらわれない曲を創出するフローティング・ポインツは、アズ・ワンやスタシスの正当な後継ともいえるのではなかろうか。
1.F / Energy Distortion Part 1 ~ 3 | 7even
フランスと言う国は、「優雅で艶やか、華々しく華麗」などとイメージしてしまう。実際、表面上はそう見える。筆者はフランスという国の思想、国民性、感性がとても好きで、すでに5~6回は訪れたのだが、毎回その裏の顔に驚かせられる。コスモポリタンならではの荒んだ一面が随所にあるからである。貴族階級の華々しさとコスモポリタンが融合した何かそのフランス独特のギャップに魅了されるのかもしれない......ビューティ&ダーティの反面性が違った形で自身を共鳴しているようで。フランスのようにもっとも芸術産業が国民的支持を得ている国柄で創られるダブステップ......まさにエフのサウンドはこの影響下に培われた産物だ。
そのサウンドをひも解くとアンダーグラウンド・ミュージックの神髄である地下音楽さながらの暗黒感が少し漂うアトモスフェリックにフランスの洗練された気品に満ちた感覚を取り入れたサウンドが垣間みれる。このサウンドは、さまざまな要素が入っている。が、一貫した構築、一遍の迷いもないプログラミングは、 ほぼミニマルを注入したダブステップである。聴いてみると......昨年大ヒットした2562のセカンド・アルバム『アンバランス』に酷似した感覚を憶えるが......次第に......"酷似"していると感じた自分の無知さ加減に恥ずかしくなる。ダブステップのアナザーサイドと捉えれるその深くもソフィスティケイトされた独創的創造性、これがフランス産のオリジナル・ダブステップなのだと。
エフのメイン・リリースを担っている〈セブン〉は、グレッグ・G率いるミニマルライクなダブステップ・レーベルである。筆者もDBSにてグレッグ・Gとは何度も共演したこともあって、実際素晴らしい人柄の人物だが、レーベルの方向性に関しては、るぎなく、しかも時折遊び心のあるフランス的感覚を持っている。ダブステップ最重要レーベルのひとつだろう。ちなみにその他に所属しているアーティストは、ヘリクサー(Helixir)、リクハン(Likhan)など。今後の動向にも注目である。
2. Jack Sarrow / Terminal/Tormented | Tectonic
今日のベース・ミュージックにおけるニューウェイヴ="ダブステップ"の発展に大きく貢献しているのが〈テクトニック〉である。UKにおけるピュア・ダブ・カルチャーの音楽都市であるブリストルを拠点に、レーベル・モットーの「If your chest ain't rattling, it ain't happening」(胸が高ぶらなければ何も起こってない証拠)が示す通りの活動を続け、すでに数々のビック・アンセムを世に送り出している。ダブステップが南ロンドンにてガラージの突然変異的に誕生してから、それを先導したアーティストたち(デジタル・ミスティック、シャックルトン、ホース・パワープロダクションズ、ローファーなど)が、こぞってダークなガラージ・サウンドを土台とするダブステップに傾倒していったなか、ピンチはダブ、ミニマル、グライム、ガラージをシャッフルしたニュー・フォーム・サウンドで大きな支持を集めている。彼の音楽的バック・グラウンドにおいて、ダブと同等に大きな影響を与えたのが"ディープ・ミニマル"だ・ベルリンのベーシック・チャンネルやチェーン・リアクション、そしてリズム&サウンド......。いわゆるミニマル・ダブである。その影響は現在でもレーベルに色濃く反映されている。
レーベルは今年に入っても勢いが衰える気配はなく、刺激的なリリースを続けている。昨年、筆者ともUNITフロアで共演したピンチがダブでスピンしていたのがジャック・スパロウによる"Terminal"である。そのディープで濃密な一夜に相応しく、それは暗く蠢きながら響きわたる残響感たっぷりのトライバル・テック・ファンキーで、レーベルのテイストを残しつつ、今年最注目のアーバン・ムーヴメント"UKファンキー"を効果的に取り入れたフロアサイド・ステップとなっている。フリップサイドの"Tormented"だが、まるでベルリンとブリストルをミックスしたかのような暗黒地下ダブステップ、シャックルトンの〈スカル・ディスコ〉へのアンサー・バックと捉えたいほどだ。年々活発しているテクノ/ミニマルとの交流は、お互いのジャンルがマンネリズムを打開する起爆剤としても機能しているのである。
さて、〈テクトニック〉の新たな核になろうとしているジャック・スパローだが、そのデビューは、2007年〈センスレス(Sensless)〉からリリースされた「Spam Purse」であった。その後、2008年テクトニックのサブ・レーベル〈イアーワックス(Yearwax)〉からの「For Me/Lights Off」、マーク・ワンの〈コンタージャス(Contagious)〉からの「I And I」で頭角を現し、彼の名前を決定的にしたのは、2009年ピンチの「Get Up」のジャック・スパロウ・ミックス)である。そして、テクトニックからの前作「The Chase」......。今年も彼の高度かつ深いプロダクションから目が離せそうにない。
3. LV & Untold / Beacon | Hemlock
いまや奇才として名高いアントールド主宰の〈ヘムロック〉。UKベース・カルチャーを最先端ニュー・ガラージ・サウンドで引っ張る彼だが、レーベルの起源は2008年「Yukon」に遡る。独特の変拍子によるビート・パターンとミニマルが持つ無機質な静寂性、ガラージが持つヒプノティックで柔軟な高揚性、どこかポスト・ロック的アプローチも垣間みれるサウンド・コントロールによって、ダブステップのシーンのみならず他ジャンルからも注目されているプロデューサーである。今作は、〈ハイパーダブ〉からのリリース「CCTV/Dream Cargo」やアントールド自身の「Walk Through Walls」のリミックスを手掛けたダビー・エレクトロの旗、LVとタッグを組んでいる。フリップサイドには〈ホットフラッシュ〉から「Maybes」、「Sketch On Glass」を発表したUK3人組のホープ、マウント・キンビー(Mount
Kimbie)がリミキサーとしてセットアップする。遊び心を取り入れつつエレクトロ色の強いダブステップで、まさにたコンテンポラリー・ニュー・ガラージといったところ。リリースされるごとに〈ヘムロック〉の歴史が塗り替えられ、吸収した先に......また生まれる。
4. Donae'o / Riot Music | Diigital Soundboy

これは先日の3月16日のダブステップ会議@DOMMUNEにて、飯島直樹さんが推薦したドネオーの「Riot Music」だ(......ダブステップ会議では、とても有意義な時間を共有できました。野田さん、飯島さん、エクシー君およびdommuneのスタッフの方々全員に深くお礼申し上げます)。さて、アーバンR&BとしてのUKガラージ・シーンにおける至高の存在、ドネオーは、昨年発表したUKファンキーを取り入れた傑作『Party Hard』によってシーンで大きな話題となった。その最新リリースは何とシャイ・エフェックスの〈デジタル・サウンドボーイ〉から発表。〈デジタル・サウンドボーイ〉と言えば、昨年の7月の〈DBS〉にて待望の再来日を果たしたシャイ・エフェックスと最新アルバムによって不動の地位を確立したダブステップ・プロデューサー、ブレイキッジを主軸とするベースライン・トップ・レーベルである。今回の「Riot
Music」では、リミキサーにダブステップ界のエース、スクリームを起用。〈デジタル・サウンドボーイ〉からの前作「Burning Up」と同様に、初期ジャングルに回帰するかのように、懐かしのレイヴ・ジャングルを彷彿とさせるアーメン・ブレイクを打ち出している。
ところで、ジャングル/ドラムンベースではごく一般的なビート・パターンであるが、スクリームがふたたび持ち出して脚光を浴びているブレイクビーツの代名詞"アーメン・ブレイク"を解説しよう。そのオリジナルは、ウィンストンズ(The Winstons)の"Amen, Brother"曲内の8小節のドラムにある。それをさらにサンプリングして、ループして、広く用いられている。それはソフト"ReCycle!"――サンプル・ビートを分解、構築してブレイクビーツを再生成する――よって幅広くシーンで重宝されるのである。
スクリームのような大物トップ・プロデューサーが自身の影響を明かすような作品をリリースすることによって、ダブステップとドラムンベースは今後も"親戚"のような関係を保ち続けるだろう。インフィニティーと呼ばれるUK名うてのダンス・ミュージック・カルチャーとしてお互い存在し続けているのだから。
5. Headhunter & Djunya / DJG & XI / El Presidente/Putney Says | Surefire Sound
前回のサウンド・パトロールでも紹介したサンフランシスコ発〈シュアフィイアー〉だが、早くも第二弾がリリースされた。今回は、広くテクノ・シーンでも通用するであろうトラックを要している強力なアーティストで、2組のコラボレーションを実現している。シーンの代表レーベル〈テンパ〉などからカッティング・エッジなリリースを続けるヘッドハンターと元ドラムンベース・プロデューサーであったジュジュ率いる〈ナルコ・ヘルツ(Narco Hz)〉からテッキーでオーガニックなダブステップを発表しているDJアンヤが組んで生まれたテック・ダブステップである。もうひと組は、同じくサンフランシスコを拠点し〈ナルコ・ヘルツ〉、〈アンタイトルド!(Untitled!)〉、〈チューブ10(Tube 10)〉などから傑作を発表しているテッキー・ダブステッパーのDJジーとカナダ・トロント出身でテック・ミニマル・レーベル〈イマーズ(Immers)〉からの「000」が話題となったザイがコンビを組んで、ダークでミニマル・インフルーエンスなテクノ・シンフォニック・サウンドを披露する。フロアの空気感を一瞬のうちに変えうる力を持ったトラックで、使うものの意志とは無関係に作用する攻撃的なシンセ群が......防御反応を無力化させる最先端のリーサル・ウエポンとも言えるだろう。解放のさらにそのまた向こう側へ......。
6. Ben Verse / Flip The Coin | Wheel & Deal
〈クランチ・レコーズ〉というディープ・アトモスフェリックなドラムンベース・レーベルを率いていたバース(Verse)がペンデュラムの一員としてのビッグ・ヒットを成し遂げて早2年......そのあいだ、ダブステップの末恐ろしい躍進が破竹の勢いで進行......誰も止められない速度で世界中で感染し続けている。その勢いはいろいろなプロデューサーやDJを巻き込んでいるが、彼らも例外でなく、いち早くペンデュラムのアルバムなどで取り入れていた。そしていま、エヌ-タイプ(N-Type)の〈ウィール&ディール〉からベン・バース名義でダブステップ界におけるソロ・デビューを果たす。
硬質かつマッシブなビートと妖しくも切ないシンセ使いがフロアをより引き立てる"Flip The Coin"。先日の〈dommune〉でも筆者が大変お世話になったフロアライクなアンセムだ。一方の"Inhale"はスライトリーなダビー・リヴァーブ・シンセとシンプルに共鳴するカッティングエッジなフロアダブとなっている。
それにしても......世界的に有名なロック・ドラムンベースの王者さえも振り向かせ、虜にさせるこのダンス・ミュージック......あらためてダブステップのとんでもない快進撃を感じてしまう。初期のジャングル・シーンのときと同じ現象がいままさにに起こっている。
7. Blokhe4d / Full Circle/Skylines | Hospital
先日発表したダーク・サイバー/ニューロ・ファンクの集大成的コンピレーションアルバム『Bad Taste Vol.3』でサイバー・シーンをリードする最後の大物伝道師マルディーニ&べガス(Maldini & Vegas)。長らくバッド・カンパニー名義で活躍していた彼らだが、音楽性の違いなどにより、フロントマンであったDJフレッシュとDブリッジが立て続けに離脱し、ソロ・アーティストとして成功を収めるなか、彼らは一貫してバッド・カンパニーの強力サイバー・サウンドを守り続けている。
そして昨年暮れ頃から、マルディーニ&べガスにユーマン(Uman)も加えた新たなドラムンベース・ユニット、ブロックヘッド(Blokhe4d)を始動。先述のコンピレーションなどで立て続けにサイバー・アンセムを発表し、確実にフロアをロックしている。
今作はあのリキッド/エレクトロ・ドラムンベースのトップ・レーベル〈ホスピタル〉からニューカラー・ヴァリエーションを携えリリースした。その疾走感溢れるスペイシー・ファンクな空間処理技術を惜し気もなく披露し、エレクトロ感といったトレンドも注入し、絶妙なホスピタル・サウンドとなっている。みんなが待ち望んだ作品がダンスフロアを通して発表される......このサウンドのお陰でフロアは隙間なく満たされるのである。
8. Netsky / Eyes Closed/Smile | Allsports

最近はこんな呼び方をするアーティストは、ほとんど存在しなかった。ドラムンベース・シーンにとって久しぶりに現れたベルジアンの"超新星"と呼ぶべき逸材......と、もはやこう呼ぶべきではないぐらいのスピードで駆け上がったニュー・スター・プロデューサーが、そう、ネットスカイだ。しかもまだ20才前後の幼顔が残る若者だから、これがまた衝撃なのだ。
ダブステップで例えるならスクリームに近い神童性を感じるネットスカイは〈ホスピタル〉とサインを早々済ませ、「Escape」、「Memory Lane」など現在ダブプレートで席巻しているエレクトロ・ロック・チューンのリリースを控えている。今後さらに期待されるプロデューサーだ。今作「Eyes Closed / Smile」は、ジャンプ・アップ・レーベル〈グリッドUK(Grid UK)〉傘下のリキッド・レーベル〈オール・ソーツ(All Sorts)〉からドロップされた特大エレクトロ・アンセムだ。ドラムンベース・シーンが下降気味な現在において、彼の出現は、今もっともホットな出来事である。数年後にハイ・コントラスト、ブルックス・ブラザーズを凌駕する次代の才能を秘めたアーティストとして、彼のポテンシャルに今後も刮目していかなければならない。どんな時代でも不遇のときこそ、救世主現わる。そう願わずにはいられない存在になるよう願っている。
さて、最後に、何人かの方からリクエストがあったので、3月16日〈DOMMUNE〉にて筆者のセットのプレイリスト公表します。今後ともどうぞ宜しくお願いします!!
TETSUJI TANAKA - MINIMAL x DUBSTEP set 3/16 DOMMUNE PLAYLIST
1. AL TOURETTES/Sunken〈APPLE PIPS〉
2. SCUBA/Negative〈NAKED LUNCH〉
3. KRYPTIC MINDS/Wondering Why〈OSIRIS〉
4. MONOLAKE/Alaska(SURGEON RMX)〈IMBALANCE COMPUTER〉
5. RESO/Toasted〈PITCH BLACK〉
6. JOSE JAMES/Blackmagic(JOY ORBISON RMX)〈BROWNSWOOD〉
7. PATTERN REPEAT/Pattern Repeat 01a〈PATTERN REPEAT〉
8. BEN VERSE/Flip The Coin〈WHEEL & DEAL〉
9. RAMADANMAN & APPLEBLIM/Justify〈APPLE PIPS〉
10. INSTRA:MENTAL/Futurist〈NAKED LUNCH〉
11. APPLEBLIM & PEVERELIST/Over Here(BRENDON MOELLER RMX)〈APPLE PIPS〉
12.J OY ORBISON/Wet Look〈HOTFLUSH〉
13. F/Energy Distortion〈7EVEN〉
14. VALMAY/Radiated Future〈BLUEPRINT〉
15. MARLOW/Back 4 More〈BOKA〉
16. ROB SPARX/2 Faced Rasta(RESO RMX)〈Z AUDIO〉
17. F & HEADHUNTER/Dedale〈TRANSISTOR〉
18. MARLOW/Druid〈NO COMPANY〉
19. INSTRA:MENTAL/No Future(SKREAMIX)〈NON PLUS〉
20. SCUBA/I Reptured(SURGEON RMX)〈HOTFLUH RMX〉
21. SUBEENA/Circular〈IMMIGRANT〉
22. SCUBA/Aeseunic〈HOTFLUSH〉
23. SILKIE/Head Butt Da Deck〈DEEP MEDI MUSIK〉
24. GUIDO/Chakra〈PUNCH DRUNK〉
25. KOMONAZMUK/Bad Apple〈HENCH〉
26. HARRY CRAZE/Wa6〈DEEP MEDI MUSIK〉
27. KRYPTIC MINDS/The Weeping〈DISFIGURED〉
1 Clouds / Timekeeper --Dave Aju Remix--- | Ramp Recording(UK)
いやー、本当に、ぶっ飛びすぎ!......てか、笑えてくる。壮大な"エイリアン・ミュージック"に出会ってしまったのかもしれないな。黒光りするシンセが痛いくらいにまぶしいぜ。
ハウスを借り物にブラック・ジャズの更新をはかるサンフランシスコの奇才――それがデイブ・アジュだ。ベルリンのマイマイやモントリオールのギヨーム・アンド・ザ・クーチュ・デュモンツのリリースで知られる〈サーカス・カンパニー〉を拠点にしているため、いわゆるモダン・ミニマル/ディープ・ハウスの文脈から語られることが多いプロデューサーだが、彼のポテンシャルはそんなものではない。あのマシュー・ハーバートが期待をよせるヴォイス・パフォーマーのひとりでもある。
少し振り返ろう。2007年に〈サーカス・カンパニー〉からリリースされた「Love Allways」はアリス・コルトレーンに捧げられたものだった。ルチアーノのリミックスが収録された、2008年に〈サーカス・カンパニー〉からリリースされたシングル「Crazy Place」はフロアヒットした。同年にリリースされた自身のスキャットとヴォイス・サンプルのみで作られたアルバム『Open Wide』はビート・ポートの年間ベストのうちの1枚にも選ばれた。サン・ラー、セロ二アス・モンク、バニー・ウォーレル、カール・クレイグ、グリーン・ヴェルヴェット......これらは彼がリスペクトするアーティストのほんの一部だが、彼の曲には必ずと言っていいほどブラック・ジャズの意匠が散りばめられている。
そんな才人が、〈ディープ・メディ〉などからサイケデリックなエレクトロニカ/ダブステップをリリースするヘルシンキのユニット、クラウズが2008年にイギリスの〈ランプ・レコーディング〉に残したトラックをハウスに再構築する。オリジナルはメランコリックなヴィブラホンに優しいトーンのアコーディオンが絡むヒップホップ調のトラックで、ラス・ジーによるリミックスは当時コード9やフライング・ロータスのプレイリストにもあがり、ダブスッテップの側からの支持も得ていた。
原曲のアコーディオンとジャジーなフィーリングは生かされているものの、もはやオリジナルといってもよいほどの出来だ。冒頭から入るローファイでぎらついたシンセサイザーの音色はまるでシカゴのジャマール・モスか、あるいは初期のラリー・ハードを髣髴とさせる。単純で無機質なアジッド・ハウスかと思えばブレイクで突如モーダルなジャズに変化して、原曲で使われているアコーディオンの調べがゆったりと流れだす。構成、展開もドラマチックで面白い。加工されているためわかりづらいが、シンセのリフを良く聴いてみるとファラオ・サンダースとレオン・トーマスがモダン/フリー・ジャズの最重要レーベル〈インパルス〉に残した名曲"The Creator Has A Master Plan"のピアノが元ネタになっていることがわかる。この曲もまさにモダン・ミニマルのふりをしたブラック・ジャズというわけだ。彼はあらかじめクラブを体験してしまったがためにハウスをやっているアーティストであって、前の世代とは逆のプロセスを辿ってジャズに行き着いている。
2 Mirko Loko / Seventynine --Carl Craig&Ricard Villalobos Remix-- | Cadenza(Ger)
DJワダの〈イグナイト〉でのアンビエント・セットを終え、天狗食堂で開かれていたDJサチホがオーガナイズする〈リリース・シット〉に駆けつけると、週末の朝に特有のとても良い空気が流れていた。DJはサチホ~スポーツ・コイデ~イナホ~リョウ・オブ・ザ・デックス・トラックスの面子でのローテーションだった。グルーヴがキープされたまま新旧のディープ・ハウスがたんたんと続く。朝の9時をしばらく過ぎると天狗食堂のイナホがロングミックスを聞かせる。足の運びが軽やかだ。スネアに引っかかりがあるが、スマートなミ二マル・ハウスがじょじょに子供の声と水の音、透明感のあるシンセとともに広がっていく。誰も声を上げず首を振りながらその音楽をきいていた。そのトラックここに挙げた。ミルコ・ロコのリカルド・ヴィラロヴォスによるリミックスである。
レイジー・ファット・ピープルのメンバーとして〈プラネット・E〉からヒットを飛ばし、ソロでは現在のプログレッシヴ・ハウスのリーディング・レーベルであるロコ・ダイスの〈デソラ〉からも傑作を放った期待の新星ミルコ・ロコ。その彼のリミックスがルチアーノの〈カデンツァ〉からリリースされた。リミキサーは言わずとも知れたデトロイトのテクノ・ゴッド、カール・クレイグとベルリンのテクノ・ゴッド、リカルド・ヴィラロヴォスである。
カール・クレイグのリミックスはプリミティヴな質感の力強いダンス・トラックで躍動感のあるパーカッションにローランドの名器JUNOの音色と思えるシンセが絡んで、全体がじょじょにビルドアップしていく。まるで音のなかに吸い込まれるようだ。美しく、しかも引きが強いトラックだ。彼が何枚かに1枚だけ見せる本気のトラックなのだろう。デリック・メイの名曲"To Be Or Not To Be"(ゴースト・イン・ザ・シェルのサントラに収録)にも近い感覚とでも言えよう。
いっぽうリカルド・ヴィラロヴォスのリミックスはメランコリックで美しいアンビエント・ハウスだ。スティーヴ・ライヒのミニマリズムを彷彿とさせるような自然音と子供の声が螺旋を描いていく。リカルドらしい抜き差しとダブ処理も効果的だ。ジェームス・ホールデンによって解体されたプログレッシヴ・ハウスのドラマ性とスピリチュアリティはこの曲をきっかけに見事に復活を遂げるのではなかろうか。両面とも大事に使いわけることができる盤だ。
3 Badawi / El Topo | The Index(USA)
エルサレム出身でニューヨーク在住のパレスチナ人パーカッショニスト、ラズ・メシナイが率いるバダウイのニュー・シングルを紹介しよう。ラズ・メシナイとは......その名前とバダウイ、サブ・ダブ、ベドウィンといった4つの名義を使い分け、DJスプーキーのホームである〈アスフォデル〉、ビル・ラズウェルのリリースでも知られる〈リオール〉、DJワリーが率いる〈アグリカルチャー〉等から数々の傑作を放ってきた男だ。ニューヨークのアンダーグラウンドを象徴するアーティストであり、ユダヤの政治と宗教をテーマにしたサウンドと彼の芸術、そしてその超絶的なパーカッションのテクニックは多方面で高い評価を得ている。最近ではクロノス・カルッテットやジョン・ゾーンとの競演も話題になった。
今回は自身が立ち上げた〈ザ・インデックス〉からの第1弾である。昨年リリースされたコード9とのスプリットで見せたダブステップへのアプローチはさらなる進化を遂げ、"ElTopo"では抜けの良いタブラとばっつり出た低音が絶妙にマッチしたダブステップを展開している。そして"Dstryprfts"のリミックスではシャックルトンがブライアン・イーノのリミックスとはまた違うところで興味深いトラックを響かせる。〈パーロン〉からのリリースでみせたミニマルへのアプローチはさらに研ぎ澄まされ、キックとハット、メロディではなく飛び音として使われるシンセとノイズがかったアシッド・ベースがトランシーにうごめき、時折入るディレイがかかったシンバルがリスナーの意識を遠くに飛ばす。原曲からのサンプルとトースティンによるポエトリーが最小限にキープされたグルーヴのあいだでゆらめいている。僕もよく経験することだが、暗闇のなかで右も左もわからなくなったユーザーに襲い掛かる強烈なバッド・トリップである。
リッチー・ホーティンが2003年にリリースした"Closer"をダブステップに変換したようでもある。アシッド・ハウスのオリジンであるフューチャーの"Acid Tracks"そしてその裏面に収録されている"Your Only Friend"にも共通するような独特のムードを持った曲でもある。まー、手短に言うとこの曲こそが最先端のミニマル・テクノであると僕は思う。
1. Mark Prichard / Elephant Dub/Heavy As Stone | 〈Deep Medi Musik〉
「?」と言うキーワードを使うとき、決まってマーク・プリチャードの〈Ho Hum〉からリリースされた10インチ「?」を思い出す。2008年9月20日、 DBS〈DRUM & BASS x DUBSTEP WARZ〉にて筆者とユニットフロアで共演したマーラが1曲目にスピンした鮮烈な作品だ。何故ならこれは......ノンビートだからである。漆黒アンビエントが5分以上続くそのオープニングに会場は一時......静まり返った! 「なんだ、この曲は!?」、みんなそう思ったに違いない......文字通り「?」であった。そこからのマーラのプレイは言うまでもなく素晴らしいものであったが、いろんな意味を含めて話題をさらったセンセーショナルな作品が「?」だ。
マーク・プリチャードは、UKエレクトロニック・ミュージックの巨匠として古くはグローバル・コミュニケーション、リロード、ジェダイ・ナイツ名義などで活躍していたベテラン・プロデューサーである。最近では〈WARP〉からアルバムを発表したハーモニック313(HARMONIC 313)名義としても名高い、エクスペリメンタルな孤高のサウンド・クリエーターだ。無限とも言えるその懐深いサウンド・スケープは、どのシーンにおいても抜きん出ており、数多くの名作をリリースしている。
マーラの〈Deep Medi Musik〉からついにリリースした"Elephant Dub"は、彼の無限の創造性による産物となった。ダーク・サイドな音楽像の根底を掘り下げたかのようなヒプノティック・サウンドで、硬質にリヴァーブするビートと底知れぬ深いべースラインが共鳴している。まったく彼ならではのサウンド・オリジナーションである。"Heavy As Stone"だが、美しくも切ない女性ヴォーカルがトライバルでアトモスフェリックなトラック群と交感し、さらにポエトリーがよりいっそう全体像を際立たせたハイブリッド・ジャズ! 彼のサウンド・クリエーションはまったく無限であるとあらためて感じた。時代性を超越した作品である。
2. Hyetal & Shortstuff / Don't Sleep/Ice Cream | 〈Punch Drunk〉
UKダブ・カルチャーの拠点"ブリストル"でもダブステップは刻々と進化を続けている。90年代初期のジャングルがレイヴを席巻していたように......。その進化の過程とともに、ピンチの〈Tectonic〉と双璧の如く歩んで来たのがぺヴァーリストの〈Punch Drunk〉。90年代のジャングル/ドラムンベース・ムーヴメントを通って来たであろう彼らブリストル・ダブステッパーたちは、UKダンス・ミュージックの特性である"ハイブリッド"を巧みに取り入れた全く新しいブリストル・サウンドの提唱者となった。
その〈Punch Drunk〉からエレクトリック・ミニマルと称され、傑作の呼び声高い「Pixel Rainbow Sequence」を〈Reduction〉から発表したブリストルの新星ハイタルとポスト・ガラージ/ファンキー・クリエーターで〈Ramp〉からの「Rustling/Stuff」が記憶に新しいショートスタッフがタッグを組んでのリリース。アーバンなガラージ・テイスト溢れるエレクトリックなファンキー・ダブステップで、現在巷で話題のアントールド(UNTOLD)やゲーオム(GEIOM)などのミニマル X ガラージを混合させたニューフォーム・サウンドである。試行錯誤の末、細分化されてきたダブステップのなかでも今年もっとも注目されるであろうこのサウンドは、ジャンルを越えて脚光を浴びるポテンシャルを有す存在になろうとしている。その動向、その先の化学変化は刮目に値するムーブメントであり、今後のシーンにおいて最重要に位置づけられるひとつであろう。
3. Kryptic Minds / Badman/Distant | 〈Swamp 81〉
筆者は、とにかくクリプティック・マインズのダブステップ・サウンドが大のお気に入りである。〈Tectonic〉からの「768」、ピンチ&ムーヴィング・ニンジャ「False Flag -Kryptic Minds RMX-」や〈Osiris〉の「Life Continuum/Wondering Why」、〈Disfigured Dubz〉から「Code 46/Weeping」など......最近のリリースすべて注目している。
遡ることドラムンベース時代〈Defcom〉から数多くのダーク・サイバー・ドラムンベースを量産してシーンに一時代を築いて以来、一遍も変わらない硬質なビート・プロダクション、実に重く太い漆黒ベースラインとテッキーな音色――ドラムンベース・サウンド・クリエーションをそのままダブステップに変換してしまったと言っていいくらい一貫したサウンド・スキルが大いに繁栄されている。さらに素晴らしいのが、ミックスした時のその状態だ。ブレンドの最中でも己の主張性を損なわないそのグルーブ感満載のサウンド・ポテンシャルは実に素晴らしく、特にミニマルとのブレンド・ミックスをオススメしたい。スライトリー・ミスティック・ダブステップとも捉えれる唯一のプロデューサーだ。
今回もダブステップのオリジネーターのひとりであるローファー〈Loefah〉主宰〈Swam P81〉からのリリース。前作にあたるアルバム『One Of Us』でその存在感を遺憾なく発揮した崇高なるダーク・ダブステップそのままに、今作も続編的アプローチを見せている。
ダブステップ界でも現行のクラブ・ミュージック・トレンドである"エレクトロ"ムーヴメントに触発された作品が目立つなか、彼ら自身の音楽性を常に貫くその姿勢が真のダブステップ・プロデューサーとして認知されようとしている。今後も変わらないであろう確信がある。そう、昔と変わらず、彼はずっとこのサウンドを貫いてきたのだから。
4. Sbtrkt / Laika | 〈Brainmath〉
サブトラクト(Sbtrkt)。脅威のニューカマーとして昨年のデビュー以来、破竹の勢いで上り詰めた天才エレクトリック・ダブステッパー。すでにベースメントジャックス、フランツ・フェルディナンド、モードセレクター、ゴールディといった大物達のリミックスを手掛け、ミニマル~ガラージ~ファンキー~エレクトロと縦横無尽に行き来している今年その動向がもっとも期待されている大注目株である。
今作「Laika」は、ゾンビー(Zomby)のエレクトロ・スケープの傑作「Digital Flora」やアントールド〈Untold〉のミニマル・ガラージ「Flexible」に続くように〈Brainmath〉からの限定リリース。このトラックもすでにポスト・ガラージとして注目され、シーンで話題をさらっている。近い将来、その才能でシーンを掌握するであろう彼のサウンド・コンダクトから目が離せそうにない.......。
5. Eprom / Never(Falty DL Rephresh) | 〈Surefire〉
イーピーロム(Eprom)は、サンフランシスコ在住の新進気鋭ウエスト・コースト・ベース・テクニシャン。ファンキーの要素とテッキーなカッティング・ビート、ハッシュされた女性ヴォーカルにアトモスフェリックな上ものを巧みにコントロールした、これぞニュー・テック・ファンキーだ。アメリカやカナダでも大盛り上がりを見せているダブステップやベースライン・ミュージックだが、アメリカでその代表格と言えば、ファルティDL(Falty DL)、6ブロック(6Blocc)、スターキー(Starkey)、ノアD(Noah D)等々だ。今回の"Never"のリミックス・ワークを担当したのがファルティー・DLだ。
〈Planet Mu〉から発表した傑作アルバム『Love Is A Liability』やシングル「Bravery」、〈Ramp〉からの「To London」等々......名門レーベルからの信頼も厚い才能豊かなプロデューサーだ。もちろん今回のリミックスも名門レーベルに恥じぬ秀逸なディープ・ファンキーに仕上がっている。この先もアメリカ/カナダ・ダブステップ・シーンのホットな動向も追走しなければならない。刻々と独自の進化を遂げているのだから。
来月の連載はサウンドパトロールと合わせて、先日大盛況で幕を閉じた2月13日のDBS〈2010ゴールティ VS ハイジャック〉のパーティ・リポートもお送りしますので乞うご期待!
1. Zinc / Killa Sound [Skream RMX] [Heavy Feet RMX] | Bingo Bass
ジンクvsスクリームの強力タッグが復活した! 2006年にダブステップ浮上のきっかけになった大ヒット・トラック"Midnight Request Line"のリミックス以来、久々のコラボレーションが実現。まさにキャッチー・フロア・アンセムの登場だ。いまやすっかりダブステップ界のトップに上り詰めたスター・プロデューサーのスクリーム、そしてDJジンクのほうも前作のときとは状況が違う。ジンクと言えば、今はエレクトロ・ハウス/UKファンキー/クラック・ハウスを牽引するベース・レジェンドである。そして、今回のコラボレーションによって生まれたこの作品は、前作の流れを汲みつつ、しかししっかりと現在のトレンドも注入したもので、シンプルだがまったく新しいパーティ・トラックである。これによって、"クラック・ダブステップ"が生まれたと言えよう。
ジンクがドラムンベースの創作を中断して1年以上の歳月が過ぎたわけだが......現在ベース・シーンでは恐ろしいぐらいのスピードで刻々と進化を遂げている。忘れもしない。衝撃的かつエポック・メイキングな出来事だった。2008年の11月22日、筆者もレジデント出演している〈DBS〉にて、12周年を祝う、「Mega-Beat Sessions」によるDJジンク再来日だった。
巷では、「ジンクが最後のドラムンベース・セットをやる」、「UK最先端の4つ打ちジャンルも回す」、「クラック・ハウス? なんだ??」等々......大きな話題を集めたものだった。刺激的な用語と新しいジャンルによる新しいムーヴメントを予感させ、もちろん大観衆を集めた大盛況なアニバーサリー・パーティとなった。実のところ、筆者はジンクのプレイ時間と〈SALOON〉でもろに被ってしまい......残念ながら目の当たりできなかったのだが、いろんな人に取材してみたところ、賛否両論を巻き起こす興味深いものとなった。で、受け入れられたのかって? 答えは当然イエスである! 時代の最先端を走る"クラック・ハウス"。ベースラインから派生したUKファンキーよりの"4つ打ちジャンル"が日本のジャングリストにも受け入れられた瞬間だった。
その挑戦的な試み、興味深いこの出来事は、当時かなり興奮したことをよく憶えてる。〈Bingo Beats〉が初期のレーベル・コンセプトである2ステップやガラージなどのハーフステップ主体だった90年代末に、いまにして思えば現在のスタイルの青写真がある。ジンクの変名ジャミン〈Jammin'〉の「Kinda Funky」、「Go DJ」やジンク名義の「138 Trek」などハーフステップ・ガラージ・アンセムなどはその代表だ。
現在、ジンクのクラック・ハウス布教活動は大きな形で実を結んでいる。現在のトレンドであるエレクトロやフィジェット・ハウスのシーンにまで波及する大きな波を起こしている。彼の先見性にはまったく脱帽である。
そして今年の4月17日、〈DBS〉にて待望の再来日を果たすことが決定した。今度はドラムンベース界のレジェンドではなく、ベースマスター・レジェンド、DJジンクとして最高のクラック・ハウス・セットのみならず、日本仕様の〈DBS〉限定セットを披露してくれるはずだ。各地の大型フェスや大箱をロックしているそのセットをいまから楽しみに準備しておこう。だてそれは、正真正銘のUKパーティ・チューンを体感できる貴重な日になるのだから!
さて、もうひとりの大物プロデューサー、スクリームだが、今年に入って立て続けにリミックス・ワークをリリースしている。アーバン・ダブステッパー、シルキーの「Cyber Dub」のウォブリー・リミックスや〈Non Plus〉からインストラ:メンタルのディープ・アトモスフェリック・ドラムンベース「No Future」を[Skreamix]としてウォブリー・ダブステップに昇華したカッティング・エッジ・アンセムなど......これは昨年2月にベンガと再来日した際、ダブプレートとしてバック2バック・プレイしたのを記憶している。しかも彼らのような言わば"若手"DJ/プロデューサーが全編レコードによるアナログ・プレイであったのは予想外のことで、衝撃的な嬉しい出来事であった! UKではいまだ古き良きダブプレート文化がちゃんと若手にも受け継がれている。アナログの素晴らしさ、貴重さが再認識されたセットでもあった。もちろん筆者も、それを継承するアナログ・オンリー3台セットであるのは言うまでもない!
そして来る2月13日〈DBS〉にてドラムンベース界の皇帝、ゴールディーが再来日する。とともに、スクリームの実兄、ハイジャック〈HIJAK〉が初来日! ダブステップの最高峰〈FWD〉、〈DMZ〉でレジデントを務めるシーンのパイオニアのひとりである彼のダブステップ・イズムを体感できる貴重な日になるだろう。
2. Seba & Kirsty Hawkshaw / Joy (Face To Face) | Secret Operations
こ、これは! 聴いた瞬間そう思った......背筋を走り抜けた衝撃の余韻がいまでも感覚として残っている。いったい何だろう......この感覚は......鳥肌が止まらない。いま、執筆しているときでも残っている。頭から離れないコードのメロディ。もしかしたら巡り会ったのかもしれない。自身が思い描く最高の曲の地点に限りなく近い作品に......ひとつ言えるのは、明日から向こう1年いや2年、自身のDJバックに"必ず" 入ることが決定したことだ。
"セバ"〈Seba〉ことSebastian Ahrenberg。スウェーデン出身である彼のプロデューサー起源は、〈Good Looking〉のサブ・レーベル〈Looking Good〉から1998年にリリースされた「Connected/Catch The Moment」だった。当時はアートコア全盛、オリジナリティ溢れるコズミック・アートステッパーとしてLTJブケムが見出したひとりである。この後、〈Good Looking〉の契約アーティストとしてアートコアの傑作アンセム「Planetary Funk Alert/Camouflage」を1998年、「Soul 2000/Waveform」を1999年に発表する。
とくにこの時期の筆者のお気に入りは「Soul 2000」だった。流麗なエレピの旋律から始まる序章......そこから呼応するシンセの冷たくも気高い響きに美しくはまる高速ビーツ。すべてのサンプルが絶妙に当てはめられた、これぞまさにパーフェクト。1995年から聴きはじめたドラムンベースで初めてそう思った曲が「Soul 2000」だった。そして、それを超える衝撃、完成度を誇る作品が今回リリースした「Joy (Face To Face) 」だ。セバの、北欧ならではの寒くも美しく共鳴する深層深い作曲センスは、ひと言で表せば"天才技"だ。
ヴォーカルとして共演しているカースティ・ホークショウ(Kirsty Hawkshaw)は、ロンドン出身のシンガーソングライター。90年代にテクノよりのポップ・バンド、オーパス・スリーのメンバーとして活躍していた。バンド解散後、ソロとして主にクラブ・シーンのヴォーカルとして、さまざまなアーティストと共演している。コラボレーションでとくにヒットとなったDJティエスト〈DJ Tiesto〉とのトランス・アンセム""Just Be"やプログレッシブ・ブレイクス・ユニット、ハイブリッド"〈Hybrid〉の「All I Want」、「Blackout」などが有名だ。ドラムンベースのシーンにおいては、主にセバのセルフ・レーベル〈Secret Operations〉からのリリース、彼のプロデュース・パートナー、パラドックス(Paradox)との共作、はたまたエレクトロ・ステップ/トランス・ドラムンベースのパイオニア、ジョンビー(John
B)との「Connected」など幅広く活躍している。その艶やかかつ幻想的な起伏を生む高揚感溢れるヴォーカルは、クラブ・シーンに欠かせない存在として現在も各方面からオファーが絶えない。とにかく彼女は人気ヴォーカリストである。
さて、「Joy (Face To Face) 」の解説だが、オープニングの寂しげなバック・トラックからオートメーションによりじょじょに入ってくる高速ブレイクビーツ、トランスのエッセンス溢れるサンプルを叙情的に組み込み、妖しげなレイブ・ベースラインを絶妙に注入する。その後、スライトリー・トランス的サンプルの音数を増やしながらファースト・ブレイクへの到達でカースティのヴォーカルの感情とベースラインが最高潮に達するエピック・リエディット。これが、少しづつ進むごとに深みを増して、深海の奥地で繰り広げられているレイヴと言ったところで、曲が終わった後にも入り込んだ残響感が心の芯まで残り、決して離れない。
自身はこれを待っていた。何度も聴きながら、そういう結論に行き着いた。この境地に辿り着く作品と出会えてこの上なく幸せであり、このふたりの偉大なクリエーターが今後もこの境地を何度も更新し続けてくれることを期待する。
1 Sub Focus / Could This Be Real[Drum&Bass RMX]/Triple X | Ram
昨年のハイライトとも言うべきファースト・アルバム『Sub Focus』によってエクストリーム・レイヴ・ドラムンベースの確固たる地位を確立、それを不動のものにしたのがサブ・フォーカスである。そのもっとも待望されていたリリースによってドラムンベース界に新たな核が生まれたというわけだ。もっとも、プロデューサー・デビューから6年もの年月を費やして発表となったファースト・アルバムは、彼の類まれなる才能から考えると少々遅かった感は否めないのだが。
彼の起源は2003年〈Ram〉のサブ・レーベル〈Frequency〉から発表された「Down The Drain/Hotline」である。当時のトラック・メイキングはまだ未成熟かつ方向性が定まっていない、ごく平凡なサイバー・ドラムンベースだった。もちろんその当時は、現在のようなスター・プロデューサーとしての確約はないに等しい存在として扱われている。彼に転機が訪れたのは、そう、2005年。その年のアンセム・ザ・イヤーとなったばかりではなく、2000年代を代表するトラック"X-Ray"の発表である。
ドラムンベース界のみならず、その恍惚感溢れるトランシーレイブな作風で世界中のダンスフロアを掌握、稀に見るビッグ・アンセムとなった。その後、水を得た魚の如く立て続けに"Airplane"、"Frozen Solid"などの"ロック"チューンを発表。そして彼の地位を不動のものにした決定的なリリースがプロディジー"Smack My Bitch Up"のSub Focus RMXだった。そのリミックスはまるで新旧レイブ・サウンド伝道師の世代交代のようで、ドラムンベースをより多方面に押し上げてもいる。そしてその後の活躍は言わずと知れている。いまや名実ともにドラムンベース界のトップ・プロデューサーに君臨するのだ。
さて、彼のファースト・アルバムからシングル・カットが待望されていた2曲がついにリリースされた。アルバムに収録された"Could This Be Real"のオリジナルは、現在のクラブ・シーンを席巻しているトレンド、エレクトロ・タッチから触発されたフロア直系のアーバン・ブレイクスだったが、シングル・カットのためにドラムンベース・リミックスへと自身でリワーク。ハーフ・ステップさながらのビート・プロダクションに流麗なレイヴ感漂うエレピを注入し、ハイブリッドでソフィスティケートされたシンフォニック・レイヴ・サウンドへと昇華させている。
"Triple X"に話を移そう。これはまさに"X-Ray"の続編、誰もが待ち望んだ真のレイヴ・ミュージック、即ちこれがエクストリーム・レイヴをもっとも体現したトランシー・フロア・サイバーの最高傑作と呼ぶに相応しい。今後この作品はダンスフロアで皆を待ち続けることとなるであろう。
2. Disaszt, Camo & krooked / Together[DC Breaks RMX]/Synthetic | Mainflame
オーストリア、ウィーン発の新鋭レーべル〈Mainflame〉からレーベルのフロントマン、ディザスト(Disaszt)と若手ナンバ-1の呼び声が高いケーモ&クルックト(Damo & krooked)のサイバー・スプリット! "Together"では〈Viper〉、〈Frequency〉などシーンのトップ・レーベルのリリースからMINISTORY OF SOUND主宰DATAなどメジャーのリミックス・ワークなども手掛けるDJサムライ & DJクリプティックのエレクトロ・サイバー・ユニット、DC・ブレイクス(DC Breaks)が担当。レーベル・カラーであるカッティング・エッジでエレクトリックなサイバー感を継承しつつ、よりシンプルに交感し合う各々のサンプル群と、そして女性ヴォーカルが絶え間なくフォローするエレクトロ・ニューロ・ファンクとなっている。昨年からドラムンベースの新しいトレンドとして定着しつつあるエレクトロ・ドラムンベースだが、今作はまさにそれを体現している。まったく"いまこの瞬間の"ダンスフロア・シンフォニーで、レーベルのシンボル的トラックである。
ケーモ&クルックト"Synthetic"は、〈Mainflame〉からもうすぐ発売されるファースト・アルバム、『Above The Beyond』の前編的トラックとなった。エレクトロ・ドラムンベースの若手急先鋒ケーモ&クルックトだが、今年はさらなる飛躍を期待されるだろう。彼らはすでにDJフレッシュ(DJ Fresh))、アダムF(Adam F)の〈Breakbeat Kaos〉から「Can't Get Enough/Without You」、ロンドン・エレクトリシティ率いる〈Hospital〉から「Climax/Reincarnation」、フューチャー・バウンドの〈Viper〉から「Cliffhanger/Feel Your Pulse」など、多数リリースが控えており、今後最注目のアーティストである。筆者が現在提唱しているエレクトロ・ドラムンベースが、ケーモ&クルックトやショックワン、フェスタなどによって閃光の如く輝き続けるムーヴメントになることを望んでいる。
3. Danny Byrd Feat Liquid / Sweet Harmony/Jungle Mix | Hospital
ザリーフ&ダニーバード(Zarif & Danny Byrd)、"California"で昨年、最高のプロデュース・センスをまた見せつけたダニーバード! ハイコントラストとともに〈Hospital〉の制作理念をもっとも体現しているひとりであり、彼の高揚感溢れるキャッチーな作風はいまや誰にも真似できない、まさにダニーバード・サウンドとして定着している、キャリア10年以上の〈Hospital〉所属のベテラン・プロデューサーだ。
筆者もDJのとき、必ずと言っていいほどお世話になっている。とくに昨年のザリーフとの共作やファースト・アルバムでのFT.ブルックスブラザーズ"Gold Rush"など......彼の作品をプレイするとき、いつも決まって、自身が中盤の窮地に陥っているケースが大半だ。なぜかと言えば......それだけ個の作品のみであらゆる場面を乗り切る力を持っている唯一のトラック、それがダニーバードの音楽だからである。彼には作品を出すたび毎回脱帽し、尊敬の念を抱き続けている。レコードを置き、針を落とすだけの偉大なキラー・トラックを量産し続けているのだから!
そして今作"Sweet Harmony"は、初期のレイヴ感溢れるエレピ、FT.リキッドのソウルフルなヴォーカルを効果的に配した遊び心満載のキャッチーなフロアトラックとなった。原点回帰したかのような初期作風感漂うサンプル使いにダニーバードの懐の深さを再認識させられた。もちろんこれもフロアで爆発的人気を得るだろう。
B面"Jungle Mix"は、ここ最近のダニーバードお気に入り(?)"Shock Out"でも垣間みれたおなじみのオルタナティヴ・プロダクションである。彼特有の変則アーメン・ビートにキャッチーなギミック・サンプルで否応無しにフロアをロックする、正真正銘のパーティ・チューンだ。90年代中期頃、一世を風靡した"Smokers Inc"や"Joker"のエッセンスが多分に感じられ、古き良きジャングル文化が彼によって現代に甦ったと言えよう。
さらに本年度はダニーバード・フォースカミング・リリースで、みんなが待ち望んでいるあの曲"Paperphase"が〈Breakbeat Kaos〉からついにリリース。あのエレクトロ・ドラムンベース最強兄弟、FT.ブルックス・ブラザーズがまたタックを組み、懐かしのフレンチ・ディスコを思い起こさせるフィルター・ハウス・ドラムンベースに仕上がっている。
まだリリース前だが、2010年のアンセム・ザ・イヤーをこれで決まりだ。
あけましておめでとうございます。相も変わらず労働とクラブ徘徊の生活を送っています。どうか今年もよろしくお願いします!
ちなみに昨年の大晦日から新年はTHE KLO(BE-WAVE)→DJ NAMIDA(BE-WAVE)→中原昌也(BONOBO)→DJ WADA(SOUNDBAR+)→MIXMASTER MORRIS(SOUNDBAR+)といった流れでした。良い幕開けです。遅ればせながら野田さんに勧められ、ディスクユニオン限定のヘア・スタイリスティックスを買いました。ジョン・ケージを越えてます。恐れ入りました。
さて、クラブ中毒者およびヴァイナル中毒者のためのテクノ系の12インチ、クリスマスから新年もリリースは好調で、いくつも面白いものが出ています。
1 Acid Pauli / Nymbiotic/Symbiotic | Smaul(GER)
90'Sのジャーマン・テクノを象徴するような無機質なレイヴ・サウンドを〈ディスコ・B〉(ミュンヘンの老舗のテクノ・レーベル)からリリースしていたマルタン・グレッシュマンことアシッド・ポールが、こんどは自身のレーベル〈スマウル〉からのリリース。作風はがらりと変わってソフトでシンプルなハウスを響かせている。
A面はガムランを基調に、蛙の声や水音など自然音を巧みに取り込んだ個性的な響きのトラック。B面では哀愁をおびたストリングスのサンプルを使った落ち着いたディープ・ハウスが中盤のブレイクからプログレ調に変化していく珍妙なトラックを展開する。アイディアとネタ一発だが、それがまさに今日的な"リエディット"の形。そしてこれがまたフロアでは効力を発揮する。
2 Acid Pauli / Marvin / The Real Sidne | Bootleg
ちょっと古いけど、こいつも是非紹介したい。先にも挙げたアシッド・ポールの一作前のリリース。クラブで聴いている人も多いと思うが、マービン・ゲイの"ホワッツ・ゴーイング・オン"のヴォーカルがそのまま使用された、まるでシルクのように滑らかなディープ・ハウスだ。DJにとってはとても使いやすく、ヴォーカル・パートが入ってくるタイミングが遅いので前の曲からゆっくりとミックスすることができる。
現場でかけてみると面白いのが、大ネタにもかかわらず歓声があがるような盛り上がりではなく、ほかほかした良い空気が流れるところです。曲のスピードを変えても音程がぶれない、サンプラーの機能向上がもたらした奇跡の1枚。もちろんヴァイナル・オンリーです。
3 Anthony Collins / Away From Home | Mule Electronic(JPN)
フランスの〈フリークン・チック〉に代表される新しいタイプのシカゴ・ハウス勢のなかで、目覚ましい活躍を見せているのがこのアンソニー・コリンズだ。DJあるいはダンス・マニアのあいだでいまいちばん信頼されているトラックメイカーのひとりでもある。
A面ではレーベルのカラーに合わせてミニマルを意識したのか、彼の得意技であるシカゴ経由のディスコ・テイストは影を潜め、中低域の音の運びが上手いダビーで深みのあるテック・ハウスを展開している。B面ではピアノとシンセとホーンのからみが絶妙な、ジャジーなフィーリングのディープ・ハウスを展開する。ブラック・ミュージックとしてのハウスを求めている人にはドンピシャな音でもある。明るすぎず、綺麗すぎず、ほど良い塩梅です。
4 Telefon Tel Aviv / Immolate Yourself Remixies | Bpitch Control(GER)
トータスのジョン・マッケンタイアによるレーベル〈ヘフティ〉からオールドスクールなエレクトロを基調に数々の傑作を放ってきたテレフォン・テル・アビブのアルバムからのカットで、これはそのリミックス集。レーベルはベルリンのエレン・アリエン率いる〈ビッチ・コントロール〉から。豪華な面子がそろったお買い得盤である。
A1はレーベルが期待を寄せる新人トーマス・ムラーによるダークなエレクトロを基調にした金属的な質感のアシッド・ハウス。おかずのパーカッションがいまのフロアの気分を象徴している。
B1は人気の女性ミニマルDJ、ミス・フィッツによる原曲のヴォーカルを活かしたダビーなミニマル・ハウス。現在のミニマル・シーンを代表する〈パーロン〉からリリースされた前作の延長上で、よりシンプルに音の運びを意識したトラックに仕上がっている。この人の作る曲は、サンプルにエフェクトをかけたものが基調で、安易といえば安易なのだが、いまのDJならではのネタ感が良い。今回も毎度おなじみのブラック・ジャズからのサンプル使いだ。
B2はベルグハインの人気DJ、ベン・クロックによるソフトでグルーヴィーなテック・ハウス。ハード・テクノに傾倒していた作風から見事なシフト・チェンジ。ただ体の動かし方にはテクノを感じる。後半に入ってくる多幸感のあるシンセがトランシーで心地よい。
5 Bauhaus / Bauhaus O1 | Bauhaus(GER)
ドイツの歴史的に有名な美術学校「バウハウス」の名前がホワイト版にスタンプされただけの、アート志向のハウス。アーティストは不明。音は、太いキックとザラついたハット、中高域のノイズで引っ張るインダストリアルな質感のハード・ミニマル。レディオ・スレイヴに代表される90年代テイストのテクノをモチーフにしている。いわば懐古主義的なトラックとも言えるだろう。ネーミング、楽曲、スタイル、すべてが現在のテクノを支配する"ミニマリズム"の美学に基づかれている。
6 Deepbass & Roman Toletski / Dark Beat(Remixies) | Dark Beat(UK)
UKの新しいレーベル〈ダーク・ビート〉よりストイックなハード・テクノが登場。A面はUKテクノ・シーンのベテラン、マーク・ブルームによるリミックス。ハットの抜き差しとホワイト・ノイズで引っ張り、後半には覚醒的なシンセが展開する、ほどよく走ったミニマル・テクノ。うすら遠くに聴こえる女性の声の入れ方にセンスの良さを感じる。
B面は、グラスゴーの〈ソーマ〉で活躍するパーシー・エックスによるエディット・セレクト名義でのリミックス。"The Orb Theory"という意味深なタイトルが付けられている。パーカッションを主体としたグルーヴィーなミニマル・テクノで、ジェフ・ミルズのように裏と表が入れ替わる繊細なトラック。マーク・ブルームといい、トム・ミドルトンといい、UKではベテラン勢を中心にテクノがふたたび盛り上がってきている。
7 Gary Beck / Over To You | Bek Audio(UK)
こちらはグラスゴーの新鋭ゲイリー・べックが自身で立ち上げた〈べック・オーディオ〉からの新譜。A面は中高域のフランジャーのかかったホワイト・ノイズで淡々と引っ張るミニマル・テクノ。
B面は原曲とほぼ同じ構成でノイズを強調したエディット・セレクトによるリミックス。人気のプログレッシヴ・ハウスDJ、ロコ・ダイスのトラックのように柔軟なグルーヴながら、ハードにもソフトにも使える1枚で、まさにDJフレンドリー。基本的に展開の少ない地味な曲だが、聴かせ方次第ではDJのピークタイムにも使えまる。次世代も負けてはいない。
8 Gaspard De La Vega & Jenius / Beauty On Water Ep | Perplex Recordings(GER)
ドイツのテック・ハウスレーベル〈アワー・ヴィジョン・レコーズ〉などで活躍する新鋭ギャスパー・デ・ラ・ベガ&ジー二アスによる新作が〈パープレックス〉よりリリースされた。
予定調和なデトロイティッシュ・テクノを聴かせるA1、B2はおいといて、B1のゆったりしたパーカッションにセクシーな女性ヴォーカルが絡むダブ・ハウスが面白い。ディレイによるダブ処理で音の"トビ"が強調されている。大箱でかかったら、スモークがバッチリはまりそうなイメージの曲だ。大げさで、ばかばかしくって、落差があるところが良い。先鋭的な試みや繊細構成はないものの、大箱でプレイされるために作られたプログレッシブ・ハウスのタフさが充分に滲み出ているクラブ・トラックだと言える。立体的で体感的な音楽。
9 NSI / Eitherway | NSP(GER)
NSIとは、テクノ・ファンにはサン・エレクトロニックの名前で古くから知られるベルリンのベテラン、マックス・ローダーバウアー、そしてリカルド・ヴィラロボスとのプロジェクト、オド・マシンをはじめ、ジーク・ウーバー・ディー・ゾンネ(Sieg Uber Die Sonne)のメンバーとしても活動するトビアス・フロイントによるユニット名である。NSIは2005年から活動をはじめ、すでに4枚のシングル、2007年には〈サッコ〉からは1枚のアルバムを発表している。
本シングルは全編生楽器の演奏を中心に繰り広げられ、それをエレクトロニクスによって加工した音響的なツール集とうい体裁をとっている。ルチアーノの〈カデンツァ〉からリリースされたシングルではミニマル・ハウスのフォーマットを借用していたが、ここではどこまでも実験的でダンスを目的としたクラブ・ツールは1曲もない。かろうじてB1が曲として機能している程度だ。フリー・フォームなクラウト・ロック・バンド、ファウストを想起させる。新しいフル・アルバムが早く聴きたい。
10 Jacques Palminger / Tuedeldub Remixe | Pudel Produkte(GER)
これは酷いジャケット。プードル犬が糞を垂れている。ハンブルグのパフォーマーンス集団スタジオ・ブラウンのメンバーとして活躍するジャックス・パルミンガーのニュー・シングルだ。『鳥屋の梯子と人生はそも短くて糞まみれ―ドイツ民衆文化再考(アラン・ダンデス)平凡社』を参照しよう。
新しいドイツのテック・ハウスを模索する〈パープレックス〉よりによると、ドイツ人にはスカトロジーを題材としたジョークを好む傾向があり、プードル犬が糞を垂れるモチーフも昔から頻繁に使われているそうだ。それはこの盤は、まさにドイツ人らしいユーモアの妙例なのだろう。
A1は原曲のポエトリーを活かしたシャックルトンによるリミックスで、装飾はそぎ落とされ、ベースとドラム最小限のシンセという骨格だけで聴かせるダブステップ。ベースの抜き差しが、まるでダブの始祖キング・タビーを彷彿させる。
A2はローレンスによる多幸感溢れるダウンテンポ・トラック。まるで元日の空のように美しく澄みきった穏やかさが魅力だ。B1はヘイ・O・ハンセンによるアシッド感のあるディレイがかったブロークンビーツ。B3はピーター・プレストによるメランコリックなピアノのメロディが印象的なエレクトロニカ。B2、B4はヴォーカルのみの短いスキット。現在のドイツの風俗が凝縮されているだけでなく、サウンド的にもとてもクオリティが高いリミックス集となっている。
シーダというラッパー(プロデューサー)が不良たちのヒーローに留まらず幅広い層から支持されたのは、メランコリーや悦びの感情を細やかに描く才能に恵まれていたのもあるし、どこか頼り無さげで儚い佇まいに色気が漂っていたのも大きかったのだろう。曲によって別人と思えるほど極端に変える声音や世界を異化するような(威嚇するような)笑い声には、ある種の分裂症的なものさえ感じさせる。シーダは一般的にはハードコアなイメージが強いが、実は非マッチョで、非ハードコアなラッパーだということが彼の作品をじっくり聴き直すとよくわかる。知り合いの女の子が就職活動で将来について悩んでいるときにシーダの音楽に癒されたと語っていたが、彼女にとってドラッグ・ディールというハードなトピックは二の次だったのだろう。僕がシーダの音楽に感化されたのも、何も彼が"悪かった"からではない。
僕は、シーダほど黒人音楽のメロウネスを深いところで自分のリアリティと接続して消化できた日本のラッパーはいなかったと思っていて、90年代にアメリカのR&Bを宇多田ヒカルが独自に消化したのと近いことをやったと解釈している。例えば、シーダが日本語ラップ・シーンで評価を決定付けた通算4枚目のアルバム『花と雨』に収められた"Daydreaming"、あるいは彼の内省がもっとも素直に表出された通算6枚目のアルバム『Heaven』に収められた"紙とペンと音と自分"を聴いたときにそのことを強く感じたのだが、"Wisdom"を聴いて、その気持ちは確信へと変わった。
"Wisdom"は、今年の5月に発表した通算7枚目のアルバム『Seeda』を最後に活動を休止していたシーダの復活作となる。僕はこのシングルを買ってからというもの何度も繰り返し聴いている。1週間でここまで聴いたシングルはここ数年なかったと思う。僕が"Wisdom"に惹かれたのは、ヒップホップ的なループ感よりもハーモニーが強調されたゴージャスなR&Bでありながら、単なるラヴ・ソングではなかったからだ(プロデューサー、オールド(OHLD)によるトラックは秀逸である)。シーダは甘いムードと戯れながら、しかし今でもストリートを歩き、街角の風景――空きビル、ホームレスを描写し、外気を吸い込むことを決して止めない。それが、同じくメロウなR&Bをほぼ全編に渡って展開した、クレバの密室的なラヴ・ソング・アルバム(と言っていいだろう)『心臓』との決定的な違いでもある(『心臓』は素晴らしい!)。
"Wisdom"は、恋人と聴いても、志を共にする友人と聴いても、最後には同じ感動が待っているような、背後から恋の予感に抱きすくめられながら、生きる勇気を鼓舞してくるような......、幾重にも感情が織り込まれたソウル・ミュージックだ。ここには、愛があり、決意があり、ロマンがある。愛の歌と革命の歌が同時に歌われる70年代前半のニュー・ソウルを思い起こさせるし、ポール・ギルロイの「パッションの歌はしばしば同時に抵抗の歌を意味していた」という言葉が脳裏をかすめもする。シーダが黒人音楽と深いところでつながっていると僕が感じるのはそれ故だ。マイノリティは常にセクシーである。誰かが前にそんな文句を言っていたが、そう、"Wisdom"はセクシーなのだ。
"Wisdom"は、「大きな力/俺等に必要無い/今より少しだけ/勇気でFLY」という、シーダが自身の無力さをすんなりと受け入れるラインから幕を開ける。これまで自身の無力さとの葛藤を音楽化してきたシーダからまるで憑き物が落ちたように。これは明確なアンチ・マッチョイズムの表明だろう。大きな力――暴力や巨大な資本力だけでねじ伏せられないものが音楽のコアにはあると言いたいのだろう。CDが売れないと言われる時代に、1曲入り300円という値段で、しかもオリコン・デイリーチャート5位を記録するというのもそれだけで希望じゃないか。
シーダが日本語ラップのルールから解き放たれた普遍的なテーマでリリックを綴る一方、ゲスト・ラッパーであるザ・ブルー・ハーブのイル・ボスティーノはラップ・ゲームのサヴァイヴァルについて歌う。結果的にボスの存在が日本語ラップ・リスナーをつなぎ止める役割を果たしている(ように思える)。だから正直、ボスはこの曲の中では少し浮いているのだけれど、バランスとしては悪くない。他にもいろいろ語るべきことはあるが、最後にR&Bシンガー、エミ・マリアの歌声が素晴らしいことを記しておこう。彼女はセクシーな声で歌う。「誰にも支配されない/自分だけを生きたい」と。10年代に入ってからも「Wisdom」を何度も聴くことになるだろう。
ここ1年にかけて、ダブステップの影響もあってだろうか、従来の〈ベーシックチャンネル〉や〈ディープスペース〉などのレーベル以外にもヴァリエーション豊かでダビーな音響のテクノ/ハウスが続々とりリースされている。とはいえ、テクノとダブステップが実際に共振しているかと言えば、微妙なところだ。テクノのリスナーはまだそれほどダブステップを聴いていない。ただし、お互いに意識していることは確実なのだ。面白い動きはいろいろ起こっている。最近のダブステップをかけて、逆説的にテクノのクオリティの高さも再認識した。
1 Lee Jones / Yoyo Ep | Cityfox(CHE)
ミニマルのテック・ハウス化の中で〈サーカス・カンパニー〉に代表されるジャズや現代音楽をモチーフにした音楽性の高いトラックが多数見受けられるようになりました。その中で、スイスのクラブが設立した新レーベル〈シティ・フォックス〉より〈プレイハウス〉の中心的なアーティストで、マイマイのメンバーとして知られるリー・ジョーンズによる奥深いミニマル・ハウス音響的なところではジャジーな感覚を取り入れている。
2 Tolga Fidan / So Long Paris | Vakant(GER)
ルチアーノとともにミニマルのグルーヴの発展に貢献してきたトルガ・ファイデンによるニュー・シングル。従来よりも低音は強調され、サックスをメロディーとしてではなく"飛び"のアクセントとして用いる。より立体的なトラックへと変化している。
3 Matthias Meyer / Wareika / Infinity / Smiles | Liebe Detail(GER)
〈フリーレンジ〉とともに新世代のテック・ハウスを牽引する〈リエベ・ディテイル〉よりマティアス・メイヤーとワレイカによるスプリット。両面ともにクオリティが高く、2009年のアンセムと言っても過言ではない。ジャジーでエスニックなテック・ハウスにプログレッシヴ・ロック的な要素が加わり、高音あるいは中低域の持続音が不思議なトランス感を生み出している。ダブというよりはサイケデリック。ヴィラロボスとジョー・クラウゼルが共演したらこんな感じになるんじゃないか。
4 Conforce / CCCP EP | Modelisme(FAR)
そしてオランダよりの新鋭ボリス・バニックのダブ・プロジェクト、コンフォースがルーク・ヘスなどもリリースするフランスの〈モデリズム〉から。〈エコ・スペース〉や〈ベーシック・チャンネル〉タイプのミニマル・ダブでありながら、最近のミニマル・ハウスを通過している柔軟なグルーヴが素晴らしい。
5 Rui Da Silva & Craig Richards / Be There | Motivbank(GER)
ポルトガルのルイ・ダ・シルヴァとファブリックの看板DJ、クレイグ・リチャーズによる共作。ジェイ・トリップワイヤーなどにも通じる大箱に栄えるプログレッシヴなダブ・ハウス。最近では珍しい質感と言える。アシッド・ベースの使い方がクールなトビアスによるリミックスも収録している。
6 Marcel Dettmann / Prosumer & Tama Sumo / Phantasma Vol.3 | Diamonds And Pearls Music(GER)
今年も大活躍のベルグハイン勢によるスプリット。シンプルなアシッドハウスに、繊細な持続音が絡む、デットマンによるダビーミニマルと、シカゴハウスを上手く今のグルーヴに当てはめたタマ・スモとプロシューマーによるベースの効いたテックハウス。
7 Valma / Radiated Future | Blueprint Records(UK)
デットマンを中心としたハード・ミニマル回帰の中で再び注目を集めるジェームス・ラスキンによるレーベル〈ブループリント〉からヴァルメイによる新作。覚醒的なシンセをアクセントに、ストイックに展開していくハード・ミニマルとなっている。質感は昔のままながら、グルーヴやエディットに新しさを感じる。
8 Monolake / Atlas ーT++ Remix- | Monolake(GER)
エレクトロニカのフィールドからダブを追求するベテランのモノレイクのトラックで、メンバーのトーステン・プロフロックによるT++名義でのリミックス・ヴァージョン。ノイジーでカオティックで、ピッチの早いダブステップと言える。正直に言って、レゲエやグライムからの流れのダブステップは聴くに堪えないものが多い。が、モノレイクのそれは、そのなかで本当にクオリティが高い音響を見せつけている。あるいはまた、これこそがテクノとダブステップの理想的な融合のカタチのひとつだと言える。
9 Harmonia & Eno / Tracks and Traces Remixes | Amazing Sounds(GER)
これは衝撃的な1枚。ハルモニアとブライアン・イーノによる名作をシャックルトンとアップルブリムがリミックス。テクノでもダブステップでもない。摩訶不思議なアンビエントだと言えるし、ジ・オーブの『ポム・フリッツ』を連想させる。ダブステップ周辺のアーティストでは僕にとってはシャックルトンが抜きん出て面白い。分からないから面白いのであう。
10 The Sight Below / Murmur - EP | Ghostly International(US)
これはシアトル出身のアーティスト、サイト・ビロウによる深海系のダビー・ミニマル。リミキサーにはフィンランドからバイオスフィア。ドローニッシュで凍りつくようなハードコア・アンビエントである。













































































































