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Mount Kimbie

Mount Kimbie

Carbonated

Hotflush Recordings

Amazon iTunes

野田 努 Aug 03,2011 UP
E王

 人が好むと好むざるとに関わらず、ジェームス・ブレイクのヒットによってダブステップの"それ以降"が揺れ動いている現在、もしこれから新しいジャンル名が生まれてさらにまた新しい10年がはじまるとしたら、そのエース候補ナンバー・ワンの座にいるのはロンドンのふたり組、マウント・キンビーだ......ということは満場一致の意見ではないだろうか。アルバム『クルックス&ラヴァーズ』は、たとえば僕には1998年のボーズ・オブ・カナダの登場を彷彿させるところがある。あれはテクノの"ネクスト"として、それこそレイ・ハラカミから大きく言えばアニマル・コレクティヴにまで繋げていったフシがある。それと似たように、シーンの脇道から登場しながら、しかし大きなインパクトを投げかけた『クルックス&ラヴァーズ』のあとに続く新しい道筋があるとしたら、いまそこにいるのは、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルホリー・アザーないしはパンタ・デュ・プランスといった、そう、ロンドンの2ステップ・ビートとは無関係だった連中かもしれない。こうした予期せぬ他との接続やそれにともなう変容がムーヴメントを追いながら聴くことの面白さで、他にも、その呼称に関してはどうかと思うが、ウィッチ・ハウスにしてもブリアルの影響下に生まれているという話で、まあとにかくダブステップ以降は大きな変化の真っ直なか、さまざまなところで浸水が起きている......というわけだ。

 本作「カーボネイティッド」はエース候補が久しぶりに発表するオリジナル作品で、僕もいつ聴けるのかと楽しみにしていた1枚だ。もっともこれはシングル盤で、オリジナルは3曲収録され、リミックスが3曲の計6曲が収録されている。
 『クルックス&ラヴァーズ』のレヴューのなかには「ダブステップの大言壮語をアンビエントに接続させた作品」などとうまいことを書いている人がいたけれど、タイトル曲の"カーボネイティッド"は、その路線をさらにテクノの側へとハンドルを切った曲だ。4分しかないのが惜しいほど、美しいアンビエントとミニマルなビートによるシンプルな構成は完璧で、そのヌケのいい音は、あたかも溶け出した液体のように、手際よくテクノとIDMとダブステップのすき間に侵入する。そして途中から入るR&Bサンプルとエコーするビートによるピークが、やがて素晴らしい余韻を与える。"フラックス"は段階的に展開していくタイプの曲で、ベースラインが叫び声のループと絡みながら、そして曲はブレイクをはさんでグルーヴィーに活気づいていく。"ブレイヴス・コード"も素晴らしい曲だ。これはゆったりとしたダウンテンポで、澄み切ったグリッチ・サウンドとダブ、そして風のような音に控えめなベースライン、響き渡るハンドクラップ......新鮮なチルアウト・ビートが展開されている。まあ、とにかく見事というか、オリジナルの3曲すべてが魅力的だ。

 リミックスは、ほとんど新人と呼べるようなふたりと、ひとりのダンスフロアの人気者が手掛けている。『クルックス&ラヴァーズ』に収録されていた曲"アドリアティック"(オリジナルはわずか1分半)のリミックスを手掛けるのはクラウス(Klaus)という人で、名前からしてドイツ人だろうか、減速したループによるアンビエントを展開している。ベースのドローンめいた響きを持続させながら、シンプルだが思い切ったヴァージョンとなっている。
 "カーボネイティッド"のリミックスはふたつある。ひとつは昨年ジェームス・ブレイクと共作しているエアーヘッドで、単調なビートと気味の悪い音響のなか、途中でR&Bサンプルが挿入され、そして突然ギターが鳴り響くというやや奇をてらった展開の暗いトリップ・サウンドとなっている。曲の雰囲気はハウ・トゥ・ドレス・ウェルやホリー・アザーらと似ているが、なかなか凝った作りをしていて、今後の動向が注目されそうなひとりである。もうひとつはわが国でも人気のブリュッセルのテクノDJ、ピーター・ヴァン・ホーセンによるリミックスで、こちらはデトロイティシュなムードを用いながら、リズムをダンスフロアへと確実に動かしている。

 この1年、多くのダブステッパーがやる気満々になってアルバムを発表しているなかで、「カーボネイティッド」は言葉数少なく、あくまでも謙虚な佇まいながら、しかし自分たちには明確に明日が見えていることを告げている。

野田 努