ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. SPECIAL REQUEST ——スペシャル・リクエストがザ・KLFのカヴァー集を発表
  2. Ryuichi Sakamoto ──坂本龍一、日本では初となる大規模個展が開催
  3. interview with Shinya Tsukamoto 「戦争が終わっても、ぜんぜん戦争は終わってないと思っていた人たちがたくさんいたことがわかったんですね」 | ──新作『ほかげ』をめぐる、塚本晋也インタヴュー
  4. Felix Kubin ——ドイツ電子音楽界における鬼才のなかの鬼才、フェリックス・クービンの若き日の記録がリイシュー
  5. Sleaford Mods ——スリーフォード・モッズがあの“ウェスト・エンド・ガールズ”をカヴァー
  6. Galen & Paul - Can We Do Tomorrow Another Day? | ポール・シムノン、ギャレン・エアーズ
  7. Oneohtrix Point Never - Again
  8. Lost New Wave 100% Vol.1 ——高木完が主催する日本のポスト・パンクのショーケース
  9. DETROIT LOVE TOKYO ──カール・クレイグ、ムーディーマン、DJホログラフィックが集う夢の一夜
  10. KLF KARE. ——ザ・KLFが介護をサポートする!?
  11. 『壊れゆく世界の哲学 フィリップ・K・ディック論』 - ダヴィッド・ラプジャード 著  堀千晶 訳
  12. yeule - softscars | ユール
  13. Columns 11月のジャズ Jazz in November 2023
  14. 宮崎敬太
  15. Philip K. Dick ——もういちどディックと出会うときが来た——『壊れゆく世界の哲学 フィリップ・K・ディック論』刊行記念トークショー
  16. Columns 新ジャンル用語解説 New Genres in Underground Pop Music
  17. Columns ノエル・ギャラガー問題 (そして彼が優れている理由)
  18. interview with Gazelle Twin UKを切り裂く、恐怖のエレクトロニカ  | ガゼル・ツイン、本邦初インタヴュー
  19. KMRU - Dissolution Grip
  20. Columns 9月のジャズ Jazz in September 2023

Home >  Reviews >  Album Reviews > Mount Kimbie- Carbonated

Mount Kimbie

Mount Kimbie

Carbonated

Hotflush Recordings

Amazon iTunes

野田 努 Aug 03,2011 UP
E王

 人が好むと好むざるとに関わらず、ジェームス・ブレイクのヒットによってダブステップの"それ以降"が揺れ動いている現在、もしこれから新しいジャンル名が生まれてさらにまた新しい10年がはじまるとしたら、そのエース候補ナンバー・ワンの座にいるのはロンドンのふたり組、マウント・キンビーだ......ということは満場一致の意見ではないだろうか。アルバム『クルックス&ラヴァーズ』は、たとえば僕には1998年のボーズ・オブ・カナダの登場を彷彿させるところがある。あれはテクノの"ネクスト"として、それこそレイ・ハラカミから大きく言えばアニマル・コレクティヴにまで繋げていったフシがある。それと似たように、シーンの脇道から登場しながら、しかし大きなインパクトを投げかけた『クルックス&ラヴァーズ』のあとに続く新しい道筋があるとしたら、いまそこにいるのは、ハウ・トゥ・ドレス・ウェルホリー・アザーないしはパンタ・デュ・プランスといった、そう、ロンドンの2ステップ・ビートとは無関係だった連中かもしれない。こうした予期せぬ他との接続やそれにともなう変容がムーヴメントを追いながら聴くことの面白さで、他にも、その呼称に関してはどうかと思うが、ウィッチ・ハウスにしてもブリアルの影響下に生まれているという話で、まあとにかくダブステップ以降は大きな変化の真っ直なか、さまざまなところで浸水が起きている......というわけだ。

 本作「カーボネイティッド」はエース候補が久しぶりに発表するオリジナル作品で、僕もいつ聴けるのかと楽しみにしていた1枚だ。もっともこれはシングル盤で、オリジナルは3曲収録され、リミックスが3曲の計6曲が収録されている。
 『クルックス&ラヴァーズ』のレヴューのなかには「ダブステップの大言壮語をアンビエントに接続させた作品」などとうまいことを書いている人がいたけれど、タイトル曲の"カーボネイティッド"は、その路線をさらにテクノの側へとハンドルを切った曲だ。4分しかないのが惜しいほど、美しいアンビエントとミニマルなビートによるシンプルな構成は完璧で、そのヌケのいい音は、あたかも溶け出した液体のように、手際よくテクノとIDMとダブステップのすき間に侵入する。そして途中から入るR&Bサンプルとエコーするビートによるピークが、やがて素晴らしい余韻を与える。"フラックス"は段階的に展開していくタイプの曲で、ベースラインが叫び声のループと絡みながら、そして曲はブレイクをはさんでグルーヴィーに活気づいていく。"ブレイヴス・コード"も素晴らしい曲だ。これはゆったりとしたダウンテンポで、澄み切ったグリッチ・サウンドとダブ、そして風のような音に控えめなベースライン、響き渡るハンドクラップ......新鮮なチルアウト・ビートが展開されている。まあ、とにかく見事というか、オリジナルの3曲すべてが魅力的だ。

 リミックスは、ほとんど新人と呼べるようなふたりと、ひとりのダンスフロアの人気者が手掛けている。『クルックス&ラヴァーズ』に収録されていた曲"アドリアティック"(オリジナルはわずか1分半)のリミックスを手掛けるのはクラウス(Klaus)という人で、名前からしてドイツ人だろうか、減速したループによるアンビエントを展開している。ベースのドローンめいた響きを持続させながら、シンプルだが思い切ったヴァージョンとなっている。
 "カーボネイティッド"のリミックスはふたつある。ひとつは昨年ジェームス・ブレイクと共作しているエアーヘッドで、単調なビートと気味の悪い音響のなか、途中でR&Bサンプルが挿入され、そして突然ギターが鳴り響くというやや奇をてらった展開の暗いトリップ・サウンドとなっている。曲の雰囲気はハウ・トゥ・ドレス・ウェルやホリー・アザーらと似ているが、なかなか凝った作りをしていて、今後の動向が注目されそうなひとりである。もうひとつはわが国でも人気のブリュッセルのテクノDJ、ピーター・ヴァン・ホーセンによるリミックスで、こちらはデトロイティシュなムードを用いながら、リズムをダンスフロアへと確実に動かしている。

 この1年、多くのダブステッパーがやる気満々になってアルバムを発表しているなかで、「カーボネイティッド」は言葉数少なく、あくまでも謙虚な佇まいながら、しかし自分たちには明確に明日が見えていることを告げている。

野田 努