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interview with Mount Kimbie

interview with Mount Kimbie

マウント・キンビー、3.5枚目にして特殊な新作について語る

質問・序文:小林拓音    通訳:原口美穂 Photo by Bolade Banjo   Nov 11,2022 UP

 安心した。マウント・キンビーの新作は、LAに暮らすドミニク・メイカーとロンドン在住のカイ・カンポス、それぞれのソロ作をカップリングしたものになる──そう最初に知ったとき、てっきりこのまま解散してしまうんじゃないかと不安に駆られた。仲たがいでもしたのかと気が気じゃなかった。
 大丈夫。海を隔てようとも、ロックダウンを経ようとも、ふたりの絆はいまだ健在だ。『MK 3.5』なるタイトルが示しているように、今回は4枚目のフル・アルバムにとりかかるまえのちょっとした寄り道のようなもので、「メインのプロジェクトとは少し違ったことを実験するチャンスだと捉えて」「自分たちの頭のなかにあるアイディアを、あまりプレッシャーを感じずに、自由に実験し、探求すること」が目的だったようだ。
 といっても手抜きなどではもちろんない。00年代末、ポスト・ダブステップの時代にボーズ・オブ・カナダの牧歌性を持ちこむところから出発し、2012年に〈Warp〉と契約してからは生楽器を導入、バンド・サウンドを試みていた彼らだが、『MK 3.5』はこれまでのどの作品とも異なる新境地を拓いている。

 メイカーによるディスク1「Die Cuts」はUSメジャー・シーンからの影響が大きく、トラップのスタイルにUKらしいメランコリーが組み合わせられている。ジェイムス・ブレイク作品におけるメイカーの貢献度がいかに高いか、あらためて確認させてくれる内容だ。一方、カンポスによるディスク2「City Planning」は、彼のDJ活動からのフィードバックが大きい。徹頭徹尾アンダーグラウンドのテクノを志向しており、クラブのサウンドシステムで聴きたいミニマルなトラックがずらりと並んでいる。喚起される、夜の都市。
 ほかの面でも両者は対照的だ。「Die Cuts」にはブレイク以外にもスロウタイ&ダニー・ブラウンなど多数のゲストが参加。サンプリングも使用されており、多くの人間たちとのコラボレイション作品と呼ぶことができる。ひるがえって「City Planning」は1曲を除き、カンポスひとりの手で制作されている。あるいは「Die Cuts」にはことばがあるけれども、「City Planning」にはない──

 みごとに性格の異なる2枚を最初から最後まで通して聴くと、長時間電車で旅をしているような、そしていつの間にか国境を越えてしまっていることに気づくような、不思議な感覚に襲われる。こればかりは2枚を通しで聴かないと味わえない。ある一定以上のまとまった時間を体験することによってしかたどりつけない風景もあるのだと、マウント・キンビーは主張しているのかもしれない。多くのリスナーがアルバム単位での聴取を手放しつつある現在、これは挑戦でもある。


向かって左がドミニク・メイカー、右がカイ・カンポス

ぼくらは、今回のアルバム制作の機会を、互いがメインのプロジェクトとは少し違ったことを実験するチャンスだと捉えてアルバムをつくった。(カンポス)

ハードなビートだけでアルバムをつくるのはどうも気が進まないんだ。ぼくは、叩くようなビートをつくることよりも、感情を表現するためにどうビートを使うか、ということのほうを意識してる。(メイカー)

■メイカーさんがLAへ移住したのは2015年ころですよね。前作『Love What Survives』(2017)リリース時のインタヴューでは、LAとUKを往復しつつ、ふたりで一緒に作業したと語っていました。新作『MK 3.5』は完全な分業ですが、分業自体はファーストやセカンドのころもやっていたのでしょうか。

ドミニク・メイカー(以下DM):いや、ファーストとセカンドのときは、ふたりともロンドンにいたから、一緒につくっていたよ。で、『Love What Survives』のときは、ツアーもあったし、ぼくがけっこうヨーロッパにいたから、一緒につくる時間ができたんだ。

■今回、初めて互いの作品を聴いたときの感想を教えてください。

DM:めちゃくちゃ気に入った(笑)。カイのヴィジョンが伝わってきて、すごくよかった。ぼくにとって、彼の頭のなかを見るのはつねに興味深いことなんだ。もちろん、彼とはもう何年も一緒に音楽をつくってきたけど、それでもまだ、互いに出しあってないものがあるし、それぞれの世界というものがある。それに、ふたりとも今回のレコードをつくるプロセスは山あり谷ありだったから、完成した互いの作品を聴いたときは、よくぞ頑張った! と思ったね(笑)。

カイ・カンポス(以下KC):ぼくも同じだな。今回は、ドムが言ったとおり、お互いけっこうつくるのに苦戦したんだ。どうやって完成させたらいいのかわからなくなるときもあったし、ストレスもあった。でも、レコード制作の最後の10%で、いろいろなものがパズルみたいにハマっていったんだ。そして、アルバムの半分であるカイの作品を聴いたとき、その作品が素晴らしくて、作品をつくりあげる要素の最後のピースを糊づけしたみたいに感じた。彼が頑張っていたのもわかっていたから、ふたりともが頑張ってつくった作品がうまく合わさってひとつの作品になったときは感動だったね。細かいことなんだけど、一曲一曲をバラバラに聴くのと、アルバム全体をひとつの作品として聴くのって、やっぱり感じるものが違うんだよ。

■相手のアルバムで好きな曲と、その理由は?

DM:ぼくは、最近公開された “Zone 1 (24 Hours)” かな。あの曲は、聴けば聴くほど引きこまれていくから。聴くたびに、新しいレイヤーの重なりに気づくんだ。聴くたびに魅力が増すって最高だと思う。カイは先週末にロンドンのファブリックっていうヴェニューでライヴをやったんだけど、アルバムの曲をライヴで聴くのもすごくクールだった。曲が、アルバムで聴くのとは、また違うフィーリングを持ってるように感じたんだよね。

KC:ぼくも最近出た “f1 racer” を選ぶ。まず、あのキャッチーなメロディがすごくいいと思った。聴いたその日じゅう、気づいたらあのメロディを口ずさんでいたしね。それに、トラックの構成自体もすごく好きだった。あのヒップホップとポップが混ざったような感じが、すごくミニマルでいいなと思ったんだ。

自分が好きだと思わない音楽をつくる方向に進むひとたちもいるけど、ぼくらのなかには、自分たちが面白いと思える、喜びを感じられる音楽をつくりつづけたいという思いがいまだに残っているんだ。(カンポス)

■そもそもおふたりが大学で初めて出会ったとき、互いの印象はどのようなものだったのでしょう?

DM:ぼくは、自分以外にあそこまで音楽好きなひとに会ったのはカイが初めてだったんだ。それに、ぼくの周りには音楽をつくっている人がひとりもいなかったから、会った瞬間に興奮したよ。このためにロンドンに越してきたんだ! と思ったね。

KC:ひと目惚れさ(笑)。ドムに会ったときは、おもしろいヤツだなと思った(笑)。

■今回『MK 3.5』をそれぞれ個別に制作するうえで、これだけは決めておくというか、最低限のルールのようなものはありましたか?

KC:ルールはなかったね。それでもなぜか、バランスのいいものができた。ぼくのほうが15分くらい長かったらどうしようなんて心配もしてたんだけど(笑)。あと、どっちが早く仕上げられるか、みたいな暗黙の競争みたいなのもはじまってたな(笑)。最初はドムがすごく順調に見えて焦ったんだけど、幸運なことに彼も途中で壁にぶち当たって、おあいこになったんだ(笑)。

■ちなみにアウトキャストの『Speakerboxxx/The Love Below』は意識しましたか?

KC:意識はしてなかったけど、もちろんフォーマット的に同じだから、比較はされて当然だと思う。でもぼくにとっては、ぼくらの今回のアルバムとその作品はちょっと違うんだ。ぼくらは、今回のアルバム制作の機会を、互いがメインのプロジェクトとは少し違ったことを実験するチャンスだと捉えてアルバムをつくったから。でもアウトキャストのアルバムのほうは、自分たちの10年に一度のベスト・レコードの1枚を作る姿勢でつくったんだと思う。でも、ぼくらの目的はそれではなかったんだよね。あのレコードは10点満点中10点のレコードだけど、それは今回のぼくたちの目標や意識ではなかったんだ(笑)。

■メイカーさんの「Die Cuts」はトラップのスタイルをUK的なメランコリーが覆っています。現在の居住地と故郷とのあいだで気持ちが引き裂かれたことはありますか?

DM:そうだね。ホームやイギリスの音楽が恋しくなるときもたまにあるから、それがノスタルジックなサウンドとして映し出されているのかもしれない。あとは、最近のラップ・ミュージックのトレンドのひとつとして、トラップの要素を取り入れるという流れがあるけど、ぼくの場合、ハードなビートだけでアルバムをつくるのはどうも気が進まないんだ。ぼくは、叩くようなビートをつくることよりも、感情を表現するためにどうビートを使うか、ということのほうを意識してる。そういうちょっと外れた感じがメランコリーに聴こえるっていうのもあるのかもしれない。メランコリーを意識しているわけではないけど、それっぽく聴こえると言われたらたしかにそうかもと思う。でも、ぼくはそういう音楽を懐かしんでいるというよりは、いまも現役でそれを聴いてるんだよね。だからそれが自然に出てくるんだと思う。

質問・序文:小林拓音(2022年11月11日)

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