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どっちが主導権を取っているのか、『ウエルカム・トゥ・マース』というサウンドトラック盤をリリ-スしていたサイモン・ジェイムスとUKヒップホップのDJフォーマットがタッグを組んでデビュー・アルバムをリリース。これがほぼ全編でモーグ・シンセサイザーを使い倒したスペース-エイジ・ブレイクビーツの快作に。
90年代中盤に巻き起こったモーグ・リヴァイヴァルは〈アスフォデル〉のようなレーベルを通じて新旧が入り乱れ、ビッグ・シティ・オーケストラのようなアンダーグラウンド人脈にまでティプシーの名義でポップ・ミュージックへのアプローチを促し、元々のジャン・ジャック・ペリーにまでデヴィッド・シャザムとのジョイント・アルバム『イクレクトロニクス』をつくらせるまでになったと思ったら、00年代もしばらくするうちに跡形もなく消えてしまった。レイディオヘッドやゴッドスピード・ユー~が予兆となって暗い時代になったと......その通りになってしまったのである。
スペース-エイジ・ブレイクビーツといえばダン・ジ・オートメイターとクール・キースのドクター・アクタゴンである。ストリートではなく、実験室生まれのヒップヒップと呼ばれたアクタゴンは、まさにスペース-エイジ・リヴァイヴァルと足並みを揃え、絶好調のギャングスタ・ラップとまったく同じ時期にひとつの可能性を開いた......と思ったものの、誰ひとり続くものはいなかった。いや、アウトキャストがいたか。アクタゴンに少しばかり先駆けたアウトキャストは、それでも03年にはその異端ぶりを終息へと向かわせる。やはり00年代とスペース-エイジは肌が合わなかったらしい。なにが......ま、いーか。
サイモン・ジェイムスとDJフォーマットにどんな勝算があるというのだろう。フライング・ロータスが示した方向性だって、その気分だけをいえばレイディオヘッドやゴッドスピード・ユー~に呑み込まれたものではなかったとは言いづらいものがある。むしろ、そのなかで培われたものも大きかったのではないだろうか。ザ・サイモンサウンドは、しかし、そんなものとはまったくの無縁である。モーグ・クックブックやジェントル・ピープルがポコッと出てきたときと気分は同じ。好きだからやっているんですよといわれれば、好きだから聴きますねと続けるしかない。
いきなりクラフトワークをサンプリングした"ツール・ド・マース"。一転して重いビートにぷよぷよのシンセサイザーが絡む"ムーン・ロックス"。モンド直球の"インサイド・ザ・カプセル"、宇宙時代のポーティスヘッドみたいな"ビトゥイーン・ザ・ウェイク・アンド・ザ・スリープ"......果たして彼らはヒップホップ界のジョー・ミークになれるかなー。
三田 格