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山本精一

山本精一

ラプソディア

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松村正人   Nov 07,2011 UP
E王

 『プレイグラウンド』は「うた」にピントをあわせたアルバムだったので音は歌のあとに隊列を組んでつづくように思われた。それは歌を聴かせる音楽であるフォークが多くのひとの気を惹いていたゼロ年代最後の年に出した、山本精一らしい作品であるとも『プレイグラウンド』は思わせたが、淡々と歌いながら、その背後に無数の音楽を背負ってもいた。歌詞には虚無の裂け目があったが、歌の前に音楽の仕掛けは霞んでしまった。おかしないい方だが、歌を聴くのに懸命で音楽が置き去りになっていた。羅針盤が封印されたいま、山本精一の歌は過去になったものとばかり思っていた。なぜだかわからないが。それが不意に現れたものだから歌と同時に音楽全体を聴いていたにもかかわらず、呆然と聴き惚れてしまった。山本精一は巨大な歌を歌うひとだが、その巨大さを支える音楽の細部には巨大さと同じものが横たわっている。聴くほうはワンセンテンスでそれをいいあてられないから、結局は「うた」と「ポップス」が合体した「うたもの」ということで話はまとまりかけるのだが、かつてその代表格だった羅針盤からの時間の隔たりを感じさせる変化が『プレイグラウンド』にはたしかにあった。円熟を感じさせるいっぽうで、2010年代の新しい歌としてのさまざまな可能性が歌の底にうごめいている。

 無数の方向性からひとつを選び1枚の作品に仕立てのが『ラプソディア』だろう。このアルバムは『プレイグラウンド』から1年経っている。今回も山本精一(ヴォーカル/ギター/ベース)と千住宗臣(ドラムス/パーカッション)のデュオ体制のシンプルな「うたもの」なのだけど、その顔つきは前作とはまるでちがう。前のアルバムはどちらかといえばフォークだったが、今回はロックである。しかも豪快に歪んだ山本精一のギターを久しぶりに堪能できる。『プレイグラウンド』にもそういった曲はあるにはあったが、ギターはややスパイス的に立場だった。ここではそれがより大ぶりな存在感をみせることで、全体がバンド的な音作りにシフトしている。千住宗臣との掛け合いは一体感を増し、セッション的なグルーヴを終始保持しているが、ギターとドラムを接着するベースの役割は前作以上に重要なものになっている。山本精一は前作のベース演奏をピーター・ペレットのイングランズ・グローリーを引き合いに出して説明したが、『ラプソディア』のベースはパンク的な硬質なものではなく、ファットかつ(やや)ファンキーである。だけでなく、手探りで音をたぐりよせる不安定さが合奏に絶妙なテンションを付加している。"ラプソディア"のハネ具合やヌキ具合はロビー・シェイクスピアもコリン・ムールディングにもマネできない。そう書いて思ったが、米国式フォーク・ロックあるいはサイケデリック・ロックの遺伝子ともに、ブリティッシュ・トラッド、UKロックの影がさすことでこのアルバムの立体感はより強くなっている。この回収不能感は伝統が属性と即断される現在においてはやはり異能のことといわねばならない。もっとも山本精一はただ孤高として別の山のように屹立するのではなく、彼の音楽には次の音楽を示唆するものが潜まされてもいる。これと較べるべきは、山本と同じくヴォーカルとギターとベースとを担当した坂本慎太郎のソロ『幻とのつきあい方』であり、両者の描き出す索漠とした風景は音楽を、音楽を奏でる主体に拮抗させることで歌をつくってきたここ数年から、主体はどうあがいても音に匹敵できないという諦念含みの分裂を前提に置きながら、その間のミゾから目を逸らさないことで、ポップ・ミュージックの折り返し地点を示すものかもしれない。というのは大袈裟だろうか。

松村正人