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Various Artists

Various Artists

Crue-L Cafe

Crue-L Records

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野田 努   Mar 27,2012 UP

 今日の日本のDJカルチャーがたまに気の毒に思えるのは、大バコ中バコの多さと外国人DJの来日が多すぎるってところだ。それに準じてクラバー人口やDJの数が増加しているなら、産業的には成長していると言える。ただ、外国人DJの影に若い日本人DJの存在が霞んでしまっているきらいもあるし、円高の影響もあるのだろうが、毎週末のラインナップのあまりの豪華さに、バランスは取れているのだろうかとたまに心配になる。
 その点、僕らの時代は恵まれていた。小バコ中心だったからリスクも少なく、シーンの行方は日本人のDJとオーディエンスにかかっていた。入場料も安かったし、年功序列もなかったし、わりと簡単にシーンの人たちと知り合いになれた。自由競争が激化する前だったので、経済的にはしょぼかったけれど、DIYだったし、仲間意識が強かったし、精神的にはまあ、とにかくお気楽だったわけだ。
 外国人DJにはたしかに腕の良い連中がいる。新しいトレンドもほぼ海を渡ってやって来る。が、誇るべきシーンが自分たちになければ、そのいち部であることに強いアイデンティティなど持てやしないことも事実。およそ半世紀にもわたるUKのDJカルチャーの逞しさも、頻繁にアメリカ人やドイツ人のDJを招聘しているから生まれたわけではない。瀧見憲司はそのことを意識している少数派のひとりだ。

 〈クルーエル〉は、今日でこそクラブ・ミュージックのレーベルとして認知されているが、20年前は渋谷系と括られたジャンルの震源地のひとつで、東京のインディ・シーンの中心的なレーベルだった。カヒミ・カリィのリリースでも知られ、コーネリアスとは音楽的な同盟関係にあった。要するに瀧見憲司は今日インディ・ダンスと括られるサブジャンルの草分け的な人物で、日本ではいまだ人気のあるネオアコと呼ばれるサブジャンルの火付け役でもある。最近は嬉しいことに若い読者も増えているので、いちおう、説明しておきましょう。日本で〈クリエーション〉にもっとも近いレーベルを探すなら〈クルーエル〉かもしれない。音楽性こそ違えど、純然たるインディ・レーベルが大ヒットを飛ばしたばかりではなく、影響力も発揮したという点では同じだ。

 本作『Crue-L Cafe』は、『Post Newnow』以来2年ぶりのコンピレーション・アルバム、とはいえ前作はリミックス・シリーズの『vol.ll』だったから、新曲を中心としたコンピレーションとなると2006年の『Crue-L Future』以来となる。アルバムには、昨年発表のトラック、これから12インチでリリース予定のトラックも収められている。
 言うまでもなく〈クルーエル〉は、「ごちゃ混ぜ」という意味においても、インディ・ダンスという意味においても、そのメロウな多幸感においても、バレアリックをコンセプトにしている。そして、12インチ・シングルのスリーヴをトロトロに溶けたキャラメルのようなデザインにしてから、その快楽路線をよりいっそう強めているように思える。今作『Crue-L Cafe』もその邁進の成果ではあるが、"カフェ"を名乗るだけあって家でのんびり聴くのにはもってこいの内容だ。

 オープナーは神田朋樹による"Ride a Watersmooth Silver Stallion"。ルーカス・サンタナを彷彿させるラテン的郷愁のアコースティック・ギターとエレクトロとの心憎い融合で、早速、レーベルの洒落たセンスを披露している。続いてビーイング・ボーリング(瀧見憲司+神田朋樹)による"Love House of Love"。70年代的なエロティシズムの再解釈、テンポを落とした官能的なディスコ・トラックが展開される。
 ディスコセッションの2年ぶりの新曲だという"Manitoba"は、えもいわれぬアンビエントを展開する。これはクラブ・サウンドによる、ほとんど極楽浄土の境地と言えよう。猫のあくびのように、曲の途中からはゆるいギターが響いている。新世代を代表する〈コズ・ミー・ペイン〉のザ・ビューティも、彼らに続かんとばかりに聴きごたえのあるチルアウトを打ち出している。
 それからクリスタル、UKのティム・デラックスとア・ノイジー・ノイズ、ハウス・マネキン......らによるダンス・トラックが続く。アルバムを出したばかりのタッカーがファンキーなダウンテンポで惹きつけながらエディ・Cの温かいディスコへと繋げる。すっかり上機嫌になったところで、フランキー&神田朋樹による非凡なる穏やかさが広がる。クローザーは、クルーエル・グランド・オーケストラの"Barbarella"。60年代末のエロティックなSF映画として(そしていかにも渋谷系的な)『バーバレラ』のカヴァーだが、この曲のハウスのグルーヴからは太陽のにおいすら漂う。

 ここ1~2年の欧米のクラブ・ミュージックのモードで言えば、ダブステップ/ミニマル/フットワーク/デトロイト、あるいはフライング・ロータス以降やチルウェイヴ以降がもうほとんど一緒になって騒いでいるような感じが僕には見受けられるけれど、そこにいっさいくみしていないことも、まあ〈クルーエル〉らしいと言えばらしい。このレーベルは昔からそうした欧米のトレンドを敢えて避けてるところがあるし、自分たちのセンス、方向性に揺るぎはないと思う。たしかに、どんなにサイケデリックになったとしてもエレガントさを失わない、それはこのレーベルの最大の魅力である。僕と同世代の人間は思い出して欲しい。1995年のクルーエル・グランド・オーケストラの最初の1枚にはこう記されている。「何がリアルやねん!」「やってられない、でもやるぜ!」「とりあえず飲みますか」......連中ときたら、まったく変わっちゃいない(笑)。

PS:とはいえ、いま日本から面白い作り手が出ているのも事実で、しかしそれをフランスのレーベルにフックアップされるのもなぁ......ちょっと悔しい。

野田 努