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野田 努   Nov 16,2012 UP
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E王

 2012年を振り返ったときに、「ハウス・ミュージックへの回帰」というのがひとつあると思った。メインストリームではザ・XXの『コエグジスト』がそうだったし、大物プロデューサーとなったフィリップ・ズダールの手がけたカインドネスにもそのセンスはうかがえる。アンダーグラウンドではジョイ・オービソンとボディカが新世代の感覚でハウスの再解釈を試みている。もうすぐ〈ニンジャ・チューン〉からリリースされるフォルティDLの3枚目のアルバムにも、UKガラージを通過したハウス感覚が良く出ている。また、LAの〈ノット・ノット・ファン〉周辺は相変わらず90年代のハウスにハマっているようだし......。

 UKガラージがハウスへと回帰することに僕は最初は複雑な気持ちを抱いていたが、考えてみれば好ましく思えるフシもある。ハウス・ミュージックは周知のようにゲイ文化から生まれていることもあって、色気、エロティシズム、女性的感性とファンクが混在している。ミニマル・テクノの淡々とした陶酔、UKガラージのごついのり、レイヴの狂騒とも違っている。気品があって、しかし実はもっとも背徳的に狂っているのがハウスだったりする(笑)。

 ジェイミーXXやジョイ・オービソン、フォルティDLらの作るハウスはすごく良いと思う。DJミックスを目的としただけの機能的なハウスやDJ御用達のエディットものよりも、ずっと生き生きとしている。UKガラージを通過した若さが独創的な解釈を生んでいるのだろう。ただ、彼ら新世代のハウス・ミュージックにおいては、いまのところ"ストリングス・オブ・ライフ"や"キャン・ユー・フィール・イット"のような、絶望の深みのなかでさえ、誰も彼も幸せにしてしまう曲は生まれていないんじゃないかと思う。"ストリングス・オブ・ライフ"や"キャン・ユー・フィール・イット"のような曲は、夜明け前のアナーキーな時間帯に平和的な共有意識を与える曲でもある。
 無理にこじつけるつもりはないのだが、ことに昨年暴動のあったUKからは、いつ壊れてもおかしくないような緊張感をアンダーグラウンド・ミュージックから聴き取ることができる。ハウス的感性ないしはアンビエント的な感性が意識的にか無意識的にか求められているようにも思えるのだ。

 ラリー・ハードのミスター・フィンガーズ名義の『アムネジア』は1988年にUKの〈ジャック・トラックス〉からリリースされたディープ・ハウス/アシッド・ハウス/アンビエント・ハウスの古典中の古典だが、実は長いあいだブートが出回っていただけだった。今回が23年ぶりの正式な再発となる。
 "キャン・ユー・フィール・イット"ではじまるこのアルバムには、"ビヨンド・ザ・クラウド"のようなディープ・ハウス、そしてアシッド・ハウスのクラシックが並んでいる──"ウォッシング・マシン"、"スターズ"、"ミステリー・オブ・ラヴ"、あるいはどうしようもない名曲"ザ・ジュース"など、80年代のラリー・ハードのベストが詰まっている。

 "キャン・ユー・フィール・イット"はミュージック・インスティテュートのアンセムとなって、"スターズ"はのちにカール・クレイグにサンプリングされてもいる。デトロイトのデリック・メイ系列の連中が目標にしていたのがラリー・ハードだった。それからおよそ25年、結局、時代は『アムネジア』の引退を許さなかったようである。

野田 努