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Opinions

新しい夜へ

──『大阪の夜にはダンスがない』から2年

木津毅 May 30,2014 UP

 この間はアンディ・ストットとデムダイク・ステアのライヴを観に、西心斎橋のアメリカ村に行ってきた。大阪でのクラブ摘発が大々的にはじまった地域だ。そこには〈モダン・ラヴ〉のダークな美に身体を揺らすひとたちがいた。来月は同じ場所にトッド・テリエのライヴを観にいくのを楽しみにしている。……大阪の夜が、少しずつ、また賑わいはじめている。僕が「大阪の夜にはダンスがない」という記事を書いたのがちょうど2年前ごろのこと。法律はまだ変わっていない、が、何かはたしかに変わったのだ。

 いま思い返しても、2012年4月の〈NOON〉摘発はとりわけショッキングな出来事だった。大阪近辺に住む音楽ファンからすれば、そこが日夜おもしろい音楽を鳴らしている場所であることは周知だったからだ。ただ反射的に理不尽だと思えた摘発に対する怒りに任せて「ele-kingで何か記事が作れないだろうか」と野田努にメールした時点では、自分がその記事を書くとも思っていなかった。その後、摘発の事情についていろいろなひとに話を訊いたときも、「自分は法律のことは詳しくないし、現場の人間でもないし……」という声をたくさん聞いた。が、僕も当然法律の専門家ではないし、現場の人間でもなかった。どうしたものか……少し考えて、それでも文章を書いたのは、クラブという場所でおもしろい体験をしたことのある人間のひとりとして、そのとき大阪の街で起こっていたことの不気味さについて素朴に述べてみることからはじめられないかと思ったからだった。

 その約1年半後、僕が映画ページを担当している関西のファッション誌『カジカジ』の取材でドキュメンタリー映画『SAVE THE CLUB NOON』の宮本杜朗監督とプロデューサーである佐伯慎亮カメラマンに話を訊いたとき、それと近いことを話してくださった。「ただ、〈NOON〉という場所を知っている人間のひとりとして、『何かできへんか』って」。同作にはたくさんのミュージシャンがインタヴューとライヴ演奏で出演しており、それぞれの意見を真剣に語る姿がその場所に「集合」していた。僕は映画を観て、ああ、風営法によるクラブ摘発という問題がそれまで会ったことのない人間たちを引き会わせたんだと思った。僕は佐伯カメラマンとちょうど〈NOON〉が摘発された頃にぜんぜん別の仕事をしていて、「いやー、あれ、どうなるんでしょうねえ」と言っていたが、その1年半後、「いやー、こういう形でまたお会いするとは、ですねえ」などと言い合うこととなった(佐伯カメラマンの写真は紙エレキングvol.6の風営法の記事においても掲載されている)。多くのひとがそれぞれのやり方で、それぞれの意見を表明することとなった。Shing02は『Bustin'』というショート・ムーヴィーを撮り、踊ってばかりの国は「踊ってはいけない/そんな法律があるよ」と歌った。たくさんの議論が生まれたし、たくさんの交流が起こった。アメリカ村のクラブが摘発されたとき、新聞など多くのメディアがクラブに対して否定的なトーンだったのを僕はいまでもはっきりと覚えている。しかし、この2年でクラブ・カルチャーはそれまでよりも広い場所で見直されることとなったように思える。

 摘発があってよかったと言いたいわけではもちろんない。思い出のあるクラブや小さなハコがどんどんなくなっていったことはまぎれもない事実だからだ(その割にいわゆる「チャラ箱」は蔓延っているらしいし)。が、僕たちも多くを学んだ。少なからぬクラブが地域コミュニティから疎外されていた事実や、やはり近隣への騒音問題などがあったことをあらためて思い知ったし、クラブの営業が法律に対してきわめてグレーなままであったこともわかった。クラブ・カルチャーの本質とは何か、深夜に踊るために集まることの意義や魅力をいまいちど考え直さずにはいられなかった。あるいは25時までのパーティを楽しむことも覚えたし、着実に小さなイヴェントを成功させてきたSeihoは風営法時代の大阪の街が生んだ新世代のスターとなった。

 たくさんのことが変わった、が、まだ法律は変わっていない。多くのメディアでも大々的に報じられた〈NOON〉裁判の無罪判決には、僕はひとまずほっとしたというところだ。でないと先には進めないだろう。ひとつはっきりと言えるのは、風営法にただ中指を立てる時期はもう終わったということだ。ダンス文化推進議連による風営法改正案は今月中に国会に提出されるということだが、ここからは地道かつアクチュアルな展開が求められてくるだろう。「法律に詳しいひとたちがすることだから……」ではなく、ともに考えることを僕たちは経験してきたはずで、いまこそその続きが求められている。それに昨年末の紙『ele-king』における座談会でもまさに議題となったが、法律が改正されたからといってクラブ・カルチャーが絶対に盛り上がる保証なんてない。しかし、だからこそ新しいアイデアのチャンスだし、そこで楽しめることもあるはずである。
 ナイーヴな言い方かもしれない。が、この2年間、それでもいろいろな場所で音楽は鳴り続けていたし、ひとは集まっていた。次は、それをどうやって繋いでいくかだろう。僕は2年前、大阪の夜は決定的にある終わりを迎えたのだと本当に思った。けれどもいまは、また新しい夜が生み出されようとしているのだとたしかに感じられるのだ。

Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

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