Home > Columns > Politics > 反緊縮候補たちの参院選
反緊縮候補たちの参院選が終わった。
選挙結果と今後の反緊縮ポピュリズムの動きを考える。
参院選が終わった。選挙前の予測どおり大勢に影響はなかったと言えるだろう。自民党の議席は微減し、立憲民主党は議席数を倍増させた。しかし、この立憲の躍進に見える結果も、実情は比例票を約300万票も減らす形で、16年の参院選前に民進党の保有していた議席が立憲と国民民主党とに割り振られたかっこうになっただけとも言える。依然として参議院での過半数は与党に抑えられ、「ねじれ国会」を作るには至らなかった。(https://www.tokyo-np.co.jp/article/politics/list/201907/CK2019072202000321.html)
メディアから「台風の目」とも称された反緊縮・れいわ新選組は、山本太郎代表はどうなっただろう。れいわ新選組は228万票を獲得し政党要件を獲得、山本氏自身も99万もの比例票を獲得したが、新設された特定枠で擁立した重度障がい者の2人を優先的に当選させ、3議席目を得られなかったため落選した。01年以降の現行選挙制度で落選者の最高得票も更新した形となり話題を呼んだが、 山本氏は自分の保身のための参議院での1議席など、ハナから捨てる覚悟でいたんじゃないかとも感じる。彼が次期衆院選について、「政権選択なので、立候補者100人ぐらいの規模でやらなければいけない」と発している(https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20190722-00000009-mai-pol)通り、「本丸」はあくまで政権奪取であり、現在は「一の門」である参議院の門を突破したに過ぎない。実際に、欧州の反緊縮ポピュリズム政党は、結党からわずか数年で政権の座に手をかけるほどに急速に巨大化していて、れいわに限っても非現実的な目標と言い切れないのだ。
選挙結果を伝える各テレビ報道でも、リベラル系メディアはこぞって当選した重度障がい者の舩後靖彦氏と木村英子氏を特集した。元郵政・金融大臣の亀井静香をして「戦術家」と言わしめる山本氏の作戦勝ちだろう。山本氏が「障がいのある政治家を国会に送り込むことが、障害に関連する政策を進めるための効果的な一歩になる」とロイター・国際版に語った(https://www.reuters.com/article/us-japan-election-disabled/japan-disabled-challenge-stigma-barriers-to-run-for-upper-house-seat-idUSKCN1UC0ZL)ように、この世界初の試みは、国会のバリアフリー化のみならず、社会福祉分野への財政拡大に繋がる経済政策ともなりえる。人口の8%にも及ぶ身体的および知的障がい者の代表の誕生が、山本氏の掲げる「生産性で人間の価値をはからせない世界」の構築にどう影響を与えるか、今後の活躍が期待される。
さて、今参院選では不名誉な記録も作られた。投票率が48.8%で戦後2番目の低さになった(https://www3.nhk.or.jp/news/html/20190722/k10012002661000.html)というのだ。マスコミ報道によると「関心がなく盛り上がりに欠ける選挙」だったそうで、「与党支持に大きな広がりはみられないものの、低投票率に支えられた」そうだ。しかしこの低投票率と無関心、与党の安定を支えたのは、「大本営発表」とも揶揄されるマスコミ自身であることは言うまでもない。(https://www.asahi.com/articles/DA3S14102991.html)
「スポンサーであるグローバル企業や大企業の顔色を伺い、忖度をすることによるスピンコントロールが行われている」とは、投開票日の山本太郎氏の言だ。筆者の知る限り、これほど国民対マスコミの対立が表面化した選挙は他に類を見ない。既得権者たるマスコミは、ネットユーザーから「上級国民」と疎まれるが、この構造も欧州のポピュリスト政党をめぐる状況とよく似ている。投開票日における、れいわ新選組の候補者たちによるマスコミ批判(https://www.youtube.com/watch?v=5Fr8h28yPYE)が大変興味深かったので拾ってみたい。
新聞やテレビなどの主流メディアが、れいわ新選組を扱わない状況について、マスコミの記者から質問された山本氏は「メディアもガチンコで喧嘩してほしい。明らかにおかしな報道が続いている。言葉を選ばずに言うと、“どこまで自民党のお尻を舐めるんだろう”みたいな。争点がまったく見えない、それだけを観ていれば自民党に入れてしまうような報道」と表現し、れいわ候補の安冨歩氏(東京大学教授)も「インターネットの力がなかったられいわは2議席取れなかった。メディアの皆さんの存在基盤がまもなく失われることを認識してほしい」と続いた。
同党候補で、財政・金融システムに詳しい大西つねき氏(元J.P.モルガン銀行)は「メディアのみなさんは、税収で借金を返済したらどうなるかわかりますか? それを理解していない。私たちが消費税ゼロと言ったときにはちゃんとロジックがある。皆さんの仕事は真実を知って暴くことだが、その根本的な能力が足りていない。なぜアメリカからMMTのようなものが出てきたのか皆さん理解してないでしょう? それでよく報道機関だといえますよね。お金の発行の仕組みを知ることが日本を、世界を良くすることにつながる。レクチャーするのでぜひ取材に来てください」と発破をかけた。
同じく候補で、コンビニのブラック問題で闘う三井よしふみ氏は、「コンビニ問題を、長年マスコミの人に話していますが、現場ではわかったと言いながら、なんで本社に帰ったら話が消えるんですか?皆さんはジャーナリストになった時には真実を伝えたいと思ってこの職業を選んでないですか?いつからサラリーマンになっちゃったんですか。コンビニの本部はマスコミなんかいくらでも操作できると思っている、ナメられてるのは貴方たちだ。俺たちと世界を変えようじゃないか」と奮起を促した。
筆者も現場で一部始終を見守っていたが、彼らが本気で政権を取り、このぶっ壊れた日本を変えようとガチンコでケンカをしかけているのだと再認識した次第だ。こうして「天才!たろうの元気が出る選挙・シーズン1」は幕を閉じることになったが、いかに批判者が冷笑し、誹謗中傷を加えてもれいわ新選組の躍進は止まりそうにない。MMTのファウンダーの1人、L・ランダル・レイの言葉を引用する。「現代貨幣理論(MMT)は、3つの段階を経るだろう。まず、馬鹿にされる。 第二に、激しく反対される。 第三に、それが自明のものだと認められる。 MMTの教義の多くは、すでに第三段階に入っている。元批評家達は現在、それらを”最初から知っていた”と主張している」。MMTに対する評価に限らず、れいわの評価も同じ道を歩むことが予想される。
さて、他野党の反緊縮候補たちはどうなっただろう。反緊縮候補を認定・推薦する団体、薔薇マーク・キャンペーンによると、認定した反緊縮候補の50人中10人が当選(https://rosemark.jp/2019/07/22/02-19/)した。その中でも注目したいのが立憲民主党の石垣のりこ氏だ。石垣氏は野党統一候補として挑み、自民現職の愛知治郎氏との接戦を制し、1人区で立憲の公認唯一の当選者となった。選挙戦中も党議拘束になかば反する形で「消費税ゼロ」の主張を発し続けたが、皮肉にも、国民生活の底上げを訴えるその声が有権者に届くかっこうとなり、当選を成し遂げたといえるだろう。山本太郎氏と行ったジョイント街宣では、仙台駅西口を1000人以上もの聴衆で埋め尽くした。「1枚目の投票用紙(選挙区)には石垣のりこと、2枚目の投票用紙に(比例)は山本太郎とお書きください」と訴えた石垣氏、山本氏双方の演説が、野党共闘のうねりをより大きく共振させた。従前の参院・衆院選の結果から野党が強い土壌であることは知られるところだが、経済評論家の池戸万作氏は「野党が東北の4県を制したのはこの街宣の影響が大きい」と評している。
前回コラムで、筆者が注目していた社民党の相原りんこ候補は、激戦区・神奈川で健闘したが、惜しくも敗れた。選挙中もブレることなく財政出動、消費減税を訴え続ける姿勢は、多くの反緊縮派から賞賛を得たが、社民党の脆弱な組織力も背景に、望みどおりの選挙戦を闘うことができなかった印象だ。選挙後、筆者がヒアリングしたところ、本人は反緊縮活動を行うため新たな道を歩むということだったが、多くのネット市民からは、1年以内に行われると予想される衆院選には、れいわからの出馬を望まれているようだ。
薔薇マークを認定された候補も、その認定自体が当選に結びついたとは言えず、まだまだ反緊縮が市民権を得るような状況には至ってはいない。しかし反緊縮の波は確実に拡がっている。今年の初めから、立命館大学教授・松尾匡氏の薔薇マークをはじめ、京都大学大学院教授・藤井聡氏の主宰する「令和の政策ピボット」、山本太郎氏のれいわ新選組などの反緊縮グループが次々に立ち上がり、2019年は日本での反緊縮元年といえる年になった。年初からわずかながらではあるけど、メディア報道も増えていった。まさか、MMTerのランダル・レイ教授やステファニー・ケルトン教授が、テレビのゴールデンタイムで特集されようなど、つい半年前まで想像さえしていなかった状況だ。イタリアの反緊縮ポピュリズム政党・五つ星は、結党からわずか9年で政権の座についたが、このトレンドが止まることはないだろう。次の衆院選が勝負となる。
今回、反緊縮派候補やれいわの躍進を支えたのは、大衆だ。普段政治に興味のなかった層が初めて自発的に投票したという話も聞く。しかし、日本では、民主主義とは投票行動のことであり、国会での多数決のことだと勘違いしている人たちも多い。首相自らが「憲法は国の理想を語ったもの」だと、誤った認識にもとづく発言を重ね、テレビはそれを無批判に垂れ流すような国だ。
今後、消費増税で消費が落ち込み、オリンピック特需も終了、さらには外国人労働者の流入や働き方改革により、労働者全体の賃金が引き下げられるような事態にならないとは限らない。まだまだ状況を楽観視することなどできないが、掃き溜めにえんどう豆の芽が顔を出し、沼地にも蓮の葉が育とうとしていることに希望を見出したい。