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打楽器逍遙

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3 『クロス』

増村和彦 Oct 23,2017 UP

 「大旨の記憶が、(たった昨日のそれですら)一種の錯覚として保存されているように、われわれの好みとは、めいめいが幼少期から自己の上に築いてきた偏見そのものに他ならないのである。」と言ったのは、たしか稲垣足穂だが、ひょんなことから偏見を形成するそのものに飛び込める機会がやって来た。10月8日はちみつぱいのライブにドラムで参加した。

 9月28日朝起きて、森は生きている時代のA&Rである柴崎さんを通じて、夏秋文尚氏の代役での参加要請メールが入っているのを見た時は驚いた。リハが10月6日、本番が8日との旨。大分は佐伯で秋の植え付けをしていた自分は5日には東京入りしないといけないし、8日は大分でのジャコ・パストリアスのトリビュートライブにパーカッションで参加予定とあり、複雑な気分のまま、畑に向った。7月に大分市にあるアトホールでのあがた森魚さんのライブに足穂の話をしたい一心で行ってから、iPhoneを通してだけど、タルホロジー仲間として交流を持たせていただいていたこと、2009年大学を卒業したばかりのフリーター真っ盛りの頃『はちみつぱいボックス』を無理して衝動買いしたことが、伏線として思えなくもないような気分になっていた。柴崎さんの「一生の思い出作りにいかがでしょうか」という絶妙なコメントも相まって、方々に断りを入れる心の準備は、畑にて整いつつあった。


『はちみつぱいボックス』はじめ影響を受けたはちみつぱいグッズと、演奏後もらった全員のサイン

 思えば、『はちみつぱいボックス』は、はちみつぱいの印象を一気に変えた。もちろん『センチメンタル通り』も好きで聴いていたが、「日本のザ・バンド」と言われていたという伝説には多少の違和感がなくはなかった。それが『ボックス』を聴いて一変、ザ・バンドどころかデッド、オールマン、時にはクリムゾンまで感じるし、そのどれとも違う独特のタメとうねりが同居するグルーヴ(と、ここでは言ってしまって憚らない)が聴こえて来た時は、日本にもこういうバンドがいたのかと勇気づけられたものです。リハのあと、鈴木慶一さん、本多信介さん、和田博巳さんと、『ゆでめん』めいた蕎麦屋で飲ませてもらった際、その思いを伝えたら、本多さんが「だから、それは日本でしかできないんだよ」と言っていたのが印象的だった。

 『はちみつぱいボックス』のディスク1の1トラック目は“チューニング”である。そのまま2トラック目“こうもりの飛ぶ頃”に入っていく。粋な書き方だなぁと面白く思っていたのだけど、リハでその意味を知った。緊張の中挨拶を済ませてから、チューニングが始まったと思ったら、前方の駒沢裕城さんがこっちを向いて「適当に入って」と言って、本当に“こうもり”が始まった。武川雅寛さんのバイオリンが飛び交い、時には岡田徹さんのソロまで飛び出す。そのまま“塀の上で”と、渡辺勝さんが歌う“僕の倖せ”まで一気に行って、休憩。特に説明もないまま、それを3周してはちみつぱいのリハはあっけなく終了。唯一言われたことは、鈴木慶一さんに「“こうもり”からそのまま“塀の上で”に入るから、インプロのままサビまでシンバルで歌を掻き消してくれ」ということ。彼らからしたら赤子のような僕が、名曲“塀の上で”の「歌」を1メロ、2メロ、サビと掻き消す、しかもベルウッド45周年という場において、というのは、僕自身一ファンということも加わって、酷な話だと思ったが、やるしかない。蕎麦屋では、慶一さんに「“こうもり”は、ダラス・テイラーにならないで欲しい。はちみつぱいでは俺だけ結構プログレ。ビル・ブラッフォード好きならそれで行って欲しい。」、本多さんには「デッドでも、かしぶちでもなくていい。自由にやれ。」というようなことを言われた。かしぶちさんの息子でもあるドラマー太久磨さんも一緒に飲んでいて、ボーリングのピンのごとく並んだビール瓶と共に不思議な若手の結束が生まれていた。二人とも30になってはいるのだが。斯くして、“こうもり”ではブラッフォード、“塀の上で”のサビまでは、ポール・モチアンになることを決めた。このコラムの第一回で、パーカッションからドラムに孵化して自分のビートが欲しかったというようなことを書いたが、ここ1,2年は案外自分がうるさくて失敗することもあったから、偉人のように叩けるはずはなくとも、何かを意識するくらいがちょうどいいという感覚がなくはない。どうせ顔を出すときは出す…。


演奏前楽屋:左から橿渕太久磨(Per,Dr)、武川雅寛(Vn,Trp)、増村、鈴木慶一(Gt,Pf,Vo)、駒沢裕城(Pedale S Gt)、岡田徹(Key,Acc)、あがた森魚(Vo,Gt,Pf)、和田博己(B)、渡辺勝(Gt,Pf,Vo)、本多信介(Gt)

 はちみつぱいのリハが終わった頃、あがたさんが到着。こんなに早い再会が共演という形というのは何だが申し訳ない気持ちさえした。あがたさんも驚いていました。こちらは、“赤色エレジー”から“大道芸人”のイントロを挟んで“べいびぃらんどばびろん”まで、繋ぎの確認以外は、一周であっさり終わり。
 そして、2日後の本番。自己反省もあるし、厳しいお言葉もあると思うが、そんなことより、僕はその時「冷静にぶっこむ」だけだった。はちみつぱいの皆さんのリラックスしているのに遠くまで飛んでいく演奏には素直に感銘を受けた。かなり影響を受けた林立夫氏のドラミングをリハから真後ろで体感できたことも。それらは、岡田拓郎はじめ、同世代でやっていくことの応援になる。偏見のコレクションに、現実がクロスするという貴重な体験に感謝。


東京滞在時よくいる不忍の池

Profile

増村和彦 増村和彦/Kazuhiko Masumura
大分県佐伯市出身。ドラマー、パーカッショニスト。2012年からバンド「森は生きている」のメンバーとしてドラムと作詞を担当。アルバム『森は生きている』、『グッド・ナイト』をリリース。バンド解散後は、GONNO x MASUMURA、Okada Takuro、ツチヤニボンド、ダニエル・クオン、水面トリオ、影山朋子など様々なレコーディングやライブに参加。

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