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Forgotten Punk

Forgotten Punk

#7:DIY主義者たちの小さな革命

野田 努 Sep 03,2010 UP

 ほんのわずかだが、この1~2年で変化を感じている。例を挙げてみよう。

 Julian Lynch - Mare (Olde English Spelling Bee)
 Donovan Quinn & The 13th Month - Your Wicked Man (Soft Abuse)
 High Wolf - Ascension (Not Not Fun Records)
 Candy Claws - Hidden Lands (Twosyllable Records)
 The Samps - The Samps (Mexican Summer)

 以上はこの8月に買ったレコードのいちぶで、音楽性はそれぞれフォーク・ロック、チルウェイヴ、エクスペリメンタル/アンビエント、サイケデリック......バラバラだが、この5枚には興味深い共通点がある。
 1. すべてが12インチのヴァイナルであること。2. すべてがUSインディの比較的若い世代であること。3. 〈ノット・ノット・ファン〉を除く4枚のレコードにはmp3の無料ダウンロードのコードカードが挿入されていること。〈ノット・ノット・ファン〉はずいぶん前からレーベルとしてCDのリリースをしていない。また、いま人気の〈メキシカン・サマー〉にいったては最初にヴァイナルのみを限定リリースし、CDはその数ヶ月後になってからリリースする。いずれにせよ、フィジカル・メディアはヴァイナルであることが優先されている。彼ら・彼女らにおいてCDは......いわば格下で妥協案、ま、そんな風に思える。
 
 渋谷のHMVが閉店して、いよいよCDが売れなくなっているとTVのニュース番組で特集されたらしい。数年前に、音楽関係の専門学校の講師をしている知り合いが生徒に訊いたところ、金を出してCDを買っているのはクラスの数人ほどで、多くが違法ダウンロードで音楽を聴いていたという。オバマが大統領に当選したときに、アメリカの音楽産業の上層部は違法ダウンロードの問題の解決を音楽好きな大統領に期待している。イギリスでは昨年、エルトン・ジョンやリリー・アレンが違法ダウンロードの取り締まりを支持する団体を結成して、話題になった。リリー・アレンは「ファイル共有は災害」とまで言っている。彼・彼女らは音楽文化の産業としての未来をシリアスに案じているのである。
 
 こうした問題がより深刻なのは、それが違法だろうが合法だろうが、こと若い世代においてCDよりもダウンロードのほうがいまやスマートだからだろう。6~7年以上前の話だが、remixという雑誌の編集部にいた頃、新しく入ってきたKという大学を出たばかりの男は、自分のiPodに実にたくさんの、いろいろなジャンルの音源を大量に詰め込んで(彼の名誉のために言うと、もちろん合法の音源だが)、ちょっと聴いてはまた他の曲を聴いたりとか、そんなことを何度も何度も繰り返しているのを目の当たりにして、僕にはそれが"新しい聴き方"に思えたものだった。実際の話、それはよりスマートでよりモダンな、より"格好いい聴き方"なのだ。レコード会社の方々には頭の痛い話だが、若い世代が、携帯オーディオのなかの自分のデータを蒐集し、編集しながら聴いている姿を見ていると、「こうしてCDの存在価値はなくなっていくのか」と納得する。〈マルチネ・レコーズ〉の「MP3 Klilled the CD Star?」という問いかけは、ある意味真実とも言える。
 
 mp3という圧縮音声ファイルフォーマットには関しても諸説がある。もっとも頻繁に議論されるのは音質の問題だが、これに関しては他に譲ろう。僕はmp3の使用者のひとりで否定者ではないが、さすがにiPhoneやiPodをDJミキサーにぶち込んだりはしないし、家ではレコードかCDで聴く。
 先日のWIREで知り合った20歳の青年の話によれば、彼の世代のほとんどはYouTubeで満足してしまうそうで、何故なら彼ら・彼女らは"音"を聴いているのではなく"言葉"を聴いているからだという。これは"音"を楽しむ行為とはまた別の話になってくる。
 

 音楽に限らずだが、映画でも何でも、デジタルに関する問題のひとつは、それがネット上にアップできる点にある。それは諸刃の剣だ。より民主的にもなりうるが、同時に違法ダウンロードの氾濫も可能にしている。レディオヘッドが『イン・レインボウズ』でこの問題に立ち向かったとき、彼らはリスナーに音楽の値段を決めさせた。問題提起としては面白かったが、スーパー・バンドの高慢なやり方とも思える。名前が大きくなければできないし、違法ダウンロードは小さなレーベルにとって死活問題だ。ましてやデトロイトのように、ヴァイナルが地域産業(カッティング技師、プレス工場等々)として成り立っている場所にとってはよりゆゆしき問題である。ムーディーマンは、2007年に「テクノロジー・ストール・マイ・ヴァイナル」というタイトルの12インチ・シングルを発表しても言い足りなかった。ヴァイナル主義者で有名なこのハウス・プロデューサーは、2009年の『アナザ・ブラック・サンデー』のインナーにおいてさらに毒づいている。「お前が俺の音楽をダウンロードして悦に入っているあいだ、お前のフリーキーな彼女は俺の12インチをプレイしている」と記し、そのメッセージの背景にはヴァイナル・レコードを手にしながらセックスしている男女の写真を載せている。

 ところが......ムーディーマンの憤怒とは別のところで、ここ2~3年、USインディのシーンにおいてヴァイナルの量が増えつつある。それなりに経済力のあるインディ・レーベルはCDも出しているが、より小さなレーベルのDIY主義者たちはヴァイナル・オンリーに移行しつつある。OPNやエメラルズのようなアンビエント系はCDも出しているが、同時にヴァイナルも作っている。そしてヴァイナルと比例するように、カセットテープによる超限定リリースも増えている。今年に入ってからこの傾向はより顕著になっている。これをアメリカのジャーナリストは新たな「時代精神」の象徴として"テープ・シーン"と呼んでいる。いわば手作りの文化である。最近のジン文化の盛り上がりにも同じことが言えるかもしれない。小さな場面での出来事かもしれないが、少なくともデジタルの大衆性に対して疑問が突きつけられているのだ。
 
 デジタルに関する問題のもうひとつは、mp3の捉え方にある。冒頭で書いたように、USインディの彼ら・彼女らのヴァイナルのなかにはたいていmp3の無料ダウンロードのコードカードが封入されている。デジタルは配信用として考えるか、もしくはmp3程度の音質でよければ無料で提供する、そのレヴェルでの割り切りが彼ら・彼女らにはある。そして、例えばキャンディ・クロウズのコードカードに記された「Long live physical media」という言葉が表すように、若い彼ら・彼女らは、フィジカル・メディアが生き残る道はヴァイナルであると結論づけているようなのだ。それはダウンロードによってより多くの人に聴いてもらいたいというデジタル時代の楽天性からだいぶ軌道修正された、現代のDIY主義者の思いの表れでもある。
 
 さらにもうひとつ面白いのは、これらUSインディのDIY主義者たちの作品の収録時間が、45分以下になっている点である。CD全盛の90年代にもヴァイナル文化はあったが、それはなかば記念物としての、おおよそコレクターズ・アイテムとしての、CD作品のヴァイナル化に過ぎなかった。が、アメリカのヴァイナル主義者たちは収録時間も伝統的なLPフォーマットに戻している。
 
 それが違法ダウンロードに歯止めをかけるとは思えない(データ化してしまえば同じだし)。が、USインディにおけるDIY主義者たちのこうした動きは、インディペンデント・レーベルの将来に向けての重要な試みのように思える。ヴァイナル文化への強い憧憬が、現実を動かしただけのことかもしれない。あるいはダウンロードが一般化し過ぎたあまり、もはやそれはがスマートな聴き方ではなくなっているということなのかもしれない。まあ、どんな理由があるにせよ、USインディをメインに仕入れているレコード店からはCDが減りつつある。CDを作らないレーベルが増えている。小さなレーベルになればなるほど、こうした傾向は強まっている。デジタルを拒否しているのではない。CDというメディアによる作品の発表に価値を見出せなくなっているのだ。
 
 プレス工場を持たない日本でUSインディと同じ展開を期待するのは非現実的だろう。しかし、7インチ・シングルやカセットテープなら手の届く範疇にある。実際、日本でもここ数年で7インチ・シングルをリリースするレーベルが出てきている。デジタルと違ってより多くの人が自由にアクセスできるわけではない。枚数は限定され、それなりの労を要するだろう。が、求めている人のより深いところに届く可能性はこちらのほうがより高い......と僕は思うのだが。

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