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Post-Pandemic Memories

Post-Pandemic Memories

第1回 奪われた余韻と電動シェーバー

文:Mars89 Apr 06,2020 UP

“また、おまえの中では、立琴をひく者、歌を歌う者、笛を吹く者、ラッパを吹き鳴らす者の楽の音は全く聞かれず、あらゆる仕事の職人たちも全く姿を消し、また、ひきうすの音も、全く聞かれない” - ヨハネの黙示録18章22節

 雨が降っている。
 屋根を叩く雨の音がスピーカーから流れる Throbbing Gristle の乾いたサウンドに潤いを与えている。飯島直樹、Genesis P-Orridge、Gabi Delgado が立て続けにこの世を去り、私の精神からは渇きも潤いも少しだが確実に失われた。巨人たちの喪失に加え出演予定だったイベントは立て続けにキャンセルになり、先の見通しが全く立たたない中で私は日々精神をすり減らしていた。そんな中、ele-king編集部から連絡をもらい、このコラムを始めることにした。タイトルは宇川さんの言葉を借りて「Post-Pandemic Memories」に。月に一度ぐらいのペースで書くことを目指そうと思う。このコラムはパンデミック後の世界を生きる一人のミュージシャンの手記となるだろう。

 今日は2020年の4月1日。自主隔離に入ってからおおよそひと月が経過した。もともと自主隔離のような時間を好む性格だった私は日々の過ごし方について大して心配はしていなかったが、いまは友人の存在や、大音量の音楽に包まれるという事、そしてそれらが完備されたパーティーという場のことを思い出しては、それが日常から失われたことに憂鬱になる日々を送っている。なぜかウエルベックの『ある島の可能性』の世界が頭をよぎってそんな気分に拍車をかける。ダニエル並みに寝起きは悪い。ベッド脇に情調オルガンがあるリックが羨ましい。毎朝とりあえず NTS をつけて、ロンドンから届いた音楽が身体にベッドから離れるための推進力を与えるのを待っている。(Sade が流れてきた! 最高だ。起きよう!)そして巨大サウンドシステムでステッパーをかけてオーディエンスの体毛や眼球を震わせる白昼夢を見ながら周りに転がる雑多な仕事を片付けている。

 その白昼夢を再び現実のものとするべく、私は有志数名と共に #SaveOurSpace という運動を始めた。COVID-19 の感染拡大を防いでなるべく早く収束させるために全ての人が集まる場所を閉鎖し、クラスタとなるのを防ぐために助成金を求めるアクションだ。助成金がなければ閉鎖の先には経済的な死が待っていて、閉鎖しなければバッシングと感染リスクが待っている。助成金が出れば経済的な死も、感染リスクになることも防ぐことができ、多くの命が救われる。先週末にこれを始めてから5日。本当にめまぐるしい日々だった。結果的に30万人を超える署名が集まり、現在の文化施設が置かれている状態に危機感を感じている人が多数いることが可視化された。しかし、情報は伝播すればするほど子細な部分が失われ意図が伝わらなくなってしまう。メディアが切り取るという声をよく聞くが、それ以上に人は文章を読まない。案の定、広がりに比例して誹謗中傷の数も増えていった。
 安倍のことを呼び捨てにするような人がやってるからダメだ。というようなコメントも送られてきた。キリストもニーチェも呼び捨てにしている私が安倍を呼び捨てにしない理由はない。まあ私の地元では芋に敬称をつけるが。ここで Slowthai の “Nothing Great About Britain” の歌詞から次の一節を送ろうと思う。

“I'd tell you how it is, I will treat you with the utmost respect. Only if you respect me a little bit, Elizabeth, you cunt.”

 Elizabeth のところを適当な名前に変えて読んでもらいたい。私のこういうアグレッシブな性格が褒められたものではない事はわかっているし、#SaveOurSpace で動いている他の人たちの中にこんなクソ野郎はいないハズだから安心してほしい。

 そういえば今日はエイプリルフールだった。
 今日に限った話じゃないが世間に目を向ければ悪い冗談としか思えないようなことで溢れている。思わず頭脳警察の “ふざけるんじゃねえよ” を再生したが、再生後に流れる広告がこの虚無感をより一層深いものにしてしまった。ふざけるんじゃねえよ。この奪われた余韻とブラウンの電動シェーバーのCMは全く釣り合わない。

 アカウントの性別や年齢と紐づいたターゲティング広告だろうが、私はこのターゲティング広告というものが反吐が出るほど嫌いだ。ターゲティング広告によって人々は選択の自由を奪われ、放棄し、肥え太った巨大資本に餌をやり続けている。無意識のうちに選択の幅を限定され誘導されてゆく事はとても恐ろしい。しかし、思考し選択する行為そのものを放棄する事で楽になれるのもまた確かだ。その安楽死を求める人は多いだろう。
 そしていまこのウイルスの恐怖に包まれた世界で、その安楽死を選択する人々は確実に増えている。権力が恐怖を利用し、人々が思考することを放棄した時、そこに広がるのがどういう世界なのか、私たちは歴史から学んで警戒し続けなければならない。

 ラップトップに向かってこのコラムを書いているうちに随分と体温が下がってきてしまった。体が冷えている。これは窓を打つ雨のせいだけではないだろう。そしてこの精神的に隔離された日々を凍えながら過ごしているのは私だけではないだろう。大音量でお気に入りの音楽をかけろ。鍋いっぱいに湯を沸かせ。パスタを茹でてソースを温めろ。食後にはお茶かコーヒーをつけろ。心と身体を養え。君/私という存在をかけた戦いのフロントラインに君/私は立っている。


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