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わからないんですよね、このひとたちが何を考えているのか。世代のせいかもせいかしれないけど。いいか悪いか、私からは判断できないので、これはもうお任せするしかない(中尾勘二)
NRQ のーまんずらんど マイベスト!レコード |
松村:中尾さんはつねにそういうやや外側の位置からでバンドに関わっているんですか?
中尾:そうじゃないけど、気になるのはそこだけ(笑)。あとはどうでもいい。
松村:演奏とかいろいろあるじゃないですか?
中尾:そのときにできることしかできないんだから、それをいろいろいってもしょうがない。けれども、できあがったものをどう並べるかはけっこう重要じゃないですか。
湯浅:CDは残るからね。
中尾:残りますし、私はレコード世代だから順番がけっこう大事なんです。
湯浅:ほんとうならA、B面にしたいところですよね。
中尾:だから中休みみたいなものをつくることもありますよ。真ん中あたりで曲間をちょっと多めにとるとかね。
牧野:今度のもいちおうA、B面で考えましたけどね。
湯浅:収録時間はどれくらいだったっけ?
牧野:47分で、単純に5曲目でA面が終わりです。"うぐいす"からB面です。
湯浅:そういう風にしてくれないと聴いていて疲れちゃうよね。
牧野:よくわからなくなりますね。
中尾:私はCDになってからとくに最後までなかなか聴けないんですよ。
湯浅:俺は『のーまんずらんど』はフルでけっこう何回も聴いているんだけど、その間にご飯食べたりおしっこしたりしているから。
牧野:47分はけっこう長いですよ。
松村:43分くらいにしたかった?
牧野:ベストは38分ですね。
湯浅:そうだね。30分台がいいね。
牧野:片面3~4曲くらいですね。
松村:でも私はこのアルバムは聴くのはつらくないですよ。
湯浅:1枚目よりこっちの方が楽かもしれないね。
中尾:それはですね。できあがった音が、各楽器が1枚目より音像が遠いからですよ。ほんとうにソツのない音になっていて私はいいなと思いました。
牧野:それは宇波(拓)(ソロやホースでの活動をはじめ、多くのインディミュージックの録音にも携わる音楽家。〈ヒバリミュージック〉主宰)さんのおかげです。
松村:前作より低音がやや強調されていない?
牧野:それは松村さんの家のシステムがダビーだからです。
中尾:ちょっと「あれ?」ってくらい聴き取りにくい音があったりするから、その方が押しつけがましくないんですよ。
湯浅:これ小さいので聴いたときと大きい音で聴いたときと印象がちがうよ。
牧野:近頃ほんとうにたいへんなのは、その再生機器が一体いつつくられたのか、どのくらいのグレードでつくられたのか。あるいは媒体がCDかmp3かWAVか、多岐にわたりすぎていて。決定稿を出すのがたいへんだったんですよ。
湯浅:それは考えない方がいいんだよ。
牧野:そうですよね。だから最終的に宇波さんのところで聴いたものを頼るしかない。たとえば同じCDでも昔製造されたCDウォークマンで聴くのと、いまつくったもので聴くのとではぜんぜんちがう。昔のCDウォークマンはほんとうに音がいいですよ。
湯浅:CDプレイヤーもそうだよ。
松村:mp3に合わせているのかもね。
牧野:mp3で聴いた方がよかったりするんですよ。音圧が逆にでかくなったりするから。
湯浅:製品の、オーディオ機器の方針がわからなくなっているからね。だからどこに合わせるかというのももうない。とりあえず、宇波くん家と決めれば、それでいいんじゃないかな。
牧野:しかもイヤフォン、ヘッドフォンも多岐にわたるじゃないですか。楽器の音のちかい音源なんか、カナル型で聴いていられないじゃないですか。音楽はずっと耳の中で演奏されるわけじゃないですから。だからこれは、宇波さんがよくやってくれたんですよ、フラットに。
松村:レコーディングから宇波さんだったんですか?
牧野:エンジニアリングが全部宇波さんですね。スタジオで円くなって録りました。
松村:それでも低音がやや強いような――
牧野:だからそれは松村さんの家庭の事情ですって。
中尾:あと人間の問題ですよ。ベースが気になるから大きく聞こえる。私は逆にベースは小さいと思ったんですけどね。
湯浅:そうだよ。ベース耳なんだよ。俺は歌耳だからベースがよく聞こえないんだよ。
牧野:歌耳のひとってベース聞こえないですよね。
湯浅:ベース聴いて歌ってないもん。ドラムだよな、聴くのは。
牧野:湯浅湾の場合は、松村さんのベースだからというのはあるかも知れないですよ。存在感のみすごくあって、なおかつ他の楽器と溶け合ってるようなベースだから。
湯浅:ドラムがいちばん気になるんだよ。その次がベース。だから俺、山口(元輝)くんになったからうまく歌えるようになったんだよ。それはギターのひとが何聴いて弾くかっていうのと似たところがあるじゃない。
牧野:僕は完全に山口くんを聴いてますね。湯浅湾では。
湯浅:それで(バンドの中で)関係性ができていくのがあるじゃない。人間関係といっしょでさ。誰の話をいちばん最初に聞くかというのと同じでね。
松村:それは聴き方のクセなんですね。
牧野:利き目といっしょですよ。
湯浅:利き足もそうだね。どっちの足から踏むか、とかね。
湯浅:今回の最大の留意点は何だったの?
牧野:僕、前日に人のお葬式に出ていたんですよ。高校のときの友だちの旦那さんが亡くなったというので、録音の前日にたまたまお葬式があって......でもこれはいうと引かれそうだから、いわない方がいいかもしれないけど、2011年はとにかくひとがたくさん死んだな、というのはありました。でも絶対ひとにはいわないようにしているんです。引かれるかもしれないから。でも今いっちゃったんですけど。
松村:メディアに載るとね。
湯浅:「牧野くんてマジメに考えてるんだな」って。
牧野:いやいや。でもレコーディング前はなんとか2日間で無事カブセ(オーヴァーダビング)まで終わらせたいな、とだけ思っていました。それが留意点といえば留意点です。
松村:録音日時は?
牧野:11月の19と20日です。レコーディング2日でミックスとマスタリングは1日です。
松村:これはもうライヴでやっていた曲ですか?
牧野:やっていた曲です。
中尾:これは載せられないかもしれないけど、あるバイアスがかかったお陰で録音ができたっていうのはあるよね。録音のとき、スタジオ側から「音が大きい」っていわれて、ビビリながら演奏したのがよかったのかもしれない。
牧野:いざ録音はじめたらスタジオ側にとって音がでかかったらしくて、「もっとアコースティックにお願いします」っていわれたんですよ。
中尾:「この曲はスティックじゃなくてブラシの方がいいんじゃないか」っていわれて、とはいえスティックでやったんだけど、まあそういうバイアスというか戒厳令下で録音したみたいな感じでした。
松村:灯火管制が敷かれた感じですね。
牧野:2~3テイク以上は録れない情況だったんです。とくに"ボストーク"という曲は「ブラシでやってください」と示唆されました。
松村:この曲なんかガツガツやりたい曲じゃないですか。
牧野:そうですね。でもあまりできなかったんですよ。
中尾:それが録音物としてはよかったんじゃないかな、とあとで思いました(笑)。
牧野:中尾さん黙っちゃって。「ブラシどうですか?」っていわれたとき、中尾さんは僕のうしろにいたんだけど、中尾さんから--
中尾:ヘンな空気は出てなかったですよ。
牧野:そうかな!? けどともかくも、中尾さんが口開いたら終わりですから。
中尾:何もいいません。それで、吉田くんがね。
牧野:「あとで試してみます」って。
中尾:結果として功を奏したよね。宇波くんの録音スタイルだと、あれくらいの音量であれくらいの部屋っていうのがちょうどよかったと思う。
取材:湯浅学、松村正人(2012年3月12日)