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NRQ のーまんずらんど マイベスト!レコード |
私は牧野琢磨といっしょに湯浅湾というバンドに参加しているからライヴのたびに会うが、ライヴのとき、牧野は入り時間前に会場に現れて、入念にリハーサルし、熱心に演奏し、電車に乗って帰っていく。その動作のひとつひとつの真剣さに、私はいつも感心し、かつ、叱咤されるような感じがあるが、ときにしまりのない私たちはじっさい叱られたりする。やはり音楽においては真摯なのである。それは現在のライヴハウス・シーンに共通する価値観ともいえるが、彼らはそこでもやや浮いている、というよりも、ノマドになってそこを横断していく。
吉田悠樹(二胡、マンドリン)、牧野琢磨(ギター)、中尾勘二(ドラムス、アルト・サックス、トロンボーン、クラリネット)、服部将典(コントラバス)のNRQは前作『オールド・ゴースト・タウン』(2010年)で、21世紀のインスト音楽の可能性を、演奏の強度やムード(非強度)に必要以上に寄りかからない、事件性を回避した、むしろ歴史や体系と地続きのものとしてさしだしたことで、その展開の一例を示したと思われる。とはいっても、NRQはブルースやラグタイムやカントリーやジャズの末裔でもなければ、それらを手際よく料理して無国籍風にしあげるわけでもない。そうは問屋が卸さないのは、いまが2012年であるからだし、彼らは形式を尊重しても盲信しない、四人それぞれがきっちりと音楽の語り方をもっているミュージシャンだからだ。その姿勢はセカンド『のーまんずらんど』でも陸続としている。客演にMC.sirafuとmmm(ミーマイモー)を招き、編曲の射程は広がり、時間が過ぎた分、成熟の度合いは増したが、能書きのいらないNRQを聴く愉しみは変わらない。
このインタヴューは、NRQから牧野琢磨と中尾勘二のおふたりお越しいただき、湯浅学と松村正人が聞き役になって行った。四時間におよぶ取材は最初NRQについて、ついで中尾勘二との対話へうつる。今回はその前半、NRQのインタヴューをお送りします。
『ノーマンズランド』って勇ましくてバカバカしい響きじゃないですか。勇ましいものってバカバカしいでしょ。それがカタカナだと本気だと思われそうだったから平仮名にしました。震災と関係なくそう考えていたんだけど、震災があって、結果的にそれと関係があるかのようになってしまいましたが。(牧野琢磨)
湯浅:牧野くんは音楽をいっぱいつくりたいんでしょ?
牧野:僕はファーストをつくった時点で2枚目までつくれればいいなと思っていました。それはストラーダ(コンポステラとして活動していた篠田昌已、中尾勘二、関島岳郎が篠田の没後、新たに桜井芳樹、久下惠生を加え結成したグループ)が2枚(『山道』『テキサス・アンダーグラウンド』)出しているから。
中尾:それとは関係ないでしょ(苦笑)。
牧野:関係なくはないです。それはほんとうの話。
中尾:ライヴ盤も出てるよ。
松村:ライヴ盤も出さないといけないですね。ライヴ盤は2枚出てるんでしたっけ?
中尾:2枚組だったけど、バラでも売ったからね(『タブレット』『スイッチバック』)。
牧野:そうでした。いつか作らないとですね。......2枚目つくって満足するかなと思ったんだけど。
中尾:じゃあ解散だ(笑)。
牧野:いやいや、それで終わってみたら満足できなかったんですね。まだまだだと。
中尾:入れたいと思った曲が2枚目にあまり入らなかったということだ。
牧野:そういうわけではないんですが......。けれど、やりたいことが、アイデアが2枚目まではあったんですけど。
中尾:もうなくなった?
牧野:なくなりました(笑)。空です。つぎは、ラテンとブルーグラスですかね(笑)。
中尾:何いってんだよ(笑)。
牧野:いや、これはほんとうに考えているんですよ。
湯浅:ラテンというのはボレロ? トリオ・ロス・パンチョスみたいなもの?
牧野:弦楽器でできるラテンと、中尾さんがいっぱいレコードをもっているブルーグラスとか、そういうのを3枚目はやりたいなというのはあります。けれどもそれは僕だけの考えかもしれないので、どうなるかはわからないです。
湯浅:1枚目と2枚目は組になっているよね?
牧野:けっこうそのまま勢いでつくったかもしれないですね。あっ、そういえばこの前、3枚目でやりたいことがあるという話になりました。全部の楽器を単音で配置していって、ギターも和音を弾いて調性を決めるのではなく、単音で弾いた音符にメンバー同士で反応し合う、つまり全部管楽器みたいな感じを3枚目にやりたいというのはあります。だから3枚目はたぶんすごく地味になります。
中尾:それは第三者に判断してもらうしかないね。われわれが豪華だと思っても、「どこが豪華なんだ」ということになるからね(笑)。地味だといわれつづけているバンドだからね。
湯浅:NRQは話し合いで進んでいくの?
牧野:合議制です。
中尾:そうなの?
牧野:だって中尾さんにも意見聞くじゃないですか。
湯浅:曲つくったひとが主導権をもつというのもない?
牧野:曲ごとに作曲者が主導権をもつのはたしかにそうですが、それはケツもちをやんわり決めておくということですよね。録音したときの楽器の配置とかミックスとか、単純にアレンジとか、そういったことは作曲したひとが担当する。だけどたとえば、曲順とか。今度のアルバムの曲順には中尾さんの意見がすごく反映されているし、曲間の秒数は服部(将典)さんの意見が反映されているし、そのつど意見のあるひとが――
湯浅:いっていいんだ。
牧野:もちろん。
湯浅:採用されるの?
牧野:採用するもなにも、僕が決めることじゃないですもん。湯浅湾とちがうんですよ(笑)。
湯浅:湯浅湾は牧野独裁体制が敷かれているからね。うちは逆下克上だから。
牧野:"お前のカタチをなくしたい"(湯浅湾『港』収録)とか、僕は「湯浅さんそんなに弾かなくていいですよ」っていったけど、その通りだったでしょ!
湯浅:別に不満があるわけじゃないよ。
牧野:NRQはほんとうに合議制です。というか、アイデアがあるひとがそれを実践するということですね。
湯浅:それは湯浅湾もそうだけどね。
牧野:吉田(悠樹)さんとか服部さんにジャケットについて意見を訊いてもなかなか出てこないから、だったら意見がないのかな......いや、ないということはないにしても、とりあえず先に進んじゃいました。特に今回は進行がギリギリだったので。
湯浅:ジャケットは牧野くんが考えたんでしょ?
牧野:僕は古写真にしようと思ったんですよ。湯浅さんの『音楽が降りてくる』や『音楽を迎えにゆく』のカヴァーみたいな(佐々木)暁さんがいっぱいもっているような写真。僕もちょっともっていて、それを使いたいといったんだけど、それだと湯浅さんの本といっしょになっちゃうし。ディレクターからの反応が――
松村:むしろ顔を出した方がいいと。
湯浅:あの写真はどこで撮ったの?
牧野:スタジオの裏庭です。レーベルのディレクターからは、ザ・バンドのセカンド(『The Band』)みたいな写真がいいんじゃないかともいわれたんですが。今回録音したのは入間の元米軍ハウスを改装したスタジオだったんですが、そんなところでザ・バンドみたいな写真を撮ったら目もあてられない結果になるから、これは写真家の選定を大事にしなければと思ったんですね。それですぐに塩田(正幸)さんに連絡して、「とにかくいい感じじゃない写真を撮ってくれ」とお願いしました。淡くなくて、いい雰囲気じゃなくて、コントラストもない写真。塩田さんは被写体に思い入れをもたないように見える、早撮りのひとだし。いまインディのものってとにかくよくできているじゃないですか。紙もいいし、写真もうまいし、デザインも素敵。メジャー、インディという物いいは意味ないかも知れないけど、メジャーと比べても遜色ないというか全然面白い。けれど、今回はそれを全部避けたかったんですよ。
中尾:それは避けられたかもしれないね。手焼きのCD-Rが入っている感じだもんね。
湯浅:でもプレスしている。
牧野:印刷している紙も高いんですよ。あとオビが特色を2色使っているんですよ。蛍光イエローにメタリックグリーンという、オビだけ何だかアゲ系のディスコヒッツみたいなちょっと意味わからない豪華さがあります(笑)。とにかく手にとってよくわからないものにしたかったんですよ。いい感じのものは世にあふれているわけで。
湯浅:たしかに何だかよくわからないよね。
牧野:いい感じのものが悪いわけじゃないですけどね。
湯浅:ジャケットを見ると「これ中尾さんのリハビリ?」みたいな気がするものね。
中尾:お見舞いに来ているというかね(笑)。退院祝いみたいなね。
湯浅:「演奏できるんだから完治したんだろうな」みたいなね。
中尾:どこが悪かったんだろうって。
牧野:「戦争のお話訊かせて」みたいな(笑)。
中尾:いつの戦争だよ(笑)。
湯浅:坂上(弘)(今年90歳になるシンガー・ソングライター兼ラッパー。95年に自主カセットで出した"交通地獄"で知られ、2009年にはアルバム『千の風になる前に』を出した)さんと中尾さんは見た目そんなに差がないからね。
松村:ザ・バンドの2枚目というはわりかしストレートなイメージですよね。
牧野:元米軍ハウスでレコーディングして外見がスワンプというのはいくらでもあるかもだし。中身はスワンプじゃないし(笑)。ディレクターの意見も冗談含みですけどね。だから結果的に塩田さんにお願いしてほんとによかったです。
湯浅:坂本慎太郎のアルバムと同じだしね。タイトルは決めていたの?
牧野:タイトルもいちおう合議制です。メンバーにあげるまえに、僕は『のーまんずらんど』がいいんじゃないかと思っていたけど、それはファーストを録った直後、ここ2年くらいずっと思っていたことなんです。
湯浅:どうして?
牧野:大昔、VHSで同じ映画を何回も観ていたんですよ。売り物のVHSって本編の前に予告編が入っているじゃないですか。だから予告編も同じものを何回も観ていて、そのタイトルが『ノーマンズランド』だったんです。本編は観たことないんですが、予告編から察するにチャーリー・シーンが潜入麻薬捜査官なんです。で、『ノーマンズランド』って勇ましくてバカバカしい響きじゃないですか。勇ましいものってバカバカしいでしょ。それがカタカナだと本気だと思われそうだったから平仮名にしました。震災と関係なくそう考えていたんだけど、震災があって、結果的にそれと関係があるかのようになってしまいましたが。
松村:リーロイ・ジョーンズとか関係ないんだ?
牧野:リーロイ・ジョーンズとの関係はつねにあります(笑)。ね、中尾さん。
中尾:そういわれてもわからないよ。
牧野:それもほかのメンバーと「アルバムのタイトルどうしましょう?」と話しあっていたときに、僕が案を出して、他の方が何もなくて、吉田さんが「それでいいんじゃないですか」となって、「じゃあそれでいきましょう」と。そう流れでした。
松村:中尾さんは何の意見もなかったですか?
中尾:ないです。わからないんですよね、このひとたちが何を考えているのか。世代のせいかもせいかしれないけど。いいか悪いか、私からは判断できないので、これはもうお任せするしかない。古い人間がいろいろいっても、よくなる可能性があるとは個人的には思わないので。よほど気になったことだけしかいわない。だから今回は曲順のことだけしかいってないですよ。
牧野:けど、それがけっこう重要だったんですよ。
中尾:曲順はまったく関心のないひとが聴いて飽きないというのが昔から基本にあるので。割と私はいつも、録音やるときも思い入れのない方なので、ひとのドラマ性も平気で分割できるタイプなんです。篠田(昌已)くんの篠田ユニットの『コンポステラ』とか『1の知らせ』とかの曲順は私の意見を採用したものです。「ドラマ性がどうだから、この曲の次は――」といっていたの全部ぶった切って「そんなの知らないよ」って(笑)。「途中で寝ちゃうから」って。そこにはこだわりがあるんですね。
松村:中尾さんがたまにいうことは重要なんですね。
湯浅:裏番だね。
中尾:裏番じゃないですよ。
牧野:今回のアルバムの12曲目("春江")を僕はド頭にもってきたかったんですよ。ストラーダの『山道』を意識して。
湯浅:あれが1曲目はよくないと思うね。
牧野:だから中尾さんの意見を採用してよかったです。
湯浅:入っていきにくいかもしれないね。
牧野:考えてみたら、僕らがセカンドっていっても、誰も僕らのこと知らないですからね。
中尾:われわれの個人的な事情は誰にも通用しないよ。
牧野:おっしゃるとおりだと思います。
取材:湯浅学、松村正人(2012年3月12日)