Home > Interviews > interview with LOVE ME TENDER - 奥渋谷系のロマンス
時空がゆがむ瞬間というんですか。(マキ)
解像度の上がり具合が、朝3時以降、クラブとはちょっと違う。クラブはだいたい5時や6時で閉まってしまうけど、DJバーは昼までやったりするじゃないですか。(アッキー)
LOVE ME TENDER SWEET Pヴァイン |
■神泉とか、その辺が曲のなかで舞台になってるじゃないですか。これはマキちゃん個人のものなのか、それともバンドで共有しているものなんですか?
マキ:バンドでも共有してるとは思いますけど、わたしはすごく濃い感じであの街にいたんで(笑)。どうしてもそういうワードが出ちゃいますけどね。
■奥渋谷系とかって書いてるけど、実際は――。
壮太:神泉ですからね。渋谷じゃないですからね。
■まあそうですよね。あの辺で、〈メスカリート〉やラヴ・ミー・テンダーの影響で何か生まれたりしたんですか?
マキ:何にも生まれていない。
■ははははは、砂漠として(笑)。
壮太:巨大すぎて。ブラック・ホールだから。
マキ:ちょっとヘッドショップとかで、"マリフレ"がかかるぐらい。
一同:はははははは!
マキ:みんなにサンプルをこうやって渡してたから。
壮太:富裕層が朝3時ぐらいに物凄く狂ってるのを見てびっくりしたんですけどね。
アラタ:あと道玄坂が観光地化してるよね。
テッペイ:あそこ日光みたいじゃん、もう。
アラタ:黒人の人たちがタクシーのバンパーの上に乗って跳ねてたり、酔った白人のスーツの人たちが「俺は大使館職員なんじゃー」っつって警察官に絡んでたりするのを見たりすると、「敗戦国だなー」と思って。
■はははははは!
テッペイ:たぶんまだ見れてない部分がいっぱいあると思う。うちらはたぶん、けっこうピースですよ。あんまり暴力とかなくて。もっと怖い部分とかあると思うし。
■いやいや、でもみなさんじゅうぶん見てらっしゃるんじゃないですか。これはオフレコだけど、それこそ小林とかがさ、得体の知れないカラオケ・バーから悪酔いした客を引き連れてきて、緊張感が走ったり。
壮太:それはピースのほうですね。
テッペイ:アリのほうですね。
■でもわけわかんないじゃない(笑)。
マキ:わけはわかんないですけど、受け入れてねじ伏せるみたいな感じで、けっこうピース。まとまりますね。あんまり暴力とかはね、3年に1回ぐらいしかないよね。
テッペイ:最近はさ、だって合法系はみんな暴力に行くじゃん。
■まあその話は後でしようかなと思ってたんですけどね。でもバーってお互いの距離感が近い分だけ、いい面もあるけど、逆に言うと、それこそ一見さんという言葉があるように、入りづらいっていうのがあるじゃない?
壮太:どうしてもね、バーはそうじゃないですか。常連はお互いの悩みごとや弱点を知ってて仲良くなれるんじゃないですか。一回そういうイニシエーションを経ないと、常連にはなれませんね。入りづらいと言えば入りづらいですよ。俺も〈メスカリート〉とか絶対ひとりじゃ行けないですよ。
テッペイ:みんな一見さんじゃん、最初は。
アッキー:いやでも、誰かに連れて来られるんじゃない?
マキ:わたしも誰かに連れて来られて、すごい勢いでバーンってドア開けたのが最初なんですよ、やっぱり。すごいベロベロで。もう2回目場所も覚えてない、みたいな。
■じゃあマキちゃんも偶然入った?
マキ:そうですね。その前にほかの〈メスカ〉のパーティでまあいろいろ出会って。
壮太:俺もコバに「中途半端な店があるから行こう」って言われて。
(一同笑)
アッキー:海の家からずっと繋がってるんだよね。
マキ:わたしも海のパーティが最初。
アッキー:そのときぐらいから、だんだんこういうゆるいサークルというか、いまの仲間ができていった感じがする。
壮太:〈スプートニク〉ができる前に、あの場所でパーティやってたから。2000年ぐらいの話なんですけど。
■そうなんだ。誰が主催してやってたの?
壮太:コバがやってたのかな。
アッキー:でももう〈スプートニク〉なんじゃない? それって。たぶんそれの流れだよ。
■でも、音楽をやるっていうのは、ある意味バーとは逆ですよね。もうちょっと不特定多数に投げかけるものじゃないですか。バーの閉鎖感とバンドとの開放感と、っていうのはどうなんでしょうね。
壮太:でもバーはあくまでも使い勝手のいい部室として使ってるから。
■ははははは。
テッペイ:いや、むしろ逆ですよ。それを変えたくて、いま帯でDJ入れてるんですよ。同軸にしたくて。いままでギャップがありすぎたから。
アッキー:それ〈火曜メスカ〉でしょ?
テッペイ:そう〈火曜メスカ〉の話。ほかの曜日は知らないけど。
■〈火曜メスカ〉って?
アラタ:火曜だけ俺らが〈メスカ〉を開けてるんですよ。いま俺とテッペイなんですけど。まあ部室状態で。
テッペイ:1時とかに開けてたから、「それヤバい」っつって、せめて午前の前から開けるようにして。23時とかに開けて、DJもふたりぐらい呼んで、実験的にやってます。
壮太:社会性を持たせたくないってこと?
■はははは。
マキ:社会性って(笑)。
■だいたい僕の世代だとバーって「ぼったくりバー」っていうイメージがあるからね。中途半端に行ったらヤバいっていう。
マキ:たしかに、いくらかわかんないし。
■バンドがデビューしたのが去年ですよね。で、お店を中心にしてみんながいて。この10年に街っていうのはどういう風に様変わりしたと思いますか?
マキ:変わったのかなあ......。
■あんまり思わない?
マキ:自分も変わっちゃってるから(笑)。
■いや(笑)。だってさ、昔はさ、平気で公園通りの雑居ビルに個人商店が作れたわけだけど。
マキ:たしかに。自分も10年でだんだん奥のほうに移動してるかもしれないですね、行動範囲が。
壮太:駅の近くとかチェーン店しかないわけですよね。で、駅から離れるにつれて個人商店が増えていくっていう構造なわけでしょ、繁華街って。
■その離れる距離がどんどん広がってるよね。
壮太:奥に行けば行くほどディープになるという。どこでもそうなんじゃないかな。新宿でも池袋でも。駅前は和民とかケンタッキー・フライドチキンとか、なんかそういうのばかりで。奥のほうに行くとだんだん変なバーが出てくる。
アッキー:でも職質の回数は増えたよね。
マキ:奥のほうは増えたよね。
壮太:〈エイジア〉の通りは渋谷署のボーナス・ステージですよ。
■はははははは!
壮太:マリオの地下の面みたいな。コインざくざくの面。
マキ:あそこは防犯カメラがないから。ラブホ街って、だからおまわりさんがすごい多いの。
壮太:なるほど。
アッキー:スケボーで街を移動できなくなりましたね。
■そういう意味で言うと、街から猥雑なものをどんどん排除しようっていうのがこの10年であったと思うんですけど。たぶん〈メスカ〉なんかはそういう砦となって(笑)、ふんばっているんだろうなと。
マキ:でも不思議だよね。何にも起こらないっていうか。
壮太:〈エイジア〉の通りみたいなプラスイオンがガンガン出てるとこに行くと、ちょっともう。そういうときはBunkamuraの入り口に行って、Bunkamura見ながらタバコ吸って、「俺はスノッブ、俺はスノッブ」って思う。
一同:ははははは!
■プラスイオンって(笑)。去年『トワイライト』を出して面白いリアクションはありましたか?
壮太:ぜんぜん知らないライヴ・オファーが増えましたね。全部アウェーで。
テッペイ:夜が合うって言われる、ツイッターとか見てる感じだと。
■いや、そりゃそうでしょうね。
テッペイ:いや、昔「海が似合う」とか言われてたんで。
アッキー:ええー、そんなことないでしょ。
マキ:そんな時代あったの?
テッペイ:実際海とかでやってたじゃん。新島とか。
アッキー:知らないバンドと対バンすると、びっくりする。
アラタ:でも、クラブの夜中でバンドがうちらしかいなくて、DJとかじゃなくて、たとえば〈新世界〉とかで夕方から夜にいると、知らない客層がいて、それはすごい新鮮。
■ああー。〈新世界〉のお客さんなんかはどうです? けっこう受け入れられてる?
アラタ:世代が近いのか、意外とMCがウケる(笑)。あともっと若い世代もいて。
マキ:若いよね。
アラタ:呼ばれて行くと、意外と対バンで面白いのがいたりとか。
アッキー:イン・ジャパン(Inn Japan)とやったときとか、面白かったですね。
■イン・ジャパンって?
アッキー:高円寺の〈クラブライナー〉っていうけっこうちっちゃいライヴハウスがあって、イン・ジャパンって言うバンドがいて。
アラタ:サブカル臭が強い感じ。
壮太:メタ・ヘヴィメタ・バンドですね。
※小林=コバ(渋谷で汚い遊びをしている人でこの人を知らなければモグリ)
取材:野田 努(2012年11月22日)