Home > Interviews > interview with LOVE ME TENDER - 奥渋谷系のロマンス
夜目が覚めて自分が最悪な人間だと思ったとき
思い出して欲しい
街は下水道やサーカスのように面白い場所だということを
ルー・リード"コニー・アイランド・ベイビー"
LOVE ME TENDER SWEET Pヴァイン |
街を歩くのは楽しい。とくに夜更けから朝方にかけては。僕にiPodはいらない。頭のなかにはたくさんの音楽が鳴っているから。
ラヴ・ミー・テンダーのデビュー・アルバム『スウィート』が完成した。彼らは正真正銘のシティ・ポップス・バンドだ。彼らの先行シングル「トワイライト」は、本当の意味での今日の渋谷の道玄坂の裏側の世界が描かれているが、アルバム『スウィート』はそれをさらに発展させている。ドリーミーでダンサブルなソフト・ロックをバックに、ロマンティックな週末の夜の片隅の出来事の断片、休日のドライヴ、そしてビルの谷間に輝く朝日を描いている。
ラヴ・ミー・テンダーは、ドラムを叩きながら歌を歌っているMAKIを中心に、サブカル界隈では賞賛とディスのリツイートを浴びている鍵盤担当の高木荘太、ふだんはDJをやっているサックスのACKKY、ベースのTEPPEI、ギターのARATAの5人から成る。彼らは、渋谷......といってもあんまりおしゃれ感のない裏通りの、そのまた裏通りの雑居ビルのなかにあるDJバーを拠点に登場した。クラブ・カルチャーは、いまや欧米でも、ホーム・パーティやウェアハウス・パーティといったアンダーグラウンドな広がりを見せている。より、地下に潜伏しながら堂々と音楽をやっているという、逆説的な態度を示している。ラヴ・ミー・テンダーの本質もそこにある。
いや、もう、ルー・リードの"ワイルドサイドを歩け"の感じじゃないですか。(高木壮太)
■"メスカリーター"からはじまっているのが良いと思ったんですよね。〈メスカリート〉という場所は、まあ、知る人ぞ知る秘密の場所であり続けたわけじゃないですか。それがこう、明るみにでることはどうだったんでしょう?
壮太:いや、もう、ルー・リードの"ワイルドサイドを歩け"の感じじゃないですか。
■ハハハハ。もう、カミングアウト、カミングアウト(笑)! まあ、それはともかく、この10年というのは、クラブ・カルチャーがかたやアゲハのようなビッグ・クラブにになって、その片方でDJバーのようなものが増えていった10年だと思うんですけど、 ラヴ・ミー・テンダーはそういう、増えていったDJバー文化から出ていったバンドなんだろうなと思ったんですね。そういう意味で、"メスカリーター"からはじまるのはもっともだなと思いました。
壮太:いやー、僕も最初、"メスカリーター"といったときはびっくりしましたよ。いまさらなんか語ることがあるのかって。
マキ:はははは。
壮太:どうなんですか、ラヴ・ミー・テンダー=〈メスカリート〉になっているんですか? お抱えバンドのように。
■いや、それはもうそうでしょう。モータウンにおけるファンク・ブラザーズみたいなものでしょう。
マキ:他にもバンド、いますけどね。
壮太:他にもいるけど......、俺たちなの?
マキ:そうなっちゃいましたね。
壮太:だったら光栄です。すごいバンドいっぱいいるのに。
マキ:ニビルブラザースでもミシマでもない。
壮太:〈メスカリート〉の名前を汚さないようにしないと。
マキ:汚さないように。先輩に怒られないようにね。
■そこは意識しているんですか?
テッペイ:レペゼン・メスカってことですか?
■そう。
テッペイ:そこは俺、逆ですけどね。
■まったくない?
テッペイ:むしろあれを壊したいですね。もう最近はメスカって言わないようにしてますからね。
■堂々と歌っているじゃない(笑)!
テッペイ:いや、前に若い子から、友だちに「メスカ行こうかな」って言ったら「危ないから行かないほうがいいよ」と言われたと聞いたこともあって、もう絶対に言いたくない。悪いほうにとらえられている。
マキ:ホントにね。
■なおさら、そこは良いほうに解釈してもらわないとですよね。世間の評判を覆しましょうよ。
壮太:浄化作業ですよ!
■アッキーはもう長年DJをやってるわけですが、DJバー文化についてどう思ってますか?
アッキー:それはね、耳が肥えている人、10人ぐらいの前でやることじゃないですか。すごいうるさ型の人たちの前で、がっつり10時間とかやる、みんな訓練をしているんで(笑)。そういうDJカルチャーはそれ以前まではなかったかもしれないですね。
■奥渋谷だけじゃなく、下北沢にもあるし、いろいろありますよね。けっこう名前のあるDJが、10人や20人でいっぱいになってしまうような空間でDJをやっていますよね。
アッキー:あれもう、うるさ型の人たちの前で、どれだけ濃いものを聞かせられるかっていうことだと思います。
マキ:修行だよね。
アッキー:朝3時以降とか、狂っちゃいますからね。それでも自分は淡々とやらなきゃいけない。
マキ:時空がゆがむ瞬間というんですか。
アッキー:解像度の上がり具合が、朝3時以降、クラブとはちょっと違う。クラブはだいたい5時や6時で閉まってしまうけど、DJバーは昼までやったりするじゃないですか。
■たしかにね(笑)。
マキ:そこからさらにどん欲な人だけが残るっていうか。
アッキー:だからそれを毎晩マキちゃんとかが見てたから。
壮太:渋谷で一番遅くまで開いてる店。
アッキー:やっぱり、僕はDJバーに聴きに行くのが好きですね。
アラタ:たんに年齢層が、そのひとたちが高くなってきてるっていうのもあるんじゃないですか。
■それも一理あるけど、だけどクラブはクラブでやっぱりたくさんできてて、そっちが好きなひとはやっぱりそっちに行ってたから。かたや、それとは違ったベクトルでもって、DJバーがたくさんできたなあと思って。
壮太:たとえば、ひばりが丘なんかにもDJバーが2軒あるんだけれども、そこはDJブースがインテリアになってるらしいんですよね。でも、DJバーといっていい流行ってる小バコは昔からあったでしょう。2丁目の〈ブギー・ボーイ〉とか。吉祥寺の〈ハッスル〉とか。
■2丁目の〈ブギー・ボーイ〉って懐かしいねえ。
壮太:店にキースへリングがいてビール奢ったらTシャツに絵を描いてくれた。
■ゲイ・ディスコですよね。
アッキー:新宿だったじゃない、文化的に。でもいまは、東京のなかでも吉祥寺、渋谷、って分散してきてて。
■このあいだ三茶がすごいって聞いたよ。
アッキー:三茶もあって。そういう広がりっていうのはここ10年なんじゃないですか。で、地域性によってノリがぜんぜん違うんですよね。それが不思議、なんか(笑)。
壮太:昔何かだった店がああなってるの? 昔の若者はどこで溜まってたの? DJバーに来てる若者は。
アッキー:いや俺クラブだったからわかんない。DJバーとか行ったことなかったから、昔。
テッペイ:小バコなんじゃないの。10年前から、〈グラスルーツ〉に似たような店がいっぱいできたような感じがする。
アラタ:ああ、〈グラスルーツ〉ね。
壮太:〈グラスルーツ〉も最初ヒカルくんが回して誰もいない、客もいないって感じだったけど、平日でもみんな店にちょこちょこ行くようになって、超盛り上がるようになって。その後に三茶のバーもできたしさ、みんな繋がってたじゃない。〈グラス〉と三茶ってとくに。で、それのチルドレンな感じでしょ。
アラタ:〈フラワー〉とか関係ないじゃん、でも。あそここの間14周年で。〈グラス〉が15周年で。
壮太:そうだね。
■〈フラワー〉って何?
アラタ:三茶の重要なバーなんですけど。六本木のとは違って。
■ああ、聞いたことある。
アラタ:ポンタ秀一とかもよく来るらしくって。
テッペイ:〈グラス〉とか三茶で言うと初期の〈DUNE〉じゃん。小バコで盛り上がるみたいな。
■メンバーのみんなは、どちらかというとDJバー的な密室的な、濃い空間が好きで。
アラタ:おしゃべりが好きっていうのがあるかもしれないですね。
マキ:おしゃべりですね、みんな。
テッペイ:テクノとかハウスとか、昔のクラブとかだと住み分けがあったかもしれないけど、DJバーだとハードコアのTシャツ着てテクノで踊るとか、そういうのを見て「お、カテゴライズされてなくて超おもしれー」と思って。デカいレイヴ行くよりも、そっちのほうが早いんですよ。ひとが集まってるから。
■なるほどね。いま地方にもほんと増えているよね。それはあるシーンを形成しつつあるのかなという感じがするんですけど。でも、今回のアルバムの1曲目を"メスカリーター"にしたのはなんでなんですか?
アラタ:チルドレン・オブ・メスカリートとしての誇りじゃないですかね。
■宣言というか。
壮太:いや単純に曲調なんじゃないの(笑)?
■はははは。
壮太:メッセージ性なんかないでしょ(笑)。
マキ:あれはすごくわたしの気持ちが入っていて。
テッペイ:ライヴでもいつも1曲目でやっていて。
マキ:そう、なんか1曲目ぽい感じがして。
壮太:曲はデモ・テープの並びの通りなんですよ。デモ・テープに耳が慣れちゃったから、もうこれでいいや、みたいな。計算してないですね、この順は。
■"ロマンティックあげるよ"がボーナス・トラックみたいな。
マキ:みたいな扱い。
壮太:俺はずっと反対してた、最後まで。
マキ:ははは、外圧が(笑)。
■こうやって意見が分かれたとき、誰がまとめるんですか?
アッキー:まとまんないですね。まとまんないままぐちゃぐちゃーと進行していく。それが面白いんじゃないですか(笑)?
取材:野田 努(2012年11月22日)