Home > Interviews > interview with Ariel Pink - 完熟サイケデリック!
アニマル・コレクティヴが見出したサイケデリック奇人(アニコレに自作音源を渡すところから彼のキャリアははじまる──)にして、とくに〈4AD〉移籍前後の2000年代末からは有無をいわさぬバンド・フォームで現在形インディ・ロック最良の瞬間を紡ぎ出してきたソングライター、アリエル・ピンク。この秋、彼はその「ホーンテッド・グラフィティ」ではなく、自身のソロ名義として初となるフル・アルバム『ポン・ポン』をリリースした。
Ariel Pink - Pom Pom 4AD / ホステス |
活動初期──8トラックのカセット・レコーダーで録音された、落ち着きなくスキゾフレニックな楽曲(の断片)群を、おっかなびっくりR.スティーヴィー・ムーアなどと比較しながら追っていた頃からはや10年にもなるだろうか。その途上、〈4AD〉からのリリースとなった2作『ビフォア・トゥデイ』(2010年)『マチュア・シームス』(2012年)は、彼のキャリアに大きな曲り角を築いた。とくに前者は、整ったバンド・アンサンブルやAOR的なロジックによってそれまでの彼の音にポップスとしての肉付けを与え、「またとなく洗練されたキワモノ」として畏怖と喝采とともにシーンに迎えいれられた。かつ、そのことがむしろ、彼と彼の音楽のエキセントリックな佇まいの奥に偏屈さとともにぎちぎちに詰まっていた、サイケデリックやプログレッシヴ・ロック、あるいはパンクのアーカイヴをふとぶとと解放したかにも見えた。その2作が素晴らしかったのは、なにも彼が折からのエイティーズ・ブームに乗ってダサい懐メロをクールに鳴らすアーティストになったからではなくて、彼自身のサイケデリックのアウトプットをいきいきと市場と時代感覚につなげたからだ。
そして、その2枚の「成功」は、たとえば彼をサン・ローランのキャンペーン・モデルに抜擢するまでに、その存在感をセレブかつアーティに変化させもした。しかし変わったのは存在「感」であって、彼自身はむしろ音同様に、変わらないばかりかそのコアをずん胴のようにぶっとくしている。今作で自身憧れのキム・フォーリーとの共作を果たし、自らの揺るぎないバックボーンを示してみせたのはその象徴ともいえるだろう。
よって今作は前2作よりは未整理で、しかし『ウォーン・コピー』(2003年)や『ザ・ドルドラムス』(2004年)など初期作品よりはきめ細かい、まさにいまの彼の立ち位置だからこそ放出できる、おいしさ剥き出しのアルバムになっている。この、微分積分では肉薄できず、さりとて天然や薄っぺらなエキセントリックではありえない怪作は、まさに「かえるの王様」のごとく気味わるくキュートで、高貴だ。アイロニーとユーモアが半ばしもつれ、それはそのまま彼の生全体をも照らしだしている。そう、このインタヴューと作品からは、「30代がいちばん楽しい」とうそぶくアリエル・ピンクの人生観と人間論にも触れてほしい。未熟と老いのあいだに、彼は彼一流のつかみどころのなさでもってその完熟ボディを差し出している。
■Ariel Pink / アリエル・ピンク
LA出身のアーティスト、アリエル・ピンクことアリエル・マーカス・ローゼンバーグ。10代の頃から音楽活動をはじめ、アニマル・コレクティヴの〈ポー・トラックス〉などから数多くの音源をリリース。2010年に〈4AD〉より4人組ロック・バンド、アリエル・ピンクス・ホーンテッド・グラフィティ名義で『ビフォー・トゥデイ』を発表。「ピッチフォーク」で9/10点を獲得し、同年の年間ベストではリード・シングル「ラウンド・アンド・ラウンド」が100曲中の1位を獲得、NMEで8/10点を獲得するなど2010年度の国内外年間ベストアルバムを総なめにした。2012年のセカンド・フル『マチュア・シームス』リリースを経て、今年2014年、ソロ名義では初のアルバムとなる『ポン・ポン』を発表し、さらなる期待を集める。
たしかに僕はジェローそのものだけど(笑)。
■さっそくですが、“ゴス・ボム(Goth Bomb)”では「なんで書くとカクカクになっちゃうんだろ?」と歌っていますね。それに対して「pom pom」というのは書いてもカクカクにならない言葉や感覚だと思いますし、あなたの音楽自体、カクカクにならない──つまり何かの型にはめられることなくあなた自身の心のかたちを表していると思います。
それはそうとして「pom pom」とは何でしょう?
アリエル・ピンク(以下AP):おもしろい質問だな(笑)。「pom pom」が何かなんて初めて訊かれたよ。いままでの中でいちばん変な質問(笑)。何だろう……いざ聴かれるとわかんないな(笑)。中国語の文字とか?
■そうなんですか(笑)。
AP:なんとなくね。いま感じたのはそれ(笑)。意味はないけど。
■今作には制作年代の古い曲が混じっていますか?
AP:入ってないよ。曲の一部には前に思いついたものとかもあるけど、曲自体はすべてだいたい2~3ヶ月で書いてるから。
■では、何かしらのコンセプトのもとにまとまりをもって制作されたものでしょうか?
AP:いや、コンセプトはない。僕のこれまでのレコードの中でコンセプトをもとに書かれたものは一枚もないんだ。曲を書いている期間や場所が曲に関係してくるっていうのはあるけど、それはコンセプトではない。作ってレコーディングしていくという過程で曲のコレクションができて、そこからアルバムという固まりを作っていく。それだけがアルバム制作におけるルールなんだ。
みんなには、それをアルバムというひとつのまとまりとして聴いてもらってもいいし、デジタルで1曲ずつを楽しんでもらってもいい。どう楽しむかはリスナー次第だからね。僕はただ、その楽しみ方のオプションができるだけたくさんできるように、なるだけ多くの時間を費やして最高の作品を作るだけ。みんなが、CD、ヴァイナル、iTunesのどれにおいてもその作品を楽しめるようにね。
■“ジェロー(Jell-O)”の、子どもたちと録音された映像が印象的でした。非常に楽しそうですし、子どものなかに混じると、ますますあなたの存在が際立ちます。アリエル・ピンクは父でも母でも叔父でも兄でもなく、大人でも子どもでもない。まるでジェロそのもののようです。ジェロにはシンパシーがありますか?
AP:はは。おもしろいコメントだね。たしかに僕はジェローそのものだけど(笑)。この質問、何を答えたらいいのかな(笑)。ジェローはゼラチンで、ビル・コスビーがCMのキャラクターで……彼らは新しいマスコットが必要なんだろうな。ビル・コスビーに対してちょっとした論議があったから、今度は僕を起用すれば安心かも(笑)。いや、ダメだろうな。僕も問題になりそう。日本とアメリカはちがうかもしれないけど、アメリカでは僕はあまり好かれてないから(笑)。
■そうなんですか? ジェローにシンパシーはあります?
AP:あるよ。その理由は、キム・フォーリーが食べてるから。歯がポロポロとれてしまうかもしれないから、彼は柔らかい食べ物を食べないといけないんだ。人生の最期には、ジェローばっかり食べてるかもしれないね。実際そうなるかはわかんないけど。
キムはまさに天才。大先輩だし、心から尊敬してるよ。彼のことはアートみたいに保存したほうがいいと思う。最近の世の中、あまり人を尊敬して評価するってことが減ってきているけど、僕はそれくらい彼を尊敬してるんだ。
■いま、キムの名前が出ましたね。たとえばランナウェイズには、背後に仕掛け人としてのプロデューサーがいて、それによって商品として仕立てられた女の子たち、というイメージもあったと思います。あなたは「ポップ」という概念についてさまざまな意見と感情をお持ちの方だと思うのですが、キム・フォーリーはその意味ではあなたにとってどのような存在ですか?
AP:キムはまさに天才。大先輩だし、心から尊敬してるよ。彼はいろいろなことを乗り切って、いまだに彼なりのやり方で生き抜いてる。ちがう時代に創られたアートを見ているようだよ。神殿みたいな。彼のことはそういうアートみたいに保存したほうがいいと思う。最近の世の中、あまり人を尊敬して評価するってことが減ってきているけど、僕はそれくらい彼を尊敬してるんだ。
■ランナウェイズとキムに関しては?
AP:商品っていうのはその通りだと思う。世の中の多くは商品、製品だからね。人間みなそうさ。両親がセックスして作られるもの。だから製品なんだし、しかも消費されるものだからね。みんな一生生きるわけじゃない。希望や夢を持った商品。それでいいんじゃない?
■ランナウェイズには特別リスペクトする気持ちがあるのですか? パティ・スミスは嫌い(と、前回のインタヴューで答えてくださいました)で、ランナウェイズは好きという理由をおうかがいしたいです。
AP:好きだよ。ランナウェイズはいい。彼女たちって、女だけど好きなんだよね(笑)。
■女だとダメなんですか(笑)。
AP:僕が女嫌いっていうのは周知の事実さ(笑)。
■わたしも女性なんですが……。
AP:そうなの!? じゃあもうこれ以上話せないね、ははは。
■パティ・スミスも女性だから嫌いなんですか?
AP:パティ・スミスは好きじゃない。これは逆に、彼女が男っぽすぎるから。僕は男も嫌いなんだ(笑)。彼女は男性的すぎるんだよね。ずっとキッチンにいたほうがいいと思う。お茶を入れてさ。もうたくさんいいレコードを出してるから、今度はたくさんのおいしいパウンドケーキを作って、僕にジェローを作るべきだね(笑)。ウケるな(笑)。
■ランウェイズに対するリスペクトに関してはどうでしょう?
AP:もちろん尊敬してるよ。ランナウェイズは……彼女たちを尊敬してるかって質問はお門違い。なぜなら、僕は人生の中で出会うすべての人をリスペクトしてるし、パティだって嫌いだけど尊敬はしてる。ただ、彼女の作品を好きで聴くかって言われたら答えがノーだけどね。それはただの一人の人間の意見であって、彼女が一生懸命活動していることに関してはもちろん尊敬の念がある。子どもを産む人もリスペクトするし、しかもそれはもっと大変なことだろうしね。
ランナウェイズは出産をしているメンバーもそうでないメンバーもいるけど、彼女たちを尊敬しているのは、やっぱりキムの存在。彼に才能があるのと、やっぱりLAのプロデューサーが関わっていると、この街(LA)との深い繋がりを感じることができるんだ。ローカルな感じがいい。僕が好きな感じにプロデュースされてるから好き。パティはニューヨークだろ? ニューヨークのプロデューサーたちはあまり好きじゃないんだ。でもラモーンズは超好きだけど。やっぱりそこも、ビーチ・ボーイズの影響があるからかな。
■60年代、70年代、80年代、それぞれのキム・フォーリーの仕事の中で好きなものを挙げてもらえないでしょうか?
AP:"モーター・ボート(Motor Boat)"や60年代の"ザ・トリップ(The Trip)"なんかが好きだけど……答えられないよ。たくさんありすぎるし、僕が好きなのは、キムが書く音楽だけじゃなくて、彼の生き方や人生すべてだからね。
彼はレーベルや業界のアウトサイダーだから。最初はかなりインサイダーな立場だったけど、彼はそこから自分自身になろうとしてきた。ストリートで才能があると思う人間を見つけて、その人のために曲を書いたり。しかも、彼はそこからヒットを作り出してきた。最近は、ヒットを作ろうとすることや成功を目指すことがよくないともされているけど、キムには成功したいという熱意がつねにあったんだ。その熱意がないと、成功ははじまらない。それを知っておかないと、人間どこにも進めないと思うんだ。失敗があるからこそ成功もあるわけで。みんな、それを乗り越えないとね。
■彼になくて自分にあるものは何だと思いますか? 何かひとつ挙げるとすれば。
AP:時間。僕には時間がある。いや、わからないね。僕も今夜死ぬかもしれないし、キムといっしょにこの世を去るかもしれない。彼に残された時間は短いけど、キムはまったく仕事量を減らしてないんだ。病床で未だに活動してるよ。人が休めといってもきかないんだ。そこも彼の好きなところだし、影響されてる。
質問作成・文:橋元優歩(2014年12月11日)
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