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Ariel Pink

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Ariel Pink

Pom Pom

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吉田ヨウヘイ松村正人   Dec 11,2014 UP
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ブタのパレードの向こうから
──批評はアリエル・ピンクをつかまえるか松村正人

 ケヴィン・エアーズが死んだのは一昨年の早春だから野田さんに追悼文書きますよ、とやすうけあいしたままそろそろ2年が過ぎようとしている。さいきんとみに時間の流れがはやい。このままではケヴィン・エアーズの追悼文を書く前に私が追悼文を書かれるだろう、書いてくれるひとがいればだが。私はもうしわけない、エアーズさん、と敬称をつけると妙な気がするが呼び捨てにしない間は死んだ人間はいくらかまだこちら側にいる。高倉健さんとか菅原文太さんとか。そういえば保坂さんと湯浅さんの『音楽談義』の、クリームをクサしたくだりを校正していたときにジャック・ブルースさんは死に、本が出てしばらくして同じく文中であつかったジョニー大倉さんが亡くなられた。そろそろ大瀧詠一さんの一周忌になる、などと連想が止まらなくなったのはアリエル・ピンクのソロ名義でははじめてのアルバム『ポン・ポン(pom pom)』冒頭の“プラスティック・レインコーツ・イン・ザ・ピッグ・パレード(Plastic Raincoats In The Pig Parade)”がケヴィン・エアーズ――ここからは敬称略となります――のファースト『ジョイ・オブ・ア・トイ(Joy Of A Toy)』の1曲めにあまりにもそっくりモグラだったからであるが、だからといって鬼のクビをとったつもりではそれこそアリエル・ピンクの思うツボである。ケヴィン・エアーズさん、もうしわけないとは彼は思っていない。というかこの曲はキム・フォーリーとの共作なのでこの調子っぱずれのブタのパレードの向こうでほくそえんでいるのはキム・フォーリーなのかもしれない。

 以前灰野敬二さんとジムさんの対談で、灰野さんがフランスでトニー・コンラッドとキム・フォーリーと対バンしたとき、タイムテーブルがオシてんな、と思い覗いたらキム・フォーリーが“ルイ・ルイ”をやってたんだよ、と灰野さんは目を丸くされた。もちろんサングラス越しなので灰野さんがじっさい目を丸くされていたかわからない。しかし声の表情はそういっている。そういわれればそうだ、トニー・コンラッドも灰野敬二もともに先鋭的な音楽性を特徴とする、そこに“ルイ・ルイ”はそぐわない。それこそがキム・フォーリーの狙いだったのかたんにガレージ好きだからかサービスなのか、判然としないのがしかしキム・フォーリーのそのひとであり、それをそのままアリエル・ピンクになぞらえられなくもない。極彩色の夢をベッドサイド経由で世界に播種するサイケデリアにして、サン・ローランが、ということはつまりエディ・スリマンがポップアイコンと認めたミュージシャンである、ということはつまりカート・コベインの系譜に感覚的(赤字に傍点)に連なるポップ・アイコンたるポテンシャルを秘めたアリエル・ピンクのホーンテッド・グラフィティとの『ビフォア・トゥデイ(Before Today)』にせよ『マチュア・シームス(Mature Themes)』にせよ、そこには無数の夢ともに音楽の夢である過去が詰まっていた、というべきかポップス史を再構成したといえばいいいか、それとも時々刻々積み重なる現在時のもぬけの殻の過去を、記憶を夢の力学でつむいだといえばいいのか、2010年代の稀代の名曲とされる“ラウンド・アンド・ラウンド(Round And Round)”の歌い出しに「マイ・シェリー・アモール」を想起する私の90年代仕様の思考には少々手にあまるにしても、アリエル・ピンクは断片が意味を帯びる前に身をよじりその意味から意味へと身をかわす。全部がそのようにできているといっても過言ではない。
 『ポン・ポン』ではそれがさらに夢のような反響をもちせわしない。さらにロウファイであることは時代の磁場をあらわし、スタジアム・ロックを思わせる大上段にふりかぶった楽想をふりおろす間もなく曲調はスタジアムを離れベッドルームへもぐりこむ。ロックとポップとメジャーとアンダーグラウンドに向けた八方美人な批評性を方法とするならジェームス・フェラーロのそれと近似していくにしても、ディレッタンティズムともスノビズムともとられかねない方法からもやはりアリエル・ピンクは遠い。遠いのはソングライティングがなににもまして先立つからであり、それはビートルズやビーチボーイズのように神がかり的な名曲を生みだし得ず、意匠さえ尽きかけた時代のパンク足らんとしたニルヴァーナがポップだったようにポップであり、1990年代と2000年代と時代を経て、ブルックリンで着ぶくれした異形の衣装のまま西海岸の陽光に晒されている。かつてのソングライティングの才と呼ばれたものは20年後まったくちがうものになっているだろう。機能と調性から解放されノイズとノートの境界があやふやになった楽曲は誰も口ずさめない名曲として何億万ダウンロードもされるだろう。そのとき『ポン・ポン』がその古典とみなされるかどうか。

松村正人

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