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interview with Unknown Mortal Orchestra

interview with Unknown Mortal Orchestra

あなたとのローファイな関係性

──アンノウン・モータル・オーケストラ、インタヴュー

橋元優歩    電話インタヴュー:原口美穂   Jul 17,2015 UP

Unknown Mortal Orchestra
Multi-Love

Jagjaguwar / ホステス

Indie Rock

Tower HMV Amazon iTunes

 ルーバン・ニールソンには尊敬できる友人と家族がいて、そうしたひとたちへの信頼や情愛、そして生活が、音楽とふかく結びついているのだろうということが、ありありと想像される。USインディのひとつのかたちとしてそれはめずらしくないことかもしれないけれど、日本で家族や友人の存在が音楽にあらわれるとすれば、もっと極端な表出をともなうか(写真をジャケにしたりとか、歌詞や曲名に出てきたりとか)、あるいはごくふつうの家族や友人として絆や影響関係があるというレベル以上には表現に出てこないか、どちらかであることが多いのではないだろうか。そう考えると、生活における音楽の根づき方や楽しみ方、機能の仕方は、あちらとこちらとではまるで異なったものなのだろうとあらためて感じさせられる。

 本当は、2011年にリリースされた彼らのファースト・アルバムが、シーンにどのようなインパクトをもたらし、どのようにUSインディの現在性を体現していたか、というようなことから書くべきだと思うのだが、それはレヴューや前回インタヴューをご参照いただくとして、ここでは、今作があまりにそうした世事から離れているように感じられることを記しておきたい。

 そんなふうに時代性や批評性から外れて、なお愛され流通する作品というのはとても幸せなものだと思う。しかし考えてみれば〈ジャグジャグウォー〉自体がそうした音楽を愛するレーベルなのだろう。それでいて閉塞したり孤立したりすることなく、その時代その時代にきちんと自分たちの位置をキープし、新しい才能を迎えいれていく柔軟さを持つところがすばらしい。〈ファット・ポッサム〉や〈トゥルー・パンサー〉など、トレンドや時代性という意味において発信力と先見性のあったレーベル群をへて、前作から〈ジャグジャグ〉に落ち着いているのは、本当に彼らにとってもよいかたちなのだと思う。

 元ミント・チックス──キウイ・シーンからポートランドへと移住してきたルーバン・ニールソン、彼が率いる3ピース、アンノウン・モータル・オーケストラ。3枚めのアルバムとなる今作は、彼にとっては、家を買って家族で引越し、バンドにもメンバーがふえ、実の弟やジャズ・ミュージシャンである父もゲスト参加する「家族の」アルバムになった。それは、そんなふうにはアルバムのどこにも謳っていないけれども、音の親密なぬくもりに、そしてデビュー作からの変化のなかに、如実に感じられる。小さな場所で築かれた大切なものとの関係が、とりもなおさずそれぞれの音の密度になっている、というような。

 ニールソンにとって、ヴィンテージな機材やテープ録音のローファイなプロダクションを愛する理由は、きっとそうした親密なものたちへのまなざしや彼らとの付き合い方につながっている。それが人であれ音楽であれ、自身の好むものに対して、外のどんな要因にも引っぱられないつよい軸──それを本作タイトルにならってマルチ・ラヴと呼んでみてもいいだろうか──を、この3作めまでのあいだに、彼は見つけたのだろう。作品を重ねるごとにそれは浮き彫りになり、時代ではなく人の心に残る音へと、変化しているように感じられる。

■Unknown Mortal Orchestra / アンノウン・モータル・オーケストラ
ニュージーランド出身、米国ポートランド在住ルーバン・ニールソン率いるサイケデリック・ポップ・バンド。デビュー作『アンノウン・モータル・オーケストラ』(2011)はメディアからの高い評価とともに迎えいれられ、グリズリー・ベア、ガールズ等とのツアーを重ねるなかで、2015年には通算3作めとなるアルバム『マルチ・ラヴ』をリリースする。

いまは2年前よりもだんぜんハッピーだよ。

まずは、驚きました。UMOだというのははっきりわかるんですが、単にサウンドが変わったというよりは、キャラクターが変わったというか、人間としての変化や進化といったような次元での差を感じました。この2年間で、ご自身の上にどのような変化を感じますか?

ルーバン・ニールソン(以下RN):ここ2年は、いろいろなことがあったんだ。レーベルも新しく〈ジャグジャグウォー(Jagiaguwar)〉になったし、マネージャーもトム・ウィローネン(Tom Wironen)に変わった。新しいドラマーも加入したし、最近は新しいキーボート・プレイヤーも入ったんだよ。個人的には家を買って、家族といっしょにそこに越したんだ。すごくいい時間を過ごせていると思う。本当に楽しくもあり、かなり忙しくもある。こういうすべての変化があったおかげで、いまは2年前よりもだんぜんハッピーだよ。

トランペットはお父さんだそうですね。ジャズ・ミュージシャンでいらっしゃるかと思いますが、ジャズのなかでもどのようなあたりをおもに演奏されるのでしょう?
また、参加曲や今作において、何かアイディアやディレクションについての摺合せはありましたか?

RN:最近は、彼はおもにいくつかのビッグ・バンドの中でジャズ・プレイヤーとして活動しているんだ。そういった大きなアンサンブルの一部になるのがすごく楽しいと言ってるし、親父はそういうのが本当に好きなんだと思う。レゲエ・バンドとツアーをすることもあるんだ。彼はさまざまなスタイルの音楽を演奏してきたし、いまでもそれは変わらない。

録音環境に変化はありますか? ヴィンテージな質感は変わりませんが、やはりディクタフォンやオープン・リールのレコーダーを?
一方で、肌理(キメ)の整った、スマートなプロダクションになったという印象もあります。

RN:昔のよしみで、一度か二度だけディクタフォンを使った。おもに使ったのは〈フォステクス〉の8トラック・リールで、テープ・レコーディングしたんだ。今回は2、3台いい機材を使う事ができて、そのおかげで大きな変化が生まれた。ニュージーランドにある、ハンドメイドで機材を製造している〈Ekadek〉社の〈Kaimaitron〉っていうカスタム・ミキサーを手に入れたんだ。あとは、〈Retro Instruments〉のPowerstripも使ったし、ミックスには〈Chandler〉社のMini Mixerを使ったね。それらの機材は、音質にすごく大きな影響を与えてくれた。同時に、古いスプリング・リヴァーブや、ヴィンテージのアナログ・ディレイ、フェイザー・ペダルといった昔のローファイの機材も使ったんだ。今回は、ハイファイとローファイが混ざり合っているんだよ。

すべては楽しむことからはじまる。自分のスタジオの中で、レコーディング、ミックス、演奏をするのは本当に楽しいんだ。

プロダクションが少しクリアになることで、派手なパッセージなどはないものの、あなたがたがテクニカルなバンドだということがより見えるようになった気がします。そのあたりはどう感じておられますか?

RN:いいことだと思う。年を重ねると、そういうふうに評価されるのがうれしくなってくるね。

具体的にはとくに“ユア・ライフ・ワン・ナイト(Ur Life One Night)”のリズムなどに驚きます。アレンジの色彩のゆたかさもそうですし、冒頭のシンセも新鮮でした。あなたにとってはちょっと「あそんでみた」というところですか?

RN:すべては楽しむことからはじまる。自分のスタジオの中で、レコーディング、ミックス、演奏をするのは本当に楽しいんだ。あのイントロは、まず僕の弟がいくつものコードをプレイして、僕がそれをデジタルのピッチ・シフターにつないで、各コードをPro Toolsを使ってさらに細かく区切っていった。だから、あの変化はかなり早く起こったんだ。作っていてすごく楽しい曲だったよ。

制作の上で、あなたの相談役となるのはとくに誰でしょう? バンド以外の人物ではどうでしょう?

RN:ジェイク(ベース)にはよく相談するんだ。彼とは長年ずっといっしょに音楽を作っているし、僕たちは、音楽やプロダクションに関して話をするのが大好きでね。レコードやアイディアをいっしょに分析するのが大好きなんだ。それ関係の話題だったら、果てしなく話していられる。バンド以外だと、父親と弟と話すのが好きだね。

誰か組んでみたいエンジニアやプロデューサーはいますか?

RN:クインシー・ジョーンズ(Quincy Jones)とナイル・ロジャース(Nile Rodgers)、それにガブリエル・ロス(Gabriel Roth)。

以前は、あなたが60年代的なサイケデリアを参照するのは、もしかするとシューゲイズ・リヴァイヴァルなど、2010年代的なサイケデリックの盛り上がりに対する違和感があったからかと思っていましたが、もっと根が深そうですね。そこには何があるのでしょう?

RN:自分でもわからない(笑)。ただそういうサウンドが好きなだけだよ。僕のお気に入りのレコードは、60年代や70年代の作品なんだ。

仮にギターを禁止されたら、どのように音楽をつくりますか?

RN:シンセサイザーかサンプラーを使うね。

「マルチ・ラヴ」というのは、憎しみや戦いに打ち勝つための愛の武器のようなものだと思っていた。ロマンティックなアイディアとはかけ離れていて、すごく理想主義的だったんだ。

“マルチ・ラヴ(Multi Love)”には「3人の人間が並んだときに生じる欲望の三角関係」という説明がありましたが、それは「the eternal triangle」という言葉とはまったくニュアンスのちがうものですね。これがタイトルになったのはなぜでしょう?

RN:信じられないかもしれないけど、あのタイトルはバンドをはじめる前に思いついたものなんだ。「マルチ・ラヴ」というのは、憎しみや戦いに打ち勝つための愛の武器のようなものだと思っていた。ロマンティックなアイディアとはかけ離れていて、すごく理想主義的だったんだ。アルバムのタイトルは最初の歌詞だし、俺の人生もアルバムもそれとともにはじまった。この言葉を思いついて、言葉の意味を見つけ出そうとしてから、僕の人生と作品はかなり変化したんだ。

3人という集団は、社会の最小単位でもあると思います。あなたはミニマムな社会というような意味で「3人」からなる関係に興味を抱くのですか?

RN:自分たち自身にとっての新しいストーリー、そして人生の新しい道を作りたいと思ったんだ。ある意味、政治的な感じもした。共存しようとすること、それを機能させるために進化しようとすることは、すごく勇敢な気がして。新しい方向へ進む中でのひとつの動きのような感じだったんだ。

共存しようとすること、それを機能させるために進化しようとすることは、すごく勇敢な気がして。

“ネセサリー・イーヴィル(必要悪)”というタイトルなども社会や世界というレベルで生まれてくる発想だと思います。あなたがそうした大きなレベルから思考することの理由には、あなたが移住のご経験をされている(=アメリカの外部からアメリカを見る視点がある)ことも関係しているでしょうか?

RN:アメリカに住んでいながらその言葉の意味をより深く知っていくのは、エキサイティングでもあり悲しくもある。この国(アメリカ)には、無限の可能性と陰湿な嘘の両方が根を張っているからね。歴史とラヴ・ストーリーには共通点がたくさんある。アメリカで人生を生き抜くと、さまざまなレベルから物事を見れるようになるんだよ。

南米風の“キャント・キープ・チェッキング・マイ・フォーン(Can't Keep Checking My Phone)”なども楽しいです。ベースが心地いいですね。こうした曲はどのようにつくっていくのですか? セッションがベースになるのでしょうか?

RN:この曲は、ドラム・トラックから作りはじめたんだ。まず、弟に、僕が彼に送ったいくつかの曲をベースに何かを作ってくれと頼んだ。ディスコに捻りを加えたような作品を作りたくてね。彼が送ってきたドラムは、本当に完璧だった。コードやメロディといったほかのものはすでに考えていたんだけど、普段もそれをできあがったドラム・トラックに入れて、後からベースをつけていく。この曲のメイン・コーラスのベース・ラインを書いて演奏したのはジェイクで、ヴァースのベースを書いてレコーディングしたのは僕だよ。

90年代のR&Bにはリスナーとして思い出がありますか? シンガーをプロデュースしたいというような思いはあります?

RN:そういった音楽にはかなりハマっていたんだ。子どもの頃、自分の親のショー以外で初めて見たのはボーイズ・トゥ・メン(Boys Ⅱ Men)のコンサートだった。いまでもSWVはよく聴いてる。彼らとテディ・ライリー(Teddy Riley)のコラボ作品は本当にすばらしい。そういう作品は、俺が子どもの頃にラジオで流れていたんだ。もしシンガーをプロデュースするなら、自分がプロデュースするにふさわしいプロジェクトで作業したい。いまはツアーですごく忙しいけど、あっちやこっちで数人のアーティストとコラボレーションしているよ。

テレビドラマや映画などで、ここしばらくのあいだおもしろいと感じたものを教えてください。

RN:Netflix(※アメリカのオンラインDVDレンタル及び映像ストリーミング配信事業)で、『ホワット・ハプンド・ミス・シモーヌ』っていうニーナ・シモン(Nina Simone)のドキュメンタリーを見たばかりなんだけど、あれはかなり気に入ったね。彼女はまさにクイーン。本当に素晴らしくてパワフルな存在だと思う。彼女のストーリーは、痛みや喜び、葛藤や鬼才をめぐる壮大な旅なんだ。それから、しばらくテレビや英語を観る時間がそんなになかったんだけど、『ゲーム・オブ・スローンズ(Game of Thrones)』の新シーズンは最近観たよ(笑)。俺は負け犬が好きなんだけど、あの番組に出てくるのは弱者だらけだから、お気に入りのショーなんだ。

質問作成・文:橋元優歩(2015年7月17日)

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