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interview with yahyel

interview with yahyel

愛する人であれ

──ヤイエル、インタヴュー

取材・文:小林拓音    Mar 27,2018 UP

捨てたからには選んだものを自分の意志で愛さないと、残ったものを愛していかないと前には進めないんだなとそのときに思ったんですよね。


yahyel - Human
ビート

SoulBass MusicLove What Survives

Amazon Tower HMV iTunes

■サウンドに関して、今回は“Rude”や“Pale”、“Battles”の後半部分のようにリズムがもたつく曲が増えたと思うのですが、それはリリックの変化ともリンクしているのでしょうか?

池貝:どちらかと言うと今回は表現にフォーカスしていこうと思ったんですね。前回のときは、日本のすごくドメスティックな状況に、ふつうに海外のオンタイムな音楽を持ってこられるかどうかということ自体がある種のメッセージみたいになっていて、「やれないわけないじゃん」という思いがあったんですけど、今回はとにかく自分たちが言いたいこと、自分たちの正解を探そうというプロセスで音を選んでいますね。もちろん、あとから分析したら「あのときはあれを聴いていたな」とかいくらでも理由はつけられると思うんですけど、基本的に今回の制作では言いたいことにフォーカスしています。

■今回はベースがぶんぶん鳴る曲も増えたように思います。“Polytheism”や“Body”、“Iron”とか。

池貝:そうですね。去年1年間はたしかにしんどかったんですけど、ヤイエルとしてはかなり濃密な時間を過ごしていたし、われわれが5人でやるとどうなるのか、やりたいことはなんなのか、われわれの色味はなんなのか、みたいなところをひとつひとつ5人で共有してきたので、映像も含めてそれがすごく強固になった、その過程でそういう音選びがされたということだと思います。

篠田:ベースとか音選びに関して言えば、やっぱりライヴから還元された部分がすごく大きくて。以前からライヴではわりと暴力性みたいなものが5人の共通認識としてあったにもかかわらず、『Flesh and Blood』にはそこがあまり落とし込められていなかった。そのとき聴いていたものの影響だとは思うんですけど、僕たちのなかでもインディR&B的なサウンドとベース・ミュージックとのあいだで揺らぎがあったと思うんです。自分たちがどこにいるのかわかっていなかったというか。それがライヴからの還元が入ることによって、R&B的なメロウやスムースみたいなものから離れていって、自分たちのアイデンティティがわかってきたということもあって。そういうライヴでやってきたような暴力性をいかに閉じ込めるかというところでの選択として、ベースがああいう音になったというのはありますね。

■“Iron”は曲のなかで壊れていく感じがあって、もしかしたらこのアルバムのなかでいちばんの肝なんじゃないかと思いました。

篠田:それはほんとうにおっしゃる通りで、“Iron”は制作の初期段階でできた曲なんですよ。あの曲がわりと指標になっていて。


■去年の夏にシングルとして出した曲ですよね。10月にマウント・キンビーとやったときにはもうアルバムはでき上がっていたんですか?

篠田:ほぼほぼでき上がっていました。

池貝:でもまだぜんぶはでき上がってなかったですね。最後の曲(“Lover”)はマウント・キンビーとのライヴのあとに書きましたよ。その曲にはマウント・キンビーのメンバーと話していたことがすごく反映されていますね。

■最後の曲(“Lover”)はグランジっぽい感じで始まって他とは雰囲気も違いますし、9曲目の“Pale”と「ループ」という言葉で繋がっていて、9曲目では「戻れない」「諦めろ」だったのが、10曲目ではそこから脱出しようとしています。アルバムの最後にこの曲を持ってきたのには特別な意図があったのですか?

池貝:いや、“Pale”までやった時点で「そういうことか」と気づいたところがあって、結局逃れられないのって捨てていないからだと思ったんですよ。“Pale”はそういう曲なんです。取捨選択をしない状態ではループからは逃れられないというか。それで、先に進むためにはどうするのかという曲が“Lover”なんです。べつに愛情がどうこうみたいな話じゃないんですよ。単純に、残ったものを愛するしかない。マウント・キンビーの前回のアルバムは『Love What Survives』でしたよね。それとまさに同じことで、捨てたからには選んだものを自分の意志で愛さないと、残ったものを愛していかないと前には進めないんだなとそのときに思ったんですよね。
  マウント・キンビーとライヴをして、最後にメンバーと話したんです。「東京ってこういう街で」とか、ヨーロッパに対するコンプレックスとか、そもそも誰も本音を話したがらないからブレイクスルーがないとか、いまの「海外から来たものはなんでもいい」みたいな状況とか、日本人の海外の人たちへの丁寧な感じというのは見栄でもあり「ストレンジャー」としてのおもてなしみたいなものなんだ、というような話をして。「俺は、そういうこと自体がコミュニケイションを遮断しているから嫌で嫌でしょうがなくて、そこが制作の肝になっている」という話をしたら、カイ(・カンポス)が「それは俺らもわかっているけど、そもそも俺らは何もできないじゃん。でも俺らも同じような表現者としての壁があるし、イギリスから来たイギリスの音楽みたいなものへのステレオタイプもあるし。みんな出自みたいなものは持っていて、それを変えられないということは同じだし、折り合いをつけなきゃいけないときが来ると思うよ」と言って。僕はそれですごく納得したんですよね。
  この1年間オーディエンスに対するアティテュードの部分ですごく混乱していて、われわれに居場所を与えてくれている人たちのことがすごくありがたかった反面、彼らは俺らのことを話していないという感覚もあったので、どうしたらいいかわかんなくなっていたんです。だから、ステージに立つ側にいる人が同じような感覚を持って表現していたこと自体が僕にとってすごく救いだった。僕らはマウント・キンビーのことが好きで聴いていましたし、最初のアルバムの制作時には影響を受けていたと思うんですけど、じっさいに会ってみて、音だけで勝負できる媚びないアーティストってそういう部分をちゃんと掘っているんだなと思いましたし、自分のアウトプットに自信があるのはそれがちゃんとリンクしているからなのかなと。それで、自分たちも当事者としての責任と覚悟を持たないといけない、それはある意味では自分がいちばん大事にしているものを捨てなきゃいけないということだし、そのことにちゃんと自覚的になったうえで最期は自分の選択を信じないといけない、と思ったんですよね。だから最後の曲が“Lover”になったんだと思います。


しょせん音楽なので、それが表現としてあるということ自体がたいせつなことであって、音楽で影響を与えられるみたいなことっていまとなってはすごくくだらないと思うんですよね。

■ではそこで捨てたものとはなんでしょう?

池貝:ちょっとまだわかんないんですけど、もしかしたら人を変えられるということ自体を諦めたのかもしれないですね。しょせん音楽なので、それが表現としてあるということ自体がたいせつなことであって、音楽で影響を与えられるみたいなことっていまとなってはすごくくだらないと思うんですよね。ちゃんと自分のことを言うことのほうが大事だと思いますし、コンプレックスみたいなものに対していつまでも怒っていてもしょうがないし、自分たちがちゃんとストイックになって良いものを作って、その先で開かれる扉みたいなものを見たいと思うんですよね。

■アルバムを締めくくる「Be a lover」という言葉は、自分自身に対して言っているところもある?

池貝:自分自身に向けてでしかないと思います。自分ですよ(笑)。でもこれはちゃんとして行動の選択だと思っていて。

■訳詞だと「愛せ」と動詞になっていますが、直訳すると「愛する者であれ」という感じですよね。愛する「人」であれ、というところがおもしろいと思いました。

池貝:ほんとうにそうだと思います。選択と行動をとる人間でありたいと思うので。

■じつは編集長からひとつ質問を預かってきているんですよ。いまの時代ほど「かっこいいことはなんてかっこ悪いんだろう」(早川義夫)と思いませんか?

池貝:ははは。そうなんですよね。ほんとうにそうだと思います。ますます正直な人が損をする世の中ですよね。

■それはたしかに感じますね。

池貝:このアルバムで人間って首尾一貫していないし、何かを選択しないといけないという結論を出しておいてなんなんですけど、僕は首尾一貫している人のほうがぜんぜん好きなんですよ。移ろっていく人って僕はなんかつらくなっちゃうんですね。だから苦しいわけで、そういう一貫したかっこいい人がいる時代もあったような気がするんですけど、僕らはもうそういう感覚のなかに生きられない。情報量が多すぎるし、個人的には言い訳が多すぎると思う。だからまさにおっしゃる通りで、結局かっこいいことがかっこ悪くなっちゃうんですよね。ファクトを言っちゃうとかっこ悪いみたいな(笑)。

篠田:難しいね。

■ダサく見えちゃうということ?

池貝:言い訳がなくなるのが怖いんじゃないんですかね。でもそれも含めて「自分はそう思う」ということを選択していかなきゃ僕は無理だったんで、自己肯定も必要だとは思うんですよね。それがいかに宗教らしくなろうとも、自分が考え抜いて出した結論を愛するということしかできないんじゃないかなと。かっこ悪くなっちゃうというのもわかりますけど、それを捨てるというのもひとつの結論なんじゃないかと思います。でもすごくわかります(笑)。

■首尾一貫している人のほうが好きというのはおもしろいですね。たぶん一般的には「不完全でダメだよね、だから人間って素敵だよね」みたいなことを言う人のほうが多いと思うんです。

池貝:僕はその弊害もあると思っているんですよ。「不完全であることが良いこと」みたいにフォーマットになってきちゃっているけど、それってあらかじめ定義されていることになりますよね。人間の自然な姿の結果があって、それが不完全だから魅力だよねという話ならわかりますけど、そこを目指すということの弊害はあると思いますね。

篠田:そうだね。不完全だから魅力的なんじゃなくて、完全にしようと目指しているんだけど結果的に不完全になってしまう、だからこそようやく魅力的になるんだという気がします。池貝も横で見ていてそういう感じがあるというか、俺は一貫しているんだよねって振りをしているんですけど、そんなことないし、『Human』にはそれが表れてしまっているところがおもしろいと思うんですよね。

取材・文:小林拓音(2018年3月27日)

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