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interview with Galcid

interview with Galcid

Galcid アンビエントを作り、そして語る

取材・文:小林拓音    写真:小原泰広   Apr 28,2021 UP

ふつうの音楽ならどんどん進行していってくれるので、あまり考える余白がないじゃないですか。私にとってのアンビエントって、考える余白がめちゃくちゃあるものなんですよ。

 副業にこそ活路を見出すべし。本人からはお叱りを受けそうだが、モジュラーシンセ・マスター galcid によるアンビエント作品はそれほど魅力的なのだ。
 最初の驚きは前回の「Galcid's Ambient Works」。それまでのインプロ主体の印象を覆し、アルバムとしての完成度を高めた(齋藤久師との)SAITO 名義の作品もリスニング・テクノとして刺戟的ではあったのだけれど、galcid の可能性はじつはアンビエント路線にこそ潜んでいるのではないか。少なくともぼくはそう感じた。

 整理しておこう。去る3月、〈Detroit Underground〉から『Hope & Fear』が出ている。これが、前回のインタヴューで語られていた、完成しているのに世に出るのが遅れに遅れたセカンド・アルバムだ。SAITO における音の冒険や幅の広がりなんかも、きっとこの『Hope & Fear』で手ごたえをつかんだ結果なのだろう。冒頭のメッセージ・ソングを筆頭に、いろんなタイプの曲が並んでいる。とくに注目しておきたいのは最後の “Microscope”。このノンビートの小品こそ、「Galcid's Ambient Works」の天啓をもたらしたにちがいない。
 その続編となる「Galcid's Ambient Works 2」も4月27日にリリースされたばかり。これまた「1」に引けをとらない良質なアンビエント作品で、やっぱり galcid のアンビエント路線、めちゃくちゃ合ってるんじゃないかと思う。そんなわけで今回は、galcid にとってアンビエントとはなんなのか、大いに語ってもらいました。

コロナで外に出なくなって家で音を流していると、やっぱりスクエアプッシャーとかに反応してしまうんですよね。「エモい!」みたいな(笑)。やっぱり私の源流はここにあるんだなって。

まずは3月に出た『Hope & Fear』についてですが、これが昨年のインタヴューで仰っていたセカンド・アルバムですよね。

レナ:はい。あれからコロナでさらに遅れて、3年越しですね。もう自分でも内容を憶えていないレヴェル(笑)。ちょっと他人事というか。そのときは一生懸命つくりましたけど、3年も空くとね。もうフレッシュではないイメージになっていて。半分お蔵入りというか(笑)。

ファーストよりも曲の表情というか、ヴァラエティが豊かになっていて、機械のエモーションのようなものを感じました。

レナ:それはあるかなと思います。1作目は意識的にかなりミニマルにしていましたので。この2作目は、たとえば最後の曲なんかは、前回のアンビエント作品(「Galcid's Ambient Works」)につながる感じになっています。自分のそういう側面も出していきたいという想いが増えて。あと、言葉もけっこう入れていますし。

冒頭からいきなりメッセージ・ソングですよね。原爆と原発をつないでいる。なぜこれを1曲目に?

レナ:聖域をつくるというか……

聖域?

レナ:メッセージも強いし、音も過激なので、これを聴けるひとはその後の曲も聴けるだろうって。ここを越えてきてくれたひとは、ぜんぶ受けいれてくれるだろうなと。会員制のような(笑)。超えてきてくれたひとに「どうぞ、ほかにもいろいろあるよ!」って。

なるほど、だいぶ分厚い扉ですね(笑)。3・11について、考えることがよくあったということですよね。

レナ:ありましたね。じつは、この曲だけ “Noticed nuclear” という名前で、少し前につくっていたんですよ。でもそれから年月が経つにつれ忘れられていっている感じがしたし、知り合った福島の方がいたんです。それでリアルな話を聞く機会もあったので、“Noticed nuclear” のように安易な曲名ではなく、“Awareness” に変えて冒頭に持ってきたというのはありますね。

アルバムが出たのが3月だから、ちょうど10周年のタイミングですよね。

レナ:しかも、他の曲名もいまのコロナの世相を反映している感じになっていて。

期せずして、いろんな意味を含んだアルバムになったと。

レナ:はい。“Large Crowd” とか「密」じゃないですか。3年寝かせた意味があったのかもしれないと思いました。聴きなおして、音も古くはなっていなかったのでよかったです。それに、買ってくださった方も多くてびっくりしました。

ヴァイナル即完だそうですね。ディスクユニオンでも1位になったとか。

レナ:そうなんですよ。ダンス・チャートで1位に。

再プレスの予定はあるんですか?

レナ:ないです。転売してください(笑)。うちにも1枚しかないんですよ。

それほどリアクションがあったのは、ご自身ではなぜだと思いますか?

レナ:ぜんぜんわからないんですよね。大々的に広告を打ったわけではないですし。予約時点で売り切れていたそうなんですが、だれかが頑張ったというわけではないんですよね。リリース・パーティもいっさいできなかったので、理由はわからないです。ただ、バンドキャンプでの注文が多かったみたいなので、けっこう試聴はしてもらったのかもしれないですね。

今回も基本はインプロですか?

レナ:インプロ感を残しつつ、作曲しています。そのせめぎ合いを(齋藤久師に)プロデュースしてもらった感じで、勢いは残したいけれど、作品としてリピータブルにもしたい、そのせめぎ合いでしたね。

つくられたのは3~4年前ですが、そのとき「これはブレイクスルーだな」と思った曲はありましたか?

レナ:じつは、自分にとってすごく恥ずかしいことをやったんですよ。“Back To Teenagers” とかモロじゃないですか。

いわゆるドリルンベースですね。

レナ:高校生のときに聴いていたやつをそのままやったんです(笑)。もちろん、いまの私なりの解釈は入れてますけど、ここまで「まんま」でやる? みたいな笑っちゃう感じの自己開示ですね。これまでは「とくに影響受けてないです」みたいな顔をしていたんですが、コロナで外に出なくなって家で音を流していると、やっぱりスクエアプッシャーとかに反応してしまうんですよね。「エモい!」みたいな(笑)。やっぱり私の源流はここにあるんだなって。この曲を聴いたレーベルのオーナーもニヤニヤしていました(笑)。

今度まさにスクエアプッシャーのファーストがリイシューされますよ。ちなみにぼくは “Electronic Flash” が気になりました。ちょっと点描的な感じがあって。

レナ:その曲も好評でした。あと “Scheme And Impatience” も好反応が多かったです。みんなばらばらなんですけどね。でもそうやっていろんな方にプレイリストに入れてもらったりしたのがセールスにつながったのかもしれないですよね。これまでは、アンダーグラウンドであることに妙なプライドがあったというか、「べつに売れなくていいんです」みたいな、ちょっと卑屈な感じがあった。「どうせ理解されないし」みたいな。でも今回結果を出して、ひとつスタイルを確立できて、自分のなかですごく自信になりました。

取材・文:小林拓音(2021年4月28日)

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