「IR」と一致するもの

C.E presents Low Jack, Rezzett & Tzusing - ele-king

 ファッション・ブランドC.Eによる最新パーティが9月8日(金)に開催される。ヴェニューはVENT。パリからロウ・ジャック、ロンドンからレゼット、上海/台北からツーシンとなかなかに強力な面子で、これは楽しい一夜になること間違いなしだ。詳細は下記よりご確認を。

[9月4日追記]
 当日、会場限定のTシャツが販売されるとのことです。これは行くしかない!


すべてはナムコからはじまった
『パックマン』『ギャラクシアン』『ニューラリーX』『ゼビウス』『マッピー』

いまや世界中で親しまれているゲーム音楽、その出生の秘密を探る

「今となっては信じられないことだが、初期の時代のビデオゲームにはゲーム音楽が存在しなかった。〔……〕では、いったいどのようにしてゲーム音楽が誕生し、やがて世界に類を見ない、日本独自のゲーム音楽市場が形成されるに至ったのか? 今までほとんど顧みられることがなかった、ゲーム音楽誕生から今日まで至る過程の歴史を紐解くにあたり、とりわけ絶対に避けて通れないのが、ナムコの黎明期の作品である」(まえがきより)

効果音から音楽へ──
多くの取材・証言から浮かびあがる、先駆者たちの試行錯誤と草創期の真実

四六判並製/256頁

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刊行記念トーク&サイン会開催
ゲーム音楽家インタヴュー集
『ナムコはいかにして世界を変えたのか』
2023年10月9日(月・祝)12:00~14:00(予定)
@秋葉原 書泉ブックタワー 9Fイベントスペース
https://www.shosen.co.jp/event/12953/

目次

まえがき

第1章 「ゲーム音楽」前史
第2章 伝説のメーカー、ナムコの参入
第3章 「ゲーム音楽の父」大野木宣幸
第4章 ゲーム音楽専門コンポーザーの誕生
第5章 「ゲーム音楽」市場の形成

あとがき
参考文献・サイト

【著者プロフィール】
鴫原盛之(しぎはら・もりひろ)
1993年に「月刊ゲーメスト」の攻略ライターとしてデビュー。その後、ゲームセンター店長やメーカー営業などの職を経て、2004年からゲームメディアを中心に活動するフリーライターとなり、近年では文化庁のメディア芸術連携促進事業 連携共同事業などに参加し、ゲーム産業史のオーラル・ヒストリーの収集・記録も手掛ける。主な著書は『ファミダス ファミコン裏技編』『ゲーム職人 第1集』(共にマイクロマガジン社)、共著では『デジタルゲームの教科書』(SBクリエイティブ)『ビジネスを変える「ゲームニクス」』(日経BP)などがある。2014年より日本デジタルゲーム学会ゲームメディアSIG代表を務める。

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K-Lone - ele-king

 K-ローンの新作がこれまたシンプルなんだけどすばらしいテクノ・アルバムで、というのをこの手の音楽が好きそうな人に最近会うたびに言っている、この数週間。このくそ暑いなか、そのリフをクーラーの効いた部屋で、鼻歌まじりで歌いたくもなるメロディアスで涼やかなアルバム。

 その名前を意識したのは2018年のパリスの運営する〈Soundman Chronicles〉からのシングル「In The Dust EP」と自身のレーベル〈Wych〉からの「BB-8 / Barbarossa」。聴きようによってはベーシック・チャンネルのダウンテンポ・ヴァージョンとも言えなくもない “Old Fashioned” にひかれて買ったら、併録の軽やかなチル・エレクトロ “In The Dust Of This Planet” にハマってしまった前者。かたや後者のウェイトレスなグライムに、チップ・チューン的サウンドの鼻歌交じりなメロディにも引っかかってしまい……どちらにしろ、ベース・ミュージック・シーンにおける、そのライトさというか、かわいげというか、とにかくあまり当時他では聴けない「軽やかさ」で気になる存在となりました。前述のパリスとのかかわりに加え、〈Idle Hands〉から出していたり、レーベル〈Wisdom Teeth〉を共同運営する相棒のファクタ(Facta)はホッジ(Hodge)とのコラボ・シングルを出していたり、さらに同年の2018年にはファクタが〈Livity Sound〉から「Dumb Hummer / All the Time」を出していたりと、この人たちはブリストルの……というフォルダに勝手に頭のなかで整理してたんですが、いろいろ調べたらロンドンの人たちなのかと。ちょうどその頃ぐらいからふたりの作り出すサウンドは、どこかラウンジーなライトさをメインに出してきていて、ポスト・ダブステップがひとまわりした2010年代末に、完全に復権したイケイケのUKガラージの傍ら、ベース・ミュージック・シーンのなかでUKガラージも内包しながら、鮮やかな差し色のような音楽性で気になる存在となりました。いま思えばDJパイソンの『Dulce Compañia』も2017年にあってという。いまこうして見ると、いまに続く、わりかしライトでチル・アウトなムードのメロディアスなダンス・トラック、そのサイクルはこのあたりに突端があるんじゃないかなと。結果論ですが。

 2020年4月、コロナ禍での世界的なロックダウンとほぼ時を同じくして、〈Wisdom Teeth〉からK-ローンはファースト・アルバム『Cape Cira』をリリースします。キュートな作品というか、ニューエイジなモードとも、いわゆるUKの叙情的・内省的なテクノとも違った、チルでトロピカルな、どこかイージー・リスニングな空気が漂うこのアルバムが、それこそ初期のロックダウン中に最も聴いたアルバムになったという人も多いのではないでしょうか。2020年といえば、多くのDJたちがロックダウン中にアンビエント/リスニング・テクノの作品を作り、2021年前後にはそうした作品が大量にリリースされるわけですが、それより少し早い、しかもロックダウンが本格的になる4月にリリースされたことを考えれば、制作はその前にあたるわけで、ある種のコンセプチャルなサウンドに思えてきます。2021年には同じく〈Wisdom Teeth〉からは、その『Cape Cira』の軽やかな空気感、パイソン『Dulce Compañia』のトロピカルなリズム感を足して、さらにアンビエント・タッチで骨抜きに溶かし込んだようなファクタのアルバム『Blush』もリリース。さらには先日来日も果たしたトリスタン・アープの、やはり『Cape Cira』を発展させたようなアルバム『Tristan Arp』もリリース。〈Wisdom Teeth〉のサウンド、とりわけレーベルのアルバム単位での路線がこの設立者ふたり+他人で、明確になった印象もありました。でもシングルでは、これまた先日来日したイタリアのピエゾなど外部のアーティストを起用しつつ、主宰の両名もUKガラージやハウスを援用しながら、こうしたアルバムでのライトな音楽性の路線とダンスフロアとの接点を模索していくわけです。また2021年には、もう少しダンス寄りながら、同じようなポップな軽やかさを内包したアルバム『Soaked In Indigo Moonlight』を朋友パリスがリリースして外部から援護射撃したような感覚もありました。

〈Wisdom Teeth〉といえば、2022年、多くの新人とともに、BPM100という、いままでジャンルのフォーマットとして「空き」となっていながらも、実はDJたちにとっては意外となじみ深いBPM(このコンピ以前に、彼らの周辺とは離れたところ、例えば日本にもそうしたコンセプトのパーティやミックスはわりと昔から散見されていた記憶はある)をコンセプトにしたコンピ『To Illustrate』をリリースします。ある種のハウスやテクノの定石であるBPM120~130の、どうしても身体が動いてしまう性急なその “強い” グルーヴィーさを持ったBPMと、それ以下のロウでドープな感覚やチル過ぎるスローでどうしてもグルーヴ感が “弱い” BPMの間。これをレーベルが標榜してきた「軽やかさ」をグルーヴとともに追求するために選んだひとつのコンセプトと考えると、いろいろつながるようにも思えてきます。

 そしてこうした活動の後に、このタイミングでリリースされた本作が、実はわりとオーソドックスなハウスやテクノのBPMの楽曲が多いというのもなかなか興味深いですね。「膨張」と名付けられた本アルバムはゆっくりと空間をカラフルに染め上げていくメロディアスで軽やかなサウンドが続きます。ヴォイス・サンプルとオールド・スクールなビデオ・ゲームのポップな色調のオープニング画面を想起させる “Saws” ではじまり、軽やかなエレクトロ・ハウス “Love Me A Little” でアルバムは走り出します。アルバム中盤の “Oddball”~“Shimmer” は、90年代中頃の〈クリア〉や、ラウンジ・リヴァイヴァル期のエイフェックス・ツインμ-Ziqのコラボ=マイク&リッチを思い起こすようなイージー・リスニングなメロディのエレクトロを展開。ダウンテンポ “With U” のけだるいヴォーカルは、最近のUKガラージのイケイケっぷりを象徴するヒット曲 “B.O.T.A. (Baddest Of Them All)” で知られるエリザ・ローズ。
 そして後半、アルバムのBPMは、ハウスへとシフト・アップしていきます。テクノ的な堅さと、フュージョン的なメロディを併せ持つ、ある意味で正調UKディープ・ハウスとも言えそうな2曲 “Gel” “Love Is”。そしてアルバムはUKのリスニング・テクノのクールな伝統をなぞるようなテクノ・トラック “Volcane” で幕を閉めます。全編、ここ数年、彼が追求してきた「軽やかさ」とメロディアスなイージー・リスニングのような感覚というのが、ダンサブルなテクノやハウスの実はオーソドックスなフォーマットにしっかりと練り込まれたアルバムではないかと。こうしたサウンドが今後、どのようにダンスフロアへと波及していくのかが興味深いポイントで、先日のアンソニー・ネイプルズのアルバムもそうですが、DJカルチャー出身のアーティストがこうしたリスニングにおいてもエポックメイキングな作品を出すのはもまたおもしろいですね。

 彼らの影響もあると思いますが、ここ数年、わりとテクノやベース・ミュージック周辺で、メロディやこうした「軽やかさ」が復権している感じもあって、それはある種のR&Bやソウル、もしくは初期のUKやオランダのデトロイト・テクノ・フォロアー的な叙情性や内省的なメロディ、またはプログレッシヴ・ハウスやトランスの壮大な感じの感覚とも違っていて、このあたりの感覚をふと先日どこかで聴いたな……と思い出したんですが、やっぱり2014年のエイフェックス・ツインの復活作『Syro』なんですよね。特に先行で公開された冒頭の “Minipops 67 (Source Field Mix)”。ひさびさの作品ということで件の曲を聴いて「ああ、こういうのありだよな」というのが実はあって、なんとなくこれがゲーム・チェンジャーになったのではないかという妄想も浮かんだりします。もちろんK-ローンがそこを目指していたかはわかりませんが、サウンドの空気感としては同じモノを感じてしまいます。とはいえ、10年前ですから、いまの音に結びつけるのはちょっと無理筋すか?

interview with Jessy Lanza - ele-king

 2010年代に登場してきたエレクトロニック系のアーティストのなかでも、ジェシー・ランザは独自のポジションを築いてきた。〈Hyperdub〉のなかではかなりポップな立ち位置だけれど、メジャーの豪華なサウンドやハイパーポップの過剰さとは相容れない。折衷的で冒険心はあるもののけっして前衛主義というわけでもない。R&Bを基調としたその親しみやすいシンセ・ポップ・サウンドは、ヴォーカル面でよく比較されるFKA・トゥイッグスケレラとも大きく異なっている。意外と、彼女に似ているアーティストっていないんじゃないだろうか。

 カナダ出身、現在はLAに居を構えるジェシー・ランザ通算4枚目のアルバム『Love Hallucination(愛の幻覚)』は、ハウス・ビートの “Don't Leave Me Now” で幕を開ける。ご機嫌な曲調とは裏腹に、車に轢かれかけ広場恐怖症になった経験から生まれたというこの曲につづくのは、2ステップ調の “Midnight Ontario” に軽快なエレクトロの “Limbo”。どれもからだを揺らしたくなる曲だ。静かなアンビエントR&B的側面も有していたファースト『Pull My Hair Back』(2013)以降、『Oh No』(2016)、『All The Time』(2020)と徐々にダンサブルな要素を増やしていった彼女だけれど、持ち前のはかなげなヴォーカルとシンセ・ポップ・サウンドはそのままに、新作序盤では身体性への欲望がひとつの壁を超えたような印象を受ける。
 おそらく同時並行で『DJ-Kicks』(2021)を制作していたことが影響しているのだろう。プレイするトラックに自身のヴォーカルを載せていくスタイルはケレラのミックスとおなじだが、こちらはテクノ~ハウスが軸で、ジェシー・ランザのなかのアグレッシヴな一面が展開された作品といえる(レーベルメイトのロレイン・ジェイムズとの共作曲も収録)。パンデミック中~直後におけるフロアへの渇望を表現したかのような同ミックスの余波は、確実に今回の新作にも及んでいる(じっさいはクラブにはそんなに行かないらしいが)。

 べつの意味でも序盤の3曲は重要だ。2曲目は〈LuckyMe〉のジャック・グリーンとの、3曲目はテンスネイク名義で知られるドイツのハウスDJマルコ・ニメルスキーとの共同プロデュース作品であり、また、これら3曲すべてにポスト・ダブステップ期における重要人物のひとり、ピアソン・サウンドことデイヴィッド・ケネディが参加している。これは彼女のキャリアにおける画期といっていいだろう。というのも、従来彼女がジェレミー・グリーンスパン(ジュニア・ボーイズ)以外のプロデューサーをアルバムに起用したことはなかったからだ。
 テーマは信頼だという。阿吽の呼吸というわけにはいかない未知の他人と共同作業をやっていくには、たしかに、相手を信頼しておく必要がある。おなじく初めてのプロデューサー、ポール・ホワイトを迎えた “Marathon” ではひとりよがりのセックスが歌われている。他者の存在について考えることを促す歌詞だし、そもそも今回の新作はほかのひとに提供するためにつくられた曲たちがもとになっているのだ。だから「愛の幻覚」なるタイトルはたんに恋愛関係にとどまらず、広く人間同士の関係をあらわしているとも解釈できる。その点でも本作は、多くの人びとが孤独に浸ったパンデミック以降の感覚を体現する作品といえるだろう。

 もちろん、勝手知ったるグリーンスパンとのコンビもいい成果を残している。個人的には、ちょっとだけドレクシアジ・アザー・ピープル・プレイスを想起させる “Drive” にぐっときた。これまでもフットワークやYMOなどさまざまな音楽を貪欲に参照してきたジェシー・ランザ。その好奇心はいまなお健在のようだ。

このアルバムのテーマのひとつが「信じる」ということだった。自分以外の人たちを信頼する、ということ。

お住まいは現在もシリコンヴァレーですか?

JL:いいえ。いまはロサンゼルスに住んでいる。いまはちょうどカナダで家族と過ごしているところなんだけど。パンデミックの期間中はシリコンヴァレーに住んでいて、その後ロサンゼルスに引っ越した。

シリコンヴァレーはITの街のイメージがありますが、音楽カルチャー的にはどのような場所なのでしょう?

JL:そう、そのイメージが強いと思う。リンジー・バッキンガムのようなシリコンヴァレー出身のアーティストはいるけど、音楽シーンがあるという感じではないかな。とくにいまは大きな動きはないと思う。

パンデミックの年に出た『All The Time』以来3年ぶりのアルバムですね。パンデミック以降のこの3年、どのように過ごされていましたか?

JL:まずはロサンゼルスに引っ越したことが大きかった。前作が出たあと、ツアーにも出られなかったから、それ以外は本当に何もしていなかった気がする。じつはそのころグリーンカードが下りるのを待っていたから、国外に出ることもできなかったのよ。グリーンカードを待っている間に、『Love Hallucination』のほとんどの曲を書き上げて。そういう意味では充実した時間だった。普段はライヴをやったり、旅をしたり、家族に会いに行ったり、なかなかじっくり曲づくりに向き合う時間がないから。

ロサンゼルスに引っ越されたのは何か理由があったんでしょうか。

JL:主人の家族がサンフランシスコにいるからわたしたちもシリコンヴァレーに住んでいたんだけど、IT関係の仕事をしていなければあまり住む意味がない場所だった。ロサンゼルスは同じ州だけどもっといろいろなことが起こっていて、ここには文化があるから。それに、シリコンヴァレーは物価がものすごく高い。夫が映像関係の仕事をしていることも、ロサンゼルスに住むことにした大きな理由のひとつね。

以前のインタヴューで、家の離れのツリーハウスをスタジオとして利用していると仰っていましたが、新作はロサンゼルスで制作されたんですよね? 木に囲まれて音楽をつくることと、通常のスタジオでの作業との違いはなんですか? そうした環境の違いが、あなたの音楽に影響を与えたと思いますか?

JL:もちろん大きな違いがある。自分を取り巻く環境に木しかない場所は、とても静かだからヴォーカルを録音するのに理想的で。でも、自分が作品づくりをするときの環境はなによりも、わたし自身の精神状態を大きく左右すると思う。木々に囲まれていると精神的に落ち着くし、わたしを取り巻く環境が音楽に与える影響はとても大きいと思う。自分自身をケアしてあげられるか否かということよりも、環境のほうが影響力は大きいと思う。

人間関係がメイン・テーマであることは間違いない。とくに、恋愛関係。恋愛をしているときのわたしは脆弱で自信がなくて。

2021年に名ミックス・シリーズの『DJ-Kicks』を手がけたことは、あなたにどのような経験をもたらしましたか?

JL:『DJ-Kicks』を制作しているとき、同時に『Love Hallucination』の曲を書いていたから、自分にとっては大きな挑戦だった。それに、入れたい曲をまとめたウィッシュリストのなかの何曲かは権利の関係で収録できなかったこともあったし。でも、自分がDJとしてプレイしたい曲と、自分自身の楽曲とのギャップを埋めるようなものをつくってみたかったから、とても興味深かった。わたし自身のヴォーカルを足していく作業も面白い試みだったと思う。DJをやっていると自分の個性がだんだん薄まっていくように感じることもあるんだけど、そこにあえてわたしにしか出せないヴォーカルを乗せることで、新しい境地を開けたように思う。なにか特別なことをやりたいという思いがあったのは間違いない。

その『DJ-Kicks』に収録された “Seven 55” ではロレイン・ジェイムズをフィーチャーしていました(https://www.youtube.com/watch?v=myYggI17_cs)。彼女の音楽の魅力はどこにあると思いますか?

JL:彼女は唯一無二の存在だと思う。彼女がプロダクションを手がけたものは一聴してすぐに彼女の音楽だとわかるほどの個性を持っているから。

これまでもあなたの音楽はダンス・ミュージックからインスパイアされていましたが、『DJ-Kicks』からはよりあなたのダンス・ミュージックへの愛が伝わってきました。クラブにはよく行くのですか?

JL:う~ん。いいえ(笑)。以前よりもDJする機会が本当に多くなって、クラブに行くと仕事モードになってしまうから純粋に楽しめないのよね。それに、わたしが生まれ育った町にはクラブというものがなくて……バーのようなところはあるけど、TOP40の音楽がかかっているような場所だったから、クラブという感じではまったくなかったし。だから、自分のなかにクラブ・カルチャーのようなものがなくて。クラブを純粋に楽しんでいた時期がないから、それを懐かしく思うようなところもない(笑)。

クラブでDJをするときはどんなふうにセットを組み立てているんですか?

JL:そうね……とにかくヴォーカルがある曲をかけるのが好きなの。だから、ハウス・ミュージックをかけるのが好きだし、それにディスコなんかを混ぜて。メロディのあるダンス・ミュージックが好きだから。そう、自分がクラブに遊びに行って、聴きたい曲をかける感じかな。もちろんみんなが楽しんでもらえるようなものをプレイしているつもりだけど、メロディがあってヴォーカルのある音楽が好きだから、そういうものを選んでかけている。

若いころからそうしたヴォーカル・ミュージックを聴いてきたんでしょうか?

JL:そうね。R&Bがずっと好きだったから。

『DJ-Kicks』も同時進行でつくっていたから、ダンス・ミュージックやクラブ・ミュージックもたくさん聴いた。ひとつに絞るのは難しいけど、プロデュースの優れたシンセ・ポップをたくさん聴いていたのは間違いない。

では、新作の話に戻りましょう。これまで長らくジェレミー・グリーンスパンとコンビを組んできて、今回の新作もそうなのですが、初めて彼以外のプロデューサーが参加してもいます。彼以外ともやってみようと思った動機はなんですか?

JL:わたしにとって、それまでに会ったことのないひとと仕事をするのはとても怖いことだった。ジェレミーのことは長年知っているし、ついついやりやすいひとと一緒にやってしまいがち……アーティストとしてどうすべき、ということはべつにしてね。でもこのアルバムをつくるにあたって、少し冒険してみようと思って。たとえばジャック・グリーンの音楽は長年聴いていたし、友人を通して知っていたからぜひ彼と一緒にやってみようと。よく知らないひとがスタジオに来てジャム・セッションすることは本来はとても緊張してしまうから得意ではないんだけど、あえて自分の背中を押したところがある。なにか新しい挑戦をしてみたかったのよ。このアルバムのテーマのひとつが「信じる」ということだった。自分以外の人たちを信頼する、ということ。

ピアソン・サウンドが選ばれた理由はなぜですか?

JL:彼の音楽も長年知っていたし、彼のファンなの。友人の友人だったこともある。ロンドンで1週間ほどオフがあったときに彼にコンタクトをとって。当初はミックスだけしてもらう予定だったんだけど、彼のスタジオで一緒に過ごしているうちにとても仲よくなって、プロデュースもお願いすることになった。

このアルバムの曲づくりをしている段階で、今回はいろいろなひとたちとコラボレーションすることを考えていたんですか?

JL:いいえ。実際の制作に入る前に曲はほとんどできあがっていて、そのときは誰とコラボレーションしようというようなことはとくに考えていなかった。曲を磨く段階になって、いろんなひとのアイディアが欲しいと思うようになってきた感じ。もともと今回一緒にやったひとたちとはメールや電話ですでに話をしていたから、実際にお願いするのに支障はなかったけれどね。

先ほど、今回のアルバムのテーマのひとつに「信じる」ということがあったと仰っていましたが、もう少し具体的にアルバムのテーマを教えてください。

JL:これまでにわたしが経験してきた人間関係がメイン・テーマであることは間違いない。とくに、恋愛関係。恋愛をしているときのわたしは脆弱で自信がなくて。だから、タイトルも『Love Hallucination』にしたのよ。脆くて傷つきやすいから、自分がよく知らないひとを信用することが難しい。でも、ひとを信じることのたいせつさを痛感してきたところもあって、自分自身を変えたいという思いがあった。作品づくりにおいても、これまでのわたしはジェレミーのような気心の知れたひととしかやってこなかったし、ミュージック・ヴィデオはつねに夫とつくってきたから、自分の世界の狭さというものに焦りも感じていたのね。だからこそ、このアルバムで「信頼」と「脆弱さ」というテーマを描いてみた。

ひたすら「わたしは自分が嫌い」と繰り返される “I Hate Myself” は、曲調は明るいにもかかわらず心配になってしまう内容です。このリリックはご自身の体験を踏まえて書かれたものですか?

JL:この曲は不思議な過程を経てできあがった。書きはじめたころはけっこう複雑で散らかった感じだったから、歌詞をどんどん削ぎ落としていって、最終的に「I hate myself」という一行だけが残ったのよ。この曲は、YouTubeにアップされていた動画がベースになっているんだけど。プリファブ・スプラウトの「I hate myself」というフレーズをひたすらループして、ずっと馬が走っているだけの動画。わたしはけっして自分を憎んでいるわけじゃない(笑)。ただ、最初に書いたヴァージョンよりもずっと良い出来になったと自負してる。

元ネタの動画はサイケデリックな感じなんですね?

JL:その通り。検索したら出てくると思う。

“Drive” は海中にいるような感覚を持った曲で、雰囲気はダークではありませんが、ドレクシアを思い浮かべました。彼らの音楽のどのようなところが好きですか?

JL:そう言ってもらえるなんて驚いた(笑)。じつは、この曲のシンセ・パートを書いているとき、ドレクシアのひとりのサイド・プロジェクト、ジ・アザー・ピープル・プレイスを思い浮かべていたのよ! たしか彼の名前はジェラルド・ドナルドだったと思うけど(編注:TOPPはドレクシアの本体にして中心人物、ジェイムズ・スティンソンのプロジェクト)。それでエレクトロな楽曲にしたいと思って、ドラム・パートもジ・アザー・ピープル・プレイスっぽい感じを想定してつくった。この曲はとくにお気に入り。ジェレミーがパーカッションを足してくれて、よりエレクトロっぽい雰囲気のある曲に仕上がって。言ってみれば、ドレクシアとジェレミーの曲という感じね(笑)。

歌詞の面でもサウンドの面でも、制作中に参照したものがあれば教えてください。

JL:制作中はいろんなバンドを聴いていた。プリファブ・スプラウトもそうだし、オーケストラル・マヌーヴァーズ・イン・ザ・ダークもよく聴いていたかな。それにシンセ・ポップのバンドもいろいろ聴いていたし……『DJ-Kicks』も同時進行でつくっていたから、ダンス・ミュージックやクラブ・ミュージックもたくさん聴いた。ひとつに絞るのは難しいけど、プロデュースの優れたシンセ・ポップをたくさん聴いていたのは間違いない。

興味深いですね。では、本作でもっとも苦労した曲はどれでしょう?

JL:“Gossamer” ね。この曲はかなりトリッキーだった。自分でも好きな曲なんだけど、方向性がなかなか定まらなくて。ヴォーカルを入れるべきかどうか悩んでいて……というのも、テクノ・ポップ調にしたかったから。それでイエロー・マジック・オーケストラを聴いているうちに、自然と方向性が固まっていった(笑)。彼らがやっていることがとても好きで、それに共感することでなにかを得ることができたという感じかな。

それは面白いです。ところでヴォーカリストとしてのロールモデルがいたりするんでしょうか?

JL:そうね……プリンスはとても好き。ボウイの歌い方も好きね。それに、高橋幸宏と細野晴臣。彼らの控えめな歌い方にとても共鳴する。挙げたひとたちは全員ちがう個性を持っているけど、その組み合わせがわたしのシンギング・スタイルを形づくっているんじゃないかな(笑)。控えめな歌い方がとくに好き。若いころは、わたしにアメリカのアイドルみたいな歌い方を勧めてくるひともたくさんいたけど……セリーヌ・ディオンみたいなね。でもわたしの声はそういう歌い方には向いていないし。そうね、イエロー・マジック・オーケストラのスタイルにはとても影響を受けていると思う。控えめでいて、ポップでとても効果的なシンギング・スタイルだと思う。

あなたの音楽ではフューチャリスティックな部分と、どこかレトロな感覚がうまく同居しているように感じます。それはご自身でも意識していますか?

JL:ある意味でどこか過去に生きているところがあるのかもしれない(笑)。家族が昔の話をしたりするからかもしれないけど、30年くらい前はいろいろとおもしろいことが起こっていたし、観るもの、読むものもたくさんあった印象がある。昔のほうがよかったとは言わないけど、前時代を生きているところはあるのかも(笑)。

一方で、あなたの音楽にはフューチャリスティックな要素もありますよね。

JL:そうかもしれない。人間は未来を夢見る生きものでもあるから。

その通りですね。では最後に今後のご予定をお聞かせください。ツアーでしょうか?

JL:ええ。9月22日のサンフランシスコから全米ツアーがはじまる。その後、11月から12月はヨーロッパ・ツアーに入るから、秋から冬にかけてたくさんライヴをやる予定。しばらくツアーに出られなかったから、とても楽しみにしている。

本日はありがとうございました。日本でもあなたのショウが見られる日を楽しみにしています。

JL:わたしも楽しみにしている! 2024年のはじめには行きたいと思ってて。まだ日本に行ったことがないから、すごく行きたいと思いつづけてる。日本で会えるのを楽しみにしている。

Holy Tongue - ele-king

 少し前の作品になってしまいましたが……こちらはUKのベース・ミュージック・シーンにおいてオリジナリティあふれる作品をリリースしてきたアル・ウートンが、パーカッショニスト、ヴァレンティーナ・マガレッティとともにスタートさせたホーリー・タン、その待望のファーストLP『Deliverance And Spiritual Warfare』です。本作のレコーディングでは、ヴァレンティーナも在籍するロンドンのサイケ・ロック・バンド、ヴァニシング・ツインのベーシストで、2000年代にはディスコ・パンク・バンド、ゾンガミンでも活躍していたムカイススムが現在はベーシストで参加し、3人体制へと発展しています(ムカイは、すでに2021年のライヴには参加していてその模様は彼らのカセット・アーカイヴ『Live at Servant Jazz Quarters』に収録)。ムカイのベースの他に、アルもシンセなど鍵盤の他にベース/ダブル・ベースを演奏、ヴァレンティーナはドラム、パーカッションの他に鉄/木琴とマレット系の楽器なども担当、そしてプロデュースはアルによるもの。これまでに2020年のシングル「Holy Tongue」を皮切りに、「II」「III」と3枚の12インチ・シングルを発表、ポスト・パンク的なヒリついた音像の、ミニマルかつインダストリアルなサイケデリック・ダブ/ファンク・サウンドで注目を集め、アルの、個人名義やレーベルでのベース・ミュージック・シーンでの活躍っぷりも重なりつつ、UKのある種伝統とも言えるダブ・サウンドの新たな発露として注目されているアルバムと言えるのではないでしょうか。

 アル・ウートンは2010年前後、デッドボーイ名義でポスト・ダブステップにおけるUKガラージ・リヴァイヴァルに世に出た印象のアーティストではありますが、やはり「ダブ」というタームでこの人を捉えるならば、自らのレーベル〈Trule〉を立ち上げた2019年。ブリストルの〈Livity Sound〉あたりを祖にするUKガラージのイーヴンキックを介して、ベース・ミュージックへと越境するテクノ──最近ではブロークン・テクノと呼ばれることもあるトラック群がありますが、〈Trule〉を設立、本名名義の作品をリリースするようになってからは、そうしたサウンドをさらにレゲエへと引き寄せる、いわばブロークン・テクノのダブ・ヴァージョンとも言うべきトラックを次々とリリースし、新たな層にも注目されていきます。具体的にはテクノやミニマル・ダブ、ベース・ミュージック、もしくはモダンなルーツ・ダブなどが交差する汽水域にて、サウンドを更新していったということでしょう。その後は本家〈Livity Sound〉からソロ・シングル、チュニジアのアズ・ティワリン(アルバムが楽しみ)とのコラボなどもリリース、またモーリッツ・フォン・オズワルド・トリオのリミキサーにも抜擢されています。もともとデッドボーイ名義での作品も含めると多彩な人なんですが、今春にはオプティモのレーベルからエスニックなディスコ・ダブ・バンガー「Vitus EP」をリリースして話題となりました。またこうした動き、〈Trule〉のテクノとベース・ミュージックの交わる最前線を構築する動きから、最近ではさらにテクノ色を強めていて、例えば最近ではイタリア出身のビッグ・ハンズ、シェフィールドのポーター・ブローク、アムスのバス・ドッブラーといったアーティストの作品をレーベルからリリースし、最近のヒプノティックなディープ・ミニマルとベース・ミュージックを媒介として、テクノを更新している、そんな印象もあります。こうした動きはつい先頃、アル・ウートン名義でリリースしたアルバム『We Have Come To Banish The Dark』での、サージョンやリージスなどのバーミンガム系のUKハード・テクノの系譜とも親和性の高い傑作アルバムも生んでいます(そちらも必聴)。

 で、話を戻すとこうした活動のなかで2020年に突如、〈Trule〉傘下に〈Amidah〉なるレーベルを立ち上げ、バンド・プロジェクトとしてリリースしたのがこのホーリー・タンなのです。〈Trule〉はデザインにしても、いかにもDJミュージック的なシンプルかつモダンなデザインですが、〈Amidah〉は、その名前からユダヤ教の祈祷を示す言葉だったり、ホリー・トンの、その名前にしても、初期シングルや本作にしてもモノクロの写真による呪術的な壁画やイコンが使われていて、はっきりと神秘主義、ゴシック色の強い方向性が打ち出されているように感じます。また〈Amidah〉からは、イムラム(アイルランド神話に端を発する、英雄による海洋冒険譚)名義でアルは抽象度の強い、エクペリメンタルなテクノのアルバムをリリースするなど、〈Amidah〉には、いわゆるDJツール、ある意味でダンスフロアの機能美を標榜する〈Trule〉とは明確なコンセプトの違いがあることがわかるでしょう。

 その〈Amidah〉から初夏にリリースされた本作、『解放と霊的戦い』とでも訳せばいいんでしょうか、霊性進化論的な、オカルティックな名前に少々心配になりますが、アルバムはファンファーレのようなホーン・セクションのブロウから一転してザ・バグを彷彿とさせる強烈なインダストリアル・ダンスホールへとなって突き進む “Saeta” でスタートします。アルバムには、これまでのシングルの延長とも言えるヘヴィーに疾走するダークなステッパー・ダブ “Threshing Floor” や “Where The Wood Is The Water Is Not”、ここ最近のスロー・テクノとも相性がよさそうな9曲目 “Our Tongue Is Furred With The Slime Of Creatures” など、ダンスフロアとのサイケデリックでダビーな接点はさすがといった感覚。さらにはヴァレンティーナの呪術的なパーカッションをフィーチャしたメディテイティヴなサイケデリックなダブ・トラックはアルバムならではで、もろに初期アフリカン・ヘッド・チャージを想起させる “Under A Veil, Under A Garment” “A New God Before Us” “I Am Here In A Place Beyond Desire And Fear” などが列びます。そして7曲目の “Joachim” とアルバム最後を飾る “I Am Here In A Place Beyond Desire And Fear” には、UK実験音楽の大家、スティーヴ・ベレスフォードがプリペアード・ピアノで参加していて、どこかあのニュー・エイジ・ステッパーズの 1st での名演をどうしても想起してしまう音色にニヤリとなります。こうしたサウンドを考えても、アルが何を目指して生み出したサウンドなのか、とても明確に呈示していると言えるでしょう。

 ネーミングやデザインなどに垣間見られるゴシックな意匠、そしてダークかつポスト・パンク的なギスギスとローファイでインダストリアルなダブ・サウンドの感覚は、それこそPiL、またはニュー・エイジ・ステッパーズやマーク・スチュワートアフリカン・ヘッド・チャージをはじめとした〈ON-U SOUNDS〉の初期作、そして23スキドゥー、また時代は下って、エレクトロからゴシックなバンド・サウンドへと回帰したアンディ・ウェザオール、トゥー・ローン・ソーズメン『ダブル・ゴーン・チャペル』や前述のようにザ・バグなどなど、文中にも出てきたUK音楽シーンの一角に長らく存在するある系譜を想起せずにはいられないでしょう。UKのミニマル・テクノを継承し、更新するような、アル・ウートン名義でのアルバム『We Have Come To Banish The Dark』とともに、本作はDJカルチャー発のバンドというところも含めて、UKのアンダーグラウンドに横たわる、UKダブの、その歴史と繋がり、新たな2023年のアップデートというところで非常に面白い存在ではないでしょうか。

Aphex Twin - ele-king

 みなさん、7月28日にリリースされたエイフェックス5年ぶりの新作EP「Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760」はもうお聴きになりましたか?
 まさにそのリリース日である先週末、エイフェックス・ツイン本人だと推定されている「user18081971」なるアカウントが、サウンドクラウドに2曲のトラックを投稿しています。
 タイトルは “Short Forgotten Produk Trk Omc” と “2nd Neotek Test Trac Omc” で相変わらず意味がよくわかりませんが、2006年から07年につくられたもののようです。

 そしてサプライズはつづき、翌29日にはさらなる新曲 “matriarch test 3+Om1 Cass+909 edit1 F6 omc+1” も公開。いったいどれほど曲をストックしているんでしょうね。

 〈Warp〉からの最新EPのほうにも動きがあります。表題曲のオフィシャルMVが、今夜深夜1時(日本時間8月1日1時)に解禁される予定です。MVとしては前回の “T69 Collapse” 以来。手がけるのはおなじみ Weirdcore。もうページは公開されていてカウントダウンがはじまっていますので、1時にそなえましょう。
 最新作「Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760」の魅力について佐々木渉と編集長が語りあう対談は、こちらから。

Aphex Twin - Blackbox Life Recorder 21f (Official Video)
https://youtu.be/e_Ue_P7vcRE


talking about Aphex Twin - ele-king

 『Syro』のときはロンドン上空に「A印」の飛行船が飛んだ。今回の『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』では、QRコード化した「A印」のポスターが世界のいろんなところに貼られて、人がそれをレンズに合わせると、そこには新たな「A」の世界が広がった。まだ試してはいないが、フィジカルにはさらにこの先の仕掛けもあるそうだ。相も変わらず、リチャード・D・ジェイムスは私たちを楽しましてくれる。彼もまた、楽しんでいる。もっとも、30年前はしばしばし“子供” と形容されたRDJも、近年は政治や社会に関する発言もしているように、永遠のピーターパンではなかった。それでもまあ、彼のテクノはいまもおおよそ微笑み(失笑、苦笑、冷笑、呆れ笑い……)のなかにある。

 5年ぶりの新作、4曲入り『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』がリリースされた。まさかの出来事、諸君! これを楽しまない手はないですぞ。無類のAFX好きで知られる佐々木渉氏を北海道から呼んで、終わりなきリチャード談義に花を咲かせるとしましょう。(野田)

佐々木渉(ささき・わたる)
サンプリング音源の販売などを手がけていた札幌の企業、クリプトン・フューチャー・メディア株式会社で2007年にソフトウェア「初音ミク」を開発。すぐさま動画サイトなどで火がつき異例の大ヒットとなる。ジャズや電子音楽などを愛好、これまでエイフェックス・ツインやスクエアプッシャーのライナーノーツも執筆している。

野田努(のだ・つとむ)
ele-king編集人。

■悪夢と笑いのA印

N:5年ぶりのエイフェックス・ツインの新作、 『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』……曲名は、相変わらず意味わかんないね(笑)。

S:個人のライフログとかに触れているんだと思いますが、それにしても不明ですよね。前みたいに制作機材の名前とか埋め込まれてたほうがましだったのか? いや、その方がニッチ過ぎて、わからないって説もありますよね(笑)。

N:とくに『Drukqs』(2001年)以降はどんどん加速しているよね、曲名の意味のわからなさが。

S:そうですね、曲のなかでも変なことしてましたよね。曲のなかに自分の顔のデータを仕込んでいたのを思い出します(苦笑)。でも、悔しいけど、そういう遊び心があるのがエイフェックスらしいというか、しっくりきますよね。世のなかのエイフェックスが好きな連中が、彼の悪戯を語る度に、リチャードの神話が妄想の中で肥大化していく。そんな感じでエイフェックスがずっと続いていっているし、再発見されるし、これからも続いていくんだろうなと思います。個人的にはSoundCloudでの音源バラマキ戦略がショックでした。あっ! これでエイフェックス・ツインが大量の楽曲をバラ撒いて、ファンを撹乱させたことで、本人の作品群がネットのなかに散らばっていく。それを元にファンが自分で真剣に選曲して『アンビエント・ワークス3』とか命名して公開してるじゃないですか、ファン同士が自分のなかのエイフェックス・ツイン像を交換してる訳ですよ。こういう行為に走らせる魅力がありますよね。エイフェックス・ツインには。

N:サンクラでバラ撒かれた音源も一応アレでしょう、もともとは匿名で上げたはずなのに。なんでわかっちゃうんだろう(笑)。(*最初はuser48736353001 名義でアップロード、途中からはuser48736353001名義)

S:音……サウンドの雰囲気でわかっちゃんじゃないですか。リチャードにしか作れない雰囲気だから。とくに『Syro』(2014年)以降は、作り込まれていて説得力がある。

N:『Syro』以降は、第三期リチャードというか。『Drukqs』から『Syro』までの13年間のリチャードもまたひとつの時代のリチャードで、だってあの時期はAFXとして〈Warp〉からはremix集しか出していない。新作を出したのは〈Rephlex〉からで、「Analord」シリーズ(2005年)と、あとThe Tuss(2007年)でしょ。その13年間があって、〈Warp〉から『Syro』を出す前には、なぜか飛行船をぶち上げて(笑)。あそこからなにかが変わりましたよね。


Syro(2014)*セールス的にも大成功だった。


Drukqs(2001)*いっさいの商業性から遠ざかった00年代AFXのはじまり。

S:そうですね。元々、楽曲の作風も分裂しているけど、その活動時期でも分裂してますよね。『Syro』以降はどの曲も、大分作り込まれているし、比較的分かりやすいテーマで降りてきてくれて、安心して聴ける、なんかシャイなリチャードが目を合わせてくれたぐらいの、出会いの感覚が(笑)。

N:たしかに、 “Minipops 67” がキャッチーだったでしょ、あれが先行公開されたことは大きかったよね、『Syro』は。

S:そうですね。

N:“Windowlicker” (1999年)以来でしょ、ああやってちゃんとポップに仕上げたのは。『Drukqs』がメジャー最後のアルバムだったこともあってか、すごく難しいアルバムだったから。例の「Analord」シリーズはとことんアナログ機材を使い倒したシリーズであって、The Tussもだけど、決してポップではなかった。で、いきなり “Minipops 67” が。メロディアスで歌も入ってるし。

S:彼は、いつでもキャッチーになろうと思えばなれるし、美しいアンビエントも作るし、いつでも凶悪な音も作れるということですよね。そんな彼だから、リスナーも「次はどんな作品が出てくるんだろう?」って期待してしまう。自分もいろんな作風の作品を一挙に聴いて、「エイフェックス・ツインは怖い!」って印象から入りました。学生時代の思い出深いトラウマです(苦笑)

N:それはどこの(時期の)作品?

S:『...I Care Because You Do』(1995年)あたりです。音楽のフレーズとかメロディが違うというか。めちゃめちゃ歪んでたり、かと思えばめちゃめちゃ狂ったドラムンベースになったり、「この人の感情どうなってるんだろう?」というのがわからなくて怖かったですね(笑)。


,,,I Care Because You Do(1995)*いまあらためて聴くとすごい完成度。

N:今回のアー写も怖い。言うこときかないのはどの子じゃぁ〜、がるるるるぅって。しかし……なるほど! あれが最初だったんだ。あれはだってほら、いちばんハードな作品というか、それこそアメリカのメジャーの〈Sire Record〉に移籍して二番目のアルバムで。メジャー第一弾が『Ambient Works Vol.2』(1994年)で、第二弾が『...I Care Because You Do』という。並のアーティストなら、メジャーに行ったら少しはポップな路線を考えてしまうものだけど、リチャードは真逆いったよね。「ここまでやってやる!」みたいな。

S:そうですね。

N:まあ、いま聴いてもカッコいいし、完成度の高い名作だと思うけど。『...I Care Because You Do』のときは、凶暴というよりは子供が暴れるみたいな、ギャグもあっただろうけど。のちの「Come To Daddy」(1997年)にも繋がるよね。


Come To Daddy(1997)*ぐぉぉぉぉぉ。

S:それを実現して、世のなかに提示して、しかもそれがウケてしまう人はなかなかいないですよ。当時は、本当に怒りそのもの、感情や、感覚そのものを鳴らして音楽にしているように聴こえました。

N:『Ambient Works Vol.2』は、いまでこそ最高のアンビエント作品だけど、当時の基準で言ってもアブストラクト過ぎて、リアルタイムではほとんど理解されなかった作品でね。で、佐々木さんが最初に聴いたエイフェックスは、彼のキャリアのなかでは、ちょうどいちばん激しいサウンドを出していた時期、すごいときに当たってしまったね(笑)。ぼくみたいに『Selected Ambient Works 85-92』(1992年)から入ったリスナーとは対極。だって、「Ventolin E.P」(1995年)の時代でしょ?

S:「Ventolin E.P」は、本当に影響を受けましたね。ずっと笑い声だけのトラックが入っていたりして。当時の自分のなかの既成概念を壊してくれましたね。


Ventolin(1995)*いま聴いてもカッコいいAFX流トリップホップ。

N:リミックス・ヴァージョンであったよね、いつの間にか曲が気持ち悪い笑い声ばっかに展開するのが。あれは、もう、ぶっ飛んだ(笑)。(* “Ventolin” Praze-An-Beeble Mix)

S:当時のele-kingのエイフェックス・ツインのインタヴューとかも、「滞在先のホテルのエアコンのノイズ音がすごく良かった」とか言ってたり、毎回衝撃的でしたもんね。テンションも違うし、言ってることもハチャメチャだし(笑)。なんかこう、嘘なのか本当なのかも全然わからないのが、クリエイティヴでカッコいいと思っちゃいました。って……すいません、僕の思い出を(笑)。

N:いや、どうぞどうぞ(笑)。僕ね、ele-kingをスタートした年に、来日公演を手伝ったんですよ。『...I Care Because You Do』が出る前くらいかな。そのときの印象は、すごく素朴な普通の青年でした。なんら変人ではない……すでに戦車は買ってましたけどね(笑)。「戦車持ってるの?」って訊いたら「持ってる」って。でもそれも、なかばギャグとして買ってる気がする。僕が接したときの本人は、大人しい好青年でした。とはいえ、90年代なかばの彼の音楽はエキセントリックで、クレイジーだった。90年代前半のリチャード、作品で言えば『Ambient Works Vol.2』までのリチャードにはロマンティックな牧歌性がまず前面にあって、それは彼の大きな魅力だったんだけど、『...I Care Because You Do』から「Windowlicker」までの90年代後半のリチャードって、これはこれでまたすごかった。

S:そうですね。やっぱりひとつひとつが焼き付くようなインパクトがあって。良い意味でショックだった。自分のなかでは、その辺のリチャードの記憶って時系列がぐちゃぐちゃになってて。インパクトが強いところがまばらにあって。普通だったら時系列順にこのアルバムが出て、あのアルバムが出て、って思い出せるんですけど。変名が多かったこともあって、崩れているんですよね。好きなんですけど、なんかちょっとリチャードの存在も作品も自分にとっては悪夢というか(笑)。悪夢と言っても “Windowlicker” の悪夢と『Selected Ambient Works vol.2』の悪夢はまた全然違うし。でもやっぱり、好きなんですよね。理不尽な恐怖体験だったので、その分、タイムレスなんです。


Selected Ambient Works vol.2(1994)*来年でリリース30周年の名作。

N:たしか3回目に来日したときだったかな、リチャードのライヴに合わせて〈Warp〉の創始者たちが「Donkey Rhubarb」(1995年)の着ぐるみ姿でステージで踊ったんだから、笑える悪夢だったね(笑)。

S:「Donkey Rhubarb」も好きだったなぁ……あの頃のリチャードの音楽って、いまも全然笑えちゃうし、それでいていまだ怖いし、若いネット世代の子たちにも普通にスッと入っていける感覚があるし、「これはヤバい音楽だね。ヤバい人がやっているよね。」ってすぐわかるような雰囲気をちゃんと持っていると思うんです。


Donkey Rhubarb(1995)*またMVが楽しかった。

■最高のアーティストとは自分のことをアーティストだと思っていない人たち

N:アルバムごとに作品のテーマがちゃんとあるじゃない。『Ambient Works Vol.2』はビートレスなダーク・アンビエント、『...I Care Because You Do』ではハード・エッジなトリップホップ路線を追求して、『Richard D. James Album』(1996年)ではドリルンベースをガッツリやって完成させる。『Drukqs』では、プリペアード・ピアノとポスト・ドリルンベースみたいな感じをやって、「Analord」シリーズではアナログ機材のみでどこまでできるかとか。たとえばスクエアプッシャーは、ほとんどずっとドリルンベースを追求して、発展させていくわけだけど、リチャードはいろんなことをやってるよね。

S:リチャードの作ってきたものって、ジャンルを問わず「リチャード印」で。ビートの有る無し含めて、いろいろなスタイルあるのに全部結びついちゃってて。

N:それってなんなんだろうね。

S:それは……なんなんでしょうね(笑)。彼の音には気配がある。

N:すべてにあの「A印」が(笑)。『Syro』を出したときのピッチフォークのインタヴューで、けっこう重要なことを言っているんですよ。ひとつは、「最高のアーティストとは自分のことをアーティストだと思っていない人たちのことであり、自分のことをアーティストだと思っている人間ほど迷惑でつまらない人間はいない」ということ、ふたつ目は「この世界で最高のダンス・ミュージックの形態というのはジャングルだ」と。リチャードの音楽を考える上で、このふたつのことは重要ですよね。しかもね、「ジャングルっていうのは自動車整備工やペンキ屋をやっているような人たちが作った音楽だ」ということも言っている。そういう「非音楽家」を賞揚しているわけ。イーノは自分を「非音楽家」と呼んだけど、リチャードのいう「非音楽家」から見たらイーノなんかぜんぜん「音楽家」なわけで。リチャードは、彼の作品を聴けばわかるように、ジャングルを音楽的な側面はもちろんのこと、ある種階級闘争的というか、社会的な側面からも評価しているんだよね。

S:そしていま、ジャングルは来てますからね。勢いのある怒涛のビート感が、若い子たちに刺さっている。進化が目立つ音楽ジャンルになってる。

N:だからさ、AFXが同じテクノと括られても、クラフトワークやYMOとの違いはそこにある。クラシックを背景にもって、高価な機材にめぐまれた環境とはまったく別のところから生まれたテクノの代表だよね。

S:そうですよね。でも、たぶんそのアプローチには奥行きがあると思います。その時代の機材って適当に選んでいるわけではなくて、安い機材のなかでも面白いものを、個性をちゃんと機材のなかに見出していて、自分でカスタムしたりエフェクターを工夫して、いちばん美味しいところを「Aphex印」で引き出して、ほかの人には出せない味付けで出しているみたいな。

N:昔、佐々木さんがDOMMUNEでいろいろ解説してくれたけど、『Syro』のジャケットに140以上の機材リストを載せたじゃない。あれもすごいよね。140以上だよ!

S:140以上の機材があるってことは140種の機材を選んで、シンセサイザーとエフェクターとサンプラーと、パッチベイを通してシーケンサーにサウンドアウトはミキサーに…って感じで組み合わせて繋げないといけないんですよね。頭のなかに綿密な設計図がないと繋げた上でどれがどのようになっているかはわからない。あと、サンプラーをめちゃめちゃ使ってるので、実際には140どころの話じゃないんですよ。自分のライブラリに落とし込んでいる大量のドラムマシンとか、シンセやヴォーカルのショットの音とかがあるわけで。それをどうやって管理というか把握しながらやっているんだろうなぁ、把握してないのかもしれないですけど。しかも、どの曲を聴いてもエイフェックス・ツインのブレイクビーツは古くならないというか独特な音圧や、歪感が加えられている、「なんで毎回毎回このオリジナリティの高い水準に行けるの?」みたいな感じがあるんです。普通どこか有りがちな音になったりするはずなんですけどね、細部まで作り込まれた、すごい高密度な音という印象なんです。

■『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』の謎解き

N:あとは、未完成に向かうというか。そういう感じを残すじゃないですか。

S:エイフェックス・ツインは『Syro』以降、モジュラーシンセサイザーを大きく取り上げた作品集も公開していました。2014年の『Modular Trax』とか。その流れもあってか、今回の『Blackbox Life Recorder 21f / in a room7 F760』のジャケットはBuchlaというメーカーのシンセモジュールのパネルをコラージュしたものなんですね。

N:へえ。全然気づかなかったな。

S:伝説的なアメリカ西海岸のシンセサイザーで、日本でも販売されているんですが、例えばskylabってシンセモジュラー・システムになると250万くらいする、高級で特殊なシンセですね。。リチャードが、フジロックの2017年のときに、カセットを山積みにして売ってましたよね。そのなかの半分ぐらいがBuchlaのシンセを使った曲でした。ただBuchlaで面白い音を出して遊んでいる、脱力した珍しい作品も入ってました。そこから5年以上経って、ジャケットにどん! とシンセのパネルを載せている、という。本当にこのシンセが好きなんだろうな、と思います。

N:それはなに、上モノの音とかを?

S:高周波とかには「けっこうBuchlaっぽいな」という音はあるんですけど、極端に目立たせる使い方はしていない。Buchlaで、よく知られているのは、西海岸のアヴァンギャルドや即興演奏家や、ニューエイジのシーンで、Buchla奏者という人がいるくらいなんですけど。

N:西海岸のニューエイジとリチャードって、まったく繋がらないんだけど(笑)。

S:ele-kingでもBuchla奏者のチャールズ・コーエン氏が、記事になっていましたね

N:なるほど。しかし、こんな早く新作が聴けるとは思ってなかったですね。『Syro』は本国では、ナショナル・チャートに入ったほどのヒット作で、気を良くしたんだと思うけど、その後立て続けに「Computer Controlled Acoustic Instruments Pt2 (EP)」(2015年)と「Orphaned Deejay Selek 2006-08」(2015年)、「Cheetah EP」(2016年)と出して、そして「Collapse EP」(2018年)も出した。この「Collapse EP」はウケたじゃないですか、とくに “T69 Collapse ” が。これも複雑な曲で、いろいろ詰め込んだ感もあって、CGもすごい見ごたえがあるやつだった。ここからピタっと出さなくなったから、また10年ぐらい出ない時期が続くのかなと思ったんですよ(笑)。そしたら意外とこんなに早く新作を出した、というのがまず驚きだった。


Collapse EP(2018)*10年代にリリースされたEPのなかではダントツ。

S:やっぱりコロナが明けて、今月(2023年6月)ですかね、Sonar Festivalのときに2曲入りの「Barcelona 16.06.2023」というEPを出してたじゃないですか。このときのライヴは、前半がファンクっぽいビートだったり、従来のリチャードの延長線上っぽい包み込むようなサウンド主体だったんですけど、後半はドラムが狂喜乱舞するようなパートが続いていてすごいカッコいいんです。後半のところは前作の「Collapse」と似ている。発展型と言っても良い。ところが、音源としての「Barcelona 16.06.2023」は割りとシンプルなテクノで、今回の『Blackbox Life Recorder〜』はドラッギー過ぎずサイケデリック過ぎない、もっと落ち着いていて、グルーヴィーだけどインテリジェントな感じになっている。なんだろう。変に、ファンが求めるような、刺激的な楽曲を出すことに固執していない。

N:すでに賛否両論だよね、これは。いつものことだけど、期待が大きいから。

S:否定的な意見もありますよね。しかし、こういう雰囲気のテクノだったり、Buchlaとリズムマシンの素晴らしい邂逅を、リチャード以外の誰が更新してくれるのかというと疑問ですね。リスナーとしては、もうちょっと自分たちの時代をカッコよく、新しさで満たしてほしい、という需要もあるのでしょうけど。

N:くだんのピッチフォークのインタヴューで、リチャードは「自分にはもう探求すべきものがないんだよね」って正直に言っちゃってるんだけど、『Blackbox Life Recorder〜』を聴いたときその言葉も思い出した。ただし、このシングルにはリチャードの魅力が詰まっている。エイフェックス・ツインの魅力が凝縮されているじゃないですか、1曲目の “Blackbox Life Recorder 21f” なんかは。ブレイクビーツの感じも良いし、「A印」のシンセ音も良い。ドラムがデヴェロップしていく感じも良い。笑いもちゃんとあるし。

S:笑える感じは良いですよね。あと、誤解を恐れずに言うと、凄く小さい音でもカッコいいんですよね。小さいドラムの音って全クラブ・ミュージックのプロデューサーが恐れるものだと思うんですけど、小さいく鳴らしても存在感がものすごい独特の音で、うわ、カッコいい! っていう感じになる。空間も感じ取れるし。で、めちゃめちゃデカくて歪んでるドラムの曲も……。

N:“in a room7 F760” のこと?

S:そうです、このドラムの歪ませ方はいままでやってなかった感じだな、でも待てよ? あったかも、ってリチャードのライブラリを聴き返してしまって、結局、リチャード沼にハマってしまうような(笑)。こんな曲あったっけ? カウベルこんなに鳴らしてたことあるっけ? みたいな感じで、リチャードを聴き始めると、あれこれ記憶を参照したくなって、アーカイヴのなかに迷い込んでいってしまうような感覚が楽しい。他のコーンウォール出身のプロデューサーのアプローチとは大分違うなと思います。ワゴンクライストやマイクパラディナス、スクエアプッシャーの近作を聴いても、こんなに複雑な心境にならないですね。もっと、音楽アイディアも素直でのわかりやすい。リチャードだけ訳がわからない部分が多い。やっぱりリチャードの無限回廊みたいな音楽世界に浸っていたい感覚になります。水玉を見ると草間彌生を思い出すぐらいの感覚というか、リチャードのシンセ音を聴くとリチャードだな、っていうふうに感覚的に反応してしまいます(笑)。

■リチャードのリズム

N:そうだね。あるいは、自分がどこから来たのをリチャードはまた再確認しているのかもしれないね。俺はレイヴ・カルチャーから来たんだと。実際、彼はコーンウォールのレイヴでDJをやっていたわけでね。実際のところはわからないけど、今回は、リズムに重点を置いていることはたしかでしょ。 “in a room7 F760” もそうだし、 “zin2 test5” もそう。

S:それだけリズムを綿密的にコントロールできるようになった、ということだと思うんですよね。ビートの縦軸となる音響的な面、横軸となるタイミング的な面、音色の奥行きや接近感までコントロールしている感じが強い。リチャードが体得してきたスキル、ドラムマシンやシーケンサーの使い方が極まっているので、スキルや経験に裏打ちされているので説得力がある。知識と基礎がしっかりしてるので複雑な作りの曲でも、リラックスして作れるので良い結果に結びつく。昨今の音楽ではリミッターで音圧を稼いでデカい音で、Trapでもなんでも歪んだ808のドラムを鳴らすのがカッコいい、というのがあるんですけど、その流れとも全然違う。リチャードは「お前ら、まだ808しか使ってないのか。広い世界の可能性を見ろよ」と言うような風に、マイナーなドラムマシンでバキバキに仕上げてくる(笑)。メインストリームと離れて、天邪鬼なのがカッコいい。

N:“in a room7 F760” なんかはさ、途中からジャングルになるように、リズムの変化があるっていうか。

S:しかもすごい新鮮に繋がっていくじゃないですか。ライヴでもどんどんビートが移り変わっていくし。リチャードによる流動性のあるリズム、という感じになっていって。ジャンルもなくなっていって。リズムのスタイル自体がパノラマのように広がっていく。

N:「リチャード宇宙」が膨張してるんだね。

S:(笑)。それも間違いないと思うんですけど。

N:今回のプロモーションで、QRコードがあったじゃん。あれは面白かったね。僕はけっこう、上がってしまった。

S:開いたら “Blackbox Life Recorder 21f” のアンビエント・ヴァージョンだった。

N:あのQRコード化した「A印」ポスターは見事でしたね。

S:効率的にデザインされた、なんならグッズとかTシャツとかまでですけど……毎回欲しいですもんね(笑)。

N:ちゃんとエンターテイメントしているからなぁ。

S:気持ち良い凝ったエンターテイメント。やっぱりこう、いまはネットですべてがデジタル化されてて、音楽もデータ化されてデジタルだし、伝わり方もデジタルだし。話題になったら伝播される。リチャードは顔芸していた頃から、突飛な話題が伝播されるのを感覚的に知っていて、面白い言動もしていて、以前からこのネット時代を想定していたんだな、と。邪推してしまいます。ただし、いろんな音楽が新しい触れ込みで出てきても、アンビエントの名盤が増えても、僕らは『Selected Ambient Works 85-92』を聴いちゃうわけじゃないですか。繰り返し聴いてしまう、あれを作った彼の新作を心待ちにしてしまう。

N:アルバムを出すのかなぁ?

S:出してほしいですけどね。

N:リチャードの場合は気まぐれだったりするから。これが序章、予告編なのか、次はまた5年後なのか……誰も知らないからね。

S:でも、デジタルツール下での自己表現が当たり前になって、InstagramとかTikTokを眺めるのも日常で、触れられるアートとしてTeamlabさんの展示に遊びに行くような、そういう陽キャなデジタル人たちに対して、僕らは陰キャに家で首をかしげながらリチャードの新譜とMVを、「どういうつもりなのかなあ……」と眺めているほうがテンション上がって楽しかったりする(笑)。リチャードが作品を作り続けてくれるなら、いつまでも待ちたい。自分たちのヒーローがアルバムを出してくれるところまで元気に待たなければ、と思いますね(笑)。

N:もう我々の希望ですね。「A印」のためにがんばるぞと。

■裏技を教えてくれない友だちみたいなものです

S:繰り返しになるんですけどSonarのライヴセットもすごくカッコよかったみたいで。アルバム出さなくても、ライヴ行けば楽しそうだなあ……と。リチャード自身も肩肘張らずにシンセやリズムマシンで遊んでいて、楽しんでいる感じがするんですよね。彼が人生を楽しんでいないイメージがなくて。

N:それは言えてるね。

S:音源を聴かせてもらうことによって、彼に楽しい時間を僕らは分けてもらってる、っていう。「リチャード、今日どのシンセで、何して遊んだのかな?」みたいな。所謂、ゲーム実況に近いくらい(笑)

N:いや、僕はそこまではいってないです(笑)。まだ修業が足りないですね、リチャード業が足りてない。リチャードは、「金のためにやってる」ってよく言うでしょ。インタヴューで「あの年はよくライヴをやったね、金のために」とか。いちいち「金のために」って言うところがいいんだよね。ってことはつまり、「金のために」やっていないこともあるわけだから。もともと、上昇志向があって、なにがんでも音楽でのし上がってやるみたい野心があってこうなった人じゃないでしょ。デビュー作の「Analogue Bubblebath」なんか、レーベル側の話が長くなるのが面倒で、出して良いよって言ったそうだし。この人の原点ってやっぱり「Analogue Bubblebath」だな、ってつくづく思いますね。今回の『Blackbox~』を聴いても。やっぱ、あそこに行くんだな、と。


Analogue Bubblebath(1991)*ジャケットは94年の再発盤。三田さんはリアルタイムで買ったオリジナル盤を所有しているんだよなぁ。

S:稼いだ「お金」を上手く使って新しいことや楽しいことに繋げてるって信じたいですね。デイヴ・グリフィスとAI合成ソフト「samplebrain」作ったりしてますし。リチャードは、このソフトの可能性について「泡立った泥の音とTB303のかけあわせたり……」って発言してるのですが、やはりリチャードってポコポコした音とか、グニャグニャした音とか、そういう方向をいまだに純粋無垢に追求して楽しんでるという。

N:あと、間の抜けた人の声とかね(笑)。

S:ですね(笑)。で、つまり(エイフェックス・ツインは)新しい技術も使って、シンセも買っているわけですよね。「新しいことを探求する余地がない」と言いながらも、たぶん面白そうなものがあったら無垢に使って楽しんで、変な音が出たら次の曲に使ってみよう、とやっていること自体、新しいことではないかもしれないですけど、今日もまた新しい音を作って面白がってるじゃん、というのは枯渇しているようにはとても思えない。最高に楽しそうだな、っていう感じですよね。(今回のジャケットにも)リチャードの顔がまた埋め込まれてるとか……初心を忘れない(笑)。

N:本人もやっぱ意識してるみたいなんですよね、笑いを取るっていうのは。

S:でも、自分のギャグに拘って、いちばん笑ってるのが自分、じゃないのかな(笑)。等身大の個人的な笑いだから、聴いてる我々も子どもに帰れるというか。そうそう今、お仕事でご一緒している「松田直」さんって、サウンドエンジニアの方と、音楽のお話をするのですが。エイフェックス・ツインについて話したことがあったんです。メジャーではSKI-HIさんのミックスをしたりしながら、ご自身はフランソワ・ケヴォーキアンなどの音作りを研究してて、めちゃくちゃ詳しいという、音作りのエキスパートの方なんですけどね。で、その方が言うには、Amigaという昔のコンピュータのトラッカーソフトウェアのサウンドの美味しいニュアンスをリチャードは使っている。しかも、絶妙にAmigaやCommodore64というような昔のパソコンの音をを工夫して使っているんじゃないかとおっしゃってて(笑)。『Syro』のリストにはAtariってコンピュータの記載があったんですけどね。その辺、リチャードには音作りの秘伝のタレみたいな技法があって、AmigaやAtariにいろいろぶっ込んだやつをまたCASIOとかAkaiの古いサンプラーに入れたり、AIで歪んだドラムサウンドをかけ合わせたり、なんかいろいろなことをやってるんじゃないかと。機材リストは晒すけど、料理の仕方が特殊だから、みんな本人の音に辿り着けない。ゲームの裏技を教えてくれない友だちみたいなもんですね(笑)。

N:ははは。教えてくれないよねえ。『Selected Ambient Works 85-92』の頃も、最古の曲が本当に14歳の頃の曲なのか、という疑問もあったし(笑)。14歳で作りはじめたのは間違いないだろうけど。まあ、リチャードの音楽は飽きないところがすごいよね。聴くたびに発見がある。前聴いたときにはベースがよく聴こえたんだけど、新しく聴くとドラムが……。というような。


Selected Ambient Works 85-92(1992)*昨年はリリース30周年の名作。

S:ひとつひとつの音にも、音と音の間にも、凹凸感があるんですよね。ハードウェアや古いデジタルサンプリング機器を使うことで、たくさんのデジタル・アナログ変換が行われているのが凹凸感にも繋がっている。パソコン完結だけだと荒っぽい凹凸になりにくいんですよね。『Drukqs』のころはちょっとPC完結の感じもありましたけど、またすぐに戻っていって。パソコンだけで合理的に音楽を作る人がこれだけ増えたことによって、アンチテーゼとして昔の時代のテクノロジーによるアナログや古いデジタル機材を扱う故、結果的にエイフェックスの音が差別化されちゃった、という印象です。安い機材を面白く使ったり、センスの良くリズムを組んだり、音遊びで空間を作ったりという意味だったら、最近のアフリカの若い子とかはカッコいいビート・ミュージックを作っていますけど、音の深みみたいな方向がリチャードとは全然違っていて。その差が面白い。どっちも好きなんですけどね(笑)。リチャードは、センスもスキルも円熟している印象があります。

N:深いですねぇ、リチャードの世界は。フィリップ・グラスが “Heroes”を手がけたとき、なんかのインタヴューで「なんでエイフェックス・ツインにリミックスを依頼したんですか」と訊かれて、「彼の音楽は私にはまったく理解できないからだ」と答えたのね。そう言えてしまう、フィリップ・グラスもすごいんだけど。普通、クラシックから来ているような人って理解できないものは却下しちゃうから。で、たしかにリチャードには、いまだにその「理解できない」ところがあるからね。それもまたすごい。


〈8月3日追記〉

N:この対談の後、作品がリリースされ、いくつかわかってきたことがあるので軽く追加しましょう。まず、QRコードからダウンロードした「YXBoZXh0d2lu」というアプリを使って、実物のジャケットをスキャンすると、立体が飛び出してきて、いろいろ楽しめるということ。これはぜひトライして欲しい。フィジカルを買う楽しみというものがある。それから、MVが公開されたことで今回の “Blackbox Life Recorder 21f”が、どうやら亡くなったリチャードのご両親に捧げられている曲ではないかということ、曲名もそのことにリンクしているのかもしれないね。

S:「Girl/Boy ep」のときも彼の兄弟へのパーソナルなメッセージ性があったと思いますが、表現の仕方が進化してますよね。彼の曲の成熟度は、リチャードのスキルを体現するセンスや彼の人間性も物語っていて、個人史と交差する際に、こんな見せ方ができるのかと思いましたね。

N:それゆえに、ピースなフィーリングをもった曲になったのかもしれないね。

S:彼のフォーリングは、異常気象に代表される社会不安や、ありがちな「暗さ/終わり」を超えていると思います。エイフェックス・ツインの表現は、ユーモアを介していて、その上で有機的な方向性を帯びてますよね。ネット時代では「暗さ」や「死」の引用が氾濫しているし、それゆえリチャードの行為はより深さを増しているというか、家族への想いをシンプルに表現することの深さも痛感します。

N:可笑しさもありつつも、慈愛のこもった曲というかね。リチャードのお母さんの声は、 “Come to Daddy”の「Mummy Mix」で聴けますね。 ところで「YXBoZXh0d2lu」ですが、まだまだなんかあるかもしれないっていう噂がありますね。あくまでも噂ですが……。ということで、まだまだ続きがありそうな夏のAFX祭り、楽しみましょう。

Squid - ele-king

 高い評価を得たファースト・アルバム『Bright Green Field』(以下『BGF』)から2年。ブラック・ミディBCNR など、同世代のバンドたちが順調にリリースを重ね、それぞれ異なる道を歩みはじめるなか、はたしてスクイッドはどんなオリジナリティを目指したのか。
 セカンド・アルバム『O Monolith』でまず注目すべきなのは、ジョン・マッケンタイアがミックスを手がけている点だろう。ひとつひとつの音の粒立ちが上品になっているのは、まさに彼のなせるわざにほかなるまい。冒頭 “Swing (In A Dream)” に代表されるように、電子音の存在感が増しているのも新鮮だ。
 突然の静と動の切り替え、激しいディストーションなど、これまでのスクイッドを特徴づけていた冒険心は本作にもしっかり引き継がれている。けれども耳を奪われるのはやはりそうした新しい試みのほうで、管楽器を導入する曲が増えたことも見逃せない。メンバーのローリー・ナンカイヴェルによるトランペットもしくはコルネット、ゲスト奏者たちによる木管は、多くの曲に深みのある陰影をもたらしている。
 歌い方の変化も大きい。あの叫ぶような発声法こそドラマー兼シンガーたるオリー・ジャッジのトレードマークだったわけだけれど、ゆえにスクイッドの音楽はリスナーを選ぶものになってしまってもいた。シングル曲 “The Blades” にあらわれているように、今回のヴォーカリゼイションはだいぶ「歌」に寄っている。彼らがこれまで以上にメロディに意識的になっていることは、前作から引きつづいての参加となったマーサ・スカイ・マーフィーとのデュエット曲 “After The Flash” からもうかがえる。不穏な空気を呼びこむハープ、終盤で不気味に重なり合う複数の歌声──この声のぞっとする使い方もまた『O Monolith』の肝だ。

 本作はもともと、『BGF』リリース後のツアーでお試し的に披露されたいくつかの曲からはじまっている。その後ブリストルへと移動した彼らはそこで作曲に専念、最終的には南西部ウィルトシャーのボックス村に位置するピーター・ゲイブリエルのリアル・ワールド・スタジオで録音をすることになった。ここがまたかなりの田舎だったようで、同地で過ごした経験が本作に大きな影を落としている。たとえば切れ味鋭いギターが炸裂する “Green Light”。フィールドレコーディングされた鳥の鳴き声は、非産業的なものの象徴だ。『BGF』で描かれていたのが「コンクリでがっちり固められたランドスケープ」(紙エレ28号)、すなわち現代の大都市、資本主義の恐るべき強大さだったのにたいし、新作は田舎や田園の風景を立ち上げようと試みている。
 より古の時代への想像力がそれを補完する。ボックス村から40kmほど離れているとはいえ、ウィルトシャーはかのストーンヘンジを擁する区域でもある。迫りくる新石器時代の気配──『O Monolith(おお一枚岩よ)』のタイトルは、まさにこの「石」のイメージに由来している。あまりに長大な人類史の、タイムトラヴェル。
 フォークとノイズ・ロックを接ぎ木したような “Devil's Den” は、やはりウィルトシャーに存する新石器時代の遺跡を曲名に頂戴する一方で、劇作家キャリル・チャーチルの目を借りつつ中世に端を発する魔女狩りを眺めてもいる。聴き手をどきっとさせる「浮かんでも死ぬ、沈んでも死ぬ」のフレーズは、今日の社会にたいする優れた批評でもあるだろう。
 こうした時間旅行、過去と現在のアクロバティックな接合は随所で試みられている。魅惑的なファンクのリズムのうえで、亡霊の唸り声のごときノイズとサックスが駆けめぐる “Undergrowth”。この曲でジャッジは家具に生まれ変わった人間を演じている。アニミズムのアイディアを援用した歌詞だが、無生物にも魂が宿るという日本ではおなじみのその発想は原始社会を想起させもする。他方アクティヴィストたちを鎮圧する警察の暴力を歌った “The Blades” は最近のフランスにおける蜂起を連想させるし、加工された音声が耳に残る “Siphon Song” はネット・ニュースに浸りつづけることの疲労感を表現している。太古に引き寄せられながらも、彼らが見つめているのはあくまで現代なのだ。

 その “Siphon Song” でも招かれていた〈Erased Tapes〉の合唱アンサンブル=シャーズ(Shards)は、旋律やハーモニーへの関心を高めた本作における、もしかしたら最大の功労者かもしれない。最終曲 “もし牡牛が泳ごうとしているのを見ていたならきみは近寄らなかっただろう” における大胆なコーラスの導入は、間違いなくスクイッドの新基軸だ。ギターのアントン・ピアソンが作詞を担当したこの曲では、タイトルとは裏腹に、ネズミとの暮らしが描かれている。貧困の隠喩にちがいない。
 もうひとりのギター奏者ルイス・ボアレスによれば、本作に影響を与えた作品のひとつにガゼル・ツイン&NYXの『Deep England』があるという(https://northerntransmissions.com/squid-arent-resting-on-their-laurels/)。前作収録曲 “Paddling” はマーク・フィッシャーからインスパイアされた楽曲だったけれど、そのフィッシャーが「21世紀のアート・ポップの女王」と賛辞を送ったのがブライトンの電子音楽家、ガゼル・ツインだ。代表作『Pastoral』は一見のどかな田園をテーマにしながら、不安を煽る電子音や民謡、貧者やレイシストのことばを衝突させることで田舎の残虐さをほのめかす、一大電子音響ホラー絵巻だった。今回ボアレスが言及している『Deep England』でもどこかペイガニックで神秘的な音声がつぎつぎと重ね合わせられており、その実験精神はたしかにこの最終曲における合唱と響きあっている。

 現代都市からの離脱をほのめかす『O Monolith』は、一方でその複雑な展開や音響、数々の創意工夫のおかげでなまなましい現代性を携えてもいる。ここではないどこかの想像が、むしろ「いま、ここ」を診断する手段になることを、スクイッドの新作は証明しているのだ。豊かな音楽性によってもたらされたこの遠近法こそ、今回彼らが獲得したオリジナリティにほかならない。

DAMN SAM MIRACLE MAN & SOUL CONGREGATION - ele-king

気鋭の書評家が厳選!
とりあえずこれだけは読んでほしい新旧の40人

現在につながる古典作家の中から、今読んでも面白い作家を20人。そしてここ10年以内に登場した今後をになう新鋭作家を20人。古典と最新の両面から「読むべきミステリ」に迫る! 「古典」と「現在」の間を解説するコラムも掲載し、これ一冊で今のミステリ状況がわかる入門ガイド。

インタヴュー
クリス・ウィタカー
(『われら闇より天を見る』で2022年の国内ミステリランキング三冠、本屋大賞翻訳小説部門第一位)
月村了衛
(冒険小説・警察小説、骨太な大衆小説をいまに引き継ぐ。〈機龍警察〉シリーズ、『香港警察東京分室』など)

監修
杉江松恋
1968年生まれ。慶應義塾大学卒。書評家。著書に『路地裏の迷宮踏査』『読み出したら止まらない! 海外ミステリーベスト100』、『浪曲は蘇る』他。共著に『書評七福神が選ぶ、絶対読み逃せない翻訳ミステリベスト2011-2020』など。

執筆
荒岸来穂、小野家由佳、香月祥宏、川出正樹、酒井貞道、坂嶋竜、霜月蒼、千街晶之、野村ななみ、橋本輝幸、松井ゆかり、森本在臣、若林踏

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お詫びと訂正

このたびは弊社商品をご購入いただきまして誠にありがとうございます。
『十四人の識者が選ぶ 本当に面白いミステリ・ガイド』に誤りがありました。
謹んで訂正いたしますとともに、お客様および関係者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

P.3
誤 この10年以内に翻訳紹介が始まった作家のみだ彼らがこれからのミステリ界を背負っていってくれるだろう。
正 この10年以内に翻訳紹介が始まった作家のみだ。彼らがこれからのミステリ界を背負っていってくれるだろう。

P.6
誤 メフィスト・ショウ・マスト・ゴー・オン 千街晶之
正 メフィスト・ショウ・マスト・ゴー・オン 坂嶋竜

P.9
誤 巧みな語りと校正に籠められた深い想い
正 巧みな語りと構成に籠められた深い想い

P.80
誤 〈質問・文〉杉江松恋 〈取材〉若林踏
正 〈文〉杉江松恋 〈取材・構成〉若林踏

P.191
誤 千街晶之(せんがい・まさゆき)
正 千街晶之(せんがい・あきゆき)

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