Home > Reviews > Album Reviews > Fuubutsushi- Columbia Deluxe
風鈴の音を聴くとアンビエントだな、と思う。実際にアンビエント作品もリリースしているコーネリアスの『Sensuous』が、風鈴の音で始まって風鈴の音で終わるのは偶然ではあるまい。コーネリアスこと小山田圭吾は静けさの象徴として風鈴の音を入れたと話していた。あるいは、京都出身の兄弟デュオのキセルは「ししおどし」にダブを感じると(冗談めかして、ではあるが)言っていたし、筆者はセミの鳴き声に毎年ミニマリズムを感じてきた。これらは日本の夏の象徴とも捉えられるわけだが、そうした日本人の季節感に強いシンパシーを感じ、作品に落とし込んできたのが、米国の即興アンビエント・ジャズ・カルテットのFuubutsushi (風物詩)である。
Fuubutsushiのメンバーは、パトリック・シロイシ(サックス、ベル他)、クリス・ジュセル(ヴァイオリン、ヴォイス他)、マシュー・セージ(ピアノ、エレクトロニクス、ヴォイス他)、チャズ・プリメク(ギター、ベース、エレクトロニクス)。コロナ禍に結成され、メンバーはLAやソルトレイクシティ、コロラドなど各々が全米各地に散らばっている。作曲は基本的にリモートで行われるそうだ。
これまでに、四季それぞれに『Setsubun(節分)』や「Natsukashii(懐かしい)」といったタイトルを付けたアルバムを4枚リリースしている。バンド名からも推し量れるように、彼らは日本特有の「詫び寂び」に惹かれてやまないのだという。この情報だけ知ると、オリエンタリズムやエキゾティシズムの文脈で日本的なるものを誤読、あるいは拡大解釈しているのでは?と思われるかもしれない。実際、彼らの屈託のなさはそうした謗りを受ける可能性もあるのだが、ミュージシャンとしての4人はあくまでも聡明で思慮深い。日本文化の表層だけを救いとるような安直なことはしない。 曲中に日系アメリカ人強制収容所の体験談 に関する老婆の語りが挿まれるのが、その証拠だろう。
まずは7月11日にリリースされた初のライヴ盤『Columbia Deluxe』を聴いてみて欲しい。インプロヴィゼーションを軸とした演奏はジャズの芳香を漂わせ、アンビエントや環境音楽の要素が端々から滲む。ヴィブラフォンこそ鳴っていないが、ジョン・ルイス率いるMJQのようなクールさもあるし、ポスト・クラシカルな色調も垣間見える。坂本龍一に多大なる影響を受けているというのも納得である。ソロ作もリリースしているマシューは「僕はただ、草むしりをしながらヘッドフォンで聴きたい音楽を作っているだけなんだ」という。なるほど、彼のソロもFuubutsushiのアルバムも、目を閉じると田園の風景が浮かんでくる。牧歌的でおおらかなサウンドスケープに陶然とさせられるだろう。
行間や余白を大事にした演奏はしかし、安易に邦楽器を導入したりはせず、ピアノやシンセサイザー、ギターやベース、ヴァイオリンなどを駆使して情緒に富むサウンドを生起させている。シカゴの4人組タウン・アンド・カントリーや、音響派の始祖とも言えるAMMなどとの共通性も感じられる。90年代のポスト・ロック的な懐かしさもあるが、最新のアンビエントや環境音楽を通過しているから、古さは意識させない。初のライヴ盤とあって、スタジオ盤よりも熱を帯びる瞬間が多々あるが、繊細でソフトでナチュラルな音像は、良い意味でまったく変わらないように思う。
ちなみに、筆者が日本の夏を感じるアルバムは、真島昌利『夏のぬけがら』、ゴンチチ『おとなの夏休み』、細野晴臣『トロピカル・ダンディー』、ミュート・ビート『ラヴァーズ・ロック』などだが、これに Fuubutsushi 『Columbia Deluxe』を加えることはやぶさかでない。なお、筆者のイチオシは、タイトル通りの静謐でミニマルな音像が、ラファエル・トラルやローレイン・コナーズといったギタリストのソロ作を想わせる“Loop Trail”。それと、ROVOがアンビエントをやっているような音響が心地よい“Light in the Annex”だ。……とこれを書いている今、メンバーのマシュー・セイジが9月26日にソロ・アルバム『Tender / Wading』をリリースするというインフォメーションが飛び込んできた。既に先行シングルの「Wading The Ppain」がMVと共に公開されているので、こちらも視聴/試聴してみて欲しい。