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岩崎一敬   Jun 10,2010 UP
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 僕は、オフタイムではルーツ的な音楽を聴くことが多い。スカやレゲエといったジャマイカの音楽だったり、ジャズ/フュージョン、ソウル、ファンク、ディスコ、ブルース、カントリー、ソフト・ロック、ワールド・ミュージックなどなど。日頃、主張が強くてうるさいものばかり聴いているので、なるべくけれんみのないものを求めてしまうのかもしれない。生活や街に根付いたような表現だったり、推敲を重ねて削りだされた作品は、たとえどんなジャンルの音楽であってもけれんみなく響くものだ。

 キセルのニュー・アルバム『凪』は、まさに推敲を重ねて削りだされた美しさを持つ作品だ。が、よ~く見つめてみると、美しさと同時に「いびつ」をも有している。生活に根付いているようで、どこか「ねじれ」ている。そんな面白さがあるアルバムである。

 あまりに音楽が日常の空気と溶け込んでいるためか、最初の1~2回は、うっかり聴き過ごしてしまうくらいだった。〈これまででもっとも音数が少ない〉と言われた前作よりさらに音数は少ない。演出も抑制されていて、作為的なものを徹底的に排除したアルバム......、最初はそう思っていた。しかし、聴くたびにその本当の輪郭と細部が浮かび上がってくる。その巧妙さに感嘆する。つまり、実はさりげなく演出を加えている、そんな塩梅が今作『凪』のポイントではないだろうか。

 キセルの音楽をひと言で表すなら、モンドな感性で彩られたフォーキーなポップス、ということになる。ノスタルジックな日本語の歌と穏やかな演奏を核にしながら、レゲエをはじめとしたカリブ・ミュージックのリズムとシンセサイザーやテルミンなどの空間的な音が、若干のエキゾチズムとサイケデリックな風味を与えている。うまいなぁと思うのは、「さあレゲエやってます」とか「ダブを取り入れてますよ」といった主張を感じることのないアレンジだ。それは耳を澄ませば聴こえてくるレゲエのリディムであり、電子音だ。音が削がれていった結果なのだろうが、考えてみると、ものすごモダンかつオルタナティヴな試みのように思える。彼らはさも平静な顔で、どこにもないような音楽を奏でているわけだから。

 兄弟"ふたり"のユニットであるということが大きく関係しているのかもしれない。ふたりで演奏するわけだから、大人数のバンドよりも音数を減らす必要がある。また、ふたりで演奏できる範囲で、最大限に曲を表現しなければならない。だから、なおさら音を吟味しなければならない。アルバムを何度も聴いていると、いろんな発見がある。多様な音楽のエッセンスを1曲のなかに見つけることもできる。あらゆる音楽の"素"を取り出して再構築されているのがわかる。もうひとつ、キセルの音楽の特徴のひとつとしてよく言われる、空想的な世界観だ。新作『凪』も、じっくり覗き込んでみると日常の風景とは少々異なる世界が広がっていることに気付かされる。

 キセルの独自性がさらに磨かれた通算6枚目のアルバム『凪』。長い付き合いになりそうだ。

岩崎一敬