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久保正樹   Mar 14,2014 UP

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 90年代のテクノ・ブームに再発見されるまでは一部のジャーマン・プログレ〜ニューウェイヴ好きを除いて、知る人ぞ知る存在であったジャーマン・エレクトロニクスの至宝『ゼロ・セット』(1983年)。クラスターのディーター・メビウス、そのクラスターの産みの親ともいえるプロデューサーのコニー・プランク、そしてグルグルのドラマーであるマニ・ノイマイヤーによる、ビキビキの電子音とキレキレのリズムがギリギリまで走り抜ける早すぎた人力テクノにして、いまやみんなが憧れるプレ・テクノの古典中の古典である。 
 そんな彼らが90年代の再評価に気を良くして……なんてことは彼らにかぎってあり得るはずもないのだが、96年にリリースし、今回ジャケットも新たに〈Bureau B〉からリイシューされたメビウス、ノイマイヤー、エングラー名義の作品が『アザー・プレイセス』である。いやはや。これが『ゼロ・セット』に負けず劣らぬじつにパンクなエレクトロニクスを炸裂させるのだからたまらない。87年に他界したコニー・プランクにかわってメール〜ディー・クルップスの鋼鉄王ユルゲン・エングラーをギターとシンセに加えたエクスペリメンタルお遊戯。お馴染みの図太いシーケンス、ビュンビュン飛び回る電子音、そして立体的でいつになくダビーなリズムに動物の鳴き声やアフリカ古来の民族楽器ムビラ(親指ピアノ)を想起させる演奏など、4日間に渡るルール無用のコズミック・セッションはオーヴァーダブなしの一発録り。頭のてっぺんからつま先まで異様なテンションに包まれつつも、かといって肩の凝らないユーモアがそこかしこに見てとれて聴いてとれる。そう、それはまるで幼児の疑問のように突発的でラディカルで、我々の耳の内側にこびりついたつまらない常識をぺりぺりと引っぱがしてくれて、すこぶる気持ちよく愉快である。

 そして、2014年。何の前ぶれもなく18年ぶりにメビウス、ノイマイヤー、エングラーの新作『アナザー・アザー・プレイセス』がリリースされた。これにはびっくり! Phewと小林エリカによるユニット=プロジェクト・アンダーク『ラジウム・ガールズ2011』の音楽を担当したり、アスムス・ティーチェンスとのコラボ作『メビウス+ティーチェンス』(2012年)をリリースしたり、さらにジム・オルークとのデュオやプロジェクト・アンダークのライヴのために来日するなど、ここ最近のメビウスの素晴らしい仕事ぶりは追っていたのだが、やはりこのトリオとなると特別である。18年の空白なんて何のその。原始宇宙で繰り広げられるナイス老人たち(メビウスとノイマイヤーは70代!)のセッションは時空をひょいと飛び超え、過去の音ではなくいまの音で未来を描き出す。う〜ん、変わらない。音とリズムがよろよろと蛇行しながらひたすら脱線を繰り返すという珍異な音体験なのに耳にしっくり馴染むこの感覚。まったく変わらない。
 ノイマイヤーの野蛮で無重力なくせにおもむろにピントを合わせてくる唯一無二なリズム。その上で自由に遊び回るメビウスのエレクトロニクスはますます鋭さと可笑しさを増し、こちらの思考をぐるぐるかき回す。そして、エングラーのトランシーなギターが多分に登場するところも聴きどころ。さらに、酔っ払いの鼻歌のごとく湯船につかってハラヒレホロハレ状態のヴォーカル(エングラーのトーキングボックスかな?)も飛び出したりと、もう収拾不可能。もはや誰にも手がつけられず、かき回された思考が停止する瞬間もしばしば。
 
 次はあるのかないのか。そんなことはどうでもいい。洗練とは対極のはるか彼方から鳴らされる意味も理由もないこの音楽を楽しめばいい。しかし、あらためてこの3人が集まると音の端々は激しくトンガリまくっているのにどこにも角が立たないのだから、まったく不思議以上に不思議である。

久保正樹