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Home >  Columns > 工藤キキのTHE EVE- vol.2 : There Is A Party Never Goes Out

Columns

工藤キキのTHE EVE

工藤キキのTHE EVE

vol.2 : There Is A Party Never Goes Out

文:工藤キキ Apr 30,2013 UP

 NYに来てからいろんなパーティに行ったけど、たぶん去年一番多くの時間をこの夜に費やしたと思う。毎週日曜、グリニッチビレッジにあるBar、Sway Loungeでの「Smiths Night」だ。その名の通り、かかっている音楽はスミスまたはモリッシーが全体の70%をしめる。

 東京の友だちはこの2013年に私がスミスで踊っていると聞くときっと驚くと思うけど、いまのところどんなパーティに行っても結局はここに戻ってきたいと思っている。とはいえ、私がほぼ毎週行ってると話すとNYの友だちですら「えっ、まだやってんの? 昔はよく行っていたけどね...」と驚く人も多い、去年で10年目を迎えた老舗パーティのひとつ。

 どうしてスミスにまったく影響を受けてこなかった私がなぜ行きはじめたかというと、レジデントDJのひとりがGang Gang DanceのBrian Degrawだからでもある。
 「Smiths Night」はBrianとファッション・デザイナーとしてのキャリアも持つBenjamin ChoがメインのDJ。Brian曰く「全生涯をかけていると言っても過言でない!」ほど、幼少期から世界中でリリースされたスミスとモリッシーに関するあらゆるレコードを集めているコレクターでもある。そしてこのコレクションを熟知していて、いつもその'レア'度に感心を寄せていたクロエ・セヴィニーとその兄のポールから「こんなにたくさんのコレクションがあるんだったら、スミスしかかからないパーティをすれば? 」という提案を受けて、Brianが同じく筋金入りのスミス・ファンのBenを誘ってパーティはスタートした。

 はっきり言ってSwayは普段友だちとハングアウトするようなダウンタウンやブルックリンの雑多なバーとは少し毛色が違う。
 DJブースの周りにはBrianたちの友だちしかいないけど、奥のテーブルには「今夜はリンジー・ローハンが来ているよ」とか、年齢層は様々だけど、ダンスフロアにはミッドタウンで紙袋をぶら下げて歩いているようなファッション系、モデル風の子たちも多くて、ハイプで少しデカタンな香りもする。

 いまでこそ日曜日の夜は人で溢れているけど、初期はBrianたちの友人10~15人程度しか来てなかったそうだ。大げさな言い方だと'宣教'の10年という感じで、スミスをもっと多くの人に聴いてもらうことがBrianにとっての重要なテーマだった。それこそ初期はスミスのポスターを貼るとかデコレーションに凝ったり、スミスのTシャツを着てきたらフリードリンクみたいな仕掛けも用意したが、リリックが苦手という人も多くてなかなかパーティが浸透するのに時間がかかった。
 それが結果的に15人程度のお客さんから人が増えたのはファッションワールドがモリッシーのヘアスタイルやバンドTに興味を示したからというのは否定できないと言っていた。そういえばブラックフレームのメガネとかリーゼンとかテディボーイ的なスタイルとか00年代のはじめとかに一時流行ったかも......。  

 音楽ではなくファッションが入口となったのを目の当たりにしたのは「本当に奇妙なサイコロジカル体験」とBrianは言っていたけど、いまではそこに彼らのバンド系やアンダーグラウンド寄りの友だちがランダムに交じりフロアは"ASK"や"The Last of Famous International Playboys"、"I'm so Sorry"、「Interesting Drugs」がかかるのを待っている。
 とはいえ初期は本当に100%スミスしかかかってなかったみたいだけど、いまではBrianはスミスもかけるけど、 Deep House からGhetto Base、メキシコで見つけたTechnoや、「ダンボ」のサントラとかオールディーズ、そしてダイナソーJrやRIDEだったりと選曲はかなりランダム。そして流石バンドマンなだけに巧みなCDJ使いで、DJというよりライヴ感があふれていて、やっぱりミュージシャンなんだなという感じが強い。既成のダンスミュージックをかけるというよりも、ランダムにいろいろな音を混ぜるあたりがバレアレックサウンドにも聴こえる。
 東京では普通に使っていた音楽のカテゴライズとかも、こっちのミュージシャンとかはあまり気にしてないようで、前にBrianに彼のDJとバレアリックの関係性は? みたいな話しをしたことがあったけど、そのあたりはまったく意識をしたことがないとのこと。彼のDJのベースはなんと、スミスのライヴの直前のウォームアップ用にモリッシーが選曲した音だったりする。
 例えばBilly FullyやJayBee Wasden、Diana Dorsなどの60'sのイギリスのロカビリーやオールディーズ、Dionne WarwickやNico、New York Dolls、Klaus Nomi、Jobriath、Sparks......などモリッシーがいままでに影響を受けてきた音楽なんだけどBrianはこの客入れ(?)時の音も会場で録音したりして集めていたらしく、これが彼のDJのベースになっているそうだ。なるほど。

 そんなライヴを見に行くような感覚で毎週通っていたけど、結果的にトリコになったのは実はBenのDJだったりする。
 Brianも言っていたけど、Benはこの10年ほぼ同じ曲をかけ続けている。それは70%はスミスであとは、Erasure -A Little Respect 、The Pet Shop Boys -Always On My Mind 、The Cure -Just like Heaven 、David Bowie -Queen Bitch、 Freda Payne -Band of gold、A Flock Of Seagulls -Space Age Love Song、Juanes-La Camisa Negra 、Bell &Sebastian -The Boy With The Arab Strap、The Slits -I Heard It Through The Grapevine ......などの子供の頃に耳にした70'sや80'sのヒットソングからインディロック。これが本当にほぼ毎回同じ展開でかかるんだけど、イントロがかかっただけで甘酸っぱい思い出がこみ上げてくるような、まさに私が高校生のときに行ったロンドンナイトでTracey Ullman-Breakawayがかかるのを待っていたことを思い出す......。
 とはいえ、毎週同じ曲がかかるとはいえ夜ごとのバイブスは違う。だからクレイジーにもスローな夜にもなる。それこそ奇妙なサイコロジーで居合わせた人の気分次第でパーティの熱度はどうにでも変えることができる。

 いつでも誰でも新しい何かを求めていると思うし、新しい刺激はいつでも魅力的で、飽きるのもはやい。だけどBenはいつもここにいて、淡々と自分が好きだった曲をかけ続けている。それを若い子は追体験し、大人たちは在りし日を思い出しながらまどろむ。この日曜日の夜だけは、スタイル・ウォーズな日常からの逃避のような、懐かしい時間に戻れる気がする。
 前にGang Gang DanceのLizzieとお茶をしていたとき、窓ガラスの向こうの通りに昼間から、うつらうつらと寝ながら歩いている男性が見えた。「たぶんヘロインやってるんだよ」と彼女が言うので、「でも、あんな状態で楽しいのかな?」と聞くと、「10分間ぐらいは天国にいるみたいだからね、誰でも忘れたいことがあるでしょ」と言っていた。思春期特有の苦悩に細い手を差し出してくれるようなスミスの音楽は、薬物の酩酊状態のときに見る数分間の天国にも近いのかもしれない。それは不確かで不道徳かもしれないけど、忘れたいことに対してやさしい。

 実はBrianとBenによる日曜日のSmiths Nightはもうじき終る。Brianは木曜日に移ってダンス・ミュージック中心のパーティをはじめることになるけど、Benは変らず日曜日にSwayにいるみたい。NYにお越しの際はぜひ一度遊びに行ってみて。

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