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ファンキーモンキーベイビーズは解散し、大友良英はタモリと邂逅した

ファンキーモンキーベイビーズは解散し、大友良英はタモリと邂逅した

――2013年におけるノベルティソングの復権

矢野利裕 Jan 14,2014 UP

 『第55回 輝く! レコード大賞』の作曲賞に、“あまちゃん オープニングテーマ”と“潮騒のメモリー”が選ばれた。多くの人と同じように、僕も以前から、大友良英やフィラメントなどを好んで聴いていたので(とくにONJO『アウト・トゥ・ランチ』やグラウンド・ゼロ『ナル・アンド・ヴォイド』などには感銘を受けた)、彼やサチコ・Mの音楽が国民的に愛されることには痛快さと嬉しさを感じるわけだが、それ以上にこの劇中曲の受賞は、昨今のポップスの主流が、ますます「アーティスト」系から「ノベルティ」系へ移行していることを示しているように思えた。

 大瀧詠一はかつて、近代日本の大衆音楽はすべからく日本以外の音楽の影響を受けているとして、これを「世界史分の日本史」と分数のイメージで捉えた(注1)。この「世界史」(=分母)「日本史」(=分子)の位置づけをそれぞれ「企画」「人格」に置き換えて、日本のポップスはすべからくノベルティソングである、と言ったのはマキタスポーツである(注2)。僕らはともすれば、音楽に「アーティスト」の気持ちや主張を読み込みがちだが、その背後にはじつは「企画」としての側面が存在している。つまり日本のポップスは、いかに「アーティスト」が等身大の自分を歌っていようとも、ノベルティソングだということである。日本でロックを歌うということが、あるいはダンス・ミュージックを実践するということが、そもそも「企画」先行で成立しているのである。その意味で、大正期に結成された最初期のジャズ・バンドのひとつであるコスモポリタン・ノヴェルティー・オーケストラが、バンド名に「ノヴェルティー」という言葉を冠している事実は興味深い(注3)。つい忘れがちだが、日本のポップスの背後には少なからず「企画」が隠れている。そしてここ最近、日本のポップスはむしろ、等身大の自分を歌いがちな「アーティスト」系から「企画」性を前面に押し出す「ノベルティ」系へとモードが移行しつつある。

 この変化を感じはじめたのは、AKB48を経て、ももいろクローバー(Z)が出てきたあたりである。彼女たちは、自分たちの気持ちや主張を歌うというより、あるときはプロレス、あるときはヒーローものなど、なかば無理強いされる「企画」に一生懸命応えていく姿勢に魅力があった。ももクロにおいては、元ネタ云々も大事だったが、それ以上に、ムチャぶりの「企画」に応える「全力少女」としての姿が重要だったのだ。僕はグループアイドルについては申し訳ないことに不勉強なのだが、共感を得やすい歌詞で等身大の自分を歌う「アーティスト」が幅を利かせていたときにあって、ももクロの存在を特異に感じたことをよく覚えている。グループアイドル戦国時代とは、日本のポップスにおける「ノベルティ」系の復権として捉えるべきだ。くり返すが、いかに「アーティスト」然としていようが、すべからくノベルティソングなのである。このことを忘却して、「アーティスト」系を優位に置き、アイドルソングやコミックソングなど「ノベルティ」系を劣位に置くのは「遠近法的倒錯」(柄谷行人)(注4)と言わざるを得ない。むしろ、等身大の自分を歌う「アーティスト」然とした振る舞いのほうが、日本のポップスのありかたとしては特異なのだと言えるかもしれない。

 このたびレコ大の作曲賞に選ばれた2曲を筆頭に、300以上の『あまちゃん』の音楽は宮藤官九郎の「脚本ありき」(注5)で作られたものであり、なかでも“潮騒のメモリー”などは堂々たるノベルティソングである。2013年を代表する音楽(と言っていいだろう)が、『あまちゃん』という「企画」が先行された曲の数々だったことは、「ノベルティ」系をひいきしがちな僕としてはたいへん喜ばしいことであった。しかも、曲自体も本当に素晴らしい(注6)。このようなノベルティソング史観からすると、2013年の日本のポップスにおいていちばん重要だったと思えるのは、大友良英が『笑っていいとも!』に出演してタモリとの邂逅を果たしたことである。タモリこそは、かつて『タモリ』『タモリ2』『タモリ3』という偉大なるノベルティ盤を出した人物であった。大友良英は『タモリのオールナイトニッポン』にデモテープを送って、その音源は番組上で流されたことがあるという。ノベルティソングをひっさげて登場した大友が、他ならぬ『笑っていいとも!』でこのエピソードを披露することの、なんと感動的なことよ!

 2013年、“ありがとう”というこれ以上ないほど等身大の言葉でつづられた曲を最後に、ファンキーモンキーベイビーズが解散した。それと入れ替わるように、『あまちゃん』の音楽は毎朝鳴り響いていた。等身大の言葉で作詞をする西野カナは、紅白歌合戦で、はからずも“さよなら”と歌った。2013年は、まことに「アーティスト」系から「ノベルティ」系への移行の年であった。


(1)「大瀧詠一のポップス講座~分母分子論~」(『FM fan』1983.11.25-12.4)

(2)アルバム『推定無罪』発売にともなっておこなわれた、いとうせいこうとの対談での発言。マキタ流「分母分子論」については、今後論じられることが期待される。というか、マキタの新刊では、そのことに触れられているかもしれない

(3)コスモポリタン・ノヴェルティー・バンドについては、毛利眞人『ニッポン・スウィングタイム』(講談社 2010,11)を参照のこと

(4)柄谷行人『日本近代文学の起源』(講談社 1980.8)ここで柄谷の言葉が引用される意味は、大和田俊之「大瀧詠一とアメリカン・ポピュラー・ミュージックの〈起源〉」(『文藝別冊 大瀧詠一〈増補新版〉』2012.8)で確認してほしい

(5)2013年8月7日放送『荻上チキ・Session22』における大友良英の発言。

(6)“あまちゃん オープニングテーマ”の音楽性その他については、村井康司「ダサいぐらい我慢しろよ!――シンプルを恐れないコンポーザー」)が面白かった。

【追記】
この原稿を書き終えた直後、初めて目にしたニュースが大瀧詠一の訃報でした。「ノベルティ」時代の到来とは、なにより大瀧詠一的な時代の到来である、という気持ちを強く持って書いていました。いちファンとして、心よりご冥福をお祈りします。

Profile

矢野利裕 矢野利裕(やの・としひろ)
1983年生まれ。ライター、DJ、イラスト。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸編『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。

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