ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. R.I.P. Brian Wilson 追悼:ブライアン・ウィルソン
  2. Autechre ──オウテカの来日公演が決定、2026年2月に東京と大阪にて
  3. Columns 高橋康浩著『忌野清志郎さん』発刊に寄せて
  4. Tanz Tanz Berlin #3:FESTIVAL WITH AN ATTITUDE ―― 'FUSION 2011'体験記
  5. 忌野清志郎さん
  6. R.I.P.:Sly Stone 追悼:スライ・ストーン
  7. Columns The Beach Boys いまあらたにビーチ・ボーイズを聴くこと
  8. These New Puritans - Crooked Wing | ジーズ・ニュー・ピューリタンズ
  9. 完成度の低い人生あるいは映画を観るヒマ 第三回 アロンソ・ルイスパラシオス監督『ラ・コシーナ/厨房』
  10. world’s end girlfriend ──無料でダウンロード可能の新曲をリリース、ただしあるルールを守らないと……
  11. Saho Terao ──寺尾紗穂の新著『戦前音楽探訪』が刊行
  12. アナキズム・イン・ザ・UK
  13. Sun Ra ——生涯をかけて作り上げた寓話を生きたジャズ・アーティスト、サン・ラー。その評伝『宇宙こそ帰る場所』刊行に寄せて
  14. MOODYMANN JAPAN TOUR 2025 ——ムーディーマン、久しぶりの来日ツアー、大阪公演はまだチケットあり
  15. Ches Smith - Clone Row | チェス・スミス
  16. Columns The TIMERS『35周年祝賀記念品』に寄せて
  17. Swans - Birthing | スワンズ
  18. rural 2025 ──テクノ、ハウス、実験音楽を横断する野外フェスが今年も開催
  19. interview with caroline いま、これほどロマンティックに聞こえる音楽はほかにない | キャロライン、インタヴュー
  20. David Byrne ──久々のニュー・アルバムが9月に登場

Home >  Columns > ハテナ・フランセ番外編:シャルリ・エブド事件について

Columns

ハテナ・フランセ番外編:シャルリ・エブド事件について

ハテナ・フランセ番外編:シャルリ・エブド事件について

文:山田蓉子  photos : Cédric Gaury Jan 28,2015 UP

 みなさんボンソワール。
 今日のお題はシャルリ・エブド事件。この件について話そうとしても自分の中でどうにも整理がついていないので混乱してしまうのだが、私が理解したことを私なりに書いてみようと思う。
 まずはシャルリ・エブドという週刊紙について。個人的には事件まで聞いたこともなかったが、40年以上続くその風刺のスタイルは決して大衆にウケるものではなかったという。なにしろシャルリ・エブドの前身、風刺雑誌ハラキリ(ええ、腹切です)のスローガンが“journal bête et méchant=バカで意地悪な雑誌”である。彼らはその攻撃的とも言える挑発の姿勢を最初からはっきりと打ち出していた。その遠慮なさ、そして下品さは多くの人が眉をひそめるものだったが、宗教、政治などすべての体制に等しく楯突き茶化すことによって疑問を呈する、というのがその姿勢だった。日本人の私には、そして今となっては彼らの茶化す姿勢が風刺なのか中傷なのかをフェアに論じるのは困難だが、編集長をはじめ今回殺害されたシャルリ・エブドの編集者やイラストレーターたちは皆人道主義者だったという。そして彼らの葬儀はまるでコミュニスト集会の様相を呈していた。

 フランスインテリ層の傲慢なのかもしれないが、彼らの認識は「彼らのやり方に必ずしも賛成するものではないが、彼らの思想は絶対的に人種差別的ではなかった」というものであることは確か。公称発行部数も45,000部と決して多くなかったこの風刺週刊紙は、小さいながらも多くのフランス人にとって報道の自由のシンボルだったわけだ。
 私は個人的にアメリカによる「世界の警察」的な絶対的道徳感に馴染めなく、そのこともフランスへの愛着に繋がってきたのだが、社会党員の友人による「世界人権宣言はフランス憲法を参考にしていて、以来、フランスは人道国家だと自分たちでは自覚してる。そして人道的な問題は、異文化、異宗教、自分たちとは異なったものだからといって放置はできない」とシャルリ・ エブドの風刺を通しての問題提起を正当化する姿を見て、フランス人もそのような絶対的道徳感を持っているのだと気付かされた。なにせ世界征服を本気で夢見たナポレオンの国である。少なくとも人道問題には一過言あると世界に向かって主張したいのも理解できる。
 また、今回の事件でフランス人に大きなショックを与えたひとつの要素は言論の自由がおびやかされるかもしれない、という恐怖だったようだ。18世紀反権力の哲学者ヴォルテールが言ったとされる「私はあなたの書いたものは嫌いだが、私の命を与えてもあなたが書き続けられるようにしたい」との名言があるように、フランスでは報道、言論の自由は聖域であり、それがいかなる形を取ろうとも尊重されるべきだとされている。先述の蒸し返しになるが、どこまでが言論の自由であり、どこからが中傷なのか、フランス人には明確な判断基準があり、シャルリ・エブドはそのOKライン内だったわけだ。今回の360万人の追悼集会はそのような言論の自由が脅かされることへのNonという意思表示がひとつの目的だった。
 また、今回のシャルリ・エブドへの襲撃、惨殺は明らかにテロリスト側(それがどの程度国際組織的意図があったかはまだわかっていない)が、下品ながらフランスの言論の自由と人道主義の小さな(大きな組織ではなかったということも重要)シンボルを叩き潰すという挑発であり宣戦布告であったことは明らかだ。そして先の追悼集会はその挑発に対するNonでもあったわけだ。
 ちなみに〈エド・バンガー〉や〈マーブル〉、〈サウンド・ペリグリノ〉といったパリのエレクトロ・レーベルのアーティストたちもデモに参加したそうだ。私の周りだけでもこの集会に参加しなかった人はひとりもいない。


テキ・ラテックス(元TTC)

 最後に信頼できる友人でありアーティスト、テキ・ラテックス(元TTC,現サウンド・ペリグリノ)の言葉を紹介して終わりたい。彼はアメリカ・ツアー中で事件も追悼集会もパリで体験はしていない。そして今フランスでシャルリ・エブドに関して逡巡した思いを語るのは大変勇気がいることだということを付け加えておこう。
 「最初に言っておきたいのは、この事件への思いは僕自身100%自信を持って白黒つけられていないということ。でも今思っているのはこんな感じ……。もちろん当然テロには反対だし、少しの正当性もあの事件にはない。でも僕にはこれが単純な宗教の問題だけでも、言論の自由に対する脅威だけでもないように思える。そしてこの事件で反宗教的な立場を取ることにどうしても疑問を感じてしまうんだ。僕は無神論者だけど、他の人の信仰心は尊重する。もちろんたとえばサウスパークのように揶揄することはOKだと思うけど、僕は繰り返し同じ人種(*注釈この場合アラブ系)や宗教が風刺され批判されることは、差別的な風潮に一役買っていないとは言えないと思うんだよ。シャルリ・エブドに起きたことは本当にひどいけれど、それに対する回答がさらなる風刺であり、”私はシャルリ”であり、イスラム教を非難することであるっていうのはやはりひどいことだし、そこにさらなる反動が生まれるんじゃないのかな。どうかな、違うかな……」

*フランス人の謎の行動を解明する連載、山田蓉子の「ハテナ・フランセ」は紙エレキングで絶賛連載中。

COLUMNS