Home > Columns > クラブ・ミュージックにおけるインテリジェンスの現在
あらゆる手法が出尽くしてしまったかのように見えるダンス・ミュージックを、いかに更新することができるのか。かつてはそこに知性を持ち込むことによって、あらたな表現の枠組みとしてIDMが生まれたわけだが、現在のフロアにおいてそれはどんな形をしているのだろう。
アントールドの「ドフ」は、今年リリースのなかでも突出したオリジナリティがあり、かつかなりクレイジーな部類に入る作品だった。モジュラー・シンセの霧の上にまさかのギターとスラップ・ベースが重なり、中盤でやっとキックが入ってくるというかなり異端的な構成になっていて、そのはみ出し感がクレイジーたるゆえんである。
ダブステップからスタートした彼の関心は、去年のアルバムで表現されているようにテクノに向かっている。アントールドは自らの新たな土台を作るためにディスコグスを用いて、テクノにおける法則性を研究したのだという。その結果、過去に類似しないクレイジーさが生まれた。自分が現在しようとしていることを膨大なアーカイヴのなかで定点観測的に捉え、オリジナリティを作る。情報の海の泳ぎ方は、現代において必要な知性のひとつのようだ。
またそこにおいて「コピーをしない」、という点も重要になってくる。エナは去年の『バイノーラル』前後から、ドラムンベースのリズムを換骨奪胎したアプローチをとり、結果としてテクノのシーンにも共鳴する個性的なサウンドにたどりついた。そこには現在のトレンドでもあるブレイクビーツを用いたバック・トゥ・ベーシックな90年代回帰はいっさい見られない。
「ドラムンベースの10年をダブステップは5年でやってしまった」とエナは言う。ネット上の情報共有の加速化は利益をもたらす一方で深刻な問題もあり、どんなメソッドも瞬時にコピーされ、「新しさ」のサイクルはどんどん短くなっている。あの難解に思われたアルカのサウンドですら、いまでは類似したものが多数あるくらいだ。現在において自作におけるオリジナリティを守るためだけではなく、シーンを殺さないためにも「コピーをしない」はなくてはならない知性なのである。
インテリジェンスはここにある! 5枚/5つの問題提起