ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  2. Beyoncé - Cowboy Carter | ビヨンセ
  3. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  4. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  5. 壊れかけのテープレコーダーズ - 楽園から遠く離れて | HALF-BROKEN TAPERECORDS
  6. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  7. Brian Eno, Holger Czukay & J. Peter Schwalm ──ブライアン・イーノ、ホルガー・シューカイ、J・ペーター・シュヴァルムによるコラボ音源がCD化
  8. interview with Mount Kimbie ロック・バンドになったマウント・キンビーが踏み出す新たな一歩
  9. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  10. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  11. 三田 格
  12. Beyoncé - Renaissance
  13. Jlin - Akoma | ジェイリン
  14. HAINO KEIJI & THE HARDY ROCKS - きみはぼくの めの「前」にいるのか すぐ「隣」にいるのか
  15. 『成功したオタク』 -
  16. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  17. KRM & KMRU ──ザ・バグことケヴィン・リチャード・マーティンとカマルの共作が登場
  18. Beyoncé - Lemonade
  19. Politics なぜブラック・ライヴズ・マターを批判するのか?
  20. R.I.P. Damo Suzuki 追悼:ダモ鈴木

Home >  Columns > クラブ・ミュージックにおけるインテリジェンスの現在

Columns

クラブ・ミュージックにおけるインテリジェンスの現在

クラブ・ミュージックにおけるインテリジェンスの現在

文:髙橋勇人 Nov 10,2015 UP

 あらゆる手法が出尽くしてしまったかのように見えるダンス・ミュージックを、いかに更新することができるのか。かつてはそこに知性を持ち込むことによって、あらたな表現の枠組みとしてIDMが生まれたわけだが、現在のフロアにおいてそれはどんな形をしているのだろう。

 アントールドの「ドフ」は、今年リリースのなかでも突出したオリジナリティがあり、かつかなりクレイジーな部類に入る作品だった。モジュラー・シンセの霧の上にまさかのギターとスラップ・ベースが重なり、中盤でやっとキックが入ってくるというかなり異端的な構成になっていて、そのはみ出し感がクレイジーたるゆえんである。

 ダブステップからスタートした彼の関心は、去年のアルバムで表現されているようにテクノに向かっている。アントールドは自らの新たな土台を作るためにディスコグスを用いて、テクノにおける法則性を研究したのだという。その結果、過去に類似しないクレイジーさが生まれた。自分が現在しようとしていることを膨大なアーカイヴのなかで定点観測的に捉え、オリジナリティを作る。情報の海の泳ぎ方は、現代において必要な知性のひとつのようだ。

 またそこにおいて「コピーをしない」、という点も重要になってくる。エナは去年の『バイノーラル』前後から、ドラムンベースのリズムを換骨奪胎したアプローチをとり、結果としてテクノのシーンにも共鳴する個性的なサウンドにたどりついた。そこには現在のトレンドでもあるブレイクビーツを用いたバック・トゥ・ベーシックな90年代回帰はいっさい見られない。

 「ドラムンベースの10年をダブステップは5年でやってしまった」とエナは言う。ネット上の情報共有の加速化は利益をもたらす一方で深刻な問題もあり、どんなメソッドも瞬時にコピーされ、「新しさ」のサイクルはどんどん短くなっている。あの難解に思われたアルカのサウンドですら、いまでは類似したものが多数あるくらいだ。現在において自作におけるオリジナリティを守るためだけではなく、シーンを殺さないためにも「コピーをしない」はなくてはならない知性なのである。

インテリジェンスはここにある! 5枚/5つの問題提起


Discogs

Untold - Doff
(Hemlock Black (12) 2015 )


Amazon

ENA - Binaural
(Samurai Horo 2014)


Amazon

Demdike Stare - Testpressing #005
(Modern Love (12) 2014)


Amazon

Monolake - Ghosts
(Monolake / Imbalance Computer Music 2012)


Discogs

Sd Laika - That's Harakiri
(Tri Angle 2014)

Profile

髙橋勇人(たかはし はやと)髙橋勇人(たかはし はやと)
1990年、静岡県浜松市生まれ。ロンドン在住。音楽ライター。電子音楽や思想について『ele-king』や『現代思想』などに寄稿。

COLUMNS