ele-king Powerd by DOMMUNE

MOST READ

  1. interview with Larry Heard 社会にはつねに問題がある、だから私は音楽に美を吹き込む | ラリー・ハード、来日直前インタヴュー
  2. The Jesus And Mary Chain - Glasgow Eyes | ジーザス・アンド・メリー・チェイン
  3. 橋元優歩
  4. Beyoncé - Cowboy Carter | ビヨンセ
  5. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第2回
  6. CAN ——お次はバンドの後期、1977年のライヴをパッケージ!
  7. interview with Martin Terefe (London Brew) 『ビッチェズ・ブリュー』50周年を祝福するセッション | シャバカ・ハッチングス、ヌバイア・ガルシアら12名による白熱の再解釈
  8. Free Soul ──コンピ・シリーズ30周年を記念し30種類のTシャツが発売
  9. interview with Keiji Haino 灰野敬二 インタヴュー抜粋シリーズ 第1回  | 「エレクトリック・ピュアランドと水谷孝」そして「ダムハウス」について
  10. Columns ♯5:いまブルース・スプリングスティーンを聴く
  11. claire rousay ──近年のアンビエントにおける注目株のひとり、クレア・ラウジーの新作は〈スリル・ジョッキー〉から
  12. 壊れかけのテープレコーダーズ - 楽園から遠く離れて | HALF-BROKEN TAPERECORDS
  13. まだ名前のない、日本のポスト・クラウド・ラップの現在地 -
  14. Larry Heard ——シカゴ・ディープ・ハウスの伝説、ラリー・ハード13年ぶりに来日
  15. Jlin - Akoma | ジェイリン
  16. tofubeats ──ハウスに振り切ったEP「NOBODY」がリリース
  17. 『成功したオタク』 -
  18. interview with agraph その“グラフ”は、ミニマル・ミュージックをひらいていく  | アグラフ、牛尾憲輔、電気グルーヴ
  19. Bingo Fury - Bats Feet For A Widow | ビンゴ・フューリー
  20. ソルトバーン -

Home >  Columns > We are alive- ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて

Columns

We are alive

We are alive

――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて

木津毅 Apr 28,2016 UP

 2015年の6月、SNSのアイコンがレインボウに染まってから――全米で同性結婚が合法化されてから――、アメリカにおいて性の多様性を受容することはコモン・センスとしてすっかり定着したのだと思い込んでいた。プライド・パレードで踊る曲はエクソダスを夢想する“ゴー・ウェスト”ではなくて、「自分はこう生きる」と強く宣言するレディ・ガガの“ボーン・ディス・ウェイ”のほうが、まあ時代には合っているんだろうな、と。僕などはむしろLGBTイシューに関してポリティカル・コレクトネスが強くなりすぎているようにも感じられたし、「もっと不謹慎なことをやるひとがいてもいいのに、正しいものばかりじゃなくても……」とこぼしていたぐらいだ。が、それはあまりにも呑気だったと言わざるを得ない……バックラッシュは思ったよりも早くやってきた。

 今年3月には「同性カップルの結婚式などを宗教的な理由で拒むことを認める」とする法律がジョージア州で可決され、大きなニュースとなる。それは著名人や企業の反発もあって知事が拒否権を発動することとなったが、急進したものに対する強い反発のムードが漂ってきているのは事実だ。現在問題となっているノース・カロライナ州で可決された法律「HB2」は出生証明書と同じ性別の公衆トイレの使用を求めるもので、これは明らかにトランスジェンダーの人びとに精神的苦痛を与えるものだ。こういうときに持ち出されるのは必ず子どもで、要するにトランスジェンダーの振りをした人間が子どもに性的虐待をする可能性があると法の賛成派は主張するのだが、セクシュアル・マイノリティ・イシューと性犯罪を安易に結びつけることの差別がそこにあることが見落とされている(あるいは、意図的なのだろうか……)。
 だから、このことに猛反発し、あろうことかノース・カロラナイナ公演をドタキャンしたのがブルース・スプリングスティーンだということは、彼がたんなる大物ミュージシャンでないことを証明するものだった。彼が負っているのはアメリカのロック音楽が目指すべき民主主義であることが、そこでは強調されている。もちろんブライアン・アダムスやパール・ジャム、リンゴ・スターなども公演キャンセルを表明したし、シンディ・ローパーなどは公演を行った上で利益を「HB2」撤廃のために寄付するというやり方を取っている。だがこの件に関しては、明らかにアイコンになっているのはスプリングスティーンだ。彼は「ロック・ショウよりも大切なものがある」と言い、そしてステートメントを発表した
 ひとつ興味深いのは今回キャンセルされたのが、昨年35周年記念でリイシューされた『ザ・リバー』のツアー公演だったことである。アメリカの内部で苦しみとともに生きる人びとを描き、ロックンロールのメロドラマと叙情性を彼らの物語に仮託したその作品がいま、マイノリティたちが生きるための権利運動と結びつくことに何か因縁めいたものを感じるのである。ノース・カロライナ公演のチケットを買ったひとのなかにはたんに『ザ・リバー』を懐かしく思った中高年もたくさんいただろうし、スプリングスティーンの政治的立場に賛同する者ばかりでもなかっただろう。ましてやLGBTイシューに意識的なひとばかりではないはずである。だが、ボスは自分のリスナーをそのことに巻き込むのである。
 それは「怒り」を巡るスプリングスティーンからの問いかけだ。相次ぐコンサートのキャンセルにすでに反発の声も挙がっているそうだが、そうして感情を揺さぶりながら「いまこの国で苦しんでいるのは誰だろうか?」と訴えるのである。僕たちは「We」であることができるだろうか、怒るべきものなのは何か、と。

 日本でLGBTイシューが後れを取っているのは、アウトしている当事者が少ない(社会がカミングアウトを受け入れていない)ということとともに、アライ(支援者)である非当事者の顔も見えにくいからと言われている。だから、ある種のパフォーマンスとして自らの立場を明確にしたスプリングスティーンの姿にはどうしたって――海を超えて、勇気づけられるものがある。コンサートを急遽キャンセルしたときにどれだけの損害が出るか考えると、彼の周りにいるスタッフも含めて負ったリスクは計り知れないだろう。
 いま政治に燃えるアメリカのなかで、決して若くはないミュージシャンもまたその最前線にいること。大統領選がエンターテインメントとして過熱するなか、そのことを見落とさないようにしたいと思う。そして僕は『ザ・リバー』を……いや、『レッキング・ボール』を聴く。そこには「We」からはじまる曲が2曲収められていて、そのタイトルは、「We take care of our own」と「We are alive」である。

TWEET

___ele_king___ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@___ele_king___ 04.28 18:24

the_trickster_sRT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@the_trickster_s 04.28 18:26

gariver3Columns We are alive - ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて | ele-king https://t.co/CEilyIIPO4 @___ele_king___さんから@gariver3 04.28 19:10

tsuyoshi_kizuRT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@tsuyoshi_kizu 04.28 19:22

itayan_itaenneRT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@itayan_itaenne 04.28 19:44

sgt_keruruRT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@sgt_keruru 04.28 19:50

gonpashinRT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@gonpashin 04.28 19:50

gatemouth8RT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@gatemouth8 04.28 19:53

m_m1941RT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@m_m1941 04.28 20:53

asp745RT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@asp745 04.28 21:22

FREDELIXRT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@FREDELIX 04.28 23:42

_naokiirie多様化する社会の中で、保守的な土壌に一石を投じた行動だそう。賛否あるみたいですRT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2ZbDcVkRSI@_naokiirie 04.28 23:42

uratColumns We are alive - ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて | ele-king https://t.co/si8YxLojkg@urat 04.29 07:28

namepyon良記事。「ボスは自分のリスナーをそのことに巻き込むのである」Columns We are alive - ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて | ele-king https://t.co/wCNjVXQPWR@namepyon 04.29 07:49

chikara69Columns We are alive - ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて | ele-king https://t.co/t9DZVqBzqI@chikara69 04.29 08:28

xxlp1Columns We are alive - ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて | ele-king https://t.co/iDFBFMwqPV @___ele_king___さんから@xxlp1 04.29 11:14

kiyusadaRT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@kiyusada 04.30 06:46

Kid_DicRT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@Kid_Dic 04.30 14:46

FBI_FBI_FBI_RT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@FBI_FBI_FBI_ 04.30 15:03

muni_dayo60台半ばのおじさんロックスターも、LGBTへの偏見のために闘ってるhttps://t.co/7PGdakkWX4@muni_dayo 04.30 18:29

cigarritaHB2って単語を初めて知った…  Columns We are alive - ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて | ele-king https://t.co/Ibao4x3hc6 @___ele_king___さんから@cigarrita 05.4 03:22

akr40416028RT @___ele_king___: ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて。https://t.co/2p8MisKLCy@akr40416028 05.7 09:11

___ele_king___【人気記事】Columns We are alive ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて「それは「怒り」を巡るスプリングスティーンからの問いかけだ」https://t.co/LAaCXqehMk@___ele_king___ 05.7 14:00

djkazuyoshiRT @___ele_king___: 【人気記事】Columns We are alive ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて「それは「怒り」を巡るスプリングスティーンからの問いかけだ」https://t.co/LA@djkazuyoshi 05.7 14:09

soranozomi_loveRT @___ele_king___: 【人気記事】Columns We are alive ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて「それは「怒り」を巡るスプリングスティーンからの問いかけだ」https://t.co/LA@soranozomi_love 05.7 14:09

unbordeRT @___ele_king___: 【人気記事】Columns We are alive ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて「それは「怒り」を巡るスプリングスティーンからの問いかけだ」https://t.co/LA@unborde 05.7 14:19

tsuyoshi_kizuRT @___ele_king___: 【人気記事】Columns We are alive ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて「それは「怒り」を巡るスプリングスティーンからの問いかけだ」https://t.co/LA@tsuyoshi_kizu 05.7 14:39

sgt_keruruRT @___ele_king___: 【人気記事】Columns We are alive ――ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて「それは「怒り」を巡るスプリングスティーンからの問いかけだ」https://t.co/LA@sgt_keruru 05.7 16:46

somedaymanWe are alive - ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて | ele-king https://t.co/uUUeYPBKYP@somedayman 05.20 03:52

kinchan666RT @somedayman: We are alive - ブルース・スプリングスティーンがノース・カロライナ公演をキャンセルしたことについて | ele-king https://t.co/uUUeYPBKYP@kinchan666 05.20 04:18

Profile

木津 毅木津 毅/Tsuyoshi Kizu
ライター。1984年大阪生まれ。2011年web版ele-kingで執筆活動を始め、以降、各メディアに音楽、映画、ゲイ・カルチャーを中心に寄稿している。著書に『ニュー・ダッド あたらしい時代のあたらしいおっさん』(筑摩書房)、編書に田亀源五郎『ゲイ・カルチャーの未来へ』(ele-king books)がある。

COLUMNS