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Critical Minded

Critical Minded

第6回 THE VERY THOUGHT OF YOU(前編)

磯部 涼 Dec 10,2009 UP

  多摩川のホームレスと野良猫の写真を撮り続けているカメラマン、小西修を追ったドキュメンタリー番組「ひとりと一匹たち~多摩川河川敷の物語」で、彼と一緒に野良猫の世話をする彼の妻が、ずっと気にかけていたのに、しばらく姿を見せなかった野良猫が草むらの中で死んでいるのを発見し、泣きながら、その硬くなった亡骸を抱きしめ、呟いた言葉が忘れられない。「生きてても、良い事なんかなかったね。でも、もう苦しい思いをしなくていいんだよ」。その猫に比べたら、チーはずっと幸せだっただろう。死ぬその瞬間まで、嫌な思いをほとんどせずに生涯を終えたはずだ。でも、幸せってなんなんだろうか。去勢され、家に閉じ込められたまま死んで行く飼い猫は幸せなんだろうか。それとも、繁殖出来るだけ繁殖し、寒くてひもじい思いをしながら死んでいく野良猫の方が幸せなんだろうか。そもそも、猫に幸せなんていう価値観があるのだろうか。飼い猫が欲しがるままに、肉や魚のみならず、ケーキまで与え、ブクブクと太らせた姿を嬉々として写真に収める中川翔子の行いは虐待にあたらないのだろうか。それとも、カロリー・コントロールされた簡素な味のドライ・キャット・フードしか与えない方が虐待という考え方も出来るのだろうか。猫は何も言わないから分からない。猫を飼うなんてことは、所詮は人間のエゴだし、無駄なことである。ただ、人間はエゴを押し殺せないし、無駄なことをせずには生きていけない。猫は黙ってそれを受け止めてくれる。僕が思い出すのは、僕と妻がベッドに寝ている間に潜り込んできて、目を細め、喉を鳴らすチーの表情である。あれを、幸せそうと言わなかったら、何を幸せそうと言うのだろうか。そして、僕たちがそのチーを撫でた時に手に伝わってきた温もり、そして胸に沸いて来た感情を幸せと言わなかったら、何を幸せと言うのだろうか。――僕は白い砂浜に置かれたベッドに独り座って、裸ではしゃぎ回るよく日焼けした白人の子供と、それを微笑みながら見守る若い夫婦をぼんやりと見つめ、そんなことを延々と考え続けていた。気付けば、2時間が経っていた。そろそろコテージに戻らなければならない。

(つづく)

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Profile

磯部 涼磯部 涼/Ryo Isobe
1978年、千葉県生まれ。音楽ライター。90年代後半から執筆活動を開始。04年には日本のアンダーグラウンドな音楽/カルチャーについての原稿をまとめた単行本『ヒーローはいつだって君をがっかりさせる』を太田出版より刊行。

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