Home > Interviews > interview with Takeshi "Tico" Toki - 国立そよかぜ通り
『太陽の花嫁』っていうタイトルは、究極の幸せっていうか、愛......溢れ出る愛。太陽は生命の源だしね。
LITTLE TEMPO 太陽の花嫁 Pヴァイン |
■リトルテンポって、すごくキャリアがあるバンドで......。へたしたら結成して20年ぐらい経っているでしょ。
土生:余裕で経っているね。学生の頃にいっしょにバンドやってた連中もいるからね。
■92年に結成だっけ? ラティチュードが1995年ぐらいでしょ。
土生:かなー。その前にシングルを出してるんだけどね。
■まあ、とにかくそのぐらいのキャリアがあるわけだけど、アルバムも10枚以上出してるし。で、『山と海』(2008年)以降、なんかすごく吹っ切れた印象受けるんだよね。
土生:うん。
■それまでのアルバムも俺はみんな好きなんだけど、『山と海』より前は、アルバムごとに工夫しているというか、初期の頃はヒップホップの影響が強いし、『ケダコ・サウンズ』(2001年)の頃は、こういうこと言うと嫌がるかもしれないけどラウンジーな感じもあるし、『スーパー・テンポ』(2005年)の頃はもっと躍動感が強調されている感じがするんだけど、『山と海』からは、タイトルが象徴的だと思うんだけど、削ぎ落とされた感じがあるんだよね。あえてベタな言葉を使っているというか。
土生:敢えてってこともなくて、自然に出てくるんだよね。
■そこはやっぱ、何か吹っ切れたってところじゃない?
土生:そうだね。うん。
■どういう部分が。
土生:自然でいいんじゃないかなっていう。何かこう大きな野望を抱いてとか、「ブチかましてやる」とかって感じじゃなくて。自然体でいたいな。
■その前は野望があったの(笑)?
土生:野望あったよ。紅白歌合戦に出演するとか(笑)。
■過去の作品を聴き直すと凝っているんですよ。
土生:すごい凝っているね。あの時代はサイケだった。
■なぜ『山と海』になったの?
土生:自然そのものに憧れてたね。街を否定するわけじゃないけど、いちばん必要なのは、ありのままの自然。ベタだけど、俺、ホントにそう思うんだよね。自然のなかで遊ぶのが好きなの。本来は自然といっしょに生きているわけだけど、都会で生活していると人間本来の感覚が麻痺してきちゃうんだよ。だから、なるだけ山と海に行って遊びたいなっていう気分だった。
■そういう、自然のままでやる、ありのままの自分たちで良いって、言葉でいうのは簡単だけど、実際にやっていくのって、また別のことだと思うんだけど。
土生:何も考えていない。考えていたらできないから。感覚じゃない。
■それは経験から来るものなのかな?
土生:そう、みんなそういう感覚だと思う。言葉じゃない世界。
■録音がやっぱ違うと思った
土生:そうだね。スタジオや録音の仕方で変わる部分は大きいと思うけど、結局、精神的な部分が大きく作用するよね。
■そこはミュージシャンが鍛えられていくってことなんだろうね。
土生:日々、修行です。
■曲は土生君が作ってるんでしょ? どんなふうに?
土生:俺ね、ゼロワンっていう時代遅れのキーボードがあって、16チャン打ち込めるのよ。それで、ベースラインだったり、リズムだったり、あとメロディだったりを軽くスケッチしておいて、で、そういうスケッチがいっぱいあるのよ、俺。
■へー
土生:そのなかで、イケてるなと思ったヤツを育てるわけ。で、ある程度まで自分で育てたら、みんなのところに持って行って、曲を育ててもらうの。
■そのスケッチっていうのは日常的にやってるの?
土生:毎日、定期的にはできないよ。突然の合コンもあるからね(笑)。
■ふーん。
土生:だからアレだよ、理論とか楽典みたいなので作っている人がいるかもしれないけど、俺はまったくそういう部分で作らないから。なんだろうな......ホントに......言葉では言えないね、それは。
■ああ。
土生:そんな高度なことをやってるつもりはぜんぜんないけど、とにかくイメージが膨らんでいくだけだからさ、いかにそこを広げるかって作業だね。
■『太陽の花嫁』は最近のスケッチを編集したって感じなのかな?
土生:いや、昔にできてた曲もあるし、1年なのか2年なのか、その期間はわかんねぇな。
■まあとにかく、土生くんの毎日の、その気分になったときのスケッチがベースにあるんだね。
土生:今回にいたるまで、いろんな人とセッションして、そんななかで曲が生まれたってこともあったし、アルバム用に新たに作ったヤツもあるし、すべて流れだね。
■作り方に変化はある?
土生:変わらない。
■変わらないんだ。
土生:うん、ぜんぜん変わらない。昔からデモ作るのはゼロワンだし、楽器弾きながやることが多いね。リズム流して、ベース弾いたり、パン叩いたり、ギター弾いたり。
■もともとはギターだもんね。
土生:そう、サイコビリー。
■ちょっと話しが戻るんだけど、福島第一原発がボカーンといったとき、けっこうミュージシャンみたいに自由に移動できる立場の人で東京離れた人は多かったじゃん。土生くんはそのときどう考えてた?
土生:俺はぶっちゃけ、仲間のいるところからは逃げられなかった。自分だけそうゆうことはできなかった。ただ、家族は避難させたよ。まだちっちゃい子供がいるから。放射能ヤバいから。でも俺はレコーディングを延期する気はなかったし、やりたくねぇってヤツがいれば、そうしたけど、そういうこと言う人はいなかったからね。
■でもミュージシャンという職業なら、わりと移動しやすいわけじゃん。
土生:俺個人で言うと、東京の人間だし、国立で生まれ育っているから、俺のふるさとは多摩、武蔵野なの、だから、そこを簡単に離れる感じではないね。あと俺は東京にいる仲間といっしょに音楽やってるから、それは大事な縁だと思ってるから、その縁を大事にしたいっていうのもあるよ。そこが俺の最大のポイントだね。縁で繋がっていて、金で繋がっているわけじゃないからさ。
■曲名の言葉のなかに、そういう......なんだろう、一生のうちに一度か二度あるかないかのような大きな出来事は反映されている?
土生:しているはず。
■ああ、そっちではしてるんだ。
土生:自然賛歌だから、リトテンは。
■ああ。
土生:どんくらい伝わってるのかわからないけど。"ときめき☆リダイアル"とか(笑)。
■はははは、それは自然賛歌とは言えないかもね(笑)。最高の曲だけどね。こういう名曲をおちゃらけたタイトルにするところがリトテンらしいね。
土生:いや、でもね、真剣に考えてみて、片思いの好きな子にリダイアルするときの気持ち、もう忘れてるでしょ? その感じ。
■リダイアルって携帯の文化だからね。俺はいまでもときめき☆手紙って感じだから。
土生:そこは融合してるんだよ。現代社会と。
■じゃあ、2曲目の"雨の日には"とか、含みがあるんだ?
土生:その先にストーリーがあるからね。雨の日には......野田さんは可愛いギャルとデートしました。相合い傘がとっても楽しかったで~す。とか。
■原発問題でいえば、雨の日には恐怖も加わっちゃったじゃない、僕らの日常のなかで。
土生:でも雨は本来綺麗なもんだからね。放射能の雨はイメージしてないね。もっとその先の綺麗な雨をイメージしてるよ。
■たしかに曲自体も綺麗な曲だし、それで、"水平線"とか"そよかぜ通り"とか、自然を連想させる曲名が多いんだね。
土生:そう、イメージしてるね。すごくポジティヴに。
取材:野田 努(2011年7月05日)