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LITTLE TEMPO

LITTLE TEMPO

太陽の花嫁

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野田 努   Jun 22,2011 UP
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E王

 3年前の『山と海』について、こだま和文は「遠足の前日のようなウキウキした気分」が詰まったアルバムだと表現した。昔、UAにリトテンのどこが良いと思うのか訊ねたところ、「ああいう人たちがいるだけで良い」と言った。いるだけで「良い」というレヴェルはつまり愛されるべき存在だという意味だ。異論はない。リトルテンポは愛されるべきバンドだと思う。『太陽の花嫁』という身も蓋もない、いまどき「ベタだな~」と嘲笑されかねないタイトルを堂々と付けるバンドだ。『山と海』、そして『太陽の花嫁』......何も恥ずかしがることはない。力のあるタイトルだし、音が聴こえてきそうな言葉だ。それはきっと、生命そのものの美しさを喩えているのだろう。

 日本という文化土壌における生活者としてレゲエを翻訳したミュート・ビート門下生のひとりであり、交通事故で片眼を失った土生"TICO"剛というスティールパン奏者を中心とするリトルテンポは、この20年間、東京で暮らしながらカリブ海(ときには南米やアジア、アフリカ)と交信するインストゥルメンタル・バンドとして活動している。その音楽は、音楽は何のためにあるのかという問いに対して、うろたえることなく、はっきりと答えている。その毅然とした佇まいが、まずはこのバンドの最高の魅力だが、では、その答えが何であるか僕はここで書かない。それを記述してしまうよりは、リスナーが聴き取ったほうが良いに違いない。難しいことをやっているバンドではないし。
 リトルテンポはさっぱりしている。内面旅行的ではないし、ちょっとバカを装っているところもある。リトルテンポの音楽はたとえどんなに重たい毎日があっても、その重たさを見せつけるようなタイプのものではない。土生剛の人生は決して順風満帆なものではないはずだが、彼の音楽には日々の重さを引き受けたうえでの軽さのようなものがつねにある。彼は、彼の人生のハードな部分をリスナーに共有させようとはしない。そして、こうしたもっともらしい説明にはどうも違和感を覚えるというのが土生剛なので、そういう意味ではややこしいとも言える。
 
 僕が初めて聴いたのはリコ・ロドリゲスらが参加している1995年の『ラティチュード』からで、以来、基本的にはひとりのファンとして聴き続けているつもりだが、近年のリトルテンポには何か吹っ切れたものを感じている。いままで以上の清々しさを感じている。その感じは『山と海』や『太陽の花嫁』といったタイトルにも表れている。リトルテンポにはすでに『ロン・リディム』(1999年)や『ケダコ・サウンズ』(2001年)、『ミュージカル・ブレイン・フッド』(2003年)や『スーパー・テンポ』(2005年)といった名作がある。それはそれぞれ魅力がある。しかし......『山と海』や『太陽の花嫁』が良いのだ。それはヒップホップやダブにはじまり、ある種のワールド・ミュージック的展開というか、この20年、さまざまな音楽的挑戦を経験してきたバンドが辿り着いた、なにかしらの境地にも思える。スカ~ロックステディ期のジャマイカの音楽において、あれ? これってどっかで聴いたことがあるメロディだな~と思いつつ、途中から微妙に違ってくるような、そういう、この際細かいことはどーでもいいやっと思える大らかさがある。

 『太陽の花嫁』は、録音の真っ直なかに地震があって、中断を余儀なくされた作品だという。それが作品にどのような影響を与えているのかはわからない。ここには『山と海』以降の彼らのケレンミのない演奏が披露されてはいるものの、「ウキウキした気分」という感じでは決してない。いつものように娯楽に徹してはいるが、より力強さのようなものを感じる。1曲目の"太陽の花嫁"がマイナー調であることがそう思わせるのかもしれないけれど、前作よりも重めで、録音は前作以上に削ぎ落としている感がある。
 とはいえ、この音楽の伝えるところは変わっていない。"水平線"や"トワイライト・ダンディ"のようになサックスを活かした曲、フルートが印象的な"そよかぜ通り"、アフロ・キューバンのクラシック"南京豆売り"のカヴァー......そして何よりも、"ときめき☆リダイヤル"というアホなタイトルの付いた、しかし実に美しい情感をもったクローザー・トラック。どこかで聴いたことがるあるような、しかしこの際細かいことはどーでもいいやっと思える大らかさは、20年演奏し続けてきた者たちから滲み出る力強さと同義である。また、『太陽の花嫁』には何回も繰り返し聴いても飽きないような、気の効いたアレンジが随所に見られる。が、何よりも重要なことは、このアルバムがザ・ソウル・ブラザーズからティト・プエンテ、そしてもちろんトリニダード・トバゴ生まれのスティールパン等々、基本的には中米音楽の要素を持ちながら、それが異国情緒にとどまらずにこの国のリアリズムへと繋がっていることだ。

野田 努