Home > Interviews > interview with Jouska - ノルウェーはとくにラッキーな国だと思う。僕たちほとんどの国民が政府を信じているし
北欧……といってもぼくはデンマークにいちど行ったことがあるだけで、ノルウェーはおろかスウェーデンにさえも足を踏み入れた経験がないので偉そうなことはとても言えない。でもひとつだけ、北欧がほかのヨーロッパ諸国と決定的に違っていることは最初の1日目でわかった。街にせよ、ホテルや飲食店のトイレにせよ、とにかく清潔なのだ。街中イヌの糞だらけだった90年代のパリとは偉い違いだった。このクリーンさは北欧の音楽に反映されているように思われる。ハウスであれアンビエントであれ、ジャズであれシンセ・ポップであれ、スカンジナビア半島で生まれる音楽にはこざっぱりとした清潔感があり、独特の透明感がある。北欧のこうしたアンダーグラウンドな音楽は、90年代は待っていては見つけられず、探そうという意志がなければ出会えないものだったが、その品質が国際的に評価されていったことで、いまでは北欧はそれ自体がひとつの音楽ブランドと言えるほどのファンを獲得している。
ノルウェーに関して言えば、クラブ系ではビョーン・トシュケ、リンドストロームやプリンス・トーマス、トッド・テリエ 、ジャガ・ジャジストなどなど……それから知性派としてはジェニー・ヴァルがいるし、近年ではスメーツと、そしてここに紹介するヨウスカがいる。
ヨウスカ(Jouska)は、マリット・オティーリエ・ソービック(Marit Othilie Thorvik)とハンス・オラヴ・セテム(Hans Olav Settem)という20代半ばの2人によるプロジェクト。昨年、配信のみでリリースされたアルバム『Everything Is Good』が海外メディアや北欧ポップス・ファンのあいだで話題となって、先日〈Pヴァイン〉からCD盤/アナログ盤としてもリリースされたばかり。
ヨウスカは、捻りの利いたエレクトロニカ・ポップスでリスナーを魅了する。彼らの屈折した感性は、アルバムのスリーヴにもうかがえる──美しい海と何かひどい目に遭遇したばかりの女性の顔、題名は「すべては良い(Everything Is Good)」。マリットのエーテル状のヴォーカルとハンスによる折衷的なトラックとのコンビネーションは、初期のスメーツに似ているが、ヨウスカはドリーム・ポップ色が強い。
取材では、ぼくからの質問のほか、彼らと同世代の通訳の水島くんとの対話から彼らのライフスタイルやノルウェーのお国柄に関する話題など広範囲に渡って話してくれている。日本で暮らすぼくからしたらなかなか興味深い話ではあるが、しかし、やはり日本から北欧は遠い。たとえばノルウェーのオスロはよく知られるように、2022年の冬季オリンピック誘致に立候補したけれど、IOCからのあまりの財政負担が強いられる無茶苦茶な要求(宿泊施設の条件から移動手段や料理や酒の指定、国王との対面等々)をみて、きっぱりと撤退している。
……ま、とりあえずぼくたちはヨウスカの音楽を楽しみましょう。
ノルウェーの伝統的なポップ・ミュージックはだいたい年寄りのために作られてたりするから、僕たちの世代は自分たちが好きなものを好きなように作りたかったんだと思う。それは結果的にはノルウェーらしいモノではないけど、新しいモノではあると思うんだ。
■ヨウスカはどのようにスタートしたのですか?
マリット(以下、M):私たちはオスロのミュージックスクールで出会ったの。最初は普通に遊んでいたんだけど、いつからか一緒にスタジオに入るようになったのよね。
ハンス(以下、H):だいたい7年前だよね。
M:そうね。初めて会ったのは2014年だと思う。
H:最初はマリットが音楽を作りはじめていて、それがめちゃくちゃカッコいいと思ったからほぼ強制的に入れてもらったんだ(笑)。それから最初のリリースの前に一緒にたくさんの音楽を作ったよ。最初の数年感はインストの曲やサンプルを中心に実験的でちょっと変わった楽曲までいろいろアイデアを練って作っていったよ。
■オスロの音楽学校で出会ったということですが、音楽のプレイ面を学ぶ学校だったのですか?
M:4年生のポップ・ミュージックをテーマにしていた学科だった。そこでは音楽をプレイすることはもちろんだけど、ビジネスも勉強したね。
H:両方だよね。オスロで唯一のポップ・ミュージックにフォーカスした授業を学べる学校だよ。ジャズやクラシックをプレイすることがほとんどだと思うんだけど。
■ティーンのときとかはどんな音楽が好きだったの?
M: 私はけっこう何でも聴いていたと思う。昔はヒップホップでダンスをしてたんだけど、その影響もあってヒップホップやR&B、ポップ・ミュージックを最初は聴いていた。そこからだんだんとインディーを掘るようになったって感じかな。アルバムというよりかは楽曲ごとに聴いていたわ。プレイリストとかを作ってね。
H:マリットはナップスターでダウンロードして聴くのがお気に入りだったよね(笑)。いまの世代では一般的だよね。僕はもっとオールドスクールで、グリーン・デイとかビートルズのCDを買っていたし、マイナーなパンク・バンドや昔のロックンロール・バンドのCDを集めていたんだ。
M:彼はバンドもやっていたのよ。
H:そうだね。だからアルバムで聴くのが好きだったのかもしれない。
■ちなみにノルウェーの音楽を聴いていたの?
H:うーん、ティーンのときはノルウェーの音楽には全然ハマってなかった。
■ みんな海外の音楽を聴いているのが普通なの?
M:そうだね。だいたいみんなアメリカやイギリスの音楽を聴いているよ。
■日本とは全然違うね。日本人はだいたい日本の音楽を聴いているから。
H:個人的にノルウェーのポップ・ミュージックは良い方向にチェンジしたと思う。いまではアメリカの音楽のクオリティーと変わらないレベルにあるけど、昔は海外の音楽よりも劣っているように聴こえたんだ。あとポップ・ミュージックじゃないけど、80年代のファンクやディスコとか90年代のヒップホップとかカッコいいものも探せばたくさん出てくるよ。でもそれに気づいたのは最近かな。
■なるほど。だから海外のサウンドに影響を受けているように感じるけど、それは自然なことなんだね。
M:うん、自然だよね。オスロのアーティストでノルウェーの音楽だけを聴いている人は私たちの周りには少なくてもいないし。
■なるほど。そうしたらヨウスカのことについてもう少し話していきたいんですが、ヨウスカという名前の由来や付けた理由はありますか?
M:私が 「普段使わない/耳にしないクールな単語」って調べたときにヨウスカってワードがリストに載っていたの。まず見た目がカッコいいと思った。 ヨウスカって単語の意味は自分の頭のなかで架空の会話が何度も何度も繰り返されて頭のなかでグルグル回っていること。って感じなのだけど、そういった音楽を作りたかったからクールだと思ったのよね
H:取り憑かれたかのように何度も何度も強制的にね。なかなか目にしないワードで、他の単語では説明できないような言葉を使いたかったんだ。
M:私が見たそのサイトには日本の単語も載っていたよ
■本当に?
M: うん。意味は理解できなかったけど、形がカッコよかったわ(笑)。
■僕には何がカッコいいのかわからないけど、いろんな人から言われるよ(笑)
H:日本のカルチャーはカッコいいと思う。もちろん全部のことを知ってるわけではないけど、現代では昔よりも世界中のカルチャーが影響を与えあっていると思うし、それが良い感じに表現されているよね。例えば僕は日本のヒップホップとかをたまに聴くよ。意味は理解できないけど、それでもカッコいいと思う。
序文・質問:野田努(2021年7月14日)