「UR」と一致するもの

Kano - ele-king

 UKのラッパー、ケイノ(Kano)のキャリア6枚目となるアルバム『Hoodies All Summer』がリリースされた。ケイノは2000年代のグライム・シーンの立役者のひとりとして知られるラッパーだ。海賊ラジオ「Deja Vu FM」でワイリースケプタとともに評判をあげ、“Ps & Qs”で大ヒットを飛ばした。また、前作『Made In the Monor』(2014)はUKの批評家賞にあたるマーキュリー賞にノミネートされるなど、時代の声となる作品をリリースしてきた。Netflix で公開中の大人気ドラマ・シリーズ『Top Boy』でのめざましい演技に常に注目が集まってる。そんな幅広い活動の中でリリースされた本作は、コミュニティの宣教師かのように、若者の言葉を用いて彼らを導く。そんな彼が背負っている責任を感じさせるアルバムとなった。

 前半はいまのロンドンの厳しいストリートで稼ぐキッズの現実に寄り添う意識が背景となっているように感じられ、曲調も厳かだ。ヴァイオリンで幕を開ける 1. “Free Years Later”で時折自身の過去のいざこざに言及しつつ、いまの不良を諫める言葉を紡ぎながら「D・ダブル・Eがしてきたことをいま俺が若者にやるんだ」という最後のラインには多くのラッパーの見本となってきたD・ダブル・E(D Double E)の功績を称えながら、ケイノも別の「ストリートの理想像」を体現するという決意が聞こえる。2. “Good Youtes Walk Around Evils”ではタイトなグライム・トラックに、ラフなストリートでラッパーとして「まっとうにやること」、つまりラッパー・リリシストとして「稼ぐ」という姿勢を誇っている。つづく 3. “Trouble”はブラックパンサーの活動家であり、70年代〜80年代にノッティングヒルのデモを率いたことで知られるダーカス・ハウ(Darcus Howe)のインタヴューのサンプリングで始まる。現在の警察の黒人に対する暴力を歴史と結びつけながら、ストリートにい続けることの難しさをストリートにいる若者にも届くような言葉で語っている。例えば、UKのラッパー、アブラ・カダブラ(Abra Cadabra)の大ヒット曲“Dun Talkin'”のラインを引用するところにはウィットを感じさせる。

 中盤はレゲエのエッセンスをミックスした曲が並ぶ。ジャマイカのアクセントを感じさせるシンガーのコージョ・ファンズを客演に迎えた 4. “Pan-Fried”はこれまで彼自身が成し遂げてきたことを祝うような1曲で、東ロンドンのローカルな仲間の話や、ジャマイカ由来のファッション文化が散りばめられていて興味深い。続く 5. “Can't Hold We Down”でもジャマイカの人気ラッパー、ポップカーン(Popcaan)を迎え、ケイノのラップにイギリスとジャマイカの距離が生み出す憧れと、それに対する「俺たちのやり方」への誇りが入り混じったアンビヴァレントな感覚が聴こえて面白い。

 6. “Teardrops”では一転して、栄光の裏側に依然としてあるハードな現実に引き戻される。イギリスにおける黒人の置かれた立ち位置についてハードなビートに乗せて糾弾するようにラップするヴァースと弱気に呟くようなサビは、鮮やかなコントラストを引き出す。また 8. “Got My Brandy, Got My Beats”はある女性との別れの辛さを乗り越えようとする彼自身が描かれ、ガラージのビートとリル・シルヴァ(Lil Silva)のコーラスはその哀しさに寄り添う。

「愛と戦争は、すべて公正か」それが俺の生まれたところ
弱きは続かない、俺らみたいなシューズを履いて1週間
降ればいつも土砂降り、フードでひと夏を過ごす
君と僕にだけに、空から涙がこぼれる

In love and war All is fair where I'm from
The weak won't last a week in shoes like our ones
When it rains it pours Hoodies all summer
'Cause teardrops from the sky only seem to fall on you and I

“Teardrops”

 “Class of Deja”では、Deja Vu FM で凌ぎを削った盟友のD・ダブル・Eとジェッツ(Ghetts)を迎えた正統グライム・チューンで、ケイノとジェッツが交互にヴァースを蹴るスタイルで彼らの絆の強さも感じられる1曲だ。ラストの10. “SYM”では「Suck Your Mum」(意訳:くそくらえ)をコーラスするファニーなイントロが耳を引く。しかし、第二次世界大戦後にイギリスに移り住んだカリブ海移民の「ウィンドラッシュ世代」に触れるなど歴史を振り返りながら、現在のイギリスの黒人が置かれた状況までを見渡すように展開していく。そこから2000年代のダンスや海賊ラジオの存在にもスポットライトを当てるというドラマチックな展開には、イギリスの若者に歴史を伝えようとするケイノの姿が浮かんだ。

 ケイノが現実につながる歴史をラップするのは、それがストリートを生き抜くキッズに必要であると感じたからに違いない。それはマイノリティである「イギリスの黒人」というアイデンティティにとって、事実に基づいたストーリーを伝え、彼らを勇気づけ、良い方向に導きたいからであろう。ドリル・ミュージックがいまのストリート・キッズの現実を象徴しているならば、ケイノはこのアルバムを通して彼らの未来を描き出そうとしているのだ。

Klein - ele-king

 圧倒的だ。「個性」ということばは彼女の才能を言いあらわすためにこそ存在しているのではないかとさえ思ってしまう。混沌をそのまま秩序にしてしまったとでもいえばいいだろうか。計画性や構成力の類は2018年のEP「cc」でもある程度発揮されていたわけだけれど、ミュージカル『Care』のスコアを手がけた経験が反映されているのか、新たにみずからレーベルまで起ち上げてリリースすることになったこのアルバムで、クラインはかつてない洗練の域に達している。なんでも18ヶ月かけて制作されたそうなので、「いま作っているアルバムで、ほんとうの意味で“音楽”を作っている」という昨年の彼女の発言は、もしかしたら「cc」ではなく『Lifetime』のことを指していたのかもしれない。

 全体的にヴォーカルやピアノ、ドローンの使い方が格段に向上している。リスナーはまず、不穏なノイズが歌ならぬ歌を多層的に引き連れてくる冒頭“Lifetime”で息を呑むことになるだろう。これはある種の降霊術である。比較的ストレートなビートとミニマルなパーカッションが、やはり謎めいたヴォーカルを引きずりまわす先行シングル曲“Claim It”も、具体音のすばらしい活用を聴かせるノイズ・アンビエント調の“Listen And See As They Take”も、曲名とは裏腹にロウファイなパーカッションの乱打にはじまり、突如ピアノを挟みながら、まるで焚き火のごとき(あるいはクラックル・ノイズのような)具体音でおわる“Silent”も、はっきり言って非のうちどころがない。どこでどう知り合ったのか、ニューヨークの前衛派ジャズ・サキソフォニスト、マタナ・ロバーツを招いた“For What Worth”も、反復する声とピアノとサックスをじつに有機的に結びつけており、サウンド面で必然性のあるコラボに仕上がっている。ハーモニカでシンセを再現しているかのような“Enough Is Enough”も新鮮だし、“We Are Almost There”における揺りかごのような声の波は、夢のなかで過去の人びとと遭遇しているかのような不思議な感覚をもたらしてくれる。これはやはり、降霊術だろう。コラージュのしかたにわざとらしさがないのもポイントで、このアルバムでは実験がそのままポップ・ミュージックとして成立している。
 彼女がもともとクラシック音楽やゴスペルを聴いて育ってきたことは知っている。USのメジャーなR&Bを好んでいることも知っている。ムーア・マザーチーノ・アモービといった地下の友人たちから刺戟を受けていることも知っている。けれどもクラインの音楽は、たんなるそれらのミックスと解釈するにはあまりにも独創的にすぎ、しかもそれがこれほどの洗練を獲得してしまったのだから、もはや向かうところ敵なしというか、つくづく「個性」ということばは彼女の才能を言いあらわすためにこそ存在しているのではないかと、そう唸らずにはいられない。最終曲“Protect My Blood”で波打つオルガンの、なんとまあ美しいこと!

 この『Lifetime』は「日記を誰かにあげる」ような、きわめてパーソナルな作品だという。他方で本作はゴスペル歌手のジェイムズ・クリーヴランドや、かつてブラックの観客向けに制作されていた「人種映画(race film)」の先駆たるスペンサー・ウィリアムズに触発されてもおり(同名の作曲家もいるが、たぶんこっち)、「ブラックのディアスポリックな経験」がテーマになっている。彼女固有のものでありながら、彼女だけのものではない何かの召喚──やはり、降霊術である。ムーア・マザーの影響だろうか? 私的なことと社会的・歴史的なことが表裏一体になっている点においてはヤッタとも共振しているわけだけど、クラインの鳴らす音はもっと快楽の成分を多く含んでいて、いうなれば大衆への扉が開かれている。だからこそわたしたちは、それがなんなのかよくわからないまま、しかしどうしようもなく彼女の音楽に惹きつけられてしまうのだろう。

 おまけ。音楽のスタイルはまったく異なるけれど、パーソナルであるはずの本作に唯一参加を許されたゲスト、マタナ・ロバーツの新作『Coin Coin Chapter Four: Memphis』もすばらしいアルバムなので、ぜひそちらも聴いていただきたい(余力があればレヴューします)。

TOKYO DUB ATTACK 2019 - ele-king

 紙エレキング最新号、DUB特集やってます。特集のなかでfeatureした1人、1TA(Bim One Production)がシーンの重鎮たちと開催する〈TOKYO DUB ATTACK 2019〉を紹介します。サウンドシステム──という言葉をご存じかと思いますが、これほど「音楽ってカラダで聴くもんだよな~」と思わせる“場”もありません。サウンドシステムとは、元々はジャマイカの移動式ディスコのことですが、いまではその低音を最高に鳴らすための“場”であり、レゲエ/dubに酔いしれる贅沢な“場”として認知されています。音好きにはたまらない“場”です。気さくな連中による最高のサウンドシステムです。大推薦します!! ぜひ震えて下さい。

 2019年を締めくくる、国内サウンドシステム・ダンス大一番! 同じフロアのなかに3つのサウンドシステムを入れて交互に鳴らしあう、ゴマカシ効かないガチンコ・セッションが今年も開催!

 レゲエ(Reggae)において、もっともタフでハードコアな要素にサウンドシステムがある。DIYに設計された独自のスピーカーの山、規格外の低音、1ターンテーブルに置かれる破壊力抜群のダブプレート、シャワーのように降り注ぐダブワイズ……あくまでもオリジナルな音を追求し、その場でしか生まれ得ない究極のサウンド体験。それがサウンドシステムにおける“Dub”である。

 今回は、サウンドシステムダンスSteppars' delightでおなじみScorcher Hi Fi (STICKO & COJIE of Mighty Crown)と同じく東京ダブアタック・レジデントであるBim One Production + eastaudio Soundsystemに加え、日本ダブ、サウンドシステムカルチャーのパイオニアの1人、MIGHTY MASSAと東京が誇るリアル・ルーツ・サウンドのJah Light Soundsystemが一堂に会する。
 ピュアでタフ、そしてハートフルなスピーカーの鳴らし合い、日本におけるサウンドシステム・カルチャーのひとつの頂ここにあり!

2019年12月30日(月)

TOKYO DUB ATTACK 2019

3 Soundsystem Sessions by :
Mighty Massa meets Jah Light Soundsystem
SCORCHER Hi Fi with Sound System
Bim One Production feat. MC JA-GE, HAYAMI (ORESKABAND / Trombone) & ADD (ORESKABAND / T.Sax) with eastaudio Soundsystem

Vinyl Shops by
Disc Shop Zero

Food by
新宿ドゥースラー
Yaad Food

Coffee Stand by
KAWANO COFFEE STAND


OPEN : 16:00
START : 16:00
CHARGE :
Adv 2,900yen / Door 3,400yen
(共にドリンク代別)
※再入場不可
※小学生以上有料/未就学児童無料(保護者同伴の場合に限る)

前売りチケット>>一般販売 : 10/19 (SAT) on sale
ぴあ : 0570-02-9999 / P : 166-781
ローソン : 0570-084-003 / L : 72089
e+ : https://eplus.jp
Unit Web Ticket : https://unit-tokyo.zaiko.io
clubberia : https://clubberia.com/ja
Resident Advisor : https://jp.residentadvisor.net/

>>STORE
代官山UNIT 03-5459-8630
RAGGA CHINA 045-651-9018
diskunion 渋谷クラブミュージックショップ 03-3476-2627
diskunion 新宿クラブミュージックショップ 03-5919-2422
diskunion 下北沢クラブミュージックショップ 03-5738-2971
diskunion 吉祥寺 0422-20-8062
DISC SHOP ZERO 090-7412-5357 
Dub Store Record Mart 03-3364-5251
新宿ドゥースラー 03-3356-5674
OZAWA 03-3356-5674

*東京ダブアタックYoutubeチャンネルにて、インタビュー・シリーズ「TDA TALKS」公開中!
https://www.youtube.com/channel/UCgrS2GgP_lzdBFdk3wDJb1w/videos?view_as=subscriber


主催: Tokyo Dub Attack 協力: Bim One Production / Mighty Crown Entertainment / 代官山 UNIT

アイリッシュマン - ele-king

 CGIで若返ったロバート・デニーロがジョン・ウェインに見えて仕方なかった。ジョン・ウェインはジョン・フォードの『静かなる男』でアイルランド系アメリカ人を演じたが、『アイリッシュマン』も静かな映画だ。
 ニューヨーク生まれのイタリア移民らしいせっかちなトークで知られるマーティン・スコセッシの、しかもギャング映画を「静かな」と形容するのは妙かもしれない。セットから衣装までディテールは相変わらず饒舌ながら、『グッドフェローズ』で用いたヌーヴェル・ヴァーグの劇的な静止画像といった派手なけれんは影を潜め、画面を活気づけるポップ・ソングの使用も少なく得意な長回しのトラッキング撮影もさりげない。技巧は無駄のないカメラや構図の美しさ、ミディアム〜ロング・ショット群に自然に編み込まれている。その落ち着いたテンポはたぶん、デニーロの演じる老いたる主人公フランク・シーランによる回想という大枠設定ゆえだ。作品前半は1975年7月に彼が体験した、とある車旅を主軸に据えた一種のロード・ムーヴィー仕立て。高速道路を人生の川に見立て、おっとりしたナレーションが綴る旅路の中で過去のフラッシュバックとリアル・タイムが交錯する。

 第二次大戦復員兵シーランは、1950年代にトラック運転手として働いていたところを大物マフィア(ジョー・ペシ)に気に入られ雇われヒットマンになる。本作の真のタイトル「I Heard You Paint Houses(お前さんは家の塗装をやるそうだな)」なるフレーズは「家を(血で)塗装する業者」という、殺し屋を意味するギャングの符丁らしい。彼が汚れ仕事を続けるのに並行して、マフィアと全米労働組合と政界との癒着も描かれる。シーランは労組のカリスマティックなリーダー:ジミー・ホッファ(アル・パチーノ)――1975年に行方不明になった――の側近に推薦され、マフィアとホッファのパイプ役になっていく。エルロイの『アンダーグラウンドUSA』三部作ともやや被る世界だし、キューバ危機、ケネディ暗殺等の史実も部分的に関与するとはいえ基本的にシーランの人生談だ(ちなみに原作本はその内容の真偽を疑われており、この映画に「実話に基づいた作品」のテロップは流れない)。これら様々に枝分かれした回想と複雑な人間関係が1975年の運命的なロード・トリップに合流する様は、スコセッシの熟練した手腕の見せどころ。だがその旅路の最後に待っていた悲劇が起きた後で、『アイリッシュマン』はエモーショナルなギアをぐいっと上げる。3時間半の大作だが、このラスト約1時間のためにその前の2時間半が存在したと言っても過言ではない。
 シーランは決して仲間を密告しない、命令に従い何でもやる行動力ある「兵士」だ。忠実で寡黙な、犬のような男である彼が重ねる犯罪の描写もストイックかつロジカル、「仕事」に徹している。彼はふたつの組織のトップに全幅の信頼を置かれ一種の父子/師弟関係を結ぶのだが、騎士はふたりの王に仕えることはできない。ゆえにある大きな決断を迫られることになるのだが、その果てに彼が得たものは何だったのか? 
 最後の1時間はいわば後日談に当たり、作品冒頭に登場した老人ホーム暮らしのシーランに焦点が絞られる。刑務所服役、ギャング仲間の末路や妻の死……といった事実を淡々と積み重ねていく、ドラマも少なくもっとも地味なパートだ。しかしFBIにも無言を通し続ける彼の孤独な姿は、取り返しのつかない決断の末に多くを失った後悔と恥を自覚しつつ、それを自らの選んだ道として受け入れる悲しさに満ちている。『グッドフェローズ』の主人公ヘンリー・ヒルは、ギャングなライフスタイルを満喫したもののその稼業と常に背中合わせの死に怯え、司法側に仲間を売り飛ばして我が身を救う。忠犬シーランとは対照的な「生き残り術」だが、映画のフィナーレにはシド・ヴィシャス版“マイ・ウェイ”の「でも、俺は俺のやり方で生きた」が爆音で響く。その若さゆえのブラフに対し、『アイリッシュマン』はドゥーワップ・ソングの黄昏れた哀感で締めくくられる。

 『ミーン・ストリート』、『グッドフェローズ』、『カジノ』の三部作に『ギャング・オブ・ニューヨーク』、リメイクではあるものの組織犯罪と警察の抗争が軸である『ディパーテッド』まで含めれば、本作は実にスコセッシ6作目のギャング映画。つい「またか」と思ったし、観る前に「You can’t teach old dogs new tricks(老犬に新しい技は仕込めない)」の文句が頭を過りもした――加齢で肉体が衰えるように老いると頭も硬化し凝り固まるという言い回しだが、スコセッシはさすがに柔軟だ。作品世界は彼のホーム・グラウンドだし、キャストもデニーロ、引退生活から引っ張り出したジョー・ペシ、カメオ的にハーヴェイ・カイテルと定番がずらり。パチーノのスコセッシ作品初出演は話題だが、コッポラ経由で『ミーン・ストリート』出演を打診したものの断られて以来、スコセッシはずっと彼と仕事しようとしてきた。脇を固めるのは製作アーウィン・ウィンクラー、編集テルマ・スクーンメイカーの『レイジング・ブル』以来のゴールデン・スタッフ、音楽もロビー・ロバートソンだ。さながら「ベスト・オブ・スコセッシ」の趣きだが、背景では新たな試みがおこなわれている。
 スパンの長い物語だけに現在70代後半の主役3名が若き日を演じる――デニーロに至っては20代の場面もある――のは難しいと思われていた。しかしCGI若返りテクの大々的な導入で、同じ役者がどの年齢も演じるのが可能になった。『アイリッシュマン』の構想が始まった15年前、これは技術的に難しかったはずだ。またボブ・ディランのモッキュメンタリーに続き、スコセッシは再びネットフリックスと組んでいる。その代わり劇場公開から3週間後にストリーミング開始という条件を飲まざるを得ず、アメリカの一部映画館チェーンに上映拒否されたのは生粋のシネアストである彼にはつらかったと思う。だが、スーパーヒーロー映画や人気フランチャイズで混み合う劇場スケジュールの中で、作家性のある大予算映画が「観たければ劇場まで足を運べ」を押し通すのには限界がある――その贅沢が可能なのは今やクエンティン・タランティーノ、クリストファー・ノーランくらいだ。 
 一方でテレビのクオリティが上がり、ドラマを「1本の長い映画」と捉える風潮も生まれた。原案・制作等でテレビ界ともリンクしてきたスコセッシは、これら鑑賞スタイルの変化も鑑みた上で①劇場映画としても許容される、しかし②テレビの「前編・後編」感覚で観ることも可能なこのスタイルに挑んだのではないかと思う。3時間以上の映画を劇場で観るのには少々覚悟がいるし、お恥ずかしい話、1回目に『アイリッシュマン』を観た時は前半まで観て寝てしまった(笑)。筆者のように根性のないヴューワーも受け入れてくれる、一時停止できる選択肢のあるネットフリックス経由はありがたかった。
 作りたい映画、やりたいストーリーテリングを、時代に則したフォーマットとテクニックで具体化していくこと――この意味で、『アイリッシュマン』に『ツインピークス The Return』を思い返さずにいられなかった。25年ぶりにキャストや常連が結集し、彼の多面的な作家性を凝縮したあの作品も「デイヴィッド・リンチ総集編」の感があったが、連ドラの長尺フォーマットを活かした全18(!)という大絵巻の中に多彩な撮影/編集技法、サウンド・デザイン、衝撃的にシュールなぶっ飛びシークエンスを盛り込んだダイナミックな作りは、リンチ特有な世界観を現在に構築し直していてあっぱれ。ギャング映画という定番ジャンルを映画話法と新技術のミックスで前に押し進めた『アイリッシュマン』でスコセッシがやったことも、それに近い。そこにはもちろん両作品が時間と老い、死を扱っている側面がある。他界した役者やスタッフへの献辞がほぼ毎エピソードで流れた『ツインピークス』は、名優ハリー・ディーン・スタントンの遺作のひとつになった。『アイリッシュマン』にはスコセッシのオルター・エゴを様々な段階で演じてきた役者(カイテル、デニーロ、ペシ)が揃ったものの、3者が1本の作品で顔を合わせるのはおそらくこれが最後だろう。
 言い換えれば、彼らは「残された時間」を自覚して創作を続けるクリエイターということだ。スコセッシとリンチ双方の映画に出演した役者のひとりにデイヴィッド・ボウイがいるが、彼も『ネクスト・デイ』および『』で自らの終幕を鮮やかに引いてみせたものだった。コンスタントに大作を送り出しているアメリカン・ニュー・シネマ世代はスピルバーグとスコセッシくらいになってしまったが、時代に応じてしなやかに変化し生き残ってきた老犬の智慧と力量、衰えぬクリエイティヴィティに満ちた本作には脱帽させられたし、スコセッシは既に次回作の準備に取りかかっている。「OK, Boomer」とバカにしてシャットダウンしてしまうのではなく、がっちり受け止め吸収して欲しい。

『アイリッシュマン』予告編

CHANGSIE - ele-king

 東京のアンダーグラウンドでその名を轟かせる実力派DJ、今年は〈BLACK SMOKER〉からミックス『THE FURY』をリリースしてもいる CHANGSIE (チャンシー)が、2020年1月24日、キャリア初にして渡英前最後のワンマン・パーティを WWWβ にて開催する。昨日公開されたRAのポッドキャストではUKガラージを軸にしたダイナミックなプレイを披露してくれているけれども、きたるパーティはオープンからクローズまでのオールナイトとのことで、より多彩なセットを楽しむことができそうだ。この機会を逃しちゃいけない。

Matsuo Ohno × Merzbow × duenn × Nyantora - ele-king

 これはすごいことになりそうだ。近年積極的にコラボレイトを重ねてきたメルツバウduennニャントラナカコー)の3者からなるユニット 3RENSA が、年明け後の1月18日になんと、『鉄腕アトム』の音響制作にかかわったことで知られるレジェンド、大野松雄(紙エレ2号にインタヴュー掲載)と公開ライヴ・レコーディングを決行する。写真家の金村修も映像担当として参加。一堂はすでに今年の2月に共演を果たしているけれども、今回はそのときのパフォーマンスをアップデイトするかたちになるとのこと。チケットなど詳細は下記より。

テレビ・アニメ《鉄腕アトム》の音楽の生みの親として知られる伝説的な音響デザイナー大野松雄と Merzbow, duenn, Nyantora(ナカコー)からなる、エクスペリメンタルユニット 3RENSA の公開ライブレコーディングが決定!!

Nyantora と duenn によるサウンドプログラム「Hardcore Ambience」。今回、テレビ・アニメ《鉄腕アトム》の音楽の生みの親として知られる伝説的な音響デザイナー大野松雄と Merzbow, duenn, Nyantora から成るクスペリメンタルユニット 3RENSA の公開ライブレコーディング “HARDCORE AMBIENCE presents 大野松雄×3RENASA_ Space Echo_Public recording” が2020年1月18日開催する事が決定した。

2019年には、第11回恵比寿映像祭のスペシャルプログラム『Anotherworld』として、写真家金村修とともにスペシャルライブを開催し、チケットが完売した事も記憶にあたらしい。今回はその時のパフォーマンスを更にアップデートする形で、“HARDCORE AMBIENCE presents 大野松雄×3RENASA_ Space Echo_Public recording” と題し、大野松雄、3RENSA の音源をパッケージングする事を目的とした公開ライブレコーディングとなる。そして、今回会場に選んだ KIWA はサウンドデザイナー金森祥之氏がプロデュースする、RoomMatch DeltaQ スピーカーを中心とする機材や、壁などこだわり抜いたライブハウス。インストゥルメンタルでも楽器をナチュラルに出せるのが特徴とのこと。さらに、映像には写真家の金村修の参加が決定していて、極上の視聴覚体験を堪能してほしい。

チケットは、2019年12月13日20時~予約開始となる。

[ライブ詳細]

「HARDCORE AMBIENCE presents 大野松雄×3RENASA_ Space Echo_Public recording」

【公演日程】 2020年1月18日(土)
【開場時間 / 開演時間】 13:00 / 13:30
【チケット料金】 前売り:¥4000 当日:¥4500 (共に1ドリンク代・要)
【会場】KIWA TENNOZ
    東京都品川区東品川2-1-3
    TEL: 03-6433-1485 FAX: 03-6433-1486
【出演者名】
大野松雄 with 由良泰人
3RENSA (Merzbow, duenn, Nyantora)
映像: 金村修 (support by CASIO)
and more...

【チケット予約】KIWA チケット予約 専用URL https://www.oasis-kiwa.com/schedule/view/604
【問い合わせ】KIWA TEL: 03-6433-1485 | https://www.oasis-kiwa.com/contact.html

shotahirama - ele-king

 これが初のフル・アルバムというのは意外だ。これまで多くの作品を送り出してきたNY出身のノイズ~グリッチ・プロデューサー shotahirama が、昨日、配信限定の新作『Rough House』をリリースしている(Spotify / Apple Music)。特筆すべきはそれが、ターンテーブルを用いて制作されたヒップホップ・アルバムであるという点だろう。東京(12月28日)と京都をめぐるリリース・ツアーも決定(詳細はこちら)。驚きの変化と、しかし相変わらず丁寧に作りこまれた音の細部を楽しもう。

shotahirama
デジタル・サブスク限定配信の新作アルバム『Rough House』12月16日発売

Apple Musicリンク

https://music.apple.com/jp/album/rough-house/1490236369

トラックリスト

01. STOP FRONTING (3:44)
02. SLACKER (3:27)
03. SLACK HOUSE (5:40)
04. WHO INDA HOUSE (3:24)
05. ROUGH HOUSE (3:06)
06. PAYDAY IS BLISS (3:48)
07. OKTOBER (4:43)
08. FLAVA (4:12)
09. DAILY BASIS (5:12)
10. FOOLS PARADISE (11:41)

ノイズ・グリッチ・ミュージックの奇才 shotahirama がターンテーブルを楽器に用いたヒップホップ・アルバムをリリース!

shotahirama の2年半ぶりにしてキャリア初となるフル・アルバムはターンテーブルを楽器に用いたサンプルベースのビート・ミュージック。丹念に作り込まれ、しかし複雑過ぎない音楽を意識したという本作にはシカゴ・ハウスやファンク、ヒップホップからの大きな影響とユーモアがふんだんに散りばめられている。ノイズとダブ・ミュージックを掛け合わせた衝撃的な前作に続き、飽くなき挑戦心が“止まらない進化”をさらに加速させる。

YouTubeリンク
https://youtu.be/HgplFGmQZo8

shotahirama プロフィール:

ニューヨーク出身の音楽家、shotahirama (平間翔太)。中原昌也、evala といった音楽家がコメントを寄せる。畠中実(ICC主任学芸員)による記事「デジタルのダダイスト、パンク以後の電子音楽」をはじめ、VICEマガジンや音楽ライターの三田格などによって多くのメディアで紹介される。Oval、Kangding Ray、Mark Fell 等のジャパン・ツアーに出演。代表作にCDアルバム『post punk』や4枚組CDボックス『Surf』などがある。

Kanye West - ele-king

 様々なゴシップで世間を騒がせたり、あるいは精神的にも不安定な状態でありながら、昨年(2018年)には自らの8枚目となるアルバム『Ye』を含む、「Wyoming Sessions」と名付けられたシリーズ(Pusha T 『Daytona』、Kid Cudi 『Kids See Ghost』、Nas 『Nasir』、Teana Taylor 『K.T.S.E.』)をリリースするなど、プロデューサーとしても精力的に活動を続けていた Kanye West。そんな彼が、今年に入ってから、サンデー・サービス(日曜礼拝)と称したゴスペル・イベントをスタートし、コーチェラ・フェスティヴァルであったり、あるいは実際の教会などでも開催するなど、ファンの想像を超える活動を展開していく。本来であれば、様々なゲスト・アーティスト共にレコーディングを続けていたアルバム『Yandhi』がリリースされるはずであったが、サンデー・サービスを通して、しまいには「ラップは悪魔の音楽」「これからはゴスペルしか作らない」といった旨の発言を繰り広げ、その結果、9枚目のアルバムとしてリリースされたのが、ヒップホップとゴスペルを融合した今回のアルバム『Jesus Is King』というわけだ。

 もちろん、Kanye と宗教(キリスト教)との関わりは今に始まったわけではなく、誰もが思い浮かべるであろう、彼のデビュー・アルバム『The College Dropout』に収録された大ヒット曲“Jesus Walks”などはその代表と言えよう。『Yeezus』、『The Life OF Pablo』といったアルバムなども、そのタイトル自体がすでに宗教色が強かったりと、Kanye にとっては宗教はテーマとして常に存在していた。そもそもブラック・ミュージック自体、その成り立ちに宗教というものが深く関わっており、ソウルやファンクなどもゴスペルとは強く結びついているし、80年代からクリスチャン・ヒップホップというサブジャンルが存在するなど、ヒップホップと宗教は一部では強い関係にあった。とはいえ、これまでトランプ支持の表明など、様々な形で炎上を繰り返してきた Kanye がゴスペル・アルバムをリリースするなんて、彼のいつもの「奇行」のひとつと思う人がいるのも当然だ。まあ、筆者もこのアルバムを聞くまでは、そう思っていたのであるが、実際に聞いてみると、音楽作品としてトータルで判断する限り、十分に Kanye ならではの力作に仕上がっている。

 イントロ的な“Every Hour”ではクワイア(聖歌隊)がピアノをバックに高らかに歌い、このアルバム自体が彼が行なっているサンデー・サービスの延長上であることを伺わせる。Kanye 自らが司祭であるかのように先導し、クワイヤがコーラスを重ねる“Selah”はゴスペル・ヒップホップそのものでもあるが、リード・チューンである“Follow God”などは、トラック自体は非常にタイトで、昨年からの彼のサウンドの延長上にありながら、聖書なども引用しつつ、Kanye ならではの視点で父である神との関係をラップしている。つまり普通にヒップホップとして格好良い上で、宗教的なメッセージを彼ならではのスタイルで伝えており、まさにこれこそ「ラップは悪魔の音楽」と発言した彼が導き出した答えなのだろう。Ty Dolla $ign や久しぶりにふたり揃った Clipse をゲストに迎えるなど、ヒップホップ・ファンが喜ぶ仕掛けも入れつつ、ちゃんとエンターテイメントとして成立させながら Kanye が作り上げたゴスペル・アルバム。もちろん、批判の声を上げる信心深いキリスト教信者も当然いるだろうが、当然、そんなことは彼にとっては折り込み済みだろう。しかし、そんな Kanye 劇場のワン・シーンとして片付けるのは勿体無いくらい、非常に聞き応えあるアルバムであり、いろんなことを考えさせてくれる作品だ。

interview with Daniel Lopatin - ele-king

今回のサントラは『Good Time』とはぜんぜんちがっていて、ものすごく誇りに思っている。「これが僕なんだ」という気持ちになってね。人間としての自分に近いような作品に思えたんだ。

 監督は前回同様ジョシュア&ベニー・サフディ兄弟。製作総指揮はマーティン・スコセッシ。たしかに、外部の意向が大きく関与している。映画のサウンドトラックなのだから当たり前といえば当たり前なのだけれど、ジョエル・フォードしかり、ティム・ヘッカーしかり、彼は他人とコラボするとき、基本的にはOPNの名義を用いずにやってきた。そう、幾人ものゲストを招いた昨年の『Age Of』までは。だからむしろ、サフディ兄弟と初めてタッグを組んだ『Good Time』(17)がOPN名義で発表されたことのほうがイレギュラーな事態だったのかもしれない。ソフィア・コッポラ監督作『The Bling Ring』(13)もアリエル・クレイマン監督作『Partisan』(15)もリック・アルヴァーソン監督作『The Mountain』(18)も、ダニエル・ロパティンの名でクレジットされていたのだから。
 ときどき自分が人間であることを忘れてしまう──ダニエル・ロパティンはそう語っている。今回OPN名義ではなく本名で作品を発表することになったのは、その音楽がまさに自分のものだと思えたからだという。不思議である。サウンドトラックの制作でそのように感じるのは珍しいケースなのではないか。それに、パーソナルなのはむしろ、OPN名義のほうではなかったか。つまり今回彼は、サフディ兄弟とはもちろん、ゲイトキーパーや「MYRIAD」で仲間に引き入れたイーライ・ケスラーのような他人たちと仕事をすることによって、あらためてみずからの人間らしさや自分らしさを確認しつつも、あえてコラボの解禁されたOPNではなく本名のほうで作品を発表したということで、そこには何かしら他者にたいする意識の変化が……
 とまあ、そんなふうにいろいろと深読みしてみたくなっちゃうわけだけれど、DJアールアノーニをプロデュースしたときもOPN名義だったのだから、たぶん、本人は深く考えて使いわけているわけではないのだろう。思うに、そのようなある種のユルさにこそ彼の本質みたいなものが宿っているのではないか。それに振りまわされるかたちでわたしたちはいつも、「今度はなんだ?」と気になって、独自の分析や自説を披露したくなってしまうのではないか。ようするに、彼の音楽や振る舞いは、どうにも思考誘発性が高いのである。

 今回の『Uncut Gems』でキイとなるのはおそらく、初期の彼を思わせるアナログな触感から『AKIRA』的な発想と王道のクラシカルなアレンジとスムージィなサックスの奇妙な混合へとなだれこんでいく、冒頭“The Ballad Of Howie Bling”だろう。この曲から聴きとることのできる諸要素は、声楽を活かした8曲目やサックスの映える10曲目、やはり芸能山城組を思わせる13曲目、おなじくかつての音色で思うぞんぶん感傷の湯船につかる最終曲などに、分散して登場することになる。ほかにも、これまでの彼にはなかったクラシカルな旋律を聞かせる2曲目や4曲目、ブリーピィかつミニマルな7曲目、ライヒ的な9曲目など、今回のサントラもいろいろと分析したくなる魅力にあふれている。
 そのような誘発性をこそ最大の武器に、2010年代のエレクトロニック・ミュージックを代表する存在にまでのぼりつめたダニエル・ロパティン。去る10月末、《WXAXRXP DJS》のために来日していた彼だけれど、幸運にも取材の機会に恵まれたので、『Uncut Gems』についてのみならず、かつての作品のまだあまり語られていない部分についても質問を投げかけてみた。じっさいに対面した彼は、いわゆるアメリカ人らしい陽気なナイスガイといった印象で、そのサウンドやコンセプトから連想されるような気難しさや思弁の類はいっさい身にまとっていなかった。

音楽は苦しみから生まれたっていう考えがあるんだ。太古のむかし、ホモ・サピエンスが死に直面したときの恐怖感みたいなもの、そういう本能的なものから生まれたのが音楽なんじゃないかな、と。

いまも拠点はブルックリンですか?

ダニエル・ロパティン(Daniel Lopatin、以下DL):ああ、不幸なことにね。

それはなぜ?

DL:もう10年住んでるからそろそろ場所を変えたいかな。

先日ニューヨークのラジオ局WNYCの「New Sounds」という番組(*1982年の開始以来、積極的にエレクトロニック・ミュージックや現代音楽などを紹介してきた番組)が終わることになって、『ニューヨーク・タイムズ』紙がそのことを「NYはかつてほどクールではなくなってしまった」という方向で記事にしていたのですが(*それらの抗議の結果、番組は継続することに)、いまニューヨークのエレクトロニック・ミュージックのシーンはどうなっているのでしょう?

DL:物価が高くなって、アートやクリエイティヴィティみたいなものが薄くなってきているね。グレイなサイクルに入ってしまっている。豊かな歴史のあるところだから残念だよ。もちろん、そこから変わって新しいものが出てくる可能性はあるよ。僕自身は新しいアイデンティティの感覚がある場所に惹きつけられるね。ニューヨークはアイデンティティがもう決まりきってしまっているというか、そういうサイクルにあるのかなと思う。たとえばメキシコシティに行ったときは、すごく新鮮なものを感じた。新しいものが出てきている感じがした。だからいまは自分の拠点を変えることを考えたり、もう少しアメリカの外で何が起きているかとか、どういうところに何があるのかを考えたりするべき時期なのかもしれないな。

いまニューヨークでおもしろいことをやっていると思えるアーティストやレーベル、ヴェニューはありますか?

DL:ニューヨークでどんな新しいクールなものが出てきているか、何が起きているかという質問に答えるのに、僕はあんまり適していないと思う。よく知らないんだ。なぜかというと、僕は影響を受けることから隠れているからね。新しいものをスポンジみたいに吸収しすぎてしまうと、自分のものがわからなくなるようなことがあるから、いま何が起きているかということからは距離を置いているんだ。でも、友だちがやっていることはおもしろいと思うよ。たとえば〈RVNG〉をやっているマット・ワース(Matt Werth)。彼がキュレイトしたイヴェントやライヴはどれもおもしろいと思う。

前回のサウンドトラックはOPN名義でしたけれど、今回本名を用いたのはなぜですか?

DL:それはほんとうにたんなる思いつきだね。父と母がいて僕が生まれたということ、自分が人間であるということを忘れてしまうときがあるんだけど、そのことを少し思い出したんだ。今回のサントラは『Good Time』とはぜんぜんちがっていて、ものすごく誇りに思っている。だからこそ「これは良い作品だ」「これが僕なんだ」という気持ちになってね。人間としての自分に近いような作品に思えたんだ。まあ、思いつきなんだけどね。

人間であることを忘れるというのは、たとえば自分を「音楽機械」のようなものだと感じることがあるということでしょうか?

DL:たしかに、音楽をつくるマシーンみたいなところはあるね。でもそれはクールな機械で、自分でも気に入ってるんだ。他方でものすごく自己中心的な、自分だけの、誰も入れないような世界がある。自分がつくっているものはパーソナルな言語みたいなところがあってね。「ワンオートリックス・ポイント・ネヴァー」は自分だけのコミュニケイションみたいな場所なんだ。でも今回はほかのひとたちとのコラボがあったり、監督との絆やコミュニケイションも含まれてるから、もうちょっとあたたかさがあるし、そういう意味では人間的だね。

過去にも何度かサウンドトラックを手がけていますけれど、おなじ監督と組むのは初めてですよね。サフディ兄弟の映像表現はあなたの音楽と相性が良いのでしょうか?

DL:今回は彼らの最高の作品だよ。もちろん彼らは友人だし、コラボレイションがうまくいく親密な関係性ができていると思っている。サウンドトラックをつくることには彼らも関わってくるからね。ただ、彼らと仕事をするのは2回目だけど、ほかにたくさんの監督と一緒にやったわけではないから、比べられる人がいないんだ。僕は、友情がなくても良い仕事はできると思っているから、将来的にはそうじゃない人とも仕事をしてみたい。ただ、ひとつ言えるのは、彼らみたいに友人で、かつアーティスティックな面でも共感できる人と働くのはすごく楽しいし、贅沢だということ。もし一緒に仕事をしなかったとしても、彼らの映画は好きになると思う。すごく良い映画をつくっているからね。一緒に仕事することになったきっかけは、2014年の『神様なんかくそくらえ(原題:Heaven Knows What)』なんだ。あの映画を観てすごく良いと思ったし、そのひとつ前の、レニー・クックというバスケットボール選手のドキュメンタリー(『Lenny Cooke』)も観ていたから、ぜったい良い仕事ができると思っていたんだよね。

今回もサウンドトラックに台詞が入っていますね。これはじっさいに映画のなかで使われている音声ですか?

DL:4つ入っているはずだけど、それらはとくに僕がとりつかれている台詞なんだ。僕にとって重要で、この映画のソウルを代表するような台詞を選んだ。ただ、それはちょっと変な台詞で、たとえば予告編に入れられるタイプの台詞ではないんだけど、自分にとってはすごく重要なもので。僕にとってこの映画の意味を象徴するような台詞だね。

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ヴェイパーウェイヴは祈りみたいなものだと思う。自分を表現する、その瞬間を表現できる、そこに自分を捧げるような祈り。ループしているということは、その瞬間を永遠に続けられるということ、そこで自分が永遠に生きていられるということ。

今回のサウンドトラックにも声楽が入っていますけれど、これまでサンプリングだったり聖歌的なものだったり叫びだったり、あるいはチップスピーチを導入したり自分自身で歌ってみたり、毎度アプローチは異なれど、あなたは一貫して声にたいする高い関心を抱きつづけてきたのではないかと思うのですが、いかがでしょう。

DL:声はものすごくユニークな楽器なんだ。地球上でいちばん変な、ユニークな楽器で、ある意味人間のあり方とか音楽のあり方、ことばとしての音楽のあり方のキイになるようなものだと思う。これから言うことは僕のオリジナルな理論ではないんだけれど、音楽は苦しみから生まれたっていう考えがあるんだ。たとえば傷ついたときとか、死に直面したときのうめきだったり、音楽はそういうものから生まれたんだっていう理論があってね。太古のむかし、ホモ・サピエンスが死に直面したときの恐怖感みたいなもの、そういう本能的なものから生まれたのが音楽なんじゃないかな、と。だから、声ってものすごく変だし、いわゆる人間的といわれているものとはぜんぜんちがう、エイリアンのようなものだったりもするけど、でも同時にほぼすべての人が持っているもので、それが人を進化させてきた。人間ひとりひとりが声を持っている。それは全員が生まれつき持っているものでありながら、ひとりひとり異なるものだ。こんなに多様な楽器はほかにないよ。そういう意味で声はものすごく興味深いね。

なるほど。そのような声にたいするアプローチは、9年前のチャック・パーソン名義の作品でも、スクリュードというかたちであらわれていました。『Eccojams Vol. 1』はヴェイパーウェイヴの重要作とみなされていますが、日本ではなぜかいまになってヴェイパーウェイヴが再流行しています。ユーチューブに音源をアップしていた当時は、どのような意図があったのでしょう?

DL:はじめはシンプルだったよ。そのころはデスクワークの仕事についていて、時間を無駄にしていたんだ。与えられた仕事が来るまでコンピュータの前で何時間も何もしないようなときがあったりね。ものすごく落ち込む仕事だった。それで、その時間にループをつくりはじめたんだ。自分にとってはちょっとした詩みたいなもので、ポップ・ソングのある部分を切りとって、それをものすごくスロウダウンさせて、瞬間を引き延ばして、そのなかで自分がポエティックな瞬間を泳げるような感覚をつくりだした。だから、ものすごくパーソナルなものだったんだ。つくり方も簡単で。やり方を学べば誰でもつくれるものだから、それを大勢の人たちがつくって、フォークロア的なものになればいいなと思ったんだ。みんながつくることでそれがひとつのプラクティスになるようなね。だから、いま日本でヴェイパーウェイヴが人気になっていたり、もしかしたらほかの場所でも人気なのかもしれないけど、そう聞いて僕はすごく嬉しいよ。喜びを感じるね。自分がはじめたころはオリジナルなものだったから、とくにユニークなものだとも思っていなくて、単純で、プラクティスみたいなものだと思っていた。誰でもできるものになっていくと思っていたから、じっさいにいまそうなっているのは嬉しいよ。(ヴェイパーウェイヴは)祈りみたいなものでもあると思うんだ。それはべつにポップ・ミュージックの神さまにたいする祈りということではなくて、自分を表現する、その瞬間を表現できる、そこに自分を捧げるような祈り。ループしているということは、その瞬間を永遠に続けられるということ、そこで自分が永遠に生きていられるということ。そこでものすごく鳥肌が立つような感覚を得たりね。そういう音楽の瞬間をつくる。それは3分間でもいいし、300分間でもいいんだけどね。

『Eccojams』のアートワークとタイトルは、セガのゲーム『エコー・ザ・ドルフィン』のパロディですよね。イルカがサメに変更されていましたけれど、あのイメージを使ったのはなぜですか?

DL:いくつかレイヤーがあるんだ。「Eccojams」ということばは、もちろんゲームから出てきたってのもあるけど、「ecco」という文字の並びが好きだったってのもある。あと、ミニットメンっていう、いろんなことばをつくったカリフォルニアのパンク・バンドがいて、たとえば「マーチャンダイズ」のことを「マーチ」って言いはじめたのも彼らなんだ。いまでは誰もが「マーチ」って言っているよね。それで彼らは、「We jam econo」という言い方もしていて、「econo」は「economy」から来てると思うんだけど、高い楽器じゃなくて安い楽器でジャムってるんだぜ、って意味で彼らは「We jam econo」と言っていて、その「econo」を使ったってのもある。だから、すごくいろんな意味があるんだ。当初は「Econo Jam」だった気がするな。それを「Eccojams」に変えた気がする。(*このミニットメンのくだりは昨年すでに『Age Of』リリース時のインタヴューで語ってくれている。紙エレ22号の32頁参照。ここではイメージの意図を尋ねたかったのだが、残念ながらうまく伝わらなかった模様)

きみはシュルレアリストのコンセプトを信じられる? 信じられないよね(笑)。あれはただその美しさを楽しめばいいんだよ。

あなたの友人であるジェイムス・フェラーロもヴェイパーウェイヴの重要人物のひとりとみなされています。『Age Of』のコンセプトは彼との読書会をつうじて生まれたものだそうですが、それはほんとうですか?

DL:音楽界でいちばん古い友人だね。だからすごく仲はいいんだけど、彼はほんとうにミステリアスで変なやつなんだ。最後に彼と会ったのは、僕がたまたまパリでギャスパー・ノエ監督を訪ねていたときで。彼(ノエ)のアパートはものすごく人が行き来する道に面しているんだけど、ドアを開けたらなぜかジェイムスがいたんだよ! ジェイムスはパリに住んでいるわけじゃないんだけど、たまたまドアを開けたら彼がいたんだ。「なんだこれ、夢なのか?」って思いながら「何してるの?」って声をかけたら、「いまフランス革命のリサーチをしているんだ」って言っていたね(笑)。まったく理解できなかったよ(笑)。彼は魔法使いみたいにクレイジーなやつでね。僕はただふつうに生活している人間だけど、彼は魔術師みたい、ソーサラーみたいなんだ。ときどきテキストでやりとりをしたりするけど、じっさいに会ったのは何ヶ月も前だな。ほんとうに変わった人だよ。

最近の彼の作品は聴いています?

DL:つねに超フレッシュな人だと思う。彼の音楽はどの曲もぜんぶ聴いてるはず。ものすごくオリジナルで、彼の脳のなかに直接トランスミッションしているような音楽、それが彼の音楽だと思う。聴いているとまるで脳のなかに座っているような感覚になるんだ。良いアート作品にはつねにそういう部分があるものだと思うけど、彼はほんとうにオリジナルだと思うよ。

いま彼がやっているポスト・アポカリプティックなフィクションについてはどう見ていますか?

DL:彼のコンセプトを信じちゃダメだよ! ぜんぶしょうもないことを言っているだけだから(笑)。インタヴューで聞くぶんにはすごくおもしろいし、まとまりもあって、僕も思うところがあるけど、彼は彼自身を含め、まわりの人みんなに嘘をついている。バカにしているところがあるんだ。でもそれはまったく悪意ではなくてね。ものすごく美しくて、シュルレアリストみたいなものだよ。きみはシュルレアリストのコンセプトを信じられる? 信じられないよね(笑)。あれはただその美しさを楽しめばいいんだよ。

(わりと信じてますけど……と言いかけたもののお尻が迫っていたのでつぎの質問へと移る)『Age Of』ではCCRU(Cybernetic Culture Research Unit)の論集からインスパイアされたことがクレジットされていたため、いろんな憶測が飛び交いました。そのことについてあなた自身の口から説明してください。

DL:変な憶測だね。CCRUに影響されているのは“Black Snow”という曲だけ。ウェイバック・マシン(Wayback Machine)っていうウェブサイトをやっていた友だちが、サイバーパンクのアーカイヴのなかから一篇の詩を見つけて、僕に送ってきたんだ。その詩がまるでランディ・ニューマンの曲のように思えてね。それで少しことばを変えたりして、サイケデリックなランディ・ニューマンの曲みたいにしてつくったんだよ。ただそれだけのシンプルなこと。だから、ニック・ランドがいま言っているような政治のばかばかしいこと、それを僕は残念だと思うけど、それとはまったく関係ないね。

ニック・ランドや加速主義にシンパシーを感じているわけではない?

DL:そもそも彼についての知識があまりないね。ただ、2~3年前に彼の本を読んだときに、すごく美しくてカラフルでシュルレアリスティックなことばをつくる人だとは思った。詩人みたいな部分ですぐれたものを持っていると思う。でも、政治的なスタンスとかは、ものすごくヘイトに満ちた人だから、自分が彼とつながっている、彼に共感を持っていると思われるのはいやだな。彼が過去じっさいにそういうコレクティヴの一員だったことはたしかだけどね。僕はそれをよく知っているわけでもないし、そこに共感したということではないよ(笑)。

Get Loose - ele-king

 フレッシュかつ尖ったサウンドは、じつは、そこかしこに潜んでいる。来年1月11日、新たにスタートする《Get Loose》も、そんな“いま”を切りとったエキサイティングなパーティになりそうだ。KOHH や BAD HOP、Tohji らのトラックで知られる大阪のプロデューサー MURVSAKI、今年最高にすばらしいコンピを送り届けてくれた〈Night Slugs〉のマナラを招いてパーティを開催した Hibi Bliss、ヒップホップやレゲエを折衷する仙台の 1017 Muney、さまざまなジャンルを独自のセンスで横断する ryo、そしてグライムを軸に東京の地下を揺らし続けるわれらが Double Clapperz の計5組が出演する。“いま”のサウンドを聴きたければ年明け、まずはこのパーティに行こう。

《Get Loose》 at WWWβ 開催

この20年間でヒップホップやダンスミュージックをめぐる状況は様変わりし、ローカルに偏在していたオフラインの“ストリート”から、オンラインに遍在する“ストリート”へと一気に伝播した。とくにラップミュージックはスマートフォンで動画を見る形がもっとも主流となっている。

一方で、この音楽は祝祭的な身体性を常に秘めており、革新され続けている。ビートメイカーやエディットやブートレグを生み出してきたDJは、ラップミュージックやダンスミュージックの身体性を拡張し、音楽をレベルアップしてきた。“Get Loose”はそんなアーティストやDJにフォーカスしたパーティとなる。

第一回目となる今回は KOHH、Bad Hop、Tohji といった最先端のラッパーのトラックを作り出し、フロアを揺らし続けてきたプロデューサー MURVSAKI がDJセットを披露する。ヒップホップ・レゲエを中心にエクレクティックなセットをプレイする 1017 Muney、UKアーバンミュージックを軸とする Hibi Bliss、様々なジャンルを独自のセンスで架橋する Ryo、グライムDJの Double Clapperz がDJをつとめる。

ダンスミュージックとラップミュージックの垣根を越える一晩。ディレクションチームGRIDIN’がパーティをサポートし、オールナイトを盛り上げる。

“Get Loose” at WWWβ
1/11 (sat) 11pm-5am
〒150-0042 東京都渋谷区宇田川町13-17 B1F シネマライズビル
ADV ¥1,000 @RA / DOOR ¥1,500 / U23 ¥1,000

出演者:
MURVSAKI
Hibi Bliss
1017 Muney
Ryo
Double Clapperz

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