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Kano

GrimeUK Rap

Kano

Hoodies All Summer

Parlophone / Bigger Picture Music

Tower HMV Amazon iTunes

米澤慎太朗   Dec 19,2019 UP

 UKのラッパー、ケイノ(Kano)のキャリア6枚目となるアルバム『Hoodies All Summer』がリリースされた。ケイノは2000年代のグライム・シーンの立役者のひとりとして知られるラッパーだ。海賊ラジオ「Deja Vu FM」でワイリーやスケプタとともに評判をあげ、“Ps & Qs”で大ヒットを飛ばした。また、前作『Made In the Monor』(2014)はUKの批評家賞にあたるマーキュリー賞にノミネートされるなど、時代の声となる作品をリリースしてきた。Netflix で公開中の大人気ドラマ・シリーズ『Top Boy』でのめざましい演技に常に注目が集まってる。そんな幅広い活動の中でリリースされた本作は、コミュニティの宣教師かのように、若者の言葉を用いて彼らを導く。そんな彼が背負っている責任を感じさせるアルバムとなった。

 前半はいまのロンドンの厳しいストリートで稼ぐキッズの現実に寄り添う意識が背景となっているように感じられ、曲調も厳かだ。ヴァイオリンで幕を開ける 1. “Free Years Later”で時折自身の過去のいざこざに言及しつつ、いまの不良を諫める言葉を紡ぎながら「D・ダブル・Eがしてきたことをいま俺が若者にやるんだ」という最後のラインには多くのラッパーの見本となってきたD・ダブル・E(D Double E)の功績を称えながら、ケイノも別の「ストリートの理想像」を体現するという決意が聞こえる。2. “Good Youtes Walk Around Evils”ではタイトなグライム・トラックに、ラフなストリートでラッパーとして「まっとうにやること」、つまりラッパー・リリシストとして「稼ぐ」という姿勢を誇っている。つづく 3. “Trouble”はブラックパンサーの活動家であり、70年代〜80年代にノッティングヒルのデモを率いたことで知られるダーカス・ハウ(Darcus Howe)のインタヴューのサンプリングで始まる。現在の警察の黒人に対する暴力を歴史と結びつけながら、ストリートにい続けることの難しさをストリートにいる若者にも届くような言葉で語っている。例えば、UKのラッパー、アブラ・カダブラ(Abra Cadabra)の大ヒット曲“Dun Talkin'”のラインを引用するところにはウィットを感じさせる。

 中盤はレゲエのエッセンスをミックスした曲が並ぶ。ジャマイカのアクセントを感じさせるシンガーのコージョ・ファンズを客演に迎えた 4. “Pan-Fried”はこれまで彼自身が成し遂げてきたことを祝うような1曲で、東ロンドンのローカルな仲間の話や、ジャマイカ由来のファッション文化が散りばめられていて興味深い。続く 5. “Can't Hold We Down”でもジャマイカの人気ラッパー、ポップカーン(Popcaan)を迎え、ケイノのラップにイギリスとジャマイカの距離が生み出す憧れと、それに対する「俺たちのやり方」への誇りが入り混じったアンビヴァレントな感覚が聴こえて面白い。

 6. “Teardrops”では一転して、栄光の裏側に依然としてあるハードな現実に引き戻される。イギリスにおける黒人の置かれた立ち位置についてハードなビートに乗せて糾弾するようにラップするヴァースと弱気に呟くようなサビは、鮮やかなコントラストを引き出す。また 8. “Got My Brandy, Got My Beats”はある女性との別れの辛さを乗り越えようとする彼自身が描かれ、ガラージのビートとリル・シルヴァ(Lil Silva)のコーラスはその哀しさに寄り添う。

「愛と戦争は、すべて公正か」それが俺の生まれたところ
弱きは続かない、俺らみたいなシューズを履いて1週間
降ればいつも土砂降り、フードでひと夏を過ごす
君と僕にだけに、空から涙がこぼれる

In love and war All is fair where I'm from
The weak won't last a week in shoes like our ones
When it rains it pours Hoodies all summer
'Cause teardrops from the sky only seem to fall on you and I

“Teardrops”

 “Class of Deja”では、Deja Vu FM で凌ぎを削った盟友のD・ダブル・Eとジェッツ(Ghetts)を迎えた正統グライム・チューンで、ケイノとジェッツが交互にヴァースを蹴るスタイルで彼らの絆の強さも感じられる1曲だ。ラストの10. “SYM”では「Suck Your Mum」(意訳:くそくらえ)をコーラスするファニーなイントロが耳を引く。しかし、第二次世界大戦後にイギリスに移り住んだカリブ海移民の「ウィンドラッシュ世代」に触れるなど歴史を振り返りながら、現在のイギリスの黒人が置かれた状況までを見渡すように展開していく。そこから2000年代のダンスや海賊ラジオの存在にもスポットライトを当てるというドラマチックな展開には、イギリスの若者に歴史を伝えようとするケイノの姿が浮かんだ。

 ケイノが現実につながる歴史をラップするのは、それがストリートを生き抜くキッズに必要であると感じたからに違いない。それはマイノリティである「イギリスの黒人」というアイデンティティにとって、事実に基づいたストーリーを伝え、彼らを勇気づけ、良い方向に導きたいからであろう。ドリル・ミュージックがいまのストリート・キッズの現実を象徴しているならば、ケイノはこのアルバムを通して彼らの未来を描き出そうとしているのだ。

米澤慎太朗