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別冊ele-king ヒップホップ誕生50周年記念号 - ele-king

いま世界でもっとも聴かれているジャンル
その生誕50周年を記念して刊行する特別号

50年分のベスト・アルバム100枚を一挙紹介

執筆:アボかど/磯部涼/荏開津広/緊那羅:Desi La/小林雅明/小渕晃/高橋芳朗/つやちゃん/野田努/長谷川町蔵/二木信/水谷聡男/三田格/渡辺志保

さらに、ライター陣が個人的に偏愛するレコード紹介、ファッションの変遷など、ヒップホップ/ラップが好きなら落とせない永久保存版

菊判220×148/160ページ

目次

ヒップホップ・ファッションの変遷

HIP HOP 50 ~Daily Operation~
ヒップホップ誕生50周年を祝う。
世界中の日常に溶け込んだ最強カルチャー (小渕晃)

Columns
この夏、ニューヨークで感じた、女性とヒップホップの50年 (渡辺志保)
ヒップホップ生誕50周年に思う「最高の一曲」 (高橋芳朗)
グレッグ・テイト「三〇歳になったヒップホップ」から考える (二木信)
緑色の誘惑──音と意味に引き裂かれながら (つやちゃん)
セックス・マシーン/ポエティック・ジャスティス (荏開津広)

100 Classics
ヒップホップ誕生50周年 50年分のベスト・アルバム100枚
文:アボかど、緊那羅:Desi La、小林雅明、小渕晃、つやちゃん、野田努、長谷川町蔵、二木信、三田格、水谷聡男、渡辺志保

50年分の私の偏愛アルバム/シングル
文:アボかど、磯部涼、緊那羅:Desi La、小林雅明、小渕晃、つやちゃん、野田努、長谷川町蔵、二木信、三田格、水谷聡男、渡辺志保

VINYL GOES AROUND PRESENTS「そこにレコードがあるから」
第2回 ヒップホップの生み出したサンプリングという芸術 (水谷聡男×山崎真央)

執筆者プロフィール

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お詫びと訂正

このたびは弊社商品をご購入いただきまして誠にありがとうございます。

『別冊ele-king ヒップホップ誕生50周年記念号』に誤りがありました。
謹んで訂正いたしますとともに、お客様および関係者の皆様にご迷惑をおかけしましたことをお詫び申し上げます。

159ページ
Manhattan Records営業時間
誤 12~21時
正 12~20時

interview with Evian Christ - ele-king

義理の父が趣味でトランス系のDJをやっていたから、それに影響を受けて6歳くらいからトランスを聴いてた。

 トランス・ミュージックが国内外の若い地下シーンで復権を果たして久しい。日本では新世代のDIYレイヴ・クルー〈みんなのきもち〉がデジタル・ネイティヴ的美学に基づくピュアなトランス・ミュージック体験を各所で啓蒙中で、国外に目を向ければラテン・ミュージック文化圏ではネオ・ペレオと呼ばれる実験的でトランシーなサウンドが新たに定着しつつあり、ヨーロッパには〈Drain Gang〉の熱心なヘッズたちが巨大なコミュニティを築き上げ、そしてインターネットから世界に向けて〈PC Music〉の一群がポップスを笠に着つつ Supersaw サウンドの美しさを広めている。そんな同時多発的なムーヴメントのなか、あまりの寡作さになかば伝説化しつつあった天才、エヴィアン・クライストが〈Warp〉との契約後ようやく初のフル・アルバム『Revanchist』を発表し、「オルタナティヴ・トランス」と定義できそうな、この新たなムーヴメントにさらなる追い風を吹かすこととなった。

 2010年代にかけて発生した「ウィッチ・ハウス」(インダストリアルなトランス・サウンドを活用した耽美的でゴシックなビート・ミュージック)ムーヴメントや、「デコンストラクテッド(脱構築)・クラブ」(既存のクラブ・ミュージックの持つ普遍性からの逸脱を目指し、複雑なリズムやグリッチ・サウンドをコラージュ的に組み合わせた実験音楽)など、ポスト・インターネット的美学に基づくアンダーグラウンドなサウンドが、DAWやDJ機器の技術的進化とともにポップスの領域、果ては電子音楽そのものを飲み込もうとしたのが2010年代初頭から後期にかけてのこと。そして、2010年代末~2023年現在において、それらはストリーミング・サーヴィスにおける商業的利便性から定義された「ハイパー」という形容詞とともに、新しいポピュラー・ミュージックの地平を切り拓いてきた。

 その過程で再発見されたサウンドの代表例のひとつがトランスであった。(これもハイパー同様、既にクリシェと化した惹句だが)いわゆる「Y2K」的なリヴァイヴァル・ムーヴメントとともに急成長したサウンドの源流が、「エピック」や「ユーフォリック」とかつて定義されたジャンル群なのだ(サイケデリック・トランスとはほぼ無関係ということも特徴的)。

 『Revanchist』は「トランスの潜在的な可能性を探求」するといったコンセプトのもと長い期間をかけ生み出された8曲入のアルバムで、なかにはアンビエントを想起させるものからリヴァイヴァル以降のブレイクコア(Kid 606 のようなサウンドとはほぼ関連のない、どちらかといえばアトモスフェリック・ドラムンベースと呼ばれるべき「インターネット発」の2020’s ブレイクコア)に至るまで、自由さを感じさせるヴァラエティに富んだ内容となっている。しかしながら全体に漂う荘厳さがある種の統一感を漂わせてもいて、そしてなによりすべての音像がハードにマキシマイズされている極太さも魅力的だ。
 タイトルの「revanchist」とは「失地回復論者、報復主義者」といった意味を指すようで、あたかも荒れゆく昨今の世情を反映したかのようなタイトルだが、本人曰くただ単にタイポグラフィ的なカッコよさを言葉遊びのように掬い上げ採用したにすぎないとのこと。「コンセプト的な深みはゼロ」と断じるものの、やはり稀有な天才に世界は隷属的にならざるを得ないのだろうか……。そんな不可思議な音楽家への、希少な日本語インタヴューをぜひ一読いただきたい。

音楽制作をはじめてそれほど時間も経ってないときだったし、スタジオに入ったこともなかった。なのに突然、カニエ・ウェストの史上最も実験的なアルバムに取り組まなければいけなくなった。あれは自分にとってかなり大きな挑戦だったね。

イングランド北西部のエレスメア・ポート(Ellesmere Port)という港町にお住まいなのですよね。日本からはなかなか想像しづらいのですが、どのような街ですか? 音楽シーンはどんな感じですか?

EC:日本では知られていない場所だろうね(笑)。小さな街だよ。ものすごく小さいというわけでもないけど。人口5万人くらいかな。リヴァプールの近くで、リヴァプールのすぐ南にあるんだ。昔は工業都市で、自動車製造と石油精製が盛んだった。原子力発電所もたくさんあるよ。『ザ・シンプソンズ』に出てくるスプリングフィールドみたいな街。

通訳:生まれたのもその街ですよね?

EC:そうだよ。

通訳:生まれてからいままで、街を出たことはありますか?

EC:じつは一時期アメリカにいたんだ。でも結果、LAがあまり好きになれなくて。それでエレスメア・ポートに戻ってきたんだよ。

通訳:音楽シーンはどんな感じですか?

EC:音楽シーンはひとつもない(笑)。街にはナイト・クラブが全然ないし、ライヴ会場みたいな場所もないんだよね。みんなラジオとかから流れてくる音楽を聴いてる。だから逆に、音楽シーンに流されずに自分がつくりたい音楽を集中してつくれるんだ。

通訳:シーンがないなか、あなた自身はどんな音楽に触れてきたのでしょう?

EC:とりあえず、まわりにある音楽。リヴァプールはビートルズという超大きな遺産があってその影響が大きいから、エレクトロニック・ミュージックはあまりビッグにならなかった。だから、バンド系の音楽がたくさん流れていたんだ。でもぼくは、義理の父が趣味でトランス系のDJをやっていたから、それに影響を受けて6歳くらいからトランスを聴いてた。あと、コンピュータ・ゲームもやってて、昔のコンピュータ・ゲームはプレステとかとは違ってエレクトロニック・ミュージックを使った曲がたくさんあるから、そういう音楽に影響されていたと思う。で、もう少し大きくなると、ネットで好きな音楽を聴くことができるようになった。ダウンロードしたり、音楽コミュニティを見つけたり、テレビで音楽チャンネルをみはじめて、その音楽番組でダンス・ミュージックを聴いたりしてたな。それが、ぼくの音楽への入り口だったと思う。

あなたは2012年に〈Tri Angle〉から『Kings and Them』でデビューしています。当時はどのようなモティヴェイションで音楽に臨んでいたのでしょう? もともとは小学校教師を目指していたのですよね。

EC:目指していたというか、ぼくは教師だったんだ。教員免許を取ったばかりで、6~7歳の生徒を教えていた。当時、音楽はぼくの人生のなかで大きな大部分を占めていたわけではなかったんだ。あの作品が出たときが初めて音楽作品を完成させたときだったし、あまり真剣に音楽に取り組んでいたわけではないんだよ。趣味のランキングでいえば、音楽はスポーツ以下、飲みに行くこと以下、そんな感じだった。音楽をリリースしたいとか、音楽で存在感を示したいとか、そういう野望は一切なくて、ただ冬に寒くてやることがなかったから音楽をつくっていただけなんだ。で、あるとき『Kings and Them』をたまたま完成させたから、それを友人に送ったら、ラッキーなことにそれに火がついた。以来、流れでなんとなく音楽をやることになっていったんだよね(笑)。

通訳:それがどのようにしてリリースに至ったのでしょう?

EC:そもそもトラックをつくったのは、プロデューサーの友人たちに趣味で送るためだった。で、そのなかのひとりがルーキッド(Lukid)っていうプロデューサーで、彼がそれを気に入ってくれて、彼にさらに曲を送ったんだ。で、彼がそれをフェイスブックにアップして、そこから話題になってしまって。アップされてから1週間もしないうちに、レコード契約とか出版社とか、いろんなオファーが舞い込んできたんだよ。それで、レコードをリリースすることになったんだ。

ご自身の音楽的なバックグラウンドについて、もう少し詳しく聞かせて下さい。『Kings and Them』を聴いた印象では、ベース・ミュージックやヒップホップを聴いて育ったのかなと思ったのですが。

EC:子どものころ、ぼくはトランス・ミュージックにかなり夢中だった。さっき話したけど、それは義父の影響で、彼がレコードをたくさん持っていたから。アートワークにもすごく興味があったし、〈Gatecrasher〉のコンピレーションCDとか、そういうコンピCDにも興味を持っていて、義父のソニーのウォークマンを借りて聴いてたんだ。自分の部屋でも流していたし、車でどこかに行くときは、いつも車のなかでトランスを流していた。大人になってからもトランス好きは変わらない。そして、少し大きくなって高校生になると、ラップ・ミュージックに興味を持つようになった。まわりの友だちがラップを聴いていたからね。ネプチューンズのプロダクションとか、リル・ウェインとか、ポピュラーなラップにハマってた。2、3年はハマってたかな。で、大学に進学したとき、今度はコンテンポラリーなエレクトロニック・ミュージックにハマりはじめたんだ。でもぼくは、ハマっていたとはいっても、音楽にのめり込んでいたわけじゃなかった。BGMで流している程度。でも、ネットを使うようになって、エレクトロニック・プロデューサーを何人かオンラインで見つけて、彼らとメッセンジャーなんかで友だちになりはじめたんだ。そしたら、彼らがもっとちゃんとしたエレクトロニック・ミュージックを送ってくれるようになってさ。たとえば、さっき話したルーキッドが、僕にアンビエント・ミュージックを紹介してくれたりね。最初ちょっと変な感じがしたけど、どんどんそういう音楽に興味が沸いていった。それまで聴いていたのは、かなりひどいエレクトロニック・ミュージックだったから、音楽にはそこまでのめり込んではいなかったんだよ。まわりの学生たちが夢中になっているような音楽にはあまり興味がなかったし、学生のころのぼくは、もっとオンライン・ポーカーやスポーツ・ギャンブルのほうに興味を持っていたから(笑)。音楽によりハマりだしたきっかけは、大学のひとりかふたりの友人やオンラインで、もっと面白いエレクトロニック・ミュージックを紹介してもらってからなんだ。

なるほど。アンビエントを聴き始めたのはルーキッドが紹介してくれてからだったんですね。同年の「Duga-3」はアンビエントでした。『Kings and Them』も、ある種の静けさを持った作品でしたが、あなたのルーツのひとつにはアンビエントもあるといえますか?

EC:ある意味そうかもしれない。ルーキッドに教えてもらってから、アンビエントは気に入ってずっと聴いてるからね。

あなたは2013年、カニエ・ウェストの『Yeezus』(2013年)に、アルカハドソン・モホークといったエレクトロニック・ミュージシャンに混ざって参加しています。ウェストのチームとは、データのやりとりではなく、パリで一緒にスタジオに入ったのですよね? その経験は、あなたになにをもたらしましたか?

EC:そうだよ。音楽スタジオに入ったのは、そのときが初めてだったんだ。それまでは、母親のガレージやラップトップが使える適当な場所で作業していて一度も音楽スタジオに入ったことがなかった。だからスタジオでの経験は面白かったよ。もちろんすごくクレイジーな経験でもあった。スタジオに入るまでぼくはなんの準備もしてなくてさ(笑)。さっき話したように、僕が音楽制作をはじめてそれほど時間も経ってないときだったし、スタジオに入ったこともなかった。なのに突然、カニエ・ウェストの史上最も実験的なアルバムに取り組まなければいけなくなった。あれは自分にとってかなり大きな挑戦だったね。ソーシャル的に複雑な環境でもあったんだ。他のプロデューサーたちがたくさん出入りしていて、クレジットやアイディアが飛び交っていた。アルバムのトラックをめぐって、たくさんのひとたちが競い合っていたんだ。あれはすごく興味深かった。そこで飛び交う音楽も面白いものばかりだったしね。それにカニエとの作業は正直本当に楽しくて、彼は素晴らしいひとだった。彼は礼儀正しくて、すごく感じのいいひとだったよ。もちろん才能はものすごかったし。だから本当にいい経験だったし、あのレコードが大好きなんだ。あのレコードの一部になれたことを心から誇りに思う。

カニエ・ウェストは、常人が予想もしないような発言や行動をとりいつも人びとを驚かせますが、ある意味でそれは彼が真の天才である証かもしれません。いまでも彼はあなたにとってスターですか?

EC:いい質問だね。ぼくが子どものころ、彼はぼくの大好きなアーティストのひとりだった。でもリスナーとしてぼくはヒップホップやラップをあまり聴かないんだ。大人になってからは、ほとんどダンス・ミュージックを聴いているから。だからスターかどうかと聞かれたらそれはわからない。でも彼について悪く思うことやいいたいことはなにもないし、彼との作業は素晴らしかったし、彼と彼の作品が僕の人生を変えてくれたこともたしか。それはいまでも変わらない。

自分はどんなことに興味があるのか、どんなことにワクワクするのか。自分が音楽でなにを伝えたいのか、なにを世に送り出したいのか。そして、自分の音楽体験のなにが他のひととは少し違うのか、なにが自分にとって本物なのか。その答えがトランスだったんだ。

2015年に〈Warp〉と契約しました。どのような経緯でそうなったのでしょう?

EC:〈Tri Angle〉とちょっと仲違いして、レーベルに所属している他のアーティストたちとも仕事をするのが難しくなったんだ。それで弁護士を雇って〈Tri Angle〉との契約を解消したんだよ。で、その後他のアーティストたちやメジャー・レーベルを含むいくつかのレーベルと話して、〈Warp〉と契約することにした。彼らはとても乗り気になってくれたし、ぼくはオウテカOPN の大ファンだったから。そんな素晴らしいアーティストたちの仲間になれることもいいなと思ったし、多くの人びとにとって意味のあるレーベルでもある。だから彼らを選ぶことにしたんだ。意気投合して、彼らもぼくの音楽に興味を持ってくれたから、かなり自然な流れだったよ。

2017年の春ころ、あなたが NHK yx Koyxen こと Kohei Matsunaga と共作する、または共作したという話を聞いたのですが、事実でしょうか? その後どうなったのでしょう?

EC:そういえばそうだったね。ぼくもあの話がどうなったのか忘れちゃった(笑)。彼の音楽は本当にクールだよね。過去のメールのやりとりを見ればわかるかも。曲をつくろうとしたけどまとまらなくて、そのまま互いに忙しくなったとかそんな感じじゃないかな。ぼくって、コラボ相手としてはやりやすい相手じゃないんだ(笑)。だから作品がまとまらないっていうのはよくあること。彼は〈PAN〉のメンバーで、ぼくは〈PAN〉のビル(・クーリガス)と仲がよかったからその話になったんだと思う。コラボって自然の流れで起こることが多くてさ、だれとなにをやったかとか、いつどんなコラボをしたか、する予定だったか、ぼくはすぐ忘れちゃうんだ(笑)。彼が許してくれますように。

2010年代後半は、いくつかのリミックスなどを除けば、あまり動きがなかったように見えます。おもになにをされていたのでしょうか?

EC:曲をリリースすると、そのあとつねに曲をリリースすることをけっこう期待されるよね。でもぼくは、音楽をつくること以外にも、いろんなことに興味があるんだ。ライヴも好きだからアメリカやアジアでライヴをやったり、ショウをやるために南米にも行った。DJもたくさんやったし、DJの練習をしたり、DJのテクニックを磨いたり、自分なりのライティングのアプローチを開発してストロボ・ライトやスモーク・マシーンを使ってみたり、そんな活動をしていたよ。あと、トランス・パーティっていうクラブ・ナイトを立ち上げたんだ。だから、イヴェントもやってた。そういう活動をしながら黙々と音楽をつくり、自分の技術的な知識を高め、自分のつくりたい音楽のスタイルを洗練させたかったしね。ぼくの場合、音楽をはじめてからレコード契約をするまでが本当に短かった。だから、じっくりと腰を据えて機材を探して買ったり、その仕組みを学んだり、スキルを磨いたりする時間があまりなかったんだよ。そのためには時間が必要だったし、自分がどんな音楽をつくりたいかをじっくりと考える時間も必要だった。そしてそれを探る期間のなかで、ストレートなダンス・ミュージックではなく、ビルドアップやブレイクダウンに傾倒したトランス・ミュージックというスタイルにもっと興味を持つようになったんだ。

たしかに、2020年の “Ultra” であなたの新しいスタイルが完成したように思います。トランスの換骨奪胎は、本作でも大きな特徴になっていますね。「初期作品にあるベース・ミュージックやヒップホップのラインからトランスへと舵を切ったのは、もとの手法やアイディアに行き詰まりを感じたからですか?」と質問しようと思ったのですが、トランスへと舵を切ったのは、自分がつくりたい音楽はなにか、時間をかけて考えた結果、そこに行き着いたからでしょうか? そして、それをとりいれるスキルを身につけたから?

EC:そのとおり。それまでは、ラッパーのためにヒップホップのビートをつくったり、アメリカに行ってスタジオ・セッションをしたりしていた。もちろんそれもとても興味深かったよ。でもぼくにとって、それはちょっと退屈だったんだ。そういう環境で仕事をするのは、創造的に興味深いとは思えなかった。それで自分が聴いていた音楽とか、自分が大人になってからの音楽とかをベースにして、自分なりのアイディアを練っていったんだ。ただ、そのアイディアを練り上げるには少し時間が必要だった。とくに〈Warp〉からのデビュー・アルバムをリリースするということでプレッシャーも大きかったしね。だからゆっくりと時間をかけていろいろなアイディアを探ってみたかったし、ときどきリミックスを発表して、自分の進歩の一端を見せたかったんだ。

通訳:あなたにとって、トランスとはどのような音楽なのですか?

EC:幼いころから惹かれつづけている音楽、かな。アメリカの経験、つまり他の人のレコードのプロデュースを頼まれるという経験は、自分にとってあまり満足のいくものではなかった。だからそれをやめて、なにがぼくを満足させるのかを考えてみたんだ。自分はどんなことに興味があるのか、どんなことにワクワクするのか。自分が音楽でなにを伝えたいのか、なにを世に送り出したいのか。そして、自分の音楽体験のなにが他のひととは少し違うのか、なにが自分にとって本物なのか。その答えがトランスだったんだ。

もうこれ以上エネルギーを加えられないと感じられるポイントに達するまで、ぼくは曲づくりをやめない。ときどきこのへんにしておきたいって思うときもあるんだけど、性格上、毎回すべてがマックスになるまで作業しちゃうんだよね。

あなたにとって初のアルバム作品となる今回の新作を聴いて、荒廃した未来のようなイメージが浮かびました。ご自身としてはいかがでしょうか?

EC:アルバムは、一度リリースされるとそれはリスナーのものとなり、そこからなにを感じるかは彼らの自由。でも個人的には、結果的に、自然と破壊といった壮大なアイディアに到達したと感じる部分もあるけど、それは意識的なものではないんだ。ぼくは作品をつくっているとき、ただただ本能的に、すべてをもっとワイドスクリーンにして、もっとラウドに、もっと騒々しく、もっと圧倒的なものをつくりたくなる。もうこれ以上エネルギーを加えられないと感じられるポイントに達するまで、ぼくは曲づくりをやめない。ときどきこのへんにしておきたいって思うときもあるんだけど、性格上、毎回すべてがマックスになるまで作業しちゃうんだよね。

以前ベン・フロストのリミックスをされていたことがありましたね。また “Abyss” ではヴィジョニストとコラボしてもいます。それぞれスタイルは異なりますが、あなたの音楽のダークさや冷たさは、どこかふたりに通じるものがあるように感じます。彼らの音楽にシンパシーを抱いていますか?

EC:ふたりともぼくの友人なんだ。ヴィジョニストとコラボしたことなんてあったっけ? ほら、また忘れてるだろ(笑)。グーグルで検索してみよう。あ、これか。いま思い出した(笑)。
 ベンは、とくに大きな影響を与えてくれたアーティストのひとりなんだ。ぼくがフェスティヴァルのブッキングをはじめたばかりのころ、2013年のサウンド・フェスティヴァルで彼に出会ったのを覚えている。あのころのぼくは、実験的な音楽についてあまり知識がなかった。でも、ベン・フロストのパフォーマンスをみて、これこそぼくが好きな音楽そのものだ、と思ったんだ。こんなにパワフルな音楽をつくっているひとたちがいるんだって感動したんだよ。ぼくもトランス・ミュージックを使って彼みたいな音楽がつくりたいと思った。アンビエントのようだけど、リラックスするような感じでもない。そこにすごくインスパイアされたんだ。そしたら、彼がぼくの作品のファンであることもわかって、彼と話をするようになった。彼は本当にいいやつで、今回のアルバムの制作も手伝ってくれたんだ。
 ヴィジョニストにかんしては、ぼくがロンドンで初めてショウに出たときに出会った。だから彼とは長い付きあいで、彼がグライム・ミュージックをつくっていたころ、ぼくはずっとその音楽が好きだったんだ。いまはぼくの親友だよ。

“Xkyrgios” ではジャングルのビートが用いられています。ジャングルはトランスとは異なる場所にある音楽ですが、今回1曲だけこのスタイルをとりいれようと思ったのはなぜですか?

EC:2014年〜2015年くらいの間、ランダムに数ヶ月間ブレイクコアに夢中になっていた時期があってね。自分のセットで超高速のブレイクコアをプレイしていたんだけど、その時期につくったのがそのトラックなんだ。制作の実験として、あのスタイルで数曲だけつくったんだよ。プロデューサーとして、曲をつくりはじめて最初の数年間は、いろいろな音楽を聴いて、それがどうやってつくられているのか実際に作業してみて確認することは重要なことだと思う。だから、当時はブレイキーな音楽、テクニカルなものをたくさんつくっていたんだ。そのなかでも、そのトラックはクールなトラックだと思って。本当に古い曲で、たしか2015年くらいに書いたんだと思う。アルバムに入れるためにほんの少しミックスしていくらかの要素を加えたんだ。今回のアルバムはヴァラエティに富んでいる。多くの素晴らしいエレクトロニック・アルバムは、基本的にはひとつの曲の異なるヴァージョンで構成されていると思うんだけど、今回のアルバムは、その対極にあるものにしたかったんだよね。どの曲もそれぞれの人生というか、そういう存在感を持っているようなアルバムをつくりたかったんだ。

「Revanchist(報復主義者、失地回復論者)」というアルバム・タイトルにはどのような思いが込められているのでしょうか? どうやら戦争に関連することばのようですが。

EC:なにか思いが込められていると答えたいところだけど、アルバム・タイトルをそれにしたのは、ただそのことばが「Evian Christ」に見えるからってだけ(笑)。ぼくの名前にしか見えないなと思って(笑)。しかも、なんかカッコいいことばだなと思ったしね。だから深い意味はない(笑)。どうやってこのことばを見つけたかも覚えてないんだ。ネットのどこかで見たような気がする。で、実際に意味を調べてみたら、その意味もアルバムの音楽とマッチするような激しさがあるなと思って。コンセプト的な深みはゼロ。ただ、タイポグラフィ的にかっこいいと思っただけなんだ(笑)。

12月まではツアーですね。そのあとのご予定を教えてください。

EC:オーストラリアとアジアでショウをやる予定だよ。いまはその準備をしているところ。日本はフジロックに一度出演したきりだから、また日本に行くのが本当に楽しみなんだ。中国にもいく予定。4月か5月にもさらにショウがあって、基本的にはツアーがしばらく続く感じだね。ツアーが終わったらまた曲づくりに戻るつもり。8年もかからないうちに作品を完成させて、早めに次のレコードをリリースできたらいいな。

ALCI&snuc - ele-king

 ダブとヒップホップの絶妙な組み合わせ──これはなかなか期待大のアルバムだ。東海のラッパー ALCI と吉祥寺のビートメイカー snuc による共作『縁』が10月28日に配信でリリースされる。ALCI は日系兄弟というラップ・デュオの片割れで、YUKSTA-ILL の『MONKEY OFF MY BACK』に参加していたことも記憶に新しい。クールなダブを聴かせる snuc は、さまざまな音楽を吸収してきたDJでもある。このコンビ、かなりいい感じなのでぜひチェックしてみて。

ALCI&snuc『縁』 INFO

■トラックリスト

1 INTRO
2 我々ノ世界 feat XICAO-RHYDA
3 DOPE JUNGLE feat HEKONDADEKO
4 CLEAN HIT feat Pcill
5 SKIT
6 JAZZ THING =縁=
7 HOOCHIE COOCHIE feat TONY THE WEED
8 SKIT
9 陽だまり
10 NATURAL BBB feat sulak-カナミaka.Ms.Miii
11 OUTRO

NAVIGATOR BLACKJOKER
SCRATCH JETT
DESIGN MARKS EDIT
STUDIO スタジオ民家 MAGICRUMBROOM
LABEL 5bitRecords SMELLTHECOFFEEWORKS
MIXING snuc
MASTERING EASTBLUE

■配信リリース
2023/10/28

■PROFILE

ALCI from NIKKEIKYOUDAI
日系兄弟でのギグは唯一無二、全国各地のAmigo達と作り出す良き酔い夜のこだわりは刺激とEnergyのなせる技、こしばきのフーテンは未だ見ぬ世界を又にかけるHiphopPlayer、老舗CLUB BUDDHAを輪に日々奮闘中 VIVA VIDA LOCA PAZ...

snuc
HIPHOP・REGGAE・LATIN・AFRO等をバックボーンに持ちながら自由奔放なアイディアと手法で聴き手の身体を本能で揺さぶるような野生的GROOVEを持ち、それらを独自のBASS MUSIC~DANCE MUSICへと落とし込むDJ,BEATMAKER。吉祥寺Cheekyを拠点とし全国各地へTropical Vibeをお届け。RHYDA & snuc ,じゃけ& snuc,ALCI & snuc等音源リリース、ソロ音源制作も絶賛進行中。

■コメント

snucにのってALCIの言葉がヨイッと背中を押す 生活の中で自分を少し立たせてくれるUPなアルバム
あなたにも縁がありますように

abeee / bar Cheeky

嘘偽りのない自然体であり,力強く心地の良いジプシーな作品
芯はブレず変化し続ける彼の今後も気になるくらいの一枚でした
chanDOI

陽気な2人が出会い産み出した『縁』生活に根ざした飾らない芯のある言葉とゆったりとしていながらもしっかりハイグレードなサウンドに遊び心が加わってできたこのアルバムは見事なまでにHIP HOPだ 『縁』が縁となりまた各地に仲間が増えていくんだろう リアルな音楽家たちいつもありがとう fujii / howwhat
初めてムタンチスを聴いた時の質感。東海の都会の南国の風 おめでとうございます marrom
いい加減というかイイ塩梅,シンプルだけど緻密,つまりRUFF&TUFFな名盤の誕生! Mal

interview with Slauson Malone 1 - ele-king

 スローソン・マローン1ことジャスパー・マルサリスが、〈Warp〉と契約を交わし、アルバム『EXCELSIOR』をリリースした。プロデューサー、ミュージシャンであると共に、ファイン・アートの世界でも活動するアーティストだ。ニューヨークやロサンゼルスで個展を開催し、最近もチューリヒ美術館のビエンナーレに招聘されている。ロサンゼルスに生まれ、いまも活動拠点としているが、10代でニューヨークに移り住み、美術を学び、クリエイターとしてのキャリアをスタートさせた。
 彼のアート作品は、油彩の抽象画、釘やハンダを組み付けたキャンバス、コンタクト・マイクを使ったサウンド・インスタレーションなど多岐に渡るが、「自分の心に残るものは自分が嫌いなもの」という彼の言葉そのもののように、影や暗部を淡々と照らし出している。そして、彼の音楽も不協和音、不安定なビート、解決しないメロディが絡まり合っている。とはいえ、抽象度の高いアート作品とは違い、アコースティック・ギターやビートに乗った彼の声はよりストレートに感情を伝えている。その声はどこか、マック・ミラーを思い起こさせもする。
 ニューヨークのアート・シーンと結びついたスタンディング・オン・ザ・コーナーやラッパーのメードニー(Medhane)と繋がりのあったスローソン・マローン1の音楽は、ローファイなフォークやインディ・ロックにも近い。しかし、それだけに収まっているわけではない。『EXCELSIOR』には、シンガー・ソングライターのチョコレート・ジーニアスことマーク・アンソニー・トンプソンや、BADBADNOTGOOD のドラマー、アレックス・ソウィンスキーなども参加しているが、基本的には様々な楽器をひとりで演奏している。ベッドルーム・ミュージックの延長にあるプロダクションだと言える。
 ジャスパー・マルサリスとネットで検索をすれば、ウィントン・マルサリスの名前がたくさん現れる。そう、彼の父親は世界的なジャズ・トラペッターだ。ジャズ・アット・リンカーン・センターの芸術監督を長年務め、クラシック音楽の世界でも活躍し、ジャズ及びジャズ・ミュージシャンの地位向上に腐心してきた。そして、マイルス・デイヴィスがエレクトリック楽器を使ったこと、ヒップホップに接近したことを批判した人物でもあり、いまもヒップホップには否定的だ。この父親と対比させて何かを語りたくもなるが、それはあまり意味がないと感じてもいる。ジャスパー・マルサリスのアートも音楽も、既に充分に自立したものであるからだ。

ポピュラー音楽は、みんながそれぞれ作品の意味を解釈したりして積極的に関わるという、まさにそこが面白いところだと思う。

今回、スローソン・マローン1として〈Warp〉からデビューすることになった経緯から教えてください。

SM1:すごく粘ったからだと思う。

粘ったというのはレーベル側がですか?

SM1:じゃなくて僕が。すごくいいパートナーになれると思ったんだ。彼らがマーク・レッキー(Mark Leckey)のレコードをリリースしたっていうのが決め手としてあったから。マーク・レッキーとフロリアン・ヘッカー。マーク・レッキーっていうのはヴィジュアル・アーティストで、僕は大ファンなんだよ。ちなみに僕自身もアートをやっていて。だから〈Warp〉には、音楽やアートを分野横断的なアープローチで作ることに対する理解がある人が誰かいるんだと思って。それで〈Warp〉と契約したいと思ったんだよ。基本的にはそれが理由だね。

〈Warp〉というレーベルにはどのような印象を持ってきましたか?

SM1:もちろん彼らは素晴らしい音楽をたくさんリリースしてきたと思う。でも僕が興味を持ったのはファイン・アートに対する感受性があるっていう、その特定の理由だったね。

ジャスパー・マルサリス、スローソン・マローン1、あなたにはふたつの名義がありますが、名義による作品の区別はあるのでしょうか?

SM1:スローソン・マローン1は何と言うか、パフォーマンス・アートの延長という感じだね。スローソン・マローンはもう死んでいて、スローソン・マローン1はそのコピー・バンドみたいなもの(笑)。自分のなかではそういう感じで説明するとしたらそうなるかな。

本名のジャスパーの方がリアル?

SM1:どっちがリアルとかじゃなくて違うだけ。たとえば結婚式に着ていくような服装のときはプールに行く格好をしているときと振る舞い方が変わるよね。泳ぐときは海パンが必要で。でもそのふたつのうちどっちがリアルとかってことではない。違うだけ。

画家、アーティストとしての活動と、ミュージシャンとしての活動、どちらが先だったのでしょうか? また、それぞれの活動はどのように作用しあっているのでしょうか?

SM1:同時発生だったと思う。どちらかと言うとファイン・アートの方はずっとプロフェッショナルというか、キャリアとして続けていくものとして考えてきたんだよ。でも5、6年くらい前に音楽が趣味からプロフェッショナルなものへと変わったんだ。

つねに安全な場所を探していたというか、自分にとっての理想的な場所を作りたくて。逃げ込むっていうわけではないけど、何だろう、いつでも行ける場所が欲しかったんだ。

あなたが音楽で表現できることと、アートで表現できることの間に、どのような共通項、あるいは違いがあるのか、教えてください。

SM1:僕のアート活動は絵がベースだから、つねにフレームを意識してる。つまり二次元空間があって、それが絵画でもパフォーマンスでもすごく似ているんだ。ステージがあって、そして人びとが立って四角い長方形を見ている。僕が絵を描くとき、何度も繰り返されるアイコンや色、形だったりというテーマがつねにあると思う。たとえば円錐形が何度も繰り返し出てくるとか。そして音楽でも同じく、つねに同じテーマを探求しようとしているんだ。スマイルのテーマ、“Smile #1” “#2” “#3” “#4” “#5” “#6” (編注:ファースト・アルバム『A Quiet Farwell, 2016–2018 (Crater Speak)』やEP、シングルなどの収録曲)とか。それから新作にも “Olde Joy” と “New Joy” があったり。
ふたつのいちばんの違いは経済的な構造かな。音楽はレーベル的にはつねに赤字運営だけど、一般大衆が支えている部分も大きい。このプロジェクトにお金を出したいか、このアルバムを買いたいかを人びとが決める。一方アートは非常に私営化されているというか、ギャラリーやコレクターといった機関がひとりのアーティストをバックアップする。だからそこはかなり違っていて、でも同時にアートは妙に自由度が高くて、一般大衆の関与が少ないからより挑戦的なアイデアを試すことができたりする。でもやっぱり音楽はエキサイティングなんだよ。ポピュラー音楽は、みんながそれぞれ作品の意味を解釈したりして積極的に関わるという、まさにそこが面白いところだと思う。

表現できることの違いはどうですか?

SM1:やっぱり時間がいちばん大きい違いかな。音楽は、その作品を鑑賞するためには時間ごと経験しなければならないから。絵や彫刻にも時間はあるけど意味が違うというか、そこに寄りかかってはいない。鑑賞者はいつ立ち去ってもいいし、時間を忘れることもできる。音楽はモロに時間なんだよね。あと音楽の方が変にパーソナルな感じがする。自分が音楽のなかで語っていることって、アートのときよりもかなり個人的なことじゃないかと思う。

最初に音作りをはじめたきっかけは何だったのでしょうか? また、特に影響を受けたものは身近にありましたか?

SM1:僕の姉がEDMのDJになりたかったんだ。それで、説明が難しいんだけど、何と言うか、僕はいつもそういったコンサートの規模の大きさに衝撃を受けていて。スティーヴ・アオキとかアフィとかのサウンドを聴いているとウオオオーッとなって、たぶんその頃初めて自分の音楽を作ってみたいと思ったんだ。あと僕は、つねに安全な場所を探していたというか、自分にとっての理想的な場所を作りたくて。逃げ込むっていうわけではないけど、何だろう、いつでも行ける場所が欲しかったんだ。

弾き語りやラップから、楽器演奏、トラックメイキングまであらゆることをあなたは手掛けていますが、そうした制作スタイルが生まれた背景を教えてください。

SM1:単純に好奇心だと思う。「これはどうしてこうなんだろう?」とか、「この椅子はどうしてこういう形なんだろう?」とか、そうやって興味を持ち続けた結果として生まれたんだ。

『EXCELSIOR』にはコラボレーターも多数参加していますが、どのように制作されていったのでしょうか? アルバムのヴィジョンを描いて制作に臨んだのでしょうか? それとも徒然に曲を作っていったのでしょうか?

SM1:じつは元々このアルバムを諦めかけていたんだよね。曲数も2曲のみにするつもりで、その2曲はほとんど完成していて、でもそのときマネジメント・チームにすごく支えてもらったんだ。あと仲のいいミュージシャンの友だちがいて、彼女がジョー・ミークの “I Hear A New World” って曲を聴かせてくれて、それが効いたというか、音楽の力というものにすごく興奮したんだ。それでその曲をカヴァーしようと思って、実際アルバムにも収録されているんだけどね。それからニッキー・ウェザレル(Nicky Wetherell)はアルバムでチェロを弾いていて一緒にツアーもしたんだけど、彼の影響もすごく大きかった。ソングライターとしても人としても。彼とストリングスのアレンジをやったり曲のアイデアを探求したりするのは本当に楽しかった。それからアンドリュー・ラピン(Andrew Lappin)の影響も大きかったね。彼のスタジオで作業したんだけど、僕は普段は全部自宅でやるから、スタジオに入って、次はドラム、次はヴォーカルという感じでチェックリストに沿って作業するのが面白かったよ。

それで2曲のみにするつもりがいつの間にか?

SM1:そう。そこから拡張していった。面白いのは、このアルバムの中心的なテーマのひと つが細胞分裂で、原子や細胞が分裂するプロセスだったこと。そして実際ひとつの曲が別の曲に分裂していくような感じになっているんだよ。それがいつの間にか最初のテーマに戻っていたり。結果的にその最初の2曲がアルバムの土台のようになったのが面白いなと。だから結局、もうやりたくないと思っていたのに諦めることに挫折したってことだね(笑)。

様々な楽器、機材を使える状況で、曲作りは実際、どうやってはじまるのでしょうか? 

SM1:そのときによって変わるけど……自分の耳が発達したり、興味の対象が変わったり。この質問を訊かれるのが初めてで、ちょっと考えるから待って……ああ、わかった、まずは他の音楽を聴くことからはじまる。それで好きだと思った音楽の何に自分が興味を持っているのかを考える。メロディなのか、サウンドのテクスチャーなのか。それからメロディやコードを作りはじめるんだけど、その時点ではまだかなり抽象的で、方向性があるわけではなく、僕のパソコンがゴミ箱と化し、ヘドロが沈殿していく。あるいはキノコのように菌を増殖させていく。それをひたすら修正して破壊して。そして最後の3ヶ月くらいですべてが立ち現れてくる感じで、そこがいちばん好きだね。

リリック、言葉はあなたの音楽において大切にされていると感じます。『EXCELSIOR』で追求したことを教えてください。

SM1:主に身体についてだったと思う。皮膚や骨や肉体や血。

フライング・ロータスにインタヴューした際、彼はサックスを少し習っていたが、親類の優れたミュージシャンたちを見て早々に諦めたと話していました。あなたの場合も似たような経験はありますか?

SM1:正直すごく複雑なんだ。というか、どんな家族構成であってもたいていは次世代がより良くなることを望んでいて、でも時代と共に何が良くて何が悪いかは変わる、みたいな話だと思う。

ライヴは大好きだよ。録音された音楽とはかなり違うものだよね。結構パフォーマンス・アートに近いというか。僕がいちばん気に入っているのは、それをポップ・ミュージックの文脈のなかでやれるということ。

お父さん(ウィントン・マルサリス)の音楽は、あなたにとってどのような存在だったのでしょうか? 

SM1:僕にとっては音楽自体がどうっていうことではなくて。コンセプトとか音色とかサウンドよりも深いもので。父をはるかに超え、祖父をはるかに超え、その祖父または祖母をはるかに超えた深い系譜があって……。

では、お父さんが大切にしている伝統的なジャズに対する、あなたの意見もぜひ訊かせてください。

SM1:音楽。全部音楽だよ。素晴らしいと思う。デューク・エリントンは素晴らしい作曲家だと思うしビリー・ストレイホーンも素晴らしい。

ジャズではメソッドが大切にされています。またジャズに限らず、ジャンル音楽には固有のスタイルがあります。あなたの音楽は、そこから自由であろうとしているように感じられますが、メソッドやスタイルにどう向き合ってきましたか?

SM1:よく聴くことだと思う。そのメソッドを理解した上で、ちゃんと聴こうとすること。音楽に限らず誰かの話でも何でも。僕の向き合い方を説明するとしたらそうなるかな。でも誰もがそこから借りる必要があるのかどうかはわからない。よくよく考えてみるとそれって恣意的なものだったりするからさ、特にアートではね。キュービズムであるための要件がキュービズムの絵を興味深いものにするわけではないっていう。たとえば誰でも四角を描いたりそれっぽい感じの絵を描けるけど、そこじゃないわけだよ。画家それぞれが現代における実存と向き合ったり、もっとずっと深い考えがあったんだ。

NYのシーンとも交流があって、スタンディング・オン・ザ・コーナー(Standing On The Corner)やメードニー(Medhane)との活動からも、あなたを知りました。彼らとの関係について教えてください。

SM1:もういまはないね。若い頃の自分にとっては刺激的な時期だったけど、男性の集団にいることに居心地の悪さを感じるようになったから。

LA生まれで、活動基盤もLAですよね? LAの音楽シーンについてはどう思われますか? 特に共感を寄せるアーティストがいれば教えてください。

SM1:じつは正直に言うと、あまり出かけないから、いま何が起きているのかちょっと疎くて。あ、違う、昨日出かけたんだ。ええと……誰を観たのかど忘れした! 脳がコロナのときみたいな……ちょっと待って。あ、わかった、ジェフ・パーカーだ、ギタリストの。彼の影響はかなり大きいからライヴを観れてすごく嬉しかった。それからジョシュ・ジョンソンにも影響を受けてるよ。

ライヴをやることは好きですか? またライヴはどのようなスタイルでおこなっているのか教えてください。

SM1:ライヴは大好きだよ。録音された音楽とはかなり違うものだよね。結構パフォーマンス・アートに近いというか。自分の身体も使って、観客がいて、すごく楽しい。普段は僕がギター、ヴォーカル、コンピューターで、ニッキーがチェロで、アコースティック・ギターとチェロという古典的な楽器ふたつだけだから迫力に欠けるんだ。そしてものすごく退屈なところからはじめて、同じ音を何度も何度も繰り返し弾く。ひたすらCを弾くとか。そして観客がうんざりしてきた頃に徐々にメロディのあるフレーズを弾いていき、それが最初の曲に発展する。あとは、まあこれはレコードと同じ感じだけど、すごく静かになったりラウドになったり、そしてあるときは僕が叫んだり床で転がって観客を押し退けたり(笑)。そこはレコードとはかなり違う。僕のアートと音楽それぞれの活動の中間みたいな感じ。そこでできることがたくさんあると思っているし、すごく興味がある。アイデアを試す場所というか。僕がいちばん気に入っているのは、それをポップ・ミュージックの文脈のなかでやれるということ。多くの人はパフォーマンス・アートの経験がないかもしれないし、あったとしても受け付けないっていう感じだと思うからさ。

10月のジャズ - ele-king

 つねに新しいものが求められがちな音楽シーンにあって、ジャズの場合はそれだけでなく、過去の音源の発掘や歴史に埋もれた作品の再評価といった作業も大きな意味合いを持つ。そして、歴史や伝統のある音楽シーンであるからこそ、昔から現在に至るまで長く活動するミュージシャンも多い。今月はそうしたレジェンドのリリースが見られた。


Hugh Masekela
Siparia To Soweto

Monk Music / Gallo Record Company

 南アフリカ出身で米国に渡り、世界的に活躍したトランペット奏者のヒュー・マセケラ。シンガーでもあり、作曲家としても数々の名曲を残した彼が没したのは2018年だが、その死後もミュージシャンたちへの影響は続いており、たとえば生前の2010年に録音された故トニー・アレンとの共演作『リジョイス』が2020年にリリースされた。これは彼らふたりの録音に、新たにエズラ・コレクティヴココロコなどの演奏を加えて完成されたもので、見事に新旧ミュージシャンの共演となっていた。そして、この度またヒュー・マセケラの未発表音源が発掘された。

 2005年にトリニダード・トバゴのジャズ・フェスに参加して以来、アフリカとカリブの音楽を繋ぐことに腐心していったマセケラは、2012年から2016年にかけてトリニダード・トバゴを訪問し、現地のミュージシャンたちとのセッションをおこなった。参加したのはソカの伝説的なミュージシャンであるマシェル・モンタノ、スティールパンの世界的第一人者であるアキノラ・セノンが率いる楽団のシパリア・デルトーンズ・オーケストラなど。マセケラは2005年のフェスでシパリア・デルトーンズ・オーケストラに出会ってから、その演奏にずっと魅せられ続けてきており、念願の共演となったようだ。

 トリニダーソ南部の街であるシパリアから南アフリカのヨハネスブルグにあるソウェトへと題されたこのアルバムは、マセケラはじめとした参加ミュージシャンの国境を越えたセッションに留まらず、アフリカ大陸とカリブ海の文化的遺産を巡る旅のような音楽である(トリニダードの住民の多くは、かつて旧英領時代にアフリカから奴隷として連れてこられた人びとを祖先とする)。トリニダードで人びとが集うもっともポピュラーな場所はマンゴーの木下だそうで、そこで政治や経済について議論がおこなわれ、歴史や文化が受け継がれてきたとアキノラ・セノンは述べており、そうした背景が “ザ・ミーティング・プレイス” “マンゴ・ツリー” といった曲へと繋がった。自分たちのルーツは本質的にアフリカ人であるというセノンは、トリニダード・トバゴの文化的遺産とアフリカ系カリブ人のディアスポラの復興のため、その象徴的な楽器としてスティールパンを用いているそうだ。そして、その音色はとてもピースフルで、“ボンゴ・デイ” や “ロール・イット・ガル” などさまざまなタイプの音楽とも調和することが可能だ。アフリカからカリブへと跨る文化遺産の多様性、そしてその根底にある平和的な思想を音楽にしたアルバムと言えよう。


Idris Ackamoor & The Pyramids
Afro Futuristic Dreams

Strut

 1970年代より活動するアイドリス・アカムーアと彼の率いるザ・ピラミッズは、2010年代に入るとスピリチュアル・ジャズ再評価の影響を追い風に、『ウィ・ビー・オール・アフリカンズ』(2016年)、『アン・エンジェル・フェル』(2018年)、『シャーマン!』(2020年)とコンスタントにアルバムを発表している。『アン・エンジェル・フェル』『シャーマン!』はヒーリオセントリックスのマルコム・カットが共同プロデューサーとなり、そのミキシングやレコーディング作業を通じてアイドリス・アカムーアの音楽観や世界観を現在のシーンにも繋がるものへと仕上げていたわけだが、この度リリースされた新作『アフロ・フューチャリスティック・ドリームズ』もやはり彼が共同プロデュースをおこなう。結成から50周年を迎えたザ・ピラミッズは、オリジナル・メンバーのマルゴー・シモンズや1970年代の作品にも参加したブラディ・スペラーのような年長のミュージシャンがいる一方、サウス・ロンドンのアフロ・バンドであるワージュやジョーダン・ラカイのバンドに参加するアーネスト・マリシャレスと若いミュージシャンも参加するなど、新旧ミュージシャンが融合した形で、サン・ラー・アーケストラのように過去・現在・未来を繋ぐ存在と言えよう。“サンキュー・ゴッド” あたりはとてもサン・ラー的な楽曲だ。

 『アフロ・フューチャリスティック・ドリームズ』というタイトルが示すように、シャバカ・ハッチングスら南ロンドンのミュージシャンらの活躍で再び注目を集めるようになったアフロ・フューチャリズムを反映したアルバムであり、『アン・エンジェル・フェル』以降に顕著なブラック・ライヴズ・マターからの影響が本作においても “ポリス・デム” “トゥルース・トゥ・パワー” などの楽曲に表れている。また、表題曲などシンセサイザーやエフェクターによって人工的なサウンドとプリミティヴなアフリカ音楽を意図的に融合する場面があり、そこがアカムーアなりのアフロ・フューチャリズムの表現と言えるだろう。


Kofi Flexxx
Flowers In The Dark

Native Rebel Music

 コフィ・フレックスとは覆面的なアーティストだが、実際はシャバカ・ハッチングスの新たなプロジェクトである。これまで2022年にカルロス・ニーニョとコラボした “イン・ザ・モーメント・パート3” というフリーフォームなアンビエント音源をデジタル・リリースしたのみで、今回の『フラワー・イン・ザ・ダーク』が実質的な初リリース・初アルバムとなる。シャバカ以外の参加ミュージシャンは明らかではないが、楽曲ごとにラッパーやシンガーがフィーチャーされていて、ビリー・ウッズ、アンソニー・ジョセフ、コンフューシャスMC、エルシッド、ガナブヤ、シヤボンガ・ムセンブなどが参加する。トリニダード・トバゴ出身の詩人であるアンソニー・ジョセフのポエトリー・リーディングをフィーチャーした “バイ・ナウ(アキューズド・オブ・マジック)” は、同じカリブをルーツに持つシャバカ・ハッチングスにとって、彼らのルーツや歴史・文化を表明したアフロ・ジャズ。ヒュー・マセケラやアイドリス・アカムーアら先人の音楽とも繋がる作品である。

 “イット・ワズ・オール・ア・ドリーム” や “フラワーズ・イン・ザ・ダーク” など、比較的リズムを中心とした作品が多く、リズム・セクションもパーカッション中心にミニマルでトライバルな展開をしていく。シャバカのサックスやクラリネット、フルートも土着的な音色を奏で、“インクリーズ・アウェアネス” や “ショウ・ミー” のように薄くアンビエントな演奏が目につく。特に “インクリーズ・アウェアネス” ではインド音楽のようなコーラスが幻想的に流れ、サンズ・オブ・ケメットザ・コメット・イズ・カミングなどともまた異なる、シャバカのまた新たな側面を見せるプロジェクトだ。


Daniel Villarreal
Lados B

International Anthem Recording Co. / rings

 ダニエル・ヴィジャレアルは南米パナマ出身で、シカゴに移住して活動するドラマー/パーカッション奏者。ラテン・バンドのドス・サントスのメンバーでDJとしても活動する彼は、ジェフ・パーカーなどとも交流が深く、その力を借りてファースト・アルバムの『パナマ77』を2022年にリリース。アメリカの黒人ドラマーなどとはまた異なる、ラテン民族ならではの独特のリズム・センスを感じさせるアルバムだった。

 この度リリースした新作『ラドスB』は、鍵盤楽器や管楽器なども入っていた『パナマ77』と異なり、ダニエル・ヴィジャレアルのドラム&パーカッション、ジェフ・パーカーのギター、アンナ・バタースのベースというミニマムなトリオ録音(“サリュート” という曲のみローズ・ピアノが入る)。録音自体は2020年10月のロサンゼルスにて2日間でおこなわれており、3人の即興的なセッションを比較的ラフな形でレコーディングしている。ラテン音楽特有のハンド・ベルではじまる “トラヴェリング・ウィズ” は、ファンキーなフレーズを奏でるギターやベースを交え、1970年代のエル・チカーノやマロといったラテン・ロックを彷彿とさせる作品。このあたりはDJもやるヴィジャレアルのレア・グルーヴ的なセンスが表れているようだ。速いビートを刻む “リパブリック” は、ラテン民族ならではのヴィジャレアルのドラミングが光る楽曲。一方、レイドバックしたグルーヴの “サリュート” にはフォーキーで枯れた雰囲気もあり、ラテン音楽とアメリカのブルースがうまくマッチした楽曲となっている。

これ一冊で予習は万全!
MCU新作『マーベルズ』に備えるマーベル映画とマーベル・コミックの世界!

いまや世界最大の映画フランチャイズとなって久しいMCU(マーベル・シネマティック・ユニヴァース)。その最新作はマーベル史上最強のヒーロー、キャプテン・マーベルと新世代の仲間たちによる「マーベルズ」が登場! この公開に先駆け、ele-king cine seriesではMCUの15年を改めて振り返ります。

2008年の『アイアンマン』から25年。フェーズ1から現在のフェーズ5まで、30作以上にのぼる映画が制作され、近年ではドラマでの展開も開始。

いよいよ全貌を把握するのも難しくなってきた今こそあらためてMCUの25年を総まとめ、新作に備えてこれ一冊で予習も万全!

目次
イントロダクション
原作に見る『マーベルズ』登場人物たち 中沢俊介
対談 MCUを振り返る――奇跡の15年 光岡三ツ子 森直人

Filmography
■Phase1 前代未聞のプロジェクト胎動期 長谷川町蔵
■Phase2 騒ぎの前の静けさ 真魚八重子
■Phase3 時代と並走した爆発力 森直人
■Phase4
ワンダビジョン 光岡三ツ子
キャプテンの盾の行方――『ファルコン&ウィンター・ソルジャー』 侍功夫
マルチバースでも魅せる愛されヴィラン――『ロキ』 真魚八重子
破竹の勢いの追憶――『ブラック・ウィドウ』 中沢俊介
ファン心をくすぐる「もしも」のショートストーリー――『ホワット・イフ…?』 侍功夫
香港映画へのオマージュに溢れたアクション見本市――『シャン・チー/テン・リングスの伝説』 高橋ターヤン
来たるべき「映画的世界(シネマティック・ユニバース)」――『エターナルズ』 佐々木敦
新旧ホークアイの逃走劇――『ホークアイ』 侍功夫
大人になったピーター・パーカー――『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』 長谷川町蔵
多重人格ヒーローの異色作――『ムーンナイト』 侍功夫
モックアップ・マッシュアップ・オール・アット・ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ――『ドクター・ストレンジ/マルチバース・オブ・マッドネス』 ヒロシニコフ
『ミズ・マーベル』 光岡三ツ子
父権の外で立ち上がるコメディ――『ソー:ラブ&サンダー』 木津毅
愛らしい小品――『アイ・アム・グルート』 侍功夫
メタなコメディ――『シー・ハルク:ザ・アトーニー』 侍功夫
よみがえる古典ホラーの世界――『ウェアウルフ・バイ・ナイト』 侍功夫
アフリカと中南米の激突『ブラックパンサー/ワカンダ・フォーエバー』 長谷川町蔵
心温まるクリスマス・ストーリー――『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー ホリデー・スペシャル』 侍功夫
■Phase5
バカが量子にやって来る――『アントマン&ワスプ:クアントマニア』 ヒロシニコフ
爽快な大団円――『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』 てらさわホーク
ニック・フューリーとその苦境――『シークレット・インベイジョン』 てらさわホーク

対談
マーベル映画と「正義」――マルチバース・サーガが表す「弱さ」と「継承」 杉田俊介 藤田直哉
Column
MCU以前のアメコミ映画 中沢俊介
MCU映画のサントラ 長谷川町蔵
世界ヒーロー紀行 ヒロシニコフ
対談
マーベルとDC――混迷するアメコミ映画の現在地 柳下毅一郎 てらさわホーク

オンラインにてお買い求めいただける店舗一覧
amazon
TSUTAYAオンライン
Rakuten ブックス
◇7net(セブンネットショッピング) *
ヨドバシ・ドット・コム
◇Yahoo!ショッピング *
HMV
TOWER RECORDS
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honto
◇e-hon *
◇Honya Club *

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◇紀伊國屋書店 *
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丸善/ジュンク堂書店/文教堂/戸田書店/啓林堂書店/ブックスモア
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◇有隣堂 *
◇くまざわ書店 *
◇TSUTAYA *
◇大垣書店 *
◇未来屋書店/アシーネ *

* 発売日以降にリンク先を追加予定。

Róisín Murphy - ele-king

 数ヶ月前、ライヴ会場でたまたまGEZANのマヒトゥ・ザ・ピーポーと会って、久しぶりに話すことができた。ぼくは彼の服装/ファッション・センスが好きで、いつも興味深く思っている。まずはそのことを彼に伝えたと思うけれど、これにはそれなりにちゃんとした理屈がある。
 この社会において「格好いい」とされるもの、「美しい」とされるものには、ふたつある。権力(ないしは企業)の側が提供するそれか、そうしたエスタブリッシュメントの外側で生まれたそれかのふたつだ。ビートルズも、ヒッピーも、グラムも、パンクも、あるいはジャズもラテンもファンクも、それらの音楽に付随したファッションは外側で生まれている。そしてそれら外側で生まれたセンスを「格好いい」「美しい」と認めたのは、権力(ないしは企業)の側ではなく、同じようにエスタブリッシュメントの外側にいる人たち(すなわち庶民)である。ヒップホップも最初はそうだったが、いまやスターたちはエスタブリッシュメントの側が提供するものを好んでいるように見えるときがある。インディと呼ばれる文化のライヴに行っても、同じような傾向を感じる。それに対して、マヒトゥは外側の価値のなかで動き、かなり目立っている。スーザン・ソンタグが『反解釈』で説いている批評的なスタイル論がそこには生きているのだ。ロイシン・マーフィーの目立つためのハイファッション志向も、目指すべきはおそらく外側なのだろう。その証拠になるのかどうかわからないが、いわゆる“インディ・ダンス”ないしは“クラブ・ポップ”などと括られるスタイルのなかで、彼女の新作のクオリティは抜きんでている。

 だいたいマーフィーは、日本ではずっと長いあいだあまりよく知られていない存在だった。彼女が最初にモロコで登場した1990年代のなかばといえば、“インディ・ダンス”ないしは“クラブ・ポップ”なる道を切り拓いたビョークがその完成形『ポスト』を出した頃で、すでにマッシヴ・アタックの『プロテクション』もあったし、アンダーグラウンドではセイバース・オブ・パラダイスにナトメアズ・オン・ワックス、オーストリアからはクルーダー&ドーフマイスターも登場し……等々、日本で輸入盤を漁っているリスナーからしたらモロコに付き合っているどころの状況ではなかったのだ。
 日本でマーフィーが最初に注目されたのは、マシュー・ハーバートが全面協力した彼女のソロ・アルバム『Ruby Blue』(2005)だった。これは、ハーバートがもっとも人気のあった時期における、彼のヒット作のひとつ、スウィング・ジャズをIDMに融和させた『Goodbye Swingtime』(2003)から2年後の作品で、しかも彼のジャズ・バンドのメンバーがごっそりマーフィーにとって初めてのソロ・アルバムをバックアップしたことが、日本での彼女への注目を促したのだった。じっさい、『Ruby Blue』はいま聴いても古びない名盤であるのだが、では、マーフィーなる人物がどんな女性なのかというところまではよくわかっていなかった。ただ、先日の河村祐介のインタヴュー記事を読んでも明らかなように、彼女がダンス・ミュージックの目利きであることたしかで、今回のアルバムのパートナーがDJコッツェなのも間違っていない選択だ。
 『Ruby Blue』と同じ年にリリースされたDJコッツェのアルバム『Kosi Comes Around』は忘れがたい1枚で、テクノ・ファンであるならその年の年間ベスト級の作品だった。エレクトロニカ/IDMとフロア向けのテクノとに枝分かれしたテクノ・リスナーの耳をもういちど共有させたという点において、同作は重要作だったのだが(つまり、楽しく踊れて、実験的でもあった)、彼の卓越したセンスは、今回のマーフィーの『Hit Parade』でも惜しみなく注がれている。

 何度でも言うが、“インディ・ダンス”ないしは“クラブ・ポップ”なるものはイギリスのお家芸である。古くはニュー・オーダー。ひとつの型を作ったのは初期のビョーク。その轍に、ホット・チップとか、最近ではジェシー・ランザケレラ、そしてロミーもいる。明るいとは言いがたいイギリス人気質のなかからダンス・ミュージックをベースとしたポップ・ミュージックがどうしてこうもう伝統的に生産されるのか、興味深くもある。というのも、UKのダンス・カルチャー自体が外側で生まれている文化であるからだ(ノーザン・ソウルしかり、レイヴ・カルチャーしかり)。

 マーフィーは本作のリリース直前に自身のフェイスブックで、Puberty blockersはクソで、製薬会社は笑いが止まらないだろう、まだ精神的に不安定な子どもたちは保護すべき、と書いた。Puberty blockersは、思春期における性ホルモンの分泌を抑えて、二次性徴の進行を抑える薬で、トランスを自覚している人の多くの若者が悩んだすえに自分の生物学的な性を抑えるために服用しているそうだ。私のことをトランス排外主義者と呼ばないで、とも書いてはいるものの、彼女のこの投稿は、瞬く間にLGBTQ+界隈に広まって、スキャンダルとなり、大いに批判されている。日本でいえば、yahooニュースのトップという感じだろうか(のちにマーフィーは謝罪をしている)。しかし、こうした失態があったにも関わらず、彼女のこのアルバムはキャンセルされることもなく、英語圏内のほとんどのメディアで、発言はまずかったがこの作品は良いと、好意的に取り上げられている。今年で50歳になったマーフィーは、愛されているのだ。

 テクノ・ファンであるなら、DJコッツェが全面プロデュースしていることから、だいたいどんなサウンドか想像できるだろう。コッツェの特徴は遊び心ある実験性とユーモアで、『Hit Parade』のアートワークもその趣向と相互関係にある。で、たしかにこれは面白い、河村が書いているように多彩なスタイルが楽しめる“インディ・ダンス”ないしは“クラブ・ポップ”なるアルバムなのだ。そう、とくに“CooCool(最高に格好いい)”はサウンドも歌詞も素晴らしい曲である。

  魔法が帰ってきた
  温かい感じが溢れ出す
  愛の新時代、白熱の喜び
  理由も充分、理性を無視してやっちゃえ
  愚かな季節になって
  それは最高に格好いい
  
  私たちは暴動をやった
  自分のなかの子供を抱きしめて
  ワイルドでいこう
  それは最高に格好いい

  どんなパロディも人生の原動力だった
  ライフワークの背後でファンク化する
  自分のなかの子供を受け入れよう
  ワイルドになれ

  遊び心さえあれば
  私は、言いなり以上のことをやる
  それは最高に格好いい
“CooCool”

理想郷 - ele-king

 年の初めにちょっと入院していて本でも読むかと村田沙耶香を手に取った。イギリスではけっこう人気があるらしく、日本の小説はもう何年も読んでなかったと思って。『地球星人』というタイトルは野田彩子のマンガみたいと思いつつ読み始めると、限界集落にペドフィリアなど、それはいま受けて当たり前でしょうという題材が次々に出てくる。最後まで読んだけど、あまりのマーケティング臭さに力が抜けてイギリス人もあてにならないと思ってベッドに顔を押しつけた(わき腹にドレーンが入っているのでこのポーズしかできない)。若い者についていけない時はノスタルジジイになろうと、次は大江健三郎を探したものの、『同時代ゲーム』が見つからず、40年前に一度読んだきりだった村上春樹『羊をめぐる冒険』に手が伸びた。思惑通り80年代に感じていたことをいろいろと思い出しながら読んでいると、あれ、これは『地獄の黙示録」じゃないか、少なくとも北海道の奥地へ、奥地へと分け入っていく過程は『地獄の黙示録」をイメージしていることに気がついた。目的地に辿り着くとご丁寧にも机の上に『地獄の黙示録」の原作と言われたコンラッド『闇の奥』が置いてある。西欧の植民地主義を北海道の開拓事業と重ね合わせ、カーツ大佐と児玉誉士夫を二重写しにしたということか。『羊をめぐる冒険』が刊行された頃、児玉誉士夫はCIAの工作員だったことを認め、ロッキード事件の判決が出た次の年に亡くなっている。『羊をめぐる冒険』でも右翼の大物とされている児玉誉士夫は戦争中に中国から金塊を強奪してきてそれを自民党の結党資金にあてたことは有名な話で(ロッキード事件が原因で児玉誉士夫が抜けた勝共連合は資金不足に陥り、その母体である統一教会が霊感商法を始めざるを得なくなった経緯はこのところ詳しく掘り返されている通り)、その児玉誉士夫に取り付いていた「羊」を探し出して自分もろとも殺すことで当時の左翼にできなかったことを成し遂げた気にさせる小説なのだから、ファンタジーとはいえけっこう生々しく時代背景を感じさせる作品なんだなと。40年前とあまりに読後感が違うので疲れて再びベッドに顔を押しつけた(わき腹にドレーンが入っているのでこのポーズしかできない)。

 第37回ゴヤ賞を受賞したというだけでロドリゴ・ソロゴイェン監督『理想郷』を観に行き、そして、またしても『地獄の黙示録』に出食わすこととなった。ドゥニ・メノーシュ演じる主人公のアントワーヌが中盤で、いつもは妻と水浴びに来る川から顔の上半分を水面から出して無表情になる場面。自分はなぜこんなところまで来てしまったのかと、アントワーヌはウィラード大尉と同じ目つきをする。コンラッドが批判的に扱った植民地主義は欧米の人間がアジアやアフリカの奥深くまで入り込んでいることに焦点を当てている。『理想郷』でターゲットにされているのはアジアやアフリカではなく、同じスペインの過疎地である。いわばヨーロッパの内部にかつてのアジアやアフリカと同じ未開拓のフロンティアがあり、ある種の人たちにとっては奥深くに入り込む価値があるということ。このことが『理想郷』という作品には背景として横たわっている。ある種の人たちとは植民地主義を突き動かしていたものと同じ。つまり、資本主義である。『理想郷』がアクチュアルな作品だと思えたのは、その資本主義が一枚岩ではなかったことを明確にしたことだった。この話は実際にオランダからスペインに移ってきた夫婦に起きた悲劇が何年にもわたってスペインのマス・メディアで報道される事態となり、その事件をもとにしたフィクションだという。

 オープニングは暴れ馬を押さえつけようとする3人の男たち。これがスローモーションで延々と映し出される。不思議な導入だけれど、このシーンが何を表しているかは後半に入ってからかなり重要な意味を持ってくる。続いてパブでゲームに興じる男たち。リーダー格のように振舞っているシャン(ルイス・サエラ)が「ガリシア州では……」と話し始める。ガリシアは独裁政権で知られるフランコ(やカストロの親)の出身地で、世界で最も家父長制が強い地域だとする説もある。過疎地というのは大体、家父長制が強い地域である。日本でも東京が最も出生率が低いとされているけれど、それは地方から未婚の女性が集まってくるのだから当然で、少子化が本当に深刻なのはそうした若い女性に出て行かれた地方であり(女性のUターンはほぼないという)、『理想郷』の舞台となった村でも若い女性はまったくといっていいほど出てこなかった。作品の後半でクローズ・アップされるシャンたちの母親は明らかに家父長制を支える女として描かれ、ガリシアを舞台としながら、この作品は世界中に根強く残る家父長制に対して資本主義が2つの異なるアプローチを試している場面として見ることができる。それは家父長制の延命か方向転換を迫るもので、日本にも応用が効くケース・スタディでもあった。ゲームに参加していなかったアントワーヌがパブから出て行こうとすると、「おい、フランス野郎!」と呼び止められる。アントワーヌは妻のオルガ(マリナ・フォイス)と共にフランスから移住してきた「よそ者」で、2人は日々、科学的農業を営み、収穫した野菜を市場で売って生計を立てている。アントワーヌがパブから家に戻ると家の内部はとても洗練されていて、2人がインテリだということはすぐに見て取れる。アントワーヌとオルガはその土地にはなかった新しい農業を持ち込んできた改革者であり、さらには古民家を改造して観光事業でも村に貢献しようと考えている。彼らがこの村に移ってきたのは「美しい」場所だからであり、それを守るために、風力発電の建設には反対の立場をとっている。電力会社はちなみにノルウェーの会社でグローバル企業という設定。

 シャンの弟、ロレンソ(ディエゴ・アニード)がまずは露骨にアントワーヌに絡んでくる。シャンとロレンソは村に風力発電を誘致し、保証金をせしめるつもりだったのに、アントワーヌとオルガに反対されたことで恨みを持っていた。シャンとロレンスは嫌がらせをやめず、日々エスカレートしていく。そして、ついに警察沙汰になるも地元の警察はそれほど頼りにならないことがわかるとアントワーヌは小型カメラを持ち歩くようになる。シャンとロレンソはすぐにも盗み撮りに気がつき、対立感情は以前よりも激しさを増す。日本でも奨励されているわりに地方への移住が必ずしもスムーズではなく、地元住民が移住者を受け入れないという話はユーチューブの人気番組になるほどで、物語の前半はそのような地方の閉鎖性がこれでもかと印象づけられる。シャンとロレンスがアントワーヌとオルガに対して行う嫌がらせは人種差別的であるだけでなく、アントワーヌとオルガがいわゆるリベラルな価値観を軸とした男女関係にあり、観光事業で村を再生させようとする経済的な感覚の点でもズレは広がっていく。アントワーヌとオルガがやろうとしていることはやがて村の秩序を破壊し、序列を組み替えてしまうという危機意識とも結びついているのだろう、(以下、ネタバレ)アントワーヌが犬を連れて森の中を散歩しているとロレンスとシャンはゆっくりととアントワーヌに近づき、冒頭で暴れ馬を押さえつけていたようにアントワーヌを組み伏せる。そして、アントワーヌを殺してしまう。

 1年後。1人残されたオルガの元にフランスから娘のマリー(マリー・コロン)がやってくる。娘は母を説得して一緒にフランスで暮らそうと提案し、2人は口論になる。マリーはシングル・マザーで、オルガは彼女の人生に口を出したことはない、自由にさせてきた、その結果がシングル・マザーだったと諭し、自分が村に残ることはアントワーヌへの愛情の証だと正当化する。その時はマリーの方が正常に思えるので、どうしてオルガがそんなにも頑ななのかと戸惑っていると、次の場面でアントワーヌの死体は発見されていないことがわかり、森の中を捜索し続けるオルガの執着や土地を離れることに違和感があることは多少なりとも理解できる流れになっていた。とはいえ、オルガの生き方はアントワーヌの夢を自分の夢として受け継いでいるだけで、必ずしもオルガ自身の人生を生きているとはいえないというマリーの批判はとても強く耳に残る。マリーが現れたことで、シャンとロレンソの母親、オルガ、マリーと3世代にわたる女性の価値観が並んだことになり、マリーからすれば男に支配された人生という意味ではシャンとロレンソの母親もオルガも同じだという視点が有効になってくる。男たちに好き勝手をさせるか、男と協力し合うか。科学的農業の実践や古民家の改修作業にオルガがどれぐらい主体性を持っていたのか。これは観る人それぞれによって印象は異なることだろう。マリーの批判が強く印象に残った僕はオルガの主体性に疑問が残った口だけれど、ストーリー的にはマリーが男に頼らない女だと強く自覚するのではなく、「自分はシングル・マザーでしかない」ことをマイナスと考え、オルガの方が正しかったという結論に落ち着く。そうなんだろうか。家父長制に組み敷かれた女でもなく、シングル・マザーでもなく、男と夢を共有し、村の再開発に意欲を燃やしてきたオルガが唯一の選択肢なのだろうか。このシークエンスはいまだもやもやしている。マリーがオルガに愛想をつかして村から出て行ったとしてもその後のストーリーに大きな変化があるわけでもない。マリーの存在を男に頼らない生き方として温存してもよかったと思うのは僕だけか。自分の信念をマリーに理解してもらえたオルガはやがて森の中でアントワーヌが残した小型カメラを発見する。そこにはシャンとロレンソがアントワーヌを殺した決定的瞬間が写っていると確信したオルガはシャンとロレンソの母親に「お前はひとりぼっちになる」と告げにいく。オルガにはシャンとロレンソではなく、その母親しか見えていない。女の生き方としてオルガはシャンとロレンソの母親が許せないのである。エンディングはシャンとロレンソの母親を見つけたオルガの不敵な笑い。多国籍企業と結びついて家父長制を温存させようとした男たちの母親にリベラルの視点で村を再編し、都会的な価値観によって経済的な再生を目論んだ女が勝利したという笑みである。この笑みに「美しさ」はなかった。ウィラード大尉がカーツ大佐を暗殺した時もこんな笑みは浮かべなかった。

 原題は「野獣」を意味する「AS BESTAS」で、これを『理想郷』という邦題にしたのはなかなかの慧眼だと思う。長野県の村を舞台に似たような図式で話を進めた瀬々敬久監督『天国』と発想は同じである。『理想郷』と『天国』の違いは殺人の実行者がヨーロッパは個人、日本は集団だということぐらい。同じ殺されるにしても助けようとしてくれる人がいるだけ『天国』よりも『理想郷』の方がましだったのかもしれない。

METAMORPHOSE ’23 - ele-king

 伝説のオールナイト野外パーティ。レイヴ・カルチャーの流れをくむ音楽フェス。ギャラクシー2ギャラクシーを筆頭に、これまで数々の名演が残されてきたという、個人的には一度も参加することのかなわなかったメタモルフォーゼが、11年ぶりの復活を果たした。
 静岡県御殿場市の遊RUNパーク玉穂に到着したのは20時半過ぎころ。すでに終了した SOLAR STAGE の入口で受付をすませ、来た道を引き返す。けして都市部では味わえない、自然の闇。

夜の部 LUNAR STAGE の入り口。

 しばらく歩くと、ポール棒がピラミッド型に組まれミラーボールがぶらさがっている。この小粋なゲートをくぐると右手に平地が広がり、先に大きな建造物が見える。雰囲気から推すに、たぶんもとは厩舎だろう。ここが夜の部、LUNAR STAGE の会場だ。なかをのぞくとダブリン出身ベルリン拠点のDJ/プロデューサー、マノ・レ・タフがプレイしている。バキッとしたテクノやダブっぽい曲がつぎつぎと繰りだされている。

外から見た LUNAR STAGE。漏れてくる照明に気持ちが高まる。

 ある程度堪能したのち、ビールをもとめて屋外へ。バーは高台に位置している。厩舎もとい LUNAR STAGE は片側の壁がとり払われているため、上から見下ろすかたちでなかの様子を楽しむことができる。この眺めがまたかなりいい感じなのだ。

バーへといたる坂道。中央奥がステージの建物。右端のラーメン屋に長い列ができている。

 22時前ころになると、ぽつぽつと雨が降りはじめる。ちょうどティミー・レジスフォードの出番ということもあり、坂をくだって屋内に避難。80年代から活動をつづけ、長らくNYのハウス・シーンを牽引してきたシェルターの設立者、今年3度目の来日となるレジスフォードによるアップリフティングなセットは、ざあざあ降りに突入した雨とは裏腹に、この日のピークのはじまりを告げていた。最前列には肩車をして盛り上がるオーディエンスの姿。

 つづいてステージに立ったのはカール・クレイグ。前日は札幌のプレシャス・ホールに出演していたらしい。キャップにタオル、黒いTシャツに赤いストールをまとっている。ダークな雰囲気でDJがスタート。曲をかけつつ、その場でドラム・マシンを叩いて重ねていくスタイルだ。序盤、ムーディマンの “I Can't Kick This Feelin When It Hits” が耳に飛びこんできて、一気にテンションが上がる(なんらかのリミックス・ヴァージョンか、あるいはほかの曲とかけあわせられている)。ソウルフルな曲やダビーなテック・ハウスなどを経て、中盤にはアン・サンダーソンのヴォーカルをフィーチャーしたオクタヴ・ワンのヒット曲 “Black Water” を投下。いちばん昂奮したのは終盤手前、クレイグ自身のヒット曲、ペイパークリップ・ピープル “Throw” が鳴り響いたときだ。あの強烈なドラム・パートにセクシーな男性ヴォーカルがかぶせられている。個人的には、この1時間半が LUNAR STAGE のハイライトだった。

最高にかっこよかったカール・クレイグ。

 むろん、出演者はみな歴史をつくってきた大ヴェテランたち。以降もすばらしい夜が継続していく。1時からはNYのジョー・クラウゼル。頻繁にミュートを駆使するプレイが印象に残る。2時半になるとダレン・エマーソンが登場、会場はぱきっとした音に包まれる。卓の後ろで応援するカール・クレイグ。最後はまさかの “Born Slippy” を投下。あのエコーを爆音で体験できたのは僥倖だった。そのままシームレスに主催者 MAYURI のDJへと移行、ハード寄りのテクノが厩舎を埋めつくす。気がつけば終演の5時。降りしきる雨のなか、大満足の一夜が終わりを迎えた。

 さすがに踊り疲れていたのだろう。前日もクラブに行っていたのが影響したのかもしれない。あくまで仮眠のつもりがぶっ倒れてしまい、気がついたときには午後になっていた。雨はやんでいる。慌てて再度遊RUNパーク玉穂を目指す。ぼくが到着したタイミングでは曇っていたので富士山は見られなかったけれど、芝生と林のバランスが絶妙な広場で、なんとも開放感のある空間だ。後方にはフットボールを楽しんでいる親子の姿。びしょびしょの地面が昨夜の昂奮を思い出させる。

昼の部 SOLAR STAGE で舞台の反対側を眺める。まったり楽しむ家族たちの姿。

 2日目の SOLAR STAGE では新進ロック・バンド、羊文学が演奏していた。宙へと抜けていくギターの残響が心地いい。つづいて登場したのはハイエイタス・カイヨーテのネイ・パーム。ブルージィな弾き語りで、ジミ・ヘンドリックスやプリンスのカヴァーも披露。ふだんそれほど入念にチェックしているとはいえないアーティストと出会えるのはフェスの醍醐味だ。それに、羊文学のような若手かつエレクトロニック・ミュージックの領域外で活動するアクトをブッキングすることは、世代の超越や趣味の横断の点で大いに意義のあることだと思う。

いま人気絶頂の若手バンド、羊文学。エフェクターの効果が開けた空間とみごとにマッチ。

 トリはジェラルド・ミッチェル率いるロス・ヘルマノス。ラテン・ミュージックを咀嚼し、独自のロマンティシズムを打ち立てたデトロイトのテクノ・バンドだ。ファースト・アルバム同様 “Welcome To Los Hermanos”、“The Very Existence”、“In Deeper Presence” の3曲ではじまる流れに、涙をこらえることが難しくなる。中盤の “Queztal” でサレンダーすることを決意。彼らの音楽はもちろんのこと、野外という状況がまたハマりすぎていてとにかく最高だった。最後は “Jaguar” で〆。かくして11年ぶりに開催されたメタモルフォーゼは、盛大な拍手喝采とともに幕を下ろした。

感涙のロス・ヘルマノス。

 後ろ髪を引かれながら、御殿場市をあとにする。晴れていればより一層すばらしい体験ができたのだろうけれど、天に文句をいってもしかたがない。キュレーションも会場もばっちりツボを押さえている。来年以降もまた開催されることをせつに願う。

べらぼうにうまかった焼き鳥屋。また食べたい。

Amnesia Scanner & Lorenzo Senni - ele-king

 2018年に出た『Another Life』は強烈だった。以降も実験的かつコンセプチュアルな電子音楽を送り出しつづけている〈PAN〉のデュオ、ヴィレ・ハイマラとマルッティ・カリアラから成るアムニージャ・スキャナーが初めての来日を果たす。今年出た最新作ではいま話題のNYのアーティスト、フリーカ・テット(OPN最新作収録曲の、あの印象的なMVも手がけていましたね)とコラボしていた彼らだが、今回の東京公演はハイマラとそのテットのコンビで敢行。
 また同時にミラノからネオ・トランスの先駆者、みずからを「レイヴ・シーンの覗き屋」だと称するロレンツォ・センニも来訪、東京と大阪の2か所をめぐる。東京では上記アムニージャ・スキャナーと、大阪ではSoft Couとの共演だ。エレクトロニック・ミュージックの前線に触れるまたとない機会。お見逃しなく。

WWW & WWW X Anniversaries

Local 25 World -FIESTA! 2023-
Amnesia Scanner & Lorenzo Senni

2023/11/17 FRI 18:00 at WWW X
早割 / Early Bird ¥3,900 (+1D) *LTD / 枚数限定
TICKET https://t.livepocket.jp/e/20231117wwwx

LIVE:
Amnesia Scanner [DE/FI / PAN]
Lorenzo Senni [IT / WARP]

+++

4F Exhibition: TBA

curated by ippaida storage / Soya Ito
artwork / painting: Nizika 虹賀
layout: pootee

https://www-shibuya.jp/schedule/017250.php

現代ポップ&レイヴ・アートの伝説2組、ベルリンからAmnesia Scannerを待望の初来日、イタリアからLorenzo Senniを8年ぶりに迎えた世界を巡るサウンド・アドベンチャーLocal Worldが本編25回目となるWWWの周年パーティを開催。

2016年12月渋谷WWWを拠点に始動、本年7年目を迎えるイベント・シリーズ兼ディレクターLocal World本編第25回がベルリンからAmnesia Scannerを待望の初来日、イタリアからLorenzo Senniを8年ぶりに迎えWWWの周年イベントとして開催。

10年代前期の元流通/レーベル業のmelting botからイベント業への変換機に生まれたLocal Worldはクラブとアートにおけるコンテンポラリーな電子音楽のモードを軸に立ち上げ当初の脱構築期(Deconstructed)から始まり、アジアやアフリカを念頭に多種多様なサウンドとリズムのキュレーションしながら世界各国のアーティストを招聘、並行してディレクションを務めるWWWの最深部”WWWβ”を基盤に新しいローカル・シーンを形成する担い手としてコロナ禍では下北沢SPREADを拠点にハイパーポップ期へと突入、都内のクラブにてメディアのAVYSSのイベント制作やアーティストのリリース・パーティのサポート含む断続的な活動を続け、本年からWWWにカムバックを果たす。下記のテキストとフライヤーのアーカイヴ・リンクから本パーティを始め前身のシリーズBONDAID、過去のブッキングやツアー・プロモーターとしての活動リストが確認出来る。

Local 1 World EQUIKNOXX
Local 2 World Chino Amobi
Local 3 World RP Boo
Local 4 World Elysia Crampton
Local 5 World 南蛮渡来 w/ DJ Nigga Fox
Local 6 World Klein
Local 7 World Radd Lounge w/ M.E.S.H.
Local 8 World Pan Daijing
Local 9 World TRAXMAN
Local X World ERRORSMITH & Total Freedom
Local DX World Nídia & Howie Lee
Local X1 World DJ Marfox
Local X2 World 南蛮渡来 w/ coucou chloe & shygirl
Local X3 World Lee Gamble
Local X4 World 南蛮渡来 w/ Machine Girl
Local X5 World Tzusing & Nkisi
Local X6 World Lotic -halloween nuts-
Local X7 World Discwoman
Local X8 World Rian Treanor VS TYO GQOM
Local X9 World Hyperdub 15th
Local XX World Neoplasia3 w/ Yves Tumor
Local XX1 World DJ Sprinkles
Local XX2 World Oli XL
Local XX3 World Pelada
Local XX4 World Piezo & Liyo

Lorenzo Senni Japan Tour 2023

トランスのその先へ!〈Warp〉から最新アルバムをリリースするイタリアの鬼才、現代レイヴ・アートの始祖Lorenzo Senni待望の来日ツアー開催。

11/17 FRI 18:00 at WWW X Tokyo w/ Amnesia Scanner [DE/FI / PAN]
https://t.livepocket.jp/e/20231117wwwx

11/19 SUN 18:00 at CIRCUS Osaka w/ Soft Cou [IT]
https://eplus.jp/sf/detail/3980020001-P0030001

今回のテーマ”FIESTA!”は8年前の2015年11月にLorenzo SenniとInga Copelandを招いてWWWで開催したLocal Worldの前身イベントBONDAIDの記念パーティBONDAID#7 FIESTA!から踏襲し、10年代のエレクトロニック・ミュージックの文脈において最重要な現代ポップ&レイヴ・アートの伝説とも言える2組、ニューヨークのフリーカ・テトを迎えた新形態のオルタナティブ・エレクトロ・デュオAmnesia Scanner(本公演ではフリーカ・テトとヴィレ・ハイマラのみ出演)をベルリンから、トランス系脱構築レイヴの始祖Lorenzo Senniをイタリアから迎えた”祝祭”をコンサートと展示を通して表現する。

またLorenzo Senniは11/19日に大阪公演をCIRCUS OSAKAにて予定、両公演追加アクトの詳細は後日発表となっている。

[プロフィール]


Amnesia Scanner [DE/FI / PAN]

Amnesia Scannerはベルリンを拠点とするフィンランド人デュオ、ヴィレ・ハイマラとマルッティ・カリアラ。2014年に結成されたグループの活動範囲は、作曲、プロデュース、パフォーマンス、そしてクリエイティブな演出と循環に及ぶ。システムの脆弱性、情報過多、感覚過多への深い憧憬を特徴とするAmnesia Scannerは、現在をカーニバル化する。ストリーミング・プラットフォームが主流となり、アーティストとファンの間のフィードバック・チャンネルがより直接的になるにつれて、音楽やライブ・パフォーマンスの聴き方がどのように進化しているかを含め、彼らの作品の中核には、現代の体験がどのように媒介されているかという関心がある。

2014年のミックステープ『AS Live [][][][][]』をベースに、グライム、トラップ、レイヴのデータ・リッチなメッシュと、2015年のオーディオ・プレイ『Angels Rig Hook』で絶賛された機械仕掛けのナレーターを織り交ぜた。その直後には、アーティストのハーム・ヴァン・デン・ドーペルとビル・クーリガス(PANの創設者)とのサイバードローム・オーディオ・ビジュアル・プロジェクト、Lexachastを発表した。純粋なAmnesia Scannerの領域に戻ると、Young Turksの2枚のEP(ASとAS Truth)が2017年に到着し、デュオがますます知られるようになった没入的な環境を、ダークなレイヴ・ツールの研磨されたコレクションに抽出した。Angels Rig Hookの実体のないヴォーカリストは、デュオ初のLP『Another Life』(2018年 PAN)で "オラクル "として姿を変えて戻ってきた。このアルバムは、ポップな曲構成とアヴァンギャルドなEDMをカップリングし、子守唄から過熱したドゥームバトンやニューメタル・ギャバまでスイングする。2021年、Amnesia Scannerはセカンド・フル・アルバム『Tearless』をリリースした。このアルバムは「地球との決別の記録」であり、サウンド的にもメロディ的にも、彼らの特徴であるオーヴァークロック・ポップという作品の幅を広げている。ラリータ、LYZZA、コード・オレンジがアムネシア・スキャナーに加わり、迫り来る崩壊へのボーダレスなサウンドトラックを作曲している。

Amnesia Scannerは、デンマークの大規模なRoskilde FestivalからベルリンのBerghain、ロンドンのSerpentine Galleriesまで、幅広い会場や環境でパフォーマンスを行ってきた。デザインとビジュアル・ディレクションは、PWRとコラボレーションしている。ヴィレ・ハイマラは、独立して、デヴィッド・バーン、FKAツイッグス、ホリー・ハーンドン、アン・イムホフなどのアーティストのために作曲し、プロデュースもしている。Amnesia Scannerでの活動以外にも、マルッティ・カリアラは建築家、文化批評家、クリエイティブ・シンクタンク「ネメシス」の共同設立者でもある。

https://pan.lnk.to/STROBE.RIP

https://www.youtube.com/watch?v=mgbSR7f4K-o&ab_channel=AmnesiaScanner
https://www.youtube.com/watch?v=3MzBSV-_mjQ&ab_channel=AmnesiaScanner
https://www.youtube.com/watch?v=N8mT3-YvmxE&ab_channel=AmnesiaScanner
https://www.youtube.com/watch?v=5CEmVTzmzpw&t=143s


Lorenzo Senni [IT / WARP]

ダンス・ミュージックのメカニズムや動作部分のたゆまぬリサーチャーであり、尊敬されるエクスペリメンタル・レーベルPresto!!!の代表であるこのイタリア人ミュージシャンは、この10年で最もユニークなリリース『Persona』(Warp 2016年)、『Quantum Jelly』(Editions Mego 2012年)、『Superimpositions』(Boomkat Editions 2014年)を手がけている。

2016年にWarpと契約し、EP「Persona」は、デジタル・カルチャーと音楽の分野で最も有名で、最も長く続いている年間賞の1つであるプリ・アーツ・エレクトロニカで名誉ある「Honorary Mention」を受賞した。Pointillistic Trance(点描トランス)」や Rave Voyeurism(窃視レイヴ)という造語で自身のアプローチを表現するロレンツォ・センニは、トランスから脊髄を引き抜き、目の前にぶら下げるサディスティックな科学者のようである。

彼の作品は、90年代のサウンドとレイヴ・カルチャーを見事に解体し、その構成要素を注意深く分析して、まったく異なる文脈で再利用できるようにしたもので、反復と分離を重要なコンセプトとして、多幸感あふれるダンス・ミュージックに見られる”ビルドアップ”のアイデアを出発点として、高揚感はほどほどに、より内省的な作品を作り、暗黙のうちに感情の緊張とドラマを保っている。

Presto!!! レコードの創設者として、DJスティングレイ、フローリアン・ヘッカー、パルミストリー、エヴォルなど、国際的に高く評価されているアーティストのアルバムをリリースしてきた。レコードの創設者として、DJスティングレイ、フローリアン・ヘッカー、パルミストリー、エヴォルなど、国際的に評価の高いアーティストのアルバムをリリース。映画、演劇、映画音楽の作曲も手がけ、ユーリ・アンカラニの受賞作『ダ・ヴィンチ』や『ザ・チャレンジ』のサウンドトラック、ウェイン・マクレガーの『+/- Human』(コンピューター制御のドローンとロイヤル・ナショナル・バレエ団のダンサーによるダンス・パフォーマンス)などがある。また、アメリカの歌手ハウ・トゥ・ドレス・ウェル(How To Dress Well)の音楽も手がけ、テート・モダン(ロンドン)、ポンピドゥー・センター(パリ)、MACBA(バルセロナ)、カサ・ダ・ムジカ(ポルト)、MACBA(バルセロナ)、Auditorium Nazionale Rai(トリノ)、Auditorium Parco della Musica(ローマ)、Zabludowicz Foundation(ロンドン)、ICA(ロンドン)などでLasers & CO2 Cannonsを含む作品を展示し、パフォーマンスを行っている。

https://linktr.ee/lorenzosenni

https://www.youtube.com/watch?v=qNlbN_YZHFY
https://www.youtube.com/watch?v=0UH2tqHTi_M&ab_channel=LorenzoSenni
https://www.youtube.com/watch?v=v_AjXH0xu4A&t=174s&ab_channel=LorenzoSenni
https://www.youtube.com/watch?v=X2Yh8zkC-0g&ab_channel=ka1eidoscopic2

インタビュー@eleking “パンデミックの中心で「音楽を研究したいだけ」と叫ぶ!”
https://www.ele-king.net/interviews/007574

インタビュー@SSENSE “ロレンツォ・センニ:情熱の規律”
https://www.ssense.com/ja-jp/editorial/music-ja/lorenzo-senni-discipline-of-enthusiasm?lang=ja

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