ネット上で他人になりすましたり、他人のプライバシーに立ち入る、デマを流す、ネット詐欺といったIT技術の誤った使い方も氾濫している。思うに、社会の成熟が科学技術の進展の速さに追いつくことはないだろうから、こういったモラルの問題はどんどんおこるだろう。
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シェラード・イングラム、またの名前をDJスティングレー、より多くの音楽ファンのあいだではアーバン・トライブの名で知られる男......それはホアン・アトキンスからはじまるもうひとつのデトロイト・テクノである。それは地上を呪ったドレクシアであり、アメリカを"ファシスト・ステイト"と定義したドップラーエフェクトであり、そして"モダン文化の崩壊"をデビュー・アルバムのタイトルにしたアーバン・トライブ、すなわちオリジナル・ドレクシアの3人のメンバーであり、そのうちのひとりがシェラード・イングラムというわけだ。
ドレクシアの死後、つまりゼロ年代以降、これら"もうひとつのデトロイト・テクノ"は、主にUKの〈リフレックス〉、ベルリンの〈トレゾア〉、ミュンヘンの〈インターナショナル・ディージェイ・ジゴロ〉、あるいはオランダの〈クローン〉によってプロモートされている。〈リフレックス〉はドレクシアの変名トランスリュージョンやアーバン・トライブ、〈ジゴロ〉はドップラーエフェトやジャパニーズ・テレコム、〈トレゾア〉はドレクシアとその変名のシフテット・フェイシズ、〈クローン〉はジ・アザー・ピープル・プレイス、ラブ・ラットXLなどといったドレクシアの変名......を出している。これらデトロイト・テクノにおける奇妙なダーク・エレクトロはヨーロッパにおいてそれなりの高い評価と人気があったのである。
シェラード・イングラムによるアーバン・トライブは、1998年に〈モワックス〉から最初のアルバムを発表している。それから〈リフレックス〉で2枚のアルバムを残し、2010年の夏には4枚目のアルバム『アーバン・トライブ』を〈マホガニー・ミュージック〉から発表している。
そしてこの9月、デトロイトとヨーロッパでのみ知られているアーバン・トライブとしてのライヴPA、そしてDJスティングレーのプレイ(筆者の知る限りでは、より深いアンダーグラウンドなフィーリングを持っている)がようやく日本で聴けるわけだ。以下、来日を控えたシェラード・イングラムへのメール・インタヴューである。
■あなたが1998年に〈モワックス〉から発表したアルバム・タイトルが『The Collapse Of Modern Culture(モダン文化の崩壊)』でした。それから10年以上経った現在、あなたは"collapse"をどのように捉えていますか?
シェラード:資源の奪い合いや文化や宗教の違いによる衝突といったことは昔からあることだけど、最近の科学技術の急速な進歩は社会的・経済的な不確実性を世界規模でもたらしたと、多かれ少なかれ言えるのではないかと思っている。科学技術というのもは両刃の剣のようなものだ。30億塩基からなるヒトゲノムが解読されということは、何千年も人類を苦しめてきた疾患の治療にたしかにつながる。が、しかし、その新しい治療法は誰でもすぐにうけられるわけではないし、お金もかかるし、実際に臨床でつかうにはいろいろと技術的な整備も必要であるし、なによりも人体で(実際に効くかどうか)実験しなければならないという問題もまた生じる。また、いわゆるIT革命は、インターネットがないような地域は除いて、いろいろな人たちと情報を共有したり交流したりするのを可能にした。が、そのいっぽうで、ネット上で他人になりすましたり、他人のプライバシーに立ち入る、デマを流す、ネット詐欺といったIT技術の誤った使い方も氾濫している。思うに、社会の成熟が科学技術の進展の速さに追いつくことはないだろうから、こういったモラルの問題はどんどんおこるだろう。
■当時、あなたは何故、どういう理由からあの言葉をアルバム・タイトルにしたんですか?
シェラード:当時の世界や1990年代初期、中期の出来事を自分の視点から見たものに基づいている。都会のスプロール現象、政治的動揺、犯罪率の上昇、モラルの欠如や欲深さが世界の生命体を消耗していると思っていた。
[[SplitPage]]ミスター・オバマの選出は国の選挙や社会構成の信頼性を再生したと思うが、直面する国家の急務のために、一般的には都市の大きな変化に影響を与える充分な時間はなかった。人はみんなもう少し辛抱して、過程を見守るべきだと思う。
■オバマ大統領になって時間が経ちますが、デトロイトに変化がありましたか?
シェラード:アメリカ国民のある階層の人たちのあいだには、ミスター・オバマの選出は活気のある影響力があり、国の選挙や社会構成の信頼性を再生したと思う。これはデトロイトにも同じく広がった。正直にいうと、直面する国家の急務のために、一般的には都市の大きな変化に影響を与える充分な時間はなかった。人はみんなもう少し辛抱して、過程を見守るべきだと思う。
■あなたの名前を最初に知ったのは、〈レトロアクティヴ〉のコンピレーションに収録された"Covert Action"でしたが、あなたにとって公式に発表された最初の作品は何ですか? NASA名義で1987年に出した「Time To Party」?
シェラード:ははは! そうだ! 「Time To Party」は私の最初のレコードで、〈Express Records〉からリリースされた。
■ホアン・アトキンスとはどういう風に知り合ったんですか? 彼があなたの音楽活動のきっかけだったんですか?
シェラード:ホアンとは私が〈Buy Rite Records〉(ケニー・ディクソン・ジュニアもリック・ウィルハイトも働いていたことがある)で働いていたときに出会った。我々(リック・ウィルハイト、スキャン7、ドネル・ウィリアムス)はホアンのスタジオでレコーディングをし、ホアンがミックスをした。
■あの当時のあなたはどんな風に生活をしていたのですか? 音楽活動はしていたんですか?
シェラード:「Covert Action」は1990年に〈レトロスペクティヴ〉(カール・クレイグとデイモン・ブッカーのレーベル)からりリースされた、1990-1998年のあいだは〈MASS〉というデトロイト・ベースのレーベルから12インチを1枚出したり、レーベル〈KDJ〉の1枚の12インチ(Emotional Content。KDJ002とミスプリントされているが実は001)のミックスをやった。またNFDというプロジェクトの1曲をミックスした。バイカーズ・クラブみたいなところでDJもやってたよ。
■DJスティングレーとしての活動が最初だったんですか? また、どのようにドレクシアと関わりを持ったのでしょうか?
シェラード:ジェームズ・スティンソンとジェネラル・ドナルド(ドップラーエフェクトほか)とは〈Buy Rite Records〉で出会った......。
■1998年の『The Collapse Of Modern Culture』から2006年の『Authorized Clinical Trials』までのおよそ8年間は何をしていたんでしょうか?
シェラード:音楽は続けてずっとやっていたが、無意味なプロジェクトに巻き込まれて、くだらない問題で気が動転してたんだ。いまはもう克服したけどね。
■Mystic Tribe A.I名義では〈クローン〉レーベルからの1枚だけですか?
シェラード:そうだよ。ジェームズ(ドレクシア)とサージ(〈クローン〉の主宰者)のおかげだ。あの曲は『Collapse~』LPに収録されるはずだったんだが、外れて、ジェームズに聴かせると彼が気に入ってくれてね......。
■音楽シーンから身を引こうと考えたことはありますか?
シェラード:その日が来るのは我々アーティストの情熱が無くなってしまったときだと思う。自分にはまだまだ提供したいモノがあるし、みんなに聞いてもらいたいモノがある。
■当時、いきなり〈リフレックス〉からあなたの作品が出たときはびっくりしたものでしたが、〈リフレックス〉とはどうやって出会ったんですか?
シェラード:〈リフレックス〉のグラントとは〈ワープ〉の「Magic Bus Tour」にDJスティングレーとして参加したときに出会った。そして忘れてしまったが、どこかの空港で彼と会ったときいろいろと話し込んで、その2年後コネクトしたわけだ。
■2006年に〈リフレックス〉から『Authorized Clinical Trials』を発表し、続いて翌年の2007年にもサード・アルバム『Acceptable Side Effects』を出しています。12インチ・シングルも〈リフレックス〉や〈プラネット・E〉、そして昨年は〈トラスト〉から出しています。今年に入ってからも〈プラネット・E〉からシングルを切っていますね。なぜ最近になってから堰を切ったようにリリースが続いているのでしょうか? 過去の20年よりも、ここ数年になって、あなたはますます熱心に音楽活動をしているように見えるのですが。
シェラード:気持ちが変わって、ネガティヴなところがなくなったんだと言っておこうか。またラップトップとAOLのアカウントも取得したしね! 機材もアップロードしてもっといろいろと表現できるようになったし、他の人やスタジオに頼ることなく、もっと時間をかけて、プロジェクトを完成できるようになった。
[[SplitPage]]デトロイトの人たちは逆境に強く、また用心深いが、メディアの差別的な要素が違うイメージにデトロイトを塗り替え、バランスの取れた報道を正直に試すことなく、ネガティヴなことだけを引き出した。
■あなたの音楽の背景からは、ジャズやソウルなどからの影響も感じますが、やはり根底にあるのはエレクトロじゃないかと思います。ホアン・アトキンス、ドレクシア、ドップラーエフェクトといったデトロイト・エレクトロの系譜にいるんじゃないかと思うのですが、もしそうだとしたら、あなたにとってエレクトロが特別である理由はなんでしょうか?
シェラード:1980年代、1990年代当時"electro"という言葉に出会ったとき、"electro"は自分にとって他と違う何かを意味した。「自分はエレクトロのトラックを作ろう」と思ってやったわけでなく、いまのカテゴリーでは自分の音楽はそうはめこまれた。キミの言うグループや音楽ジャンルだけでなく、産業や自分の環境から結論を出している。自分自身をエレクトロのアーティストだとは思っていないし、もし自分の作品の全体像を聴いてもらえればわかってもらえると思う。けれども、自分は自由さを好むし、良いエレクトロという意味合いでの公然上のアプローチでなら大歓迎だ。個人的には4つ打ちでなく、フィルターのかかったシンセラインがあるものならなんでもエレクトロという言葉が使われているような気がするけどね。
■あなたの音楽にはダークでメランコリックな要素があります。優美さや躍動ばかりではなく、悲しみ、怒り、醜さ、汚さのようなものも表現しているように思いますが、そうしたダークサイドは純粋にデトロイトという環境から来るものなのでしょうか? あるいは、具体的に影響を受けた作品がもしあるようであればぜひ教えてください。
シェラード:デトロイトはならずものや犯罪者によって動かさせていると認識されていると思うが、それだけではないと言わせていただこう。デトロイト市民の多くは勤勉で、家族を愛しており、彼らは税金もちゃんと払って、町を愛している。政治的な立場にいる人のなかには欲深く、町を改善するための資源(富)を分配しない人もいる。"醜さ"は都市圏を作り上げたコミュニティのいち部の人たちの差別や冷酷さであって、"汚さ"は町があまりにも急速に改善されると利益が無くなり困るいち部の人たちがいるからだ。こういった事柄が自分のサウンドに衝動を与えている。犯罪で支配されていて、仕事もなく、ここに住むのを拒んでいる、みたいな典型的なありきたりの見方ではなく。デトロイトの人たちは逆境に強く、また用心深いが、メディアの差別的な要素が違うイメージにデトロイトを塗り替え、バランスの取れた報道を正直に試すことなく、ネガティヴなことだけを引き出した。
■"Low Birth"がとても好きなんですが、あれはどんな思いが込められているのでしょうか?
シェラード:ありがとう! スペルは正しくは"Low Berth"なんだけど、(注:〈モワックス〉からのシングルには"Low Birth"、アルバムには"Low Berth"とある)。社会的に不利な立場にいて、絶えて頑張ってそこから這い上がろうとする人を意味する。リスナーにインスピレーションを与えつつ哀愁の漂ったムードを沸き立たそうとした。
■もうすぐ〈マホガニー・ミュージック〉から4枚目のアルバムが出るそうですね。すべて曲名が"Program"という言葉で統一されているらしいですが、コンセプチュアルなアルバムなのでしょうか? それはどのようなコンセプトのアルバムなのでしょうか?
シェラード:このLPはリスナーに音楽に集中してもらうのが目的だ。
■いままでのどのアルバムとも違ったものになったと思うのですが、参加メンバーはカール・クレイグ、アンソニー・シェイカー、ケニー・ディクソン・ジュニア、そしてあなたの4人でいいんですか?
シェラード:私自身、アンソニー・シェイカー、ケニー・ディクソン・ジュニア、カール・クレイグ、それから何人かの新人も参加しているよ。
■素晴らしい女性ヴォーカリストも参加していますね?
シェラード:これは機密情報。悪いね。
■とても素晴らしい音楽だと思うのですが、1曲がすべて3分未満で、レコードでは片面に6曲ずつ入っています。これはどんな理由からですか?
シェラード:伝統を踏襲した分割とでも言おうか。
■ケニー・ディクソン・ジュニアとはどんなところで気が合うんですか?
シェラード:自分と同じデトロイトウェストサイド出身の長年の友だちだよ!
■来日でのライヴを楽しみにしています。どんな感じのショーになりますか? あなたの音楽のように、ハードで、ダークな演奏になるのでしょうか?
シェラード:今回は初来日なのでとてもエキサイトしているよ! 忘れられないsonic experience (音響体験)をしてもらえるのを楽しみにしているよ。
デトロイトのシーンに25年もの間関わり続けており、またデトロイトテクノ/エレクトロのカルト的存在であるDrexciyaのDJ、DJ Stingrayとしての活動歴をもつ。Urban Tribeとしても知られ、〈Mo Wax〉からリリースされた「Eastward」、アルバム『The Collapse Of Modern Culture』、また〈Retroactive〉からリリースされた「Covert Action」はUrban Tribeの代表作である。Aphex Twinのレーベル〈Rephex〉からは、よりエレクトロな作風で2枚のアルバム『Authorized Clinical Trials』と『Acceptable Side Effects』をリリースしている。2008年、自主レーベル〈Micron Audio Detroit 〉を始動。今年夏には、Anthony Shake Shakir、Carl Craig、Kenny Dixon Jr(Moodymann)が参加したUrban Tribeとしての最新アルバム『Program 1-12』を〈Mahogani Music〉からリリースしている。またその素敵なアルバムアートワークは『Wax Poetics』のアートディレクターJoshua Dunnによるもの。さらに今後は、Heinrich Mueller (aka Gerald Donald/Dopplereffekt)、Nina Kraviz (Underground Quality/Rekids)らが参加のUrban Tribeのアルバムをリリース予定とのこと。
https://www.myspace.com/djstingray313
https://www.myspace.com/micronaudio
https://planet-e.net
https://www.mahoganimusic.com
https://www.myspace.com/mahoganimusic313
DJ Stingray DJ MIX
(AT THE CAID DETROIT W/EGYPTIAN LOVER NOVEMBER 4, 2006 MEMBERS ONLY DETROIT/MICRON-AUDIO)
https://soundcloud.com/futurityworks/dj-stingray-c-a-i-d-stereotype-mix
DJ Stingray RA Podcast
https://soundcloud.com/futurityworks/dj-stingray-ra-podcast-190